説明

液晶ホログラム素子

【課題】高効率で低コストな偏光選択性液晶ホログラム素子の提供。
【解決手段】光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、前記周期的な構造は非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を二光束以上の多光干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成したポリマー分散液晶型のホログラム素子において、前記組成物の前記非重合性液晶の常光屈折率をno、前記重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率をnpとすると下記式(1)、
|np−no|>0.006 ・・・(1)
の関係を満たす前記組成物を用いて前記周期的な構造が形成されてなり、前記周期的な構造の配列方向に略垂直な偏光成分が回折することを特徴とする液晶ホログラム素子を主な発明とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光束の偏光成分によって素子を透過または回折させる機能を有する液晶ホログラム素子に関し、特に、光源からのs偏光成分を高効率で回折する偏光選択性の液晶ホログラム素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラム素子はプロジェクタや光ピックアップに応用されており、装置の小型化や低コスト化に繋げるため様々な要求がある。例えば、光ピックアップ装置の小型のレイアウトを実現するために、大きな回折角を得る短いピッチの格子構造を有するホログラム素子が必要とされている。また、光学系の向上を実現するために、高い回折効率で偏光方向によって透過または回折が選択される偏光ホログラム素子が求められている。偏光ホログラム素子を現状の光ピックアップ装置に搭載する場合、光源である半導体レーザーの配置から格子構造アレイ方向と平行の偏光方向(p偏光)は透過し、格子構造アレイ方向と垂直な偏光方向(s偏光)は回折する偏光選択特性を有することが求められている。
【0003】
特許文献1には等方性基板上に回折格子形状を形成し、この回折格子形状の溝部に光学異方性の材料を充填した光学異方性回折素子が知られている。
しかしながら特許文献においてはドライエッチング等の方法で回折格子形状を形成する必要がある。このような構造において、高い回折効率を得るためには溝形状の深さをより深くする必要があり、短いピッチの深溝構造は加工上の困難を伴う。また、エッチング等による生産コストが高くなる。
【0004】
また特許文献2には光重合性液晶を、周期的な透明電極パターンを有する透光性基板で狭持した液晶セルを用い、透明電極パターンに電圧を印加することで液晶を周期的に垂直配向させて光重合させるとともに、非電圧印加部は水平配向の状態で光重合させることで、水平配向領域と垂直配向領域の周期構造を形成した光学異方性回折素子が開示されている。しかしながら特許文献においては格子のピッチは透明電極のピッチで決まるが、電極の微細化の制約とともに、回折効率を高くするために厚膜化すると電極のピッチよりも膜厚が厚くなり、隣接電極の影響によって液晶層に所望の電界がかけられなくなるという問題がある。また、短いピッチでは、垂直配向領域の配向が隣接する水平配向領域に影響を及ぼし、所望の配向分布が得られないと言う問題がある。
【0005】
また特許文献3には上述のような光重合性液晶を用い、水平配向させた状態で干渉露光等の方法で露光を行い、露光部の液晶を周期的に重合固化させた後に未露光部に外場を印加させ垂直配向させた状態で反応固化するホログラム素子が開示されている。しかしながら特許文献においては露光のピッチを微細化することは可能であるが、反応活性種の熱拡散のために露光通りの短いピッチを形成することが困難であるという課題がある。また、特許文献2および3の発明には格子構造を形成するために電界等の外部規制が必要であり、電極の成膜にコストがかかるといった問題もある。
【0006】
また特許文献4には液晶と高分子を含む光学媒体を液晶のN−I点に対応した特定の温度範囲に制御して二光束干渉露光を行うことで、液晶が微細な周期構造に対し一様な方向に配向する構造を有する回折光学素子が開示されている。しかしながら特許文献4においては、ポリマーと液晶の相分離を利用して短いピッチの周期構造を比較的容易に形成できるが、特性としてはp偏光は回折し、s偏光は透過する偏光選択性しか得られていない。
さらに本発明者らによる特許文献5も開示されている。
