説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】流路内に生じた圧力変動をより確実に抑制することが可能な液体噴射ヘッド、および、これを備えた液体噴射装置を提供する。
【解決手段】インク導入路21′の入口側開口部に、当該インク導入路よりも拡径し、フィルター16が配置される下流側フィルター室60が設けられ、当該フィルター室におけるフィルターよりも下流側の内壁に可撓膜61が設けられ、流路内のインクの圧力変動に応じて可撓膜が変形するように構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッド、および、これを備えた液体噴射装置に関し、特に、液体貯留部材内の液体を圧力室側に導入し、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
この種の液体噴射装置としては、流通に乗せ易く取り扱いが容易なカートリッジタイプの液体貯留部材を用いるものが開発されている。例えば、インクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという)では、液体状のインクを封入したインクカートリッジを使用するものが広く普及している。この構成では、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッドに対してインクカートリッジを装着する際、当該記録ヘッドのインク導入針(液体導入針)がインクカートリッジ内に挿入されることで、このインク導入針の先端側に開設されたインク導入孔(液体導入孔)を通じてインクカートリッジ内のインクが記録ヘッド側に導入される。記録ヘッドに導入されたインクは、ヘッド内部の導入路を通じて共通液体室(リザーバーまたはマニホールドとも呼ばれる)に導入される。共通液体室に導入されたインクは、当該共通液体室に連通する複数の圧力室にそれぞれ供給される。そして、圧力発生手段の一種である圧電振動子や発熱素子などを駆動することで圧力室内に圧力変動が生じ、この圧力変動が制御されることにより、圧力室に通じるノズルからインクが噴射される。
【0004】
温度変化や気圧の変化によりインクカートリッジ内に過度な正圧または負圧が生じる場合があり、その圧力がインクカートリッジから記録ヘッドのノズルに伝播すると、当該ノズルに形成されているメニスカスが破壊されることがある。即ち、メニスカスがノズルの内周面よりも圧力室側に過度に引き込まれた状態、或いは、ノズルの噴射側の開口面よりも外側に膨らんだ状態となる場合がある。そして、メニスカスにおける圧力が耐圧を越えた場合、メニスカスが正常に形成されず、即ち、破壊された状態となり、インクが噴射されない所謂ドット抜けが生じる虞があった。また、ノズルからインクが漏洩する可能性もあった。このような不具合を解決すべく、インクカートリッジ(インクタンク)に、当該カートリッジ内部の空気層を大気開放可能な圧力制御弁を設け、温度変化等によりインクカートリッジ内に過度な圧力が発生した場合に、圧力制御弁が開かれることでインクカートリッジ内の圧力変動が抑制されるように構成されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように圧力制御弁によって空気層を大気開放する構成では、温度や気圧の変化に伴う圧力変化のように比較的穏やかな圧力変化には対応することができる一方で、例えば、インクカートリッジの交換時に当該インクカートリッジに外的作用などで衝撃が加わった場合や、その他の振動などによりインクカートリッジと記録ヘッドの相対位置が変化した場合などのように、より瞬間的な圧力変動に対して十分な応答性が確保できない虞があった。
【0007】
上記のような現象は、例示したインクジェット式記録装置だけではなく、液体貯留部材に貯留された液体を液体噴射ヘッドに導入する構成を採用する他の液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、流路内に生じた圧力変動をより確実に抑制することが可能な液体噴射ヘッド、および、これを備えた液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、導入された液体をフィルターおよび液体導入路を通じて共通液室に導入し、圧力発生手段の作動によって前記共通液室に通じる圧力室内に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体導入路の入口側開口部に、当該液体導入路よりも拡径し、前記フィルターが配置されるフィルター室が設けられ、
当該フィルター室における前記フィルターよりも下流側の内壁に可撓膜が設けられ、
