説明

液体吸引管及びこの液体吸引管を用いた試料分析装置

【課題】 開口に栓体が装着された容器内に収容された液体試料が少ない場合でも、かかる液体試料を効果的に吸引することができる液体吸引管を提供する。
【解決手段】 容器の開口に装着される栓体を貫通して、当該容器内の液体試料を吸引可能な液体吸引管P。内部に長手方向に延びる第1管路1を有する吸引管本体部2と、この吸引管本体部2の一端に当該吸引管本体部2と一体的に設けられており、その先端に斜めカット面3が形成されている針部4とを備えている。前記針部4は、その先端近傍であり且つ前記斜めカット面3の背面側に形成された吸引口5、及びこの吸引口5から前記第1管路1に至る第2管路6を有している。前記第2管路6は、前記長手方向に対して鈍角をなすように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吸引管及びこの液体吸引管を用いた試料分析装置に関する。さらに詳しくは、血液や尿等の液体試料(以下、単に試料ともいう)を分析する試料分析装置において、試料が収容されている容器から当該試料を吸引するのに用いられる液体吸引管及びこの液体吸引管を用いた試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種分析を行うために、開放端が栓体で密封された容器内の試料を吸引する液体吸引管として、先端部が鋭利に形成されるとともに、この先端部付近に、吸引管内の管路と連通する吸引口が形成されたものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載されているピペット(液体吸引管)は、中心に吸引流路を有するステンレス鋼製のパイプからなり、その先端には、頂点に向かって先細る鋭利な三角錐状の錐形部が形成されている。また、前記吸引流路の先端はステンレス鋼製の封止部材で封止されており、この封止部分の上部付近におけるピペット周面に吸引口が開口されている。この吸引口は、ピペットの軸に直交する軸を有するとともに、前記吸引流路に連通しており、ピペット先端を試料中に浸漬することで、当該吸引口から試料を吸引することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−170156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のピペットは、吸引流路の先端が封止部材で封止されているので、この封止された部分よりも上部に吸引口を設ける必要がある。そのためピペットの最先端から当該吸引口までの距離が長くなり、容器内に収容されている試料が少ない場合、当該容器内から所定量の試料を吸引できないことがあった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、開口に栓体が装着された容器内に収容された試料が少ない場合でも、かかる試料を吸引することができる液体吸引管及びこの液体吸引管を用いた試料分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液体吸引管は、容器の開口に装着される栓体を貫通して、当該容器内の液体試料を吸引可能な液体吸引管であって、
内部に長手方向に延びる第1管路を有する吸引管本体部と、
この吸引管本体部の一端に当該吸引管本体部と一体的に設けられており、その先端に斜めカット面が形成されている針部と、を備えており、
前記針部が、その先端近傍であり且つ前記斜めカット面の背面側に形成された吸引口、及びこの吸引口から前記第1管路に至る第2管路を有しており、且つ、
前記第2管路が、前記長手方向に対して鈍角をなすように形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0006】
前記容器内の試料を吸引する吸引口から吸引管本体部の第1管路に至る第2管路を、吸引管本体部の長手方向に対して鈍角をなすように形成することで、吸引口を液体吸引管の先端からわずかな距離の位置に形成することができる。すなわち、液体吸引管の先端から吸引口までの距離を従来よりも大幅に短くすることができ、その結果、容器内の試料が少ない場合でも、かかる試料を効果的に吸引することができる。
【0007】
前記針部が、2つの斜めカット面を有するのが好ましい。この構成によれば、液体吸引管が穿刺時に受ける抵抗を小さくして、当該液体吸引管の寿命を長くすることができる。
