説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】最近接の供給口を隔てるSi梁幅を厚くし、また、Si梁幅のバラツキを少なくする作製方法を提供し、良好な印字品位を達成する液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】面方位が{100}であるSi基板と、前記Si基板上に液体を保持する流路と、前記流路と連結し液体を吐出する吐出口と、前記流路と連結し該流路に液体を供給する供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、最近接の供給口が前記Si基板の<100>方向に並ぶように、前記Si基板に先導孔を形成する第1のSi除去工程と、前記先導孔に対して、{100}面のエッチング速度が{110}面のエッチング速度より遅い条件でSi結晶軸異方性エッチングを行い、供給口を形成する第2のSi除去工程と、をこの順に含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出口から噴射して画像を形成する液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリント方式に用いられる液体吐出ヘッドの一般的な形態の模式図を、図9に示す。Si基板上に液滴を吐出するための微細な吐出口103と、吐出口103に連結する流路104と、流路104の一部に設けられる液体吐出エネルギー発生素子101を備え、Si基板には流路104と連結する共通液室となる空間701が形成されている。これは、例えば特許文献1などに記載された方法で製造される。
【0003】
また、一般的な液体吐出ヘッドと形態を異にして、図12の模式図で示される独立供給口105を有する独立供給口・副流路型の液体吐出ヘッドが開発されている。ここで、独立供給口とは、吐出口に連結する流路に対して、独立に供給口が連結されている構造のことを表しており、また副流路とは、吐出口に対して対称な二方向から流路が連結されていることを表している。
【0004】
独立供給口・副流路型の液体吐出ヘッドは、図9に示す一般的な液体吐出ヘッドと比べて、以下に述べる優位な点を有している。
【0005】
吐出口に連結する流路が対称的に配置されており、かつ、該流路と独立供給口とが垂直に連通するため、インク吐出圧力発生素子で発生した気泡が、左右均等に成長する。そのため、オリフィス表面から飛翔するインク液滴の方向を安定的に垂直にすることができ、良好な印字品位を達成する液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0006】
また、前記流路と基板に対して垂直に形成された独立供給口を、液体吐出エネルギー発生素子に隣接する領域で連結させることで、高速なリフィール特性を実現する液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0007】
また、各吐出口に対応するように独立に供給口が形成されるため、吐出口間のクロストークの影響を低減することができ、良好な印字品位を達成する液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0008】
また、独立供給口に挟まれた梁状のSi(以下、Si梁とする)により、ヘッドの強度を向上させることができ、さらに、液体吐出エネルギー発生素子への電気配線を引き回すことができる。図12にSi梁106を示している。
【0009】
上記独立供給口・副流路型液体吐出ヘッドにおいて、より高密度に吐出口を配列した液体吐出ヘッドを製造するには、独立供給口を高精度・高密度に形成することが重要となる。
【0010】
液体吐出ヘッドの供給口を形成する従来手法としては、Si結晶軸異方性エッチングが知られている。これは、アルカリ水溶液によるシリコンの結晶方位面に応じたエッチング速度差を利用するエッチング方法である(特許文献1)。結晶軸異方性を利用することで、精度の良好な開口幅を有するインク吐出口を形成し、液体吐出エネルギー発生素子と供給口との距離の制御を行う。
【0011】
また、特許文献2、特許文献3では、供給口の開口幅を広げずに供給口を形成する方法として、レーザー加工により基板に先導孔を形成し、その後シリコン結晶軸異方性エッチングを行って供給口を形成する方法が示されている。
【特許文献1】特開平10−146979号公報
【特許文献2】特開2007−210242号公報
【特許文献3】米国特許第6648454号明細書
