説明

液晶パネルのイオン密度測定方法およびその装置

【課題】 液晶表示パネルのイオン密度を非破壊で測定できるようにする。液晶表示パネルのイオン密度分布を把握できるようにする。
【解決手段】 1Hz程度の低い周波数の矩形波を印加して、フリッカーを観測する(ステップS303)。観測されたフリッカーの振幅又はフリッカー面積を測定する(ステップS308)。予め求めてある検量線(フリッカーの振幅又は面積とイオン密度との相関関係を示す線図)から液晶パネル内のイオン密度を算出する(ステップS309)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示パネル内の不純物イオンの密度(濃度)を測定する方法およびその装置に関し、特に非破壊にて液晶のイオン密度を測定する方法およびその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ネマティック液晶表示パネル中の不純物イオンはパネルの電気的パラメータに直接影響を与えるため、液晶表示パネルの表示不良の原因になったり表示品質の低下原因となる。そのため、工業的な生産作業時においては、検査工程における問題発生と同時に製品の液晶表示パネル内の不純物イオン密度を測定することが求められている。従来の手法としては、パネルを破壊して抽出した液晶内のイオン種や濃度を電気化学的分析手法にて知る方法や、抽出液晶を再注入した評価用セルの電気的な応答を測定してイオン濃度を決定する方法などがある。しかしながら、いずれの手法もパネル破壊を要するために、問題発生からかなりの時間が経過した時点における測定しかできない上、試料作成操作の過程に液晶の再汚染を招きやすく、測定の高精度化が困難である。
【0003】また、液晶表示パネルの表示不良はイオンの液晶表示パネルにおける面内分布の不均一性に起因することが多いため、イオンの面内分布の情報が求められているが、上述したパネルを破壊する手法においては液晶表示パネル面内分布を測定することは不可能である。非破壊にて液晶表示パネル内のイオンに関する情報を得るためには、液晶表示パネルを形成する各画素の電気的な特性をそれぞれ独立に測定することができればよい。イオンに関する情報は印加電圧に対する応答電流波形から導かれることが多いからである。しかしながら、液晶ディスプレイの電気的駆動方法が単純マトリクス型の液晶表示パネルにおいては駆動条件を最適化することにより、ある程度独立した画素のみの応答電流が得られ、イオンに関する情報が得られるであろうが、クロストークによる隣接電極の影響を完全に遮断することはできない。また、薄膜トランジスタ(TFT)駆動方式等にて駆動されているアクティブマトリックス型の液晶表示パネルに至っては、構成回路上、独立に各画素の電気的情報を得ることは非常に困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の不純物イオン密度の測定方法は、液晶表示パネルを破壊して行うものであったため、時間、工数がかかる上に測定精度に問題があった。さらに、従来の測定方法では、液晶表示パネル製造工程管理上重要な情報である面内のイオン分布を知ることができなかった。本願発明の課題は上述した従来技術の問題点を解決することであって、その目的は、第1に、非破壊にて液晶パネルのイオン密度を測定しうるようにすることであり、第2に、イオン密度の面内分布を把握できるようにすることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明によれば、液晶パネルに交番電圧を印加し、その透過光強度のフリッカー波形から液晶内のイオン密度を検出することを特徴とする液晶パネルのイオン密度測定方法、が提供される。そして、好ましくは、イオン密度は透過光強度のフリッカー波形の振幅若しくはフリッカー波形の面積から求められる。また、好ましくは、液晶パネルの部分領域からの透過光の強度が個別に測定され、部分領域毎のイオン密度が求められる。
【0006】また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、液晶パネルを駆動する任意波形発生装置と、液晶パネルに光を照射する光源と、前記液晶パネルを透過する光の強度を観測するエリアイメージセンサと、前記任意波形発生装置および前記エリアイメージセンサの動作を統括する、記憶装置を有する情報処理装置とを備えた液晶パネルのイオン密度測定装置であって、前記エリアイメージセンサの画素毎の検出データを個々に処理することができ前記画素毎にフリッカーを検出することができることを特徴とする液晶パネルのイオン密度測定装置、が提供される。そして、好ましくは、前記エリアイメージセンサの出力波形を監視することのできるオシロスコープがさらに備えられており、前記情報処理装置は前記オシロスコープを介して前記エリアイメージセンサの出力データを収集する。
【0007】
【作用】本発明においては、液晶表示パネル中の不純物イオンに関する情報を得るために、液晶中のイオンが引き起こす透過光強度のフリッカー(ちらつき)に着目する。通常、ネマティック液晶表示パネルの各画素には正負対称な交番電圧が印加され、イオンが存在しない場合は、交番電圧印加における各印加フィールドで等しい電圧が液晶にかかる。この場合、液晶分子は印加電圧の大きさに応じて一定の傾き角を持ったまま変化せず、透過光強度のフリッカーは現れない。而して、現在のところ詳細は明らかではないが、何らかの理由で液晶セル内に内部電圧が生じていることがあり、この場合には、この内部電圧が印加電圧に重なるために、各印加フィールド毎に異なる大きさの電圧が液晶にかかる。例として、誘電異方性が正のネマティック液晶を用いたTNモードがノーマリーホワイトモードの場合、内部電圧と同符号の電圧が印加されたときは液晶にかかる電圧が高くなり、液晶は理想の傾き角よりも大きく傾き透過光強度が低くなる。一方、内部電圧と逆符号の電圧が印加された時は液晶にかかる電圧が低くなり、液晶の傾き角も理想の傾き角よりも小さくなり、透過光強度があがる。これが液晶表示パネルにおけるフリッカーの一例である。このフリッカーの周期(イオンに依存しないフリッカーの周期)は印加電圧周期と同じになっている。