【特許文献1】特開平10−92004号公報
【特許文献2】特開平10−74333号公報
【特許文献3】特開平11−271536号公報
【特許文献4】特開2000−221465号公報
【特許文献5】特開2006−189695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周期構造の配列方向に垂直な偏光成分(s偏光成分)を回折し、周期構造の配列方向に平行な偏光成分(p偏光成分)を透過する偏光ホログラム素子において、高効率で低コストな偏光選択性液晶ホログラム素子を提供することを目的としている。また本発明は、大きな回折角度と大きな回折効率が得られ、s偏光は回折し、p偏光は透過する優れた偏光選択性を有し、低コストで高効率の偏光選択性ホログラム素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、前記周期的な構造は非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を二光束以上の多光干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成したポリマー分散液晶型のホログラム素子において、
前記組成物の前記非重合性液晶の常光屈折率をno、前記重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率をnpとすると下記式(1)
|np−no|>0.06 ・・・(1)
の関係を満たす前記組成物を用いて前記周期的な構造が形成されてなり、
前記周期的な構造の配列方向に略垂直な偏光成分が回折する液晶ホログラム素子を特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液晶ホログラム素子において、前記組成物の前記非重合性液晶の異常屈折率をne、前記重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率をnpとすると、下記式(2)
|np−ne|<0.015 ・・・(2)
の関係を満たす前記組成物を用いて前記周期的な構造が形成され、
前記周期的な構造の配列方向に略垂直な偏光成分は回折し、前記周期的な構造の配列方向に略平行な偏光成分は透過することを特徴とする液晶ホログラム素子を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、液晶ホログラムに用いる組成物の液晶とモノマーの屈折率を設定することで、s偏光が回折する液晶ホログラムを作製できる。これは従来のs偏光が透過する液晶ホログラムとほぼ同様にして作製可能であり、配向処理や、電界などの外部規制の必要がないため、低コストな液晶ホログラム素子が提供できる。
また請求項2に記載の発明によれば、液晶ホログラムに用いる組成物の液晶とモノマーの屈折率を設定することで、s偏光が回折し、p偏光が透過する偏光選択性の液晶ホログラムを作製できる。これは従来のs偏光が透過する液晶ホログラムとほぼ同様にして作製可能であり、配向処理や、電界などの外部規制の必要がないため、低コストな偏光選択性液晶ホログラム素子が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の液晶ホログラム素子を、実施形態により詳細に説明する。
まず、本発明の干渉露光前の液晶ホログラム素子の断面構成概略を図1に示す。露光前の液晶ホログラム素子は、図1の断面図に示すように、非重合性液晶分子10と重合性モノマーあるいはプレポリマー20と、図示しない光重合開始剤とを均一に混合した組成物を二枚の透明基板30間に挟んで構成されている。前記した組成物の厚みは、基板30の間隔を制御する図示しないスペーサー部材によって制御できる。この組成物は感光性を有するため、露光工程までのホログラム素子作製工程は、感度を有する波長域の光を遮断した環境下で取り扱う。
【0012】
本発明に使用される露光前の液晶ホログラム素子の構成では、前記したスペーサー部材としては、液晶表示装置に用いられる球形スペーサー、ファイバースペーサー、PETフィルム、マイラーフィルムなどを用いることができる。また、フォトリソグラフィーとエッチングあるいは成型技術などによって基板表面に突起形状(凹凸形状も含む)を加工してこれをスペーサーとしても良い。スペーサー部材はホログラム領域内に存在してもよいが、光散乱等の影響を考えるとホログラムの有効領域外に形成することが好ましい。このようなスペーサー部材の高さは数μmから数十μmの範囲のものを使用でき、回折光の波長(本発明の液晶ホログラム素子(露光後のもの)を使用する場合の使用光波長)と、ポリマー部と液晶部の屈折率差に応じて所望のホログラム層厚みとなるようにスペーサー部材の高さを適宜設定する。透明基板30としては、液晶表示装置に用いられるようなガラス、プラスチック基板などを用いることができる。これらの基板30は、少なくとも本発明の液晶ホログラム素子の使用光に対して透明であることが好ましく、また、露光光に対しても透明であることが好ましい。