【非特許文献1】Virginia Semiconductor, Inc.、“Wet−Chemical Etching and Cleaning of Silicon”、[online]、2003年1月、インターネット〈URL:http://www.virginiasemi.com/pdf/siliconetchingandcleaning.pdf〉
【非特許文献2】デンソーテクニカルレビュー Vol.5 No.1 2000 p56−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以下に本発明が解決しようとする課題について説明を行う。
【0013】
なお、本明細書では結晶方位に関してミラー指数を用いて説明を行う。結晶学的に等価な面、例えば(100)と(010)等、を{100}と表記し、結晶学的に等価な方位、例えば[100]と[010]等、を<100>と表記する。
【0014】
液体吐出ヘッドを作製する基板において、Si基板には液体吐出エネルギー発生素子の駆動を制御するための半導体素子が作製される。また、半導体素子の電気的特性から、{100}表面を有するSi基板が用いられることが一般的である。そのため、特許文献1に記載の手法では、結晶異方性エッチングにて露出する{111}結晶面が、{100}表面に対して約55°傾斜することになる。これにより供給口の開口幅が大きくなり、独立供給口のアスペクト比を大きくすることができない。すなわち、独立供給口を高密度に配置することができない。
【0015】
また、特許文献2の手法を用いると、基板表面に垂直方向の供給口断面が菱形となる。供給口の開口部は小さくできるものの、高密度に独立供給口を形成すると最近接の2つの供給口間を隔てるSi梁の幅が狭くなり、ヘッドの強度が弱くなる場合がある。また、液滴吐出エネルギー発生素子から発生した熱エネルギーを効率よく基板側に放熱することが困難になる場合があり、更なる改良が望まれる。
【0016】
特許文献3の手法は、先導孔を形成した後にSi結晶軸異方性エッチングを行い、供給口の壁を{110}面にて形成する事例が示されている。これは、一般的な共通液室となる空間を形成する目的において、Si結晶軸異方性エッチングで<110>方向の溝を精度良く形成しやすいためである(図13)。この理由から、従来の液滴吐出ヘッドの吐出口は<110>方向に配列されていることが一般的であった。
【0017】
ところが、多くの条件において、{110}面のSi軸結晶異方性エッチング速度は、他の代表的な結晶方位である{100}面や{111}面のエッチング速度よりも速いことが知られている(非特許文献1)。このことから、従来の<110>方向に配列された吐出口に対して独立供給口を形成すると、最近接の2つの供給口を隔てるSi梁の幅が、速いエッチング速度によって狭くなり、ヘッドの強度が弱くなる課題があった。
【0018】
また、Si結晶異方性エッチングのエッチング速度比{100}/{110}は、エッチャント濃度、温度、Si溶解量、不純物溶解量の影響で異なることが知られている(非特許文献2)。このことから、{100}面のエッチング量と、横方向{110}面のエッチング量が処理バッチ毎に一定ではなくなり、Si梁の幅を一定として形成することができず、放熱性にバラツキが生じる課題があった。
【0019】
本発明は以上の課題を鑑みてなされたものであり、液体吐出ヘッドにおいて、最近接の2つの供給口間を隔てるSi梁の幅を広くし、同時にSi梁の幅のバラツキを少なくする製造方法を提供する。ひいては、良好な印字品位を達成する液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、
面方位が{100}であるSi基板と、
前記Si基板上に液体を保持する流路と、
前記流路と連結し、液体を吐出する複数の吐出口と、
前記流路と連結し、該流路に液体を供給する前記Si基板に設けられた複数の供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
最近接の2つの供給口が前記Si基板の<100>方向に並ぶように、前記Si基板の前記流路が形成される面とは反対の面から先導孔を形成する第1のSi除去工程と、
前記先導孔に対して、{100}面のエッチング速度が{110}面のエッチング速度より遅い条件でSi結晶軸異方性エッチングを行い、供給口を形成する第2のSi除去工程と、
をこの順に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