前記液体導入路内の圧力変動に応じて前記可撓膜が変形するように構成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、液体導入路内の圧力変動に応じてフィルター室における可撓膜が変形することにより、液体導入路内の圧力変動が緩和されるので、圧力変動がノズル側に伝わることが抑制され、ノズルにおけるメニスカスに対する悪影響を低減することが可能となる。また、フィルターよりも下流側に設けられた可撓膜の変形により圧力変動を吸収する構成であるため、フィルターよりも上流側で圧力変動を吸収する構成よりも、ノズル側への圧力変動の伝播がより効果的に抑制される。さらに、圧力制御弁によって空気層を大気開放することで衝撃を緩和する従来の構成と比較してより急激な圧力変動にも対応することができる。
【0011】
また、上記構成において、前記圧力緩和室内の気体の量を予め定められた範囲内に維持する調整機構を備える構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成において、前記フィルター室における前記フィルターよりも下流側の内壁には、フィルター室側とは反対側に窪んだ空部が形成され、
前記可撓膜は、前記空部の開口を封止する状態で設けられた構成を採用することができる。
【0013】
この構成によれば、空部によって可撓膜の変形代が確保されるので、可撓膜の変形が阻害されることなく、圧力変動をより確実に吸収することが可能となる。
【0014】
さらに、この構成において、前記空部が大気開放された構成を採用することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、可撓膜の変形がより円滑となるため、圧力変動をより効果的に吸収することができる。
【0016】
さらに、前記フィルター室における前記フィルターよりも上流側の内壁には、上流側可撓膜が設けられた構成を採用することが望ましい。
【0017】
この構成によれば、フィルターの上下の可撓膜の変形により液体噴射ヘッド内部の圧力変動が吸収されるので、ノズルにおけるメニスカスに対する悪影響を一層確実に低減することが可能となる。
【0018】
そして、本発明の液体噴射ヘッドは、上記の何れかの構成の液体噴射ヘッドと、
当該液体噴射ヘッドにおけるノズル形成面を封止する封止部材と、
当該封止部材と前記ノズル形成面との間に形成される封止空部内を負圧化することで前記ノズルから液体を吸引する吸引手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、液体噴射ヘッド内の圧力変動を可撓膜によって吸収することができることに加え、封止部材とノズル形成面との間に形成される封止空部内を吸引手段によって負圧化することでノズルから液体を吸引するクリーニング動作における気泡排出性を向上させることができる。このため、液体噴射装置の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する分解斜視図である。
【図3】導入針ユニットの構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図5】インク導入針および導入針ユニットの構成を説明する要部断面図である。
【図6】第2の実施形態の構成を説明する要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0022】
まず、記録ヘッドを搭載するインクジェット式記録装置(液体噴射装置の一種。以下、プリンターという。)の概略構成について、図1を参照して説明する。例示したプリンター1は、記録紙等の記録媒体(噴射対象)2の表面へ液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3と、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4と、このキャリッジ4を主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構5と、記録媒体2を副走査方向(主走査方向に直交する方向)に移送する紙送り機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明における液体の一種であり、インクカートリッジ7(液体貯留部材の一種)に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着され、本実施形態においてはインクの色毎に設けられている。
【0023】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従って、パルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録紙2の幅方向)に往復移動する。
【0024】
プリンター1の非記録領域であるホームポジションには、キャッピング機構12が配設されている。キャッピング機構12は、記録ヘッド3のノズル形成面に当接し得るトレイ状のキャップ部材12´(本発明における封止部材の一種)を有する。このキャッピング機構12では、キャップ部材12´内の空間が封止空部として機能し、この封止空部内に記録ヘッド3のノズル46(図2および図3参照)を臨ませた状態でノズル形成面に密着可能に構成されている。また、このキャッピング機構12には、ポンプユニット13(本発明における吸引手段の一種)が接続されており、このポンプユニット13の作動によって封止空部内を負圧化することができる。そして、ノズル形成面への密着状態でポンプユニット13を作動し、封止空部(密閉空間)内を負圧化すると、ノズル46から記録ヘッド3内のインクや気泡が吸引されてキャップ部材12´の封止空部内に排出されるようになっている。つまり、このキャッピング機構12は、記録ヘッド3内(インク流路内)のインクや気泡を強制的に吸引排出するクリーニング動作を行う。
