説明

液圧ブレーキ装置

【課題】マスタシリンダと補助液圧源と調圧弁を備えた液圧ブレーキ装置におけるブレーキ操作部材の操作開始時からホイールシリンダ圧が立ち上がるまでの間の操作ストロークを、簡素かつ安価で大型化も回避できる方法で短縮することを課題としている。
【解決手段】マスタシリンダピストン8が、マスタシリンダの圧力室10とブレーキ液を蓄えたリザーバ4との間を連通させる通路23と、その通路23を、自身が前進するときに閉じ、復帰するときに開く開閉弁24と、その開閉弁24よりもリザーバ側で通路23に並列配置にして設ける絞り25及びリザーバ側から圧力室側への液流のみを許容する逆止弁26を備える構造にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用の液圧ブレーキ装置、特に、動力駆動のポンプを含む補助液圧源とその補助液圧源の液圧を調圧して出力する調圧弁を備え、その調圧弁の出力液圧とマスタシリンダの出力液圧をホイールシリンダに供給して制動力を発生させるタイプの液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダに加えて首記の補助液圧源と調圧弁を設けた車両用の液圧ブレーキ装置が、例えば、下記特許文献1に開示されている。その特許文献1の液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダの圧力室に発生させた液圧が車両の第1系統のホイールシリンダに供給され、また、補助液圧源の液圧が調圧弁によりマスタシリンダの出力液圧に応じた値に調圧されて第2系統のホイールシリンダに供給されるようになっている。
【0003】
なお、特許文献1の液圧ブレーキ装置は、前記圧力室のブレーキ液を加圧するマスタシリンダピストンが、ブレーキ操作部材に連結される第1のピストンと、その第1のピストンの外周に軸方向スライド可能に嵌めた第2のピストンとで構成されており、調圧弁からの液圧供給が正常になされるときには、第2のピストンが調圧弁の出力液圧を後端に受けて推力を生じ、その力がマスタシリンダピストンの駆動アシスト力として働く構造になっている。また、調圧弁の出力液圧は、液圧を制御する電磁弁を経由してホイールシリンダに供給されるようになっている。
【特許文献1】特開平9−315288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した構造の液圧ブレーキ装置の場合、マスタシリンダの出力液圧は、ブレーキ操作部材の操作速度の影響を受けず、ブレーキ操作部材の操作ストロークによって決定される。ところが、調圧弁は、マスタシリンダの出力液圧を受けた制御ピストンが出力液圧に応じた位置にスプールを移動させ、そのスプール移動で補助液圧源から供給された液圧を調圧して出力する構造になっており、その動作に液圧制御用電磁弁などの内部の絞り効果の影響が現れるために応答遅れを生じ、ブレーキ操作部材の操作速度が速いと調圧弁を設置した系ではホイールシリンダ圧の昇圧が遅れてホイールシリンダ圧に対するブレーキ操作部材の操作ストロークが長くなる傾向がある。
【0005】
このことは、ブレーキ操作部材の操作速度(ブレーキペダルの踏み込み速度)によってマスタシリンダの出力液圧を導入する系統と調圧弁の出力液圧を導入する系統の液圧バランスが変動することを意味しており、例えば、ブレーキペダルの踏み方によってブレーキの操作フィーリングや効きが変化する。操作フィーリングに関しては、操作初期の空踏み感や後効き感を運転者に与え、また、一方の系統のホイールシリンダ圧の昇圧遅れによってブレーキの効きも悪くなる。
【0006】
なお、その対策として、マスタシリンダの出力液圧に対する調圧弁の出力液圧を高めることが考えられるが、この方法を採ると耐圧性確保のために筐体(シリンダボディ)の肉厚が増加して筐体が大きくなりがちになる。
【0007】
