説明

液晶ポリエステル樹脂組成物

【課題】 誘電特性、生産性、軽量性、表面平滑性やめっき密着性などの、高周波用途における要求特性が、全てバランスよく優れた液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂100重量部、および、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウム5〜100重量部からなる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的性質、成形加工性、めっき加工性、および誘電特性に優れ、平滑な表面を有する外観に優れた成形品を与える液晶ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、日常生活のマルチメディア化、ユビキタス化や、有料道路におけるETC装置やGPSに代表されるITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の利用が急速に進んでいる。これに伴う情報通信のトラフィックの爆発的な増加に対応するべく、情報を伝送する周波数の高周波化が進んでいる。
【0003】
このように高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、ギガヘルツ帯域における誘電特性に優れ、生産性や軽量性に優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージや誘電体デバイス等としての適用が期待されている。
【0004】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下液晶ポリエステル樹脂またはLCPと略称する)は、比誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定である、誘電正接(tanδ)が低いなど誘電特性に優れている。また、低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等の機械物性など種々の物性に優れている。さらに成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる。したがって、LCPは高周波用途において特に期待されている材料である。
【0005】
高周波用途において、エンジニアリングプラスチック材料に要求される特性としては、周波数、温度、湿度に対する誘電特性の安定性や生産性、軽量性の他に、表面平滑性やめっき密着性などのめっき特性が挙げられる。これらの特性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物について種々の提案がなされている。
【0006】
表面平滑性やめっき特性を改良した液晶ポリエステル樹脂組成物としては、液晶ポリエステル樹脂に、ピロリン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛などの金属塩類を配合したもの(特許文献1および2を参照)、リン酸で表面処理された炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を配合したもの(特許文献3を参照)、融点が300℃以上の液晶ポリエステル樹脂に、チタニアなどの無機充填材と炭酸カルシウムを配合したもの(特許文献4を参照)、および融点が320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル樹脂に、アスペクト比が2以下の無機球状中空体とアスペクト比が4以上の無機充填材を配合したもの(特許文献5を参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら特許文献1〜5に示される液晶ポリエステル樹脂は、以下のような問題を有するものである。
【0008】
特許文献1および2に開示される液晶ポリエステル樹脂組成物は、エッチング処理によりめっき可能なものではあるが、誘電特性、表面平滑性や機械物性が高周波用途に用いるには十分でない。
【0009】
特許文献3は、液晶ポリエステル樹脂に表面未処理の炭酸カルシウムを配合した場合に生じる液晶ポリエステル樹脂組成物の機械物性の低下や安定して成形加工することができないなどの問題(特許文献1の比較例を参照)を解決するために、リン酸で表面処理された炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を液晶ポリエステル樹脂に配合した液晶ポリエステル樹脂組成物を提案するものである。しかし、特許文献3に開示される液晶ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ土類金属塩をリン酸処理する工程が必要であるために液晶ポリエステル樹脂組成物の製造コストがかさむ。また、実施例において380℃で成形しているように、非常に高い温度で加工する必要がある。炭酸カルシウム等を配合した場合に生じる上記問題は、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属塩をリン酸で表面処理することにより多少改善されるものの、依然として機械物性の低下や成形安定性に欠ける問題がある。
【0010】
特許文献4に開示される液晶ポリエステル樹脂組成物は、融点300℃以上の液晶ポリエステル樹脂に炭酸カルシウムを配合するものであり、炭酸カルシウムを配合した液晶ポリエステル樹脂を高温で加工することによる、上述の問題を有するものである。
【0011】
特許文献5に開示される液晶ポリエステル組成物は、無機球状中空体が一般的に高価であることや、組成物の製造工程や成形時において無機球状中空体の破損が不可避であり誘電特性の改良効果を安定して得難いなどの問題がある。加えて、成形品表面の平滑性についても改善の余地があるものであった。
【0012】
このように、誘電特性、生産性、軽量性、表面平滑性やめっき密着性などの、高周波用途における要求特性が、全てバランスよく優れた液晶ポリエステル樹脂組成物は知られておらず、その開発が望まれている。
【特許文献1】特開平1−92241号公報
【特許文献2】特開平1−98637号公報
【特許文献3】特開平4−4252号公報
【特許文献4】特開2004−59702号公報
【特許文献5】特開2004−27021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は高周波用途に適する、機械的性質、成形加工性、めっき加工性、および低誘電特性に優れ、平滑な表面を有する外観に優れた成形品を与える液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。さらに本発明の目的は、前記液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる、高周波用途に適した成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂100重量部、および、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウム5〜100重量部からなる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。
さらに本発明は、上記液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる液晶ポリエステル樹脂の成形品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂100重量部に、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウム5〜100重量部を配合することにより、機械的性質、成形加工性、めっき加工性、および誘電特性に優れ、平滑な表面を有する外観に優れた成形品を与える液晶ポリエステル樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステル樹脂であり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂と呼ばれているものであって、示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃を示すものであれば特に制限されない。
【0017】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0018】
本発明に用いる、示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂は、分子鎖中に脂肪族基を有する半芳香族液晶ポリエステル樹脂、または分子鎖が全て芳香族基より構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂の何れを用いてもよい。これらの液晶ポリエステル樹脂の中では、難燃性や機械的物性が良好であることから全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好ましい。
【0019】
本発明に用いる液晶ポリエステル樹脂を構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリエステル樹脂は構成成分およびポリエステル樹脂中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリエステル樹脂は異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0020】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリエステル樹脂の特性や融点を調整しやすいという点から好ましい
【0021】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、ビス(4−カルボキシフェニル)エ−テル、ビス(3−カルボキシフェニル)エーテル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0022】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリエステル樹脂の特性などの点から好ましい。
【0023】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0025】
これらの繰返し単位の組み合わせのうち以下に示すものが、低融点を示すと共に良好な機械物性を有する好適な組み合わせの例として挙げられる。
【化1】

