説明

液体吐出ヘッド用オリフィスプレートおよびその製造方法

【課題】 吐出口のピッチ精度がよく、吐出口周辺にレーザ加工のアブレーションによる副生成物の付着のないオリフィスプレートを得る。
【解決手段】 オリフィスプレートの元材となる撥水処理したフィルム状樹脂に、粘着剤を塗布したフィルム基材から形成される剥離可能部材を、フィルム状樹脂にかかる張力よりも強い一定の張力をかけながらラミネートし、湾曲した内側をロール内側となるように巻き取り、吐出口の形成をラミネート方向と垂直にレーザ加工し、レーザ加工後に剥離可能部材を剥離し、オリフィスプレート形状に裁断してオリフィスプレートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射し飛翔液滴を形成して記録を行う液体吐出ヘッドと、液体を噴射する吐出口(以下、オリフィスともいう)の形成に関するものである。
【0002】
また本発明は紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対し記録を行う、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用できる発明である。
【0003】
なお、本発明における[記録]とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を付与することも意味する。
【背景技術】
【0004】
従来より、液体吐出ヘッドの吐出口から記録液(インク)を吐出することにより記録を行うインクジェット記録装置が、低騒音、高速記録などの点で優れた記録装置として知られている。
【0005】
このインクジェット記録法については、これまでにもさまざまな方式が提案され改良が加えられて商品化されたものもあれば現在実用化への努力が続けられているものもある。
【0006】
この種の液体吐出ヘッドは、例えば図1に示すようにインクを吐出するための吐出口41を有するオリフィスプレート40と各吐出口41に連通した流路61を形成するための天板60と、流路61の一部を構成し、かつ吐出のためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子(以下ヒータ)51を有する基板(以下ヒータボード)50とによって構成されている。
【0007】
オリフィスプレート40はインクを吐出するための微細な吐出口41を有し、この吐出口41が液体吐出ヘッドの吐出性能を左右する重要な要素となっている。すなわち液体吐出ヘッドのオリフィスプレート40は、微細な吐出口41を設けるため、加工性がよく、また、インクに直接接触するため耐インク性がよいなどの性能が必要とされる。
【0008】
近年の記録技術の進歩に伴って、高速、高精細な記録が要求されるようになりつつあり、このため吐出口41は、その大きさ(吐出口径)が微少で、かつ高密度に形成されるようになってきた。この結果、現在ではポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリイミドなどの樹脂フィルム材にエキシマレーザアブレーションによる微細加工で吐出口を加工する方法が最も一般的に用いられている。
【0009】
しかしながら、従来の加工では、樹脂の被加工物がエキシマレーザによるアブレーションで分解除去される際に炭素あるいは炭化物からなると思われる微少破片が吐出口周辺部に付着する現象が見られた。
【0010】
エキシマレーザで吐出口を穴加工する際にレーザにより除去されたものが吐出口周辺に付着すると、付着物のある部分とない部分での物理的な性質、特にインクに対する濡れが変化する。一方オリフィスプレート40の表面は、不要なインク溜りが存在しないように均一である事が望ましいとされている。そのためある部分に付着物が存在しインク溜りとなると、液滴の飛翔方向が安定せず、良好な記録が行えなくなる。また、インクの溜りが大きくなると、液滴の吐出が不能になり記録が行えなくなる状態に陥る事があった。このため、従来レーザ光の照射後に二次加工工程として超音波洗浄や粘着テープなどを用いて、堆積したカーボン層や炭素あるいは炭化物からなる微少破片を除去していた。また特開2000−229412では、吐出口形成部材の少なくとも一方の表面にあらかじめ剥離可能部材を貼ってから前記吐出口形成部材にレーザ光を照射して吐出口を形成し、その後に剥離可能部材を剥す方法が示されている。
