説明

液晶性ピレン誘導体、有機半導体および有機半導体素子

【課題】新規な液晶性ピレン誘導体及び有機半導体素子等を提供する。
【解決手段】下式の反応で得られる化合物が例示される。


n;1〜10の整数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ピレン誘導体、この誘導体を用いる有機半導体および有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでペンタセン誘導体を用いた有機電界効果トランジスター(OFET)は、アモルファスシリコンFETを上回る電荷移動度を示すことが報告されている。しかし、ペンタセンなどを用いた結晶性有機半導体は、有機溶媒に対し極めて溶解性が低く、デバイスとして薄膜化する際に生産コストの高い真空蒸着プロセスを用いなければならない。
【0003】
そこで、粒界による電荷移動度の低下を気にする必要が無い広いπ共役を持つ液晶材料が注目されている。これらは、適切な分子設計を行えば、アモルファスシリコンに匹敵する電荷移動度を持たせる事が可能である。しかしながら、液晶性の半導体化合物の多くは、広いπ共役を分子中心に持たせたため、液晶温度が高温であり、溶媒等の溶解度も悪く、スピンコーティング等による製膜がしにくい欠点を持っている。
【0004】
最近、中程度のπ共役を持つ液晶性ピレン誘導体が開発されている。しかし、その液晶温度範囲は狭く(73-87℃)、液晶温度範囲における電荷移動度も10-3[cm2V-1s-1]オーダーにとどまっている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Shimizu et al., J. Mater. Chem., 2007, 17, 1392-1398.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、液晶発現温度範囲が比較的低く、溶媒等への溶解度も良好な液晶性ピレン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
[1]
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】

(式中、Rは、
【化2】

で示され、R1、R2及びR3は、独立に炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基または炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキルオキシ基である。)
[2]
R1及びR3は、独立にメチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基である[1]に記載の化合物。
[3]
R1及びR3は、独立にメチル基またはメトキシ基である[1]に記載の化合物。
[4]
R2は、炭素数が4〜8の直鎖アルキル基または炭素数が4〜8の直鎖アルキルオキシ基である[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物。
[5]
R2は、炭素数が5〜6の直鎖アルキル基または炭素数が5〜6の直鎖アルキルオキシ基である[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄膜。
[7]
基板表面の少なくとも一部に[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層を有する構造物。
[8]
基板表面の少なくとも一部に設けられた電極表面の少なくとも一部に[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層を有する有機半導体素子。
[9]
ゲート電極、誘電体層、ソース電極、ドレイン電極、および半導体層を含むトランジスタであって、該半導体層が[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層であるトランジスタ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的小さなπ共役骨格を有するピレンをコア部位に用いたトリアルキルシリル基を有するピレン誘導体からなる液晶性化合物を提供できる。この液晶性化合物は、有機溶媒に対して高い溶解性を示し、液晶性半導体材料を提供できる。さらに、この液晶性化合物は、カラムナー液晶相を発現し、10-2 [cm2V-1s-1]オーダーの電荷(正孔)輸送能を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】示差走査熱量計(DSC)測定で求めた化合物1(5)、1(6)、1(7)および1(8)の相転移温度を示す。a) 加熱過程、b) 冷却過程
【図2】冷却過程[a)140℃、b)50℃]における化合物1(5) の偏光顕微鏡(POM)による観察結果を示す。a)140℃、b)50℃
【図3】冷却過程[a)100℃、b)60℃]における化合物1(6) の偏光顕微鏡(POM)による観察結果を示す。
【図4】冷却過程[a)50℃、b)30℃]における化合物1(7)の偏光顕微鏡(POM)による観察結果を示す。
【図5】冷却過程[120℃]における化合物1(5)のX線回折パターンを示す。
【図6】冷却過程[120℃]における化合物1(5)のDebye-Scherrer ringを示す。
【図7】Colr [正方晶カラムナー相(Rectangular columnar phase)]のモデルを示す。
【図8】冷却過程[85℃]における化合物1(6)のX線回折パターンを示す。
【図9】冷却過程[85℃]における化合物1(6)のDebye-Scherrer ringを示す。
【図10】ホール輸送能測定用TOF実験装置の典型例を示す。
【図11】冷却過程における化合物1 (5)の75℃から140℃の温度範囲における減衰光電流測定結果を示す(セル厚5.0μm)。挿入図は、両対数プロットである。いずれも、電界強度4.4 kV cm-1 (135℃), 5.0 kV cm-1 (120℃), 及び5.5 kV cm-1 (75℃)、
【図12】冷却過程における化合物1 (5)の75℃から140℃の温度範囲におけるホール輸送能の温度依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。電界強度4.4 kV cm-1 (130、135、140℃), 5.0 kV cm-1 (110、120℃), 及び5.5 kV cm-1 (75、85、95、100、105℃)
【図13】化合物1 (5)の温度125℃、電界強度4.0 kV cm-1から7.0 kV cm-1の液晶相におけるホール移動度の電界依存性測定結果(両対数プロット)を示す(セル厚5.0μm)。
【図14】125℃における化合物1 (5)のホール移動度の電界依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。
【図15】化合物1 (6) の温度70〜100℃、電界強度3.0 kV cm-1の液晶相における減衰光電流の電界依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。挿入図は、両対数プロットである。
【図16】電界強度3.0 kV cm-1における化合物1 (6)のホール移動度の電界依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。
【図17】化合物1 (6)の温度100℃、電界強度2.5 kV cm-1から5.0 kV cm-1の液晶相におけるホール移動度の電界依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。
【図18】100℃における化合物1 (6)のホール移動度の電界依存性測定結果を示す(セル厚5.0μm)。
【図19】電荷輸送能の評価における、評価用サンプルの作成方法の説明図を示す。
【図20】化合物1(5)のヘキサン溶液の蛍光スペクトル(励起波長 340 nm, 10-6 M (= mol/L)/ヘキサン)を示す。
【図21】化合物1(5)の固体状態(室温)の蛍光スペクトル(励起波長 460 nm) を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化3】