この発明は、ブレーキの応答性並びに効きの向上と操作フィーリング改善のために、前掲の液圧ブレーキ装置におけるブレーキ操作部材の操作開始時からホイールシリンダ圧が立ち上がるまでの間の操作ストロークを、簡素かつ安価で大型化も回避できる方法で短縮することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明においては、圧力室内のブレーキ液をマスタシリンダピストンで加圧してブレーキ操作部材の操作ストロークに応じた液圧を発生させ、その液圧を車両の第1系統のホイールシリンダに向けて出力するマスタシリンダと、補助液圧源の液圧を前記圧力室の液圧に応じた値に調圧して車両の第2系統のホイールシリンダに向けて出力する調圧弁を備えた液圧ブレーキ装置を以下のように改善した。具体的には、マスタシリンダピストンが、前記圧力室とブレーキ液を蓄えたリザーバとの間を連通させる通路と、その通路を、同ピストンが前進するときに閉じ、復帰するときに開く開閉弁とを備えるとともに、前記開閉弁よりもリザーバ側で前記通路に絞りとリザーバ側から圧力室側への液流のみを許容する逆止弁(チェックバルブ)とを並列に設けたものにした。ここで云う並列とは、回路的に並列であることを意味し、構造的には、逆止弁の弁部に絞りを構成したものなども含む。
【0009】
この液圧ブレーキ装置の好ましい態様を以下に列挙する。
(1)前記絞りと逆止弁を、マスタシリンダピストンの前端側外周をシールする第1シール部よりもマスタシリンダピストンの後端側、かつ、前記マスタシリンダピストンの後端側外周をシールする第2シール部よりもマスタシリンダピストンの前端側に配置したもの。
(2)前記マスタシリンダピストンを、前記ブレーキ操作部材に連結する第1のピストンと、その第1のピストンの外周に液密、かつ、軸方向スライド自在に嵌めて後端を前記調圧弁の出力液圧が導入されるパワー室に臨ませるとともに前進時に第1のピストンに係合するようにした第2のピストンとで構成したもの。
(3)前記通路を、前記第1のピストンの前端に開口させて同ピストンの中心部に設ける主孔と、この主孔から前記第1のピストンの外周に抜ける枝孔とで構成して前記第1、第2のピストンの外周にそれぞれ設けられた環状液室経由で前記リザーバに連通させたもの。
(4)前端が前記圧力室に望むスリーブを前記主孔に液密に挿入し、そのスリーブの前端に形成された弁座と、その弁座に接離させる弁体と、その弁体に閉弁力を加える付勢手段とを組み合わせて前記開閉弁を構成したもの。
(5)前記逆止弁を前記スリーブの後方に配置し、この逆止弁の弁体の開弁方向への移動量を前記スリーブの後端で規制するようにしたもの。
(6)前記スリーブに前記逆止弁を内蔵させたもの。
(7)上記(6)の構成に加えて、さらに、前記スリーブの後部外周と前記主孔の内周面との間に隙間を設けてその隙間で前記絞りを構成し、前記逆止弁よりも前記圧力室側において前記スリーブ内から前記隙間に通じる径方向の連絡孔を前記スリーブに設けたもの。(8)前記スリーブの後部内周に設ける弁座と、その弁座との間の通路を開閉する弁体と、その弁体の開弁方向への移動量を規制するストッパとで前記逆止弁を構成したもの。
(9)前記スリーブを本体部とその本体部の後部に連結される筒状キャップとで構成し、前記キャップの内部に、逆止弁を構成する前記弁座、弁体、及びストッパを設けたもの。(10)前記弁体が前記連絡孔の設置部に移動した位置で前記ストッパによる移動規制を受け、その位置で前記連絡孔と前記弁体との間に生じた隙間を介して前記通路の前記弁体を間に挟んだ部分が互いに連通するようにしたもの。
(11)前記枝孔として、第1の枝孔と第2の枝孔をそれぞれ設け、前記絞りを第1の枝孔に、前記逆止弁を第2の枝孔にそれぞれ設置したもの。
(12)前記絞りを、前記逆止弁の弁体又は弁座に形成したもの。
(13)前記逆止弁の弁体は有底筒状を呈し、その弁体の底部に貫通孔を設け、その貫通孔で前記絞りを構成したもの。
(14)前記逆止弁の弁体のシート面に溝を設け、その溝で前記絞りを構成したもの。
(15)前記逆止弁の弁体の外径を弁体組み込み部の内径よりも小さくし、この弁体の外周に前記弁体組み込み部の内周面に案内される摺動ガイドを周方向に間隔をあけて複数設け、前記弁体の外周面と前記摺動ガイドと前記弁体組み込み部の内周面との間にリザーバ側から圧力室側への液流を通す通路を生じさせたもの。
【発明の効果】
【0010】
