説明

液体材料供給装置

【課題】高精度に計量された一定微量の液体材料を供給できる、コンパクトな液体材料供給装置を提供する。
【解決手段】上板11が下板12に接近するように撓んで変形すると、凹部12aの容積が減少し、上板11の変形量に応じた量だけ、吐出路12cから潤滑油が吐出して、軸受1に供給されることとなる。一方、上板11が下板12から離隔するように撓んで変形すると、凹部12aの容積が増大するので、上板11の変形量に応じた量だけ、供給路12bから潤滑油を吸引することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体材料を供給する液体材料供給装置に関し、特に潤滑剤などの液体材料を極微量(例えば10pl〜10μl程度)だけ精度良く供給するのに好適な液体材料供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速回転体等の潤滑面に潤滑剤を供給する従来の潤滑装置としては、オイルエア潤滑装置、オイルミスト潤滑装置、強制潤滑装置等がある。オイルエア潤滑装置は、タンク、ポンプ、分配器、圧縮空気源、プランジャ、ノズルで構成され、プランジャの機械的機構により一定量に調整された潤滑剤滴(0.01〜0.03ml)を空気配管中に吐出し、空気によりノズルまで運び、潤滑面に噴射するものである。
【0003】
又、オイルミスト潤滑装置は、油溜まり、プランジャ、分配器、圧縮空気源、電磁バルブ、ノズルで構成され、潤滑剤を微細な霧状にし、圧縮空気により空気配管中を搬送し、潤滑面に吹き付けるものである。更に、強制潤滑(ジェット潤滑)装置は、潤滑面の超高速な空気の壁を貫通させるため、ポンプで油を高圧にし、ノズル径を細くして噴出速度を速くするものである。
【0004】
しかるに、一般的なオイルエア潤滑装置は、微量の潤滑剤を連続して安定供給することが困難なため、間欠給油せざるを得ず、給油サイクルに応じて軸受温度が上昇するという欠点がある。また、一般的なオイルミスト潤滑装置は、ミストが大気中に飛散するため潤滑面に付着する潤滑剤の量が不確定なうえ、作業環境を悪化させるという欠点がある。そして、これらの潤滑装置は、高圧空気により配管を通して潤滑剤が運ばれるため、潤滑面に付着する油量が不安定であり、騒音の点でも問題がある。さらに、ジェット潤滑装置は、高圧ポンプを必要とするうえ、油量が多いことによる撹拌抵抗の増大を防ぐために排油機構を必要とする。
【0005】
このような潤滑剤の微量調整の困難さを解決した技術として、特許文献1に開示されるものがある。特許文献1に開示される軸受潤滑装置は、潤滑剤貯蔵室の壁に形成されたダイアフラムに振動を付与することにより極少量の潤滑剤を供給する。
【特許文献1】特願2002−213687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された軸受潤滑装置は、潤滑剤貯蔵室に十分な圧力を加圧することが難しいため、目的の潤滑面に潤滑剤を供給することが困難なことがある。又、ダイアフラムを用いているので、構成が大型化すると共に、長期間の使用における耐久性も問題となっている。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、高精度に計量された一定微量の液体材料を供給できる、コンパクトな液体材料供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る液体材料供給装置は、
互いに貼り合わされた2枚の板材と、
少なくとも一方の板材に設けられた高周波振動体と、を有し、
前記板材の貼り合わされる面には、液体材料を貯留するための凹部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体材料供給装置によれば、前記板材の貼り合わされる面には、液体材料を貯留するための凹部が形成されているので、前記板材を貼り合わせることによって液体材料の貯留部が形成され、それによりコンパクトな構成を実現できる。更に、前記高周波振動体が、前記板材に設けられているので、前記高周波振動体により、前記板材を所定の周波数で振動させることで、前記凹部に貯留された液体材料を適量だけ外部へと吐出させることができる。
【0010】
前記2枚の板材は、前記凹部の周囲において接着されていると好ましい。
【0011】
前記板材の剛性を比較したときに、剛性が低い方の板材に前記高周波振動体が貼り付けられ、剛性が高い方の板材に前記凹部が形成されていると好ましい。
【0012】