【特許文献1】特開2000−229412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年の記録技術の進歩に伴って、高速、高精細な記録が要求されるようになり、このため、吐出口の数はより多くなり、その大きさが微少で、かつ高密度で高精細な形成が必要になった。また、あらかじめ作成しておいたヘッド本体にオリフィスプレートを接合する際に、本体側の液路とオリフィスプレートの吐出口ピッチがずれると、インクの吐出性能に影響が生じて印字品位が劣化する。
【0012】
そのため、従来にも増して吐出口間のピッチ精度が要求されるようになった。
【0013】
ところが、剥離可能部材をフィルム状樹脂に貼った状態で、フィルム状樹脂の剥離可能部材を貼っていない面からレーザ光を照射して複数の吐出口41を形成し、その後に剥離可能部材を剥すと、剥離可能部材を剥す前と後とでフィルム状樹脂に形成された複数の吐出口間のピッチが変化する事があった。変化量が一定ならば、あらかじめ吐出口ピッチを補正する事も出来るが、変化量のばらつきが大きいと、吐出口ピッチ寸法の誤差になる。
【0014】
また、相対張力が実質的に発生しないようにラミネートしても、巻き取った状態で保存することにより、双方のフィルムに異なった張力がかかり、巻き出し後のフィルムの相対張力が変化したり、剥離が起こる場合もあった。
【0015】
本発明は、上述の問題点を解決し、吐出口周辺にアブレーション時の副生成物である炭素あるいは炭化物からなると思われる微少破片が付着する事を防止し、信頼性およびピッチ精度が高く、印字品位の良好な液体吐出ヘッドを得る事にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する為に、本発明は液体を飛翔液滴として吐出させるためのエネルギーを発生させる複数のエネルギー発生素子と該複数のエネルギー発生素子の各々が配置された複数の流路とを備えたヘッド本体と、該ヘッド本体に接合され、前記流路にそれぞれ連通した複数の吐出口を有するオリフィスプレートとを備えた液体吐出ヘッドにおける該オリフィスプレートの製造方法において、長尺のフィルム状樹脂の吐出口形成面側に長尺のフィルム状の剥離可能部材をフィルム上樹脂にかかるより強い一定の張力をかけた状態でラミネートして長尺フィルムを製作する工程と、フィルム状樹脂の剥離可能部剤をラミネートしていない面からレーザを照射してフィルム状樹脂と剥離可能部剤を同時に加工して複数の吐出口を形成する工程と、該剥離可能部剤を該フィルム状樹脂から剥す工程と、オリフィスプレート形状に該フィルム状樹脂を裁断する工程とを有する事を特徴とする。
【0017】
上記の発明では、剥離可能部材にフィルム状樹脂にかかる張力よりも強い一定の張力を常にかけながらラミネートするため、ラミネート後剥離可能部材の長手方向にはフィルムが縮む方向に張力がかかり、幅方向には微少ながら伸びる方向に張力がかかる。したがって、フィルム状樹脂には、長手方向には伸びる方向、幅方向には微少ながら縮む方向に一定の張力がかかった状態でラミネートされる。
【0018】
また、本発明では、前記吐出口を該長尺フィルムのラミネート方向と垂直な方向に形成する事を特徴とする。
【0019】
上記発明では、ラミネート方向と垂直な方向に吐出口を形成するので、剥離可能部材をフィルム状樹脂に貼った状態で剥離可能部材をラミネートしていない面からレーザを照射して複数の吐出口を形成し、その後に剥離可能部材を剥しても、剥離可能部材が常に同じ張力でラミネートされているため、剥離可能部材を剥す前後でフィルム状樹脂に形成された複数の吐出口間のピッチは常に同じ値で変化を起こす。
【0020】
また、本発明では、ラミネートした長尺フィルムを巻き取る際、湾曲した内側をロール内側に巻き取ることを特徴とする。
【0021】
上記の発明では、巻き取り方向をラミネート後のカール方向で行うことにより、巻き取り時のラミネート剥離や、フィルムのまき癖による吐出口ピッチ変化量のばらつきを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、剥離可能部材をフィルム状樹脂よりも強い一定の張力をかけた状態でラミネートすることにより、剥離可能部材は長手方向に対して伸びる方向、幅方向に対して縮む方向に張力が働く。その状態でフィルム状樹脂をラミネートすると、剥離可能部材は元の状態に戻ろうとする慣性力が働き、長手方向には縮む方向、幅方向には伸びる方向に張力が働く。一方、フィルム状樹脂には、長手方向には伸びる方向、幅方向には縮む方向に張力が働く。