【0025】
次に、記録ヘッド3の構成について説明する。ここで、図2は記録ヘッド3の概略分解斜視図、図3は導入針ユニット15の断面図、図4は記録ヘッド3の要部断面図である。例示した記録ヘッド3は、導入針ユニット15、駆動基板18、シール部材20、ヘッドケース23、流路ユニット24、及び、振動子ユニット26を備えている。
【0026】
導入針ユニット15は、例えば、エポキシ系樹脂等の合成樹脂によって成型されており、その上面にはフィルター16を介在させた状態でインク導入針17(本発明における液体導入針に相当)が複数取り付けられている。これらのインク導入針17には、インクカートリッジ7が着脱可能に装着されるようになっている。また、この導入針ユニット15の内部には、各インク導入針17に対応した導入管21が形成されている。この導入管21の内部はインク導入路21′(本発明における液体導入路の一種)となっている。このインク導入路21′の上端はフィルター16を介してインク導入針17の針流路51に連通し、下端はシール部材20の流路ジョイント部31を介してヘッドケース23内部に形成されたケース流路23′と連通している。
【0027】
上記駆動基板18は、図示しないプリンター本体側からの駆動信号等を受け、この駆動信号を、フレキシブルケーブル22を通じて圧電振動子34へ供給するための基板である。この駆動基板18は、コネクター19や駆動ICなどの電子部品等を実装している。コネクター19にはFFC(フレキシブルフラットケーブル)等の配線部材が接続され、駆動基板18は、このFFCを介してプリンター本体側から駆動信号を受けるようになっている。また、この駆動基板18において、シール部材20の流路ジョイント部31に対応する位置には、この流路ジョイント部31が挿通する逃げ穴32が開設されている。この駆動基板18は、シール部材20を介在させた状態でヘッドケース23の基端面27に配置される。
【0028】
シール部材20は、例えば、エラストマーやゴムなどの弾性材によって作製された板状体であり、ヘッドケース23の基端面27と駆動基板18との間に配置される。このシール部材20におけるケース流路23′及び導入針ユニット15におけるインク導入路21′に対応する位置には、流路ジョイント部31が隆設されている。この流路ジョイント部31は、インク導入路21′とケース流路23′との間に介在して、これらの流路同士を液密状態で連通するようになっている。
【0029】
ヘッドケース23は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、基端面27とは反対側の先端面(下面)には流路ユニット24を接合し、内部に形成された収容空部25内に振動子ユニット26を収容し、流路ユニット24側とは反対側の基端面27には、シール部材20、及び、駆動基板18を間に介在させた状態で導入針ユニット15が取り付けられる。このヘッドケース23の内部には、高さ方向を貫通してケース流路23′が設けられている。このケース流路23′の上端は、基端面27に開口し、シール部材20の流路ジョイント部31を介して導入針ユニット15のインク導入路21′と連通する。また、ケース流路23′の下端は、流路ユニット24内の共通インク室43に連通する。したがって、インク導入針17から導入されたインクは、インク導入路21′及びケース流路23′を通じて共通インク室43側に供給される。
【0030】
また、ヘッドケース23の先端面側には、薄手の金属製の板材によって作製されたヘッドカバー29が、流路ユニット24の外側からその周縁部を包囲するように取り付けられる。このヘッドカバー29は、流路ユニット24やヘッドケース23の側面を保護すると共に、流路ユニット24のノズル形成基板42を接地電位に調整し、記録紙等から発生する静電気によるノイズ等の障害を防止する機能を果たす。
【0031】
上記振動子ユニット26は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子34(圧力発生手段の一種)と、この圧電振動子34が接合される固定板35等から構成される。各圧電振動子34は、固定端部側が固定板35上に接合され、自由端部側が固定板35の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子34は、所謂片持ち梁の状態で固定板35上に取り付けられている。また、各圧電振動子34を支持する固定板35は、例えば厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、振動子ユニット26は、固定板35の背面を、収容空部25を区画するケース内壁面に接着することで収容空部25内に収納・固定されている。
