説明

液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置

【課題】液体を高密度に噴射し得る液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12が形成された流路形成基板10と、圧力発生室12に圧力変化を生じさせることによりノズル開口21を介してインクを吐出させるよう流路形成基板10の一方面側に配設された圧電素子300と、一方面側に設けられてリード電極90を介して圧電素子300を駆動する駆動回路120とを具備し、駆動回路120には、その上面122に圧電素子300に対応して端子部125を設けると共に上面122から前記一方面に至る傾斜面123を設け、リード電極90を、端子部125から傾斜面123を通って圧電素子300に至るように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に液体噴射ヘッドの高密度化を達成する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通すると共に隔壁により区画された圧力発生室と、延設された隔壁により区画された圧力発生室に連通するインク供給路及びインク供給路に連通する連通路と、連通路に連通すると共に複数の圧力発生室に連通する連通部とが形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接着剤を介して接合されると共に、連通部と共にリザーバの一部を構成するリザーバ部を有する保護基板とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかるリザーバ形成基板を有するインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電素子を駆動する駆動回路は、通常保護基板上に固着してあり、圧電素子との間はワイヤボンディング法により接続配線で接続されている。
【0004】
ところが、ワイヤボディング法による接続では、段差部が大きいこととも相俟って厚さ方向の小型化が難しい。このため、吐出するインク滴の高密度化にも限度がある。さらに、前記駆動回路はインク室等が形成された脆弱な基板上への実装であるため、構造破壊が起こりやすい。
【0005】
そこで、ワイヤボンディング法によらずに駆動回路と圧電素子との間の配線を形成すべく、半導体基板である流路形成基板に半導体プロセスにより直接駆動回路を作り込む方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−272913号公報(図1〜図5、第4〜10頁)
【特許文献2】特開2001−287362号公報(図3、段落〔0039〕参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の如く半導体プロセスで直接駆動回路を作り込む方法では、工程が長く、圧電素子の形成時の条件(例えば焼成温度等)と駆動回路の形成時の条件が異なるので、何れを先に形成しても後工程で形成する圧電素子乃至駆動回路との間での形成条件の調整が難しいという問題を有している。
【0008】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑み、液体を高密度に噴射し得る液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に配設されると共に金属薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程により形成された接続配線を介して前記圧電素子を駆動する駆動回路とを具備し、前記駆動回路には、その上面に前記圧電素子に対応して端子部が設けられると共に該上面から前記流路形成基板の圧電素子が設けられた面に至る傾斜面が設けられ、前記接続配線は、前記端子部から前記傾斜面を通って前記圧電素子の前記上電極に至るように形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、流路形成基板上に駆動回路を設けることで、液体噴射ヘッドを厚さ方向に小型化することができる。更に、ワイヤボンディング法を用いずに、接続配線を介して圧電素子と駆動回路とを接続したので、各接続配線の間隔を可及的に狭めることができる。これにより、液体噴射ヘッドの高集積化を図ることができ、吐出するインク滴の高密度化を容易に図ることができる。また、圧電素子と駆動回路の端子部とを接続する接続配線は、傾斜面を通って形成されている。これにより接続配線は、傾斜面と駆動回路の上面との境界近傍、又は傾斜面と流路形成基板の表面との境界近傍で、緩やかな角度で折れ曲がることになるので、接続配線の切断を防止することができる。
【0011】
ここで、前記駆動回路と前記流路形成基板とは接着剤を介して接合され、前記駆動回路及び前記流路形成基板の少なくとも何れか一方には、他方との接着面に凹部が設けられていることが好ましい。これにより、凹部に余分な接着剤が入り込むため、駆動回路を流路形成基板に密着させることができる。これにより、駆動回路は、流路形成基板から段差無くの連続する傾斜面を有することになるので、段差による接続配線の切断を生じ難くすることができる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に配設されると共に接続配線を介して前記圧電素子を駆動する駆動回路とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、上面に前記圧電素子との接点となる端子部を有する複数の駆動回路となる駆動回路用ウェハの一方面側に、開口から底部に向けて幅が漸減する分割溝を各駆動回路の境界となるようにエッチングにより形成すると共に、前記駆動回路用ウェハを前記分割溝を境界として分割することにより、該分割溝の表面を傾斜面として有する前記複数の駆動回路を形成する工程と、前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に前記駆動回路を配設すると共に、前記駆動回路の前記端子部から前記傾斜面を通って前記圧電素子の前記上電極に至る接続配線を金属薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程により形成する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、傾斜面を有する駆動回路が形成され、圧電素子と駆動回路とを接続する接続配線は、該傾斜面を通るように形成される。これにより、傾斜面には、接続配線を構成する金属が付き易くなるので、十分な厚さの接続配線を形成することができ、傾斜面近傍での接続配線の剥離や切断を防止することができる。さらに、駆動回路は部品としての完成品を流路形成基板に固着されるだけであるので、工程が複雑になることもない。
【0013】