(式中、Rは、
【化4】

で示され、R1、R2及びR3は、独立に炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基または炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキルオキシ基である。)
【0011】
上記アルキル基及びアルキルオキシ基のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基などであることができる。R1及びR3は、独立にメチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であることが好ましい。さらに、有機溶媒への溶解性が良好である観点と、カラムナー液晶相を発現する観点、さらには電荷輸送能に優れるという観点から、R1及びR3は、独立にメチル基またはメトキシ基であることが好ましい。R2は、有機溶媒への溶解性が良好である観点と、カラムナー液晶相を発現する観点、さらには電荷輸送能に優れるという観点から、炭素数が4〜8の直鎖アルキル基または炭素数が4〜8の直鎖アルキルオキシ基であることが好ましく、炭素数が5〜6の直鎖アルキル基または炭素数が5〜6の直鎖アルキルオキシ基であることがより好ましい。
【0012】
一般式(1)中のR1及びR3がメチル基であり、R2が、CnH2n+1で示される直鎖アルキル基(n=1〜10)である化合物を以下に示す。
【化5】

【0013】
一般式(1)で示される化合物は、実施例において詳述するが、以下の反応スキームの上段に示すように、例えば、1,3,5-トリブロモベンゼンとトリアルキルシランを原料としてRを含む誘導体を合成し、また、反応スキームの下段に示すように、1,3,6,8-テトラブロモピレンを原料としてピレン誘導体とを合成し、最後に、ピレン誘導体にRを含む誘導体を連結することで合成できる。Rを含む誘導体におけるR1、R2及びR3は、合成に使用するトリアルキルシランのアルキル基またはアルキルオキシ基を変更することで、適宜合成することができる。
【0014】
反応スキーム
【化6】

【0015】
原料として用いる1,3,5-トリブロモベンゼンは、市販の化合物である。トリアルキルシラン(上記反応スキーム中の化合物d)は、市販の化合物としてあるいは市販の原料から公知の方法を用いて合成することができる。また、1,3,6,8-テトラブロモピレンは、市販のピレンより公知の方法(参考文献名を後述する)を用いて、以下に示す反応により合成することができる。
【化7】

