説明

液滴塗布基板の製造方法

【課題】レジストの組成を変化させること無く、またプラズマ照射装置のような特別な装置を必要とせず、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することが可能な液滴塗布基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の液滴塗布基板の製造方法は、基板の一面上にレジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板の製造方法であって、前記基板の一面を覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層を形成する工程Aと、前記レジスト層を所定のパターンで露光する工程Bと、前記レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾する工程Cと、前記レジスト層を現像する工程Dと、を少なくとも順に備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の一面上にレジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるデバイスや液晶表示装置の製造過程においては、金属膜、無機膜および有機膜を所定の場所に配置し構造を構築していく。従来では、真空蒸着、スパッタリング、化学気相成長(CVD)法といったドライプロセスならびにスピンコート、ディップコート、スプレー、スキージ法といったウェットプロセスによって基板全面に薄膜を形成し、リソグラフィ技術を基本としたパターニング方法と組み合わせることで所望の構造を構築してきた,また、リソグラフィの代わりにレーザアブレーションを用いて不要な部分を除去する方法も考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、上記の薄膜形成技術に加え、インクジェット法を用いた技術が応用されている。具体的には、半導体集積回路(IC)の製造過程における金属配線ならびに液晶表示装置の製造過程におけるカラーフィルタの形成が挙げられる。インクジェット法による薄膜形成方法は、塗布する液体(インク)を変えることで容易に多様な膜種を成膜することが可能である。さらには、同一平面上の異なった領域に各々の膜を配置する際、前記したリソグラフィを用いたパターニング方法と薄膜形成を組み合わせた方法では、複数回のパターニングと成膜を繰り返す必要があるのに対し、インクジェット法では所定の位置にインクを塗布していくため、パターニングの回数を減らすことが出来、製造プロセスの簡素化が可能となる。
【0004】
一方で、インクジェット法を用いて薄膜形成を行う際、ネックとなるのはパターニングの精度とインクの塗布量における制限である。パターニング精度に関しては、塗布インクの液滴のサイズおよびその表面張力に依存してしまう。そのため、吐出液滴サイズの微細化、インク材料の粘度や表面張力の調整の工夫がされている。さらには、塗布基板表面の処理、具体的には親液領域と溌液領域がパターニングされるような処理が施されるようになっている。さらには、インク滴下後にレーザを照射することによって溶媒を急速に蒸発させることで線幅をする方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、インクジェット法による成膜においては膜厚の制限も大きな課題である。液体インクには成膜したい材料が溶媒に溶解もしくは懸濁された状態であるため、所望の体積に加え蒸発させる溶媒の量を加味したインクを塗布する必要がある。このため、成膜領域に対するインクの塗布量に限界がある。
【0006】
上記問題を解決するために、塗布基板にあらかじめレジストの樹脂をパターニングしておき、これを型として流れ出ないようにインクを塗布する方法が用いられている。さらには、液滴の濡れ広がりを防ぐため、レジスト表面を溌液性にする方法が提案されている(例えば特許文献2、3参照)。これらの方法は、特に液晶表示装置の製造工程におけるカラーフィルタの成膜プロセスに応用されており、有効な手段である。
【0007】
しかしながら、特許文献2記載のレジストにフッ素化合物を添加し、パターニングレジスト表面を溌液性にする方法では、フッ素化合物の添加量に制限があることやレジストの解像度への影響が懸念される。また、特許文献3記載の方法では、レジストパターニング後にフッ素含有ガスのプラズマを照射しレジスト表面に炭化フッ素膜を形成する方法が提案されている。しかし、この方法ではレジスト表面だけではなく基板表面にも上記炭化フッ素膜が成膜されてしまう可能性があるだけではなく、プラズマ照射装置が必要となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−287614号公報
【特許文献2】特開2005−315984号公報
