液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置
【課題】別途ヒータ等を設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することを目的とする。
【解決手段】インクプール室80及び圧力室82に隣接して、圧電素子60を駆動するスイッチング素子50を配置して、インク滴を吐出しない予備波形を用いて圧電素子60を駆動することによって発生するスイッチング素子50の熱をインクプール室80や圧力室82のインクに伝導する。予備波形としては、GND、HV1、HV2(|HV1−GND|>|HV1−HV2|)の3値のデジタル駆動波形を用い、第1予備波形は、中間電位HV1と低電位GNDを用いた波形とし、第2予備波形は、中間電位HV1と高電位HV2を用いた波形とし、インクを昇温させる場合に第1予備波形を用い、インクの昇温を抑制して攪拌させる場合には第2予備波形を用いてスイッチング素子50をオンオフする。
【解決手段】インクプール室80及び圧力室82に隣接して、圧電素子60を駆動するスイッチング素子50を配置して、インク滴を吐出しない予備波形を用いて圧電素子60を駆動することによって発生するスイッチング素子50の熱をインクプール室80や圧力室82のインクに伝導する。予備波形としては、GND、HV1、HV2(|HV1−GND|>|HV1−HV2|)の3値のデジタル駆動波形を用い、第1予備波形は、中間電位HV1と低電位GNDを用いた波形とし、第2予備波形は、中間電位HV1と高電位HV2を用いた波形とし、インクを昇温させる場合に第1予備波形を用い、インクの昇温を抑制して攪拌させる場合には第2予備波形を用いてスイッチング素子50をオンオフする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液滴吐出装置としては、例えば、複数のノズルから選択的にインク滴を吐出し、記録用紙等の記録媒体に画像(文字を含む)等を記録するインクジェットプリンタが広く知られている。
【0003】
インクジェットプリンタの記録ヘッドの構成としては、様々なものが提案されており、例えば、特許文献1〜3に記載の技術などが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、駆動素子回路と制御回路基板を接続して形成した記録ヘッドが提案されている。
【0005】
特許文献2に記載の技術では、ガラス基板に薄膜トランジスタを形成した制御回路基板を駆動素子基板へ接続することが提案されている。
【0006】
特許文献3に記載の技術では、ガラス基板上の圧電素子を形成して、その後その基板にTFT回路を形成することが提案されている。
【0007】
ところで、このようなインクジェットプリンタは、環境温度差によってインク温度が変化するとインク温度に応じてインクの粘度が変化し、インクの吐出特性が変化してしまい、画像濃度が変動してしまう。特に高速化を狙った大型ヘッドでは、ヘッド内の温度分布により、複数のノズルの液滴吐出特性が変化して濃度むらが生じてしまう。
【0008】
そこで、インク温度を管理する種々の技術が提案されており、ヒータ等の加熱によってインクを吐出するバブル方式のインクジェットプリンタでは、温度に応じて、吐出用の駆動波形を変更したり、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して吐出用ヒータから加熱する等の方法が提案されている。
【0009】
一方、インクを吐出するために圧電素子等を用いたインクジェットプリンタにおいても、温度に応じて、吐出用の駆動波形を変更したり、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して圧電素子から加熱したり、温度に応じて、別にヒータを設けて加熱したりすることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−162794号公報
【特許文献2】特許第3667553号明細書
【特許文献3】特開2000−289204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、温度に応じて、駆動波形を変更してインク適量を一定に保つ方法では、駆動回路の電圧範囲に制限があるため、補正範囲にも限界がある。
【0011】
また、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して、インク粘度を保つ方法では、圧電素子からの発熱量に限界があるため、補正範囲にも限界がある。
【0012】
さらに、ヒータを設けてインク粘度を保つ方法では、別にヒータを設ける必要があり、装置が高価になってしまう。
【0013】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、別途ヒータ等を設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、液滴を吐出するノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出素子と、前記ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置され、前記液滴吐出素子を駆動するための駆動波形を前記液滴吐出素子に印加するためのスイッチング素子と、前記液体の温度を検出する検出手段と、前記液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有し、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、前記検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じて前記スイッチング素子をオンオフするように前記スイッチング素子を制御する制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、スイッチング素子によって駆動波形が液滴吐出素子に印加されることによって液滴吐出素子が駆動されて、ノズルから液滴が吐出される。
【0016】
スイッチング素子は、ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置されているので、液滴吐出素子に駆動波形を印加する際には駆動波形の電圧の大きさに応じてスイッチング素子が発熱して貯留室に伝導される。これによって、貯留室の液滴が昇温される。
【0017】
そこで、検出手段によって液体の温度を検出する。そして、液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有する制御手段が、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じてスイッチング素子をオンオフするようにスイッチング素子を制御することによって、スイッチング素子の発熱によって液滴を昇温することができ、液滴の粘度を温度制御することで管理できる。従って、別途ヒータを設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することができる。
【0018】
なお、液滴を吐出しない駆動波形としては、請求項2に記載の発明のように、ノズルから液滴を吐出しない程度にノズルの液面を振動させ、液体を攪拌するように設定した駆動波形を適用することによって、液滴を吐出することなく、液体温度を昇温することが可能となり、液滴の温度を制御することで液滴の粘度を管理することが可能となる。
【0019】
この場合、液滴を吐出しない駆動波形は、請求項3に記載の発明のように、電圧振幅の大きさが異なる2種類の駆動波形を含み、制御手段が、検出手段の検出結果が所定の温度以下の場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の大きい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御し、検出手段の検出結果が所定の温度より高い場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の小さい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御するようにしてもよい。これによって液体を昇温する場合と、液体を攪拌する場合と、の双方を区別して行うことが可能となる。例えば、この場合の液滴を吐出しない駆動波形は、請求項4に記載の発明のように、予め定めた3値の電圧値のうち中間電位をバイアスとし、中間電位と中間電位よりも低い低電位との電位差を、中間電位と中間電位よりも高い高電位との電位差よりも大きく設定した3値のデジタル駆動波形を適用することができる。そして、2種類の駆動波形としては、前記中間電位と前記低電位を用いた第1の駆動波形と、前記中間電位と前記高電位を用いた第2の駆動波形と、を含むことができる。
【0020】
なお、第1の駆動波形及び第2の駆動波形は、請求項5に記載の発明のように、第1の駆動波形のパルス幅が、ノズルにおける液面振動の固有周期の20%以下、または80%以上120%以下を適用することができ、第2の駆動波形のパルス幅は、固有周期の40%以上60%以下を適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、貯留室に隣接してスイッチング素子を配置して、液滴を吐出しない駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御することによって、スイッチング素子で発熱した熱が貯留室に伝導されるので、貯留室の液滴を昇温することができ、別途ヒータを設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。なお、本実施の形態は、液滴吐出装置としてインクジェットプリンタを適用したものである。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【0024】