【0013】
前記した組成物に関して、非重合性液晶10としては屈折率異方性を有する液晶ならばよく、液晶の相組成としては、ネマチック、コレステリック、スメクチックのいずれのタイプでも良く、従来公知のビフェニル、ターフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビフェニルシクロヘキサン、安息香酸フェニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン、1−フェニル−2−シクロヘキシルエタン、1−フェニル−2−ビフェニルエタン、1−シクロヘキシル−2−ビフェニルエタン、ビフェニルカルボン酸フェニルエステル、4−シクロヘキシル安息香酸フェニルエステルなどを骨格とし、アルキル基、アルコキシ基や誘電異方性を付与するための極性付与基としてのシアノ基、ハロゲン基などを置換基として有する液晶などを用いることができる。特に前記の中で、末端にハロゲン基が置換された2環材料と呼ばれる液晶または多環材料を主とした組成(単一組成物または2種以上からなる組成物)が液晶ホログラム素子の光学特性の偏光選択特性に非常に有効である。ここで、偏光選択性とはp偏光(後述する周期構造の配列方向と平行な偏光方向)とs偏光(後述する周期構造の配列方向と垂直な偏光方向)の回折効率の比であり、偏光選択性が小さいほど偏光方向による比が大きくなり、良好な特性になると定義する。
【0014】
重合性モノマーまたはプレポリマー20としては、重合による硬化収縮が大きいものを用いることが好ましい。このような重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する光重合可能な化合物であって、1分子中に少なくともエチレン性不飽和二重結合を1個有する光重合、光架橋可能なモノマー、オリゴマー、プレポリマーの中から選択される1種またはこれらの混合物であり、モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等が挙げられるが、特に2官能以上の多官能性モノマーは硬化収縮が大きいので、好適に使用できる。
このような不飽和カルボン酸のモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、及びそれらのハロゲン置換不飽和カルボン酸、例えば塩素化不飽和カルボン酸、臭素化不飽和カルボン酸、弗素化不飽和カルボン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の塩としては前述の酸のナトリウム塩及びカリウム塩等がある。また、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸等の多官能性のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、上記の他に熱重合禁止剤、可塑剤等が添加されていても良い。
【0015】
また光重合開始剤としては、公知の材料を用いることができ、例えばビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、α−アミノアルキルフェノン、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセンなどを例示することができる。光重合開始剤の添加量は照射する光の波長に対する各材料の吸光度に依存するが、モノマーまたはプレポリマー全量に対して0.1重量%以上10重量%以下がよく、さらに0.5重量%以上3重量%以下が最良である。添加量が少なすぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が起こり難くなり、必要な露光時間が長くなってしまう。逆に、光重合開始剤が多すぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が不十分な状態で硬化してしまうため、ポリマー中に多くの液晶分子が取り込まれ、偏光選択性が悪くなるという問題がある。同様にして、非重合性液晶材料と重合性モノマーあるいはプレポリマーの混合比率も相分離に大きく影響し、非重合液晶の混合比率が少なすぎる場合には、十分な複屈折(屈折率変調量)が得られず、多すぎる場合には、ポリマー中に多くの液晶分子が取り込まれ、偏光選択性が悪くなる。
