説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】製造コストの低減した液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】フッ素樹脂膜33が、少なくとも圧電体30の第2の面320を覆い、振動板52にかけて形成されている。圧電体30の共通電極31および駆動電極32に覆われていない部分は、フッ素樹脂膜33に覆われるか、フッ素樹脂膜33と振動板52とに囲まれており、フッ素樹脂の膜を形成するだけで、外部から圧電体30への浸水を防ぐことができる。したがって、フッ素樹脂の膜形成に必要なフッ素樹脂の量で浸水を防ぐことができ、製造コストの低減したインクジェット式液体噴射ヘッド1の製造方法を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体を備えた液体噴射ヘッド、この液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズル開口から液体を液滴として噴射する液体噴射ヘッドは、例えば、プリンター等の液体噴射装置としての画像記録装置および液晶表示装置のカラーフィルターの製造等に用いられる液体噴射装置等に適用される。
このような液体噴射ヘッドとして、振動板に設けられた圧電振動子を撓み変形させることで圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて、ノズル開口から液滴を噴射させ、記録媒体等の被対象物に液滴を到達させるようにしたものがある。
この液体噴射ヘッドは、圧力室および圧電振動子を備えたアクチュエーターユニットと、ノズル開口や共通液室を備えた流路ユニットとを備えている。この液体噴射ヘッドでは、駆動信号を供給して圧電振動子を駆動させることで圧力室容積を変化させ、圧力室内に貯留された液体に圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を噴射させる。
【0003】
ここで、圧電振動子は個別に駆動端子を有しており、この駆動端子に配線部材の先端部に形成した配線端子が接続され、この配線部材および配線端子を介して駆動回路であるICから駆動信号が供給されるようになっている。この場合の配線部材としては、フィルム状のフレキシブルケーブルが好適に用いられる。
フレキシブルケーブルに形成した貫通孔から、フレキシブルケーブルと圧電振動子との間の隙間にフッ素ゲルを充填し、圧電振動子の上面全体をフッ素ゲルで覆って、浸水による圧電振動子の劣化を防止した液体噴射ヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−207433号公報(7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ素ゲルは、隣り合う駆動端子の間を通過してフレキシブルケーブルと圧電振動子との間の隙間に到達し、かかる隙間を充填する。フッ素ゲルは、圧電振動子の上面全体を覆う以外の隙間にも充填されるため、必要以上のフッ素ゲルを使用することになる。したがって、液体噴射ヘッドの製造コストの低減が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
ノズル開口に連通する圧力室と、前記圧力室の一部を構成する振動板と、前記振動板に形成された第1電極と、前記第1電極上に形成され、前記振動板に対向する第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを有する圧電体と、前記第2の面に形成され、前記第1電極に対向する第2電極と、少なくとも前記第2の面を覆い、前記振動板にかけて、フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解した溶液を塗布して形成されたフッ素樹脂膜とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0008】
この適用例によれば、フッ素樹脂膜が、少なくとも圧電体の第2の面を覆い、振動板にかけて形成されている。圧電体の第1電極および第2電極に覆われていない部分は、フッ素樹脂膜に覆われるか、フッ素樹脂膜と振動板とに囲まれており、フッ素樹脂の膜を形成するだけで、外部から圧電体への浸水が防げる。したがって、フッ素樹脂の膜形成に必要なフッ素樹脂の量で浸水が防げ、製造コストの低減した液体噴射ヘッドが得られる。
また、フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解して塗布するので、膜厚の薄いフッ素樹脂膜が得られ、使用するフッ素樹脂の量が低減する。また、不燃性フッ素溶剤が揮発することによってフッ素樹脂膜が得られ、フッ素樹脂膜を形成する時間が短縮される。したがって、製造コストの低減した液体噴射ヘッドが得られる。