この発明が改善の対象にしている液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作部材が速い速度で操作されると、前記開閉弁が閉じるまでの間にマスタシリンダピストンに設けた通路を通ってマスタシリンダの圧力室からリザーバに向けてブレーキ液が急速に流れ出す。しかしながら、この発明の液圧ブレーキ装置には、マスタシリンダピストンに設けた通路に絞りと逆止弁が並列配置にして設けられており、このうち逆止弁が通路内に生じる圧力差で閉弁するため、リザーバに向けて流れ出すブレーキ液は必然的に絞りを通り、その場所での絞り効果で前記圧力室内のブレーキ液の流れに抵抗が加えられて単位操作ストローク当たりの圧力室内液圧が高まる。そのために調圧弁の応答性が向上し、マスタシリンダの無効ストロークが短縮されて操作速度の変動に起因したブレーキフィーリングの変化が抑制される。これにより、操作速度が速いときの操作初期の空踏み感や後効き感がなくなる。
【0011】
また、上記(2)の態様のブレーキ装置、即ち、マスタシリンダピストンの駆動アシスト力が得られる液圧ブレーキ装置の場合、マスタシリンダの無効ストロークが短縮されることでその装置の利点である優れた昇圧応答性がブレーキ操作の初期から発揮され、ブレーキの効きが良くなって車両の制動停止距離を短くすることが可能になる。
【0012】
さらに、マスタシリンダの出力液圧に対する調圧弁の出力液圧を高めずにホイールシリンダ圧が立ち上がるまでの間の操作ストロークを短縮することができるので、筐体(シリンダボディ)の厚肉化などを回避できる。これに加えて、センタバルブと称される開閉弁を採用しているマスタシリンダは、圧力室とリザーバとの間を連通させる通路と開閉弁を既に備えているので、絞りと逆止弁を追加するだけでよく、構造の複雑化、大型化、コスト増なども回避される。
【0013】
なお、上記(1)〜(15)の態様の作用・効果は次項で述べる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の液圧ブレーキ装置の実施の形態を添付図面の図1〜図9に基づいて説明する。図1に、第1実施形態の全体構成を示す。図中1は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)、2は入力ロッド、3はシリンダボディ、4はリザーバ、5は液圧制御ユニット、6−1〜6−4は、車両の各車輪に付属させたホイールシリンダである。
【0015】
シリンダボディ3に設けたシリンダ孔3aには、マスタシリンダ7と調圧弁11が組み込まれている(図2を同時参照)。マスタシリンダ7は、マスタシリンダピストン8と、そのピストンを復帰させるスプリング9を有しており、圧力室10内のブレーキ液をマスタシリンダピストン8で加圧して液圧を発生させる。例示のブレーキシステムにおいては、通常制動では、圧力室10に発生した液圧が第1系統(例えば前輪)のホイールシリンダ6−1,6−2に供給される。
【0016】
マスタシリンダピストン8は、軸方向に分割された第1のピストン8−1と、その第1のピストン8−1の外周に軸方向スライド可能に嵌め、かつ、前進時に第1のピストンに係合するようにした第2のピストン8−2とで構成されており、パワー室12に対して調圧弁11から正常に液圧が供給されるときには、第2のピストン8−2がパワー室12に導入された調圧弁の出力液圧を後端に受けて推力を生じ、その力がマスタシリンダピストンの駆動アシスト力として働くものを採用している。
【0017】
調圧弁11は、マスタシリンダ7の出力液圧(圧力室10内の液圧)を受けた制御ピストン13がスプール14を移動させ、補助液圧源15から供給された液圧を調圧して出力する。スプール14は、マスタシリンダ7の出力液圧に応じた位置に移動して弁部を開き、かつ、その弁部の開度を調整する。これにより、補助液圧源15から供給された液圧がマスタシリンダ7の出力液圧に応じた値に調圧されて出力される。その調圧弁の出力液圧は、第2系統のホイールシリンダ6−3,6−4に供給される。
【0018】
例示の補助液圧源15は、液圧制御ユニット5に含ませており、蓄圧器を含むモータ駆動のポンプがその補助液圧源15として用いられている。
【0019】
なお、マスタシリンダピストン8と調圧弁11は、前掲の特許文献1に開示されているものと基本構成が同じであるので、ここでは詳細説明を省く。
【0020】
液圧制御ユニット5は、補助液圧源15のほかに、各ホイールシリンダに付属させた加圧用電磁弁(これは逆止弁を伴う)16及び減圧用電磁弁17と、回路の切り替えや連通状態の切り替えなどを必要に応じて行なう電磁弁18〜20、各系統の液圧を検出する圧力センサ21、逆止弁22などを備えているが、図示の液圧制御ユニット5は一例に過ぎない。これとは異なる回路構成の制御ユニットを用いることもある。
【0021】