【特許文献3】特開2010−44301号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】産総研TODAY 2009−10,p20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、レジストの組成を変化させること無く、またプラズマ照射装置のような特別な装置を必要とせず、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することが可能な液滴塗布基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の液滴塗布基板の製造方法は、基板の一面上にレジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板の製造方法であって、前記基板の一面を覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層を形成する工程Aと、前記レジスト層を所定のパターンで露光する工程Bと、前記レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾する工程Cと、前記レジスト層を現像する工程Dと、を少なくとも順に備えたことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の液滴塗布基板の製造方法は、請求項1において、前記工程Cにおいて、前記修飾剤として、フルオロアルキルエーテル基を有する高分子を含有するものを用いること、を特徴とする。
本発明の請求項3に記載の液滴塗布基板の製造方法は、請求項1において、前記工程Cにおいて、前記修飾剤として、フルオロアルキル基を有する高分子を含有するものを用いること、を特徴とする。
本発明の請求項4に記載の液滴塗布基板の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記工程Bにおいて、露光することにより露光部に化学的な活性種を発生させ、さらに前記レジスト層を加熱することによって、前記化学的な活性種を触媒とする化学反応を連鎖的に起こし、現像液に対して溶解特性が変化する領域αを形成し、前記工程Dにおいて、前記現像液を用いて現像することにより、前記レジスト層のうち前記領域αが選択的に残存もしくは除去すること、を特徴とする。
本発明の請求項5に記載の液滴塗布基板の製造方法は、請求項4において、前記工程Bにおいて、露光することにより露光部に酸を発生させ、さらに前記レジスト層を加熱することによって、前記酸を触媒とする化学重合反応を連鎖的に起こし、現像液に溶解しない領域αを形成し、前記工程Dにおいて、前記現像液を用いて現像することにより、前記レジスト層のうち前記領域αが選択的に残存すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、レジスト層を露光した(工程B)後、レジスト層を現像する(工程D)前に、該レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾している(工程C)。これによりレジスト層の表面を溌液性とすることができる。レジスト層の表面を溌液性とすることで、インクを塗布した際に、インク液滴の濡れ広がりを防ぐことができる。また、本発明では化学増幅型のレジストを用いているので、現像時にレジスト層の表面が溶解することは無く、溌液性を付与した場合にも特性を維持することができる。
その結果、本発明ではレジストの組成を変化させること無く、またプラズマ照射装置のような特別な装置を必要とせず、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することが可能な液滴塗布基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明により製造された液滴塗布基板の一構成例を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の液滴塗布基板の製造方法を工程順に示す断面図。
【図3】実施例で作製した液滴塗布基板を模式的に示す図。
【図4】本発明の液滴塗布基板にインクを滴下した状態を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る液滴塗布基板の製造方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明により製造された液滴塗布基板の一構成例を模式的に示す断面図である。
この液滴塗布基板1は、基板10の一面10a上にレジスト層11がパターン形成されてなる。
この液滴塗布基板1では、レジスト層11の表面が、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤により溌液性とされている。レジスト層11の表面を溌液性とすることで、インクを塗布した際に、インク液滴の濡れ広がりを防ぐことができる。これによりこの液滴塗布基板1では、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することができる。本発明において使用可能なレジストは、後述するネガ型レジストに限定されるものではなく、ポジ型レジストとしても構わない。
【0016】
この液滴塗布基板1は、以下に示すような方法により製造される。
図2は、本発明の液滴塗布基板の製造方法を工程順に示す断面図である。
本発明の液滴塗布基板の製造方法は、前記基板10の一面10aを覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層11を形成する工程Aと、前記レジスト層11を所定のパターンで露光する工程Bと、前記レジスト層11の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤12を用いて修飾する工程Cと、前記レジスト層11を現像する工程Dと、を少なくとも順に備える。
【0017】
本発明では、レジストの組成を変化させること無く、かつ、プラズマ照射装置のような特別な装置が不要なプロセスを提案する。すなわち、本発明では、フォトリソグラフィによってパターニングしたレジスト層11の表面をフッ素含有高分子で修飾し、レジスト層11の表面に溌液性を持たせる方法を提案する。