【0008】一方、液晶内に印加電圧周期に追従できる可動イオンが存在する場合、印加フィールド毎にイオンのドリフトによる電場低下が生じて液晶にかかる電圧が時間とともに減衰する。例えば、正電圧が印加されるフィールドにおいては、電圧が印加された瞬間に最も高い電圧が液晶にかかり、液晶はこれに追随して立ち上がる。同時に液晶内のイオンは各々の極性とは逆極性の電極方向へとドリフトを始めているため、液晶にかかる電圧が時間とともに減衰する。この電圧の低下のために液晶はある時間から傾き始める。この液晶の動きに応じて光の透過率もある時間までは低下するがその後は上昇してくる(ノーマリホワイトの場合)。引き続き負電圧が印加されるフィールド内においても同様な現象が起きる。したがって、液晶内に印加周波数に追従できる可動イオンが存在する場合のフリッカーは、印加周波数の2倍の周波数を持つことになる。
【0009】上記のように、フリッカーには印加電圧の周波数依存性があり、イオンが追従できないほどの高い印加周波数においてはフリッカーが消失し、十分追従できる低い周波数領域においては飽和する。したがって、液晶表示パネルに対しイオンが追従できるだけの十分低い周波数域で電圧印加を行い、そのときに発生するフリッカーを観測するならば、液晶内のイオンの存在を液晶表示パネルを破壊することなく確認することができる。そして、このフリッカーの大きさ(フリッカーの振幅等)は、液晶表示パネル内のイオン密度に依存するものであるので、フリッカーの大きさを観測することによって非破壊でイオン密度を知ることができる。しかも、フリッカーの大きさは光の透過するパネル各部の局所的なイオン密度に依存している。換言すれば、パネル面内の各部分の局所的なフリッカーの大きさはパネルのその部分でのイオン密度に依存する。そこで、本発明においては、CCDカメラ等のエリア型のイメージセンサを用いることによって、パネル面内の各部毎のフリッカー情報を収集してこれに基づいて面内各部でのイオン密度を求めている。よって、本発明によれば、液晶パネル面内でのイオン密度分布を認識することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1〜図3は、本発明の実施の形態を示すフローチャートであり、図4は、本発明によるイオン密度測定方法が行われる測定装置の概略を示すブロック図である。図4において、光源41から出射された光は偏光板42を通り、液晶セル44を通過した後、さらに偏光板43を通って光検出器45で検出され、オシロスコープ47に一時的にデータ収集された後、パソコン等の情報処理装置48へと転送され情報処理装置48に付設された記憶装置49に記憶される。液晶セル44への電圧印加は任意波形発生器46により行い、時間に対する電圧値のデータが透過光強度と同時にオシロスコープ47に蓄積されてから情報処理装置48に転送される。これら任意波形発生器46、光検出器45およびオシロスコープの動作は、情報処理装置48により統轄される。また、情報処理装置48の行う処理プログラムは記憶装置49内に格納されている。光源41としては、液晶セル全面を照射する場合には、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、冷陰極管を使用することができ、また液晶セルを局所的に照射する場合には、可視光レーザを用いることができる。光検出器45としては、液晶パネルの全面の平均的光強度を測定する場合には、光強度を測定することができる一般的な光検出器を使用することができるが、液晶セル上の部分的な透過光強度を測定する場合には、CCD(charge coupled device )固体撮像装置等のエリアイメージセンサが用いられる。後者の場合、エリアイメージセンサの画素毎の若しくはグループ分けされた画素毎の検出光のデータが情報処理装置48に収集され、処理される。そして、必要に応じて、液晶セルの光源側または光検出器側のいずれか一方または両方に集光するためのあるいは平行光線を得るためのレンズ系を配置することができる。通常の液晶表示パネルにおいては、偏光板は液晶セルの両面に一体的に固着される。従って、すでに偏光板の固着されている液晶パネルに対して測定を行う場合には、測定装置内に偏光板42、43を配置する必要はない。
【0011】本発明によるイオン密度の測定は、図1に示されるステージI、図2に示されるステージII、図3に示されるステージIII に従って順次行われる。この内、ステージIおよびステージIIは、本発明の測定方法の核心部分をなすステージIIIを実施するための準備段階での手続を示すフローチャートである。従って、ステージIまたはステージIおよびIIによって得られるデータが既に入手されている場合には、ステージIまたはステージIおよびIIの処理を省略することができる。従来より主流のネマティック液晶表示パネルの透過光強度は、印加電圧と透過率の相関を表すグラフ上の透過光強度特性曲線の最も急峻な領域、すなわち中間調電圧付近においてイオンのドリフトの影響を受けやすい。したがって、イオン情報の検出の際に液晶表示パネルに印加する電圧は、電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線の急峻な部分と決定することが測定効率上好ましい。そこで、ステージIにおいては、電圧−透過率曲線の急峻な領域が求められ、フリッカー測定用の印加電圧値と決定される。
【0012】まず、ステップS101において、測定開始電圧が指定され、ステップS102において、指定された電圧での交番電圧が任意波形発生器46より液晶セルに印加され、そのときの透過率が光検出器45により検出され、そのデータは印加電圧とともにオシロスコープ47に取り込まれた後、情報処理装置48に転送される。続いて、ステップS103において、印加電圧が予定された測定終了電圧に達したか否かがチェックされ、達していなければ、ステップS104にて印加電圧を1単位上昇させて、ステップS102に戻る。測定終了電圧に達していれば、ステップS105に移り、求められたV−T(電圧−透過率)特性曲線より、その変化が最も急峻な電圧を測定に使用する印加電圧と決定して処理を終了する(求められたV−T特性曲線の一例を図10に示す)。