【0016】
また、ポリマー中の液晶分子はドロップレット化し、散乱成分の原因となるため全体の透過率は低下する。混合比率としては、重合性モノマー、オリゴマーあるいはプレポリマーの合計量100重量%に対して、非重合性液晶材料は10重量%〜30重量%の割合がよく。さらには20重量%〜25重量%の割合が最良である。この割合においては得られる複屈折と液晶による散乱成分とのバランスが良く、高透過率となる。
【0017】
ここで、相分離によるホログラム形成過程について、図2を用いて説明する。図示しない所望の波長のレーザー光源による二光束干渉露光系を用いて、組成物中に露光を行うと、干渉縞の明部において重合性モノマー、オリゴマーあるいはプレポリマーの光重合反応が開始される。この時、硬化収縮が起こって密度差が生じ、隣接する重合性モノマー、オリゴマーあるいはプレポリマーが明部に移動し更に重合が進行する。それと同時に明部に存在していた非重合性液晶が暗部に向かって追い出されることで相分離が起こる。この時、液晶分子が移動して行く際にモノマーやポリマー鎖との相互作用で液晶分子長軸を移動方向に配向させようとする力が働くと考えられる。すなわち、相分離過程において干渉縞の間隔方向に液晶分子を配向させようとする力が働くと考えられる。最終的には図2(a)の相分離後の断面図または(b)の上面図に示すように、干渉縞の明暗のピッチに対応してポリマー層と非重合性液晶層の周期構造が形成され、液晶層部の配向ベクトルが干渉縞の間隔方向を向いた状態が得られると考えられる。この干渉露光および相分離過程において、試料を適当な温度に加熱保持しておくことがよく、温度によって相分離の速度が変化し、液晶分子の配向性に影響を及ぼすと考えられる。最適な加熱温度は使用する材料に依存するが、概ね40℃から100℃程度の範囲である。
【0018】
相分離によるポリマー層2と非重合性液晶層1の周期構造では、厳密にはポリマーと非重合性液晶が周期的に完全に分離することは困難であり、ここで言うポリマー層2とはポリマー成分が多い領域であり液晶分子を含んでいても良い。また、非重合性液晶層1とは非重合性液晶成分が多い領域であり、このような非重合性の材料以外のポリマー成分を含んでいても良い。実際にはポリマー層と液晶層の界面は理想的な平面では無く凹凸状であると推測されるため、図2の露光後の素子の断面図および上面図に示したように、界面での液晶分子長軸方向のバラツキは大きく、液晶層のオーダーパラメーターは(通常の液晶素子などと比較して)若干小さい状態となっている。
【0019】
作製する周期構造のピッチは所望の回折角や波長によって異なるが、概ね0.2μm〜10μmの範囲である。例えば、405nmの入射光に対して20°の回折角を得るには、1.1μm程度のピッチが必要であり、650nmの入射光に対しては2.3μm程度のピッチが必要となる。ポリマー層1と液晶層界面の傾斜角は基板面に対して垂直方向を0°として0°から±20°程度が好ましい。本発明の液晶ホログラム素子を製造する際の露光量としては、光重合開始剤の添加濃度や露光時の温度に依存するが、屈折率変調量が飽和安定した状態を得る0.5J/cm2〜30J/cm2の範囲がよく、さらには安定した生産性を得るためには1J/cm2から15J/cm2の範囲がよい。
【0020】
図3に、本発明の干渉露光後の液晶ホログラム素子の断面構成概略図を示す。本発明の液晶ホログラム素子は、光学異方性(複屈折性)を示す領域1と光学等方性を示す領域2が周期的に構成されており、機能動作として、例えば図4に示すように、素子へ入射する偏光方向がp偏光(この図では紙面垂直方向である周期配列方向と平行)であり、等方性領域の屈折率npと複屈折性領域の一方の屈折率neとが、np=neのとき、光はそのまま透過する。また、入射する偏光方向がs偏光(この図では紙面左右方向である周期配列方向と垂直)であり、等方性領域の屈折率npと複屈折性領域のもう一方の屈折率noとが、np≠noのとき、光は回折する。このように入射光の偏光方向により、一方の偏光は透過となり他方は回折される選択がなされる機能を有する。
【0021】