【0009】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記フッ素樹脂膜は、前記第1の面と前記振動板との間には充填されていないことを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、圧電体が変形して、圧電体の第1の面が振動板に近づくときに、第1の面と振動板との間にフッ素樹脂膜が充填されていないので、フッ素樹脂膜によって圧電体の変形が妨げられにくい液体噴射ヘッドが得られる。
【0010】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記フッ素樹脂膜の厚さが、0.1μm以上、10.0μm以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、フッ素樹脂膜の厚さが、0.1μm以上であるので、外部からの浸水を防ぐことができ、フッ素樹脂膜の厚さが、10.0μm以下であるので、フッ素樹脂膜の剛性によって圧電体の変形が妨げられにくい液体噴射ヘッドが得られる。
【0011】
[適用例4]
上記に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0012】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態におけるインクジェット式記録装置の概略構成を示す図。
【図2】インクジェット式液体噴射ヘッドを斜め上方から見た概略分解斜視図。
【図3】ヘッドユニットをX方向に切断し、Y方向から見た概略部分拡大断面図。
【図4】ヘッドユニットをY方向に切断し、X方向から見た概略部分拡大断面図。
【図5】変形例におけるヘッドユニットをX方向に切断し、Y方向から見た概略部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。なお、図面では、説明を分かりやすくするために、一部を省略したり、各構成等を誇張したりして図示している。
【0015】
以下の説明は、実施形態の液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式液体噴射ヘッド1が、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置100に搭載される場合を例に挙げて行う。
【0016】
図1は、インクジェット式記録装置100の概略構成を示す図である。図1中、X方向は、キャリッジ104が移動する主走査方向を示し、Y方向は、記録媒体Pが移送される副走査方向を示している。Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向である。
【0017】
図1において、インクジェット式記録装置100は、インクジェット式液体噴射ヘッド1と、キャリッジ104と、キャリッジ移動機構105と、プラテンローラー106と、インクカートリッジ107とを備えている。
【0018】
インクジェット式液体噴射ヘッド1は、キャリッジ104の記録媒体P側(図1中Z方向下面)に取付けられ、記録媒体Pの表面にインクを液滴として噴射する。
キャリッジ移動機構105は、タイミングベルト108と、駆動プーリー111と、従動プーリー112と、モーター109とを備えている。タイミングベルト108は、キャリッジ104が係止されており、駆動プーリー111と従動プーリー112とに張設されている。駆動プーリー111は、モーター109の出力軸に接続されている。
モーター109が作動すると、キャリッジ104は、インクジェット式記録装置100に架設されたガイドロッド110に案内されて、主走査方向であるX方向に往復移動する。
【0019】
プラテンローラー106は、モーター103から駆動力を受け、記録媒体Pを副走査方向であるY方向に移送する。インクカートリッジ107は、インクを貯留し、キャリッジ104に着脱可能に装着される。インクカートリッジ107は、インクジェット式液体噴射ヘッド1にインクを供給する。
【0020】
インクジェット式記録装置100は、キャリッジ104をキャリッジ移動機構105によりX方向に往復移動させるとともに、記録媒体Pをプラテンローラー106によりY方向に移送させながら、キャリッジ104に取付けられたインクジェット式液体噴射ヘッド1からインクを液滴として噴射することによって、記録用紙等の記録媒体P上に画像等の記録を行うことができる。
【0021】
図2は、インクジェット式液体噴射ヘッド1を斜め上方から見た概略分解斜視図である。