具体的に、本発明では、レジスト層11を露光した(工程B)後、レジスト層11を現像する(工程D)前に、該レジスト層11の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤12を用いて修飾している(工程C)。これによりレジスト層11の表面を溌液性とすることができる。レジスト層11の表面を溌液性とすることで、インクを塗布した際に、インク液滴の濡れ広がりを防ぐことができる。
【0018】
また、本発明では化学増幅型のレジストを用いているので、現像時にレジスト層11の表面が溶解することは無く、溌液性を付与した場合にも特性を維持することができる。
その結果、本発明ではレジストの組成を変化させること無く、またプラズマ照射装置のような特別な装置を必要とせず、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することが可能な液滴塗布基板1を製造することができる。
以下、工程順に説明する。
【0019】
(1)基板10の一面10aを覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層11を形成する(工程A)。
まず、図2(a)に示すように、基板10上の一面10aを覆うように化学増幅型のレジストを塗布し、ベークすることによりレジスト層11を形成する。
基板10の材質は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択すれば良く、例えば、光透過性を有するもの及び有さないもののいずれでもよい。具体的には、シリコン(Si)、石英(SiO)、ガラス、樹脂、金属、セラミックが例示でき、なかでもシリコン(Si)、石英(SiO)及びガラスが特に好ましい。
【0020】
基板10の厚さ及び表面積は、目的に応じて適宜選定すればよい。
【0021】
ここで本発明では、前記レジストとして、化学増幅型のレジストを用いる。
化学増幅型レジストのパターニングプロセスは、基板の全面にレジストを塗布する工程、基板上に塗布されたレジストをベークしレジスト膜を形成する工程、露光する工程、PEB(Post Exposure Bake)と呼ばれる加熱工程、そして現像する工程からなる。
【0022】
従来より半導体集積回路(半導体素子)等の製造工程で広く用いられているジアゾナフトキノン(DNQ)とノボラック樹脂とからなるレジストでは、吸収を有する紫外光を照射することによってDNQが変性し、現像液に溶解してしまう。しかし、このタイプのレジストではDNQの変性がノポラック樹脂の溶解性を制御しており、いわば溶解する速度の比で構造が構築されている。したがって、レジストの現像時にわずかながらではあるが、表面の樹脂は溶解してしまう。したがって、その表面に特性を持たせたとしても、現像中にその表面が溶解することで、その特性が失われてしまう。
【0023】
そこで本発明では、レジストとして化学増幅型のレジストを用いることで、この問題を解決した。化学増幅型レジストは、光が照射されることによって触媒(多くの場合は酸)を発生する化合物が感光剤に含まれる。露光された部分には局所的に触媒が発生し、露光後の加熱工程(PEB)によってその触媒の拡散および反応に必要なエネルギーを導入することにより、保護膜やエステル基の脱離等の反応を進行させるという機構でレジストがパターニングされる(「半導体集積回路用レジスト材料ハンドブック」(監修:山岡亜夫、発行所:株式会社リアライズ社、1996年7月31臼発行)。
したがって、本発明では、化学増幅型のレジストを用いることで、現像時のレジスト表面が溶解することが防止され、表面に付与した特性(ここでは溌液性)を現像後も維持することができる。
【0024】
このような化学増幅型のレジストとしては、特に限定されるものではないが、例えばKMPR(化薬マイクロケム株式会社製)、SU−8(化薬マイクロケム株式会社製)、PMER CX4000 AM(東京応化工業社製)、TMMR S2000(東京応化工業社製)、TMMF S2000(東京応化工業社製)、ZPN(日本ゼオン社製)、AZ 5XT,12XT,40XTシリーズ(AZエレクトロマテリアルズ社製)、等が挙げられる。
【0025】
このような化学増幅型のレジストであれば、後述する工程Bにおいて、露光することにより露光部に化学的な活性種を発生させ、さらに前記レジスト層を加熱することによって、前記化学的な活性種を触媒とする化学反応を連鎖的に起こし、現像液に対して溶解特性が変化する領域αを形成することができる。
【0026】
レジストの塗布方法としては特に限定されるものではないが、例えば、スピンコーティング等が挙げられる。
基板10の一面10aを覆うようにレジストを塗布した後、レジストをベークしレジスト層11を形成する。
【0027】
(2)前記レジスト層11を所定のパターンで露光する(工程B)
次に、図2(b)に示すように、紫外光のマスクを介してコンタクト露光を行う。
このとき、本発明ではレジストとして化学増幅型のレジストを用いているので、本工程においてレジスト層11を露光することにより露光部に酸(化学的な活性種)が発生する。さらに、露光後にレジスト層11を加熱する(PEB)ことによって、前記酸を触媒とするカチオン重合反応と呼ばれる化学重合反応(化学反応)が、基板面に対して垂直方向に拡散して(連鎖的に)起こり、これによりレジスト層11の露光部分に、現像液に溶解しない領域11a(領域α)が形成される。
露光後の加熱(PEB)の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、105℃で3分間ベークすることで行う。
【0028】
