説明

液晶性ポリエステル樹脂組成物

【課題】超薄肉部を有するコネクターを成形する上で好適な液晶性ポリエステル樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いてなるコネクターを提供する。
【解決手段】<1>流動開始温度300〜400℃の液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、流動開始温度が260〜350℃であり、且つ液晶性ポリエステル樹脂(A)よりも流動開始温度が低いの液晶性ポリエステル樹脂(B)10〜150重量部を混合してなる液晶性ポリエステル樹脂混合物100重量部に対して、
マイカ、又はマイカ及び繊維状充填材の混合物15〜100重量部を配合してなり、
かつ前記液晶性ポリエステル樹脂(A)と前記液晶性ポリエステル樹脂(B)がいずれも、複素環状有機塩基化合物の存在下の反応で製造された液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、液晶性ポリエステル樹脂組成物。
<2>前記の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いてなるコネクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクター等の電子部品の製造用に好適な液晶性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂は、分子が剛直なため溶融状態においても絡み合いがなく、成形時のせん断により分子鎖が流れ方向に著しく配向し、固化時にもその配向を維持するという特徴により、優れた溶融流動性を有することが知られている。この特徴を活かして、液晶性ポリエステル樹脂に、ガラス繊維などの繊維状補強剤やタルクなどの無機充填剤などを配合した樹脂組成物は、薄肉部を有する成形体、特に、薄肉部を有し、比較的複雑な形状を有するコネクター等の電子部品などを成形する上で好適に使用されている。ところで、近年の表面実装技術の進展や、携帯電話等のモバイル機器に係る軽薄短小化の流れに伴って、使用される電子部品は、より薄肉化が求められ、その形状もより複雑化してきている。このような成形品(コネクター)を成形する樹脂組成物としては、例えば、特許文献1には、特定の製造方法により得られた液晶性ポリエステル樹脂の混合物に無機充填剤を配合して得られる樹脂組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−246923号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示されている樹脂組成物は、薄肉部を有するコネクターの成形に好適に使用することができる。しかしながら、今後、益々超薄肉化が進むコネクターにおいては、より一層の溶融流動性を発現し得る樹脂組成物が求められている。
そこで、本発明の目的は、極めて優れた溶融流動性を有する液晶性ポリエステル樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いてなる、超薄肉部を有するコネクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決し得る液晶性ポリエステル樹脂組成物を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は
<1>流動開始温度300〜400℃の液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、流動開始温度が260〜350℃であり、且つ液晶性ポリエステル樹脂(A)よりも流動開始温度が低い該液晶性ポリエステル樹脂(B)10〜150重量部を混合してなる液晶性ポリエステル樹脂混合物100重量部に対して、
マイカ、又はマイカ及び繊維状充填剤の混合物15〜100重量部を配合してなり、
前記液晶性ポリエステル樹脂(A)と前記液晶性ポリエステル樹脂(B)がいずれも、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下の反応で製造された液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、液晶性ポリエステル樹脂組成物
を提供するものである。
【0006】
また、本発明は前記<1>に係る好適な実施形態として、下記の<2>〜<7>を提供する。
<2>窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物が、下記式(1)で示されるイミダゾール化合物である、<1>の樹脂組成物

・・・(1)
(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基またはフォルミル基を表す。)
<3>前記液晶性ポリエステル樹脂(A)の流動開始温度から、前記液晶性ポリエステル樹脂(B)の流動開始温度を引いた差が20〜60℃であることを特徴とする、<1>又は<2>の液晶性ポリエステル樹脂組成物
<4>前記液晶性ポリエステル(A)と前記液晶性ポリエステル(B)がいずれも、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪族無水物によりアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、該アシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のエステル基とが、エステル交換を起こすようにして、液晶性ポリエステルを重合する重合工程とを有し、該アシル化工程及び該重合工程がともに、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下で行う製造方法により得られる液晶性ポリエステルであることを特徴とする、<1>〜<3>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物
<5>前記液晶性ポリエステル(A)及び前記液晶性ポリエステル(B)がいずれも、
パラヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位と、
