説明

液滴吐出装置

【課題】記録媒体に対し画像を形成するインク等の第1液を吐出する前に、第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を記録媒体に吐出し、記録媒体に着弾した第2液を回転するローラで伸ばし広げるように構成された液滴吐出装置において、記録媒体とローラが接触するときに生じる記録媒体の搬送遅れを補償する。
【解決手段】調整時間演算部60は、用紙Pが圧延ローラ対10と接触することにより生じる用紙Pの搬送遅れを補償するために、遅延指標Kに応じてインク(第1液)の吐出タイミングを遅らせる調整時間tを求める。遅延指標Kは、用紙Pの先端領域Pbに付着した(又は付着する予定の)処理液(第2液)の面積又は量、ローラ10aに乾かずに残存する処理液の量などの要素を含んでいる。そして、記録ヘッド制御部51aは、インク吐出データと調整時間tに基づいて、記録ヘッド1aにインクを吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の第1液を吐出する前に、第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を第1液が吐出される記録媒体位置に塗布するように構成された液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体の性質の違いに関わらず高い印字品質を維持したり画質を向上させたりするために、記録媒体に対し画像を形成するインク等の第1液を吐出する前に、第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を第1液が吐出される記録媒体位置に塗布するように構成された液滴吐出装置が知られている。例えば、特許文献1のインクジェット記録装置は、記録媒体に向けてインク組成物を吐出するインク組成物付着手段(インクジェット記録ヘッド)と、記録媒体に向けて反応液を吐出する反応液付着手段(反応液塗布手段としてのインクジェット記録ヘッド)とを備え、記録媒体の反応液の付着位置とインク組成物の印字位置とが一致するように、記録媒体に反応液とインク組成物とを着弾させるように構成されたものである。さらに、上記特許文献1のインクジェット記録装置は、記録媒体に付着した反応液を加圧および加熱する2本のローラを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−37942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のように、記録媒体に付着した第2液(特許文献1の反応液に対応)をローラで加圧する場合に、記録媒体がローラ間に突入するときに、記録媒体の搬送方向下流側端がローラの周面と当接したり、ローラが記録媒体上で滑って巻き込み不良が生じたりすることにより、記録媒体の搬送遅れが生じる。ところが、第1液の吐出タイミングには、上述の搬送遅れが加味されていないので、記録媒体への第1液の着弾位置にズレが生じ、記録媒体に形成される画像に乱れが生じる。
【0005】
そこで、本発明では、記録媒体に着弾した第2液をローラで加圧する構成を備えた液滴吐出装置において、記録媒体がローラ間に突入するときに生じる記録媒体の搬送遅れを加味した第1液の吐出制御を行うことにより、上述した画像の乱れを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液滴吐出装置は、記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、該搬送機構により搬送される記録媒体の記録面に向けて画像を形成する第1液を吐出する1以上の第1液吐出ヘッドと、該第1液吐出ヘッドよりも前記搬送方向上流側に設けられ、搬送される記録媒体の前記記録面に向けて第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を吐出する第2液吐出ヘッドと、該第2液吐出ヘッドと前記1以上の第1液吐出ヘッドの間に設けられ、搬送される記録媒体の前記記録面と接触して回転する回転ローラと、前記搬送機構の動作を制御する搬送制御手段と、記録媒体が前記回転ローラと接触することにより生じる搬送遅れに応じて第1液の吐出タイミングを遅らせる調整時間を記憶する調整時間記憶手段と、記録媒体に形成される画像に関する画像データに対応して第1液を吐出させる第1液吐出データを記憶する第1液吐出データ記憶手段と、前記第1液吐出データと前記調整時間とに基づいて該調整時間を加味した吐出タイミングで前記1以上の第1液吐出ヘッドの動作を制御する第1液吐出ヘッド制御手段と、前記画像データに対応して第2液を吐出させる第2液吐出データを記憶する第2液吐出データ記憶手段と、前記第2液吐出データに基づいて記録媒体における第1液の着弾位置と第2液の塗布位置が対応するように前記第2液吐出ヘッドの動作を制御する第2液吐出ヘッド制御手段とを備えるものである。
【0007】
また、前記液滴吐出装置において、前記搬送遅れを増大させる因子の影響を表す遅延指標と前記調整時間とを関係付ける相関データを記憶する相関データ記憶手段と、前記遅延指標を算出し、算出した遅延指標と前記相関データに基づいて前記調整時間を求め、求めた調整時間を前記調整時間記憶手段へ格納する調整時間演算手段とを、更に備えることができる。
【0008】
上記液滴吐出装置では、回転ローラに記録媒体が突入するときに、記録媒体の搬送方向下流側端が回転ローラの周面と当接したり、回転ローラが記録媒体上で滑って巻き込み不良が生じたりすることにより生じる記録媒体の搬送遅れが、第1液の吐出タイミングに加味されているので、第1液の着弾位置のズレを防止することができる。したがって、上記搬送遅れに起因する画像の乱れを防止することができる。ひいては、記録媒体に形成される画像の画質の維持及び向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録媒体が回転ローラに突入するときに生じる記録媒体の搬送遅れを加味した第1液の吐出制御を行うことにより、画像の乱れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す概略側面図である。
【図2】処理液ヘッドと圧延ローラ対で処理液を用紙に塗布する様子を模式的に示す図である。
【図3】制御装置の機能ブロック図である。
【図4】或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。
