液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置
【課題】フォトリソプロセスにおいて、配線パターンが正確に形成でき、配線切れ等の配線パターン異常が少なく、信頼性の高い液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体は連通孔38を通じて逃げるが、連通孔38は、接合基板30に形成され、貫通孔33Bの内面に開口部381があるので、貫通孔33B内部のレジストR4を押し上げる可能性が少ない。また、開口部381が、配線パターン35の形成面301にないので、開口部381からの気体の放出による配線パターン35の形成面301のレジストRへの影響が少ない。したがって、塗布したレジストRの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターン35,37が正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常を少なくでき、インクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000の信頼性を向上できる。
【解決手段】熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体は連通孔38を通じて逃げるが、連通孔38は、接合基板30に形成され、貫通孔33Bの内面に開口部381があるので、貫通孔33B内部のレジストR4を押し上げる可能性が少ない。また、開口部381が、配線パターン35の形成面301にないので、開口部381からの気体の放出による配線パターン35の形成面301のレジストRへの影響が少ない。したがって、塗布したレジストRの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターン35,37が正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常を少なくでき、インクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000の信頼性を向上できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関し、特に、インク滴を噴射するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を噴射させるインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録ヘッドとして、ノズル開口に連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成板と、この流路形成板に設けられた圧力素子側に接合され、かつ圧電素子を駆動させる駆動ICが実装される接合基板とを有する構造が知られている。
また、これらのインクジェット式記録ヘッドで、接合基板には、圧力発生室の列間に対応する領域に、圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔が圧力発生室の各列に対応して少なくとも1つずつ設けられているものが知られている。
さらに、接合基板に、圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部
が形成され、駆動ICが実装される配線パターンが形成されているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−53079号公報(4頁〜5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電素子保持部は、その空間が密封されていると、空間内の気体によって圧電素子の性能が低下する。例えば、流路形成基板と接合基板とを接着する際の接着剤に含まれる水分が入り込むと、水分が圧電素子を構成する薄膜間に侵入し、薄膜の剥がれが生じる。
そこで、圧電素子保持部の空間と外部とを連通する連通孔を設ける必要がある。また、駆動ICが実装される配線パターンは、フォトリソプロセスによって、接合基板および梁部上に形成される。
フォトリソプロセス中のレジスト塗布工程および仮焼成工程において、連通孔の位置によっては、塗布したレジストによって連通孔が塞がれる。また、仮焼成時の熱によって膨張した圧電素子保持部の空間内の気体が連通孔等から流出すことによってレジストが破裂、飛散し、レジスト膜厚が不均一になる。
連通孔が塞がれると、圧電素子保持部の空間に閉じ込められた気体によって圧電素子を構成する薄膜に剥がれが生じる。また、レジスト膜厚が不均一になると、レジスト膜厚に応じて決められたその後の露光、現像工程の条件では、配線パターンが正確に形成できず、配線切れ等の配線パターン異常が発生する。したがって、液体噴射ヘッドおよびそれを備えた液体噴射装置の信頼性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
ノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に、振動板を介して前記圧力発生室に対応して設けられた圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧力素子側に接合される接合基板と、前記接合基板上に配設され、前記圧電素子を駆動させる駆動ICと、前記接合基板の前記圧力発生室の列間に対応する領域に、前記圧力発生室の各列間に対応して1つまたは複数設けられ、前記圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔と、前記接合基板の前記圧電素子に対向する領域に形成された、前記圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部と、前記接合基板に、前記駆動ICが実装される配線パターンとを備え、前記圧電素子保持部の空間と前記貫通孔との間に連通孔が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、フォトリソプロセスの仮焼成工程で、熱が加わることによって、圧電素子保持部の空間の気体は膨張し、連通孔を通じて流出するが、連通孔の開口部が、配線パターンの形成面にないので、レジストによって塞がれることがなく、開口部からの気体の放出による配線パターンの形成面のレジストへの影響も少ない。したがって、塗布したレジストの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターンが正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常が少なく、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置の信頼性が向上する。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドであって、前記連通孔は、前記接合基板に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、連通孔は、接合基板に形成され、貫通孔の内面に連通孔の開口部があるので、貫通孔内部のレジストを押し上げる可能性が少ない。