【0032】
フレキシブルケーブル22は、例えば、ポリイミド等のベースフィルムの表面に銅箔等で導体パターンを形成し、この導体パターンをレジストで被覆した構成とされる。このフレキシブルケーブル22の一端部には、圧電振動子34の端子部に導通される一端側端子部(図示せず)が形成される一方、他端部には、駆動基板18の端子部に導通される他端側端子部(図示せず)が形成されている。そして、このフレキシブルケーブル22は、一端部が圧電振動子34の端子部に電気的に接続された状態で収容空部25内に収容される。また、その他端部は、収容空部25側から引き出されて駆動基板18の端子部に電気的に接続される。
【0033】
流路ユニット24は、図4に示すように、封止板(振動板)40、流路形成基板41、及びノズル形成基板42からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤により接合して一体化することにより作製されており、共通インク室43(共通液体室)からインク供給口44及び圧力室45を通りノズル46に至るまでの一連のインク流路(本発明における液体流路に相当)を形成する部材である。圧力室45は、ノズル46の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。また、共通インク室43は、ケース流路23′と連通し、インク導入針17側からのインクが導入される室である。そして、この共通インク室43に導入されたインクは、インク供給口44を通じて各圧力室45に分配供給される。
【0034】
流路ユニット24の底部に配置されるノズル形成基板42は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル46を列状に開設した金属製の薄い板材である。本実施形態のノズル形成基板42は、ステンレス鋼の板材によって作製され、ノズル46の列が、記録ヘッド3の走査方向に複数並べて設けられている。
【0035】
ノズル形成基板42と封止板40との間に配置される流路形成基板41は、インク流路となる流路部、具体的には、共通インク室43、インク供給口44、及び、圧力室45となる空部が区画形成された板状の部材である。本実施形態において、流路形成基板41は、結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。
【0036】
ノズル形成基板42とは反対側の流路形成基板41の上面に配置される封止板40は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この封止板40の圧力室45に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子34の自由端部の先端面を接合するための島部47が形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この封止板40は、圧電振動子34の作動に応じて島部47の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、封止板40は、流路形成基板41の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部48としても機能する。このコンプライアンス部48に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0037】
そして、この記録ヘッド3において、上記駆動基板18からフレキシブルケーブル22を通じて圧電振動子34に駆動信号が印加されると、この圧電振動子34が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部47が圧力室45に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室45の容積が変化し、圧力室45内のインクに圧力変動が生じる。この圧力変動を制御することによってノズル46からインク滴(液滴の一種)が噴射される。
【0038】
次に、インク導入針17の構成について説明する。
図5は、本実施形態におけるインク導入針17および導入針ユニット15の一部の構成を示す要部断面図である。インク導入針17は、内部空間を針流路51とした中空針状の部材であり、例えば、合成樹脂などによって作製されている。このインク導入針17は、内径が一定な円筒部52と、内径が上流側から下流側に向けて拡大した拡径部53を有する。
【0039】
円筒部52は、上記インクカートリッジ7内に挿入される部分であり、その先端部分には、先細り形状に形成された円錐形状の尖端部54が形成されている。この尖端部54には、インク導入針17の外部と針流路51とを連通するインク導入孔55(本発明における液体導入孔に相当)が複数開設されている。即ち、上記したように、円筒部52がインクカートリッジ7の内部に挿入されると、当該カートリッジ内のインクが、インク導入孔55を通じて針流路51内に導入される。拡径部53は、円筒部52の下流側に連続して形成され、上流側(円筒部52側)から下流側(導入針ユニット15側)に向けて次第に拡径する略円錐形状に構成されている。この拡径部53の内部空間は、針流路51の一部として機能する他、上流側フィルター室57としても機能する。