【0013】なお、ここで用いる液晶セルは全くイオンを含んでいないものかごく微量のイオンしか含んでいないものが参照用液晶セルとして使用される。また、ステージIにおいて用いられる液晶セルは、製品用のセルの中から選択されたものでもよいが、イオンがドープされないように作製された印加電圧決定用の液晶セルであってもよい。ステージIにて決定された電圧値は、ステージIIおよびステージIII にて使用されることになるが、ステージII、III においては必ずしもステージIで決定された電圧値を厳格に実施する必要はない。中間調表示近辺の電圧値であれば十分である場合が多い。ただし、ステージIIとステージIII とでは、同じ印加電圧を使用する必要がある。
【0014】ステージIIでは、互いに異なるイオン濃度を有する複数枚の検量線作成用液晶セルを用いて検量線が作成される。ステージIIにおいて用いられる液晶セルは、製品用のセルの中から選択されたものでもよいが、予めイオンを含有せしめて作製した検量線作成用の液晶セルであってもよい。まず、ステップS201において、含有不純物イオン濃度の異なる複数枚のイオン汚染液晶セルが準備される。ステップS202では、準備された液晶セルの中の1枚が選択され、ステップS203では例えば1Hzの、ステージIにて求められた電圧値の矩形波が印加され、電圧印加時の透過光強度が、従ってフリッカーが観測される。ここで、印加電圧の周波数として選定された1Hzは、イオン移動が十分に飽和するであろうことを予定して決められたものである。したがって、この目的に適う周波数であれば適宜に変更することができるものである。続いて、ステップS204では、フリッカーが現れなくなる領域、すなわち透過光一定領域が現れるか否かチェックされ、透過光強度一定領域が存在していない場合には、ステップS205に移り、周波数を下げて電圧印加を行いフリッカー測定を行って、ステップS204に戻る。ステップS204にて、透過光一定領域の存在が確認された場合には、ステップS206に移って、フリッカー振幅またはフリッカー面積が求められる。ここで、フリッカー振幅とは、透過光一定領域からみた振れ(の絶対値)の最大値であり、フリッカー面積とは透過光一定を示す水平線とフリッカー波形とによって囲まれた面積のことである。
【0015】次に、ステップS207において、低周波(例えば0.01Hz)の三角波電圧が印加され、そのとき液晶セルを流れる電流が測定される。このときセルを流れる電流はこのセルに含有されているイオンの密度に依存しているため、この電流測定によって液晶セルのイオン密度を知ることができる。よって、ステップS208において、得られた応答電流波形に現れるイオン電流ピークからイオン密度が算出される。次いで、ステップS209にて、準備された液晶セルの全てについて測定が行われたか否かがチェックされ、測定が完了していなければ、ステップS202に戻されて次の液晶セルが選択される。準備された全液晶セルについての測定が完了した場合には、ステップS210にて、検量線が作成される。すなわち、フリッカー振幅またはフリッカー面積とイオン密度の組みが相関図上にプロットされ、検量線が求められる(求められた検量線の一例は図11に示されている)。
【0016】ステージIおよびステージIIにおいて、ステージI用またはステージII用として特別の液晶セルを準備する場合には、単一の画素を持つセルが作製される。アクティブマトリクス液晶表示パネルについての測定を行うための印加電圧と検量線を単一画素のセルを用いて求める場合には、単一画素の液晶セルを疑似アクティブマトリクス動作させることにより、印加電圧と検量線とを求める。疑似アクティブマトリクス動作は、図5(a)に示す回路により行われる。図5(a)において、51は波形発生器、52はインピーダンス変換器、53は液晶セルである。ここで、インピーダンス変換器52は高インピーダンス状態と低インピーダンス状態と交互に繰り返す動作を行って薄膜トランジスタ(TFT)の動作を疑似する。インピーダンス変換器52の入・出力側の信号パターンを図5(b)と図5(c)に示す。また、ステージI、IIにおいて、実際の製品の液晶パネルが用いられる場合には、液晶パネルは全面が同一表示状態に駆動される。この場合に、アクティブマトリクス型パネルに対しては、ステップS102等においてアクティブマトリクス駆動がなされるものとする。
【0017】ステージIII は、本発明の測定方法の核心となる過程であって、図3に示されるフローチャートに従って行われる。まず、ステップS301にて、液晶セル44内に可動性のイオンが存在するかどうか判定される。このときの印加電圧はステージIにて決定されたものであり、また印加周波数は例えば10Hzが用いられるが、この周波数はセルのギャップや目的とするイオンの移動度に応じて適宜変更されるものである。不純物イオンに基づくフリッカーが発生している場合には、図6(a)に示されるように、下部の印加入力電圧に対し、図の上部に示されるように、印加電圧の2倍の周波数のフリッカーが観測される。ステップS302にて、2倍周波数のフリッカーが発生しているか否かが判断され、上記のフリッカーが観測される場合にはステップS303へと進む。上記のフリッカーが観測されない場合、ステップS310へと移行し、印加電圧にDCオフセット電圧を順次変化させて加えるか、パネルの共通電極電位を変化させて上記のフリッカーが観測されるかどうか確認を行う。これはイオン密度が低く、かつ、パネル内部のDC成分が大きい場合にはイオンの移動による影響がパネル内部のDC成分よりも小さくなり、上記フリッカーを見逃す危険性があるためである。図6(b)は内部DCを持つ場合の一例であり、印加電圧に−65mVを加えて内部DCの影響を取り除くと図6(c)のようにイオンのドリフトによるフリッカーのみが現れている。この確認作業によりステップS311で上記フリッカーが観測されなければ、この時点で液晶セル44の測定は終了される。