第1のピストン8−1には、圧力室10とリザーバ4との間を連通させる通路23と、その通路23を第1のピストン8−1が前進するときに閉じ、復帰するときに開く開閉弁24と、絞り25と、逆止弁26が設けられている(図2、図3を同時参照)。
【0022】
通路23は、第1のピストン8−1の前端(図中左端。右端を後端と考える。他の部品も同様)に開口させて同ピストンの中心部に設けた主孔23aと、その主孔23aから第1のピストン8−1の外周に抜ける枝孔23bとで構成されている。第1のピストン8−1の外周と第2のピストン8−2の内周との間、及び第2のピストン8−2の外周とシリンダ孔3aの内周との間には、軸方向両端が第1シール部S1と第2シール部S2及び第3シール部S3と第4シール部S4によって封止された環状液室27−1,27−2が設けられており、環状液室27−1に枝孔23bが開放し、2つの環状液室27−1、27−2を介して通路23がリザーバ4に連通している。
【0023】
第1のピストン8−1に設けた主孔23aには、図2、図3に示すように、前端を圧力室10に望ませたスリーブ28が液密に挿入されており、そのスリーブ28の前端に形成された弁座24aと、その弁座24aに接離させる弁体24bと、その弁体24bを弁座24aに押しつける付勢手段(スプリング)24cとで前記開閉弁24が構成されている。付勢手段24cの一端は、第1のピストン8−1に取り付けたリテーナ29(図2)に支持されている。また、弁体24bには一体のロッド24dが設けられ、マスタシリンダピストン8と制御ピストン13が復帰終点にある位置でそのロッド24dを介して弁体24bが制御ピストン13に取り付けたリテーナ30(図2)によって開弁位置に保持されるようになっている。図3(a)のδはマスタシリンダ7のアイドルストロークであり、このアイドルストロークがゼロになる位置までマスタシリンダピストン8が前進する(図中左方に押し込まれる)と開閉弁24が閉じ、圧力室10とリザーバ4の連通が遮断される。
【0024】
スリーブ28の後部外周と主孔23aの内周面との間には隙間が設けられており、断面積の小さいその隙間によって絞り25が構成されている。また、スリーブ28の内部に逆止弁26が設けられている。その逆止弁26は、スリーブ28の内周に設けた弁座26aと、その弁座との間に形成される通路を開閉する弁体(図のそれはボールで構成された浮動弁体)26bと、その弁体の開弁方向への移動量を規制するストッパ26cとで構成されており、リザーバ4側から圧力室10側への液流のみを許容する。この逆止弁26よりも圧力室10側においてスリーブ28内から前記隙間(絞り25)に通じる径方向の連絡孔31をスリーブ28に設けている。図8は図3と等価な回路構成であり、この図8からわかるように、絞り25と逆止弁26は並列配置になっている。
【0025】
このように構成した第1実施形態の液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作部材1(図1)が急速に操作されると、弁体26bが圧力室10に生じた液圧を受けて図3(b)に示すように逆止弁26が閉弁し、これにより、圧力室10からリザーバ4に向けて流れるブレーキ液が絞り25を通ってそこで流出抵抗を受け、ブレーキ操作部材の一定量の操作ストロークに対する圧力室10内の液圧が絞りの無いものに比べて高まる。そのために調圧弁の作動が早くなり、マスタシリンダの無効ストロークが短縮されて操作速度の変動に起因したブレーキフィーリングの変化が抑制され、操作速度が速いときの操作初期の空踏み感や後効き感がなくなる。
【0026】
また、マスタシリンダの無効ストロークが短縮されることでマスタシリンダピストンの駆動アシスト力が得られる液圧ブレーキ装置においては優れた昇圧応答性がブレーキ操作の初期から発揮され、ブレーキの効きが良くなって車両の制動停止距離が短縮されるようになる。
【0027】
さらに、運転者によるブレーキ操作がなされていない状態で電子制御装置からの指令に基づく液圧制御が実行されて補助液圧源15がリザーバ4からブレーキ液を吸い込むときには、図3(a)に示すように逆止弁26が開弁し、絞り25をバイパスした形でリザーバ4から圧力室10経由で補助液圧源15にブレーキ液がスムーズに流れて良好な昇圧の応答性が確保される。
【0028】
その他の効果、利点を以下に挙げる。