【0016】
二口ナス型フラスコにピレン 202 mg (1.00 mmol)、ニトロベンゼン 2 mlを加えた。この混合物に臭素 670 mg (4.19 mmol)を加え、よく撹拌しながら2時間かけて125 ℃まで温度を上げ、さらに2時間撹拌した。反応終了後、薄黄色粉末を50℃で熱時濾過し、エタノールでよく洗浄した。得られた薄黄色粉末を約100倍量のニトロベンゼンで再結晶を行い、薄黄色針状晶のテトラブロモピレンを得た(収量:347 mg、収率:70.0%)。
参考文献
(1)H. Vollmann, H. Becker, M. Correll, H. Streeck, Justus Liebigs Ann. Chem., 1937, 531, 1.
(2)G. Venkataramana, S. Sankararaman, Eur. J. Org. Chem., 2005, 4162-4166.
(3)特許:DE4307049A1
【0017】
本発明の化合物を加熱融解させ、融解液とすることによって材料または化合物を基板上に塗布または印刷することができる。また、この融解液を用いると毛細管現象を利用して狭間隔のセルに材料を封入することが出来、ノズルを使った滴下による印刷方法も利用することが出来る。他方、この融解液をペーストとして用いることにより、任意の厚さを持つ有機半導体厚膜を作成することが出来る。
【0018】
本発明の化合物を溶かすことが出来る有機溶媒としては種々の有機溶媒が挙げられる。使用する有機溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−プロパノール、酢酸エチル、乳酸エチル、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、シクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ブチルセルソルブ、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0019】
本発明の化合物は前記有機溶媒に極めて良く溶解するので、高濃度溶液を得ることが出来る。従って、この溶液を基板上に塗布または印刷することにより、有機半導体薄膜を作成することが出来る。有機半導体素子に使用する有機半導体薄膜の厚さは、通常10〜1000ナノメートルであり、溶液中の材料の濃度は、0.1〜10重量%である。1,000ナノメートルより厚い有機半導体薄膜を作成するときには、融解した材料をそのまま使用することが好ましい。
【0020】
さらに上記化合物以外に必要に応じて各種添加剤として、たとえば酸化防止剤、光安定剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、滑剤、溶媒、老化防止剤、濡れ性改良材等を必要に応じて配合することができる。
【0021】
本発明の化合物およびその溶液を塗布または印刷できる基板としては種々の基板が挙げられる。使用する基板としては、例えば、ガラス基板、金や銅や銀等の金属基板、結晶性シリコン基板、アモルファスシリコン基板、トリアセチルセルロース基板、ノルボルネン基板、ポリエチレンテレフタレート基板、ポリエステル基板、ポリビニル基板、ポリプロピレン基板、ポリエチレン基板、紙などが挙げられる。
【0022】
本発明の化合物およびそれらの溶液を塗布する方法としては種々の方法が挙げられ、例えばスピンコート法、ディップコート法、ブレード法などが挙げられる。
【0023】
本発明の化合物およびそれらの溶液を印刷する方法としては種々の方法が挙げられ、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、平版印刷、凹版印刷、凸版印刷などが挙げられる。なかでも材料の溶液をそのままインクとして用いたプリンタにより行うインクジェット印刷は、簡易な方法であり好ましい。
【0024】
本発明の化合物は適度に低い透明点と有機溶媒に対する高い溶解性を有するため、キャスト法または印刷法等の簡便な製膜工程を利用することが出来るので、材料が有する本来の電荷移動度を損なうことなく、有機半導体薄膜または有機半導体素子を製造することが出来る。
【0025】
本発明は、本発明の化合物を含有する有機半導体薄膜、基板表面の少なくとも一部に本発明の化合物を含有する有機半導体薄層を有する構造物、基板表面の少なくとも一部に設けられた電極表面の少なくとも一部に本発明の化合物を含有する有機半導体薄層を有する有機半導体素子、ゲート電極、誘電体層、ソース電極、ドレイン電極、および半導体層を含むトランジスタであって、該半導体層が本発明の化合物を含有する有機半導体薄層であるトランジスタを包含する。
【0026】
本発明の化合物を用いて製造できる有機半導体薄膜および有機半導体素子について説明する。
【0027】
有機半導体素子を製造する際、印刷によりパターニングを行うことが好ましく、さらに印刷には本発明の化合物の高濃度溶液または融解液を用いるのが好ましい。高濃度溶液または融解液を用いると、インクジェット印刷、マスク印刷、スクリーン印刷およびオフセット印刷を活用でき、便利である。また、印刷による有機半導体素子の製造は、回路の単純化、製造効率の向上および素子の低廉化・軽量化に寄与する。前述の通り、加熱や真空プロセスの必要性がなく流れ作業によって製造できるので、低コスト化および工程変更への対応性を増すことに寄与する。こういった観点から、有機溶媒への極めて高い溶解性を示す本発明の化合物は優れている。
【0028】
本発明の化合物は、合成有機高分子を組み合わせて、樹脂組成物(ブレンド樹脂)として使用することができる。ブレンド樹脂における本発明の化合物の含有量は、1重量%〜99重量%、好ましくは10重量%〜99重量%、より好ましくは50重量%〜99重量%である。
【0029】
上記合成有機高分子としては、熱可塑性高分子、エンジニアリングプラスチックス、導電性高分子が挙げられる。具体的にはポリエステル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリシクロオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアリレンビニレンなどがある。
【0030】
本発明の有機半導体薄膜を構成要素の一つとし、整流機能または信号処理機能を有する素子として用い、他の半導体性を有する有機物または無機物と組み合わせることによって、整流素子または電流駆動型トランジスタ、スイッチング動作を行うサイクリスタ・トライアック・ダイアックなどの素子を構成することができる。また、表示素子としても用いることができ、特にすべての部材を有機化合物で構成した表示素子が有用である。例えば液晶表示素子や電子ペーパーなどに使用することができる。具体的には可とう性を示す高分子体でできた絶縁基板の上に、本発明の有機半導体薄膜と、この薄膜を機能させる構成要素を含む1つ以上の層とを形成し、電子ペーパーやICカードタグなどのフレキシブルなシート状表示装置または固有識別符号応答装置を作成することができる。フレキシブルなシート状表示素子は、本発明の有機半導体薄膜を可とう性のある高分子基板上に形成した表示素子を用いることで提供する。この可とう性の効果により、衣類のポケットや財布などに入れて携帯することができる表示素子が実現される。
【0031】
固有識別符号応答装置は、特定周波数または特定符号を持つ電磁波に反応し、固有識別符号を含む電磁波を返答するものである。固有識別符号応答装置は、例えば、再利用可能な乗車券または会員証、代金の決済手段、荷物または商品の識別用シール、荷札または切手の役割、会社または行政サービスなどにおいて、高い確率で書類または個人を識別する手段として用いられる。
【0032】
固有識別符号応答装置は、ガラス基板または可とう性のある高分子基板の上に、信号に同調して受信するための空中線と、受信電力で動作し識別信号を返信する半導体素子とによって構成される。
【0033】
本発明の有機半導体素子は電力増幅素子や信号制御素子として用いられるが、その具体的例として、断面構造を有する電界効果型トランジスタ(FET)がある。FETを作成するには、まずガラス基板上にドレイン電極を形成する。必要に応じて絶縁層を積層してもよい。その上に、化合物(1)の溶液または融解液を印刷、塗布または滴下することによって有機半導体薄膜を形成し、さらに必要に応じて絶縁膜を形成し、その上にゲート電極を形成すればよい。
【0034】
このFETは、液晶表示素子やEL素子としても用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に検討する。
【0036】
分析機器としては以下のものを使用した。
・核磁気共鳴分光 (NMR) 測定
200 MHz Bruker DPX 200
300 MHz Bruker AVANCE 300
400 MHz Bruker DPX 400
500 MHz Bruker AVANCE 500
【0037】
・赤外分光 (IR) 測定
日本分光 FT/IR-125HK
【0038】
・偏光顕微鏡観察
偏光顕微鏡 Nikon OPTIPHO2-POL
ヒーター METTLER FP90
【0039】
・DSC測定
熱分析装置 (DSC) Seiko Instruments Inc. DSC6200
【0040】
・XRD測定
粉末X線回折装置(水平型) (XRD) Rigaku Rint Ultima III(CuKα)
【0041】
・蛍光スペクトル
蛍光分光光度計 JASCO Spectrofluorometer FP-750
実施例1
トリアルキルシラン2 (m-n)の合成
【化8】