【0018】フリッカーが検出された場合、ステップS303にて、イオンのドリフトが印加フィールド内で終了するよう、すなわち、印加フィールド内にフリッカー波形が現れた後に透過率が変化しなくなる領域が確認できるように、印加周波数を例えば1Hzと低くしてフリッカーを観測する。なお、既に、不純物イオンに起因するフリッカーが発生していることが分かっている場合には、図中破線にて示されるように、ステップS301、302を経ることなく、ステップS303から開始するものとする。続いて、ステップS304にて、透過光強度が一定となる領域が存在しているか否かが判断され、その領域が確認できない場合には、ステップS305に移って、印加電圧の周波数を低減し、透過光強度が一定となる領域が現れるまでこの動作を続け、透過光強度一定領域の存在が確認された場合には、ステップS306に移る。ステップS306では内部DCの影響を評価する。透過光強度一定領域が図7(a)のように印加電圧の極性によらず一定であれば、内部DCの影響は無いとみなされ、ステップS308へと進み、フリッカー振幅又はフリッカー面積が求められる。図7(a)の場合、印加フィールド内に透過率変化の飽和状態領域71が現れている。ここで、透過率変化の飽和状態領域71の透過率と最小透過率72の差をフリッカー振幅73として定義し測定する。あるいは、フリッカーの飽和状態領域71を示す水平線とフリッカー波形とによって囲まれた面積をフリッカー面積74と定義してこれを測定する。そして、ステップS309にて、予め求めてあるイオン密度とフリッカー振幅(またはフリッカ−面積)との関係を示す検量線からイオン密度を求める。ステップS306で内部DCの影響が確認された場合、すなわち、図7(b)のようなフリッカー波形が得られた場合、正の電圧が印加されたときの透過光強度一定領域の強度75と負の電圧が印加されたときの一定領域76の透過光強度が同じになるように、印加電圧にDCオフセット電圧が順次加えられるか、共通電極の電位が順次変化される。このDCオフセット電圧または共通電極電位の調整により、図7(b)のフリッカー波形は図7(a)のような内部DCの影響を受けていない波形へと変化する。そして、ステップS308、S309へと進み、定量作業へ移行する。
【0019】
【実施例】次に、本発明の実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1の実施例]本実施例ではネマティック液晶のホモジニアス(homogeneous)配向セルに矩形波を印加したときのフリッカー振幅からイオン密度を求める方法について述べる。本実施例で用いた液晶セルは、図8(a)、(b)に示すように作製した。図8に示すように、コーニング7059からなる、3cmx4cmのガラス基板81上に、酸化インジウム錫(ITO)膜を成膜し、1cmx1cmの画素電極82を中央部に形成するとともに引き出し電極83を形成した。電極形成後その上に、ポリアミック酸をスピンコートして90℃で30分の仮焼成を行った後、200℃で1時間本焼成を行いポリイミド配向膜84を形成した。尚、1個のセル組立を行うのに、上記配向膜付き基板を2枚必要とする。ポリアミック酸にはポリ(4、4‘−オキシジフェニレンピロメリットアミック酸)を用いた。また、反射エリプソメータで測定したポリイミド配向膜の膜厚は780Å〜820Åであった。ラビングはレーヨンのロールを用いて回転数800回転/min、押し込み0.6mm、ステージ速度20mm/sの条件で1回行った。ラビング後、2枚のガラス基板81をそれぞれのラビング方向が反対向きとなるように重ね合わせ、直径が6μmのスペーサー粒子を混ぜたエポキシ系接着剤85で固定した。このセルにフッ素系のネマティック液晶86を等方相注入して、紫外線硬化樹脂で封孔を行い、アンチパラレルセル(対向する2面の配向方向が180°異なっているセル)とした。なお、図示されていないが、画素電極を除くガラス基板上には遮光膜が形成されている。このように形成された液晶セルは、図4に示す測定装置に配置されるが、このときの偏光板42、43と配向膜84のラビング方向の関係を図9に示す。図中、偏光板42、43の偏光方向をそれぞれ矢印91、92にて示し、ポリイミド配向膜84のラビング方向を矢印93にて示す。図9に示されるように、偏光板42、43の偏光方向は直交しており、かつその偏光方向はそれぞれラビング方向と45°をなしている。
【0020】上記のように液晶セルを複数作成して、三角波電圧印加の応答電流からイオン密度を求め、イオン電流が確認できないものを電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線測定用の参照用液晶セルとし、イオン電流が認められたものを測定用液晶セルとした。加えて、後述の透過率の振幅からイオン密度を求める際の検量線の作成用に、強制汚染を行った液晶セルを作成した。作成条件は上記と同様であるが、基板を貼り合わせる前にメタノールに浸漬し、浸漬時間を変化させて配向膜表面の汚染レベルの異なる液晶セルを作成し、検量線作成用液晶セルとした。
【0021】初めに、参照用液晶セルの電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線を測定した(図1:ステージI)。すなわち、前述の図4の測定装置を使用し、10Hzの矩形波を0V〜±10Vまで0.1Vステップで任意波形発生器46を用いて印加し、それぞれの電圧値に対する透過光強度を液晶セル表面の一部分または全面に光を照射することにより測定した。しかる後、情報処理装置48は記憶装置49内に格納されているプログラムにより、0V印加時の透過光強度を100%、±10V印加時の透過光強度を0%として透過光強度を透過率に変換した。その結果得られた電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線を図10に示すように作成した。この電圧−透過率特性曲線において電圧の変位に対する透過率変化が最大となる点の電圧をフリッカー測定電圧とした。図10の場合、情報処理装置48により解析させた結果、2.7Vと決定された。
【0022】次に、フリッカー振幅からイオン密度を求めるための検量線を作成した。検量線作成用液晶セルに、±2.7V、1Hzの矩形波電圧を印加してフリッカー振幅を求め(ステージII:ステップS203〜206)、続いて振幅10V、0.01Hzの三角波電圧を印加したときの応答電流からイオン密度を求めた(ステージII:ステップS207、208)。複数の液晶セルを測定した結果得られた検量線を図11に示す。イオン密度は、含まれているイオンが1価で正負イオンとも等量であると仮定して、1cm3当たりの個数で表した。得られた検量線の式は、イオン密度=2.6x1012xフリッカー振幅であった。