また、前記2つの斜めカット面により形成される先端が、液体吸引管の外周面上に位置しており、且つ、この先端を通り当該液体吸引管の軸に平行な線上に前記吸引口が形成されているのが好ましい。この構成によれば、吸引口を液体吸引管の先端の極近傍に形成することができ、液体吸引管の先端から吸引口までの距離を最大限短くすることができ、その結果、容器内の試料が少ない場合でも、かかる試料を効果的に吸引することができる。
【0008】
本発明の試料分析装置は、容器内に収容されている液体試料を吸引し、この液体試料を分析する試料分析装置であって、前記容器を装置内の所定の位置にセットするための試料セット部と、前記液体試料を吸引するための液体吸引管を有しており、当該液体試料を定量して分析用の試料を調整するための試料調製部と、定量された液体試料の分析を行う分析部と、前記試料調整部及び分析部を電気的に駆動制御する制御部とを備えており、前記液体吸引管として請求項1記載の液体吸引管を用いたことを特徴としている(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体吸引管及びこの液体吸引管を用いた試料分析装置によれば、開口に栓体が装着された容器内に収容された試料が少ない場合でも、かかる試料を効果的に吸引することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の液体吸引管の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る液体吸引管Pの一部破断側面図であり、図2は図1に示される液体吸引管PのA方向矢視図である。液体吸引管Pは、開口部がゴムキャップ等の栓体で封止された密封容器内に収容されている血液や尿等の液体試料を所定量だけ吸引するのに用いられ、前記液体試料の分析を行う各種分析装置内に組み込まれて使用される。
【0011】
液体吸引管Pは、内部に長手方向に延びる第1管路1を有する吸引管本体部2と、この吸引管本体部2の一端2aに当該吸引管本体部2と一体的に設けられており、その先端に斜めカット面3が形成されている針部4とを備えている。前記吸引管本体部2は、ステンレス等の金属や、セラミックス等で作製された管状部材からなっており、その内径及び外径は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、それぞれ0.1〜3mm及び0.5〜5mmである。吸引管本体部2の長さは、その栓体が液体吸引管Pに穿刺される密封容器の高さないしは深さに応じて選定することができるが、通常は20〜150mmである。また、吸引管本体部2の根元側(針部4が設けられる側と反対側)の端部2bから所定長さ(例えば、5〜20mm)の部分2cは、チューブを差し込み易くするために、他の部分よりも0.3mm程度小径にされている。
【0012】
前記第1管路1は試料の通路となる部分であり、吸引管本体部2の軸と同軸にされており、その内径は通常0.1〜3mm程度である。なお、第1管路1は吸引管本体部2の軸とは偏心されて設けられてもよい。
【0013】
前記針部4は、密封容器内の液体試料を吸引するための吸引口5、及びこの吸引口5から前記第1管路1に至る第2管路6を有している。針部4は、前記吸引管本体部2と同様に、ステンレス等の金属や、セラミックス等で作製することができ、本実施の形態では、短筒状の基部4aと錐体状の刃先部4bとで構成されている。この基部4aは、吸引管本体部2(前記小径の部分2c以外の吸引管本体部)と同一の外径を有しており、当該吸引管本体部2の一端2aに、溶着又は接着によってこの吸引管本体部2と一体になるように設けられている。
【0014】
前記吸引口5は、針部4の先端近傍であり且つ前記斜めカット面3の背面側(非カット面)に形成されている。本実施の形態では、図2に示されるように、2つの斜めカット面3が針部4に形成されており、前記吸引口5は、これら2つの斜めカット面3の丁度真ん中に位置するように形成されている。吸引口5の縁部5aは、液体吸引管Pが密封容器の栓体を穿刺する際に当該縁部5aのうち図2において上半分(この上半分は、第2管路6を形成したままの状態では、鋭角のエッジを有している)により切断された栓体の一部が吸引口5に進入して管路を閉塞するのを防ぐために、全周縁が面取されている。
【0015】