(3)図2(c)に示すように、前記レジスト層11の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤12を用いて修飾する(工程C)
本発明において、修飾剤12とは、レジスト層11上を被覆して、レジスト層11表面とは異なる性質を発現するものを指す。ここで「レジスト層11上を被覆する」とは、「レジスト層11表面を直接又は間接的に被覆する」ことを指す。修飾剤12として具体的には、レジスト層11と化学結合を形成することなく単にレジスト層11上に積層されるもの、レジスト層11と化学結合を形成してレジスト層11上に固定化されるものが例示できる。ここで「レジスト層11と化学結合を形成する」とは、「レジスト層11表面と化学結合を形成する、あるいはレジスト層11上に別途予め塗布された修飾剤12と化学結合を形成する」ことを指す。いずれの場合も、修飾剤12としては、通常、レジスト層11上を被覆する前の段階で所望の性質を有しているものが使用できる。また、レジストと化学結合を形成する修飾剤の場合には、該化学結合形成後に所望の性質を有するようになるものでもよい。なお、ここで化学結合とは、共有結合等を指す。
【0029】
フッ素を有する高分子を含有する修飾剤12としては、例えば、フルオロアルキルエーテル基を有する高分子や、フルオロアルキル基を有する高分子を含有するものを用いることが好ましい。
フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を有する高分子としては、下記一般式(l)または(2)で表されるフッ素含有化合物が用いられる。
【0030】
【数1】

【0031】
【数2】

【0032】
式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキルエーテル基を示す。
は、下記するような化学反応官能基を表す。
Yは、−NH−C(=O)−で表される基またはカルボニル基である。
Zは、1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基またはアルキルオキシアルキル基に、1つの水素原子が置換されたエチレンオキシ基である。
jおよびkは、同一または異なり0または1を示す。
lおよびmは、同一または異なり0以上の整数を示し、lが2以上の整数である鳩合には1個のZは互いに同一でも異なっていてもよい。
上記した一般式(1)または(2)において化学反応官能基Rは、以下の表1に記載する分子系を用いることができる。
【0033】
【表1】

【0034】
式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子または基を表す。
は、水素原子または1価の炭化水素基を表す。
nは、1、2または3であり、nが2または3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く、nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0035】
なお、Rの水酸基に置換可能な原子としては、好ましいものとしてフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられ、なかでも塩素原子が特に好ましい。また、水酸基に置換可能な基としては、好ましいものとして、炭素数が1〜6のアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基およびアシルオキシ基が挙げられる。炭素数が1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、 tert−ブトキシ基、ペントキシ基およびヘキシルオキシ基が例示できる。アリールオキシ基としては、フェノキシ基およびナフトキシ基が例示できる。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基およびフェネチルオキシ基が例示できる。アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピパロイルオキシ基およびベンゾイルオキシ基が例示できる。これらのなかでも、塩素原子、メトキシ基およびエトキシ基がより好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0036】
さらに、Rの1価の炭化水素基は特に限定されるものではなく、鎖状構造および環構造のいずれでも良く、飽和および不飽和のいずれでもよい。鎖状構造の場合には、直鎖状および分岐鎖状のいずれでも良く、環構造である場合には、単環構造および多環構造のいずれでもよい。なかでも、好ましいものとして、炭素数が1〜6のアルキル基、アリール基およびアラルキル基が挙げられる。炭素数が1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec −ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基が例示できる。アリール基としては、フェニル基およびナフチル基が例示できる。アラルキル基としては、ベンジル基およびフェネチル基が例示できる。これらのなかでも、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