【0023】本実施例にて作成した被検定対象の測定用液晶セルは7個で、これらのイオン密度を本発明により測定した。フリッカー測定電圧はすでに2.7Vと決定されている。ステージIII (図3)のフローチャトに従い、まず、±2.7V、10Hzの矩形波を印加し、そのとき現れたフリッカー波形の一例を図12に示す。同図に示すように、フリッカーが印加周波数の2倍の周波数を持つため、可動イオンの存在を確認できた。次に、印加電圧の周波数を1Hzに変えてフリッカー振幅を求めた。このとき得られたフリッカー波形の一例を図13に示す。それぞれのフリッカー振幅から検量線を用いてイオン密度を求めることができた。
【0024】[評価]このようにして求められたイオン密度と、三角波電圧印加時の応答電流から求めたイオン密度とを比較した結果を表1に示す。若干の差はあるものの両者の結果は良く一致しており、本発明がイオン密度測定に有効であることが分かる。
【0025】
【表1】


(単位:×1013個/cm3
【0026】[第2の実施例]本実施例では、以下に示すフリッカーの発生により生じたグラフ上のフリッカー面積より、イオン密度を求める方法について具体的に記す。すなわち、本実施例においては、ステージIIにおいてフリッカー面積の検量線を求めておき、ステージIII にて、この検量線を用いてイオン密度を算出した。本実施例で用いた液晶セルは以下のように作製したツイステッドネマティック(TN)液晶セルであって、配向方向が90°異なる基板間に正の誘電異方性をもつ液晶を挟み込んだことにより、液晶分子の配向方向が90°連続的にねじられている。液晶セルはガラス基板2枚でカイラルネマティック液晶を挟んだサンドイッチ構造である。ガラス基板は3cmx4cmのコーニング7059を用いた。図8に示した第1の実施例の場合と同様に、酸化インジウム錫膜を成膜してガラス基板の中央部に1cmx1cmの画素電極を形成するとともに引き出し電極を形成した。電極形成後その上に、ポリアミック酸をスピンコートして90℃で30分の仮焼成を行った後、230℃で1時間本焼成を行いポリイミド配向膜を形成した。ポリアミック酸にはポリ(4、4‘−オキシジフェニレンピロメリットアミック酸)を用いた。また、反射エリプソメータで測定した配向膜の膜厚は520Åから550Åであった。ラビングはレーヨンのロールを用いて回転数600回転/min、押し込み0.5mm、ステージ速度20mm/sの条件で1回行った。ラビング後、2枚のガラス基板をラビング方向が直交するように重ね合わせ、直径が6μmのスペーサー粒子を混ぜたエポキシ系接着剤で固定した。このセルにフッ素系のカイラルネマティック液晶材料を等方相注入して、紫外線硬化樹脂で封孔を行い、ツイステッドネマティックセルを作製した。このような液晶セルを複数作成して、三角波電圧印加の応答電流からイオン密度を求め、イオン電流が確認できないものを透過光強度特性曲線測定用の参照用液晶セルとし、イオン電流が認められたものを測定用液晶セルとした。
【0027】また、フリッカーにより生じた面積からイオン密度を求める際の検量線の作成用に、強制汚染を行った液晶セルを作成した。作成条件は上記とほぼ同様であるが、基板を貼り合わせる前にメタノールに浸漬し、浸漬時間を変化させて配向膜表面の汚染レベルの異なる液晶セルを作成し、検量線作成用液晶セルとした。測定は、以下のように第1の実施例の場合と同様に行った。初めに、参照用液晶セルの透過光強度を測定し、透過光強度特性曲線を作成した。すなわち、液晶セルを測定装置に設置して、10Hzの矩形波を0V〜±10Vまで0.1Vステップで印加して、それぞれの電圧値に対する透過光強度を液晶表示パネル表面の一部分または全面に光を照射し測定した。その後、記憶装置49に格納されているプログラムにより、0V印加時の透過光強度を100%、±10V印加時の透過光強度を0%として透過光強度を透過率に変換した。その結果得られた透過光強度特性曲線にて横軸を電圧、縦軸を透過率とする透過光強度特性曲線を図14に示すように作成した。この透過光強度特性曲線において電圧の変位に対する透過率変化が最大となる点の電圧をフリッカー測定電圧とした。図14の場合、3.1Vと導かれた。
【0028】次に、フリッカーにより生じた面積からイオン密度を求めるための検量線を作成した。検量線作用液晶セルを用い、図4の装置構成により、図2のステージIIの処理を行った。すなわち、振幅10V、0.01Hzの三角波電圧を印加したときの応答電流からイオン密度を求め、±3.1V、1Hzの矩形波電圧を印加してフリッカー面積を求めた。複数個の液晶セルを測定して得られた検量線を図15に示す。イオン密度は、含まれているイオンが1価で正負イオンとも等量であると仮定して、1cm3当たりの個数で表した。得られた検量線の式は、イオン密度=2.3x1012xフリッカー面積であった。
【0029】次に、図3に示したステージIII のフローチャトにしたがって、±3.1V、10Hzの矩形波を印加して、第1の実施例の場合と同様にしてイオンの存在を確認した。次に、印加電圧の周波数を1Hzに変えて、フリッカー波形を測定しフリッカー面積を求めた。発生したフリッカー波形の一例を図16に示す。同図において、フリッカー面積を161にて示す。このフリッカー面積161を用い、先に求めた検量線を参照してイオン密度を算出することができる。
[評価]このようにして求めたイオン密度と、三角波電圧印加時の応答電流から求めたイオン密度と比較した結果を表2に示す。若干の差はあるものの両者の結果はよく一致しており、本発明がイオン密度測定に有効であることがわかる。
【0030】
【表2】


(単位:×1013個/cm3