(a)通路23を第1のピストンに設ける主孔23aと枝孔23bとで構成し、第1のピストンと第2のピストンの外周に設けた環状液室27−1,27−2経由でリザーバ4に連通させて絞り25と逆止弁26を第1シール部S1よりもシリンダ孔3aの入口側(すなわち、マスタシリンダピストン8の後端側)、かつ、第2シール部S2よりもシリンダ孔3aの奥端側(すなわち、マスタシリンダピストン8の先端側)に配置したので、装置の長さ増加が抑えられる。
(b)弁座24aをスリーブ28に設けたので、弁座24aの加工が容易で、スリーブ外周の隙間で絞り25を形成することも可能になる。
(c)逆止弁26をマスタシリンダピストン8の内部に設けたので、シリンダボディ3の内部に逆止弁を設ける態様と比べてブレーキ操作の初期に環状液室27−1,27−2に導入される液圧が低くなり、第1〜第4シール部S1〜S4のシール材の負荷が軽減される。その結果、シール材の耐久性が向上し、第1〜第4シール部S1〜S4の液漏れも起こり難くなる。
(d)逆止弁26をスリーブ28の前端に内蔵させているので、スリーブ28に逆止弁26を予め組み込んでおいてそのスリーブ28を第1のピストン8−1に組み付けることが可能であり、組み付けの簡単化と組み付けの手間の削減が図れる。
(e)絞り25をスリーブ28の外周の隙間で構成したので、第1のピストン8−1の大径化と装置の大径化が抑えられる。
(f)逆止弁26を、弁座26aと、弁体26bと、ストッパ26cとで構成したので、その逆止弁26の簡素化、小型化が図れ、スリーブ28への事前組み付けも簡単に行える。
(g)弁体26bが連絡孔31の設置部に移動した位置でストッパ26cによる移動規制を受けるようにしたので{図3(a)参照}、移動規制位置で連絡孔31と弁体26bとの間に生じた隙間を介して通路23の弁体を間に挟んだ両側部分が互いに連通する。そのため、弁体26bの外径とスリーブ28の内径との間にブレーキ液の通過のための大きな隙間を設ける必要がなく、スリーブ28の大径化回避の効果がより高まる。
【0029】
図4は、この発明を特徴づける絞り25と逆止弁26の他の例を示している。この図4のスリーブ28は、本体部28aとその本体部の後部に取り付ける筒状のキャップ28bとで構成し、キャップ28bの内部に、弁座26aと弁体26bとストッパ26cを設けており、このような構造にすることで逆止弁26を予めユニット化して本体部28aに組み付けることが可能になって組み付け性がさらに良くなる。その他の構成は図3と同じである。第1のピストン8−1に設けた主孔23aにスリーブ28を液密に挿入し、そのスリーブ28の後端に逆止弁26を内蔵させた点、絞り25をスリーブ28の後部外周と主孔23aの内周面との間に設けた隙間で構成した点は図3と共通しており、これらの構成による上述の効果(組み付けの簡単化、手間の削減、装置の大型化の回避など)も期待できる。
【0030】
図5及び図6は、絞り25と逆止弁26のさらに他の例を示している。絞り25は、逆止弁26の弁体26bに形成することができる。図6(a)に示した逆止弁26の弁体26bは、有底筒状を呈し、その弁体26bの底部に貫通孔を設けている。また、その外径を通路23の弁体組み込み部の内径よりも小さくしている。そして、この弁体26bの外周に径方向に張り出した摺動ガイド32を周方向に間隔をあけて複数設けている。
【0031】
摺動ガイド32は、弁体26bを案内するためのガイドであって、通路23の弁体組み
込み部の内周面に案内されて摺動する。
【0032】
この弁体26bを、図5に示すように、スリーブ28の後方に配置し、底部外周のシート面(球面がシール性を確保し易くて好ましい)を第1のピストン8−1の内部に設けた弁座26aに接離させて通路23を通る液流の方向を制御する。図5(b)に示すように、弁体26bの外周面と摺動ガイド32と通路23の内周面との間に通路33が作り出され、図5(b)に矢印で示した順方向の液流は、その通路33を通ってリザーバ側から圧力室側へ流れる。また、図5(a)に示すように、弁体26bが弁座26aに接して逆止弁26が閉弁すると、弁体26bの底部に設けた貫通孔が絞り25として機能し、その絞りによる絞り効果で単位操作ストローク当たりの圧力室内液圧が高まって調圧弁の応答性が向上する。
【0033】