【0023】
この状態でラミネートしていない面からレーザ加工をし、ラミネート方向と垂直に複数の吐出口を形成し、剥離可能部材を剥離すると、剥離前後でフィルム状樹脂の吐出口のピッチは必ず縮んだ状態となる。
【0024】
また、剥離可能部材により強い張力をかけてラミネートすると、ラミネートされたフィルム状樹脂は剥離可能部材を内側にしてカールした状態となり、その方向に巻き取ることにより、フィルム状樹脂に巻き癖がつきにくく、さらに巻き取り時にラミネートが剥離することを防ぐことができる。
【0025】
また、剥離可能部材の粘着力が前記レーザ照射時に剥離しない程度に大きく、前記フィルム状樹脂から粘着部材を取り去る際にフィルム状樹脂が塑性変形をおこさない程度に小さい値に調整されているので、レーザ照射時に剥離可能部材がフィルム状樹脂から剥がれてしまって、アブレーションで生成した炭素あるいは炭化物からなると思われる微少破片が吐出口周辺部に付着してしまうということは起こらない。また、粘着力が調整されているので、フィルム状樹脂から剥離可能部材を取り去る際にフィルム状樹脂が塑性変形をおこさない。
【0026】
以上から、吐出口のピッチ精度がよく、吐出口周囲にレーザアブレーション時の副生成物がないオリフィスプレートを得ることができる。
【0027】
さらに、上記オリフィスプレートを用いる事で、信頼性が高く、印字品位の良好な液体吐出ヘッドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態の吐出ヘッドの製造方法が適用される液体吐出ヘッドの斜視図である。オリフィスプレート40を分離して示してある。50は、シリコン基板上に複数配列されたエネルギー発生素子(吐出ヒータ)51と、これに電力を供給するアルミニウムなどの電気配線とが成膜技術により形成されてなる基板である。60は、複数の液路61を各々区分するための隔壁や液路61に供給するインクを収納するための共通液室などを設けた天板であり、インクはインクタンク(不図示)から供給される。
【0030】
それぞれの液路61にエネルギー発生素子51が配置されるように基板50と天板60とを接合することにより、複数の液路61および複数のエネルギー発生素子51が備えられたヘッド本体が構成されている。このヘッド本体の前端面に、すなわち図2に示すように基板50のオリフィスプレート40との接合面44a、および天板60のオリフィスプレート40との接合面44bを含む面に、それぞれ液路61の開口が配置されている。
【0031】
一方、オリフィスプレート40には、液路61とそれぞれ連通した複数の吐出口41が複数形成されている。また、オリフィスプレート40の、ヘッド本体46との接合面における吐出口41の周囲には、吐出口41ごとにそれぞれ独立した凸部45が形成されており、凸部45が液路61に勘合した状態で、接合面44a,44bで接着樹脂42によってヘッド本体46とオリフィスプレート40が接合されている。
【0032】
この液体吐出ヘッドでは、エネルギー発生素子51から発生した熱エネルギーが液路61内のインクに作用する事でエネルギー発生素子51上で気泡が発生し、その気泡の発生を利用して吐出口41からインクが吐出される。
【0033】
図3は、本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法に使用される製造ラインの一部を模式的に示す図である。図3に示される製造ラインは、図1に示したオリフィスプレート40の元材となる長尺フィルム75を製造するためのものである。この製造ラインでは、長尺フィルム状樹脂74の吐出口形成面側に剥離可能部材73をラミネートして長尺フィルム75を製作する工程が行われる。図3に示すように、巻出しロールA70から剥離可能部材のフィルム基材83を連続的に巻きだしながら粘着剤71を塗工し、乾燥炉72で乾燥させる。今回の塗工はスロットダイコーティングヘッドを用いて行ったが、グラビアコーティング、スプレー塗布などの一般的に使用されている塗工方法を用いても構わない。ここでは剥離可能部材のフィルム基材83として20μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルム)を用いた。ここでは、フィルム幅は300mm、フィルム長さは200mとしたが、装置や仕様に応じて任意に設定する事ができる。粘着剤71は、アクリル系の粘着剤を10μm塗布し、70℃で乾燥させた。ラインスピードは1m/minで行った。粘着剤71のエージングは、乾燥炉72の中で終了していても構わないし、フィルム状樹脂表面に付着物などの影響を及ぼさなければエージング終了がラミネート後になっても構わない。