【0031】[第3の実施例]本実施例では、薄膜トランジスタ(TFT)によって駆動制御される白黒表示のアクティブマトリックス型液晶表示パネル内におけるイオン密度を測定した。本実施例においては、測定電圧は中間調電圧を用いることとし、ステージIの測定は行わずステージIIの測定は、第2の実施例の同様にして作製した液晶セルを用い(但し、セルの両面に偏光板を貼り付けたものを使用)、ステージIII においてのみアクティブマトリクス型の液晶パネルを用いた。測定装置の構成は、図17に示されるように、光学系のみを図4に図示された装置から変更し、光学系以外の装置構成は図4と同様にした。被測定の液晶表示パネル170としては、液晶セル171に偏光板172、173が取り付けられたものが用いられる。光源177にはハロゲンランプを使用し、入射側のレンズ174により平行光線に変換し液晶表示パネル170表面の一部分または全面に照射した。出射側のレンズ175で再び集光してCCD検出器176にて検出した。検量線作成用の液晶セルのイオン汚染濃度は、プロセス雰囲気に放置する時間を変更して変化させた。これらの液晶セルのイオン密度を振幅10V、0.01Hzの三角波電圧を印加したときの応答電流から求めた。尚、フリッカー測定は図5(a)に示す回路にて行い、検量線作成時も被験パネル測定時と同条件となるようにした。得られた検量線を図18に示す。検量線の式はイオン密度=3.3x1011xフリッカー振幅であった。この係数は、第1、第2の実施例の場合に比較して約1桁小さくなっている。これは、矩形波印加では液晶セル内の電場変化に応じて電極に電荷が供給されるが、アクティブマトリクス動作での保持期間中においては電極への電荷供給はなく、イオンのドリフトによる電圧降下がより顕著に発生するためであると考えられる。
【0032】測定用の液晶表示パネルとして、通常の製造工程により生産されたものと、薄膜トランジスタ基板と対向基板を貼り合わせる前に、通常よりも長くプロセス雰囲気に放置したものとの2種を用意した。薄膜トランジスタにより各画素へ電荷供給を行う充電時間を100μsとして中間調電圧を印加し、0.4999s間保持させた。図19は、前者の液晶パネルについてこの駆動条件で得られたフリッカー波形の一例である。これにより、該当する領域でのイオン密度は、検量線より約4.5x1012個/cm3 と求められた。図20は、後者の試料(プロセス雰囲気に曝した試料)についてのパネル全面での測定結果である。図20において、黒い領域はイオン密度が1x1012個/cm3 未満で、白い領域はイオン密度が1x1012個/cm3 以上の領域である。図中、白円で囲んだ領域のイオン密度は1.4x1013個/cm3 にも達しており、目視でもコントラストムラが観察できた。本発明が、製品レベルの液晶表示パネル、すなわちアクティブマトリックス型液晶表示パネルの面内のイオン密度分布評価に有効であることが分かった。
【0033】[第4の実施例]本発明のイオン密度測定方法により、アクティブマトリックス型液晶表示パネルの表示焼きつけ不良の検査を行った。測定用のモノクロアクティブマトリクス型液晶パネルは、第3の実施例と同様に、かつ基板を張り合わせる前に第3の実施例の場合より長時間プロセス内に放置を行って、作製した。そして、図21に示す黒と白のパターン表示を、黒表示の部分に±10Vのパルス電圧を充電時間100μs、保持期間を49.9msとして印加し、白表示部分には電圧を印加しないことによって行なった。48時間表示を続けた後、中間調のグレー表示を液晶表示パネル全面に行なったところ、図22に示すようなパターン残りが発生した。
【0034】このパターン残りに伴うイオン密度の変化を測定した。パターン表示を行う前のパネル面内のイオン密度分布を図23に示す。図中、黒い領域はイオン密度が5x1012個/cm3 未満で、白い領域はイオン密度が5x1012個/cm3 以上の領域である。プロセス雰囲気放置時間が長かったためか第3の実施例よりもイオン密度が高く、均一に分布しているのが分かる。48時間のパターン表示を行なった直後のイオン密度分布を図24に示す。黒表示部分のイオン密度が白表示部分に比べて低くなっていることがわかる。このイオン密度の減少は、おそらく、配向膜表面にイオンが吸着したことに起因しているものと考えられる。而して、イオンの配向膜への吸着は液晶中の可動イオン密度を減少させ、アクティブマトリックス型液晶表時パネルの重要な電気パラメータである電圧保持率を上昇させる。このように、部分的に電圧保持率が上昇したことにより、透過率に差が生じ、焼付けが確認された。このように、本発明によれば、液晶表示パネルの振る舞いとイオンとの相関を調べることができるので、表示不良原因がイオンによるものかまたはそれ以外によるものなのかを切り分けることができ、表示パネルの動作解析や検査に有効な手段を提供することができる。
【0035】[第5の実施例]本実施例では,セル内に内部DCを持つ場合のイオン密度を求める方法について述べる。本実施例で用いた液晶セルは第1の実施例と同様にネマティック液晶のホモジニアス配向セルである。本実施例で用いた液晶セルは、第1の実施例と同様に図8(a)、(b)に示すように作製した。 図8に示すように、コーニング7059からなる、3cmx4cmのガラス基板81上に、酸化インジウム錫(ITO)膜を成膜し、1cmx1cmの画素電極82を中央部に形成するとともに引き出し電極83を形成した。電極形成後その上に、第1の実施例とは異なるポリアミック酸をスピンコートして90℃で30分の仮焼成を行った後、200℃で1時間本焼成を行いポリイミド配向膜84を形成した。尚、1個のセル組立を行うのに、上記配向膜付き基板を2枚必要とする。また、反射エリプソメータで測定したポリイミド配向膜の膜厚は620Å〜710Åであった。ラビングはレーヨンのロールを用いて回転数800回転/min、押し込み0.6mm、ステージ速度20mm/sの条件で1回行った。ラビング後、2枚のガラス基板81をそれぞれのラビング方向が反対向きとなるように重ね合わせ、直径が5μmのスペーサー粒子を混ぜたエポキシ系接着剤85で固定した。このセルに第1の実施例とは異なるフッ素系のネマティック液晶86を等方相注入して、紫外線硬化樹脂で封孔を行い、アンチパラレルセル(対向する2面の配向方向が180°異なっているセル)とした。なお、図示されていないが、画素電極を除くガラス基板上には遮光膜が形成されている。