なお、図5の構造では、スリーブ28の後端(図において右端)が弁体26bの開弁方向への移動量を規制する。従って、専用のストッパを設ける必要がなく、構造や加工の簡素化が図れる。また、弁体26bの底部に設けた貫通孔で絞りを構成しているので、図3、図4の構造に比べると絞りの通路面積の精度管理が容易となる利点や、有底筒状の弁体26bを採用したことで弁体の軽量化が図れる利点、さらには、マスタシリンダが作動したときに弁体26bの筒状部分が液流を受けるため、弁体の閉弁動作が敏感になる利点もある。
【0034】
図7は、逆止弁の弁体に設ける絞りを溝で形成した例を示している。この例では、逆止弁26の弁体26bのシート面(弁座26aに接触させる面)に溝を設けてその溝で絞り25を構成しており、このような構造でも図5の構造と同様の効果を得ることができる。
なお、弁体26bは金属製、樹脂製のどちらでもよいが、上述のように弁体26bに溝を形成する態様にあっては、弁体に孔を形成しなくても絞りを構成できるため、特に、金属プレス加工によって弁体26bを製造するようにした場合に、孔あけのためのドリル加工を省くことができ、生産性が著しく向上する。
【0035】
絞り25を溝で構成する場合には、その溝を弁座26aに設けてもよいが、絞りとなす孔や溝は、弁体26bに設置した方が加工性に優れる。
【0036】
このように、絞り25は逆止弁26の弁体や弁座に設けることができ、この構造は装置の小型化や簡素化の効果をもたらす。なお、逆止弁26をスリーブ28の内部に設けるものも、逆止弁の弁体の姿勢がスリーブ28内でほぼ一定に保たれるように工夫すれば、その弁体や弁座に絞り25を形成することができる。
【0037】
図8は、先に述べたように基本回路構成を示す図であるが、この図8に示すように、通路23の枝孔23bを第1の枝孔と第2の枝孔に分け、絞り25を第1の枝孔に、逆止弁26を第2の枝孔にそれぞれ設置する構造も考えられる。図3〜図7で述べたような構造のものが製造し易く、小型化も図り易くて実用面では有利であるが、開閉弁24よりもリザーバ4側においてマスタシリンダピストン8内の通路23に絞り25と逆止弁26を並列配置にして設ければ、ホイールシリンダ圧が立ち上がるまでの操作ストローク短縮の目的は達成される。
【0038】
絞りを構成する溝は逆止弁の弁座に設けることも可能であるが、加工性の面からは弁体に設けるのが有利である。
【実施例】
【0039】
第1のピストン8−1に設けられた通路23に絞り25と逆止弁26を並列配置にして設けた液圧ブレーキ装置(発明品)と、前記通路23に絞りと逆止弁が設けられていない従来の液圧ブレーキ装置(比較例)を実車に搭載して行なったストローク短縮効果の確認試験結果を図9に示す。
【0040】
この試験では、所定の走行速度から急制動をかけて車両が停止するまでのブレーキペダルの操作ストロークと車両減速度の大きさの関係を調べた。図中Iが発明品、IIが比較品の測定データである。この試験結果からわかるように、操作開始から車両減速度が所定値Xに達するまでのブレーキペダルの操作ストロークに明らかな差が生じ、比較品IIに対して発明品Iは約30%のストローク短縮効果が見られた。
【0041】
なお、以上の説明は、マスタシリンダピストンが第1のピストンと第2のピストンの2者で構成された装置を例に挙げて行なったが、この発明の適用範囲は、マスタシリンダピストンが単一のピストンで構成された液圧ブレーキ装置にも及ぶ。
【0042】
また、各実施例では逆止弁26を構成する弁体26bとして、ばねに付勢されない不動弁体を用いたが、これに限らず、弁体を安定動作させるためにその弁体をばねで付勢して弁座に押付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の液圧ブレーキ装置の全体構成の一例を示す図
【図2】図1の装置の要部を拡大して示す断面図
【図3】(a):図2のマスタシリンダピストンの内部の絞りと逆止弁をさらに拡大して示す断面図、(b):同上の逆止弁が閉弁した状態を示す断面図
【図4】(a):マスタシリンダピストンの内部の絞りと逆止弁の他の例を示す断面図、(b):同上の逆止弁が閉弁した状態を示す断面図
【図5】絞りと逆止弁のさらに他の例であり、(a)は逆止弁が閉弁した状態の断面図、(b)は開弁した状態の断面図
【図6】(a):図5の逆止弁の弁体を示す側面図、(b):図5(a)のX−X線に沿った断面図
【図7】逆止弁の弁体のシート面に絞りを形成した例を示す断面図
【図8】マスタシリンダピストンの内部の絞りと逆止弁のさらに他の例を示す断面図