【0026】
これらの中でも、特に以下に示す繰返し単位の組み合わせが好ましい。
【化2】

[繰返し単位の右下の数字は、液晶ポリエステル樹脂中における各繰返し単位のモル%を表す。]
【0027】
本発明に用いる液晶ポリエステル樹脂は本発明の目的を損なわない範囲で、アミド結合やチオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびメルカプト芳香族フェノールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0028】
また、本発明に用いる液晶ポリエステル樹脂は、成形時の流動性を改善する目的や、成形品のブリスター(樹脂中の揮発成分や、樹脂の熱劣化により発生する気体状の副生物の発生による成形品表面の膨れ)の発生を抑制する目的などで、示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である、二種以上の液晶ポリエステル樹脂をブレンドしたものでもよい。
【0029】
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂の製造方法に特に限定はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合を形成させる公知のポリエステルの重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0030】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂の製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0031】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0032】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をエステル化した変性形態、すなわち低級アシルエステルとして反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体の酢酸エステルを反応に用いる方法が挙げられる。単量体の低級アシルエステルは、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時にモノマーに無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0033】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0034】
触媒の使用割合は、通常モノマーに対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0035】
このようにして得られた液晶ポリエステル樹脂で、示差走査熱量計(DSC)により以下の方法で測定された融点が200〜260℃、好ましくは200〜250℃、特に好ましくは200〜240℃であるものが、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物おいて好適に使用できる。
【0036】
<DSC測定方法>
セイコーインスツルメント株式会社製 Exstar6000を用い、液晶ポリエステル樹脂の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステル樹脂の融点とする。
【0037】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる、液晶ポリエステル樹脂はペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能なものであり、その際には0.1g/dlの濃度において60℃で測定した値が0.3dl/g以上がよく、好ましくは0.5〜10dl/g、より好ましくは1〜8dl/であるのがよい。
【0038】
また、本発明の方法に用いる液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が1〜1000Pa・S、好ましくは5〜300Pa・Sであるのがよい。
【0039】
このようにして得られた液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された後、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウムと共に液晶ポリエステル樹脂組成物に加工される。
【0040】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウムとしては、組成物中に良好に分散するものであれば特に限定されず、重質炭酸カルシウムであっても、軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)であってもよい。これらの中では軽質炭酸カルシウムを用いるのが好ましい。本発明の液晶ポリエステル樹脂に用いるのに好適な軽質炭酸カルシウムとしては、例えば、平均繊維径0.3〜2μmであり平均繊維長10〜35μmである繊維状のアラゴナイト型炭酸カルシウム、および/または平均粒子径が0.03〜2μmである粒子状のカルサイト型炭酸カルシウムが挙げられる。
【0041】
本発明において用いる、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウムは、リン酸、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、ポリアクリル酸、樹脂酸、各種カップリング剤などで表面処理されたものを用いてもよい。しかしながら、表面処理剤に起因する成形時の揮発物の発生や、表面処理された炭酸カルシウムは高価であることなどから表面未処理のものがより好適に用いられる。
【0042】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウムの配合量は、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは7〜90重量部、特に好ましくは10〜80重量部である。
【0043】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、炭酸カルシウムの他にさらに、無機充填材および/または有機充填材を含んでいてもよい。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いてもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0044】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における、無機充填材および/または有機充填材の配合量は、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、50重量部以下、好ましくは30重量部以下であるのがよい。無機充填材および/または有機充填剤の配合量が50重量部を超える場合には、誘電特性、表面平滑性ともに悪化する傾向があり好ましくない。