【0040】
導入針ユニット15の上面におけるインク導入針17が取り付けられる部分、即ち、インク導入路21′の入口側開口の周縁部には、導入針配置枠58が形成されている。この導入針配置枠58は、導入針ユニット15の上面に土手状に形成されており、インク導入針17の位置決めを行う部分である。この導入針配置枠58の内側にインク導入針17が配置された状態では、インク導入針17の拡径部53の下端部の周囲が導入針配置枠58によって囲繞される。また、インク導入路21′の入口側開口部には、下流側フィルター室60(本発明におけるフィルター室に相当)が形成されている。下流側フィルター室60は、インク導入路21′側から入口側開口に向けて次第に拡径する状態に形成された部分であり、インク導入路21′の一部を構成している。この下流側フィルター室60の入口側開口の開口面積は、インク導入針17における拡径部53の開口面積と揃えられている。そして、この下流側フィルター室60の入口側開口を塞ぐ状態でフィルター16が取り付けられる。フィルター16は、インクカートリッジ7側からのインクを濾過する部材であり、例えば、金属をメッシュ状に細かく編み込んで形成されている。
【0041】
下流側フィルター室60におけるフィルター16よりも下流側の内壁には、壁厚の途中まで窪んだ状態に形成された空部62が設けられている。また、この空部62の下流側フィルター室60側の開口面は、可撓膜61によって封止されている。この可撓膜61は、気密性および液密性を有する樹脂製または金属製の薄手のフィルムで構成される。したがって、下流側フィルター室60側から空部62へ、或いは、空部62側から下流側フィルター室60へは、液体(インク)や気体が通過できないように構成されている。さらに本実施形態における空部62の可撓膜61とは反対側の面には、大気開放路63の一端が開口している。この大気開放路63は、導入針ユニット15の構造壁を貫通した状態で形成されており、空部62内を外部に大気開放するように構成されている。
【0042】
そして、インク導入針17は、拡径部53の下端開口を、下流側フィルター室60の入口側開口に配置されたフィルター16に対向させる状態で、例えば超音波溶着によって導入針ユニット15の導入針配置枠58内に取り付けられる。これにより、インク導入針17の針流路51とインク導入路21′とがフィルター16を介して液密状態で連通する。
【0043】
本発明に係る記録ヘッド3は、下流側フィルター室60に設けられた可撓膜61によって、流路内のインクに生じた圧力変動を吸収することに特徴を有している。即ち、インクカートリッジ3の交換時などで当該インクカートリッジ3に衝撃が加わったりすることで、記録ヘッド3の流路内のインクの圧力が急激に変化した場合にも、当該圧力変動に応じて可撓膜61が変形することにより、当該圧力変動が吸収される。即ち、記録ヘッド3の流路内の圧力が通常時よりも高くなった場合、可撓膜61が空部62側に向けて変形し、或いは、記録ヘッド3の流路内の圧力が通常時よりも低くなった場合、可撓膜61が下流側フィルター室60側に向けて変形することで、圧力変動が緩和される。これにより、圧力変動がノズル30側に伝わることが抑制され、ノズル30におけるメニスカスに対する悪影響を低減することが可能となる。
また、フィルター16よりも下流側に設けられた可撓膜61の変形により圧力変動を吸収する構成であるため、フィルター16よりも上流側で圧力変動を吸収する構成よりも、ノズル30側への圧力変動の伝播がより効果的に抑制される。さらに、圧力制御弁によって空気層を大気開放することで衝撃を緩和する従来の構成と比較してより急激な圧力変動にも対応することができる。そして、本実施形態においては、空部62が設けられているので、可撓膜61の変形代が確保されており、可撓膜61の変形が阻害されることなく、圧力変動をより確実に吸収することができる。さらに、空部62が大気開放された構成であるため、可撓膜61の変形がより円滑となり、圧力変動がさらに効果的に吸収される。
【0044】
ところで、インクカートリッジ7に対してインク導入針17が挿抜される際などに、空気(気泡)が針流路51内に入り込むことがある。この気泡は、フィルター16によって上流側フィルター室57内に捕捉されるが、気泡同士が結合することにより次第に大きくなる。上記プリンター1では、定期的にキャッピング機構12を用いてクリーニング動作を行うことで、拡径部53内に収容した気泡を排出するようになっている。
【0045】
このクリーニング動作では、キャップ部材12´をノズル形成面に密着させた状態でポンプユニット13を作動させて通常の記録動作時の数倍の流速のインク流をインク流路内に生じさせ、上流側フィルター室57内の気泡をこのインク流に乗せることでノズル46からヘッド外部に排出する。このときのポンプユニット13の吸引条件(吸引力,吸引時間)は、気泡の排出性を考慮した条件に設定される。