【図5】図4に示すインク吐出データに対応する或領域の処理液吐出データを示す図である。
【図6】用紙が圧延ローラ対に突入するときの様子を模式的に示す図である。
【図7】用紙の搬送方向下流側部分に設定された先端領域を説明する図である。
【図8】(a)は用紙の搬送経路上の位置D1から位置D5までを説明する図であり、(b)は用紙が位置D1から位置D5まで搬送されるときの先端の移動速度の変化を示す表である。
【図9】(a)は用紙の位置D1から位置D5までの所要移動時間と遅延指標との関係を示す表であり、(b)はインクの吐出タイミングの調整時間と遅延指標との関係の第1例を示す表である。
【図10】(a)はインクの吐出タイミングの調整時間と遅延指標との関係の第2例を示す表であり、(b)はインクの吐出タイミングの調整時間と遅延指標との関係の第3例を示す表である。
【図11】PCでインク吐出データ及び処理液吐出データを生成する場合の制御装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明に係る液滴吐出装置を、液滴吐出装置の一例であるインクジェットプリンタに適用させて説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ101は、略直方体形状の筐体102を備えている。筐体102内には、5つのヘッド1、用紙Pをヘッド1の下方において搬送方向99(図1中左から右に向かう方向)に搬送する搬送機構16、用紙Pを給紙する給紙ユニット103、およびインク等を貯留するタンクユニット104の各機構部が上方から下方へ順に設けられている。また、筐体102内の上記機構部と干渉しない位置には、各機構部の動作を司る制御装置100が設けられている。さらに、筐体102の天板上には、印字を終えた用紙Pが排出される排紙部15が設けられている。
【0013】
5つのヘッド1のうち4つは、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのインクをそれぞれ吐出する記録ヘッド1aである。残りの1つのヘッド1は、処理液を吐出する処理液ヘッド1bである。ここで、処理液としては、顔料インクに対しては顔料色素を凝集させるものが、染料インクに対しては染料色素を析出させるものがそれぞれ使用される。処理液の材料は、カチオン性化合物、とりわけ、カチオン系高分子やカチオン性界面活性剤、カルシウム塩、マグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等から、インクの性質に応じて適宜選択される。かかる処理液が予め塗布された用紙Pの領域にインクが着弾すると、多価金属塩等がインクの着色剤である染料又は顔料に作用して、不溶性又は難溶性の金属複合体等が凝集又は析出により形成される。その結果、付着したインクの用紙P内への浸透度が低下し、インクを用紙P上に定着しやすくなる。なお、インクへの処理液の作用には、インクと処理液が混ざることで化学反応を起こし、インク中の成分(顔料や染料)を凝集又は析出することも含まれる。また、処理液は、インク中の成分と化学反応する液体に限定されず、化学反応することなしにインク中の成分(顔料や染料)を凝集又は析出する液体であってもかまわない。さらに、一般的に顔料インクに対しては顔料色素を凝集させる処理液が使用され、染料インクに対しては染料色素を析出させる処理液が使用されるのは上述の通りであるが、処理液は凝集および析出の両方の作用を供するものであってもよい。
【0014】
5つのヘッド1は、いずれも印字幅方向98に長尺な略直方体形状を有するライン型インクジェットヘッドである。本実施形態において、印字幅方向98とは搬送方向99と直交する方向であって水平面に沿った方向である。5つのヘッド1のうち、処理液ヘッド1bが搬送方向99の最も上流側に配置されている。4つの記録ヘッド1aは、処理液ヘッド1bよりも搬送方向99下流側において、吐出するインクの明度が小さい順に、すなわち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順に上流側から下流側へ向けて配置されている。
【0015】
記録ヘッド1aと処理液ヘッド1bとは、ほぼ同様の構成を有している。各ヘッド1に設けられたヘッド本体2の下面は、複数の吐出口(不図示)が開口している吐出面2aであり、吐出面2aは搬送機構16により搬送方向99へ搬送される用紙Pと所定間隔を介して対向している。各ヘッド本体2は、選択的に複数の吐出口から処理液又はインクが吐出されるように、処理液又はインクに吐出エネルギーを付与する複数のアクチュエータ(不図示)を備えている。このアクチュエータの動作は、後述するヘッド制御部51により制御される。なお、本実施形態においては、印字幅方向98(主走査方向)及び搬送方向99(副走査方向)の解像度はいずれも600dpiであり、用紙P上に印字幅方向98および搬送方向99にそれぞれ1/600インチ間隔の格子状に区画された複数の単位領域(画素領域)が規定される。
【0016】
タンクユニット104は、4つのインクタンク17aおよび1つの処理液タンク17bを備えている。インクタンク17aおよび処理液タンク17bは、筐体102に対して着脱可能に装着されている。各インクタンク17aには、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのインクがそれぞれ貯留されており、対応する記録ヘッド1aにインクチューブ(不図示)を介してインクが供給される。同様に、処理液タンク17bには処理液が貯留されており、処理液ヘッド1bに処理液が供給される。
【0017】
給紙ユニット103は、筐体102に対して着脱可能に設けられた給紙トレイ11と、給紙ローラ12とを有している。給紙トレイ11は、上方に向かって開口した箱形状を有しており、複数枚の用紙Pが積層された状態で収納される。給紙ローラ12は、制御装置100により制御される給紙モータ31(図3参照)に回転駆動されて、給紙トレイ11の最も上方にある用紙Pを後述する搬送経路5へ送り出すことができる。
【0018】