図2において、インクジェット式液体噴射ヘッド1は、図1に示したインクカートリッジ107内に貯留されたインクをインクジェット式液体噴射ヘッド1内部に導入するインク供給針2が複数配設された供給針ユニット3と、アクチュエーターユニット4および流路ユニット5から成るヘッドユニット6とを、ヘッドケース9に備えて概略構成される。
【0022】
また、ヘッドケース9の先端側(供給針ユニット3の接合面とは反対側)には、ヘッドユニット6を保護すると共に、インクを噴射するノズル開口19が形成されたノズル形成基板8を接地電位に調整するための金属製のカバー10が取り付けられるようになっている。
【0023】
供給針ユニット3は、インク供給針2が主走査方向であるX方向に横並びに配設された合成樹脂製の部材である。供給針ユニット3に配設されるインク供給針2の先端部は円錐状に尖っており、図1に示したインクカートリッジ107内に挿入し易くなっている。
また、この先端部には、インク供給針2の内外を連通する導入孔が複数穿設されており、これらの導入孔を通じてインクカートリッジ107内のインクがインクジェット式液体噴射ヘッド1内に導入される。インクジェット式液体噴射ヘッド1は、4種類のインクを吐出可能であるため、供給針ユニット3には、合計4本のインク供給針2が先端を上方に突出した姿勢で形成されている。
【0024】
ヘッドケース9は、供給針ユニット3や配線基板11が取り付けられるベース部12と、ベース部12の底部から下方に向けて延出し、開口面にヘッドユニット6が取り付けられる中空箱体状のケース部13とにより構成されている。
ヘッドケース9のベース部12には、ヘッドユニット6側にインクを供給する収束流路(図示せず)の上部開口14が、供給針ユニット3の各インク供給針2に対応した位置にそれぞれ設けられている。また、ベース部12には、配線基板11を配設するための基板配設部15が形成されている。
ヘッドケース9と供給針ユニット3は、例えば、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂等の合成樹脂によって作製されている。
【0025】
配線基板11は、コネクター16を備えており、このコネクター16には、図1に示したインクジェット式記録装置100本体側からのFFC(フレキシブルフラットケーブル)等の配線ケーブル(図示せず)が装着される。
また、配線基板11には、接続用端子17が形成されており、接続用端子17には、TCP(テープキャリアパッケージ)等のフィルム状のフレキシブルケーブル18が電気的に接続されている。配線基板11は、インクジェット式記録装置100本体側からの駆動信号をFFCを通じて受けると共に、この駆動信号をフレキシブルケーブル18を介してアクチュエーターユニット4に供給する。
【0026】
ヘッドユニット6について、図2、図3および図4を参照して説明する。
図3はヘッドユニット6をX方向に切断し、Y方向から見た概略部分拡大断面図、図4はヘッドユニット6をY方向に切断し、X方向から見た概略部分拡大断面図である。図3および図4に示すX方向、Y方向およびZ方向は、図1および図2に示すX方向、Y方向およびZ方向と同じである。
図2および図3において、ヘッドユニット6は、アクチュエーターユニット4と流路ユニット5を重ね合わせた状態で一体化して構成されている。
【0027】
図3および図4において、アクチュエーターユニット4は、少なくとも、圧力室形成基板50と、振動板52と、蓋部材54と、振動板52に設けられた圧電振動子60とを備えている。
圧力室形成基板50は、振動板52と蓋部材54とにより両面が封止され、複数の圧力室28が形成されている。圧力室28は、ノズル開口19と一対一に対応している。
振動板52に設けられた圧電振動子60は、振動板52を介して圧力室28に対向している。
【0028】
図3において、アクチュエーターユニット4は、各圧力室28に対応して配設された駆動端子39を備えている。駆動端子39には、図2に示したTCP等のフレキシブルケーブル18の一端の端子が電気的に接続され、圧電振動子60は、駆動端子39を介して供給される駆動信号により変形して圧力室28内のインクに圧力変動を生じさせる。
【0029】
圧力室形成基板50には、例えば、厚さ約150μm程度のアルミナやジルコニア(ZrO2)等のセラミックス板が用いられ、圧力室28となる通孔が開設されている。
また、振動板52には、例えば、厚さ約10μm程度のアルミナやジルコニアの薄板が用いられる。
また、蓋部材54には、例えば、アルミナやジルコニア等のセラミックス板からなる。
【0030】
圧力室形成基板50と振動板52と蓋部材54とは、アルミナやジルコニア等のセラミックス板で作製されているため、焼成によって一体に形成されることができる。例えば、グリーンシート(未焼成のシート材)に対して切削や打ち抜き等の加工を施して必要な通孔等を形成し、圧力室形成基板50、振動板52、および蓋部材54の各シート状前駆体を形成する。