【0009】
[適用例3]
上記に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0010】
この適用例によれば、前述の効果を達成できる液体噴射装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1000の一例を示す概略斜視図である。
図1において、インクジェット式記録装置1000は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
【0012】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を噴射する。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動する。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0013】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を記録シートSに対向する位置に備えている。図では、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bの記録シートS側に位置しており、図示していない。
【0014】
図2に、実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1を示す分解部分斜視図を示した。インクジェット式記録ヘッド1の形状は略直方体であり、図2は、インクジェット式記録ヘッド1の長手方向(図中の白抜き矢印方向)に直交する面で切断した分解部分斜視図である。
また、図3(a)には、インクジェット式記録ヘッド1の部分平面図を、(b)には、(a)におけるA−A断面図を示した。
【0015】
図2および図3において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とコンプライアンス基板40と2つの駆動IC110A,110Bとを備えている。
流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とは、流路形成基板10をノズルプレート20と接合基板30とで挟むように積み重ねられ、接合基板30上には、コンプライアンス基板40が形成されている。また、コンプライアンス基板40上には、駆動IC110A,110Bが実装されている。
【0016】
流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶板からなる。流路形成基板10には、異方性エッチングによって、複数の圧力発生室12が2つの列13をなすように形成されている。ここで、列13は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向(長手方向に直交する方向)に並設されている。圧力発生室12のインクジェット式記録ヘッド1の幅方向の断面形状は台形状で、圧力発生室12は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向に長く形成されている。
【0017】
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部14が形成され、さらに、連通部14と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12に設けられたインク供給路15を介して連通されている。インク供給路15は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部14から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0018】
ノズルプレート20には、各圧力発生室12のインク供給路15とは反対側の端部近傍に、外部と連通するノズル開口21が穿設されている。
なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。
流路形成基板10とノズルプレート20とは、圧力発生室12を異方性エッチングで形成する際のマスクとして用いられた絶縁膜51を介して、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0019】
流路形成基板10のノズルプレート20が固着された面と対向する面には、振動板としての弾性膜50が形成されている。弾性膜50は、熱酸化により形成された酸化膜からなる。
流路形成基板10の弾性膜50上には、酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、白金(Pt)などの金属やルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)などの金属酸化物からなる下電極膜60と、ペロブスカイト構造の圧電体層70と、Au、Irなどの金属からなるの上電極膜80とが形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70および上電極膜80を含む部分をいう。
【0020】
一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体層70を各圧力発生室12にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。
なお、実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。いずれの場合においても、各圧力発生室12に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる弾性膜50および絶縁体膜55(振動板)とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0021】
また、このような各圧電素子300を構成する上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなる引き出し電極としてのリード電極90が接続されており、このリード電極90は、圧力発生室12の列13の間の領域まで延設されている。
【0022】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300を駆動するための駆動IC110A,110Bが実装される接合基板30が接合されている。
接合基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、圧電素子保持部31を有する。圧電素子保持部31は、各圧力発生室12の列13に対応してそれぞれ設けられている。