筐体102の内部には、図1に黒矢印で示されるように、給紙トレイ11から排紙部15までの用紙Pの搬送経路5が形成されている。搬送経路5は、複数の搬入ガイド14、搬送機構16および複数の搬出ガイド29により、全体として左右が反転したS字形状となるように形成されている。給紙ローラ12により給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、複数の送給ローラ対13により搬入ガイド14を通じて搬送機構16へと送られる。搬送機構16の搬送経路5上流側には、レジストレーションローラ対4が設けられており、用紙Pはレジストレーションローラ対4によって姿勢が整えられた状態で搬送機構16へ突入する。搬送機構16は、用紙Pを各ヘッド1の下方を順に通して搬送方向99へ搬送する。用紙Pが各ヘッド1の下方を通過する際に用紙Pに対して処理液およびインクが吐出され、用紙Pの印字面(上面)に所望のカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送機構16から更に搬送経路5の下流側へ送り出され、複数の搬出ローラ対28により搬出ガイド29を通じて上方に搬送され、筐体102の上部に形成された排出口22から排紙部15へ排出される。
【0019】
なお、本実施形態に係るインクジェットプリンタ101は、用紙Pの表面に記録した後に裏面に記録できるように、筐体102内で用紙Pを自動的に反転させるスイッチバック方式の用紙搬送が可能である。このために、筐体102内には、図1に白矢印で示される再送経路7が形成されている。再送経路7は、総てのヘッド1よりも搬送方向99下流(詳細には、搬出ガイド29)の分岐点46において搬送経路5から分岐し、給紙トレイ11の下方を通過して、給紙トレイ11からの出口とレジストレーションローラ対4との間(詳細には搬入ガイド14)の合流点45において搬送経路5に合流している。このような再送経路7は複数の再送ガイド6により形成され、これらの再送ガイド6に沿って用紙Pを送り出す複数の送りローラ対27が設けられている。各送りローラ対27の一方のローラは、再送モータ35(図3参照)の駆動によって回転する駆動ローラであり、他方のローラは一方のローラの回転に伴って回転する従動ローラである。
【0020】
搬送機構16から搬送経路5の下流側へ送られた用紙Pは、搬出ガイド29に案内されつつ搬出ローラ対28によって上方へ送られる。各搬出ローラ対28において一方のローラは搬出モータ34(図3参照)の駆動によって正逆両方向に切り換え可能に回転する駆動ローラであり、他方のローラは一方のローラの回転に伴って回動する従動ローラである。また、搬送経路5から再送経路7の分岐点46において、搬送機構16から搬送経路5に沿って送られて来た用紙Pの後端が分岐点46を通過したことを検出するスイッチバックセンサ42が設けられている。このスイッチバックセンサ42は、例えば、光学式の反射型又は透過型センサである。スイッチバックセンサ42は、用紙Pの後端が搬送経路5から再送経路7の分岐点46に到達したことを示す検知信号を制御装置100へ出力する。
【0021】
用紙Pの表裏両面に記録する場合には、表面に画像が形成された用紙Pが搬出ガイド29に沿って搬送経路5を下流側へ送られて、当該用紙Pの後端が分岐点46を通過すると、搬出ローラ対28の回転方向が逆に切り替わる。これにより搬送経路5を下流側へ移動していた用紙Pの進行方向が逆転し、用紙Pは搬送経路5を一部折り返して(スイッチバックして)再送経路7へ進入する。再送経路7に進入した用紙Pは、用紙Pは複数の再送ガイド6によって案内されつつ複数の送りローラ対27によって合流点45まで搬送される。再送経路7を合流点45まで搬送された用紙Pは、合流点45からは搬送経路5に沿って移動する。このとき、用紙Pは裏面がヘッド1の吐出面2aと対向する印字面となった状態で搬送経路5を搬送される。
【0022】
搬送機構16は、図1に示すように、用紙Pの搬送方向に沿って配置された複数の搬送ローラ対8と圧延ローラ対10とで構成されている。搬送ローラ対8は、全ヘッド1の搬送方向99下流側及び上流側と、各記録ヘッド1aの間にそれぞれ配置されている。また、圧延ローラ対10は、処理液ヘッド1bと搬送方向99最も上流側の記録ヘッド1a(本実施形態では、ブラックの記録ヘッド1a)の間に配置されている。
【0023】
搬送ローラ対8は、用紙Pの下面とその周面とが接触するように配置された搬送ローラ8bと、搬送ローラ8bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置された歯付ローラ8aとで成る。歯付ローラ8aは、印字幅方向98に延びる支軸と、支軸上に間隔を開けて設けられた複数の歯付ディスクとで構成されている。歯付ディスクは、周面に複数の歯(突起)が形成された薄い板状のものであって、この歯の先端で用紙Pと接触する。歯付ローラ8aは、搬送ローラ8bに向けて付勢されており、歯付ローラ8aの周面は搬送ローラ8bの周面に圧接している。そして、複数の搬送ローラ8bが、搬送モータ33(図3参照)により同期して回転駆動されることにより、用紙Pが歯付ローラ8aと搬送ローラ8bとの間に挟まれて搬送方向99下流側へ搬送される。
【0024】
圧延ローラ対10は、用紙Pの下面とその周面とが接触するように配置された下部ローラ10bと、下部ローラ10bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置された上部ローラ10aとで成る。上部ローラ10aおよび下部ローラ10bの回転軸はいずれも印字幅方向98に延び、これらの回転軸は上下に並んでいる。上部ローラ10aは下部ローラ10bに向けて付勢されており、上部ローラ10aの周面は下部ローラ10bの周面に圧接している。上部ローラ10aの用紙Pと接触する周面は、表面が滑らかであって、用紙Pの印字幅方向98の印字範囲と同じかそれ以上の幅を有する。
【0025】
下部ローラ10bは、搬送ローラ対8の搬送ローラ8bを駆動している搬送モータ33により駆動され、下部ローラ10bは搬送ローラ8bと同期して用紙Pを搬送方向99下流側へ送る方向へ回転する。そして、下部ローラ10bが回転することにより、用紙Pは下部ローラ10bと上部ローラ10aの周面の間に挟まれて、搬送方向99下流側へ送り出される。
【0026】
上記構成の圧延ローラ対10は、用紙Pを搬送方向99下流側へ搬送する機能に加え、当該圧延ローラ対10よりも搬送方向99上流側において用紙Pに着弾した処理液の液滴を用紙P上で伸ばして広げる機能も備えている。図2に示すように、回転する上部ローラ10aの周面は、用紙Pに着弾した処理液の液滴が完全に染み込む前に処理液の液滴と接触する。そして、用紙P上に浸透せずに残っている処理液の液滴が上部ローラ10aと下部ローラ10bの間に挟まれて加圧されることにより、液滴が用紙P上で薄く伸ばされて、処理液の塗布範囲が広がる。
【0027】