これら、フルオロアルキル基またはフルオロアルキルエーテル基を導入する表面は、絶縁膜、例えば樹脂または酸化ケイ素膜であることから、化学反応官能基Rが有機シラン、スルホン酸、リン酸エステルの場合は、直接表面中のヒドロキシル基(−OH)と反応して導入することが可能である。とくに有機シランの化合物は一般的にも入手が可能であり、例えば、サイトップシリーズ(旭硝子株式会社製)、メガファック(大日本インキ化学工業株式会社製)、ディックガード(大日本インキ化学工業株式会社製)、FPX−30G(JSR株式会社製)、ノベックEGC−1720(住友3M社製)、Patinalシリーズ(substance wR1,WR2,WR3)(メルク株式会社製)が挙げられる。この他にもフルオロアルキルシランや少なくともこれを含む材料のポリマーが挙げられる。
【0038】
修飾剤12の塗布方法は、修飾剤12の種類に応じて適宜選択すればよいが、ディップ塗布法、スピンコート法、真空蒸着法、CVD(化学気相蒸着)法、プラズマ重合法が例示できる。例えば、ディップ塗布法の場合には、修飾剤溶液を調製し、これを塗布して乾燥することにより、溶媒成分を除去することが好ましい。
修飾剤12が塗布された基板10は、必要に応じて洗浄及び乾燥させる。洗浄は、メタノールやエタノール等のアルコールを使用してもよいし、例えば、修飾剤溶液がフッ素系溶媒を含有する場合には、フッ素系溶媒を使用してもよい。
修飾剤12の塗布厚は、目的に応じて適宜設定すればよい。なお、修飾剤12の塗布厚は、修飾剤12の分子の大きさや使用量で調整できる。
【0039】
また、化学反応官能基Rがカルボキシル基、アミノ基、エポキシ基の材料の場合は、あらかじめ表面に前記官能基Rと反応するような官能基を導入しておけばよく、その手段は特に問わない。
例えば、「Bentcrs R.Et al.:Chembiochem , 2,686-694(2001)」に記載の手法を用いれば、Rがアミノ基である一般式(1)または(2)で表されるフッ素含有化合物が表面に導入される。またアミノ基を有する有機シラン化合物、例えば、3-Aminopropyltrimethoxysilane、3-AminoPropyltriethoxysilane、3-Aminopropyldiethoxymethylsilane、3-(2-Aminoethylamino)propyltrimethoxysilane、3-(2-Aminoethylamino)propyltriethoxysilane、3-(2-Aminoethylamino)propyldimethoxymethylsilane 等といった一般的に入手できる化合物で表面にアミノ基を導入しておき、これにRがエポキシ基またはカルボキシル基である一般式(1)また(2)で表されるフッ素含有化合物を反応させることで同様な効果を得ることができる。
【0040】
なお、ここでは、修飾剤12を単層塗布した場合について説明したが、本実施形態においては、異なる複数の修飾剤を積層塗布してもよい。修飾剤を複数塗布とする場合には、その塗布層数は目的に応じて任意に選択できる。そして、それぞれの層の厚さは、その合計の厚さが、単層塗布した場合の厚さと同じになるようにすればよい。
【0041】
(4)前記レジスト層11を現像する(工程D)。
最後に、図2(d)に示すように、現像液を用いて現像することにより、前記レジスト層11のうち前記領域11aを残存させる。これにより、レジストがパターン形成されてなる液滴塗布基板1が得られる。現像液としては、例えば、2.3%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いることができる。
この液滴塗布基板1において、レジスト層11の表面は溌液性を有するものとなる。そしてこの液滴塗布基板1は、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量を確保することが可能なものとなる。
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
(実施例1)
基板の一面を覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層を形成した。
基板にはSiウェハを用い、化学増幅型のエポキシレジストとして、KMPR(化薬マイクロケム株式会社製)を用いた。3000rpmの回転数で60秒間、スピンコートによりKMPRを塗布し、105℃でベークを行いレジスト層を形成した。
【0043】
次に、紫外光のマスクを介してコンタクト露光を行い、105℃で3分間ベークすることでPEBを行った。これにより、露光部に酸が発生し、さらには加熱すること(PEB)によって、この酸を触媒とするカチオン重合反応が起こり、さらには垂直に拡散することで現像液に溶解されない領域αが形成される。
【0044】
次に、レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾した。修飾剤として、フルオロアルキルエーテル基を合む有機シラン化合物である、オプツールDSX(ダイキン化学工業社製)を用いてディップコートにより塗布し、風乾することでレジスト層の表面を修飾した。
【0045】
最後に、現像液として2.3%水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて、現像した。これにより、図1に示したような、レジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板が得られた。
【0046】
(比較例1)
レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾しなかったたこと以外は、実施例1と同様にして、レジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板を作製した。
【0047】