ここで、図3および4に示す本発明の液晶ホログラム素子は、体積型屈折率変調ホログラムであり、このようなホログラム素子の回折効率はホログラムの屈折率変調量ΔnHと厚みTの積ΔnH・Tに依存し、理論的には最大回折効率100%が得られるものとなる。すなわち、特定な偏光方向における光学異方性を示す領域と、光学等方性を示す領域との屈折率変調量ΔnHが一定である場合、液晶ホログラム素子の周期構造の厚みT(膜厚またはセルギャップと同じ)を設定することで、回折効率を適宜設定することができる。ここで、図3に示すφは格子周期構造に垂直なベクトルであり、周期構造配列面を基準(0°)とし45°<φ<135°の関係にあるものとする。
【0022】
ここで、本発明の液晶ホログラム素子の応用する場合を考えると、光源としてハロゲンランプ等の白色光源や単一波長の半導体レーザー(LD:レーザーダイオード)等が使用できる。用途によって異なるが、前者のような白色光源を用いる場合、カラーフィルターや偏光板を設ける必要があり、後者の単一波長で偏光面が一定である半導体レーザーを光源とする方が有効に利用できる。一般に半導体レーザーは温度環境等により発振波長が変化する。波長変化としては、例えば光ピックアップ用途における青色レーザー(波長405nm)、CD(波長780nm)、DVD(波長660nm)の赤色レーザーにおいてはおよそ±10nm〜±20nmの範囲である。
本発明の液晶ホログラム素子は、前述したように体積ホログラムであるため、入射角依存性と波長依存性を有する。そのため、半導体レーザーの波長が変化すると影響を受ける。
【0023】
図5〜6にKogelnikの結合波理論により算出した入射角特性と波長依存性を示す。ここで、特性を算出するに辺り用いたパラメータは以下のとおりである。
格子ピッチΛ:1.0μm
格子傾きφ(基板面内に対して):81.7°
再生光波長λ:440nm(ブラッグ波長)
再生光基準入射角θ:0°
記録材料平均屈折率n:1.53
膜厚T/屈折率変調量ΔnH:回折効率が最大値をとる理想的な膜厚Tと屈折率変調量ΔnHとした。
【0024】
図5〜6に示すように、膜厚が大きくなるに従い、入射角依存性および波長依存性が大きくなることが分る。ここで、図6から半導体レーザーの波長変化Δλを±20nmの部分に線を付したが、たとえば膜厚20μm(×の線分)において、回折効率が9%低下し、これよりさらに膜厚が大きくなるのは、ここには表示していないが、さらに膜厚が増すと低下率は増大する傾向にある。用途によって異なるが一般に、10%以下の低下であれば実用上問題なく使用できるため、膜厚は20μm以下であることが好ましい。
図7に回折効率が最大値をとる理想的な膜厚と屈折率変調量の関係(Kogelnikの結合波理論)を示す。前記のように膜厚20μm以下である場合、図7から、屈折率変調量ΔnHは0.02以上が必要であることがわかる。
【0025】
図8に干渉露光前の非重合性液晶分子の常光屈折率noと重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率npとの差|np−no|と干渉露光後に生成されるs偏光における屈折率変調量ΔnH(s)との関係を示す。|np−no|とΔnH(s)とは、ほぼ比例関係にあり、直線の傾きは約0.33である。この関係は前記したようにホログラムの周期構造は厳密にはポリマーと非重合性液晶が周期的に完全に分離しておらず、等方性領域はポリマー成分が多いが液晶分子も若干含んだ領域であり、また、異方性領域は非重合性液晶成分が多く、若干ポリマー成分を含んだ領域であるため、界面の凹凸形状、液晶分子長軸方向のバラツキによって、液晶層のオーダーパラメーターの低下に起因していると考えられる。図8に示すA〜Dの各プロットは表1に示す液晶分子(非重合性液晶)として、TL216(A)、TL202(B)、BL048(C)およびBL003(D)を用いて求めたものを示す。用いた液晶ホログラム素子は、以下のようにして用意し、各物性を下記のようにして求めた。
【実施例】
【0026】
厚み0.7mmのガラス基板の片面に青色光および赤色光に対する反射防止膜を形成し、およそ5〜7μm径のビーズスペーサーをそれぞれ混入したそれぞれの接着剤により二枚のガラス基板を貼り合わせた。接着剤を反射防止膜形成面とは反対の面で、基板の縁2箇所に塗布し接着剤により二枚のガラス基板を貼り合わせ空セルとした。
次に以下の1〜5の材料の混合物からなる組成物をホットプレート上で約65〜80℃に加熱しながら攪拌(約100〜300rpm)した後、毛管法によりセル中に注入し、厚み約5〜7μmの組成物層を形成した。なお、この組成物は緑色より短波長の光に反応性を示すため赤色光を用いた暗室下で取り扱った。
1.ネマチック液晶それぞれ4種類(メルク社製)・・・表1参照
各25重量部を下記2〜5の組成部と混合して組成物を前記したように、セル中に注入した。