図1に示すように、インクジェットプリンタ10は、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
【0025】
用紙供給部12は、記録用紙Pが収容される給紙部24と、給紙部24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介して排紙部25に収納する。
【0026】
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングやワイピング、更には、予備吐出やバキューム等の処理を行う。
【0027】
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と交差(直交)する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル36が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として一定のピッチでノズル36が並設されている。
【0028】
そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル36からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
【0029】
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル36による印字領域幅は、このインクジェットプリンタ10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅に亘る画像記録が可能とされている。
【0030】
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これにより、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されることや縁無し印字に対応可能としている。
【0031】
図4は、インクジェット記録ヘッド32を部分的に取り出して主要部が明確になるように示した概略断面図である。なお、図4では、インクジェット記録ヘッド32を逆さまにした状態が示されており、ここでは、ノズル36が形成される側を上側として説明する。
【0032】
図4に示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、シリコン基板40上に振動板70、圧電素子60、スイッチング素子50等が設けられている。圧電素子60の下面には一方の極性となる下部電極58が配置され、圧電素子60の上面には他方の電極となる上部電極64が配置されている。
【0033】
また、振動板70は、Chemical Vapor Deposition(CVD)法で形成された第1の層としてのテトラエトキシシラン膜(以下「TEOS膜」という)54と、第2の層としてのLocal Oxidation of Silicon膜(以下「LOCOS膜」という)44とで主に構成されており、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子60に通電されると(電圧が印加されると)、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。
【0034】
また、振動板70の内部、すなわちTEOS膜54とLOCOS膜44の間には、金属配線52が設けられており、スイッチング素子50の上方には、上部電極64と接続する金属配線72が設けられている。そして、金属配線52と下部電極58、及び金属配線72(上部電極74)とスイッチング素子50とをそれぞれ電気接続するための電気接続用貫通口94、96が、振動板70(TEOS膜54)に形成されている。
【0035】
この電気接続用貫通口94内に、融点が600℃以上の金属、例えばタングステン56を充填することにより、金属配線52と下部電極58とが電気接続され、電気接続用貫通口96内にも、タングステン68を充填することにより、金属配線72(上部電極64)とスイッチング素子50とが電気接続されるようになっている。
【0036】
また、シリコン基板40の下面側には、耐インク性を有する材料で構成されたマニフォールド86が接合されており、振動板70との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室80が形成されている。マニフォールド86には、インクタンク(図示省略)と接続されるインク供給ポート(図示省略)が所定箇所に設けられており、インク供給ポートから注入されたインクNは、インクプール室80に貯留される。なお、インク吐出による振動が他のノズル36に影響を与えないように(クロストークを防止するために)、マニフォールド86にはエアダンパー84が設けられている。
【0037】
また、インクプール室80には、インクN中のゴミを排除するため、インクフィルタ88が設置されている。そして、圧電素子60の上部には、インクプール室80から供給されたインクNが貯留される圧力室82が形成され、インクプール室80と圧力室82とはインク供給路90(インク供給用貫通口92)によって接続されている。したがって、振動板70の振動によって圧力室82の容積を増減させて圧力波を発生させることで、ノズル36からインク滴が吐出される。
【0038】
また、インクプール室80と圧力室82とが同一水平面上に存在しないように構成されている。これにより、圧力室82を互いに接近させた状態で配置でき、ノズル36をマトリックス状に高密度に配置できる。その他、金属配線52には、バンプ38を介してフレキシブルプリント基板(以下「FPC」という)100が接続されている。
【0039】
各インクジェット記録ヘッド32のインクプール室80へのインクの供給は、図5に示すように、インクタンクからインク供給管102を介して供給され、インクプール室80からのインクの排出はインク排出管104を介して排出される。インクの供給系を等価回路で示すと図6に示すようになり、インク供給管102及びインク排出管104は、各インクプール室80間が抵抗RとインダンクタンスでLで表すことができ、インク供給管とインクプール室80間及びインクプール室80とインク排出管104間も同様に抵抗RとインダクタンスLで表すことができる。また、インクプール室80と該インクプール室80内に設けられた図示しないダンパや液面のメニスカスは一端が接地されたコンデンサとして表すことができる。そして、該インクの供給系は、インク供給管102の両端末P1、P2とインク排出管104の両端末P3、P4の圧力を制御して、インクジェット記録ヘッド32の各インクプール室80内のインクを循環させる場合とさせない場合を後述する温度制御シーケンスやメンテナンスシーケンス等に応じて使い分ける。なお、インク供給系の各部の流体インピーダンスは、各インクジェット記録ヘッド32のインク循環が均一になるように設定する。また、インク循環させる場合には、ノズル36から空気を吸い込まないように、メニスカスが表面張力によりノズルに保持された状態を保てるような流速に設定する。
【0040】
インクプール室80の形状は、図7に示すような、インク供給口106からインク排出口108にかけて流速分布が均一で気泡などが滞留しない形状が好ましい。ノズル36は、インク供給口106及びインク排出口108による流速変化を受けない領域に設ける。なお、図7下側の断面図では圧電素子60やスイッチング素子50等が搭載されるチップ(図4中のシリコン基板40、スイッチング素子50、圧電素子60、振動板70等を含む基板)110がインクプール室80の下側になっている図を示す。
【0041】
図8(A)は、インクジェット記録ヘッド32の圧力室82とスイッチング素子50等が搭載されたドライバ112の平面方向の配列を示す図である。
【0042】
図7に示すように、スイッチング素子50を含むチップ110がインクプール室80に隣接して配置されると共に、図8(A)に示すように、圧力室82とドライバ112とは、隣接して交互になるように配置されているので、スイッチング素子50等によって発生する熱は、圧力室82やインクプール室80に伝導される。
【0043】
また、各圧力室82の形状についても、図8(B)に示すような、インク供給路90からノズル36にかけて圧力室82内の流速分布が均一で気泡が滞留しない形状が好ましい。
【0044】
続いて、上述のように構成された本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御系の構成ついて説明する。図9は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御系の構成を示すブロック図である。
【0045】
本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10は、制御コントローラ120が駆動IC122を制御することによって、各ノズル36からのインクの吐出を動作させるドライバ112を駆動することで、ノズル36からインク滴を吐出する。
【0046】
駆動IC122は、シフトレジスタ124と、ラッチ回路126と、シフトレジスタ128A〜128Pと、セレクタ130と、レベルシフタ132と、を備えており、制御コントローラ120から出力されたクロック信号及び駆動波形選択信号がシフトレジスタ124に入力され、ラッチ信号がラッチ回路126に入力される。