斜めカット面3を含む前記刃先部4bは、密封容器の栓体を穿刺する部位であり、1つの斜めカット面3が形成されていれば、前記栓体を穿刺することができるが、液体吸引管Pが穿刺時に受ける抵抗を小さくして、当該液体吸引管Pの寿命を長くするために、2つの斜めカット面3を形成するのが好ましい。すなわち、栓体を穿刺する際に、液体吸引管Pは前記斜めカット面3を介して軸方向に垂直な力を受けるが、2つの斜めカット面3が形成されていると、この力が部分的に相殺されて小さくなる。その結果、長期に亘り使用しても、液体吸引管Pに曲げが発生することがない。また、2つの斜めカット面3が形成されていると、先端がより鋭利になるので、小さな抵抗でスムーズに栓体を穿刺することができる。
【0016】
前記2つの斜めカット面3は、図2に示されるように、液体吸引管Pの軸を含む面に対して線対称になるように形成されており、本実施の形態では、いずれも液体吸引管Pの軸を含む面に対し45°の角度をなすように形成されている。また、先端をより鋭利にするため、斜めカット面3の直線部3aが液体吸引管Pの軸に対して所定の角度α(例えば、50°)をなすべく、吸引口5側から見て奥の方が互いに近づくように斜めカット面3が傾斜して形成されている。そして、このように斜めカット面3を形成することで、刃先部4bの先端8を液体吸引管Pの外周面上に配置することができる、換言すれば、刃先部4bの先端8まで液体吸引管Pの外周面を存在させることができるので、当該先端8を通り液体吸引管Pの軸に平行な線L上に吸引口5を形成することで、この吸引口5の位置を前記先端8に近づけることができる。カット面には吸引口5を形成することができないが、図示した例では、刃先部4bの先端8まで外周面が存在するため、吸引口5を液体吸引管Pの先端8の極近傍に形成することが可能になる。その結果、液体吸引管Pの先端8から吸引口5までの距離を最大限短くすることができ、密封容器内の試料が少ない場合でも、かかる試料を一層効果的に吸引することができる。
【0017】
なお、本明細書において「背面側」とは、斜めカット面3の全くの裏側(180°反対側)だけを意味するのではなく、前記錐体状の刃先部4bの周面のうち、斜めカット面3以外の周面、すなわち非カット面を意味するものである。したがって、斜めカット面3を1つだけ形成する場合、第2管路6の配置の都合上、吸引口5は当該斜めカット面3の180°反対側に形成するのが一般的であるが、図2に示されるように、2つの斜めカット面3を形成する場合、吸引口5は、錐体状の刃先部4bの周面のうち、斜めカット面3以外の周面(非カット面)に形成される。
【0018】
前記第2管路6は、液体吸引管Pの長手方向に対して鈍角をなすように形成されている。すなわち、針部4を下にして液体吸引管Pを立てた状態(図1参照)において、吸引口5から当該液体吸引管Pの軸に向かって上昇するように形成されている。このように、第2管路6を、吸引管本体部2の長手方向に対して鈍角をなすように形成することで、吸引口5を液体吸引管Pの先端からわずかな距離の位置に形成することができる。すなわち、液体吸引管Pの先端から吸引口5までの距離を従来よりも大幅に短くすることができ、その結果、密封容器内の試料が少ない場合でも、かかる試料を効果的に吸引することができる。具体的に、液体吸引管Pの先端から吸引口5の中心までの距離Hは、例えば吸引管本体部2の外径を1.5mm、第1管路1及び第2管路6の内径を0.5mmとした場合に、約1mmと非常に短くすることができる。また、液体吸引管Pの長手方向に対して鈍角をなすように第2管路6を形成することで、液体の澱みがなくなり当該液体をスムーズに吸引することができる。さらに、流れがスムーズになるので管内の洗浄がし易くなるという効果も得られる。
【0019】
第2管路6が液体吸引管Pの軸となす角度βは、本発明において特に限定されるものではないが、概ね120〜160°が目安である。本実施の形態では、第2管路6は、斜めカット面3の直線部3aと平行に形成されており、前記角度βは(180°−α)となる。
【0020】
前述したように、本発明の液体吸引管は、液体試料の分析を行う各種分析装置内に組み込まれて使用される。図3は本発明の液体吸引管が組み込まれた試料分析装置Sの一例の全体斜視図であり、図4は、この試料分析装置Sの、ケーシングを除去した状態の斜視図であり、図5は、同じくケーシングを除去した状態の正面説明図である。試料分析装置Sは、密封容器である採血管13内に収容されている血液の測定を行う装置(血液分析装置)であり、装置本体12と、この装置本体12を収納するケーシング11とで主に構成されている。