次に、図3を参照しつつ、制御装置100について説明する。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する制御プログラムおよびこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。本発明の制御プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、メモリカード等の各種記録媒体に保存されており、これらの記録媒体からEEPROMにインストールされる。そして、この制御プログラムがCPUで実行されることにより、図3に示す制御装置100を構成する各機能部が実現される。なお、記録媒体に記録された制御プログラムは、制御装置100で直接実行可能なものであってもよいし、EEPROMにインストールすることによって初めて実行可能となるものであってもよい。また、暗号化されていたり、圧縮されていたりしてもよい。
【0028】
制御装置100は、搬送制御部59、ヘッド制御部51、画像データ記憶部52、インク吐出データ生成部53、インク吐出データ記憶部54、処理液吐出データ生成部56、処理液吐出データ記憶部57、調整時間演算部60、調整時間記憶部61、相関データ生成部62、相関データ記憶部63、および用紙データ記憶部49を有している。また、制御装置100には、レジストレーションローラ対4の搬送経路5上流側に設けられたレジセンサ41と、レジストレーションローラ対4と処理液ヘッド1bの間に設けられた印字開始センサ47、総てのヘッド1よりも搬送経路5下流側の分岐点46に設けられたスイッチバックセンサ42と、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた湿度センサ43と、搬送経路5の終端部分に設けられた排紙センサ44とが接続されている。印字開始センサ47、スイッチバックセンサ42および排紙センサ44は、用紙Pの先端および後端が検出位置を通過したことを検出することができる。印字開始センサ47の検出信号は、ヘッド制御部51が各ヘッド1からの処理液又はインクの吐出タイミングを決定するために利用される。スイッチバックセンサ42の検出信号は、搬出ローラ対28の回転方向を切り換えるタイミングを決定するために利用される。湿度センサ43の検出信号は、ヘッド1のノズルの詰まりを検出するために利用される。排紙センサ44の検出信号は、搬出ローラ対28の駆動を停止するタイミングを決定するために利用される。なお、レジセンサ41は用紙Pの先端が検出位置を通過したことを検出し、この検出に基づいてレジストレーションローラ対4により用紙Pを挟んで(ローラ対4間の間隔を狭めて)用紙Pを搬送するタイミングと用紙Pの姿勢を整えるタイミングを決定している。
【0029】
搬送制御部59は、搬送経路5に沿って用紙Pが搬送されるように、給紙ユニット103、各送給ローラ対13、各送りローラ対27、各搬出ローラ対28、レジストレーションローラ対4および搬送機構16を制御する。具体的には、搬送制御部59は、給紙ユニット103の給紙ローラ12を駆動する給紙モータ31のモータドライバ131、各送給ローラ対13およびレジストレーションローラ対4を駆動する送給モータ32のモータドライバ132、各搬出ローラ対28を駆動する搬出モータ34のモータドライバ134、搬送機構16の搬送ローラ対8および圧延ローラ対10を駆動する搬送モータ33のモータドライバ133、及び送りローラ対27を駆動する再送モータ35のモータドライバ135の駆動を制御する。
【0030】
ヘッド制御部51は、各ヘッド1が備えるアクチュエータの駆動を制御するものであって、記録ヘッド1aのアクチュエータを制御する記録ヘッド制御部51aおよび処理液ヘッド1bのアクチュエータを制御する処理液ヘッド制御部51bを有している。記録ヘッド制御部51aは、単位領域にインクが吐出されて用紙Pに画像ドットが形成されるように、後で詳述するインク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データと、調整時間記憶部61に記憶された調整時間tとに基づき、記録ヘッド1aのインクの吐出動作を制御する。処理液ヘッド制御部51bは、後で詳述する処理液吐出データ記憶部57に記憶された処理液吐出データに基づき、用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の着弾位置が対応するように、処理液ヘッド1bの処理液の吐出動作を制御する。なお、本実施形態においては、記録ヘッド制御部51aおよび処理液ヘッド制御部51bは、ヘッド1から吐出されるインク又は処理液の量をゼロ、小滴S、中滴M、大滴Lの4段階で調整する。
【0031】
画像データ記憶部52は、インクジェットプリンタ101と接続されているPC(Personal Computer)100やプリンタドライバ等から転送された用紙P上に記録される画像に係る画像データを記憶する。インク吐出データ生成部53は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて、インク吐出データを生成する。インク吐出データ記憶部54は、生成されたインク吐出データを記憶する。インク吐出データの値は、各記録ヘッド1aが用紙P上に区画される各単位領域にそれぞれ吐出するインクの量(ゼロ、小滴、中滴、大滴の4段階のいずれか)を示す。
【0032】
図4は或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。例えば、図4に示すように、インク吐出データ記憶部54は、4つの記録ヘッド1aに係る4つのインク吐出データを記憶している。なお、図4に示す4つのインク吐出データは、用紙P上の同一領域(1〜6までの6行分およびa〜fまでの6列分の計36個分の単位領域)に形成する画像に対応するインク吐出データを示している。また、図4のS、M、Lとの記載はその単位領域に小滴、中滴、大滴のインクが吐出されることを意味しており、S、M、Lのいずれの記載もない領域にはインクが吐出されないことを意味している。
【0033】
処理液吐出データ生成部56は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて、又は、インク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、処理液吐出データを生成する。処理液吐出データ記憶部57は、生成された処理液吐出データを記憶する。処理液吐出データの値は、各処理液ヘッド1bが用紙P上に区画される各単位領域にそれぞれ吐出する処理液の量(ゼロ、小滴、中滴、大滴の4段階のいずれか)を示す。
【0034】