【0047】
各シフトレジスタ128A〜128Pには、波形発生回路134によって発生された駆動波形が入力される。波形発生回路134は、例えば、16種類の駆動波形を発生し、発生した各駆動波形を各シフトレジスタ128A〜128Pに格納する。16種類の駆動波形は、本実施の形態では、図10に示すように、第1〜第4駆動波形として予め定めた第1〜第4大滴波形を割り当て、第5〜第8駆動波形として予め定めた第1〜第4中滴波形を割り当て、第9〜第12駆動波形として予め定めた第1〜第4小滴波形を割り当てる。そして、ノズル毎の製造バラツキなどによるノズル特性等に応じて大滴波形、中滴波形、小滴波形の各4種類の中から駆動波形を選択してバラツキの補正等に利用する。また、第13駆動波形として第1予備波形を割り当て、第14駆動波形として第2予備波形割り当てると共に、第15駆動波形及び第16駆動波形を予備とする。なお、第1予備波形及び第2予備波形の詳細は後述する。
【0048】
セレクタ130、及びレベルシフタ132は、それぞれ各圧電素子60を駆動するドライバ112毎に設けられており、セレクタ130には、16種類の駆動波形を選択する4ビットのデータが吐出周期毎にシフトレジスタ128A〜128Pから入力され、セレクタ130によって選択された駆動波形がレベルシフタ132によって電圧が所定電圧上げられてドライバ112に出力される。ドライバ112は、3つのスイッチング素子50A、50B、50C(50)を介してそれぞれ接地、電圧HV1、電圧HV2に接続されており、これらのスイッチング素子50A、50B、50Cのオンオフにより駆動波形を圧電素子60に印加する。
【0049】
また、制御コントローラ120には、インクジェット記録ヘッド32の温度を検出する温度センサ136、図5、6に示すインク供給系の圧力を検出する圧力センサ138、及びインク供給系の圧力を調整してインク供給を行うポンプ142を駆動するポンプ駆動回路140が接続されており、制御コントローラ120は、温度センサ136及び圧力センサ138の検出結果を取得して、波形選択やインク供給等を制御する。
【0050】
なお、温度センサ136は、インクジェット記録ヘッド32の温度を検出することによってインク温度を検出するものとするが、インク温度を直接検出するようにしてもよい。
【0051】
本実施の形態では、0(GND)、電圧HV2、電圧HV1(HV1>HV2)の3値を用いてデジタルの駆動波形を生成する。また、本実施の形態では、この3値のデジタル駆動波形を用いて3種類の滴量のインク滴を吐出する。以下では、3種類のインク滴は、適量の多い順に大滴、中滴、小滴と称する。
【0052】
図11は、本実施の形態で適用した駆動波形の一例を示す。図11(A)は大滴を吐出する駆動波形の一例を示し、図11(B)は中滴を吐出する駆動波形の一例を示し、図11(C)は小滴を吐出する駆動波形の一例を示す。
【0053】
また、本実施の形態では、インク滴を吐出しない程度にメニスカスを振動させる2つの予備波形を用いてインク温度や粘度を制御するようになっており、図11(D)は第1予備波形の一例を示し、図11(E)は第2予備波形の一例を示す。本実施の形態では、各予備波形はGND、HV1、HV2(|HV1−GND|>|HV1−HV2|)の3値のデジタル駆動波形を用い、第1予備波形は、図11(D)に示すように、中間電位HV1と中間電位よりも低い低電位GNDを用いた波形とし、第2予備波形は、図11(E)に示すように、中間電位HV1と中間電位より高い高電位HV2を用いた波形とする。
【0054】
また、本実施の形態で用いる各駆動波形の詳細な値の一例を図11(F)に示す。図11(F)では、ノズル36部のメニスカス振動の固有周期Tcが13.0μsecのものを一例として示し、図11(F)のT1〜T4はそれぞれ図11(A)〜(E)のT1〜T4に対応する。なお、3値のデジタル駆動波形の立ち上がり時間や立ち下がり時間T4は、圧電素子60の静電容量とスイッチング素子50のオン抵抗により決まる。
【0055】
ところで、インクジェット記録ヘッド32から吐出されるインク滴は、インク温度に左右され、インク温度によって粘度が変化して滴量が変化してしまう。図12は、各滴サイズ毎の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図である。
【0056】
従来は、温度に応じて各駆動波形の電圧HV1を変化させてインク滴量を一定にしていた。例えば、大滴の場合には、図12(A)から適量が9pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させ、図12(B)から中滴の場合には適量が4pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させ、図12(C)から小滴の場合には適量が2pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させていた。なお、図13(A)に従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す。すなわち、従来では、温度変化に合わせて電圧HV1を3値に変更するようにしていた。
【0057】
これに対して、本実施の形態では、図7に示すように、スイッチング素子50を含むチップ110がインクプール室80に隣接して設けられると共に、スイッチング素子50を搭載したドライバ112が図8(A)に示すように圧力室82に隣接して圧力室82と交互になるように配置されているので、スイッチング素子50で発生する熱がインクプール室80や圧力室82に伝導される。従って、インクを吐出しない予備波形を利用してスイッチング素子50を発熱させることでインク温度を制御することができ、本実施の形態ではこれを利用してインク温度の制御を行うようにしている。なお、本実施の形態で用いる温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を図13(B)に示す。
【0058】
ここで、本実施の形態に係わる予備波形について詳細に説明する。
【0059】
予備波形は、インク増粘抑制効果と誤吐出防止を両立させることが重要である。図14(A)には、予備波形の誤吐出に関する実験結果を示し、図14(B)には予備波形のインク増粘抑制効果に関する実験結果を示す。これらは、図13(A)に示した従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルに示したようにHV2を固定して、温度変化に応じてHV1を変更した駆動電圧で実験を行ったものであり、10℃、25℃、35℃のそれぞれの条件において、第1予備波形と第2予備波形をそのパルス幅T1をパラメータとして印加し、パルス幅T1は、0.1Tcから1.5Tcまで変更した。なお、Tcはノズル36部のメニスカス振動の固有周期である。
【0060】
また、図14(A)では、予備波形を印加して、インクジェット記録ヘッド32内の1ノズルでも誤吐出が確認されれば「×」とし、全く誤吐出が確認されなければ「○」とし、図14(B)では、図14(A)において「○」の領域でのみ実験を行った。インク増粘抑制効果の評価方法は、連続吐出後、10秒間予備波形を印加し、その後、最初に吐出するインク滴速と連続吐出時のインク滴速の比較を行って、インク滴速の低下が10%未満の場合に「○」、10%以上の30%未満の場合に「△」、30%以上の場合に「×」とした。
【0061】
図14(A)、(B)の実験結果から、インク増粘抑制効果のある予備波形としては、図14(C)に示すような予備波形の例が考えられる。そこで、本実施の形態では、通常は、インク滴を吐出しない非選択ノズルに第2予備波形を印加するようにする。第2予備波形は、第1予備波形よりも電圧振幅が小さいので、消費電力が小さく、余分な発熱を抑えてインクを攪拌することができる。一方で、インク温度を昇温させたい場合には、第1予備波形を選択することで、スイッチング素子50の発熱量が多くなるのでインク温度を上げることができる。
【0062】
本実施の形態では、一例として20℃を最低吐出温度として、20℃以下の場合には、第1予備波形を印加してスイッチング素子50で発生する熱によって圧力室82やインクプール室80を昇温させ、20℃を超えたところで図13(B)に示すテーブルの25℃の場合の電圧条件(HV1=18V)で印刷動作させる。
【0063】
また、印刷動作が長い時間継続されてインクジェット記録ヘッド32の温度が上昇して30℃を超えた場合には、図13(B)に示すテーブルの35℃の場合の電圧条件(HV1=14V)で印刷動作させる。
【0064】
このように、本実施の形態では、ドライバ112をインクプール室80や圧力室82に隣接して配置することで予備波形を用いてインクを昇温することができるので、電圧HV1の変化幅を従来よりも狭くすることができる。これによって、インクの温度制御等が容易となると共に、電源回路も簡素化することができる。
【0065】
次に上述のように構成された本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例について説明する。図15は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図15の処理は、印刷命令を受けた後や、印刷していない時間が所定時間経過した場合や、所定量印刷が行われる毎などのタイミングで実行されるものとして説明する。
【0066】
まず、ステップ200では、インクジェット記録ヘッド32の温度が検出されてステップ202へ移行する。すなわち、制御コントローラ120は、温度センサ136の検出結果を取得する。
【0067】