【図9】ブレーキ操作部材のストローク短縮効果の確認試験結果を示す図
【符号の説明】
【0044】
1 ブレーキ操作部材
2 入力ロッド
3 シリンダボディ
3a シリンダ孔
4 リザーバ
5 液圧制御ユニット
−1〜6−4 ホイールシリンダ
7 マスタシリンダ
8 マスタシリンダピストン
−1 第1のピストン
−2 第2のピストン
9 スプリング
10 圧力室
11 調圧弁
12 パワー室
13 制御ピストン
14 スプール
15 補助液圧源
16 加圧用電磁弁
17 減圧用電磁弁
18〜20 電磁弁
21 圧力センサ
22 逆止弁
23 通路
23a 主孔
23b 枝孔
24 開閉弁
24a 弁座
24b 弁体
24c 付勢手段
24d ロッド
25 絞り
26 逆止弁
26a 弁座
26b 弁体
26c ストッパ
27−1,27−2 環状液室
28 スリーブ
28a 本体部
28b キャップ
29、30 リテーナ
31 連絡孔
32 摺動ガイド
33 通路
S1〜S4 第1〜第4シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室(10)内のブレーキ液をマスタシリンダピストン(8)で加圧してブレーキ操作部材(1)の操作ストロークに応じた液圧を発生させ、その液圧を車両の第1系統のホイールシリンダに向けて出力するマスタシリンダ(7)と、補助液圧源(15)の液圧を前記圧力室(10)の液圧に応じた値に調圧して車両の第2系統のホイールシリンダに向けて出力する調圧弁(11)を備えた液圧ブレーキ装置において、
前記マスタシリンダピストン(8)が、
前記圧力室(10)とブレーキ液を蓄えたリザーバ(4)との間を連通させる通路(23)と、その通路(23)を、前記マスタシリンダピストン(8)が前進するときに閉じ、復帰するときに開く開閉弁(24)とを備えるとともに、その開閉弁(24)よりも前記リザーバ(4)側で前記通路(23)に絞り(25)とリザーバ側から圧力室側への液流のみを許容する逆止弁(26)とを並列に設けたことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
前記絞り(25)と逆止弁(26)を、前記マスタシリンダピストン(8)の前端側外周をシールするシール部よりもマスタシリンダピストン(8)の後端側、かつ、前記マスタシリンダピストン(8)の後端側外周をシールするシール部よりも前記マスタシリンダピストン(8)の前端側に配置したことを特徴とする請求項1に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記マスタシリンダピストン(8)を、前記ブレーキ操作部材(1)に連結する第1のピストン(8−1)と、その第1のピストン(8−1)の外周に液密、かつ、軸方向スライド自在に嵌めて後端を前記調圧弁(11)の出力液圧が導入されるパワー室(12)に臨ませるとともに前進時に第1のピストン(8−1)に係合するようにした第2のピストン(8−2)とで構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記通路(23)を、前記第1のピストン(8−1)の前端に開口させて同ピストンの中心部に設ける主孔(23a)と、この主孔(23a)から前記第1のピストン(8−1)の外周に抜ける枝孔(23b)とで構成して前記第1、第2のピストン(8−1,8−2)の外周にそれぞれ設けられた環状液室(27−1,27−2)経由で前記リザーバ(4)に連通させたことを特徴とする請求項3に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
前端が前記圧力室(10)に望むスリーブ(28)を前記主孔(23a)に液密に挿入し、そのスリーブ(28)の前端に形成された弁座(24a)と、その弁座(24a)に接離させる弁体(24b)と、その弁体(24b)に閉弁力を加える付勢手段(24c)とを組み合わせて前記開閉弁(24)を構成したことを特徴とする請求項4に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記逆止弁(26)を前記スリーブ(28)の後方に配置し、この逆止弁(26)の弁体(26b)の開弁方向への移動量を前記スリーブ(28)の後端で規制するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