【0045】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて配合されてもよい。
【0046】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形するに際して、予め、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0047】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物と同様の温度域で成形加工可能である他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリルエチレンプロピレンゴムスチレン共重合樹脂(AES)、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルスチレンアクリレート樹脂(ASA)樹脂)、などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定的ではないが、液晶ポリエステル樹脂組成物が高周波用途に好適な範囲となるように定めればよい。典型的には液晶ポリエステル樹脂100重量部に対する他の樹脂の合計配合量が0〜100重量部、特に0〜80重量部となる範囲で添加される。
【0048】
上記の液晶ポリエステル樹脂、繊維状および/または粒子状の炭酸カルシウム充填材、ならびに無機充填材および/または有機充填と、所望により各種添加剤や他の樹脂成分などを、所定の組成で、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0049】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する際の溶融混練を行う温度としては、液晶ポリエステル樹脂の融点より20〜80℃高い温度であり、かつ280℃以下の温度であるのが好ましい。溶融混練時の温度が280℃を超える場合には、溶融混練後に液晶ポリエステル樹脂組成物をペレット状に造粒する際や、得られた液晶ポリエステル樹脂組成物を成形する際に安定した作業が行いにくくなる場合がある。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物においては、低融点の液晶ポリエステル樹脂を用いているために、液晶ポリエステル樹脂組成物の加工時の炭酸カルシウムを加熱することによる悪影響を抑制することが出来、このため炭酸カルシウムを配合し液晶ポリエステル樹脂組成物とする際や、成形する際にも安定して作業を行うことが出来る。
【0051】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0052】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形品は、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物のみから構成される成形品には限定されない。例えば、金属材料や、他のエンジニアリングプラスチック材料の成形品をインサート材として用いた成形品、他のエンジニアリングプラスチック材料と共にサンドイッチ成形などの方法により成形された複合成形品、または他のエンジニアリングプラスチック材料、もしくは金属箔や金属板との積層材料などであってもよい。
【0053】
上記のように成形品が、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物と異なる材料を用いたものである場合には、成形品表面の一部または全部が本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物により形成されているものが好ましい。
【0054】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形品は、ギガヘルツ帯において優れた誘電特性を示す物であり、特に、空洞共振法により測定される、10GHzにおける、誘電正接(tanδ)が0.004以下と良好な低誘電特性を示す。また、JIS B0601に従い測定される算術平均粗さ(Ra)が1μm以下、好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下であり、最大高さ(Rz)が4μm以下、好ましく3μm以下、特に好ましくは1μm以下であるという優れた表面平滑性を有する成形品を製造することが出来る。したがって本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高周波用途の各種成形品に好適に用いられる。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形品は、所望により無電解めっき処理を施されてもよい。無電解めっき方法としては従来エンジニアリングプラチックに用いられる方法であれば特に制限されないが、前処理として、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液によるエッチング処理、硫酸酸水溶液などの酸性溶液によるエッチング処理、または硫酸とクロム酸の水溶液などの酸化剤溶液によるエッチング処理などを行うのが好ましい。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形品は、前記のエッチング処理によって、成形品表面に一様に良好な凹凸が形成され、これが高いアンカー効果を示し、優れためっき密着性を示すものである。
【0056】
上記のように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物およびその成形品は、機械的性質、成形加工性、めっき加工性、表面平滑性および誘電特性に優れるものであり、例えば、5.8GHz帯のETC用アンテナ、2.4GHz帯の無線LAN用アンテナ、または60GHz帯の車間衝突防止システム用のアンテナなどの高周波用途に好適に使用されるものである。
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
実施例および比較例において用いた液晶ポリエステル樹脂を以下に示す。
繰返し単位の右下の数字は、液晶ポリエステル樹脂中の各繰返し単位の構成比率を表す。
LCP−I(DSCにより測定された融点:210℃)
【化3】