ステップ202では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T1(本実施の形態では、一例としてT1=20℃とする)よりも高いか否か判定され、該判定が否定された場合にはステップ204へ移行し、肯定された場合にはステップ206へ移行する。
【0068】
ステップ204では、第1予備波形が所定パルス印加されてステップ200に戻る。すなわち、インクジェット記録ヘッド32の温度が20℃より低いので、第1予備波形が印加されることによってドライバ112のスイッチング素子50が発熱され、該発熱によってスイッチング素子50に隣接した圧力室82やインクプール室80のインクNが加熱される。そして、ステップ202の判定が肯定されるまでステップ200〜204の処理が繰り返される。
【0069】
ステップ206では、インクジェット記録ヘッド32の温度が再び検出されてステップ208へ移行する。
【0070】
ステップ208では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T2(T1<T2で、例えば、50〜80℃等の温度)より低いか否か判定され、該判定が否定された場合にはステップ210へ移行し、肯定された場合にはステップ212へ移行する。
【0071】
ステップ210では、ポンプ142が所定時間駆動されてステップ206に戻る。すなわち、インクNが所定量だけ循環されることによってインクNが攪拌されてインク温度が低下され、ステップ208の判定が肯定されるまでステップ206〜210の処理が繰り返される。
【0072】
ステップ212では、インクジェット記録ヘッド32の温度が再び検出されてステップ214へ移行する。
【0073】
ステップ214では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T3(本実施の形態では、T3は30℃)より低いか否か判定され、該判定が肯定された場合にはステップ216へ移行し、否定された場合にはステップ218へ移行する。
【0074】
ステップ216では、予め定めた波形セット1が選択されて一連の処理がリターンされて印刷処理等の他の処理が行われ、ステップ218では、予め定めた波形セット2が選択されて一連の処理がリターンされて印刷処理等の他の処理が行われる。なお、波形セットは、各温度範囲に適した吐出波形と予備波形の組み合わせが予め設定されたもので、本実施の形態では、温度がT3(30℃)より低い場合にはHV1が18Vとされた波形セット1(図13(B)の25℃の値を用いた駆動波形と図14(C)の20℃〜30℃の値を用いた予備波形の波形セット)とされ、温度がT3以上の場合にはHV1が14Vとされた波形セット2(図13(B)の35℃の値を用いた駆動波形と図14(C)の30℃〜の値を用いた予備波形の波形セット)とされる。
【0075】
このように、本実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10では、スイッチング素子50を圧力室82やインクプール室80に隣接して設けているので、スイッチング素子50の発熱をインク温度の制御に利用することができ、別途ヒータを設けることなく、効率的にインク温度を制御してインクの粘度を管理することができる。
【0076】
なお、上記の実施の形態では、温度センサ136はインクジェット記録ヘッド32の温度を検出して、インクジェット記録ヘッド32毎に波形セットや予備波形を選択するようにしていたが、これに限るものではなく、例えば、図16のX、Y、Zの点線で示すように、インクジェット記録ヘッド32を複数のブロックに分割(図16では6分割)してそれぞれのブロック毎にサーミスタ等の温度センサ136を設けて、ブロック毎に波形セットや予備波形を選択するようにしてもよい。これによってインクジェット記録ヘッド32内の温度分布を均一にすることができ、濃度むらも防止することが可能となる。
【0077】
また、上記の実施の形態では、インクジェットプリンタ10のインクジェット記録ヘッド32として、用紙幅以上の印字幅を有する記録ヘッドを適用したが、これに限るものではなく、用紙の搬送方向と直交する方向に移動させて主走査を行う記録ヘッドを適用することも可能である。
【0078】
また、上記の実施の形態では、液滴吐出装置としてインクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、例えば半導体や液晶表示器等のパターン形成のために用紙以外にもシート状の基板に液滴を吐出するパターン形成装置等の他の液滴吐出装置にも適用することができる。
【0079】
また、上記の実施の形態では、圧電素子を用いて液滴を吐出するインクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、例えば、圧電素子以外の液滴吐出素子を用いた液滴吐出装置に適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの配列を示す図である。
【図3】記録媒体幅と印字領域の幅との関係を示す図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドを部分的に取り出して主要部が明確になるように示した概略断面図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドのインクの供給を示す図である。
【図6】インク供給系の等価回路を示す図である。
【図7】インクジェット記録ヘッドの構成を説明するための図である。
【図8】(A)は圧力室とドライバの配列を示す図であり、(B)は圧力室の概略形状を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの制御系の構成を示すブロック図である。
【図10】16種類の駆動波形の割り当ての一例を示す図である。
【図11】(A)は大滴の駆動波形の一例を示す図であり、(B)は中滴の駆動波形の一例を示す図であり、(C)は小滴の駆動波形の一例を示す図であり、(D)は第1予備波形の一例を示す図であり、(E)は第2予備波形の一例を示す図であり、(F)は駆動波形の詳細な値の一例を示す図である。
【図12】(A)は大滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図であり、(B)は中滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図であり、(C)は小滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図である。
【図13】(A)は従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す図であり、(B)は本発明の実施の形態で用いる、温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す図である。
【図14】(A)は予備波形の誤吐出に関する実験結果を示す図であり、(B)は予備波形のインク増粘抑制効果に関する実験結果を示す図であり、(C)は実験結果を踏まえた予備波形の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図16】インクジェット記録ヘッド32を複数のブロックに分割してそれぞれのブロック毎に波形セットや予備波形を選択する場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0081】
10 インクジェットプリンタ
36 ノズル
50 スイッチング素子
60 圧電素子
80 インクプール室
82 圧力室
112 ドライバ
120 制御コントローラ
136 温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液滴吐出装置としては、例えば、複数のノズルから選択的にインク滴を吐出し、記録用紙等の記録媒体に画像(文字を含む)等を記録するインクジェットプリンタが広く知られている。
【0003】
インクジェットプリンタの記録ヘッドの構成としては、様々なものが提案されており、例えば、特許文献1〜3に記載の技術などが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、駆動素子回路と制御回路基板を接続して形成した記録ヘッドが提案されている。
【0005】
特許文献2に記載の技術では、ガラス基板に薄膜トランジスタを形成した制御回路基板を駆動素子基板へ接続することが提案されている。
【0006】
特許文献3に記載の技術では、ガラス基板上の圧電素子を形成して、その後その基板にTFT回路を形成することが提案されている。
【0007】
ところで、このようなインクジェットプリンタは、環境温度差によってインク温度が変化するとインク温度に応じてインクの粘度が変化し、インクの吐出特性が変化してしまい、画像濃度が変動してしまう。特に高速化を狙った大型ヘッドでは、ヘッド内の温度分布により、複数のノズルの液滴吐出特性が変化して濃度むらが生じてしまう。
【0008】
そこで、インク温度を管理する種々の技術が提案されており、ヒータ等の加熱によってインクを吐出するバブル方式のインクジェットプリンタでは、温度に応じて、吐出用の駆動波形を変更したり、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して吐出用ヒータから加熱する等の方法が提案されている。
【0009】
一方、インクを吐出するために圧電素子等を用いたインクジェットプリンタにおいても、温度に応じて、吐出用の駆動波形を変更したり、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して圧電素子から加熱したり、温度に応じて、別にヒータを設けて加熱したりすることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−162794号公報