実施例1と比較例1の液滴塗布基板において、基板表面及びレジスト層表面について、純水とジプロピレングリコールに対する接触角を測定した。その結果を表2にまとめて示す。
【0048】
【表2】

【0049】
この結果、実施例1の液滴塗布基板では、純水およびジプロピレングリコールに対する接触角で共にレジスト層表面では高い溌液性を有していることが分かった。
これに対し、修飾を行わなかった比較例1の液滴塗布基板では、水に対しては基板表面に比べ溌水しているが、溶媒(ジプロビレングリコール)に対しては濡れ性が高く、十分な溌液性は得られなかった。
したがって、レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾することによりレジスト層の表面を溌液性とすることができることが確認された。
【0050】
(比較例2)
本比較例では、化学増幅型レジストではなく、現在、半導体およびMEMSデバイス製造工程において最も汎用的に使用されているナフトキノンジアジド(DNQ)を感光剤とするノボラックレジストを用いて、液滴塗布基板を作製した。レジストは、ポジ型のレジストであるOFPR(東京応化製)を用いた。
【0051】
基板の一面を覆うようにレジストを塗布しレジスト層を形成した。
基板にはSiウェハを用い、1200rpmの回転数でスピンコートによりOFPRを塗布し、110℃で2分間ホットプレート上でベークを行いレジスト層を形成した。
次に、コンタクトアライナーによるマスクを介した紫外光の露光を行った。これにより、露光部のDNQが変質し、現像液に対する溶解度が上昇する。
【0052】
次に、レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾した。修飾剤として、フルオロアルキルエーテル基を合む有機シラン化合物である、オプツールDSX(ダイキン化学工業社製)を用いてディップコートにより塗布し、風乾することでレジスト層の表面を修飾した。
最後に、現像液を用いて現像し、液滴塗布基板を得た。
【0053】
(比較例3)
レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾しなかったたこと以外は、比較例2と同様にして、レジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板を作製した。
【0054】
このようにして得られた比較例2及び比較例3の液滴塗布基板において、基板表面及びレジスト層表面について、純水に対する接触角を測定した。その結果を表3にまとめて示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3からも明らかなように、レジスト層の表面を修飾した比較例2と、修飾しなかった比較例3では、純水に対する接触角において溌水性に有意差は見られなかった。
これは、DNQ−ノボラック系のフォトレジストは、露光によってDNQが変質し、現像液に対するエッチングレートの差によってパターニングされる。つまり、非露光部においても現像液によってエッチングされてしまうために、レジスト表面に付与した修飾剤も除去されてしまい、その特性が失われてしまったためと考えられる。
したがって、実施例1に示されるように、化学増幅型のレジストを用いることで、現像時のレジスト表面が溶解することが防止され、表面に付与した特性(ここでは溌液性)を現像後も維持することができることが確認された。
【0057】
(比較例4)
本比較例では、レジスト層の露光工程と現像工程との間ではなく、露光工程前に、レジスト層の表面を修飾剤を用いて修飾し、液滴塗布基板を作製した。
基板の一面を覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層を形成した。
化学増幅型のエポキシレジストとして、KMPR(化薬マイクロケム株式会社製)を用いた。3000rpmの回転数で60秒間、スピンコートによりKMPRを塗布し、105℃でベークを行いレジスト層を形成した。
【0058】
次に、レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾した。修飾剤として、フルオロアルキルエーテル基を合む有機シラン化合物である、オプツールDSX(ダイキン化学工業社製)を用いてディップコートにより塗布し、風乾することでレジスト層の表面を修飾した。
【0059】
次に、紫外光のマスクを介してコンタクト露光を行い、105℃で3分間ベークすることでPEBを行った。これにより、露光部に酸が発生し、さらには加熱すること(PEB)によって、この酸を触媒とするカチオン重合反応が起こり、さらには垂直に拡散することで現像液に溶解されない領域αが形成される。
最後に、現像液として2.3%水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて現像し、液滴塗布基板を得た。
【0060】
(比較例5)
レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾しなかったたこと以外は、比較例4と同様にして、レジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板を作製した。
【0061】
このようにして得られた比較例4及び比較例5の液滴塗布基板において、基板表面及びレジスト層表面について、純水に対する接触角を測定した。その結果を表4にまとめて示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4からも明らかなように、レジスト層の表面を修飾した比較例3と、修飾しなかった比較例4では、純水に対する接触角において溌水性に有意差は見られなかった。さらに、ガラス上にオプツールDSXを処理した溌水処理面の純水に対する接触角は、110°以上であることから、露光前に修飾を行う方法では、レジスト層表面を溌水特性にすることは困難であることが分かった。