【0042】
以下に、例として、ジメチルペンチルシラン 2 (5-1)の合成方法を記す。但し、2 (6-1)、2 (7-1)および2 (8-1)も同様に合成できる。
【0043】
窒素雰囲気下、マグネシウム1.98 g (82.5 mmol)にdry THF 40 mlを加え、これに1-ブロモペンタン11.33 g (75.0 mmol)を1時間かけて滴下し、室温で2時間攪拌した。これを、別途用意したクロロジメチルシラン 5.68 g (60.0 mmol) dry THF 10 ml溶液に30分かけて滴下し、14時間加熱還流した。水を加え反応をクエンチし、吸引濾過でマグネシウム塩を取り除いた。溶媒を減圧留去した後、ヘキサン、水を用いた分液で抽出を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去する事で黄色透明液体を得た。最後にクーゲルロアを用いて減圧蒸留を行い、透明液体である2 (5-1)を得た。
【0044】
収量 4.36 g (33.5 mmol)
収率 55.8%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.0616 (d, 6H, J = 3.7 Hz, CH3), 0.547-0.609 (m, 2H, CH2), 0.866-0.909 (m, 3H, CH3), 1.27-1.35 (m, 6H, CH2), 3.82-3.87 (m, 1H, SiH)
【0045】
他の2 (m-n)も2 (5-1)と同様の方法で合成した。その収量、収率を記す。
【0046】
ジメチルヘキシルシラン 2 (6-1) 収量 6.14 g (42.5 mmol)、収率 71.0%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.0591 (d, 6H, J = 3.7 Hz, CH3), 0.549-0.612 (m, 2H, CH2), 0.864-0.911 (m, 3H, CH3), 1.27-1.33 (m, 8H, CH2), 3.81-3.88 (m, 1H, SiH)
【0047】
ジメチルヘプチルシラン 2 (7-1) 収量 6.47 g (40.9 mmol)、収率 68.1%
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.0579 (d, 6H, J = 3.7 Hz, CH3), 0.557-0.581 (m, 2H, CH2), 0.862-0.898 (m, 3H, CH3), 1.26-1.32 (m, 10H, CH2), 3.81-3.87 (m, 1H, SiH)
【0048】
ジメチルオクチルシラン 2 (8-1) 収量 5.39 g (31.3 mmol)、収率 52.1%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.0567 (d, 6H, J = 3.7 Hz, CH3), 0.552-0.571 (m, 2H, CH2), 0.860-0.884 (m, 3H, CH3), 1.28-1.41 (m, 12H, CH2), 3.81-3.86 (m, 1H, SiH)
【0049】
実施例2
クロロトリアルキルシラン3 (m-n)の合成
【化9】