【特許文献2】特許第3667553号明細書
【特許文献3】特開2000−289204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、温度に応じて、駆動波形を変更してインク適量を一定に保つ方法では、駆動回路の電圧範囲に制限があるため、補正範囲にも限界がある。
【0011】
また、温度に応じて、吐出しない予備波形を印加して、インク粘度を保つ方法では、圧電素子からの発熱量に限界があるため、補正範囲にも限界がある。
【0012】
さらに、ヒータを設けてインク粘度を保つ方法では、別にヒータを設ける必要があり、装置が高価になってしまう。
【0013】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、別途ヒータ等を設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、液滴を吐出するノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出素子と、前記ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置され、前記液滴吐出素子を駆動するための駆動波形を前記液滴吐出素子に印加するためのスイッチング素子と、前記液体の温度を検出する検出手段と、前記液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有し、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、前記検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じて前記スイッチング素子をオンオフするように前記スイッチング素子を制御する制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、スイッチング素子によって駆動波形が液滴吐出素子に印加されることによって液滴吐出素子が駆動されて、ノズルから液滴が吐出される。
【0016】
スイッチング素子は、ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置されているので、液滴吐出素子に駆動波形を印加する際には駆動波形の電圧の大きさに応じてスイッチング素子が発熱して貯留室に伝導される。これによって、貯留室の液滴が昇温される。
【0017】
そこで、検出手段によって液体の温度を検出する。そして、液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有する制御手段が、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じてスイッチング素子をオンオフするようにスイッチング素子を制御することによって、スイッチング素子の発熱によって液滴を昇温することができ、液滴の粘度を温度制御することで管理できる。従って、別途ヒータを設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することができる。
【0018】
なお、液滴を吐出しない駆動波形としては、請求項2に記載の発明のように、ノズルから液滴を吐出しない程度にノズルの液面を振動させ、液体を攪拌するように設定した駆動波形を適用することによって、液滴を吐出することなく、液体温度を昇温することが可能となり、液滴の温度を制御することで液滴の粘度を管理することが可能となる。
【0019】
この場合、液滴を吐出しない駆動波形は、請求項3に記載の発明のように、電圧振幅の大きさが異なる2種類の駆動波形を含み、制御手段が、検出手段の検出結果が所定の温度以下の場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の大きい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御し、検出手段の検出結果が所定の温度より高い場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の小さい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御するようにしてもよい。これによって液体を昇温する場合と、液体を攪拌する場合と、の双方を区別して行うことが可能となる。例えば、この場合の液滴を吐出しない駆動波形は、請求項4に記載の発明のように、予め定めた3値の電圧値のうち中間電位をバイアスとし、中間電位と中間電位よりも低い低電位との電位差を、中間電位と中間電位よりも高い高電位との電位差よりも大きく設定した3値のデジタル駆動波形を適用することができる。そして、2種類の駆動波形としては、前記中間電位と前記低電位を用いた第1の駆動波形と、前記中間電位と前記高電位を用いた第2の駆動波形と、を含むことができる。
【0020】
なお、第1の駆動波形及び第2の駆動波形は、請求項5に記載の発明のように、第1の駆動波形のパルス幅が、ノズルにおける液面振動の固有周期の20%以下、または80%以上120%以下を適用することができ、第2の駆動波形のパルス幅は、固有周期の40%以上60%以下を適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、貯留室に隣接してスイッチング素子を配置して、液滴を吐出しない駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御することによって、スイッチング素子で発熱した熱が貯留室に伝導されるので、貯留室の液滴を昇温することができ、別途ヒータを設けることなく、効率的に液滴の粘度を管理することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。なお、本実施の形態は、液滴吐出装置としてインクジェットプリンタを適用したものである。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【0024】
図1に示すように、インクジェットプリンタ10は、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
【0025】
用紙供給部12は、記録用紙Pが収容される給紙部24と、給紙部24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介して排紙部25に収納する。
【0026】
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングやワイピング、更には、予備吐出やバキューム等の処理を行う。
【0027】
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と交差(直交)する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル36が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として一定のピッチでノズル36が並設されている。
【0028】
そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル36からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
【0029】
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル36による印字領域幅は、このインクジェットプリンタ10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅に亘る画像記録が可能とされている。
【0030】
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これにより、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されることや縁無し印字に対応可能としている。
【0031】
図4は、インクジェット記録ヘッド32を部分的に取り出して主要部が明確になるように示した概略断面図である。なお、図4では、インクジェット記録ヘッド32を逆さまにした状態が示されており、ここでは、ノズル36が形成される側を上側として説明する。
【0032】
図4に示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、シリコン基板40上に振動板70、圧電素子60、スイッチング素子50等が設けられている。圧電素子60の下面には一方の極性となる下部電極58が配置され、圧電素子60の上面には他方の電極となる上部電極64が配置されている。
【0033】
また、振動板70は、Chemical Vapor Deposition(CVD)法で形成された第1の層としてのテトラエトキシシラン膜(以下「TEOS膜」という)54と、第2の層としてのLocal Oxidation of Silicon膜(以下「LOCOS膜」という)44とで主に構成されており、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子60に通電されると(電圧が印加されると)、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。
【0034】