【0034】
粘着力は、レーザ照射時に剥離しない程度に大きく、フィルム状樹脂74から剥離可能部材73を取り去る際にフィルム状樹脂74が塑性変形をおこさない程度に小さい値に調整した。
【0035】
次に、フィルム状樹脂の制作方法について説明する。フィルム状樹脂74として、50μm厚のポリサルフォンフィルム(住友ベークライト(株)製FS1200)を用いた。
【0036】
まず、一方の表面に撥水層を形成する。撥水処理剤としては、旭硝子(株)製のCTX−CZ5Aを用いた。フィルム状樹脂の表面に撥水層を形成する際には、まず撥水剤塗工面をコロナ処理により親水化し、密着向上のためのシラン処理を施した後、マイクログラビアコータを用いてフィルム状樹脂74を長手方向に巻きだしながら撥水剤を塗工し、連続して150℃3分間乾燥を行った。ラインスピードは1m/minで行った。一旦巻き取った後140℃で5時間ポストベークを行った。このようにして製作したフィルム状樹脂74を巻出しロールB80から巻きだして、図5で示すようにラミネートロールA76とラミネートロールB77で剥離可能部材73とラミネートし、図4で示すような構成の長尺フィルム75を作成した。
【0037】
次に、40℃で3日間保持し、粘着剤のエージングを行った。
【0038】
次に、エキシマレーザを用いて吐出口を形成した。長尺フィルムは、あらかじめ全長200mにわたって300mm幅を48mm幅に分割カットした。
【0039】
図7は、長尺フィルムに吐出口を形成するためのレーザ加工機を模式的に示す図である。図7に示されるレーザ加工機には、エキシマレーザ発振器10とエキシマレーザ発振器10から出射されたレーザ13を集光させる集光レンズ11、集光レンズ11を透過したレーザ13を長尺フィルム75の所定の部分に照射させるためのマスク12とが備えられている。エキシマレPーザ発振器10から出射されたレーザ13は集光レンズ11およびマスク12を介して長尺フィルム75に照射される。長尺フィルム75はロール状に巻かれた状態で収納されており、ここでは、ロール状の長尺フィルムを巻き出す事により長尺フィルム75の一部を平らにし、その平らな部分にレーザ13を照射させる。長尺フィルム75の剥離可能部材73をラミネートしていない面からレーザを照射してフィルム状樹脂74と剥離可能部材73を同時に加工して、フィルム状樹脂74の撥水層81を形成した表面での開口寸法がφ20μmでピッチが42.3μmの吐出口41を複数個形成した。吐出口列の形成方向は、図6に示すように、長尺フィルム75のラミネート方向と垂直な方向に形成した。次に、長尺フィルム75の剥離可能部材73をラミネートしていない面からレーザ13を照射して吐出口41の周囲に図2の凸部45に応じた形状を形成した。パルス数を調整して、凸部高さが10μmになるように周囲を除去加工した。
【0040】
次に、剥離可能部材73を長尺フィルム75のフィルム状樹脂74から連続的に巻き取りながら剥離した。ここでは、レーザ加工と別工程で行ったが、レーザ加工機に剥離可能部材巻き取り機を取り付け、レーザ加工直後に剥離して巻き取るようにしてもよい。
【0041】
以上のような加工を行うと、エキシマレーザによる吐出口加工時の副生成物が観察されるが、この副生成物は剥離可能部材73上に存在しているので、剥離可能部材73を剥す事で、フィルム状樹脂74の撥水層81表面には全く存在することなく除去することが出来る。
【0042】
次に、吐出口41が形成されてロール状に巻かれた長尺フィルム75を、一つの液体吐出ヘッドごとに必要な1インチサイズに裁断して、オリフィスプレート40を製作した。
【0043】
次に、オリフィスプレート40を製作した後の、液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。
【0044】
オリフィスプレート40を作成した後には、上述した工程とは別の工程で作成されたヘッド本体46に、接着樹脂42によってオリフィスプレート40を接合する。ここで用いる接着樹脂42として、紫外線を照射する事によりタック性を保持したままBステージ(硬化中間状態)化し、その接着樹脂42の硬化収縮を完了させてから、加熱圧着、または接着樹脂42への更なる紫外線照射により部材同士を接着する事が可能なエポキシ系の接着剤を用いた。