前記液体は、軸受の潤滑のために用いられる潤滑油であると好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかる液体材料供給装置の概略図である。図2は、供給ユニットの分解斜視図である。本実施の形態では、液体材料を潤滑油としている。
【0014】
図1において、外輪1aと、内輪1bと、両輪間に配置されたボール1cとからなる軸受1の近傍に、潤滑油の供給ユニット10が配置されている。供給ユニット10は、図2に示すように、上板11と、下板12と、高周波振動体であるピエゾ素子13とからなる。下板12の上面には、深さ50μm程度の凹部12aが形成されている。凹部12aには、潤滑油の供給路12bと、それより流路面積の小さな吐出路12cとが接続されて形成されている。凹部12aの容量は、潤滑対象となる軸受1に必要な潤滑油の吐出量を元に設計される。
【0015】
上板11の上面にピエゾ素子13が接着されている。高周波振動体としてのピエゾ素子13は外部から供給される交流電流に応じて変形するものであり、従って高周波電流に応じて振動するが、その構成自体は良く知られているので説明を省略する。上板11の下面は、下板12における凹部12aの周囲における上面に接着されており、凹部12aは供給路12b及び吐出路12cを除いて外部に対して密封されている。
【0016】
図1において、供給ユニット10の吐出路12cは、軸受1のボール1cに対向しており、また供給ユニット10の供給路12bは、ポンプPを介して潤滑油のタンクTに接続されている。ピエゾ素子13には、コントローラCNTから高周波電流が供給されるようになっている。
【0017】
本実施の形態の動作について説明する。図3は、供給ユニット10の動作を説明するための断面図である。図1に示すポンプPを駆動し、供給路12bを介して供給ユニット10の凹部12a内に潤滑油を満たしておく。ここで、ポンプPの加圧力は低いので、それのみで断面積の小さな吐出路12cから潤滑油を吐出させることはできないが、上板11が変形して凹部12a内の潤滑油を押圧したときに、その逆流を生じさせない程度に供給路12b内が加圧されている。なお、ポンプPと供給路12bとの間に、潤滑油の逆流を防止する逆止弁を設けても良い。
【0018】
軸受1の動作と共に、コントローラCNTからピエゾ素子13に高周波電流を供給すると、ピエゾ素子13が振動し、上板11が図3に示すように繰り返し変形する。
【0019】
ここで、図3(a)に示すように、上板11が下板12に接近するように撓んで変形すると、凹部12aの容積が減少し、上板11の変形量に応じた量だけ、吐出路12cから潤滑油が吐出して、軸受1に供給されることとなる。一方、図3(b)に示すように、上板11が下板12から離隔するように撓んで変形すると、凹部12aの容積が増大するので、上板11の変形量に応じた量だけ、供給路12bから潤滑油を吸引することとなる。これを繰り返すことで、ピエゾ素子13の高周波振動に応じた量の潤滑油を、所定のサイクルで軸受1に供給できる。従って、軸受1の回転数が増大すれば、コントローラCNTからピエゾ素子13に供給される電流の周波数を高め、軸受1の回転数が減少すれば、コントローラCNTからピエゾ素子13に供給される電流の周波数を低めるようにすることで、動作に応じた最適な量の潤滑油を供給できる。
【0020】
下板12の凹部12aは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)プロセスを利用して、50μm程度に浅く形成できる。下板12の材料としては、シリコン、シリコン樹脂等のMEMSプロセスに使用される公知の材料を用いることができる。
【0021】
又、上板11と下板12の接着は、接着剤に限らず陽極接合等により接着することもできる。上板11と下板12の材料は潤滑油の濡れ性をよくするため、親油処理を施すことが好ましい。また、吐出路12cを面内に含む上板11と下板12の端面には、油切れをよくするために撥油処理を施すことが好ましい。
【0022】
高周波振動体としては、上述したピエゾ素子、或いは磁歪材料等から好適に選定することができる。磁歪材料を用いる場合は磁歪材料からなる棒体に磁界を印加・除去することで該棒体を伸縮させ、凹部12aを加圧し、潤滑油を吐出することができる。この際、磁界印加用のコイルに接続された制御回路で電流を制御することにより、潤滑油の吐出間隔を制御することができる。上記高周波振動体は、凹部12aが設けられた下板12の下面に取り付けられても良く、或いは上板11,下板12の双方に設けられていても良い。