ここで、前記駆動回路用ウェハは、面方位が(100)であるシリコンウェハであり、前記複数の駆動回路を形成する工程では、異方性ウェットエッチングにより前記分割溝を形成することが好ましい。これにより、断面形状がV字状の分割溝が形成される。該分割溝で駆動回路用ウェハを分割すると、凹凸の無い平面状の分割溝の表面が駆動回路用ウェハの傾斜面となる。これにより、接続配線が傾斜面に一層付き易くなる。
【0014】
また、前記複数の駆動回路を形成する工程では、前記分割溝を形成後、前記駆動回路用ウェハの他方面側を前記分割溝に達するまで研削して該分割溝を境界として分割することにより、該分割溝の表面を前記傾斜面として有する前記複数の駆動回路を形成することが好ましい。これにより、駆動回路用ウェハを厚くして剛性を高めた上で、所定のパターンや端子部を形成することができると共に、他方面から研削することにより、所望の厚さの駆動回路を形成することができる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、上記に記載する液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、上述のごとき液体噴射ヘッドが有する効果を液体噴射ヘッドとしても具備させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図2(a)は図1の平面図、図2(b)は図2(a)のA−A´線断面図及び図3は図2(b)の一部を抽出して示す拡大断面図である。
【0017】
これらの図に示すように、流路形成基板10は、本実施形態では板厚方向の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
【0019】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0021】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。また、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、圧電体膜の一例であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び絶縁体膜55が振動板として作用するが、弾性膜50又は絶縁体膜55の何れか一方のみを振動板として設けるようにしてもよい。
【0022】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
【0023】
流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面には、圧電素子300を駆動する駆動回路120が配設されている。駆動回路120の上面122には、各圧電素子300に対応して端子部125がそれぞれ設けられている。また、駆動回路120は、上面122から流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面に至る傾斜面123が設けられている。そして、端子部125から傾斜面123を通って圧電素子300の個別電極である上電極膜80に至る接続配線であるリード電極90が設けられている。リード電極90は、例えば、金(Au)等からなり、金属薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程により形成され、各圧電素子300に対応させて駆動回路120に設けた各端子部125と各上電極膜80との間及び下電極膜60との間を電気的に接続している。また、外部入力端子126は外部からの信号等を取り込むように駆動回路120に設けてある。
【0024】
なお、駆動回路120は回路基板や半導体集積回路(IC)等で好適に形成することができ、傾斜面123の流路形成基板10に対する角度は、5度〜85度であることが好ましい。
【0025】
また、流路形成基板10の駆動回路120との接着面となる領域は絶縁体膜55が除去されている。更に、該領域には、弾性膜50を貫通する貫通部127aが形成され、流路形成基板10の貫通部127aに対向する領域には、該貫通部127aに対応して凹部127bが設けられている。これらの貫通部127a及び凹部127bとから複数の基板側凹部127が構成されている。さらに、本実施形態では、駆動回路120の流路形成基板10側の面にも、複数の回路側凹部128が設けられている。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0027】
保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0028】
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料の面方位(110)のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムからなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料、例えば、ステンレス鋼(SUS)等で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0031】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、駆動回路120が圧電素子300と同じ側の流路形成基板10に配設されているので、保護基板30上に駆動回路120を設ける場合よりも、インクジェット式記録ヘッドを厚さ方向に小型化することができる。
【0032】
更に、ワイヤボンディング法を用いずに、リード電極90を介して圧電素子300と駆動回路120とを接続したので、各リード電極90の間隔を可及的に狭めることができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの高集積化を図ることができ、吐出するインク滴の高密度化を容易に図ることができる。
【0033】
また、圧電素子300と駆動回路120の端子部125とを接続するリード電極90は、傾斜面123を通って形成されている。これによりリード電極90は、傾斜面123と駆動回路120の上面122との境界近傍、又は傾斜面123と流路形成基板10の表面との境界近傍で、緩やかな角度で折れ曲がることになるので、リード電極90の切断を防止することができる。
【0034】
また、本実施形態では、駆動回路120に回路側凹部128を設け、弾性膜50及び流路形成基板10に基板側凹部127を設けたことにより、駆動回路120を流路形成基板10に固着する際に用いられた接着剤121が、回路側凹部128及び基板側凹部127に入り込むことになる。すなわち、駆動回路120と流路形成基板10との間の接着剤121の厚さを薄くすることができる。これにより、駆動回路120は、流路形成基板10から段差無く連続する傾斜面123を有することになるため、段差によるリード電極90の切断を防止することができる。