4,4'−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位と、
テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構造単位とを
有する液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、<1>〜<3>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物
<6>前記液晶性ポリエステル(A)及び前記液晶性ポリエステル(B)がいずれも、
パラヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(I)、
4,4'−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(II)、
テレフタル酸に由来する構造単位(III)、
及びイソフタル酸に由来する構造単位(IV)を有し、
(II)/(I)のモル比率が0.2〜1.0であり、[(III)+(IV)]/(II)のモル比率が0.9〜1.1であり、(IV)/(III)のモル比率が0より大きく1以下であって、液晶性ポリエステル(A)の(IV)/(III)のモル比率(α)と、液晶性ポリエステル(B)の(IV)/(III)のモル比率(β)との比、α/βが0.1〜0.6であることを特徴とする、<5>の液晶性ポリエステル樹脂組成物
<7>前記繊維状充填剤が、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びチタン酸カリウムウィスカから選ばれる少なくとも1種である、<1>〜<6>のいずれかの液晶性ポリエステル樹脂組成物
【0007】
また、本発明は前記いずれかの樹脂組成物に係る、下記の<8>、<9>を提供する。
<8>前記いずれかに記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする、コネクター
<9>肉厚0.1mm以下の薄肉部を有することを特徴とする、<8>のコネクター
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極めて優れた溶融流動性を有し、超薄肉部を有するコネクターの製造用として好適な液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。当該樹脂組成物は、超薄肉部を有するだけでなく、比較的長尺状であるコネクターを成形した場合においても、反り量が極めて小さいことから実用性に優れたコネクターを製造することができるため、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<液晶性ポリエステル樹脂>
本発明に適用する液晶性ポリエステル樹脂(A)及び液晶性ポリエステル樹脂(B)[以下、まとめて「2つの液晶性ポリエステル樹脂」と呼ぶことがある。]は、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、400℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。当該液晶性ポリエステル樹脂としては、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの
等を具体的に挙げることができる。なお、製造上の容易さから、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールの代わりにそれらのエステル形成性誘導体を使用してもよい。エステル形成性誘導体とは、分子内にカルボキシル基を有する、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の場合は、カルボキシル基を、高反応性の酸ハロゲン基や酸無水物などの基に転化したもの、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールとエステルを形成しているもの等を挙げられる。また、分子内にフェノール性水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの場合は、当該フェノール性水酸基を、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基が低級カルボン酸類とエステルを形成しているものも挙げることができる。
かかる液晶性ポリエステル樹脂において、好適な製造方法については後述する。
【0011】
本発明に適用する、2つの液晶性ポリエステル樹脂はいずれも、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物(以下、「複素環状有機塩基化合物」と略称する。)の存在下の反応により製造されたものである。複素環状有機塩基化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジピリジリル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザフェナントレン化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン、N,N-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0012】
イミダゾール化合物としては、前記式(1)で示されるイミダゾール化合物が好ましく使用される。