液体吐出ヘッドにおいて、最近接の2つの供給口間を隔てるSi梁の幅を広くし、同時にSi梁の幅のバラツキを少なくする製造方法を提供し、ひいては、良好な印字品位を達成する液体吐出ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施の形態1)
図1は本発明により製造された液体吐出ヘッドを吐出面側から観察した時の模式図である。図2は、図1におけるA−A’の位置の断面を示した斜視図を示す。表面に{100}面を持つSi基板100上には液体吐出エネルギー発生素子101が設けられ、ノズル材料102を用いて液体を吐出する吐出口103及び液体を保持する流路104が形成されている。また、流路104に連結された供給口105がSi基板100に複数設けられている。
【0023】
本実施の形態を、図3、図4、図5を用いて説明する。図3は、図1におけるA−A’断面及び、B−B’断面を、工程順に表した模式図である。
【0024】
まず、基板300を準備する(図3(a))。基板300は、{100}表面を持つSi基板100上に液体吐出エネルギー発生素子101が設けられ、吐出口103及び流路104が形成されている。また、基板300には、パッシベーション膜301が設けられている。パッシベーション膜301は、液体吐出エネルギー発生素子101を駆動させるトランジスタ工程等で成膜された膜であり、成分として、例えば酸化ケイ素膜や、窒化珪素膜、あるいはその積層構造で形成されている。パッシベーション膜301はSi基板100上全面に形成されていても、部分的に除去されている構造でもかまわない。
【0025】
また、基板300における吐出口103及び流路104は、従来の製法で作製すればよい。その際には、{100}表面のSi基板100に対して、図4に示すように吐出口列の長手方向が<100>方向になるようにチップを配列して作製すればよい。
【0026】
次に、Si基板100の裏面(流路104が形成される面とは反対の面)側から、レーザーを用いてSiを除去することにより先導孔302を形成する(図3(b)、第1のSi除去工程)。このとき、最近接の2つの先導孔302がSi基板100の結晶軸<100>方向に並ぶように先導孔302を形成する。
【0027】
この際、レーザー加工の深さはパッシベーション膜301に達しない程度に制御される必要がある。なぜなら、レーザー加工がパッシベーション膜301に達すると、パッシベーション膜301とともに、その上層に存在するノズル材料102を損傷する可能性があるからである。なお、加工深さの値は、レーザー加工の深さばらつきを考慮して決定されるが、先導孔302の先端部分とパッシベーション膜301との間隔は、5μm以上であることが、レーザー加工においてノズル材料102の損傷を防ぐ観点から好ましい。
【0028】
レーザー加工に用いるレーザーとしては、Siを効果的に除去できるものであれば良く、波長、パルス時間、レーザー照射スポットの形も特に限定されない。ただし、レーザースポットの形は、円形であることが一般的であり、コスト面から好ましい。レーザースポットの形状として円形のものを用いた場合、形成する先導孔302の直径は15μm〜35μmであること、また、最近接の2つの先導孔302を隔てるSi梁の幅は、50μm〜70μmであることが好ましい。後述する第2のSi除去工程により供給口を高密度に形成することができ、かつ、得られる液体吐出ヘッドの強度を向上させることができるためである。
【0029】
次に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を主成分とするエッチャント(エッチング液)を用いて、Si軸結晶異方性エッチングを行い、供給口の空間の一部をパッシベーション膜301まで到達させる(第2のSi除去工程)。
【0030】
このとき、{100}面のエッチング速度が、{110}面のエッチング速度よりも遅い条件でエッチングを行う。このエッチング速度の条件は、TMAH濃度、温度等の種々のパラメータを適宜調整することにより満たすことができる。例えば、TMAH濃度が17.5%〜25%、エッチングの温度が70℃〜90℃である場合、前記エッチング速度の条件を満たすことができるため好ましい。
【0031】
なお、Si結晶軸異方性エッチングのエッチャントはTMAH溶液に限定されるものではない。TMAH、KOH(水酸化カリウム)などのアルカリ溶液を主成分とするエッチャントの他に、結晶面のエッチング速度が、{100}面<{110}面となる性質をもつエッチャントであればよい。
【0032】
その後、化学気相エッチングやウェットエッチングにより裏面からパッシベーション膜301を除去して、流路104に連結された独立供給口105を形成する(図3(c))。