なお、実施形態では、各圧電素子保持部31は、各圧力発生室12の列13に対応する領域に一体的に設けられているが、圧電素子300毎に独立して設けられていてもよい。
接合基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成する。
【0023】
また、接合基板30には、流路形成基板10の連通部14に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、実施形態では、接合基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の列13に沿って設けられており、流路形成基板10の連通部14と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0024】
さらに、接合基板30の略中央部、すなわち、圧力発生室12の列13間に対向する領域には、各圧力発生室12の列13に対応して接合基板30を厚さ方向に貫通する2つの貫通孔33A,33Bが設けられている。2つの貫通孔33Aの間および2つの貫通孔33Bの間には、梁部34が形成されている。また、貫通孔33Aと33Bとの間にも梁部34Aが形成されている。
延設されたリード電極90は、その先端部が貫通孔33A,33Bの底部に露出している。
なお、梁部34,34Aは、接合基板30と一体的に形成されていることが好ましいが、接合基板30とは別体であってもよい。また、梁部34Aが形成されず、貫通孔33Aと33Bとが一体となって1つの貫通孔を形成していてもよい。
【0025】
接合基板30上には、図示しない外部配線が接続されて駆動信号が供給される配線パターン35が絶縁膜36を介して設けられている。そして、接合基板30の貫通孔33A,33Bの両側、すなわち、圧力発生室12の各列13に対応する領域の配線パターン35上に、各圧電素子300を駆動するための半導体集積回路(IC)である駆動IC110A,110Bがそれぞれ実装され、合計4つの駆動IC110が実装されている。
延設されたリード電極90は、その先端部が貫通孔33A,33B内に露出している。
なお、この梁部34は、接合基板30と一体的に形成されていることが好ましいが、勿論、接合基板30とは別体であってもよい。
【0026】
駆動信号は、例えば、駆動電源信号等の駆動ICを駆動させるための駆動系信号のほか、シリアル信号(SI)等の各種制御系信号を含み、配線パターン35は、それぞれの信号が供給される複数の配線で構成される。そして、実施形態では、この配線パターン35を構成する配線のうちの圧電素子300の共通電極である下電極膜60に接続されて駆動用信号(COM)が供給される共通電極配線としての配線パターン37が、駆動IC110が実装される領域と共に梁部34上に、圧力発生室12の列13に沿って延設されている。この梁部34上に設けられる配線は、配線パターン37に限定されず、シリアル等の信号を供給するための配線を配置してもよい。
【0027】
そして、配線パターン35上に実装された各駆動IC110と各圧電素子300から延設されたリード電極90とは、接合基板30の貫通孔33A,33B内に延設された、例えば、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線120によってそれぞれ電気的に接続されている。また、同様に、配線パターン37と下電極膜60とは、貫通孔33A,33Bの両端部近傍で接続配線120によって電気的に接続されている。
【0028】
接合基板30上には、封止膜41および固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0029】
図4(a)に接合基板30の平面図を、(b)に(a)におけるB−B断面図を示した。
図4において、圧電素子保持部31の空間と貫通孔33A,33Bとの間に連通孔38が4ヶ所形成されている。連通孔38は、接合基板30に形成され、その断面形状は円形である。
連通孔38は、圧電素子保持部31の空間1つに対して1ヶ所形成されて、貫通孔33A,33Bと連通していればよいが、複数形成されてバランス配置されているのが好ましい。
【0030】
このような実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)以下に、連通孔38の形成位置が異なる場合を比較して効果を述べる。
図5に、連通孔39が圧電素子保持部31から接合基板の配線パターン35形成面に設けられた接合基板30を用いて、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図を示した。
図5(a)は、接合基板30の平面図を、(b)は(a)におけるC−C断面図を示している。C−C断面図には、連通孔39の位置を破線で示した。
【0031】
図5において、連通孔39は、圧電素子保持部31から配線パターンの形成面301に向かって屈曲して設けられている。
図5(a)において、連通孔39の配線パターン形成面での開口部391は、接合基板30の外周付近に設けられている。
【0032】
図5(b)において、接合基板30の配線パターン35を形成する面には、配線パターン35に用いる金属の薄膜Fが形成されている。また、配線パターン35の形成面301に対向する面には、保護用のテープTが貼られている。
フォトリソプロセスのレジスト塗布工程において、レジストRを薄膜F上に塗布する。このとき、連通孔39の開口部391は、薄膜F、レジストRによって塞がれる。また、リザーバ部32および貫通孔33A,33Bの内部にもレジストRは侵入する。
【0033】
フォトリソプロセスの仮焼成工程において、連通孔39の開口部391が塞がれていると、熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体がテープTと接合基板30との界面を通して貫通孔33Bに侵入し、気泡Bを生じる。気泡Bは、レジストR1を持ち上げながら膨張し、破裂する(図中実線矢印で飛散の方向を示した)。このとき、レジストR1は噴出、飛散し、厚いレジストR2部分や、レジストR1の膨張の際に貫通孔33Bの開口付近のレジストRが引きずられ、薄いレジストR3部分を生じる。
レジスト膜厚のばらつきの様子は、図に示した様子に限らない。例えば、仮焼成の状態や、貫通孔33Bへのレジストの侵入具合によっても異なる。
また、連通孔39の開口部391から圧電素子保持部31の空間の気体が噴出することで、その周辺のレジストRの膜厚も変化する。
【0034】
図6に、実施形態の接合基板30を用いて、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図4におけるB−B断面図を示した。