2.フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学製AH600) 75重量部
3.ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学製DCP−A)
10重量部
4.2−ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学製HO) 5重量部
5.ビスアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバガイギー製イルガキュア819) 1重量部
【0027】
【表1】

【0028】
セル中に注入後、この組成物は室温下において等方性を示した。
次に波長442nm、出力80mWのHe−Cdレーザーによる二光束干渉露光系を作成した。レーザー光を分割、拡大して、1つの光束が約10mW/cm2程度の平行光として、二光束の交差角度を26度に設定した。この波長と交差角度では二光束の交差領域に約1μm周期の干渉縞が生成される。セル基板を加熱装置に取り付け、約65〜100℃に加熱した状態で、約1分間の二光束干渉露光を行い、液晶ホログラム素子を作製した。この時、基板面の垂直方向に対して0度と26度の方向から二光束が入射するように設定した。
【0029】
特性評価
液晶ホログラム素子の特性評価として、上記したようにして作製した素子に、波長442nmの直線偏光のレーザー光を照射して、入射光強度に対する0次光と+1次回折光の光強度を測定した。入射光強度は5mW程度になるようにND(neutral density:中性能)フィルターを用いて調整し、入射光路中に直線偏光板と半波長板を配置し、半波長板の光軸を45度回転させることで、素子に入射する偏光方向(p偏光、s偏光)を切り換え可能な構成とした。このときのp偏光は干渉露光時の干渉縞と直交方向とし、s偏光は干渉縞の方向とした。図10に液晶ホログラム素子のs偏光の回折効率と使用した4種類の液晶材料の|np−no|の関係を示す。また、図8は図10に示す回折効率と測定したセルギャップから算出したs偏光における屈折率変調量である。
【0030】
前記したように半導体レーザーの波長変化を考慮すると屈折率変調量ΔnHは図7に示すように0.02以上必要であり、また、図8の関係から液晶ホログラム素子に用いる組成物の非重合性液晶分子の常光屈折率noと重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率npとの差|np−no|が0.06以上となる材料を選択すればよいことが判る。このようにして、干渉露光により光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を形成することで、s偏光における屈折率変調量ΔnH(s)が0.02以上となる。すなわち、屈折率変調量ΔnH(s)に対して膜厚を適宜設定することで、半導体レーザーの波長変動を許容したs偏光方向を回折する高効率な液晶ホログラム素子が作製できる。
【0031】
図9に一般的な体積ホログラムの屈折率変調量ΔnHと回折効率の関係を示す。図9から屈折率変調量ΔnHが0.005以下である場合に回折効率は1%以下になる。
また、p偏光においても周期構造の状態は変化しないため、非重合性液晶分子の異常光屈折率neと重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率npとの差|np−ne|とホログラム屈折率変調量ΔnH(p)も図8と同様の関係がある。したがって、|np−ne|が0.015以下となる材料を選択して、干渉露光により光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を形成することで、p偏光における屈折率変調量ΔnH(p)が0.005以下となり、p偏光に対する回折効率は1%以下で、非常に高い効率で透過する。すなわち、屈折率変調量ΔnH(s)に対して膜厚を適宜設定することで、s偏光方向光を回折し、p偏光光を透過する高効率で偏光選択性の良好な液晶ホログラム素子が作製できる。
【0032】