図5は、例えば、インク吐出データが図4に示す構成の場合に、このインク吐出データに対応して生成された処理液吐出データを示している。なお、図5においてSの記載はその単位領域に小滴の処理液が吐出されることを意味しており、記載がない領域には処理液が吐出されないことを意味している。原則として、処理液吐出データは、用紙Pの処理液の塗布範囲とインクの着弾位置とが一致するように、用紙Pのインクが吐出される各単位領域に対し選択的に小滴の処理液を吐出させるデータである。
【0035】
調整時間記憶部61は、用紙Pが圧延ローラ対10と接触することにより生じる搬送遅れに応じた、インクの吐出タイミングの遅延量である調整時間tを記憶する。また、相関データ記憶部63は、上記搬送遅れを増大させる因子の影響を表す遅延指標Kと調整時間tとを関係付ける相関データを記憶する。この相関データは、相関データ生成部62により生成又は更新され、相関データ記憶部63に格納される。そして、調整時間演算部60は、遅延指標Kを算出し、算出した遅延指標Kと相関データに基づいて調整時間tを求め、求めた調整時間tを調整時間記憶部61へ格納する。以下、調整時間t、遅延指標K、相関データ、調整時間演算部60、調整時間記憶部61、相関データ生成部62、および相関データ記憶部63について詳細に説明する。
【0036】
図6は処理液が付着した用紙Pが圧延ローラ対10の上部ローラ10aと下部ローラ10bの間に突入するときの様子を示している。同図に示されるように、処理液が付着した用紙Pが圧延ローラ対10の上部ローラ10aと下部ローラ10bの間に突入するときに、用紙Pの搬送方向99下流側端面が各ローラ10a,10bの周面と当接したり、処理液により上部ローラ10aと用紙Pの間に滑りが生じたりして、用紙Pの圧延ローラ対10への噛み込み不良が生じることがある。この噛み込み不良により、圧延ローラ対10の各ローラ10a,10b間へ突入しようとする用紙Pに撓みが生じる。
【0037】
図8(a)では、搬送経路5において、印字開始センサ47の検出位置をD1、処理液ヘッド1bから処理液が吐出される位置をD2、圧延ローラ対10を通過する位置をD3、搬送方向99最上流の記録ヘッド1aからインクが吐出される位置をD4、スイッチバックセンサ42の検出位置をD5としている。そして、図8(b)に示す表は、縦軸が用紙Pの先端Paの移動速度を表し、縦軸は位置D1を始点とする位置D1から位置D5までの搬送距離を表している。図8(a)および図8(b)に示されるように、用紙Pの先端Paの移動速度Vaは、搬送機構16に搬送されるうちはほぼ一定であるが、圧延ローラ対10を通過するときに一時的に低下する。この減速の原因は、前述した通り、用紙Pが圧延ローラ対10の各ローラ10a,10b間へ突入しようとするときに生じる撓みである。このように用紙Pの先端Paの移動速度が一時的に減速することにより、用紙Pの先端Paが位置D1から位置D5まで搬送される間の搬送遅れが生じる。
【0038】
搬送遅れの大きさは、用紙Pの先端部分(搬送方向99下流側端部分)に付着した処理液の面積(又は処理液の量)、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端部分と接触する部分に乾燥せずに残存している処理液の面積(又は処理液の量)、用紙Pの種類(表面の材質や厚み)、環境湿度、用紙Pの搬送速度などの影響を受けて変化する。そこで、調整時間演算部60は、上記搬送遅れを増大させる因子の影響を表す遅延指標Kを算出し、この遅延指標Kに基づいて搬送遅れを補償するための調整時間tを求める。
【0039】
遅延指標Kは、次の数式1で表される。
[数式1] K=α×(E+E)×W×W×W
数式1において、Eは用紙Pの先端領域Pbに付着している処理液の面積(又は量)が搬送遅れに与える影響を表す第1の要素であり、Eは上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の面積(又は量)が搬送遅れに与える影響を表す第2の要素であり、Wは用紙Pの種類が搬送遅れに与える影響を表す第1の重み係数であり、Wは環境湿度が搬送遅れに与える影響を表す重み第2の係数であり、Wは搬送機構16による用紙Pの搬送速度vが搬送遅れに与える影響を表す第3の重み係数である。なお、αは遅延指標Kを0〜100%の数値で表すための係数である。
【0040】
上記において用紙Pの先端領域Pbとは、図7に示すように、用紙Pの先端Pa(つまり、搬送方向99下流側端)から搬送方向99上流側へ長さLまでの帯状の領域のことを言う。この先端領域Pbに付着している処理液は、上部ローラ10aと用紙Pの間で生じる滑りに影響を与える。用紙Pの先端Paからの長さLは、例えば上部ローラの半径をrとして0.5πrである。長さLは定数とすることもできるし、搬送機構16による用紙Pの搬送速度vに応じて変化する変数とすることもできる。用紙Pの先端領域Pbのうち処理液が付着している面積の割合が大きいほど、搬送遅れは大きくなる。本実施形態では、1つの単位領域に対して吐出される処理液はいずれも小滴Sで一様であるので、用紙Pの先端領域Pbに付着している処理液の総量と先端領域Pbに付着している処理液の面積は相関している。そこで、第1の要素Eを、用紙Pの先端領域Pbに吐出される処理液の総量としている。但し、各単位領域に対して吐出される処理液の量が一様でない場合には、先端領域Pbのうち処理液が吐出される単位領域の割合、および先端領域Pbに吐出される処理液の総量のうちいずれか一方若しくは両方の和又は積を第1の要素Eとしてもよい。
【0041】
また、本実施例において、第2の要素Eは、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の総量としている。なお、処理液の乾燥に要する時間は処理液の性質や量により異なるので、処理液に応じて適宜設定される。例えば、上部ローラ10aが1回転するうちは用紙Pから上部ローラ10aの周面へ移った処理液が乾燥しないと仮定して、上部ローラ10aの半径をr、搬送機構16による用紙Pの搬送速度をvとする。この場合に、用紙Pの先端領域Pbの最も搬送方向99下流側に処理液を吐出するタイミングよりも2πr/v前から(2πr−L)/v前までの時間に処理液ヘッド1bから吐出された(または、吐出される予定の)処理液の吐出総量(吐出履歴)を第2の要素Eとすることができる。但し、第2の要素Eは上記に限定されるものではない。例えば、用紙Pの先端領域Pbの最も下流側に処理液を吐出するタイミングの直前から処理液の乾燥に要する時間前までに処理液ヘッド1bより吐出される処理液の総量を算出し、これを第2の要素Eとすることもできる。この場合は計算が容易となる。なお、遅延指標Kに上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液を加味させないこともできる。この場合、第2の要素E=0とする。