【0050】
以下に、例として、クロロジメチルペンチルシラン 3 (5-1)の合成方法を記す。但し、3 (6-1)、3 (7-1)および3 (8-1)も同様に合成できる。
【0051】
窒素雰囲気下、dry CCl4 10 mlに2 (5-1) 1.0 g (7.67 mmol)、PdCl2 30 mg (0.169 mmol)を加え室温で5時間攪拌した。溶媒を窒素雰囲気下で減圧留去した後、クーゲルロアを用いて窒素雰囲気下で減圧蒸留を行い透明液体である3 (5-1)を得た。
【0052】
収量 0.800 g (4.86 mmol)
収率 63.3%
【0053】
他の3 (m-n)も3 (5-1)と同様の方法で合成した。その収量、収率を記す。
【0054】
クロロジメチルヘキシルシラン 3 (6-1) 収量 1.59 g (8.92 mmol)、収率 88.6%
クロロジメチルヘプチルシラン 3 (7-1) 収量 546 mg (2.83 mmol)、収率 56.6%
クロロジメチルオクチルシラン 3 (8-1) 収量 474 mg (2.29 mmol)、収率 65.1%
【0055】
実施例3
3,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ブロモベンゼン5の合成
【化10】

【0056】
窒素雰囲気下、4 3.25 g (10.3 mmol)をdry THF 30 mlに溶解し、PdCl2(PPh3)2 362 mg (0.52 mmol)、PPh3 271 mg (1.03 mmol)、iPr2NH 10 ml、TMSA 2.23 g (22.7 mmol)、CuI 99 mg (0.52 mmol)を加え、50 ℃で20時間加熱した。室温まで放冷した後、金属触媒を取り除く為に、セライト濾過を行い、濾液を減圧下濃縮した。クロロホルム、水を用いて分液操作を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、茶色粘性液体を得た。展開溶媒にヘキサンを用いたシリカゲルカラム精製後、同じく展開溶媒にヘキサンを用いてシリカゲルTLC精製を行い、透明な粘性液体である5を得た。
【0057】
収量 2.04 g (5.82 mmol)
収率 56.4%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.236 (s, 18H, CH3), 7.49 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.53 (d, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H)
【0058】
実施例4
3,5-ジエチニルブロモベンゼン6の合成
【化11】

【0059】
5 1.77 g (5.08 mmol)をTHF 10 mlに溶かし、6 N KOH 6.8 ml (40.1 mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後に、クロロホルム、水を用いて分液を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧溜去し、黄色固体を得た。展開溶媒にヘキサンを用いたシリカゲルカラム精製を行うことで、白色結晶である6を得た。
【0060】
収量 913 mg (4.45 mmol)
収率 87.6%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 3.13 (s, 2H, CH), 7.52 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.60 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H)
【0061】
実施例5
3,5-ビス(トリアルキルシリルエチニル)ブロモベンゼン7 (m)の合成
【化12】

【0062】
以下に、例として、3,5-ビス(ジメチルペンチルシリルエチニル)ブロモベンゼン 7 (5) の合成方法を記す。但し、7 (6)、7 (7)、7 (8)も同様に合成できる。
【0063】
窒素雰囲気下、200 ml 三口ナスフラスコに6 913 mg (4.45 mmol)を加え、THF 40 mlに溶かした。また別途用意した100 ml 三口ナスフラスコに窒素雰囲気下で、マグネシウム401 mg (16.5 mmol)、dry THF 40 mlを加え、これにブロモエタン 1.64 g (15.0 mmol)を投入し、室温で2時間攪拌する事で、臭化エチルマグネシウムを調製した。調製した臭化エチニルマグネシウムを6の入った200 ml 三口ナスフラスコに、シリンジで15分かけて滴下し、1時間加熱還流した後、3 (5-1) 1.83 g (11.4 mmol)を加え、12時間加熱還流を行った。反応液に1 N HClを加え反応をクエンチし、溶媒を減圧留去し、ヘキサン、水を用いて分液を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、黄色透明液体を得た。最後に展開溶媒にヘキサンを用いたシリカゲルカラム精製を行うことで、透明液体である7 (5)を得た。
【0064】
収量 1.36 g (2.94 mmol)
収率 66.1%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.170 (s, 12H, CH3), 0.635 (t, 4H, J = 8.1 Hz, CH2), 0.867 (t, 6H, J = 6.8 Hz, CH3), 1.29-1.38 (m, 12H, CH2), 7.44 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.49 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H)
【0065】
他の7(m)も7(5)と同様の方法で合成した。その収量、収率を記す。
【0066】
7 (6) 収量 250 mg (0.511 mmol)、収率 65.4%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.200 (s, 12H, CH3), 0.675 (t, 4H, J = 7.9 Hz, CH2), 0.893 (t, 6H, J = 6.8 Hz, CH3), 1.30-1.37 (m, 16H, CH2), 7.47 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.53 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H)
【0067】
7 (7) 収量 232 mg (0.448 mmol)、収率 70.1%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.200 (s, 12H, CH3), 0.671 (t, 4H, J = 7.9 Hz, CH2), 0.887 (t, 6H, J = 6.8 Hz, CH3), 1.28-1.37 (m, 20H, CH2), 7.47 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.53 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H)
【0068】
7 (8) 収量 168 mg (0.308 mmol)、収率 45.3%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.200 (s, 12H, CH3), 0.671 (t, 4H, J = 7.9 Hz, CH2), 0.881 (t, 6H, J = 6.7 Hz, CH3), 1.28-1.37 (m, 24H, CH2), 7.47 (t, 1H, J = 1.4 Hz, Ar-H), 7.53 (d, 2H, J = 1.4 Hz, Ar-H)
【0069】
実施例6
1,3,6,8-テトラキス(トリメチルシリルエチニル)ピレン9の合成
【化13】