【0021】
装置本体12は、前記採血管を装置内の所定の位置にセットするための試料セット部14と、本発明の液体吸引管P、赤血球、ヘモグロビン及び血小板に関する測定をするための混合試料(試料である血液に試薬等を加えたもの)を調整する第1混合チャンバMC1、及び白血球に関する測定をするための混合試料を調整する第2混合チャンバMC2を有し、採血管内の血液を定量、希釈して測定用の混合試料を調整するための試料調製部と、赤血球に関する測定を行う第1検出部D1、ヘモグロビンに関する測定を行う第2検出部D2及び白血球に関する測定を行う第3検出部D3を有し、希釈された血液の測定を行う測定部と、前記試料調整部及び測定部を電気的に駆動制御する制御部とを備えている。
【0022】
前記試料分析装置Sでは、液体吸引管Pを用いて採血管13内の血液が吸引され、この血液を用いて前記第1混合チャンバMC1又は第2混合チャンバMC2内で分析用の混合試料が調整される。そして、この分析用混合試料が前記第1検出部D1、第2検出部D2又は第3検出部D3で分析され、赤血球数や白血球数等の測定が行われる。
【0023】
なお、本実施の形態では、前記針部4に、第2管路6と第1管路1とを接続する第3管路7が形成されているが、この第3管路7は、前記針部4の基部4aの高さ(図1において上下方向の寸法)や、第2管路6と液体吸引管Pの軸とのなす角度βを適宜選定することで省略可能である。例えば、基部4aの高さを低くして、前記角度βを大きくすることで、第2管路6を第1管路1に直結させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の液体吸引管の一実施の形態の一部破断側面図である。
【図2】図1に示される液体吸引管のA方向矢視図である。
【図3】本発明の液体吸引管が組み込まれた試料分析装置の一例の全体斜視図である。
【図4】図1に示される試料分析装置の、ケーシングを除去した状態の斜視図である。
【図5】図1に示される試料分析装置の、ケーシングを除去した状態の正面説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1第1管路
2吸引管本体部
3斜めカット面
4針部
5吸引口
6第2管路
P液体吸引管
S試料分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の開口に装着される栓体を貫通して、当該容器内の液体試料を吸引可能な液体吸引管であって、
内部に長手方向に延びる第1管路を有する吸引管本体部と、
この吸引管本体部の一端に当該吸引管本体部と一体的に設けられており、その先端に斜めカット面が形成されている針部と、を備えており、
前記針部が、その先端近傍であり且つ前記斜めカット面の背面側に形成された吸引口、及びこの吸引口から前記第1管路に至る第2管路を有しており、且つ、
前記第2管路が、前記長手方向に対して鈍角をなすように形成されていることを特徴とする液体吸引管。
【請求項2】
前記針部が、2つの斜めカット面を有する請求項1に記載の液体吸引管。
【請求項3】
前記2つの斜めカット面により形成される先端が、液体吸引管の外周面上に位置しており、且つ、この先端を通り当該液体吸引管の軸に平行な線上に前記吸引口が形成されている請求項2に記載の液体吸引管。
【請求項4】
容器内に収容されている液体試料を吸引し、この液体試料を分析する試料分析装置であって、前記容器を装置内の所定の位置にセットするための試料セット部と、前記液体試料を吸引するための液体吸引管を有しており、当該液体試料を定量して分析用の試料を調整するための試料調製部と、定量された液体試料の分析を行う分析部と、前記試料調整部及び分析部を電気的に駆動制御する制御部とを備えており、前記液体吸引管として請求項1記載の液体吸引管を用いたことを特徴とする試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266776(P2006−266776A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83240(P2005−83240)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】