【0042】
第1の係数Wは、例えば1.0〜1.2の間の数値であって、用紙Pの種類(表面の材質や厚み)に応じて定められる。用紙Pが厚紙のときは、ローラ10a,10bに用紙Pが噛み込まれにくく搬送遅れが大きくなる。一方、用紙Pが薄紙のときは、用紙Pの先端Paとローラ10aとが当接したときの用紙Pの撓みが大きく、搬送遅れが大きくなる。そこで、普通紙を基準として、用紙Pの種類が搬送遅れが大きくなる条件を備えているほど大きくなるように第1の重み係数Wを定める。具体的には、普通紙のときに第1の重み係数Wを1とし、厚紙や薄紙のときは第1の重み係数Wを1より大きく1.2以下の値とする。用紙Pの種類データは、PC50から画像データとともに制御装置100に対し入力され、制御装置100の用紙データ記憶部49に記憶されている。そして、第1の重み係数Wと用紙Pの種類とは予め対応付けられている。なお、重み係数Wを遅延指標Kに加味しない場合には、第1の重み係数W=1とする。
【0043】
また、第2の重み係数Wは、例えば1.0〜1.2の間の数値であって、環境湿度に応じて定められる。用紙Pの先端Paが上部ローラ10aと接触するときの環境湿度が高い場合に、用紙Pが圧延ローラ対10に噛み込まれ難くなるので、搬送遅れは大きくなる。そこで、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた湿度センサ43で検出された湿度(環境湿度)に応じて第2の重み係数Wが定められる。具体的な一例として、湿度センサ43で検出された湿度が閾値(例えば、80%)より大きいときには第2の重み係数Wを1.2とし、それ以外では第2の重み係数Wを1とする。但し、処理液や使用環境に応じて環境湿度の閾値や第2の重み係数Wの最大値を変更したりすることもできる。なお、第2の重み係数Wを遅延指標Kに加味しない場合には、第2の重み係数W=1とする。
【0044】
また、第3の重み係数Wは、例えば0.8〜1.2の間の数値であって、搬送機構16による用紙Pの搬送速度vに応じて定められる。ここで、搬送機構16による用紙Pの搬送速度vとは、図8(b)に示す用紙Pの先端移動速度Vaの一定部分の速度をいう。用紙Pの搬送速度vが大きいほど搬送遅れは大きく、搬送速度vが小さいほど搬送遅れは小さくなる。そこで、例えば、搬送モータ33の標準的な回転出力により定まる用紙Pの搬送速度vを基準速度とし、搬送速度vが基準速度のときに第3の重み係数Wを1とし、基準速度より小さいときに第3の重み係数Wを0.8以上1.0未満とし、基準速度よりも大きいときに第3の重み係数Wを1.0より大きく1.2以下とする。なお、第3の重み係数Wを遅延指標Kに加味しない場合には、第3の重み係数W=1とする。
【0045】
図9(a)は用紙の位置D1から位置D5までの所要移動時間Tと遅延指標Kとの関係を示す表である。同図に示されるように、遅延指標Kは0〜100%の数値で表され、遅延指標Kの数値が大きいほど位置D1から位置D5までの所要移動時間Tが増える。遅延指標Kが0%のときの所要移動時間Tは最小値Tminであり、遅延指標Kが100%のときの所要移動時間Tは最大値Tmaxである。この所要移動時間Tの最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔTを、調整時間tの最大値とする。図9(b)はインクの吐出タイミングの調整時間tと遅延指標Kとの関係を示す表である。この表に示されるように、調整時間tは、遅延指標Kが0%の時に最小値0であり、遅延指標Kが100%のときに最大値(=ΔT)であるような遅延指標Kの関数{t=F(K)}として表される。この遅延指標Kの関数又は図9(b)に示される表のようなマップが、調整時間tと遅延指標Kとを関係づける相関データとして、相関データ記憶部63に記憶されている。
【0046】
なお、図8(b)にも示されるように、所要移動時間Tの最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔT(つまり、搬送遅れ)は主に用紙Pの先端Paが圧延ローラ対10の位置D3を通過するときに発生するため、時間差ΔTをそのまま調整時間tの最大値として設定している。但し、所要移動時間Tの最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔTに圧延ローラ対10以外の原因により生じる搬送遅れが大きく影響する場合には、その原因に応じて時間差ΔTから圧延ローラ対10以外の原因により生じる搬送遅れを除いたものを調整時間tの最大値とする処置をすることが望ましい。
【0047】
相関データ記憶部63には、調整時間tと遅延指標Kとを関係づける相関データが記録され、この相関データの調整時間tの最大値には予め初期値が設定されている。但し、この調整時間tの最大値は、所定の印刷ジョブ回数毎、所定の起動回数毎、又は、PC50等から入力された再設定指令に基づいて適時に、再設定することが望ましい。この場合、インクジェットプリンタ101は、制御装置100に調整時間tの最大値を設定するために、試搬送を行う。そして、相関データ生成部62は、試搬送により用紙Pの先端Paの位置D1から位置D5までの所要移動時間Tの最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔTを求め、これを相関データの調整時間tの最大値として設定する。このように相関データの調整時間tの最大値を更新可能とすることによって、圧延ローラ対10の経時劣化や処理液の性質の変更があった場合にも、より精度の高い調整時間tを算出することができる。
【0048】
試搬送では、上部ローラ10aの周面に乾燥せずに残存している処理液がなく、且つ、用紙Pの先端領域Pbに処理液が付着していない状態(ケース1)で、用紙Pの先端Paが位置D1から位置D5まで移動するために要した所要移動時間Tを計測し、これを最小値Tminとする。相関データ生成部62は、所要移動時間Tの計測に際し、印字開始センサ47の検出タイミングと、スイッチバックセンサ42の検出タイミングとの時間差を算出し、これを所要移動時間Tとする。また、上部ローラ10aの周面に乾かずに残っている処理液がなく、且つ、用紙Pの先端領域Pbの全域に処理液が付着している状態(ケース2)で、用紙Pの先端Paが位置D1から位置D5まで移動するために要した所要移動時間Tを計測し、これを最大値Tmaxとする。そして、相関データ生成部62は、最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔTを求め、これを相関データにおける調整時間tの最大値として設定する。