【0031】
そして、各シート状前駆体を積層し焼成することにより、各シート状前駆体は一体化されて1枚のセラミックスシートとなる。この場合、各シート状前駆体は一体焼成されるので、特別な接着処理が不要である。また、各シート状前駆体の接合面において高いシール性を得ることもできる。
なお、圧力室形成基板50と、振動板52とおよび蓋部材54は複数の基板から構成されていてもよい。
【0032】
圧電振動子60は、圧電体30と、第1電極としての共通電極31と、第2電極としての駆動電極32とを備えている。
振動板52には共通電極31が形成され、さらにその上に圧電体30が形成されている。圧電体30は、振動板52に対向する第1の面310を備えている。したがって、共通電極31は、第1の面310に設けられている。
また、圧電振動子60の第1の面310に対向する第2の面320には、対向電極である駆動電極32が形成されている。ここで、共通電極31と駆動電極32とは電気的に分離されている。
【0033】
図4では、第2の面320は曲面で、第1の面310とつながっている。したがって、共通電極31と駆動電極32とを電気的に分離するために、共通電極31および駆動電極32は、第1の面310および第2の面320の全面には形成されていない。
圧電体30の第1の面310と振動板52との間で、共通電極31が形成されていない部分には、間隙34が存在している。
【0034】
ここで、駆動電極32が振動板52に形成されていて、共通電極31が駆動電極32の対向電極として、第2の面320に形成されていてもよい。いずれの場合であっても、共通電極31と駆動電極32とで対向電極を構成している。
【0035】
共通電極31および駆動電極32には、例えば、金、白金、ニッケル、イリジウム、などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。
【0036】
圧電体30は、例えば、一般式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、「PZT」と略す。)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下、「PZTN(登録商標)」と略すことがある。)、およびチタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)などが挙げられる。
圧電体30は、ゾルゲル法やCVD法などによって形成することができる。ゾルゲル法においては、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して所定の膜厚にしてもよい。例えば、PZTを形成する場合は、Pb,Zr,Tiを含むゾルゲル溶液を用いて、スピンコート法、印刷法などにより形成することができる。
【0037】
圧電振動子60を覆い、振動板52にかけてフッ素樹脂膜33が形成されている。ここで、圧電振動子60の第1の面310と振動板52との間隙34には、フッ素樹脂膜33は充填されていない。
なお、フッ素樹脂膜33は、圧電振動子60の第1の面310と振動板52との間を充填しない程度であれば、回り込んで第1の面310および振動板52に形成されていてもよい。
また、駆動電極32にマスキング等を施して、フッ素樹脂膜33を駆動電極32に形成しなくてもよいし、駆動電極32の一部に形成してもよい。
【0038】
フッ素樹脂膜33は、フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解した溶液をスプレー、ハケ塗り等することによって得られる。塗布は、アクチュエーターユニット4の段階で行なうのが好ましいが、フレキシブルケーブル18接続前のヘッドユニット6の段階で行なってもよい。塗布膜厚は、0.1μm〜10.0μmが好ましい。
【0039】
溶剤に速乾性のものを用いると、図4に示すように、フッ素樹脂が粒状に形成され、圧電振動子60の第1の面310と振動板52との間隙34に、フッ素樹脂が回り込まない。
また、駆動端子39等のフッ素樹脂膜33を形成しない部分には、マスキング等を施して塗布するとよい。
フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解した溶液としては、例えば、FG−3030(株式会社フロロテクノロジー製)を用いることができる。
ここで、FG−3030を用いて形成したフッ素樹脂膜33の硬さは、鉛筆硬度で5B程度であった。
【0040】
アクチュエーターユニット4における圧電振動子60は、いわゆる撓み振動モードの圧電素子である。そのため、圧電振動子60を駆動し撓み変形させると、圧力室28は、圧電振動子60の撓み振動を受けて収縮、膨張する。ただし、圧電振動子60として、この撓み振動モードに限定されない。