【0033】
ここで、図5を用いて、Si異方性エッチングにより供給口が形成される過程を、更に詳しく説明する。図5は基板を裏面(流路が形成される面とは反対の面)側から観察したときの模式図である。基板表面に存在する吐出口及び流路を点線で表している。
【0034】
図5(a)に示すように、表面に存在する流路に連結できるような位置に、裏面からレーザーによりSi加工を行い、先導孔302を形成する。このとき、最近接の2つの先導孔が、Si結晶軸に対して<100>方向に並ぶように加工する。
【0035】
次にエッチング速度が、{100}面<{110}面となるような条件で、Si結晶軸異方性エッチングを行う。すると、図5(b)に示すように、エッチング速度が遅い{100}面が独立供給口105の側面として形成される。
【0036】
なお、前述した<100>方向に並ぶように先導孔302を形成するとは、加工中心が完全に<100>方向に配列しているという意味ではない。Si結晶軸異方性エッチングを行った後に、独立供給口105を隔てる距離が<100>方向で規定される配置であればよく、例えば図5(c)に示すように、2つの先導孔302の中心位置が<100>軸からずれていても良い。
【0037】
このとき、供給口と供給口とを隔てるSi梁の幅は、図3(c)に示されたW1、もしくはW2で表現できる。そしてSi梁の幅W1、もしくはW2は、結晶軸異方性エッチングにより現れた{100}面の距離により決定される。
【0038】
吐出口103は高密度に形成する必要があるため、一般的には、吐出口103列の長手方向に対するピッチが狭くなり、W1<W2となる。
【0039】
W1の幅を持つSi梁の表面には、液体吐出エネルギー発生素子101と液体吐出エネルギー発生素子101を駆動する半導体素子とを電気的に接続する配線が形成されていることがある。また、Si梁は、液体吐出エネルギー発生素子101から発生した熱を基板側に伝熱するという大きな役割を担っている。
【0040】
構造的強度や電気的信頼性、また放熱安定性の観点から、W1は可能な限り大きな値で安定的に形成することが望まれる。本実施形態によれば、供給口を隔てるSi梁の幅がエッチング速度の遅い{100}面にて規定されるため、Si梁の幅が広く形成されやすいという効果がある。本実施形態において、例えば、W1は35μm〜50μmであることが、吐出口103を高密度に形成でき、かつ、液体吐出ヘッドの強度、安定性が高いことから好ましい。
【0041】
また、深さ方向加工面と横方向の加工面がともに{100}面であるため、エッチャントの濃度、温度、不純物等によるエッチング速度変動の影響を受けにくく、供給口構造を安定的に形成しやすいという効果がある。
【0042】
これにより、良好な印字品位を達成できる液体吐出ヘッドを歩留まり良く製造することができる。
【0043】
(実施の形態2)
図6を用いて実施の形態2を説明する。図6は図1におけるA−A’断面、及び、B−B’断面を工程順に表した模式図である。
【0044】
まず、犠牲層601を備えた基板600を準備する(図6(a))。基板600には、Si結晶軸異方性エッチングの際に等方性エッチングされる犠牲層601が設けられている。また、犠牲層601は所望の大きさにパターニングされている。犠牲層601としては、例えばアルミニウムなどの金属膜や多結晶Si膜、又はポーラスSi酸化膜などが使用できる。
【0045】
次に、基板の裏面側から、先導孔602を形成する(図6(b))。先導孔602を形成する方法としては、レーザー加工やドライエッチングを用いればよい。本実施形態においては、ドライエッチングによる加工例を示す。
【0046】
犠牲層601のエッチング速度やパッシベーション膜のエッチング速度が、Siのエッチング速度に比べて十分に遅い場合は、犠牲層601もしくはパッシベーション膜に到達するまで先導孔602を形成すればよい。導電性の犠牲層を用いた場合、基板チャージアップによるSiエッチング加工時の形状不良が抑制される効果が期待できる。
【0047】
なお、先導孔602はフォトリソグラフィ技術を用いて、最近接の2つの先導孔602がSi結晶軸の<100>方向に並ぶように形成される。先導孔602の基板表面に平行な断面形状は、円形や矩形等の形状で限定されるものではなく、基板流路側にパターニングされた犠牲層601の範囲内に収まる面積のものであれば良い。
【0048】
次に前記実施の形態1と同様にSi結晶軸異方性エッチングを行う。この際、犠牲層601も同時に除去される。その後、化学気相エッチングやウェットエッチングにより裏面からパッシベーション膜を除去して、流路に連結された独立供給口を形成する(図6(c))。