【0064】
これは、化学増幅型のレジストにおいては、前述したように露光によって表面に酸が発生する。露光前にフルオロアルキルエーテル基を含む修飾剤を用いて修飾すると、露光時の酸発生時に、フルオロアルキルエーテル基を含む有機シラン化合物も分解もしくは変性してしまったためと考えられる。
したがって、実施例1に示されるように、レジスト層の露光工程と現像工程との間に、修飾を行うことで、修飾剤の分解や変性が防止され、レジスト層表面に溌液性などの特性を付与できることが確認された。
【0065】
(実施例2)
基板の一面上にレジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板に実際にインクジェットを用いてインクを滴下した。
図3(a)に作製した液滴塗布基板を示す。ガラス基板(51)上にブラックマトリクスを見立てたCr(52)およびフルオロアルキルエーテル基の有機シラン化合物(54)で修飾された溌液表面を有するレジスト(53)の構造物(55)を、図3(b)に示すような100μmの正方形の開口部(56)を有する格子状のパターンで形成した。本基板では、レジスト層を厚さ15μmで形成したため、開口部(56)の体積から約0.15nLの液滴が入ると想定される。
【0066】
(比較例6)
レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾しなかったたこと以外は、実施例2と同様にして、レジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板を作製した。
【0067】
このようにして得られた実施例2及び比較例6の液滴塗布基板に、特に液晶表示装置で用いられるインクの溶媒として広く使用されているNMPをインクジェットプリンタを用いて開口部(56)に滴下した。
その結果、実施例2の基板では、0.3nLを滴下しても、図4に示すようにNMP(61)が表面張力で保たれ、十分に溌液性が機能していることが分かった。
一方、比較例6の基板では、0.2nL程度のNMPの滴下で開口部同上のNMPが繋がってしまった。
【0068】
これにより、レジスト層の表面を溌液性とすることで、インクを塗布した際に、インク液滴の濡れ広がりを防ぐことができる。これによりこの液滴塗布基板では、インクジェット等の滴下装置を用いたウェハーヘの応用が可能で、パターニングの精度を維持しつつ、インクの塗布量(膜厚)を確保することができることが確認された。
【0069】
以上、本発明の液滴塗布基板の製造方法について説明してきたが、本発明は上述した例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、液滴塗布基板の製造方法に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 液滴塗布基板、10 基板、11 レジスト層、12 修飾剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一面上にレジスト層がパターン形成されてなる液滴塗布基板の製造方法であって、
前記基板の一面を覆うように化学増幅型のレジストを塗布しレジスト層を形成する工程Aと、
前記レジスト層を所定のパターンで露光する工程Bと、
前記レジスト層の表面を、フッ素を有する高分子を含有する修飾剤を用いて修飾する工程Cと、
前記レジスト層を現像する工程Dと、を少なくとも順に備えたことを特徴とする、液滴塗布基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて、前記修飾剤として、フルオロアルキルエーテル基を有する高分子を含有するものを用いること、を特徴とする請求項1に記載の液滴塗布基板の製造方法。
【請求項3】
前記工程Cにおいて、前記修飾剤として、フルオロアルキル基を有する高分子を含有するものを用いること、を特徴とする請求項1に記載の液滴塗布基板の製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおいて、露光することにより露光部に化学的な活性種を発生させ、さらに前記レジスト層を加熱することによって、前記化学的な活性種を触媒とする化学反応を連鎖的に起こし、現像液に対して溶解特性が変化する領域αを形成し、
前記工程Dにおいて、前記現像液を用いて現像することにより、前記レジスト層のうち前記領域αが選択的に残存もしくは除去すること、を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液滴塗布基板の製造方法。
【請求項5】
前記工程Bにおいて、露光することにより露光部に酸を発生させ、さらに前記レジスト層を加熱することによって、前記酸を触媒とする化学重合反応を連鎖的に起こし、現像液に溶解しない領域αを形成し、
前記工程Dにおいて、前記現像液を用いて現像することにより、前記レジスト層のうち前記領域αが選択的に残存すること、を特徴とする請求項4に記載の液滴塗布基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47952(P2012−47952A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189725(P2010−189725)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】