【0036】このように形成された液晶セルは、第1の実施例と同様に図4に示す測定装置に配置される。上記のように液晶セルを複数作成して、三角波電圧印加の応答電流からイオン密度を求め、イオン電流が確認できないものを電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線測定用の参照用液晶セルとし、イオン電流が認められたものを測定用液晶セルとした。加えて、後述の透過率の振幅からイオン密度を求める際の検量線の作成用に、第1の実施例と同様に強制汚染を行った液晶セルを作成した。初めに、参照用液晶セルの電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線を測定した(図1:ステージI)。すなわち、前述の図4の測定装置を使用し、10Hzの矩形波を0V〜±10Vまで0.1Vステップで任意波形発生器46を用いて印加し、それぞれの電圧値に対する透過光強度を液晶セル表面の一部分または全面に光を照射することにより測定した。しかる後、情報処理装置48は記憶装置49内に格納されているプログラムにより、0V印加時の透過光強度を100%、±10V印加時の透過光強度を0%として透過光強度を透過率に変換した。その結果得られた電圧−透過率グラフ上の透過光強度特性曲線から、印加電圧は±2.5Vと決定された。
【0037】次に、フリッカー振幅からイオン密度を求めるための検量線を作成した。検量線作成用液晶セルに、±2.5V、1Hzの矩形波電圧を印加してフリッカー振幅を求め(ステージII:ステップS203〜206)、続いて振幅10V、0.01Hzの三角波電圧を印加したときの応答電流からイオン密度を求めた(ステージII:ステップS207、208)。イオン密度は、含まれているイオンが1価で正負イオンとも等量であると仮定して、1cm3 当たりの個数で表した。得られた検量線の式は、イオン密度=3.5x1012xフリッカー振幅であった。ステージIII (図3)のフローチャトに従い、まず、±2.5V、10Hzの矩形波を印加し、そのとき現れたフリッカー波形の一例を図25(a)に示す。同図に示すように、フリッカーが印加周波数と同じ周波数を持つため、可動イオンは存在しないように見える。しかし、液晶セルの内部DCの影響につぶされている可能性があるので、ステップS310で印加電圧にDCオフセット電圧を−5mVずつ順次加えていく。本実施例の場合、DCオフセット値が−40mVになると図25(b)のように、正電圧から負電圧に変わる時点に透過率のピーク2501が現れ始め、さらにDCオフセット値を−65mVとすると、図25(c)のような典型的なイオンのドリフトによるフリッカーが観測された。したがって、ステップS311でイオンによるフリッカー有りと判断され、作業はステップS303へと進む。ステップS303では±2.5V、1Hzの電圧が印加されるが、ステップS310で得られたDCオフセット値−65mVが引き継がれ、液晶セルには+2.565V、−2.435Vの交番電圧が周波数1Hzで印加される。このときフリッカーは図26(a)のように観測された。ステップS310での10Hz矩形波印加時では、−65mVのオフセット電圧を加えることにより印加電圧極性によらない対象なフリッカーが得られた。しかし、1Hz印加では図26(a)のように、透過率一定領域の強度に印加電圧の極性による差が現れている。正の電圧が印加されたときの一定領域2601は負の電圧が印加されたときの一定領域2602よりも約0.3%低く、内部DCの影響が若干残っている。そこで、ステップS306で透過率一定領域の差有りと判断され、差がなくなるまでDCオフセット電圧が調整される。本実施例ではDCオフセット値が−72mVの時に両者の差がほぼ無くなった。図26(b)はそのときに得られたフリッカー波形である。その後、ステップS308、ステップS309と進み、本実施例の場合はフリッカー振幅値から、イオン密度は約5x1012個/cm3 と見積もられた。なお、本発明は、液晶表示パネルばかりでなく、一般の液晶パネルについても適用が可能なものである。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の液晶パネルのイオン測定方法は、液晶パネルの透過光に現れるフリッカーの大きさを検知してイオン密度を測定するものであるので、非破壊にてパネル内のイオン密度を知ることができる。また、本発明によれば、イオン密度のパネル面内の分布や局所領域でのイオン密度を知ることが出来るので、液晶パネルの動作解析/不良解析に有効な手段を提供することができる。また、本発明によれば、問題発生から液晶内のイオン密度情報を入手するまでの時間が短時間で済むことから、工業上の利用価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態および実施例を説明するためのフローチャート(その1)。
【図2】 本発明の実施の形態および実施例を説明するためのフローチャート(その2)。
【図3】 本発明の実施の形態および実施例を説明するためのフローチャート(その3)。
【図4】 本発明の実施の形態および実施例を説明するための測定装置の概略構成図。
【図5】 本発明の実施の形態および実施例を説明するための回路図と電圧波形図。
【図6】 本発明の実施の形態を説明するための波形図(その1)。
【図7】 本発明の実施の形態を説明するための波形図(その2)。
【図8】 本発明の第1の実施例を説明するためのパターン図と断面図。
【図9】 本発明の第1の実施例を説明するための偏光板配置図。
【図10】 本発明の第1の実施例を説明するための特性図(その1)。
【図11】 本発明の第1の実施例を説明するための特性図(その2)。
【図12】 本発明の第1の実施例を説明するための波形図(その1)。
【図13】 本発明の第1の実施例を説明するための波形図(その2)。
【図14】 本発明の第2の実施例を説明するための特性図(その1)。
【図15】 本発明の第2の実施例を説明するための特性図(その2)。
【図16】 本発明の第2の実施例を説明するための波形図。
【図17】 本発明の第3の実施例を説明するための測定装置の構成図。
【図18】 本発明の第3の実施例を説明するための特性図。
【図19】 本発明の第3の実施例を説明するための波形図。
【図20】 本発明の第3の実施例を説明するためのイオン密度分布図。
【図21】 本発明の第4の実施例を説明するための表示パターン図。
【図22】 本発明の第4の実施例を説明するための表示パターン図。
【図23】 本発明の第4の実施例を説明するためのイオン密度分布図。
【図24】 本発明の第4の実施例を説明するためのイオン密度分布図。
【図25】 本発明の第5の実施例を説明するための波形図。