フォトリソプロセスの仮焼成工程で、熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体は連通孔38を通じて流出するが、連通孔38の開口部381は、接合基板30に形成され、貫通孔33Bの内面に開口部381があるので、貫通孔33B内部のレジストR4を押し上げる可能性が少ない。また、開口部381が、配線パターン35の形成面301にないので、開口部からの気体の放出による配線パターンの形成面301のレジストRへの影響が少ない。したがって、塗布したレジストRの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターンが正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常を少なくでき、インクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000の信頼性を向上できる。
【0035】
(変形例)
図7は、変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの断面図で、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図である。
図7において、連通孔38Aは、接合基板30に形成された連通孔ではなく、接合基板30に形成された溝であり、図2および図3に示した流路形成基板10と接着されることにより連通孔38Aが形成される。
連通孔38Aを構成する溝の深さは、貫通孔33Bに侵入し、底部に溜まるレジストRの高さより深いと、図中実線矢印で示したように圧電素子保持部31の気体は、レジストRを押し上げることなく貫通孔33Bに流出する。
【0036】
以上、実施形態および変形例を説明したが、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0037】
変形例以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、連通孔の断面形状は、円に限らず楕円、多角形等でもよい。また、連通孔は、屈曲していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態にかかるインクジェット式記録装置を示す概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドを示す分解部分斜視図。
【図3】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの部分平面図、(b)は、(a)におけるA−A断面図。
【図4】(a)は接合基板の平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図。
【図5】(a)は接合基板の平面図、(b)は(a)におけるC−C断面図。
【図6】配線パターンを形成する際の様子を表した図4におけるB−B断面図。
【図7】変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、10…流路形成基板、12…圧力発生室、13…列、21…ノズル開口、30…接合基板、33A,33B…貫通孔、34,34A…梁部、35,37…配線パターン、38,39…連通孔、50…振動板としての弾性膜、90…引き出し電極としてのリード電極、110,110A,110B…駆動IC、300…圧電素子、1000…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関し、特に、インク滴を噴射するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を噴射させるインクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録ヘッドとして、ノズル開口に連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成板と、この流路形成板に設けられた圧力素子側に接合され、かつ圧電素子を駆動させる駆動ICが実装される接合基板とを有する構造が知られている。
また、これらのインクジェット式記録ヘッドで、接合基板には、圧力発生室の列間に対応する領域に、圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔が圧力発生室の各列に対応して少なくとも1つずつ設けられているものが知られている。
さらに、接合基板に、圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部
が形成され、駆動ICが実装される配線パターンが形成されているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−53079号公報(4頁〜5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電素子保持部は、その空間が密封されていると、空間内の気体によって圧電素子の性能が低下する。例えば、流路形成基板と接合基板とを接着する際の接着剤に含まれる水分が入り込むと、水分が圧電素子を構成する薄膜間に侵入し、薄膜の剥がれが生じる。
そこで、圧電素子保持部の空間と外部とを連通する連通孔を設ける必要がある。また、駆動ICが実装される配線パターンは、フォトリソプロセスによって、接合基板および梁部上に形成される。
フォトリソプロセス中のレジスト塗布工程および仮焼成工程において、連通孔の位置によっては、塗布したレジストによって連通孔が塞がれる。また、仮焼成時の熱によって膨張した圧電素子保持部の空間内の気体が連通孔等から流出すことによってレジストが破裂、飛散し、レジスト膜厚が不均一になる。
連通孔が塞がれると、圧電素子保持部の空間に閉じ込められた気体によって圧電素子を構成する薄膜に剥がれが生じる。また、レジスト膜厚が不均一になると、レジスト膜厚に応じて決められたその後の露光、現像工程の条件では、配線パターンが正確に形成できず、配線切れ等の配線パターン異常が発生する。したがって、液体噴射ヘッドおよびそれを備えた液体噴射装置の信頼性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
ノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に、振動板を介して前記圧力発生室に対応して設けられた圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧力素子側に接合される接合基板と、前記接合基板上に配設され、前記圧電素子を駆動させる駆動ICと、前記接合基板の前記圧力発生室の列間に対応する領域に、前記圧力発生室の各列間に対応して1つまたは複数設けられ、前記圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔と、前記接合基板の前記圧電素子に対向する領域に形成された、前記圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部と、前記接合基板に、前記駆動ICが実装される配線パターンとを備え、前記圧電素子保持部の空間と前記貫通孔との間に連通孔が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、フォトリソプロセスの仮焼成工程で、熱が加わることによって、圧電素子保持部の空間の気体は膨張し、連通孔を通じて流出するが、連通孔の開口部が、配線パターンの形成面にないので、レジストによって塞がれることがなく、開口部からの気体の放出による配線パターンの形成面のレジストへの影響も少ない。したがって、塗布したレジストの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターンが正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常が少なく、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置の信頼性が向上する。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドであって、前記連通孔は、前記接合基板に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、連通孔は、接合基板に形成され、貫通孔の内面に連通孔の開口部があるので、貫通孔内部のレジストを押し上げる可能性が少ない。
【0009】
[適用例3]
上記に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0010】
この適用例によれば、前述の効果を達成できる液体噴射装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1000の一例を示す概略斜視図である。
図1において、インクジェット式記録装置1000は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
【0012】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を噴射する。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動する。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0013】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を記録シートSに対向する位置に備えている。図では、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bの記録シートS側に位置しており、図示していない。
【0014】
図2に、実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1を示す分解部分斜視図を示した。インクジェット式記録ヘッド1の形状は略直方体であり、図2は、インクジェット式記録ヘッド1の長手方向(図中の白抜き矢印方向)に直交する面で切断した分解部分斜視図である。
また、図3(a)には、インクジェット式記録ヘッド1の部分平面図を、(b)には、(a)におけるA−A断面図を示した。
【0015】
図2および図3において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とコンプライアンス基板40と2つの駆動IC110A,110Bとを備えている。
流路形成基板10とノズルプレート20と接合基板30とは、流路形成基板10をノズルプレート20と接合基板30とで挟むように積み重ねられ、接合基板30上には、コンプライアンス基板40が形成されている。また、コンプライアンス基板40上には、駆動IC110A,110Bが実装されている。
【0016】
流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶板からなる。流路形成基板10には、異方性エッチングによって、複数の圧力発生室12が2つの列13をなすように形成されている。ここで、列13は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向(長手方向に直交する方向)に並設されている。圧力発生室12のインクジェット式記録ヘッド1の幅方向の断面形状は台形状で、圧力発生室12は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向に長く形成されている。
【0017】
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部14が形成され、さらに、連通部14と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12に設けられたインク供給路15を介して連通されている。インク供給路15は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部14から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0018】
ノズルプレート20には、各圧力発生室12のインク供給路15とは反対側の端部近傍に、外部と連通するノズル開口21が穿設されている。
なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。
流路形成基板10とノズルプレート20とは、圧力発生室12を異方性エッチングで形成する際のマスクとして用いられた絶縁膜51を介して、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0019】
流路形成基板10のノズルプレート20が固着された面と対向する面には、振動板としての弾性膜50が形成されている。弾性膜50は、熱酸化により形成された酸化膜からなる。
流路形成基板10の弾性膜50上には、酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、白金(Pt)などの金属やルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)などの金属酸化物からなる下電極膜60と、ペロブスカイト構造の圧電体層70と、Au、Irなどの金属からなるの上電極膜80とが形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70および上電極膜80を含む部分をいう。
【0020】
一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体層70を各圧力発生室12にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。
なお、実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。いずれの場合においても、各圧力発生室12に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる弾性膜50および絶縁体膜55(振動板)とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0021】