また、振動板70の内部、すなわちTEOS膜54とLOCOS膜44の間には、金属配線52が設けられており、スイッチング素子50の上方には、上部電極64と接続する金属配線72が設けられている。そして、金属配線52と下部電極58、及び金属配線72(上部電極74)とスイッチング素子50とをそれぞれ電気接続するための電気接続用貫通口94、96が、振動板70(TEOS膜54)に形成されている。
【0035】
この電気接続用貫通口94内に、融点が600℃以上の金属、例えばタングステン56を充填することにより、金属配線52と下部電極58とが電気接続され、電気接続用貫通口96内にも、タングステン68を充填することにより、金属配線72(上部電極64)とスイッチング素子50とが電気接続されるようになっている。
【0036】
また、シリコン基板40の下面側には、耐インク性を有する材料で構成されたマニフォールド86が接合されており、振動板70との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室80が形成されている。マニフォールド86には、インクタンク(図示省略)と接続されるインク供給ポート(図示省略)が所定箇所に設けられており、インク供給ポートから注入されたインクNは、インクプール室80に貯留される。なお、インク吐出による振動が他のノズル36に影響を与えないように(クロストークを防止するために)、マニフォールド86にはエアダンパー84が設けられている。
【0037】
また、インクプール室80には、インクN中のゴミを排除するため、インクフィルタ88が設置されている。そして、圧電素子60の上部には、インクプール室80から供給されたインクNが貯留される圧力室82が形成され、インクプール室80と圧力室82とはインク供給路90(インク供給用貫通口92)によって接続されている。したがって、振動板70の振動によって圧力室82の容積を増減させて圧力波を発生させることで、ノズル36からインク滴が吐出される。
【0038】
また、インクプール室80と圧力室82とが同一水平面上に存在しないように構成されている。これにより、圧力室82を互いに接近させた状態で配置でき、ノズル36をマトリックス状に高密度に配置できる。その他、金属配線52には、バンプ38を介してフレキシブルプリント基板(以下「FPC」という)100が接続されている。
【0039】
各インクジェット記録ヘッド32のインクプール室80へのインクの供給は、図5に示すように、インクタンクからインク供給管102を介して供給され、インクプール室80からのインクの排出はインク排出管104を介して排出される。インクの供給系を等価回路で示すと図6に示すようになり、インク供給管102及びインク排出管104は、各インクプール室80間が抵抗RとインダンクタンスでLで表すことができ、インク供給管とインクプール室80間及びインクプール室80とインク排出管104間も同様に抵抗RとインダクタンスLで表すことができる。また、インクプール室80と該インクプール室80内に設けられた図示しないダンパや液面のメニスカスは一端が接地されたコンデンサとして表すことができる。そして、該インクの供給系は、インク供給管102の両端末P1、P2とインク排出管104の両端末P3、P4の圧力を制御して、インクジェット記録ヘッド32の各インクプール室80内のインクを循環させる場合とさせない場合を後述する温度制御シーケンスやメンテナンスシーケンス等に応じて使い分ける。なお、インク供給系の各部の流体インピーダンスは、各インクジェット記録ヘッド32のインク循環が均一になるように設定する。また、インク循環させる場合には、ノズル36から空気を吸い込まないように、メニスカスが表面張力によりノズルに保持された状態を保てるような流速に設定する。
【0040】
インクプール室80の形状は、図7に示すような、インク供給口106からインク排出口108にかけて流速分布が均一で気泡などが滞留しない形状が好ましい。ノズル36は、インク供給口106及びインク排出口108による流速変化を受けない領域に設ける。なお、図7下側の断面図では圧電素子60やスイッチング素子50等が搭載されるチップ(図4中のシリコン基板40、スイッチング素子50、圧電素子60、振動板70等を含む基板)110がインクプール室80の下側になっている図を示す。
【0041】
図8(A)は、インクジェット記録ヘッド32の圧力室82とスイッチング素子50等が搭載されたドライバ112の平面方向の配列を示す図である。
【0042】
図7に示すように、スイッチング素子50を含むチップ110がインクプール室80に隣接して配置されると共に、図8(A)に示すように、圧力室82とドライバ112とは、隣接して交互になるように配置されているので、スイッチング素子50等によって発生する熱は、圧力室82やインクプール室80に伝導される。
【0043】
また、各圧力室82の形状についても、図8(B)に示すような、インク供給路90からノズル36にかけて圧力室82内の流速分布が均一で気泡が滞留しない形状が好ましい。
【0044】
続いて、上述のように構成された本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御系の構成ついて説明する。図9は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御系の構成を示すブロック図である。
【0045】
本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10は、制御コントローラ120が駆動IC122を制御することによって、各ノズル36からのインクの吐出を動作させるドライバ112を駆動することで、ノズル36からインク滴を吐出する。
【0046】
駆動IC122は、シフトレジスタ124と、ラッチ回路126と、シフトレジスタ128A〜128Pと、セレクタ130と、レベルシフタ132と、を備えており、制御コントローラ120から出力されたクロック信号及び駆動波形選択信号がシフトレジスタ124に入力され、ラッチ信号がラッチ回路126に入力される。
【0047】
各シフトレジスタ128A〜128Pには、波形発生回路134によって発生された駆動波形が入力される。波形発生回路134は、例えば、16種類の駆動波形を発生し、発生した各駆動波形を各シフトレジスタ128A〜128Pに格納する。16種類の駆動波形は、本実施の形態では、図10に示すように、第1〜第4駆動波形として予め定めた第1〜第4大滴波形を割り当て、第5〜第8駆動波形として予め定めた第1〜第4中滴波形を割り当て、第9〜第12駆動波形として予め定めた第1〜第4小滴波形を割り当てる。そして、ノズル毎の製造バラツキなどによるノズル特性等に応じて大滴波形、中滴波形、小滴波形の各4種類の中から駆動波形を選択してバラツキの補正等に利用する。また、第13駆動波形として第1予備波形を割り当て、第14駆動波形として第2予備波形割り当てると共に、第15駆動波形及び第16駆動波形を予備とする。なお、第1予備波形及び第2予備波形の詳細は後述する。
【0048】
セレクタ130、及びレベルシフタ132は、それぞれ各圧電素子60を駆動するドライバ112毎に設けられており、セレクタ130には、16種類の駆動波形を選択する4ビットのデータが吐出周期毎にシフトレジスタ128A〜128Pから入力され、セレクタ130によって選択された駆動波形がレベルシフタ132によって電圧が所定電圧上げられてドライバ112に出力される。ドライバ112は、3つのスイッチング素子50A、50B、50C(50)を介してそれぞれ接地、電圧HV1、電圧HV2に接続されており、これらのスイッチング素子50A、50B、50Cのオンオフにより駆動波形を圧電素子60に印加する。
【0049】
また、制御コントローラ120には、インクジェット記録ヘッド32の温度を検出する温度センサ136、図5、6に示すインク供給系の圧力を検出する圧力センサ138、及びインク供給系の圧力を調整してインク供給を行うポンプ142を駆動するポンプ駆動回路140が接続されており、制御コントローラ120は、温度センサ136及び圧力センサ138の検出結果を取得して、波形選択やインク供給等を制御する。
【0050】
なお、温度センサ136は、インクジェット記録ヘッド32の温度を検出することによってインク温度を検出するものとするが、インク温度を直接検出するようにしてもよい。
【0051】
本実施の形態では、0(GND)、電圧HV2、電圧HV1(HV1>HV2)の3値を用いてデジタルの駆動波形を生成する。また、本実施の形態では、この3値のデジタル駆動波形を用いて3種類の滴量のインク滴を吐出する。以下では、3種類のインク滴は、適量の多い順に大滴、中滴、小滴と称する。
【0052】
図11は、本実施の形態で適用した駆動波形の一例を示す。図11(A)は大滴を吐出する駆動波形の一例を示し、図11(B)は中滴を吐出する駆動波形の一例を示し、図11(C)は小滴を吐出する駆動波形の一例を示す。
【0053】
また、本実施の形態では、インク滴を吐出しない程度にメニスカスを振動させる2つの予備波形を用いてインク温度や粘度を制御するようになっており、図11(D)は第1予備波形の一例を示し、図11(E)は第2予備波形の一例を示す。本実施の形態では、各予備波形はGND、HV1、HV2(|HV1−GND|>|HV1−HV2|)の3値のデジタル駆動波形を用い、第1予備波形は、図11(D)に示すように、中間電位HV1と中間電位よりも低い低電位GNDを用いた波形とし、第2予備波形は、図11(E)に示すように、中間電位HV1と中間電位より高い高電位HV2を用いた波形とする。
【0054】
また、本実施の形態で用いる各駆動波形の詳細な値の一例を図11(F)に示す。図11(F)では、ノズル36部のメニスカス振動の固有周期Tcが13.0μsecのものを一例として示し、図11(F)のT1〜T4はそれぞれ図11(A)〜(E)のT1〜T4に対応する。なお、3値のデジタル駆動波形の立ち上がり時間や立ち下がり時間T4は、圧電素子60の静電容量とスイッチング素子50のオン抵抗により決まる。