【0049】
また、調整時間tの最大値に、上部ローラ10aの周面に残存している処理液の影響を加味することもできる。この場合、上部ローラ10aの周面に乾燥せずに残存している処理液がなく、且つ、用紙Pの先端領域Pbに処理液が付着していない状態(ケース1)で、用紙Pの先端Paが位置D1から位置D5まで移動するために要した所要移動時間Tを計測し、これを最小値Tminとする。そして、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に亘ってまんべんなく乾燥せずに残っている処理液が有り、且つ、用紙Pの先端領域Pbの全域に処理液が付着している状態(ケース3)で、用紙Pの先端Paが位置D1から位置D5まで移動するために要した所要移動時間Tを計測し、これを最大値Tmaxとする。そして、最大値Tmaxと最小値Tminとの時間差ΔTを、相関データにおける調整時間tの最大値として設定する。
【0050】
なお、上記の試搬送において、調整時間tの最大値を算出するために、印字開始センサ47の検出タイミングと、スイッチバックセンサ42の検出タイミングを利用している。但し、印字開始センサ47に代えて、処理液ヘッド1bよりも搬送方向99上流側において用紙Pの通過を検出できる他のセンサを利用することもできる。例えば、レジセンサ41や処理液ヘッド1bよりも搬送方向99上流側に別途設けた用紙検出センサの検出信号を、調整時間tの最大値を算出するために利用することができる。また、スイッチバックセンサ42に代えて、総てのヘッド1よりも搬送方向99下流側において用紙Pの通過を検出できる他のセンサを利用することもできる。例えば、搬送経路5の終端部分に設けられた排紙センサ44の検出信号、又は、総てのヘッド1よりも搬送方向99下流側に別途設けた用紙検出センサの検出信号を、調整時間tの最大値を算出するために利用することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ101は、用紙Pを搬送方向99に搬送する搬送機構16と、搬送される用紙Pの記録面に向けてインク(第1液)を吐出する1以上の記録ヘッド1a(第1液吐出ヘッド)と、これらの記録ヘッド1aよりも搬送方向99の上流側において処理液(第2液)を吐出する処理液ヘッド1b(第2液吐出ヘッド)と、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた圧延ローラ対10と、これらの動作を制御する制御装置100とを備えている。そして、制御装置100は、用紙Pが圧延ローラ対10と接触することにより生じる搬送遅れに応じてインクの吐出タイミングを遅らせる調整時間tを記憶する調整時間記憶部61と、用紙Pに形成される画像に関する画像データに基づいてインクを吐出させるインク吐出データを記憶するインク吐出データ記憶部54(第1液吐出データ記憶手段)と、インク吐出データと調整時間tとに基づいて該調整時間tを加味した吐出タイミングで各記録ヘッド1aの動作を制御する記録ヘッド制御部51a(第1液吐出ヘッド制御手段)とを備えている。また、制御装置100は、画像データに基づいて処理液を吐出させる処理液吐出データを記憶する処理液吐出データ記憶部57(第2液吐出データ記憶手段)と、処理液吐出データに基づいて用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の塗布位置が対応するように処理液ヘッド1bの動作を制御する処理液ヘッド制御部51bとを備えている。
【0052】
上記インクジェットプリンタ101では、用紙Pが圧延ローラ対10のローラ10a,10b間に突入するときに、用紙Pの搬送遅れが生じる。これに対し、上記インクジェットプリンタ101では、用紙Pの搬送遅れを補償するための調整時間tが算出され、この調整時間tを加味したタイミングでインクが吐出される。これにより、インクの用紙Pへの着弾位置のズレを防止することができる。したがって、上記搬送遅れに起因する画像の乱れを防止することができ、用紙Pに形成される画像の画質の維持及び向上に寄与することができる。
【0053】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。
【0054】
例えば、上述の実施形態において、図9(b)に示すように、調整時間tを遅延指標Kの一次関数F(K)として表しているが、遅延指標Kと調整時間tとの関係はこれに限定されない。例えば、図10(a)に示すように、調整時間tを遅延指標Kの二次関数F(K)として表しても良い。また、例えば、図10(b)に示すように、遅延指標Kが0%からKaまでは調整時間t=0であり、遅延指標KがKaから100%までの間に遅延指標Kが連続的に増加するような、調整時間tと遅延指標Kとの関係であっても良い。
【0055】
また、例えば、上述の実施形態では、制御装置100で処理液吐出データ及びインク吐出データを生成するが、これらのデータを制御装置100に接続されたPC50で生成してもよい。図11はPCでインク吐出データ及び処理液吐出データを生成する場合の制御装置の機能ブロック図である。同図に示されるように、処理液吐出データ及びインク吐出データをPC50で生成する場合には、PC50に画像データ記憶部52、インク吐出データ生成部53および処理液吐出データ生成部56としての機能が備えられ、インクジェットプリンタ101の制御装置100にインク吐出データ記憶部54、処理液吐出データ記憶部57、ヘッド制御部51、搬送制御部59、調整時間演算部60、調整時間記憶部61、相関データ生成部62、および相関データ記憶部63としての機能が備えられる。なお、各機能部の性能は、前述の通りである。
【0056】
なお、本発明は、インク以外の液体を吐出する液体吐出装置にも適用可能である。さらに、本発明はプリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。また、上述の実施形態では、ヘッド制御部51が処理液ヘッド1bのアクチュエータや各記録ヘッド1aのアクチュエータを駆動しているが、ヘッド1の駆動構成はこれに限定されない。例えば、処理液ヘッド1bおよび各記録ヘッド1aは発熱素子を備え、この発熱素子を駆動することでヘッドから処理液やインクを吐出する構成のヘッドであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の第1液を吐出する前に、第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を記録媒体に吐出し、記録媒体に着弾した第2液を回転するローラで伸ばし広げるように構成された液滴吐出装置に、広く適用させることができる。