【0049】
犠牲層601が存在した領域も、供給口の一部として空間が形成される。結果として、基板表面側の供給口端部が犠牲層601のパターニング形状によって規定される。このことから、犠牲層601を用いることで、基板表面側の供給口の開口位置精度を、高精度で形成可能であるという効果がある。
【0050】
なお、基板表面に対して垂直方向の独立供給口断面形状は、結晶性異方性エッチングの条件、犠牲層601のパターン、犠牲層601のエッチング速度などの多くのパラメータによって異なるが、これらの形状は本発明の効果を限定するものではない。
【0051】
(実施の形態3)
図7、図8を用いて実施の形態3を説明する。図7は図8(b)におけるA−A’断面、及び、B−B’断面を工程順に表した模式図である。
【0052】
前記実施の形態1と同様に基板を準備する。ただし該基板は、犠牲層を設けていても、設けていなくてもどちらでも良い。
【0053】
基板の裏面側に共通液室となる空間701の位置に対応するようなエッチングレジスト層700をパターニング形成する(図7(a))。その後エッチングにてSiを除去し共通液室となる空間701を形成する。
【0054】
共通液室となる空間701を形成するためのエッチング方法としては、Si結晶軸異方性エッチングやドライエッチングを用いてもよい。エッチングレジスト層700は選択したエッチング方法に適した材料を適宜選択して形成することができる。
【0055】
ドライエッチングを用いた場合は、共通液室となる空間701の垂直性が高くチップシュリンクが実現でき、また、Si結晶軸に関係なく配置できるため設計自由度が高い等の優位点がある。この場合、実施の形態1と同様、図4の配置にてSi基板を準備すればよい。
【0056】
また、Si結晶軸異方性エッチングを用いると、簡便で生産性の高い製造を可能とすることができる。しかし、Si結晶軸異方性エッチングにより露出する{111}面の角度から、吐出列の長手方向を<110>方向とする制限をうける。よって、例えば、図8に示すように、吐出口、流路、独立供給口の配置を、基板薄化された領域702上に斜めに配列すればよい。
【0057】
共通液室となる空間701を形成したのち、基板薄化された領域702に対して、実施の形態1、又は実施の形態2と同様に独立供給口を形成する(図7(b)、(c))。これにより、独立供給口が少なくとも二つ以上連結された共通液室となる空間701が形成される。独立供給口の深さ方向が短くなるため、先導孔加工の際に加工形状のアスペクト比が小さくなり、加工形状精度の向上やタクト向上の効果がある。
【実施例】
【0058】
以下に本発明に係る実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
図10に本実施例の液体吐出ヘッドの製造方法を示す。
【0060】
まず{100}表面を有し、液体を吐出するためのヒーターと、それを駆動・制御するための半導体素子が設けられたSi基板を準備した(図10(a))。
【0061】
このウエハに対し、N−メチル−ピロリドンを溶媒とするポリエーテルアミド700を裏面にスピンコートにより成膜し、さらにポジレジストをウエハ裏面に塗布した。フォトリソ技術を用いてウエハ裏面のポジレジストをパターニングした後、ケミカルドライエッチングにより除去し、ポジレジストを剥離した(図10(b))。
【0062】
このウエハ表面にポリメチルイソプロペニルケトンを含有する、インク流路を形成するための型材1001となるレジストを塗布し、露光、現像を行いパターニングした(図10(c))。
【0063】
次に、オリフィスプレートを形成する感光性エポキシ102を塗布し、露光、現像によりパターニングして吐出口を形成した(図10(d))。
【0064】
その後、形成されたオリフィスプレートを保護するため、ウエハ表面及び周囲にゴム樹脂からなる保護膜1002をコーティングした。
【0065】
その後、裏面にパターニングされたポリエーテルアミドをレジストとして、そして22wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)をエッチャントとして、残し基板膜厚が125μmとなるように結晶軸異方性エッチングを行い、共通液室となる空間を形成した。
【0066】
次に、ESI社製レーザー加工装置(商品名:「Model−5330」)にて、最近接の2つの先導孔がSi結晶軸の<100>方向に並ぶように先導孔を形成した。レーザーの波長は355nm、パルス時間は70±5n秒であり、レーザー照射スポット形は円形とした。形成した先導孔の深さは120μmであり、先導孔の先端とパッシベーション膜との間隔は5μmであった。また、最近接の2つの先導孔を隔てるSi梁の幅は59μmであった(図10(e))。