【0055】
ところで、インクジェット記録ヘッド32から吐出されるインク滴は、インク温度に左右され、インク温度によって粘度が変化して滴量が変化してしまう。図12は、各滴サイズ毎の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図である。
【0056】
従来は、温度に応じて各駆動波形の電圧HV1を変化させてインク滴量を一定にしていた。例えば、大滴の場合には、図12(A)から適量が9pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させ、図12(B)から中滴の場合には適量が4pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させ、図12(C)から小滴の場合には適量が2pl程度で安定するように、温度に応じて電圧HV1を変化させていた。なお、図13(A)に従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す。すなわち、従来では、温度変化に合わせて電圧HV1を3値に変更するようにしていた。
【0057】
これに対して、本実施の形態では、図7に示すように、スイッチング素子50を含むチップ110がインクプール室80に隣接して設けられると共に、スイッチング素子50を搭載したドライバ112が図8(A)に示すように圧力室82に隣接して圧力室82と交互になるように配置されているので、スイッチング素子50で発生する熱がインクプール室80や圧力室82に伝導される。従って、インクを吐出しない予備波形を利用してスイッチング素子50を発熱させることでインク温度を制御することができ、本実施の形態ではこれを利用してインク温度の制御を行うようにしている。なお、本実施の形態で用いる温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を図13(B)に示す。
【0058】
ここで、本実施の形態に係わる予備波形について詳細に説明する。
【0059】
予備波形は、インク増粘抑制効果と誤吐出防止を両立させることが重要である。図14(A)には、予備波形の誤吐出に関する実験結果を示し、図14(B)には予備波形のインク増粘抑制効果に関する実験結果を示す。これらは、図13(A)に示した従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルに示したようにHV2を固定して、温度変化に応じてHV1を変更した駆動電圧で実験を行ったものであり、10℃、25℃、35℃のそれぞれの条件において、第1予備波形と第2予備波形をそのパルス幅T1をパラメータとして印加し、パルス幅T1は、0.1Tcから1.5Tcまで変更した。なお、Tcはノズル36部のメニスカス振動の固有周期である。
【0060】
また、図14(A)では、予備波形を印加して、インクジェット記録ヘッド32内の1ノズルでも誤吐出が確認されれば「×」とし、全く誤吐出が確認されなければ「○」とし、図14(B)では、図14(A)において「○」の領域でのみ実験を行った。インク増粘抑制効果の評価方法は、連続吐出後、10秒間予備波形を印加し、その後、最初に吐出するインク滴速と連続吐出時のインク滴速の比較を行って、インク滴速の低下が10%未満の場合に「○」、10%以上の30%未満の場合に「△」、30%以上の場合に「×」とした。
【0061】
図14(A)、(B)の実験結果から、インク増粘抑制効果のある予備波形としては、図14(C)に示すような予備波形の例が考えられる。そこで、本実施の形態では、通常は、インク滴を吐出しない非選択ノズルに第2予備波形を印加するようにする。第2予備波形は、第1予備波形よりも電圧振幅が小さいので、消費電力が小さく、余分な発熱を抑えてインクを攪拌することができる。一方で、インク温度を昇温させたい場合には、第1予備波形を選択することで、スイッチング素子50の発熱量が多くなるのでインク温度を上げることができる。
【0062】
本実施の形態では、一例として20℃を最低吐出温度として、20℃以下の場合には、第1予備波形を印加してスイッチング素子50で発生する熱によって圧力室82やインクプール室80を昇温させ、20℃を超えたところで図13(B)に示すテーブルの25℃の場合の電圧条件(HV1=18V)で印刷動作させる。
【0063】
また、印刷動作が長い時間継続されてインクジェット記録ヘッド32の温度が上昇して30℃を超えた場合には、図13(B)に示すテーブルの35℃の場合の電圧条件(HV1=14V)で印刷動作させる。
【0064】
このように、本実施の形態では、ドライバ112をインクプール室80や圧力室82に隣接して配置することで予備波形を用いてインクを昇温することができるので、電圧HV1の変化幅を従来よりも狭くすることができる。これによって、インクの温度制御等が容易となると共に、電源回路も簡素化することができる。
【0065】
次に上述のように構成された本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例について説明する。図15は、本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10の制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図15の処理は、印刷命令を受けた後や、印刷していない時間が所定時間経過した場合や、所定量印刷が行われる毎などのタイミングで実行されるものとして説明する。
【0066】
まず、ステップ200では、インクジェット記録ヘッド32の温度が検出されてステップ202へ移行する。すなわち、制御コントローラ120は、温度センサ136の検出結果を取得する。
【0067】
ステップ202では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T1(本実施の形態では、一例としてT1=20℃とする)よりも高いか否か判定され、該判定が否定された場合にはステップ204へ移行し、肯定された場合にはステップ206へ移行する。
【0068】
ステップ204では、第1予備波形が所定パルス印加されてステップ200に戻る。すなわち、インクジェット記録ヘッド32の温度が20℃より低いので、第1予備波形が印加されることによってドライバ112のスイッチング素子50が発熱され、該発熱によってスイッチング素子50に隣接した圧力室82やインクプール室80のインクNが加熱される。そして、ステップ202の判定が肯定されるまでステップ200〜204の処理が繰り返される。
【0069】
ステップ206では、インクジェット記録ヘッド32の温度が再び検出されてステップ208へ移行する。
【0070】
ステップ208では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T2(T1<T2で、例えば、50〜80℃等の温度)より低いか否か判定され、該判定が否定された場合にはステップ210へ移行し、肯定された場合にはステップ212へ移行する。
【0071】
ステップ210では、ポンプ142が所定時間駆動されてステップ206に戻る。すなわち、インクNが所定量だけ循環されることによってインクNが攪拌されてインク温度が低下され、ステップ208の判定が肯定されるまでステップ206〜210の処理が繰り返される。
【0072】
ステップ212では、インクジェット記録ヘッド32の温度が再び検出されてステップ214へ移行する。
【0073】
ステップ214では、温度センサ136によって検出された温度が予め定めた温度T3(本実施の形態では、T3は30℃)より低いか否か判定され、該判定が肯定された場合にはステップ216へ移行し、否定された場合にはステップ218へ移行する。
【0074】
ステップ216では、予め定めた波形セット1が選択されて一連の処理がリターンされて印刷処理等の他の処理が行われ、ステップ218では、予め定めた波形セット2が選択されて一連の処理がリターンされて印刷処理等の他の処理が行われる。なお、波形セットは、各温度範囲に適した吐出波形と予備波形の組み合わせが予め設定されたもので、本実施の形態では、温度がT3(30℃)より低い場合にはHV1が18Vとされた波形セット1(図13(B)の25℃の値を用いた駆動波形と図14(C)の20℃〜30℃の値を用いた予備波形の波形セット)とされ、温度がT3以上の場合にはHV1が14Vとされた波形セット2(図13(B)の35℃の値を用いた駆動波形と図14(C)の30℃〜の値を用いた予備波形の波形セット)とされる。
【0075】
このように、本実施の形態に係わるインクジェットプリンタ10では、スイッチング素子50を圧力室82やインクプール室80に隣接して設けているので、スイッチング素子50の発熱をインク温度の制御に利用することができ、別途ヒータを設けることなく、効率的にインク温度を制御してインクの粘度を管理することができる。
【0076】
なお、上記の実施の形態では、温度センサ136はインクジェット記録ヘッド32の温度を検出して、インクジェット記録ヘッド32毎に波形セットや予備波形を選択するようにしていたが、これに限るものではなく、例えば、図16のX、Y、Zの点線で示すように、インクジェット記録ヘッド32を複数のブロックに分割(図16では6分割)してそれぞれのブロック毎にサーミスタ等の温度センサ136を設けて、ブロック毎に波形セットや予備波形を選択するようにしてもよい。これによってインクジェット記録ヘッド32内の温度分布を均一にすることができ、濃度むらも防止することが可能となる。
【0077】