図10から|np−no|の増加に伴い、s偏光に対する回折効率が増加していることが判る。今回のサンプルは得られる屈折率変調量に対して十分セルギャップが最適化されておらず、回折効率はおよそ10%であるが、s偏光に対して回折する液晶ホログラムを作製した。体積ホログラムの回折効率は屈折率変調量と膜厚(セルギャップ)に依存するため、高回折効率化に関しては図8に示した屈折率変調量に対してセルギャップを最適化することで実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の液晶ホログラム素子の発明は、光ディスクや光磁気ディスクなどの光ヘッド装置を小型化するための偏光選択性ホログラム素子や、投射型表示装置などの照明光の光利用効率を向上させるための偏光分離素子や、偏光面に応じて光路を切り換える光スイッチ、レーザプリンタ、デジタル複写機、普通紙ファックス等に用いられる光走査装置及び画像形成装置などに応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の干渉露光前の液晶ホログラム素子の断面構成概略を示す図である。
【図2】相分離によるホログラム形成過程を説明するための図であり(a)は断面図であり(b)は上面図である。
【図3】本発明の干渉露光後の液晶ホログラム素子の断面構成概略を示す図である。
【図4】本発明の液晶ホログラム素子の機能動作を説明するための図である。
【図5】Kogelnikの結合波理論により算出した入射角特性と波長依存性を示す図であり、aは層厚5μmで、屈折率変化量ΔnHが0.087であり、bは層厚10μmで、屈折率変化量ΔnHが0.044であり、cは層厚15μmで、屈折率変化量ΔnHが0.03であり、dは層厚20μmで、屈折率変化量ΔnHが0.02である場合の入射角特性と波長依存性を示す図である。
【図6】Kogelnikの結合波理論により算出した使用光(半導体レーザ)が波長変化したときの回折効率の波長依存性を示す図であり、aは層厚5μmで、屈折率変化量ΔnHが0.087であり、bは層厚10μmで、屈折率変化量ΔnHが0.044であり、cは層厚15μmで、屈折率変化量ΔnHが0.03であり、dは層厚20μmで、屈折率変化量ΔnHが0.02である場合の回折効率の波長依存性を示す図である。
【図7】回折効率が最大値をとる理想的な膜厚と屈折率変調量ΔnHとの関係(Kogelnikの結合波理論)を示す図である。
【図8】干渉露光前の非重合性液晶分子の常光屈折率noと重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率npとの差|np−no|と、干渉露光後に生成されるs偏光における屈折率変調量ΔnH(s)との関係を示す図である。
【図9】一般的な体積ホログラムの屈折率変調量ΔnHと回折効率との関係を示す図である。
【図10】液晶ホログラム素子のs偏光の回折効率と使用した4種類の液晶材料の|np−no|との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 非重合性液晶層(光学異方性(複屈折性)を示す領域)
2 ポリマー層(光学等方性を示す領域)
10 非重合性液晶分子
20 重合性モノマーあるいはプレポリマー
30 透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、前記周期的な構造は非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を二光束以上の多光干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成したポリマー分散液晶型のホログラム素子において、
前記組成物の前記非重合性液晶の常光屈折率をno、前記重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率をnpとすると下記式(1)
|np−no|>0.06 ・・・(1)
の関係を満たす前記組成物を用いて前記周期的な構造が形成されてなり、
前記周期的な構造の配列方向に略垂直な偏光成分が回折することを特徴とする液晶ホログラム素子。
【請求項2】
請求項1において、前記組成物の前記非重合性液晶の異常屈折率をne、前記重合性モノマーあるいはプレポリマーの屈折率をnpとすると、下記式(2)
|np−ne|<0.015 ・・・(2)
の関係を満たす前記組成物を用いて前記周期的な構造が形成され、
前記周期的な構造の配列方向に略垂直な偏光成分は回折し、前記周期的な構造の配列方向に略平行な偏光成分は透過することを特徴とする液晶ホログラム素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−152135(P2008−152135A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341681(P2006−341681)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】