【0067】
その後、10wt%、80℃の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)をエッチャントとして、先導孔より結晶軸異方性エッチングを行い、{100}面が壁面となる供給口を形成した。該供給口は、パッシベーション膜まで到達するように形成した。なお、このときの代表的な面方位のエッチングレートは、{100}=0.87μm/min、{110}=1.28μm/minであった。
【0068】
この後、ケミカルドライエッチングにより、ウエハ裏面のポリエーテルアミド樹脂を除去した。次に、ケミカルドライエッチングにより、パッシベーション層を除去した。そして、ウエハ表面及びウエハ周囲をコートしている保護膜1002をキシレンにより除去した。最後に、インク流路の型材1001であるレジストを乳酸メチルにより除去した(図10(f))。
【0069】
以上により、独立供給口・副流路型の液体吐出ヘッドを製造した。
【0070】
得られた液体吐出ヘッドの最近接の2つの供給口を隔てるSi梁の幅は39μmであり、十分なヘッド強度を示した。また、各Si梁の幅はほぼ同等であり、バラツキはほとんど確認されなかった。
(実施例2)
図11に本実施例の液体吐出ヘッドの製造方法を示す。
【0071】
まず{100}表面を有し、液体を吐出するためのヒーターと、それを駆動・制御するための半導体素子と、Si結晶軸異方性エッチングの犠牲層であるAl膜が設けられたSi基板を準備した。
【0072】
液体吐出ヘッドのチップは、Siウエハの結晶方位に対して図4に示すように配置した。
【0073】
また、実施例1と同様の工程にて、吐出口を形成した(図11(a))。その後、形成されたオリフィスプレートを保護するため、ウエハ表面及び周囲にゴム樹脂からなる保護膜をコーティングした。
【0074】
そして、ボッシュ方式のドライエッチングにて基板膜厚が125μmとなるように共通液室となる空間を形成した。
【0075】
次に、形成した共通液室となる空間の底部に、スプレー方式によりポジレジストを塗布した。
【0076】
フォトリソ法を用いて、最近接の2つの先導孔がSi結晶軸の<100>方向に並ぶように、ポジレジストをパターニングし、ボッシュ方式のドライエッチングにより先導孔を形成した。ドライエッチングは犠牲層であるAlをエッチングストップ層として用いた。形成した先導孔の形状は円形であり、犠牲層の範囲に収まるものであった。また、最近接の2つの先導孔のSi梁の幅は59μmであった(図11(b))。
【0077】
そして、38wt%、70℃の水酸化カリウム(KOH)をエッチャントとして、先導孔より結晶軸異方性エッチングを行うとともに、犠牲層を除去することで、{100}面が側面となる供給口を形成した。
【0078】
なお、このときの{100}面のエッチング速度は0.64μm/min、{110}面のエッチング速度は1.30μm/minであった。
【0079】
この後、ケミカルドライエッチングにより、ウエハ裏面のポリエーテルアミド樹脂を除去した。次に、ケミカルドライエッチングにより、パッシベーション層を除去した。そして、ウエハ表面及びウエハ周囲をコートしている保護膜をキシレンにより除去した。最後に、インク流路の型材であるレジストを乳酸メチルにより除去した(図11(c))。
【0080】
以上により、液体吐出ヘッドを作成した。
【0081】
得られた液体吐出ヘッドの最近接の2つの供給口を隔てるSi梁の幅は39μmであり、十分なヘッド強度を示した。また、各Si梁の幅はほぼ同等であり、バラツキはほとんど確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明において製造された液体吐出ヘッドの模式図である。
【図2】本発明において製造された液体吐出ヘッドの模式図である。
【図3】本発明の一実施形態について工程順に説明するための断面模式図である。
【図4】本発明の一実施形態について説明するための模式図である。
【図5】本発明のSi結晶軸異方性エッチングによる独立供給口形成について説明する模式図である。
【図6】本発明の一実施形態について工程順に説明するための断面模式図である。
【図7】本発明の一実施形態について工程順に説明するための断面模式図である。
【図8】本発明において製造された液体吐出ヘッドの模式図である。
【図9】従来の一般的な液体吐出ヘッドの模式図である。