【0070】
窒素雰囲気下、8 1.23 g (2.38 mmol)をdry THF 70 ml に溶解し、PdCl2(PPh3)2 83.5 mg (0.12 mmol)、PPh3 62.4 mg (0.24 mmol)、iPr2NH 15 ml、TMSA 2.34 g (23.8 mmol)、CuI 22.7 mg (0.12 mmol)、を加え、50 ℃で20時間加熱した。室温まで放冷した後、金属触媒を取り除く為に、セライト濾過を行い、濾液を減圧下濃縮した。クロロホルム、水を用いて分液を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、赤黄色固体を得た。展開溶媒にヘキサンを用いてシリカゲルカラム精製を行うことで、赤色固体である9を得た。
【0071】
収量 1.28 g (2.17 mmol)
収率 91.3%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.383 (s, 36H, CH3), 8.31 (s, 2H, H2 and H7), 8.60 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0072】
実施例7
1,3,6,8-テトラエチニルピレン10の合成
【化14】

【0073】
9 720 mg (1.23 mmol)をTHF 20 mlに溶かし、6 N KOH 25 ml (150 mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧留去後、TMS基が脱保護されきれていない、易溶性のピレン誘導体をクロロホルムを用いて取り除き、水で洗浄した。この濾過物を乾燥させることで黄色固体である10を得た。
【0074】
収量 358 mg (1.20 mmol)
収率 97.6%
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ(ppm) = 5.01 (s, 4H, CH), 8.43 (s, 2H, H2 and H7), 8.70 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0075】
実施例8
1,3,6,8-テトラエチニルピレン誘導体1 (n)の合成
【化15】

【0076】
以下、例として、1,3,6,8-テトラキス〔3,5-ビス(ジメチルペンチルシリルエチニル)フェニルエチニル〕ピレン 1 (5) の合成方法を記す。1 (6)、1 (7)および、1 (8)も同様に合成できる。
【0077】
窒素雰囲気下、10 102 mg (0.34 mmol)をdry Toluene 40 mlに溶解し、PdCl2(PPh3)2 11.9 mg (0.017 mmol)、PPh3 8.9 mg (0.034 mmol)、iPr2NH 20 ml、7 (5) 630 mg (1.37 mmol)、CuI 3.2 mg (0.017 mmol)を加え、50℃で48時間加熱した。室温まで放冷した後、金属触媒を取り除く為に、セライト濾過を行い、濾液を減圧下濃縮した。クロロホルム、水を用いて分液を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、赤色粘性液体を得た。展開溶媒にヘキサンを用いてシリカゲルカラム精製とシリカゲルTLC精製、そして分子ふるいカラム精製を行った。最後に溶媒にアセトンを用いて、メンブレンフィルターで濾過精製を行うことで、オレンジ色固体である1 (5)を得た。
【0078】
収量 163 mg (0.090 mmol)
収率 26.2%
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.251 (s, 48H, CH3), 0.713 (t, 16H, J = 8.0 Hz, CH2), 0.924 (t, 24H, J = 7.0 Hz, CH3), 1.36-1.47 (m, 48H, CH2), 7.60 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.75 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 8.41 (s, 2H, H2 and H7), 8.74 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0079】
他の1 (n)は、1 (5)と同様の操作で合成した。その収量、収率を記す。
【0080】
1 (6) 収量 8.0 mg (4.1×10-3 mmol)、収率 8.1%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.243 (s, 48H, CH3), 0.715 (t, 16H, J = 7.9 Hz, CH2), 0.905 (t, 24H, J = 6.8 Hz, CH3), 1.26-1.41 (m, 64H, CH2), 7.60 (t, 1H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 7.75 (d, 2H, J = 1.5 Hz, Ar-H), 8.41 (s, 2H, H2 and H7), 8.75 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0081】
1 (7) 収量 21.9 mg (0.011 mmol)、収率 10.1%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.241 (s, 48H, CH3), 0.711 (t, 16H, J = 7.9 Hz, CH2), 0.888 (t, 24H, J = 6.8 Hz, CH3), 1.26-1.42 (m, 80H, CH2), 7.60 (t, 1H, J = 1.8 Hz, Ar-H), 7.75 (d, 2H, J = 1.8 Hz, Ar-H), 8.41 (s, 2H, H2 and H7), 8.75 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0082】
1 (8) 収量 32.0 mg (0.015 mmol)、収率 19.3%
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ(ppm) = 0.243 (s, 48H, CH3), 0.710 (t, 16H, J = 8.0 Hz, CH2), 0.870 (t, 24H, J= 6.8 Hz, CH3), 1.28-1.43 (m, 96H, CH2), 7.60 (t, 1H, J = 1.6 Hz, Ar-H), 7.75 (d, 2H, J = 1.6 Hz, Ar-H), 8.41 (s, 2H, H2 and H7), 8.75 (s, 4H, H4, H5, H9, H10)
【0083】
試験例
物性測定方法
(1)相転移挙動の調査
化合物1(5)、1(6)、1(7)、1(8)の相転移温度を、示差走査熱量計(DSC) (スキャン速度5℃/min.)を用いて測定した。1 (n)の相転移挙動を表1および図1に示す。
【0084】
【化16】