【0045】
接着樹脂として、Bステージ化せずに加熱圧着のみでも接着が可能な材料などを使用しても構わない。
【0046】
まず、上記のようなエポキシ系の接着樹脂42を転写法でヘッド本体46の接合面44a,44bに転写し、紫外線を照射して接着樹脂42のBステージ化を行う。
【0047】
次に、オリフィスプレート40のそれぞれの凸部45を、それぞれの凸部45に対応する液路61内に進入させて凸部45を液路61の先端部に勘合する。
【0048】
次に、オリフィスプレート40の、凸部45を形成していない面からオリフィスプレート40に1kg/cm2 の荷重をかけて、オリフィスプレート40とヘッド本体46とを密着させ、その状態を保持したまま60℃の温度でヘッド本体46にオリフィスプレート40を加熱圧着し、接着樹脂の硬化を終了させた。
【0049】
以上で説明した工程を経て、図1および図2に示した液体吐出ヘッドが製造される。
【0050】
本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法によれば、長尺のフィルム状に剥離可能部材を連続的にラミネートするので、個別フィルムでラミネートする場合に比べ、一定の条件でラミネートが可能であるし、エアのトラップによる気泡などの発生もない。
【0051】
また、剥離可能部材をフィルム状樹脂よりも強い一定の張力をかけた状態でラミネートする場合、剥離可能部材は長手方向に対して伸びる方向、幅方向に対して縮む方向に張力が働く。その状態でフィルム状樹脂をラミネートすると、剥離可能部材は元の状態に戻ろうとする慣性力が働き、長手方向には縮む方向、幅方向には伸びる方向に張力が働く。一方、フィルム状樹脂には、長手方向には伸びる方向、幅方向には縮む方向に張力が働く。
【0052】
この状態でラミネートしていない面からレーザ加工をし、ラミネート方向と垂直に複数の吐出口を形成し剥離可能部材を剥離すると、剥離前後でフィルム状樹脂の吐出口のピッチは必ず縮んだ状態となる。
【0053】
また、剥離可能部材により強い張力をかけてラミネートすると、ラミネートされたフィルム状樹脂は剥離可能部材を内側にしてカールした状態となる。その方向に巻き取ることにより、フィルム状樹脂にまき癖がつきにくく、さらに巻き取り時にラミネートが剥離することを防ぐことができる。
【0054】
また、剥離可能部材の粘着力が前記レーザ照射時に剥離しない程度に大きく、前記フィルム状樹脂から粘着部材を取り去る際にフィルム状樹脂が塑性変形をおこさない程度に小さいように調整されているので、レーザ照射時に剥離可能部材がフィルム状樹脂から剥がれてしまって、アブレーションで生成した炭素あるいは炭化物からなると思われる微少破片が吐出口周辺部に付着してしまうということは起こらない。また、粘着力が調整されているので、フィルム状樹脂から粘着部材を取り去る際にフィルム状樹脂が塑性変形をおこさない。
【0055】
以上から、吐出口のピッチ精度がよく、吐出口周囲にレーザアブレーション時の副生成物がないオリフィスプレートを得ることができる。
【0056】
さらに、上記オリフィスプレートを用いる事で、信頼性が高く、印字品位の良好な液体吐出ヘッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法が適用される液体吐出ヘッドについて説明するための斜視図。
【図2】図1に示した液体吐出ヘッドの、流路方向にそった断面図。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法に使用される製造ラインの一部を模式的に示した図。
【図4】長尺フィルムの構成を示す図。
【図5】本発明の実施例の長尺フィルムのラミネート方向について説明するための図。
【図6】本発明の実施例の長尺フィルムの吐出口形成方法について説明するための図。
【図7】長尺フィルムに吐出口を形成するためのレーザ加工機を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0058】
10 エキシマレーザ発振器
11 集光レンズ
12 マスク
13 レーザ
40 オリフィスプレート
41 吐出口
42 接着樹脂
44a 接合面
44b 接合面
45 凸部
46 ヘッド本体
50 基板
51 エネルギー発生素子
60 天板
61 液路
62 液室
64 供給口