また、このような各圧電素子300を構成する上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなる引き出し電極としてのリード電極90が接続されており、このリード電極90は、圧力発生室12の列13の間の領域まで延設されている。
【0022】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300を駆動するための駆動IC110A,110Bが実装される接合基板30が接合されている。
接合基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、圧電素子保持部31を有する。圧電素子保持部31は、各圧力発生室12の列13に対応してそれぞれ設けられている。
なお、実施形態では、各圧電素子保持部31は、各圧力発生室12の列13に対応する領域に一体的に設けられているが、圧電素子300毎に独立して設けられていてもよい。
接合基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成する。
【0023】
また、接合基板30には、流路形成基板10の連通部14に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、実施形態では、接合基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の列13に沿って設けられており、流路形成基板10の連通部14と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0024】
さらに、接合基板30の略中央部、すなわち、圧力発生室12の列13間に対向する領域には、各圧力発生室12の列13に対応して接合基板30を厚さ方向に貫通する2つの貫通孔33A,33Bが設けられている。2つの貫通孔33Aの間および2つの貫通孔33Bの間には、梁部34が形成されている。また、貫通孔33Aと33Bとの間にも梁部34Aが形成されている。
延設されたリード電極90は、その先端部が貫通孔33A,33Bの底部に露出している。
なお、梁部34,34Aは、接合基板30と一体的に形成されていることが好ましいが、接合基板30とは別体であってもよい。また、梁部34Aが形成されず、貫通孔33Aと33Bとが一体となって1つの貫通孔を形成していてもよい。
【0025】
接合基板30上には、図示しない外部配線が接続されて駆動信号が供給される配線パターン35が絶縁膜36を介して設けられている。そして、接合基板30の貫通孔33A,33Bの両側、すなわち、圧力発生室12の各列13に対応する領域の配線パターン35上に、各圧電素子300を駆動するための半導体集積回路(IC)である駆動IC110A,110Bがそれぞれ実装され、合計4つの駆動IC110が実装されている。
延設されたリード電極90は、その先端部が貫通孔33A,33B内に露出している。
なお、この梁部34は、接合基板30と一体的に形成されていることが好ましいが、勿論、接合基板30とは別体であってもよい。
【0026】
駆動信号は、例えば、駆動電源信号等の駆動ICを駆動させるための駆動系信号のほか、シリアル信号(SI)等の各種制御系信号を含み、配線パターン35は、それぞれの信号が供給される複数の配線で構成される。そして、実施形態では、この配線パターン35を構成する配線のうちの圧電素子300の共通電極である下電極膜60に接続されて駆動用信号(COM)が供給される共通電極配線としての配線パターン37が、駆動IC110が実装される領域と共に梁部34上に、圧力発生室12の列13に沿って延設されている。この梁部34上に設けられる配線は、配線パターン37に限定されず、シリアル等の信号を供給するための配線を配置してもよい。
【0027】
そして、配線パターン35上に実装された各駆動IC110と各圧電素子300から延設されたリード電極90とは、接合基板30の貫通孔33A,33B内に延設された、例えば、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線120によってそれぞれ電気的に接続されている。また、同様に、配線パターン37と下電極膜60とは、貫通孔33A,33Bの両端部近傍で接続配線120によって電気的に接続されている。
【0028】
接合基板30上には、封止膜41および固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0029】
図4(a)に接合基板30の平面図を、(b)に(a)におけるB−B断面図を示した。
図4において、圧電素子保持部31の空間と貫通孔33A,33Bとの間に連通孔38が4ヶ所形成されている。連通孔38は、接合基板30に形成され、その断面形状は円形である。
連通孔38は、圧電素子保持部31の空間1つに対して1ヶ所形成されて、貫通孔33A,33Bと連通していればよいが、複数形成されてバランス配置されているのが好ましい。
【0030】
このような実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)以下に、連通孔38の形成位置が異なる場合を比較して効果を述べる。
図5に、連通孔39が圧電素子保持部31から接合基板の配線パターン35形成面に設けられた接合基板30を用いて、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図を示した。
図5(a)は、接合基板30の平面図を、(b)は(a)におけるC−C断面図を示している。C−C断面図には、連通孔39の位置を破線で示した。
【0031】
図5において、連通孔39は、圧電素子保持部31から配線パターンの形成面301に向かって屈曲して設けられている。
図5(a)において、連通孔39の配線パターン形成面での開口部391は、接合基板30の外周付近に設けられている。
【0032】
図5(b)において、接合基板30の配線パターン35を形成する面には、配線パターン35に用いる金属の薄膜Fが形成されている。また、配線パターン35の形成面301に対向する面には、保護用のテープTが貼られている。
フォトリソプロセスのレジスト塗布工程において、レジストRを薄膜F上に塗布する。このとき、連通孔39の開口部391は、薄膜F、レジストRによって塞がれる。また、リザーバ部32および貫通孔33A,33Bの内部にもレジストRは侵入する。
【0033】
フォトリソプロセスの仮焼成工程において、連通孔39の開口部391が塞がれていると、熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体がテープTと接合基板30との界面を通して貫通孔33Bに侵入し、気泡Bを生じる。気泡Bは、レジストR1を持ち上げながら膨張し、破裂する(図中実線矢印で飛散の方向を示した)。このとき、レジストR1は噴出、飛散し、厚いレジストR2部分や、レジストR1の膨張の際に貫通孔33Bの開口付近のレジストRが引きずられ、薄いレジストR3部分を生じる。