LCP−II(DSCにより測定された融点:330℃)
【化4】

LCP−III(DSCにより測定された融点:282℃)
【化5】

【0059】
実施例および比較例に用いた炭酸カルシウムを以下に示す
Ca−I:繊維状のアラゴナイト型炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、ウィスカルA)、平均繊維径0.5〜1μm、平均繊維長20〜30μm。
Ca−II:粒子状のカルサイト型炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、CUBE−18BH)、平均粒子径1.8μm。
Ca−III:粒子状の軽質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、ユニグロス1000)、平均粒子径0.05μm。
Ca−IV:粒子状の軽質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、ユニグロス1000)をリン酸で表面処理。
【0060】
実施例1〜3
液晶ポリエステル樹脂(A)としてLCP−I100重量部に対し、炭酸カルシウム(B)として、アラゴナイト型の繊維状炭酸カルシウム(Ca−I)を表1に示す組成で配合し、ヘンシェルミキサーで混合した後に、二軸押出し機(株式会社日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、シリンダー温度260℃でペレット状に造粒し、液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0061】
得られた樹脂組成物のペレットを130℃で4時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製、α−100iA)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度90℃にて、1.8×1.8×85mmの試験片を作製し、マイクロ波デバイス測定システム(Agilent Technologies製、85070d)を用いて、空洞共振法により10GHzにおける誘電特性の測定を行った。
【0062】
また、上記射出成形条件により、鏡面仕上げ金型(#8000)を用いて、55×90×0.8mmの平板状の試験片を作成し、JIS B0601に準じて表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、SV−3000)を用いて表面粗さ特性の測定を行った。
得られた樹脂組成物の誘電特性および表面粗さを表1に示す。
【0063】
実施例4
表1に示す量の炭酸カルシウム(Ca−II)を配合することの他は、実施例1と同様にLCP−Iを用いて試験片を得、誘電特性、表面粗さ特性の測定を行った。得られた樹脂組成物の誘電特性および表面粗さを表1に示す。
【0064】
実施例5
表1に示す量の炭酸カルシウム(Ca−III)を配合することの他は、実施例1と同様にLCP−Iを用いて試験片を得、誘電特性、表面粗さ特性の評価を行った。得られた樹脂組成物の誘電特性および表面粗さを表1に示す。
【0065】
実施例6
表1に示す量の炭酸カルシウム(Ca−III)を用い、さらに表1に示す量のガラス繊維(旭ファイバーグラス株式会社製、FT−591)を配合することの他は、実施例1と同様にLCP−Iを用いて試験片を得、誘電特性、表面粗さ特性の測定を行った。得られた樹脂組成物の誘電特性および表面粗さを表1に示す。
【0066】
比較例1
二軸押出し機(株式会社日本製鋼所製、TEX30α)のシリンダー温度を290℃に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物の造粒操作を行った。この時、二軸押出し機内で熱分解を引き起こし、造粒操作は困難であった。
【0067】
比較例2
LCP−IをLCP−IIに変え、リン酸処理された炭酸カルシウム(Ca−IV)を表1に示す組成で配合することの他は、実施例1と同様に、ヘンシェルミキサーで混合した後に、二軸押出し機(株式会社日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、シリンダー温度380℃でペレット状に造粒操作を行った。この時、二軸押出し機内で熱分解を引き起こし、造粒操作は困難であった。
【0068】
比較例3
LCP−IをLCP−IIに変え、リン酸処理された炭酸カルシウム(Ca−IV)を表1に示す組成で配合することの他は、実施例1と同様に、ヘンシェルミキサーで混合した後に、二軸押出し機(株式会社日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、シリンダー温度380℃でペレット状に造粒操作を行った。この時、二軸押出し機内で熱分解を引き起こし、造粒操作は困難であった。
【0069】
比較例4
LCP−IをLCP−IIIに変え、リン酸処理された炭酸カルシウム(Ca−IV)を表1に示す組成で配合し、ヘンシェルミキサーで混合した後に、二軸押出し機(株式会社日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、シリンダー温度300℃でペレット状に造粒操作を行った。この時、二軸押出し機内で熱分解を引き起こし、造粒操作は困難であった。
これらの結果も合せて表1に示した。
【0070】
【表1】