【0046】
ここで、クリーニング動作によって気泡を排出する際に流路内が負圧化されることにより、図5(b)に示すように、下流側フィルター室60の可撓膜61が下流側フィルター室60側に向けて変形することで、流路が狭窄された状態(流路面積を小さくなった状態)となる。これにより、インクの流速が高まり、気泡がフィルター16を通過し易くなるので、従来よりも短時間で効率良く気泡を排出することが可能となる。その結果、一回のクリーニング動作時に消費するインク量を低減することができる。
このように、本発明に係るプリンター1では、下流側フィルター室60に可撓膜61を設けることで、急激な圧力変動を吸収することができることに加え、クリーニング動作における気泡排出性を向上させることができる。このため、プリンターの信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0047】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、空部62に関し、上記実施形態では、大気開放路63によって大気開放された構成を例示したが、これには限られず、大気開放路63によって大気開放されていなくても良い。この場合、可撓膜61が圧力を受けた際に空部62内部の空気層が圧縮または膨張することで、圧力変動が吸収される。
また、可撓膜61自体が外部に露出している構成を採用することも可能である。
【0049】
さらに、図6に示す第2の実施形態のように、フィルター16よりも下流側に設けられた可撓膜61に加えて、フィルター16よりも上流側の上流側フィルター室57の内壁に上流側可撓膜66を設けても良い。この構成によれば、フィルター16の上下の可撓膜61,66の変形により記録ヘッド内部の圧力変動が吸収されるので、ノズル30におけるメニスカスに対する悪影響を一層確実に低減することが可能となる。また、上記のクリーニング動作においても、可撓膜61,66が変形することで流路を狭窄することにより、気泡の排出性がさらに向上する。
【0050】
そして、本発明は、液体貯留部材から液体噴射ヘッドに液体を導入する構成を採用する液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0051】
1…プリンター,3…記録ヘッド,7…インクカートリッジ,12…キャッピング機構,12′…キャップ部材,13…ポンプユニット,15…導入針ユニット,16…フィルター,17…インク導入針,21′…インク導入路,46…ノズル,51…針流路,52…円筒部,53…拡径部,54…先端部,55…インク導入孔,57…上流側フィルター室,60…下流側フィルター室,61…可撓膜,62…空部,63…大気開放路,66…上流側可撓膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された液体をフィルターおよび液体導入路を通じて共通液室に導入し、圧力発生手段の作動によって前記共通液室に通じる圧力室内に圧力変動を生じさせ、当該圧力変動により前記圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体導入路の入口側開口部に、当該液体導入路よりも拡径し、前記フィルターが配置されるフィルター室が設けられ、
当該フィルター室における前記フィルターよりも下流側の内壁に可撓膜が設けられ、
前記液体導入路内の圧力変動に応じて前記可撓膜が変形するように構成されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記フィルター室における前記フィルターよりも下流側の内壁には、フィルター室側とは反対側に窪んだ空部が形成され、
前記可撓膜は、前記空部の開口を封止する状態で設けられたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記空部が大気開放されたことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記フィルター室における前記フィルターよりも上流側の内壁には、上流側可撓膜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
当該液体噴射ヘッドにおけるノズル形成面を封止する封止部材と、
当該封止部材と前記ノズル形成面との間に形成される封止空部内を負圧化することで前記ノズルから液体を吸引する吸引手段と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218198(P2012−218198A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83391(P2011−83391)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】