(1)式で示されるイミダゾール化合物の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−4エチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−エチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、4−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]尿素、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2'−ウンデシルイミダゾリル(−(1'))−エチル−S−トリアジン]、2,4−ジアミノ−6−[2−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−S−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N'−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N'−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)アジポアミド、2,4−ジアルキルイミダゾール−ジチオカルボン酸、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ビス(シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−アルキル−4−フォルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、イミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−メチルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ウンデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ヘプタデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−フェニルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、4−ジメチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−エチル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−フェニル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N'−[2−メチルイミダゾリル(1)−エチル]−アジポイルジアミド、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−4−フォルミルイミダゾール等が挙げられる。
【0013】
トリアゾール化合物としては、例えば、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。ジピリジリル化合物としては、例えば、2,2'−ジピリジリル、4,4'−ジピリジリルなどが挙げられる。フェナントロリン化合物としては、例えば、ピリミジン、プリン、1,7−フェナントロリン、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。ジアザフェナントレン化合物としては、例えば、ピリダジン、トリアジン、ピラジン、1,8−ジアザフェナントレンなどが挙げられる。
【0014】
複素環状有機塩基化合物としては、反応性の観点から前記式(1)で表されるイミダゾール化合物が好ましく、色調の観点からR1が炭素数1〜4のアルキル基、R2〜R4が水素原子であるイミダゾール化合物がさらに好ましく、さらに入手が容易であるため、1-メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾールが特に好ましい。
【0015】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物においては、流動開始温度が300〜400℃である液晶性ポリエステル樹脂(A)と、この液晶性ポリエステル樹脂(A)よりも流動開始温度が低く、その流動開始温度が260〜350℃である液晶性ポリエステル樹脂(B)とを使用する。ここで、流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度を意味する。
【0016】
液晶性ポリエステル樹脂(A)の流動開始温度が300℃未満である場合には、耐熱性が不十分となる傾向があり、流動開始温度が400℃を超えると、液晶性ポリエステル樹脂組成物が熱分解するため成形加工が困難となり良好な成形品を得ることができない傾向がある。液晶性ポリエステル樹脂(B)の流動開始温度が260℃未満である場合には、耐熱性が不十分となる傾向があり、流動開始温度が350℃を超えると溶融流動性が低下する傾向がある。
【0017】
また、液晶性ポリエステル樹脂(A)の流動開始温度から液晶性ポリエステル樹脂(B)の流動開始温度を引いた差が20〜60℃であると好ましい。流動開始温度の差が、この範囲であると、液晶性ポリエステル樹脂混合物の溶融流動性がより良好になる傾向があり、流動開始温度が低い液晶性ポリエステル樹脂(B)が、成形時に劣化し難い傾向があるので好ましい。
【0018】
次に、2つの液晶性ポリエステル樹脂について好適なものを具体的に説明する。
この2つの液晶性ポリエステル樹脂は、前述の流動開始温度を満足させる観点から、前記例示の中でも、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、が好ましく、具体的には、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位と、芳香族ジオールに由来する構造単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位とからなる液晶性ポリエステル樹脂が好ましい。この液晶性ポリエステル樹脂は全芳香族液晶性ポリエステル樹脂と呼ばれ、極めて高度の耐熱性を有するものである。
【0019】
以下、本発明に適用する液晶性ポリエステル樹脂を構成する構造単位の具体例を挙げる。

芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:



(前記の構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)
【0020】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:


(前記の構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)
【0021】
芳香族ジオールに由来する構造単位:


【0022】

(前記の構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。)
【0023】
前記の構造単位に係る置換基について簡単に説明する。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられる。アリール基としては典型的にはフェニル基が挙げられる。
【0024】
次に、液晶性ポリエステル樹脂の構造単位の組合わせ及び該構造単位の存在比(共重合比)について詳述する。
本発明に適用する液晶性ポリエステル樹脂としては、耐熱性や機械的特性等の特性のバランスから、前記(A1)の構造単位を少なくとも30モル%含むが好ましく、構造単位の組み合わせが、下式の(a)〜(f)であるものが好ましい。
(a):(A1)、(B1)及び(C1)の組み合わせ、又は、(A1)、(B1)と(B2)及び(C1)の組み合わせ、
(b):(A1)及び(A2)の組み合わせ
(c):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(A1)の一部を(A2)で置き換えた組み合わせ
(d):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(B1)の一部を(B3)で置き換えた組み合わせ
(e):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(C1)の一部を(C3)で置き換えた組み合わせ
(f):(b)の構造単位の組み合わせに(B1)と(C1)の構造単位を加えた組み合わせ
なお、このような構造単位の組合わせにおいて、液晶性ポリエステル樹脂分子の直線性を向上させると、その流動開始温度が上がることを利用して、互いに流動開始温度の異なる、液晶性ポリエステル樹脂(A)と液晶性ポリエステル樹脂(B)を作り分けることができる。より具体的には、前記の(B1)と(B2)において、(B1)は液晶性ポリエステル樹脂分子の直線性を向上させ、(B2)は液晶性ポリエステル樹脂分子の屈曲性を向上させる(直線性を低下させる)ので、この(B1)と(B2)の共重合比をコントロールすることにより、流動開始温度を設計することができる。
【0025】
次に、好適な液晶性ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
本発明で用いる液晶性ポリエステル樹脂は、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、該アシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基とが、エステル交換を起こすようにして、液晶性ポリエステルを重合する重合工程とを有し、該アシル化工程及び該重合工程がともに、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下の反応で製造された液晶性ポリエステル樹脂であると好ましい。
【0026】
以下、好適な液晶性ポリエステルの製造方法について説明する。
まず、芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を、脂肪酸無水物でアシル化(アシル化反応)するアシル化工程について説明する。
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(前記(C1)を誘導する芳香族ジオール)、ハイドロキノン(前記(C2)を誘導する芳香族ジオール)、レゾルシン(前記(C3)を誘導する芳香族ジオール)、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン(前記(C4)を誘導する芳香族ジオール)、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(前記(C5)を誘導する芳香族ジオール)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(前記(C6)を誘導する芳香族ジオール)等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが、入手が容易であるため好ましく、上述のように4,4’−ジヒドロキシビフェニルがより好ましく使用される。
【0027】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸(前記(A1)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(前記(A2)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−パラヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、パラヒドロキシ安息香酸及び/又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が、入手が容易であるため好ましく、上述のようにパラヒドロキシ安息香酸がより好ましく使用される。
【0028】
脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでない。これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、無水酢酸が特に好ましく使用される。
【0029】
芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸に対する脂肪酸無水物の使用量は、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基の合計に対して、1.0〜1.2倍当量が好ましく、1.0〜1.15倍当量がより好ましく、1.03〜1.12倍当量がさらに好ましく、1.05〜1.1倍当量が特に好ましい。脂肪酸無水物の使用量が、該フェノール性水酸基に対して1.0倍当量未満の場合には、アシル化反応時の平衡が脂肪酸無水物側にずれてポリエステルへの重合時に未反応の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸が昇華し、反応系が閉塞する傾向があり、また1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶性ポリエステル樹脂の着色が著しくなる傾向がある。