【0035】
ここで、インクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、図4〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0036】
まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10が複数個一体的に形成されるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。
【0037】
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。
【0038】
次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。なお、下電極膜60は、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを積層したものに限定されず、これらを合金化させたものを用いるようにしてもよい。また、下電極膜60として、白金(Pt)とイリジウム(Ir)の何れか一方の単層として用いるようにしてもよく、さらに、これらの材料以外の金属又は金属酸化物等を用いるようにしてもよい。
【0039】
次に、図5(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板10の全面に形成後、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を構成する。圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
【0040】
また、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いるようにしてもよい。
【0041】
次に、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300と同じ面の絶縁体膜55のうち、駆動回路120を接着する領域をドライエッチングして凹部129を形成する。そして、凹部129に、ウェットエッチングにより基板側凹部127を設ける。本実施形態では、基板側凹部127は、弾性膜50を貫通し、流路形成基板用ウェハ110の一部にまで達している。なお、凹部129の形成は圧電素子300の形成前に形成しておいても良い。ただ、凹部129が機械的な脆弱部となることを考慮すれば圧電素子300を形成した後の方が好適である。
【0042】
次に、図5(c)に示すように、傾斜面123が設けられた駆動回路120を接着剤121を介して凹部129に固定する。このとき、傾斜面123が圧電素子300側となるように駆動回路120を配設する。なお、駆動回路120に傾斜面123を設けることについての詳細は後述する。
【0043】
次に、図6(a)に示すように、例えばスパッタリング法などの金属薄膜形成工程により、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金(Au)からなる薄膜を形成し、その後、フォトリソグラフィ工程により各圧電素子300毎にパターニングして、各圧電素子300から傾斜面123を通って各端子部125との間を電気的に接続するリード電極90を形成する。このように、傾斜面123を通るようにリード電極90を形成したので、傾斜面123上にも、リード電極90を構成する金属が付き易くなるので、十分な厚さのリード電極90を形成することができ、傾斜面123近傍でのリード電極90の剥離や切断を防止することができる。
【0044】
次に、図6(b)に示すように、保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35を介して接着する。ここで、この保護基板用ウェハ130は、保護基板30が複数一体的に形成されたものであり、保護基板用ウェハ130には、リザーバ部31及び圧電素子保持部32が予め形成されている。
【0045】
次に、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
【0046】
次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)を行なうことにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12を形成する。
【0047】
その後は、流路形成基板用ウェハ110表面のマスク膜52を除去し、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0048】
なお、以上に説明した駆動回路120に傾斜面123を設ける方法は特に限定されないが、例えば次のような工程で駆動回路120に傾斜面123を設けることができる。
【0049】
ここで、インクジェット式記録ヘッドの駆動回路の形成について、図8を参照して説明する。なお、図8は、複数の駆動回路となる駆動回路用ウェハの断面図である。
【0050】
図8(a)に示すように、駆動回路用ウェハ200に、圧電素子300を駆動するための所定の回路を形成すると共に、該回路とリード電極90との接点となる端子部125を形成する。また、各駆動回路に外部入力端子126を形成する。なお、駆動回路用ウェハ200は、面方位が(100)のシリコン単結晶基板である。
【0051】
そして、各駆動回路の境界となるように分割溝201を設ける。このとき、分割溝201の開口から底部に向けて幅Lが漸減するように分割溝201を設ける。面方位が(100)のシリコン単結晶基板である駆動回路用ウェハ200を、異方性ウェットエッチングにより分割溝201を形成したため(111)面が露出された分割溝201が形成され、その断面はV字状となる。
【0052】
次に、図8(b)に示すように、駆動回路用ウェハ200の分割溝201とは反対側の面を、分割溝201に達するまで研削する。そして、エッチングにより、研削した面に回路側凹部128を形成する。
【0053】
次に、図8(c)に示すように、分割溝201を境界として、駆動回路用ウェハ200を分割して複数の駆動回路120を形成する。この分割により、分割溝201の表面は、各駆動回路120の傾斜面123となる。
【0054】
このように、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、駆動回路120が圧電素子300と同じ側の流路形成基板10に配設されているので、インクジェット式記録ヘッドを厚さ方向に小型化することができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの高集積化を図ることができ、吐出するインク滴の高密度化を容易に図ることができる。
【0055】