1 (n) の相転移挙動
【0085】
【表1】

略語: Cr = 結晶相(Crystalline phase), I = アイソトロピック相(Isotropic phase),
Colr = 正方晶カラムナー相(Rectangular columnar phase).
a) DSC測定の間に結晶化せず
【0086】
化合物1(5)、1(6)、1(7)の光学組織を、偏光顕微鏡(POM)を用いて観察した。結果を図2〜4に示す。
【0087】
化合物1(5)、1(6)の詳細な相同定はX線回折装置(XRD)を用いて行った。化合物1(5)のX線回折パターンを図5に示し、X線回折データを表2に示し、Debye-Scherrer ringを図6に示す。図7にColr [正方晶カラムナー相(Rectangular columnar phase)]のモデルを示す。化合物1(6)のX線回折パターンを図8に示し、X線回折データを表3に示し、Debye-Scherrer ringを図9に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
(2)電荷輸送能の評価
(a)評価用サンプルの作成(図19参照):
試料用セルは、2枚のソーダーライムガラスの表面にITO薄膜がコーティングされており、2枚のガラス板のITO薄膜面を重ね合わせることで作成されている(E.H.C.製を使用した)。ITO電極間の距離は5μmで固定されているものを使用した。液晶化合物1(6)を試料用セルの隙間にのせ、これを120℃のチャンバーに入れ、毛細管現象を利用してセルの隙間に液晶化合物1(6)を導入した。(試料用セルをチャンバー内に導入し、これを減圧することで試料用セル内の空気を抜いた。チャンバー内がしっかり減圧されていることを確認後、徐々に(1時間かけて)リークし、常圧に戻した。) 液晶化合物1(6)が、試料用セルに導入されたことを確認後、120℃から室温に1時間かけ冷却し、伝導性評価用サンプルを作成した。
【0091】
(b)電荷輸送能の評価方法
液晶化合物の電荷(正孔)輸送能の評価はTime of flight (TOF)法を用いて行った。図10にホール輸送能測定用TOF実験装置の典型例を示す。TOF法を用いた電荷輸送能の測定は、まず、サンドイッチ型の試料セルに電圧を印加し、励起光となるパルスレーザーを照射する事によって、試料セルの一方の電極界面付近にシート状にキャリアを生成させる。次に生成させたキャリアの移動に伴って試料に流れる過渡的な変位電流をオシロスコープを用いて測定し、その波形からキャリアの走行時間τtを測定する。最後に、キャリアの走行距離である膜厚dを走行時間と電界強度Eで割る事によってキャリアの移動度μを決定している。
【数1】