【0030】
アシル化反応は、130〜180℃で30分〜20時間反応させることが好ましく、140〜160℃で1〜5時間反応させることがより好ましい。
【0031】
次に、前記アシル化工程によって得られたアシル化物(芳香族ジオールのアシル化物及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物)のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基とを、エステル交換させて(エステル交換反応)、液晶性ポリエステル樹脂を重合する重合工程について説明する。なお、この芳香族ジカルボン酸は、前記アシル化工程の際に、反応系中に存在させていてもよく、換言すれば、アシル化工程において、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を同一反応系中に存在させていてもよい。これは、芳香族ジカルボン酸にあるカルボキシル基及び任意に置換されていてもよい置換基は、いずれも脂肪酸無水物によって何ら影響を受けないためである。よって、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を同一の反応機に仕込んで、脂肪酸無水物によってアシル化反応を実施する形式でもよく、先に、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応機に仕込んで、脂肪酸無水物によってアシル化反応させた後に、芳香族ジカルボン酸を反応機に仕込む形式でもよい。操作上の簡便さから前者の形式がより好ましい。
【0032】
ここで、芳香族ジカルボン酸を具体的に例示すると、テレフタル酸(前記(B1)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、イソフタル酸(前記(B2)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(前記(B3)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が、入手が容易であるため好ましく、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸がより好ましく使用される。
【0033】
芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸をアシル化して得られたアシル化物のアシル基の合計に対する、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基の合計の当量比は、は、0.8〜1.2倍当量倍であることが好ましく、この当量比になるようにして、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の使用量を決定することが好ましい。
【0034】
エステル交換反応は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させることが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら反応させることがより好ましい。
【0035】
さらに、前記エステル交換反応を行う際、平衡をずらすために、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させて系外へ留去することが好ましい。また、留出する脂肪酸の一部を還流させて反応器に戻すことによって、脂肪酸と同伴して蒸発または昇華する原料などを凝縮または逆昇華し、反応器に戻すこともできる。この場合、析出したカルボン酸を脂肪酸とともに反応器に戻すことが可能である。
【0036】
前記のアシル化反応及びエステル交換反応はいずれも、複素環状含有機塩基化合物の存在下で実施される。
複素環状含有機塩基化合物の添加量は、液晶性ポリエステル樹脂の原料である芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の合計100重量部に対して、0.005〜1重量部が好ましく、色調、生産性の観点から0.05〜0.5重量部であることがより好ましい。添加量が0.005重量部未満では、衝撃強度等の改善効果が少ない傾向があり、1重量部を超える場合、反応の制御が困難となる傾向がある。複素環状有機塩基化合物は、アシル化反応及びエステル交換反応の際の一時期に存在しておればよく、その添加時期は特に限定されず、反応開始の直前であっても、反応中に添加してもよい。このようにして得られる液晶性ポリエステル樹脂は、成形時において、より優れた溶融流動性を示すという利点がある。
【0037】
エステル交換反応の後に、種々の物性を向上させるために固相重合を行なうことができる。固相重合とは、前記重合工程の後に、得られた樹脂を冷却して取り出し、該樹脂を粉砕によって粉体状としたり、粉体状にした樹脂を造粒してペレット状としたりして、得られる固体状態(粉体状又はペレット状)の樹脂をさらに加熱して高分子量化するといった一連の操作で行う重合である。該固相重合の昇温速度、処理温度は樹脂が融着しない条件で行なうことが好ましく、最終処理温度Tfを変えることにより目的とする流動開始温度の液晶性ポリエステル樹脂を得ることができる。例えば、流動開始温度がA℃の液晶性ポリエステル樹脂を得るためには、Tfを(A−30)℃〜(A−60)℃とすればよい。なお、この固相重合に拠れば、液晶性ポリエステル樹脂の高分子量化を達成し易いので、より長時間の固相重合を行うことにより、より高温の流動開始温度の液晶性ポリエステル樹脂を製造することができる。したがって、該固相重合の重合条件を適宜最適化することにより、互いに流動開始温度の異なる、液晶性ポリエステル樹脂(A)と液晶性ポリエステル樹脂(B)を作り分けることができる。
【0038】