また、上述したように、傾斜面123を通るようにリード電極90を形成したので、傾斜面123上にも、十分な厚さのリード電極90を形成することができ、傾斜面123近傍でのリード電極90の剥離や切断を防止することができる。
【0056】
仮に、駆動回路120の傾斜面が流路形成基板用ウェハ110に対して直角であると、該傾斜面に金属が付着し難く、駆動回路120と圧電素子300とがリード電極90により電気的に接続されない。
【0057】
しかしながら、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、このようなことは無いので、圧電素子300と駆動回路120とを確実に接続するリード電極90を形成することができる。
【0058】
また、駆動回路120は部品としての完成品を凹部129に固着するだけであるので、工程が複雑になることもない。
【0059】
上述の如きインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0060】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、流路形成基板10に基板側凹部127を設け、且つ駆動回路120に回路側凹部128を設けたが、何れか一方のみに凹部を設けてもよい。また、基板側凹部127及び回路側凹部128の形状・個数も特に限定されない。要するに、接着剤121が入り込み得る凹部が設けられていればよい。
【0062】
また、異方性ウェットエッチングにより分割溝201を設けた後に、駆動回路用ウェハ200の分割溝201とは反対側の面を研削し、各駆動回路120に分割したが、必ずしも研削して分割する必要はない。例えば、分割溝201の底部が他方面側に達するまで、異方性ウェットエッチングで分割溝201を形成すれば、分割溝201の形成と分割とを同時に行うことができる。
【0063】
また、駆動回路用ウェハ200に分割溝201を形成する方法としては、異方性ウェットエッチングに限定されない。例えば、等方性ウェットエッチング、ドライエッチング、又は研削により分割溝201を設けてもよい。
【0064】
さらに、上述した実施形態では、流路形成基板10としてシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス基板、MgO基板等においても本発明は有効である。同様に、駆動回路用ウェハ200としてシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス基板、MgO基板等であってもよい。
【0065】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施形態に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】図2(b)の一部を抽出して示す拡大図である。
【図4】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】実施形態に係る駆動回路の形成を示す断面図である。
【図9】実施形態に係るインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 120 駆動回路、 121 接着剤、 123 傾斜面、 125 端子部、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、
該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、
前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に配設されると共に金属薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程により形成された接続配線を介して前記圧電素子を駆動する駆動回路とを具備し、
前記駆動回路には、その上面に前記圧電素子に対応して端子部が設けられると共に該上面から前記流路形成基板の圧電素子が設けられた面に至る傾斜面が設けられ、
前記接続配線は、前記端子部から前記傾斜面を通って前記圧電素子の前記上電極に至るように形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記駆動回路と前記流路形成基板とは接着剤を介して接合され、
前記駆動回路及び前記流路形成基板の少なくとも何れか一方には、他方との接着面に凹部が設けられている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に相対向する領域に設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に配設されると共に接続配線を介して前記圧電素子を駆動する駆動回路とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
上面に前記圧電素子との接点となる端子部を有する複数の駆動回路となる駆動回路用ウェハの一方面側に、開口から底部に向けて幅が漸減する分割溝を各駆動回路の境界となるようにエッチングにより形成すると共に、
前記駆動回路用ウェハを前記分割溝を境界として分割することにより、該分割溝の表面を傾斜面として有する前記複数の駆動回路を形成する工程と、
前記流路形成基板の前記圧電素子が設けられた面に前記駆動回路を配設すると共に、前記駆動回路の前記端子部から前記傾斜面を通って前記圧電素子の前記上電極に至る接続配線を金属薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程により形成する工程とを具備する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記駆動回路用ウェハは、面方位が(100)であるシリコンウェハであり、
前記複数の駆動回路を形成する工程では、異方性ウェットエッチングにより前記分割溝を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記複数の駆動回路を形成する工程では、前記分割溝を形成後、前記駆動回路用ウェハの他方面側を前記分割溝に達するまで研削して該分割溝を境界として分割することにより、該分割溝の表面を前記傾斜面として有する前記複数の駆動回路を形成する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載する液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−166410(P2009−166410A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8811(P2008−8811)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】