また、上記の実施の形態では、インクジェットプリンタ10のインクジェット記録ヘッド32として、用紙幅以上の印字幅を有する記録ヘッドを適用したが、これに限るものではなく、用紙の搬送方向と直交する方向に移動させて主走査を行う記録ヘッドを適用することも可能である。
【0078】
また、上記の実施の形態では、液滴吐出装置としてインクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、例えば半導体や液晶表示器等のパターン形成のために用紙以外にもシート状の基板に液滴を吐出するパターン形成装置等の他の液滴吐出装置にも適用することができる。
【0079】
また、上記の実施の形態では、圧電素子を用いて液滴を吐出するインクジェットプリンタを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、例えば、圧電素子以外の液滴吐出素子を用いた液滴吐出装置に適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの配列を示す図である。
【図3】記録媒体幅と印字領域の幅との関係を示す図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドを部分的に取り出して主要部が明確になるように示した概略断面図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドのインクの供給を示す図である。
【図6】インク供給系の等価回路を示す図である。
【図7】インクジェット記録ヘッドの構成を説明するための図である。
【図8】(A)は圧力室とドライバの配列を示す図であり、(B)は圧力室の概略形状を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの制御系の構成を示すブロック図である。
【図10】16種類の駆動波形の割り当ての一例を示す図である。
【図11】(A)は大滴の駆動波形の一例を示す図であり、(B)は中滴の駆動波形の一例を示す図であり、(C)は小滴の駆動波形の一例を示す図であり、(D)は第1予備波形の一例を示す図であり、(E)は第2予備波形の一例を示す図であり、(F)は駆動波形の詳細な値の一例を示す図である。
【図12】(A)は大滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図であり、(B)は中滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図であり、(C)は小滴の電圧HV1に対する適量とその温度依存性を示した図である。
【図13】(A)は従来使用していた温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す図であり、(B)は本発明の実施の形態で用いる、温度変化に応じて電圧HV1を変化させるテーブルの一例を示す図である。
【図14】(A)は予備波形の誤吐出に関する実験結果を示す図であり、(B)は予備波形のインク増粘抑制効果に関する実験結果を示す図であり、(C)は実験結果を踏まえた予備波形の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係わるインクジェットプリンタの制御コントローラ120で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図16】インクジェット記録ヘッド32を複数のブロックに分割してそれぞれのブロック毎に波形セットや予備波形を選択する場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0081】
10 インクジェットプリンタ
36 ノズル
50 スイッチング素子
60 圧電素子
80 インクプール室
82 圧力室
112 ドライバ
120 制御コントローラ
136 温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出素子と、
前記ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置され、前記液滴吐出素子を駆動するための駆動波形を前記液滴吐出素子に印加するためのスイッチング素子と、
前記液体の温度を検出する検出手段と、
前記液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有し、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、前記検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じて前記スイッチング素子をオンオフするように前記スイッチング素子を制御する制御手段と、
を備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、前記ノズルから液滴を吐出しない程度に前記ノズルの液面を振動させ、前記液体を攪拌するように設定した駆動波形であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、電圧振幅の大きさが異なる2種類の駆動波形を含み、前記制御手段が、前記検出手段の検出結果が所定の温度以下の場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の大きい駆動波形に応じて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、前記検出手段の検出結果が所定の温度より高い場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の小さい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、予め定めた3値の電圧値のうち中間電位をバイアスとし、前記中間電位と前記中間電位よりも低い低電位との電位差を、前記中間電位と前記中間電位よりも高い高電位との電位差よりも大きく設定した3値のデジタル駆動波形からなり、前記中間電位と前記低電位を用いた第1の駆動波形と、前記中間電位と前記高電位を用いた第2の駆動波形と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド
【請求項5】
前記第1の駆動波形のパルス幅は、前記ノズルにおける液面振動の固有周期の20%以下、または80%以上120%以下であり、前記第2の駆動波形のパルス幅は、前記固有周期の40%以上60%以下であることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。
【請求項1】
液滴を吐出するノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出素子と、
前記ノズルから液滴を吐出するための液体を貯留する貯留室に隣接して配置され、前記液滴吐出素子を駆動するための駆動波形を前記液滴吐出素子に印加するためのスイッチング素子と、
前記液体の温度を検出する検出手段と、
前記液滴吐出素子から液滴を吐出しない駆動波形を複数有し、液滴を吐出しない駆動波形を印加する際に、前記検出手段の検出結果に応じて液滴を吐出しない駆動波形を選択し、選択した駆動波形に応じて前記スイッチング素子をオンオフするように前記スイッチング素子を制御する制御手段と、
を備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、前記ノズルから液滴を吐出しない程度に前記ノズルの液面を振動させ、前記液体を攪拌するように設定した駆動波形であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、電圧振幅の大きさが異なる2種類の駆動波形を含み、前記制御手段が、前記検出手段の検出結果が所定の温度以下の場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の大きい駆動波形に応じて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、前記検出手段の検出結果が所定の温度より高い場合に、2種類の駆動波形のうち電圧振幅の小さい駆動波形に応じてスイッチング素子のオンオフを制御することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液滴を吐出しない駆動波形は、予め定めた3値の電圧値のうち中間電位をバイアスとし、前記中間電位と前記中間電位よりも低い低電位との電位差を、前記中間電位と前記中間電位よりも高い高電位との電位差よりも大きく設定した3値のデジタル駆動波形からなり、前記中間電位と前記低電位を用いた第1の駆動波形と、前記中間電位と前記高電位を用いた第2の駆動波形と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド
【請求項5】
前記第1の駆動波形のパルス幅は、前記ノズルにおける液面振動の固有周期の20%以下、または80%以上120%以下であり、前記第2の駆動波形のパルス幅は、前記固有周期の40%以上60%以下であることを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−143023(P2008−143023A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332859(P2006−332859)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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