【0041】
以下に、流路ユニット5について説明する。
図3において、流路ユニット5は、ノズル形成基板8と流路形成基板としてのインク室形成基板26と供給口形成基板24とを有する。
【0042】
ノズル形成基板8は、図2に示すように、複数のノズル開口19を有しており、複数のノズル開口19は、Y方向に沿って列状に配設され複数のノズル列を形成している。ノズル形成基板8は、流路ユニット5において、アクチュエーターユニット4の接合面側とは反対側に配置される。
なお、ノズル形成基板8の構成材料としては、例えば、ステンレス製の薄板材が好適に用いられ、プレス加工等により作成される。
【0043】
インク室形成基板26には、インクカートリッジ107側から導入されたインクが供給される複数の液室としてのインク室35とノズル連通口36の一部が形成されている。インク室形成基板26の構成材料としては、例えば、ステンレス製の薄板材が好適に用いられ、プレス加工等により作成される。
【0044】
供給口形成基板24は、ノズル連通口36の一部となり圧力室28からのインクをノズル開口19へ導く連通孔と、オリフィスとして機能する供給側連通口38の一部となりインク室35からのインクを圧力室28へ導く連通孔とが形成されている。
また、供給口形成基板24には、肉厚の薄いコンプライアンス部40が形成されている。コンプライアンス部40は、インク室35にインクが流入する際の圧力急上昇を緩和するために設けられている。
【0045】
供給口形成基板24の構成材料としては、例えば、ステンレス製の薄板材が好適に用いられる。例えば、2枚のステンレス等の不錆鋼等の金属薄板を、接着フィルムを介して積層、接合して形成する。
【0046】
流路ユニット5は、インク室形成基板26の一方の表面にノズル形成基板8を、他方の表面に供給口形成基板24を、シート状接着材70およびギャップ剤80を介して配置し、加圧、加熱することによって、供給口形成基板24、インク室形成基板26、ノズル形成基板8が接合され、一体に作製される。
ギャップ剤80は、微粒子を分散させたペースト状のものを用いることができる。微粒子は、接着材に分散していてもよい。また、微粒子の直径は限定されないが、実施形態においては、数μm〜数十μmのものを用いる。微粒子としては、エポキシ系、ウレタン系、ポリイミド系等の合成樹脂を用いることができる。
なお、シート状接着材70の構成材料としては、例えば、厚み約25μm程度のフィルム状接着材が好適に用いられる。
アクチュエーターユニット4と流路ユニット5ともシート状接着材70およびギャップ剤80を介して配置し、加圧、加熱することによって接合され、一体に作製される。
【0047】
上述の構成を有するインクジェット式液体噴射ヘッド1の噴射動作について、図3を参照して説明する。
インク室形成基板26のインク室35には、図1に示したインクカートリッジ107から図示しないインク供給口を介してインクが供給される。インクカートリッジ107から供給されたインクは、供給側連通口38を経由してアクチュエーターユニット4の圧力室28およびノズル連通口36にも供給される。その結果、インク室35、供給側連通口38、圧力室28、ノズル連通口36、ノズル開口19の開口部までインクが満たされている。
【0048】
アクチュエーターユニット4の圧電振動子60が駆動され撓み変形すると、圧力室28は圧電振動子60の撓み振動を受けて収縮する。圧力室28が収縮すると、圧力室28に収容されているインクが加圧される。このとき、供給側連通口38はオリフィスとして機能するため、インクは、ノズル連通口36の一部となるノズル開口19から液滴として噴射される。また、圧電振動子60の撓み変形が解除されると、圧力室28は膨張する。圧力室28が膨張すると、供給側連通口38を介してインク室35からインクが吸引され、圧力室28にインクが充填される。インク室35には、図示しないインク供給口を介して、インクカートリッジ107からインクが供給される。
【0049】
このように、アクチュエーターユニット4の圧電振動子60が駆動され撓み変形すると、圧力室28は圧電振動子60の撓み振動を受けて収縮、膨張を繰り返し、ノズル開口19からインクを液滴として噴射することができる。
【0050】
浸水に対する圧電体30への影響、劣化の程度は、例えば、温度27℃、湿度80%の環境下で圧電振動子60の動作が保障されることによって確認する。