また、重合工程や固相重合におけるエステル交換反応を促進して重合速度を増加させる目的で、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で微量の触媒を添加してもよい。添加される触媒としては、例えば、酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、しゅう酸第一スズ、酢酸第一スズ、ジアルキルスズ酸化物、ジアリールスズ酸化物などのスズ化合物、二酸化チタン、チタンアルコキシド、アルコキシチタンケイ酸類などのチタン化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸第一鉄などの有機酸の金属塩、トリフッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどのルイス酸類、アミン類、アミド類、塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられる。
【0039】
アシル化反応およびエステル交換反応は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行なうことができる。
【0040】
さらに、本発明で用いる液晶性ポリエステル樹脂としては、前記(A1)で表されるパラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I)、前記(C1)で表される4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II)、前記(B1)で表されるテレフタル酸由来の構造単位(III)、及び前記(B2)で表されるイソフタル酸由来の構造単位(IV)からなり、それぞれ(II)/(I)のモル比率が0.2〜1.0、[(III)+(IV)/(II)]のモル比率が0.9〜1.1、(IV)/(III)のモル比率が0より大きく1以下であるものがより好ましい。このような、各構造単位のモル比率によって、前記好適な誘導開始温度を有する液晶性ポリエステル樹脂を製造することが可能となる。なお、この各構造単位のモル比率は、当該各構造単位を誘導する各原料の仕込量でコントロールすることができる。
【0041】
また、上述のように液晶性ポリエステル樹脂の直線性をコントロールできる、(B1)及び(B2)の構造単位の共重合比で、2つの液晶性ポリエステル樹脂の流動開始温度をコントロールする観点からは、液晶性ポリエステル樹脂(A)の(IV)/(III)のモル比率(α)と、液晶性ポリエステル樹脂(B)の(IV)/(III)のモル比率(β)との比α/βとした場合、α/βが0.1〜0.6であることが好ましい。
【0042】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、前記の液晶性ポリエステル樹脂(A)と液晶性ポリエステル樹脂(B)からなる液晶性ポリエステル樹脂混合物を使用し、かかる混合物における、液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対する液晶性ポリエステル樹脂(B)の配合量は10〜150重量部である。10重量部未満の場合には溶融流動性が低下し易く、150重量部より多いと耐熱性が低下する。
【0043】
<充填剤>
本発明のコネクター用液晶性ポリエステル樹脂組成物に配合される充填剤は、マイカを必須とする。ここで、マイカとは、アルカリ金属を含有するアルミノ珪酸塩のことであり、市場から種々の樹脂充填剤としてのマイカを入手することができる。
本発明で使用されるマイカは、平均粒径は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは20〜50μmである。平均粒径が10μm未満の場合、射出成形時にノズルから樹脂が垂れるため成形加工性に劣る傾向がある。また、平均粒径が100μmより大きい場合、低反り性が不十分となる傾向がある。
【0044】
また、本発明に適用される充填剤は、前記のようなマイカとともに繊維状充填剤を用いることができる。
この場合、繊維状充填剤はいわゆる無機系充填剤が好ましい。また、該繊維状充填剤の平均繊維径は0.1〜20μmであると好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましい。平均繊維径が0.1μm未満である場合、反り量の低減と耐熱性の向上効果が不十分となる傾向がある。また平均繊維径が20μmより大きい場合、溶融流動性と低反り性が不十分となる傾向がある。また、平均繊維長は、1〜300μmであることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましい。平均繊維長が1μm未満である場合、耐熱性、力学強度の向上効果が不十分となる傾向がある。また、平均繊維長が300μmより大きい場合には目的とする流動性向上の効果が不十分となる傾向がある。繊維状の無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独でも、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、上述のように充填剤としてマイカを配合するか、マイカ及び繊維状充填剤を配合することにより得ることができる。充填剤の配合量は、液晶性ポリエステル樹脂混合物100重量部に対して、15〜100重量部であり、好ましくは25〜80重量部である。充填剤の配合量が15重量部以上であれば、得られるコネクターの低反り性が良好となり、一方、充填剤の配合量が100重量部以下であれば、成形時の溶融流動性が良好となり、成形がより容易になる傾向がある。また、充填剤の配合量が前記の範囲であると、コネクターを成形して得た場合、このコネクターの耐熱性も良好になるので、当該コネクターをハンダリフローによって処理する時、膨れ等の形状異常(ブリスター)が生じる恐れもないという利点がある。
【0046】
<その他の添加剤>
なお、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物には、その目的を損なわない範囲で、前記の充填剤以外の充填剤や添加剤を配合することもできる。具体例を挙げると、ガラスビーズ等の充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等の、当技術分野で通常使用されているような添加剤を1種以上添加してもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を用いてもよい。