【図26】 本発明の第5の実施例を説明するための波形図。
【符号の説明】
41 光源
42、43 偏光板
44 液晶セル
45 光検出器
46 任意波形発生器
47 オシロスコープ
48 情報処理装置
49 記憶装置
71 透過率変化の飽和状態領域
72 最小透過率
73 フリッカー振幅
74 フリッカー面積
81 ガラス基板
82 画素電極
83 引き出し電極
84 ポリイミド配向膜
85 エポキシ系接着剤
86 ネマティック液晶
91、92 偏光板の偏光方向
93 ラビング方向
161 フリッカー面積
170 液晶表示パネル
171 液晶セル
172、173 偏光板
174、175 レンズ
176 CCD検出器
177 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】 液晶パネルに交番電圧を印加し、その透過光強度のフリッカー波形から液晶内のイオン密度を検出することを特徴とする液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項2】 液晶内でのイオンの移動が完了するに十分な低い周波数の交番電圧を印加してフリッカーを発生させることを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項3】 液晶内でのイオンが印加電圧に追従することができかつ飽和することのない周波数の交番電圧にて液晶パネルを駆動し、イオンの存在の確認を行う過程が含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項4】 前記交番電圧の電圧値は、当該液晶パネルが中間調付近を表示することのできる値であることを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項5】 透過光強度のフリッカー波形の振幅からイオン密度を求めることを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項6】 透過光強度のフリッカー波形により生じた、フリッカー波形のない状況時の水平線とフリッカー波形部分とにより囲まれた面積からイオン密度を求めることを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項7】 液晶パネルが矩形波駆動若しくはアクティブマトリクス駆動されることを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項8】 交番電圧を印加している液晶パネル全面に均一な可視光を照射することを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項9】 交番電圧を印加している液晶パネルの一部分に均一な可視光を照射することを特徴とする請求項1記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項10】 パネル全面から出射する透過光の平均的な強度を測定することを特徴とする請求項1または8記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項11】 前記液晶パネルの部分領域からの透過光の強度を個別に測定し、部分領域毎のイオン密度を求めることを特徴とする請求項1、8または9記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項12】 前記液晶パネルの透過光を撮像素子によって観測し、前記撮像素子の画素毎若しくはグループ分けされた画素毎に分離して液晶パネルの透過光を測定することを特徴とする請求項11記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項13】 交番電圧に直流オフセット電圧を加えるかまたは液晶パネルの共通電極に電位を与えることにより、直流成分によるフリッカーを消失させて、イオンのドリフトによる透過光強度のフリッカー波形のみから液晶内のイオン密度を検出することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項14】 透過光強度一定領域での交番電圧の正負における透過光強度に差があるとき、この差を消滅させるように直流オフセット電圧または液晶パネルの共通電極の電位を調整した後、液晶内のイオン密度を検出することを特徴とする請求項2記載の液晶パネルのイオン密度測定方法。
【請求項15】 液晶パネルを駆動する任意波形発生装置と、液晶パネルに光を照射する光源と、前記液晶パネルを透過する光の強度を観測するエリアイメージセンサと、前記任意波形発生装置および前記エリアイメージセンサの動作を統轄する、記憶装置を有する情報処理装置とを備えた液晶パネルのイオン密度測定装置において、前記エリアイメージセンサの画素毎の検出データを個々に処理することができ前記画素毎にフリッカーを検出することができることを特徴とする液晶パネルのイオン密度測定装置。
【請求項16】 前記エリアイメージセンサの出力波形を監視することのできるオシロスコープがさらに備えられており、前記情報処理装置は前記オシロスコープを介して前記エリアイメージセンサの出力データを収集することを特徴とする請求項15記載の液晶パネルのイオン密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図7】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図20】
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【図26】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2001−4971(P2001−4971A)
【公開日】平成13年1月12日(2001.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−264886
【出願日】平成11年9月20日(1999.9.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】