【0023】
なお、潤滑油の流動性を向上させるため、凹部12aに隣接したヒータ(不図示)により温度制御し、潤滑油の粘度および表面張力を制御してもよい。また、潤滑油の吐出状況をモニタリングするため、吐出路12cの近傍に圧力センサを好適に設置できる。
【0024】
本実施の形態にかかる液体材料供給装置では極微量の潤滑油を扱うため、凹部12aに供給される前に、潤滑油は不図示のフィルタにより異物が除去されていることが好ましい。このフィルタは、潤滑油タンクTと凹部12aとを結ぶ流路中に好適に設置できる。
【0025】
本実施の形態にかかる液体材料供給装置の供給ユニット10は、薄形であるため複数積層させて用いることもできる。この場合、積層させた供給ユニット10の吐出間隔をそれぞれ制御することにより、潤滑油の吐出量および吐出位置を制御することができる。また、各供給ユニット10に異なる種類の潤滑油を供給することにより、複数種類の潤滑油を制御して吐出することができる。或いは、潤滑油と水を制御して吐出することにより、潤滑油により潤滑しながら、水による冷却効果を同時に得ることもできる。
【0026】
本実施の形態にかかる液体材料供給装置に使用することのできる潤滑油は特に限定されないが、例えばパラフィン系鉱物油およびナフテン系鉱物油等の鉱物油、菜種油、ひまわり油、大豆油、綿実油、コーン油、ひまし油等の植物油、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油、シリコン油等の合成潤滑油および水系潤滑油が挙げられる。
【0027】
以下、本発明者の行った試験結果を説明する。供給ユニット10の上板11にはシリコン、下板12には熱酸化膜を形成させたシリコンを用いた。下板12には100nlの容量(2mm×1mm×50μm)を有する凹部12aと、開口部がφ200μmの吐出路12cおよび供給路12bをMEMSプロセスにより一体成型した。MEMSプロセスにおいては、熱酸化膜のエッチング液としてフッ酸緩衝溶液、シリコン基板のエッチング液としてKOHを用いてウェットエッチングを行った。MEMSプロセスにより作成した下板12に上板11を貼り合わせることにより供給ユニット10を作成した。高周波振動体としてはピエゾ素子13を用いた。ピエゾ素子13は上板11の上面に設置した。潤滑油として40℃における勤粘度が11.6mm2/sのジエステルを用い、上記液体材料供給装置による潤滑油吐出試験を行った結果、供給ユニット10より適量の潤滑油が吐出されることを確認した。
【0028】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施の形態にかかる液体材料供給装置の概略図である。
【図2】供給ユニットの分解斜視図である。
【図3】供給ユニット10の動作を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 供給ユニット
11 上板
12 上板
12 下板
12a 凹部
12b 供給路
12c 吐出路
13 ピエゾ素子
CNT コントローラ
P ポンプ
T 潤滑油タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに貼り合わされた2枚の板材と、
少なくとも一方の板材に設けられた高周波振動体と、を有し、
前記板材の貼り合わされる面には、液体材料を貯留するための凹部が形成されていることを特徴とする液体材料供給装置。
【請求項2】
前記2枚の板材は、前記凹部の周囲において接着されていることを特徴とする請求項1に記載の液体材料供給装置。
【請求項3】
前記板材の剛性を比較したときに、剛性が低い方の板材に前記高周波振動体が貼り付けられ、剛性が高い方の板材に前記凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体材料供給装置。
【請求項4】
前記液体は、軸受の潤滑のために用いられる潤滑油であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体材料供給装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−198166(P2007−198166A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15001(P2006−15001)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】