【符号の説明】
【0058】
P 用紙(記録媒体)
1a 記録ヘッド(第1液吐出ヘッド)
1b 処理液ヘッド(第2液吐出ヘッド)
8 搬送ローラ対
10 圧延ローラ対
16 搬送機構
41 レジセンサ
42 スイッチバックセンサ(第2の検出器の一例)
47 印字開始センサ(第1の検出器の一例)
51 ヘッド制御部
51a 記録ヘッド制御部(第1液吐出ヘッド制御部)
51b 処理液ヘッド制御部(第2液吐出ヘッド制御部)
52 画像データ記憶部
53 インク吐出データ生成部
54 インク吐出データ記憶部
56 処理液吐出データ生成部
57 処理液吐出データ記憶部
59 搬送制御部
60 調整時間演算部
61 調整時間記憶部
62 相関データ生成部
63 相関データ記憶部
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
該搬送機構により搬送される記録媒体の記録面に向けて画像を形成する第1液を吐出する1以上の第1液吐出ヘッドと、
該第1液吐出ヘッドよりも前記搬送方向上流側に設けられ、搬送される記録媒体の前記記録面に向けて第1液の成分を凝集又は析出させる第2液を吐出する第2液吐出ヘッドと、
該第2液吐出ヘッドと前記1以上の第1液吐出ヘッドの間に設けられ、搬送される記録媒体の前記記録面と接触して回転する回転ローラと、
前記搬送機構の動作を制御する搬送制御手段と、
記録媒体が前記回転ローラと接触することにより生じる搬送遅れに応じて第1液の吐出タイミングを遅らせる調整時間を記憶する調整時間記憶手段と、
記録媒体に形成される画像に関する画像データに対応して第1液を吐出させる第1液吐出データを記憶する第1液吐出データ記憶手段と、
前記第1液吐出データと前記調整時間とに基づいて該調整時間を加味した吐出タイミングで前記1以上の第1液吐出ヘッドの動作を制御する第1液吐出ヘッド制御手段と、
前記画像データに対応して第2液を吐出させる第2液吐出データを記憶する第2液吐出データ記憶手段と、
前記第2液吐出データに基づいて記録媒体における第1液の着弾位置と第2液の塗布位置が対応するように前記第2液吐出ヘッドの動作を制御する第2液吐出ヘッド制御手段とを備える、
液滴吐出装置。
【請求項2】
前記搬送遅れを増大させる因子の影響を表す遅延指標と前記調整時間とを関係付ける相関データを記憶する相関データ記憶手段と、
前記遅延指標を算出し、算出した遅延指標と前記相関データに基づいて前記調整時間を求め、求めた調整時間を前記調整時間記憶手段へ格納する調整時間演算手段とを、更に備える、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記第2液滴吐出ヘッドよりも前記搬送方向上流側に設けられて、記録媒体の通過を検出する第1の検出器と、
前記1以上の第1液吐出ヘッドよりも前記搬送方向下流側に設けられて、記録媒体の通過を検出する第2の検出器と、
前記第1および第2の検出器の検出信号に基づいてこれらの検出器の間を記録媒体が搬送されるために要する時間を計測し、計測された時間から前記搬送遅れを算出し、前記搬送遅れに基づいて前記相関データ生成し、生成した相関データを前記相関データ記憶手段に格納する相関データ生成手段とを、更に備える、請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記相関データ生成手段は、
前記回転ローラに第2液が付着していない状態で、第1液および第2液が付着していない記録媒体を搬送したときの前記第1および第2の検出器からの検出信号に基づいてこれらの検出器の間を記録媒体が搬送されるために要した第1の搬送時間を計測し、
前記回転ローラに第2液が付着している状態で、第1液および第2液が付着していない記録媒体を搬送したときの前記第1および第2の検出器からの検出信号に基づいてこれらの検出器の間を記録媒体が搬送されるために要した第2の搬送時間を計測し、
前記第1の搬送時間と前記第2の搬送時間との差異から前記搬送遅れを算出する、請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記相関データ生成手段は、
前記回転ローラに第2液が付着していない状態で、第1液および第2液が付着していない記録媒体を搬送したときの前記第1および第2の検出器からの検出信号に基づいてこれらの検出器の間を記録媒体が搬送されるために要した第1の搬送時間を計測し、
前記回転ローラに第2液が付着していない状態で、第2液が前記搬送方向下流端部分に付着している記録媒体を搬送したときの前記第1および第2の検出器からの検出信号に基づいてこれらの検出器の間を記録媒体が搬送されるために要した第3の搬送時間を計測し、
前記第1の搬送時間と前記第3の搬送時間との差異から前記搬送遅れを算出する、請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記相関データ生成手段は、所定回数の印刷ジョブ間隔で前記相関データの生成を行う、請求項3〜5のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記遅延指標は、記録媒体の前記搬送方向下流端部分の所定範囲に吐出される第2液の量に関する要素を含む、請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記遅延指標は、前記回転ローラに付着している第2液の量に関する要素を含む、請求項2又は請求項7に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記遅延指標は、記録媒体の搬送速度、記録媒体の厚さおよび環境湿度のうち少なくとも1つに関する要素を含む、請求項2,7,8のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−71562(P2012−71562A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220214(P2010−220214)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】