レジスト膜厚のばらつきの様子は、図に示した様子に限らない。例えば、仮焼成の状態や、貫通孔33Bへのレジストの侵入具合によっても異なる。
また、連通孔39の開口部391から圧電素子保持部31の空間の気体が噴出することで、その周辺のレジストRの膜厚も変化する。
【0034】
図6に、実施形態の接合基板30を用いて、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図4におけるB−B断面図を示した。
フォトリソプロセスの仮焼成工程で、熱が加わることによって、圧電素子保持部31の空間の気体は連通孔38を通じて流出するが、連通孔38の開口部381は、接合基板30に形成され、貫通孔33Bの内面に開口部381があるので、貫通孔33B内部のレジストR4を押し上げる可能性が少ない。また、開口部381が、配線パターン35の形成面301にないので、開口部からの気体の放出による配線パターンの形成面301のレジストRへの影響が少ない。したがって、塗布したレジストRの膜厚が均一に保て、その後の工程で、配線パターンが正確に形成され、配線切れ等の配線パターン異常を少なくでき、インクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録装置1000の信頼性を向上できる。
【0035】
(変形例)
図7は、変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの断面図で、フォトリソプロセスによって、配線パターン35を形成する際の様子を表した図である。
図7において、連通孔38Aは、接合基板30に形成された連通孔ではなく、接合基板30に形成された溝であり、図2および図3に示した流路形成基板10と接着されることにより連通孔38Aが形成される。
連通孔38Aを構成する溝の深さは、貫通孔33Bに侵入し、底部に溜まるレジストRの高さより深いと、図中実線矢印で示したように圧電素子保持部31の気体は、レジストRを押し上げることなく貫通孔33Bに流出する。
【0036】
以上、実施形態および変形例を説明したが、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェット式記録装置の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0037】
変形例以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、連通孔の断面形状は、円に限らず楕円、多角形等でもよい。また、連通孔は、屈曲していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態にかかるインクジェット式記録装置を示す概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドを示す分解部分斜視図。
【図3】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの部分平面図、(b)は、(a)におけるA−A断面図。
【図4】(a)は接合基板の平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図。
【図5】(a)は接合基板の平面図、(b)は(a)におけるC−C断面図。
【図6】配線パターンを形成する際の様子を表した図4におけるB−B断面図。
【図7】変形例にかかるインクジェット式記録ヘッドの断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、10…流路形成基板、12…圧力発生室、13…列、21…ノズル開口、30…接合基板、33A,33B…貫通孔、34,34A…梁部、35,37…配線パターン、38,39…連通孔、50…振動板としての弾性膜、90…引き出し電極としてのリード電極、110,110A,110B…駆動IC、300…圧電素子、1000…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成基板と、
前記流路形成基板の一方面側に、振動板を介して前記圧力発生室に対応して設けられた圧電素子と、
前記流路形成基板の前記圧力素子側に接合される接合基板と、
前記接合基板上に配設され、前記圧電素子を駆動させる駆動ICと、
前記接合基板の前記圧力発生室の列間に対応する領域に、前記圧力発生室の各列間に対応して1つまたは複数設けられ、前記圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔と、
前記接合基板の前記圧電素子に対向する領域に形成された、前記圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部と、
前記接合基板に、前記駆動ICが実装される配線パターンとを備え、
前記圧電素子保持部の空間と前記貫通孔との間に連通孔が形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記連通孔は、前記接合基板に形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項1】
ノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室の列を複数備えた流路形成基板と、
前記流路形成基板の一方面側に、振動板を介して前記圧力発生室に対応して設けられた圧電素子と、
前記流路形成基板の前記圧力素子側に接合される接合基板と、
前記接合基板上に配設され、前記圧電素子を駆動させる駆動ICと、
前記接合基板の前記圧力発生室の列間に対応する領域に、前記圧力発生室の各列間に対応して1つまたは複数設けられ、前記圧電素子から引き出される引き出し電極が露出される貫通孔と、
前記接合基板の前記圧電素子に対向する領域に形成された、前記圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を備えた圧電素子保持部と、
前記接合基板に、前記駆動ICが実装される配線パターンとを備え、
前記圧電素子保持部の空間と前記貫通孔との間に連通孔が形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記連通孔は、前記接合基板に形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−172939(P2009−172939A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15892(P2008−15892)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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