前記スリーブ(28)に前記逆止弁(26)を内蔵させたことを特徴とする請求項5に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
前記スリーブ(28)の後部外周と前記主孔(23a)の内周面との間に隙間を設けてその隙間で前記絞り(25)を構成し、前記逆止弁(26)よりも前記圧力室(10)側において前記スリーブ(28)内から前記隙間に通じる径方向の連絡孔(31)を前記スリーブ(28)に設けたことを特徴とする請求項7に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項9】
前記スリーブ(28)の後部内周に設ける弁座(26a)と、その弁座(26a)との間の通路を開閉する弁体(26b)と、その弁体(26b)の開弁方向への移動量を規制するストッパ(26c)とで前記逆止弁(26)を構成したことを特徴とする請求項5又は7に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項10】
前記スリーブ(28)の後部内周に設ける弁座(26a)と、その弁座(26a)との間の通路を開閉する弁体(26b)と、その弁体(26b)の開弁方向への移動量を規制するストッパ(26c)とで前記逆止弁(26)を構成したことを特徴とする請求項8に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項11】
前記スリーブ(28)を本体部(28a)とその本体部(28a)の後部に連結される筒状のキャップ(28b)とで構成し、前記キャップ(28b)の内部に、前記弁座(26a)、弁体(26b)、及びストッパ(26c)を設けたことを特徴とする請求項10に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項12】
前記弁体(26b)が前記連絡孔(31)の設置部に移動した位置で前記ストッパ(26c)による移動規制を受け、その位置で前記連絡孔(31)と前記弁体(26b)との間に生じた隙間を介して前記通路(23)の前記弁体(26b)を間に挟んだ両側部分が互いに連通するようにしたことを特徴とする請求項10又は11に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項13】
前記枝孔(23b)として、第1の枝孔と第2の枝孔をそれぞれ設け、前記絞り(25)を第1の枝孔に、前記逆止弁(26)を第2の枝孔にそれぞれ設置したことを特徴とする請求項4に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項14】
前記絞り(25)を、前記逆止弁(26)の弁体(26b)又は弁座(26a)に形成したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項15】
前記逆止弁(26)の弁体(26b)は有底筒状を呈し、その弁体(26b)の底部に
貫通孔を設け、その貫通孔で前記絞り(25)を構成したことを特徴とする請求項14に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項16】
前記逆止弁(26)の弁体(26b)のシート面に溝を設け、その溝で前記絞り(25)を構成したことを特徴とする請求項14に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項17】
前記逆止弁(26)の弁体(26b)の外径を弁体組み込み部の内径よりも小さくし、この弁体(26b)の外周に弁体組み込み部の内周面に案内される摺動ガイド(32)を周方向に間隔をあけて複数設け、前記弁体(26b)の外周面と前記摺動ガイド(32)と前記弁体組み込み部の内周面との間にリザーバ側から圧力室側への液流を通す通路(33)を生じさせたことを特徴とする請求項14乃至16のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−73474(P2009−73474A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160590(P2008−160590)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】