【図10】本発明の一実施例について工程順に説明するための断面模式図である。
【図11】本発明の一実施例について工程順に説明するための断面模式図である。
【図12】従来の液体吐出ヘッドの模式図である。
【図13】一般的な液体吐出ヘッドに形成される共通液室の模式図である。
【符号の説明】
【0083】
100 Si基板
101 液体吐出エネルギー発生素子
102 ノズル材料
103 吐出口
104 流路
105 独立供給口
106 Si梁
300 基板
301 パッシベーション膜
302、602 先導孔
600 犠牲層付き基板
601 犠牲層
700 レジスト
701 共通液室となる空間
702 基板薄化された領域
1001 型材
1002 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方位が{100}であるSi基板と、
前記Si基板上に液体を保持する流路と、
前記流路と連結し、液体を吐出する複数の吐出口と、
前記流路と連結し、該流路に液体を供給する前記Si基板に設けられた複数の供給口と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
最近接の2つの供給口が前記Si基板の<100>方向に並ぶように、前記Si基板の前記流路が形成される面とは反対の面から先導孔を形成する第1のSi除去工程と、
前記先導孔に対して、{100}面のエッチング速度が{110}面のエッチング速度より遅い条件でSi結晶軸異方性エッチングを行い、供給口を形成する第2のSi除去工程と、
をこの順に含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第2のSi除去工程において、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を主成分とするエッチング液を用いてSi結晶軸異方性エッチングを行う請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第2のSi除去工程において、水酸化カリウム(KOH)を主成分とするエッチング液を用いてSi結晶軸異方性エッチングを行う請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記第1のSi除去工程において、レーザー加工を用いてSiを除去することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記Si基板の前記流路が形成される面の一部に、前記第2のSi除去工程においてSi結晶軸異方性エッチングの際に等方性エッチングされる犠牲層を設ける工程を、前記第1のSi除去工程より前に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記第1のSi除去工程において、ドライエッチングを用いてSiを除去することを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記Si基板の前記流路が形成される面とは反対の面から、前記供給口が少なくとも二つ以上連結された共通液室となる空間を形成する工程を、前記第1のSi除去工程より前に有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記共通液室となる空間をSi結晶軸異方性エッチングにて形成する請求項7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記共通液室となる空間をドライエッチングにて形成する請求項7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
面方位が{100}であるSi基板と、
前記Si基板上に液体を保持する流路と、
前記流路と連結し、液体を吐出する複数の吐出口と、
前記流路と連結し、該流路に液体を供給する前記Si基板に設けられた複数の供給口と、
を有する液体吐出ヘッドにおいて、
最近接の2つの供給口が前記Si基板の<100>方向に並び、供給口の壁面が{100}面で形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−143119(P2010−143119A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323787(P2008−323787)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】