【0051】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)フッ素樹脂膜33が、少なくとも圧電体30の第2の面320を覆い、振動板52にかけて形成されている。圧電体30の共通電極31および駆動電極32に覆われていない部分は、フッ素樹脂膜33に覆われるか、フッ素樹脂膜33と振動板52とに囲まれており、フッ素樹脂の膜を形成するだけで、外部から圧電体30への浸水を防ぐことができる。したがって、フッ素樹脂の膜形成に必要なフッ素樹脂の量で浸水を防ぐことができ、製造コストの低減したインクジェット式液体噴射ヘッド1を得ることができる。
また、フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解して塗布するので、膜厚の薄いフッ素樹脂膜33が得られ、使用するフッ素樹脂の量を低減できる。また、不燃性フッ素溶剤が揮発することによってフッ素樹脂膜33を得ることができ、フッ素樹脂膜33を形成する時間を短縮できる。したがって、製造コストの低減したインクジェット式液体噴射ヘッド1を得ることができる。
【0052】
(2)圧電体30が変形して、圧電体30の第1の面310が振動板52に近づくときに、第1の面310と振動板52との間にフッ素樹脂膜33が充填されていないので、フッ素樹脂膜33によって圧電体30の変形が妨げられにくいインクジェット式液体噴射ヘッド1を得ることができる。
【0053】
(3)フッ素樹脂膜33の厚さが、0.1μm以上であるので、外部からの浸水を防ぐことができ、フッ素樹脂膜33の厚さが、10.0μm以下であるので、フッ素樹脂膜33の剛性によって圧電体30の変形が妨げられにくいインクジェット式液体噴射ヘッド1を得ることができる。
【0054】
(4)前述の効果を有するインクジェット式記録装置100が得られる。
【0055】
(変形例)
図5に、変形例におけるヘッドユニットをX方向に切断し、Y方向から見た概略部分拡大断面図を示した。
図5において、実施形態と異なる点は、コンプライアンス部40を備えたコンプライアンス基板27が、インク室形成基板26とノズル形成基板8との間に挿入されている。
【0056】
以上に述べた変形例によれば、以下の効果が得られる。
(5)コンプライアンス部40が露出していないので、ヘッドユニット6の状態で、フッ素樹脂膜33を形成しても、コンプライアンス部40にフッ素樹脂が付着しにくくでき、コンプライアンス部40の機能の低下を抑えることができる。
【0057】
上述した実施形態以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、圧電振動子は、共通電極と上下2枚の駆動電極との間に2枚の圧電体層をそれぞれ挟んだ、所謂ダブルチップス方式のものでもよい。
また、図4における圧電体30の断面形状は、実施形態で示した形状に限らず、矩形状、台形状であってもよい。この場合、共通電極31および駆動電極32は、対向する面にそれぞれ形成される。
【0058】
以上の説明では、液体噴射ヘッドとして、インクジェット式液体噴射ヘッド1を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式液体噴射ヘッド、19…ノズル開口、28…圧力室、30…圧電体、31…第1電極としての共通電極、32…第2電極としての駆動電極、33…フッ素樹脂膜、52…振動板、100…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置、310…第1の面、320…第2の面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力室と、
前記圧力室の一部を構成する振動板と、
前記振動板に形成された第1電極と、
前記第1電極上に形成され、前記振動板に対向する第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを有する圧電体と、
前記第2の面に形成され、前記第1電極に対向する第2電極と、
少なくとも前記第2の面を覆い、前記振動板にかけて、フッ素樹脂を不燃性フッ素溶剤に溶解した溶液を塗布して形成されたフッ素樹脂膜とを備えた
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記フッ素樹脂膜は、前記第1の面と前記振動板との間には充填されていない
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記フッ素樹脂膜の厚さが、0.1μm以上、10.0μm以下である
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−101955(P2011−101955A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256780(P2009−256780)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】