【0047】
また、本発明の企図する目的を著しく損なわない範囲であれば少量の液晶性ポリエステル以外の樹脂を配合してもよい。この樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド等や、少量の熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の、1種または2種以上を添加することもできる。
【0048】
<液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を得るための原料成分の配合手段は特に限定されない。液晶性ポリエステル樹脂混合物、充填剤、及び必要に応じて添加される添加剤(離型改良剤、熱安定剤等)の各成分を各々別々に溶融混合機に供給するか、またはこれらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合してから溶融混合機に供給することもできる。なお、液晶性ポリエステル樹脂混合物は、予め、このような溶融混合機を用いてペレット状にしておくこともできるし、2つの液晶性ポリエステル樹脂と、充填剤と同時に溶融混合機等に供給し、組成物にすることもできる。
【0049】
<液晶性ポリエステル樹脂組成物の成形及びコネクター>
このようにして得られる液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形することにより、コネクターを得ることができる。成形方法としては射出成形法が好ましい。射出成形に係る成形温度は、液晶性ポリエステル樹脂の流動開始温度より10〜80℃高い成形温度を採用することが好ましい。成形温度がこの範囲であれば、液晶性ポリエステル樹脂組成物が、より優れた溶融流動性を発現し、薄肉部を有するコネクターや複雑な形状を有するコネクターにおいても、良好な成形性を発現できる。また、かかる成形条件であれば、成形時の樹脂の劣化が十分に防止され、コネクター特性の低下を生じさせる恐れがない。特に、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は極めて優れた溶融流動性を有するので、肉厚0.1mm以下の薄肉部を有するようなコネクター、特に、このような薄肉部を有し、流動長が比較的長い金型を用いてなる、コネクターを効率的に成形することができる。また、このようにして得られるコネクターは、液晶性ポリエステル樹脂の優れた耐熱性や機械的強度にも優れているため、今後益々、複雑形状化が進み、超薄肉部を有するコネクターを成形する上で、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は特に有用である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の物性等は以下の方法により測定した。
【0051】
(1)反り量:射出成形機(日精樹脂工業(株)ES400)を用い、図1に示すようなコネクター成形品を得た。射出成形条件は、シリンダー温度350℃、金型温度70℃、射出速度150mm/秒である。その後、得られたコネクター成形品の底面に対し、長さ方向に0.2mmごと、幅方向に0.5mmごとに平坦度測定モジュール((株)コアーズ)にて、反り量を測定、平均値を算出した。さらに、同コネクター成形品について、50℃で40秒保持した後、270℃まで昇温し、同温度で1分間保持した。次いで、50℃まで降温させるといった熱処理を実施し、熱処理後のコネクター成形品について、前記と同様にして反り量を測定、平均値を算出した。成形後の反り量をリフロー前反り量、熱処理後の反り量をリフロー後反り量とした。
コネクター成形品は、長さ18mm、幅3.5mm、高さ1mmの、53pin(0.3mmピッチ)FPC用コネクターであり、最小肉厚部は0.1mmである。
【0052】
(2)曲げ弾性率:射出成形機(日精樹脂工業(株) PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度約75mm/秒で幅12.7mm、長さ127mm、厚さ6.4mmの棒状試験片を成形し、ASTM D790に準拠して測定した。
(3)薄肉流動長:図2に示す薄肉流動長金型(0.3mmt)を用い、射出成形機(日精樹脂工業(株) PS10E1ASE)にてシリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度約90mm/秒で成形した。取り出した成形品の、4個のキャビティー部の長さを測定し、5個の成形品の測定値をもって薄肉流動長とした。
【0053】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 299.0g(1.8モル)、イソフタル酸 99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持し、固相重合を進めた。冷却して液晶性ポリエステル樹脂(A)として用いるLCP1を得た。
LCP1
流動開始温度 :327℃
(II)/(I)のモル比率 :0.3
[(III)+(IV)]/(II)のモル比率 :1.0
(IV)/(III)のモル比率(α) :0.3
【0054】
製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4'−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 239.2g(1.44モル)、イソフタル酸 159.5g(0.96モル)及び無水酢酸 1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持し、固相重合を進めた。冷却して液晶性ポリエステル樹脂(B)として用いるLCP2を得た。
LCP2
流動開始温度 :286℃
(液晶性ポリエステル樹脂(A)との差):41℃
(II)/(I)のモル比率 :0.3
[(III)+(IV)]/(II)のモル比率 :1.0