表1の結果から、本発明の特定の液晶ポリエステル樹脂組成物は、低誘電正接かつ良好な表面平滑性を有していることが判る。また、290℃以上で液晶ポリエステル樹脂組成物の造粒を行った、比較例のものは何れも安定した造粒操作を行うことができないものであった。
【0071】
実施例7
実施例3で用いた平板状の試験片を用いて、以下の条件でアルカリエッチング処理を行った。エッチング後の成形品の表面状態を電子顕微鏡で観察したところ、試験片表面には一様な凹凸が形成されていることが確認できた。
エッチング処理された試験片表面の電子顕微鏡写真およびエッチング処理前の試験片の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0072】
〔エッチング処理条件〕
アルカリ水溶液:48重量%KOH水溶液
処理温度:70±5℃
浸漬時間:1Hr
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形品をアルカリエッチング処理した前後の表面状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂100重量部、および、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウム5〜100重量部からなる液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
炭酸カルシウムが、平均繊維径0.3〜2μmであり平均繊維長10〜35μmである繊維状のアラゴナイト型炭酸カルシウム、および/または、平均粒子径0.03〜2μmである粒子状のカルサイト型炭酸カルシウムである、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
炭酸カルシウムが表面未処理のものである、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステル樹脂が全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
液晶ポリエステル樹脂が以下に示す繰返し単位からなる、請求項4に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

[繰返し単位の右下の数字は、液晶ポリエステル樹脂中における各繰返し単位のモル%を表す。]
【請求項6】
示差走査熱量計により測定される融点が200〜260℃である液晶ポリエステル樹脂100重量部、および、粒子状および/または繊維状の炭酸カルシウム5〜100重量部を、液晶ポリエステル樹脂の融点から20〜80℃高い温度であり、かつ280℃以下の温度で溶融混練することを特徴とする、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形品。
【請求項8】
空洞共振法により測定される、10GHzにおける、誘電正接(tanδ)が、0.004以下である、請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
JIS B0601に従い測定される算術平均粗さ(Ra)が1μm以下であり、かつ最大高さ(Rz)が4μm以下である請求項7または8に記載の成形品。
【請求項10】
無電解めっき処理された、請求項7〜9の何れかに記載の成形品。
【請求項11】
成形品が、ETC用アンテナ、無線LAN用アンテナ、または車間衝突防止システム用のアンテナである、請求項7〜10の何れかに記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−328141(P2006−328141A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150816(P2005−150816)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000146423)株式会社ウエノテクノロジー (30)
【Fターム(参考)】