この方法は実際のデバイスに用いられるμmホールでの電荷輸送特性を評価する事が出来る。
【0092】
1 (5)のホール輸送能の測定
1 (5)のホール輸送能を75℃から140℃の温度範囲において測定した。測定法は、実際のデバイスに用いられるμmスケールでの電荷輸送特性を評価する事が出来るTOF法を用いた。また、試料セルは膜厚が5μmのITO電極付き石英ガラスの間に、溶融状態の1 (5)を注入後、徐冷するcapillary-filling法を用いて作製した。結果を図11および12に示す。
【0093】
1 (5)のホール移動度の電界依存性の調査
液晶相における電荷移動は粒界によるトラップがほとんど生成しないために、電界強度に対する依存性をほとんど示さない事が知られている。このため、測定した液晶相の電荷移動度の再現性を確かめる為に、温度125℃、電界強度4.0 kV cm-1から7.0 kV cm-1の液晶相におけるホール移動度の電界依存性を調べた(図13)。
【0094】
その結果、図14に示したように、走行時間τtの逆数1/τtと電界強度Eが原点を通過する比例関係となった為、ホール移動度μが電界強度Eに依存しない事が分かった。
【0095】
1 (6)のホール輸送能の測定
カラムナー液晶相の発現に成功した1 (6)のホール輸送能を60℃から103℃の温度範囲において測定した。測定法は、実際のデバイスに用いられるμmスケールでの電荷輸送特性を評価する事が出来るTOF法を用いた。また、試料セルは膜厚が5μmのITO電極付き石英ガラスの間に、溶融状態の1 (6)を注入後、徐冷するcapillary-filling法を用いて作製した。結果を図15および16に示す。
【0096】
1 (6)のホール移動度の電界依存性の調査
測定した液晶相の電荷移動度の再現性を確かめるために、温度100℃、電界強度2.5 kV cm-1から5.0 kV cm-1の液晶相におけるホール移動度の電界依存性を調べた(図17)。
その結果、図18に示したように、走行時間τtの逆数1/τtと電界強度Eが原点を通過する比例関係となった為、1 (6)のホール移動度μは1 (5)と同様に、電界強度Eに依存していない事が分かった。
【0097】
種々のカラムナー液晶化合物と1 (5)、1(6)のホール輸送能の比較
カラムナー液晶相の発現に成功した1 (5)、1 (6)の輸送能を、これまで報告されてきた種々のカラムナー液晶相(A)〜(D)と比較した(表4)。
【0098】
【化17】

【0099】
a) 1(5)(本発明),
b) H 5 T : Hexapentyloxytriphenylene
c) 1,3,6,8-tetrakis(3,4-dioctyloxyphenyl)pyrene
d) HHTT : 2,3,6,7,10,11-hexahexylthiotriphenylene
e) 8 H2Pc : 4,8,11,15,18,22,25-octaoctylphthalocyanine
【0100】
b)の出典
D. Adam, F. Closs, T. Frey, D. Funhoff, D. Haarer, H. Ringsdorf, P. Schuhmacher, K. Siemensmeyer, Phys. Rev. Lett., 1993, 70, 457-460.
c)の出典
M. J. Sienkowaka, H. Monobe, P. Kaszynski and Y. Shimizu, J. Mater. Chem., 2007, 17, 1392-1398.
d)の出典
1) D. Adam, P. Schuhmacher, J. Simmerer, L. Haussling, K. Siemensmeyer, K. H. Etzbachi, H. Ringsdorf, D. Haarer, Nature, 1994, 371, 141-143. 2) H. Iino, Y. Takayashiki, J. Hanna, R. J. Bushby and D. Haarer, Appl. Phys. Lett., 2005, 87, 192105.
e)の出典
H. Iino, J. Hanna, R. J. Bushby, B. Movaghar, B. J. Whitaker, M. J. Cook, Jpn. J. Appl. Phys., 2005, 44, 132102.
【0101】
【表4】

【0102】
(3)蛍光性の評価
カラムナー液晶相の発現に成功した1 (5)及び1 (6)の蛍光スペクトルを測定した。1 (5)のヘキサン溶液の蛍光スペクトル(励起波長 340 nm, 10-6 M (= mol/L)/ヘキサン)を図20に示す。1 (5)及び1 (6)いずれも溶液の蛍光は通常のピレン誘導体に見られる465 nmに最大値、513 nmに極大値を持つ蛍光スペクトルを示した。さらに、1(5)の固体状態(室温)の蛍光スペクトル(励起波長 460 nm) を図21に示す。1(5)及び1(6)いずれも固体状態では、ピレンのエキシマー発光とされる475 nmより長波長の606 nmに極大値を持つ幅広い蛍光(オレンジ色)を示した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の液晶化合物を用いた液晶性半導体は、従来の結晶性有機半導体が抱えている問題を打開する可能性を秘めており、新しい高品質な電子デバイス材料として将来の発展が期待されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】

(式中、Rは、
【化2】

で示され、R1、R2及びR3は、独立に炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基または炭素数が1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキルオキシ基である。)
【請求項2】
R1及びR3は、独立にメチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1及びR3は、独立にメチル基またはメトキシ基である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R2は、炭素数が4〜8の直鎖アルキル基または炭素数が4〜8の直鎖アルキルオキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
R2は、炭素数が5〜6の直鎖アルキル基または炭素数が5〜6の直鎖アルキルオキシ基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄膜。
【請求項7】
基板表面の少なくとも一部に請求項1〜5のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層を有する構造物。
【請求項8】
基板表面の少なくとも一部に設けられた電極表面の少なくとも一部に請求項1〜5のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層を有する有機半導体素子。
【請求項9】
ゲート電極、誘電体層、ソース電極、ドレイン電極、および半導体層を含むトランジスタであって、該半導体層が請求項1〜5のいずれかに記載の化合物を含有する有機半導体薄層であるトランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−236143(P2011−236143A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107814(P2010−107814)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】