(IV)/(III)のモル比率(β) :0.7
α/β :0.5
【0055】
実施例1、2
表1に示す重量組成比で、LCP1、LCP2及び充填剤を配合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒して、液晶性ポリエステル樹脂組成物をペレット状で得た。得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形し、上記(1)〜(3)に示すようにして、コネクター成形品、曲げ弾性率測定用棒状試験片、薄肉流動長測定用成形品を得、反り量、曲げ弾性率及び薄肉流動長を測定した。その結果を表2に示す。なお、使用した充填剤は下記のとおりである。

GF:ミルドガラスファイバー 日東紡(株)製PF70E001
(平均繊維径:10μm,平均繊維長:70μm)
マイカ:山口雲母工業所製AB−25S(平均粒径:24μm)
【0056】
【表1】


※ 実施例1及び2において、LCP1 100重量部に対する、LCP2は82重量部であり、液晶性ポリエステル樹脂混合物(LCP1+LCP2)100重量部に対して、充填剤は、43重量部である。
【0057】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】コネクター成形品の斜視外観を示す写真である。
【図2】薄肉流動長測定用の金型を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動開始温度300〜400℃の液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、流動開始温度が260〜350℃であり、且つ液晶性ポリエステル樹脂(A)よりも流動開始温度が低い該液晶性ポリエステル樹脂(B)10〜150重量部を混合してなる液晶性ポリエステル樹脂混合物100重量部に対して、
マイカ、又はマイカ及び繊維状充填剤の混合物15〜100重量部を配合してなり、
前記液晶性ポリエステル樹脂(A)と前記液晶性ポリエステル樹脂(B)がいずれも、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下の反応で製造された液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物が、下記式(1)で示されるイミダゾール化合物である、請求項1記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。

・・・(1)
(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基またはフォルミル基を表す。)
【請求項3】
前記液晶性ポリエステル樹脂(A)の流動開始温度から、前記液晶性ポリエステル樹脂(B)の流動開始温度を引いた差が20〜60℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶性ポリエステル樹脂(A)と前記液晶性ポリエステル樹脂(B)がいずれも、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、該アシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基とが、エステル交換を起こすようにして、液晶性ポリエステルを重合する重合工程とを有し、該アシル化工程及び該重合工程がともに、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下の反応で製造された液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記液晶性ポリエステル(A)及び前記液晶性ポリエステル(B)がいずれも、
パラヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位と、
4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位と、
テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構造単位とを
有する液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記液晶性ポリエステル(A)及び前記液晶性ポリエステル(B)がいずれも、
パラヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(I)、
4,4'−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(II)、
テレフタル酸に由来する構造単位(III)、
及びイソフタル酸に由来する構造単位(IV)を有し、
(II)/(I)のモル比率が0.2〜1.0であり、[(III)+(IV)]/(II)のモル比率が0.9〜1.1であり、(IV)/(III)のモル比率が0より大きく1以下であって、液晶性ポリエステル樹脂(A)の(IV)/(III)のモル比率(α)と、液晶性ポリエステル樹脂(B)の(IV)/(III)のモル比率(β)との比、α/βが0.1〜0.6であることを特徴とする、請求項5に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記繊維状充填剤が、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ及びチタン酸カリウムウィスカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いてなることを特徴とする、コネクター。
【請求項9】
肉厚0.1mm以下の薄肉部を有することを特徴とする、請求項8記載のコネクター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−108180(P2009−108180A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281361(P2007−281361)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】