68 巻き取りロール
69 粘着剤供給口
70 巻き出しロールA
71 粘着剤
72 乾燥炉
73 剥離可能部材
74 フィルム状樹脂
75 長尺フィルム
76 ラミネートロールA
77 ラミネートロールB
78 テンションロールB
79 テンションロールA
80 巻き出しロールB
81 撥水層
82 粘着剤層
83 フィルム基材層
84 張力A
85 張力B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を飛翔液滴として吐出させるためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と該複数のエネルギー発生素子の各々が配置された複数の流路とを備えたヘッド本体と、該ヘッド本体に接続され、前記流路にそれぞれ連通した複数の吐出口を有するオリフィスプレートとを備えた液体吐出ヘッドにおける該オリフィスプレートの製造方法において、
長尺のフィルム状樹脂の吐出口形成面側に長尺のフィルム状の剥離可能部材をフィルム状樹脂にかかるより強い一定の張力をかけた状態でラミネートして長尺フィルムを製作する工程と、フィルム状樹脂の剥離可能部剤をラミネートしていない面からレーザを照射してフィルム状樹脂と剥離可能部剤を同時に加工して複数の吐出口を形成する工程と、該剥離可能部剤を該フィルム状樹脂から剥す工程と、オリフィスプレート形状に該フィルム状樹脂を裁断する工程とを有する事を特徴とする液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項2】
前記ラミネートした長尺フィルムを巻き取る際、湾曲した内側をロール内側に巻き取ることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項3】
前記吐出口の形成を、前記長尺フィルムのラミネート方向と垂直方向に形成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項4】
前記剥離可能部剤の粘着力が、前記レーザ照射時に剥離しない程度に大きく、前記フィルム状樹脂から剥離可能部剤を取り去る際にフィルム状樹脂が塑性変形をおこさない程度に小さい事を特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項5】
前記フィルム状樹脂の剥離可能部剤をラミネートする面の表面に撥水層を形成する事を特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項6】
前記レーザがエキシマレーザであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項7】
前記剥離可能部剤のフィルム基材層がエキシマレーザでアブレーション可能な材料で形成されている事を特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項8】
前記剥離可能部材の粘着剤層がエキシマレーザでアブレーション可能な材料で形成されている事を特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム状樹脂がポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリイミドのいずれかの材料からなることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおけるオリフィスプレートの製造方法。
【請求項10】
請求項1、3、4、5、7、8、9のいずれか一つに記載の製造方法で製造された事を特徴とするオリフィスプレート製造用長尺フィルム。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一つに記載の製造方法で製造された事を特徴とするオリフィスプレート。
【請求項12】
請求項11に記載のオリフィスプレートを用いて製造された液体吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−198828(P2006−198828A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11545(P2005−11545)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】