説明

液滴射出装置

【課題】圧電アクチュエーターの射出力を増大させて高精度の液滴射出を担保し、コンパクトなユニット化を可能とし、製作上の利便性に優れた液滴射出装置を安価に提供すること。
【解決手段】縦長型ケーシング101が、下端面に微小径な射出孔を有する射出ノズル105を取り付けるとともにその上部にシリンダ孔120を開口して該シリンダ孔にプランジャー104を摺動可能に配設し、ケーシング101内には、ケーシングに固定される取付部材113に上端面を取り付けた積層型の圧電素子103を配設して、その圧電素子の下端に前記プランジャーの上面を衝合させ、前記シリンダ孔120の先端に前記射出孔へ連なる液溜室131を形成し、液溜室には射出液を導入する供給口管106の供給路134を接続し、該供給路134から供給された液溜室131内の射出液を前記圧電素子103の駆動によって加圧して射出ノズル105の射出孔から射出させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴射出装置、詳しくは、電子部品などの工業的生産分野において導電ペースト(金属微粒子分散液、はんだ材料)や液体レジスト等の液体材料を液滴として射出し、あるいは、食品分野や薬品分野などにおいて液体試料を液滴として射出し、さらには、金属・セラミックス・樹脂等を混合した微小物体造形用の高粘度微粒子液を射出するなど、各種の液体材料・試料を微細な液滴として射出するために使用される液滴射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として電子部品の生産工程を例にとれば、近年の電子機器の小型化、高性能化の要求に伴い回路基板の回路形成においても高集積化された微小な配線パターンが要求されており、その要求に応じるために、それまでのスクリーン印刷法やフォトリソエッチング法に代えて、導電ペースト自体の改良と共に液滴射出装置を使用し、その射出ノズルから導電ペーストを液滴として射出することにより配線パターンを直接に描画する方式が提案されている。それに使用される液滴射出装置としては、圧電素子を駆動源としたインクジェット方式による射出装置が一般的である。
【0003】
具体的には、特開平10−204350号公報(特許文献1)に開示されるように、インク(金属微粒子分散液)を収容したキャビティに振動板及び圧電素子を配設し、その圧電素子に電圧を印加して発生する微伸縮動により振動板を変形させ、その変形作用によりキャビティ内のインクを加圧してノズルより液滴として吐出させるものである。
また、特開2004−207510号公報(特許文献2)に開示されるインクジェット装置は、電圧をかけると変形するピエゾ素子を用い、そのピエゾ素子の作用でインク(金属微粒子分散液)が貯められた圧力室の壁を撓ませることにより、又は圧力室の壁自身をピエゾ素子で形成することによって導電インクを微小液滴で吐出させる装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−204350号公報(図1及び図2とその説明を参照)
【特許文献2】特開2004−207510号公報(図3(b)及び図4(b)とその説明を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の液滴射出装置は、何れも、インク(金属微粒子を含む分散液であって、以下、導電インクという)を収容するキャビティ又は圧力室等のインクタンクに、圧電アクチュエーターの駆動力を側面圧として直接にかける方式、つまりプリンターに採用されている印刷技術としてのインクジェット方式をそのまま適用するに過ぎないものであった。
しかるに、導電インクは、電子回路となる配線パターンを効率的に描画し作製するために、通常の印刷用インクの粘度(10mPa・s以下)に比べてより高粘度の分散液が要求されており、しかも、配線の微細線化に伴うノズル孔径の微小化と相俟って、従来のインクジェット方式より大きな射出力が必要である。
しかしながら、上記従来装置では、圧電アクチュエーターの出力限界から導電インクの円滑な液滴射出が望めなく高精度な配線パターンの直接描画を担保し得なかった。また、液滴射出装置として複数組を組み込むためには、細径縦長なペンシル型や短柱型などユニット化されたコンパクトな形態が要請されるが、上記従来装置では圧電アクチュエーターの構造、インクタンクや振動板及び圧電素子の配列構造からみてユニット化は望むべくもなかった。さらに、製作上の利便性やコストを勘案すれば、具体的構造において組立性、メンテナンスの容易性が求められる。
そして、これら問題点は、導電インクの液滴射出の場合に限らず、ある程度の高粘性の液体材料・試料を液滴射出させる場合にも同様である。
【0006】
本発明は上記従来事情に鑑み、圧電アクチュエーターとしての射出力を増大させて高精度の液滴射出を担保するとともにコンパクトなユニット化を可能とし、また、製作上の利便性に優れた液滴射出装置を安価に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯る本発明の液滴射出装置は、縦細型ケーシングの先端に微小径な射出孔を有する射出ノズルを設け、ケーシング内には、積層型の圧電素子を配設するとともに該圧電素子を駆動源とするプランジャーをシリンダ孔内に微伸縮動自在に収納し、そのシリンダ孔の先端に前記射出孔へ連なる液溜室を形成し、液溜室には射出液を導入する供給口管の供給路を接続して、該供給路から供給された液溜室内の射出液を前記圧電素子の駆動によって加圧することにより射出ノズルの射出孔から射出させるようにし、前記ケーシングが、下端面に射出ノズルを取り付けるとともにその上部にシリンダ孔を開口して該シリンダ孔にプランジャーを摺動可能に配設し、ケーシング内には、ケーシングに固定される取付部材に上端面を取り付けた積層型の圧電素子を配設して、その圧電素子の下端に前記プランジャーの上面を衝合させた構成とする(請求項1)。
この本発明によれば、圧電素子が電圧をかけることにより微伸縮動するので、それを駆動源としてプランジャーがシリンダ孔先端の液溜室に向けて微伸縮動し、その伸長時に液溜室を圧縮して射出液を加圧することにより射出液が射出ノズルの射出孔より射出されるとともにプランジャーの収縮時に供給路を介して液溜室に射出液が補給され、この動作の高速反復により射出液を液滴として射出することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記液溜室が縦細型ケーシングの先端部に形成された微小な容積であることから、プランジャーによる液溜室の圧縮力、つまり射出液の加圧力が大きく、大きな射出力をもって射出液を射出ノズルから射出させることができる。また、ケーシングを縦細型とし、その中に圧電素子、プランジャー、液溜室などを配設した形態としたので、ペンシル型又は短柱型などユニット化されたコンパクトな外観形態が得られ、例え、射出力を調整するために積層数を増減させた圧電素子を使用しても、ケーシングの長さを変更するだけなので、ペンシル型又は短柱型のコンパクト形態は確保される。
【0009】
そして、上記液溜室へは供給口管の供給路を介して射出液が供給・補給されるものであるが、その好ましい具体的構成としては、上記射出ノズルの上部には供給リングを配設し、その中央部に形成された開口によって前記液溜室の上部室を構成し、この供給リングには、裏面に前記上部室へ通じる導入路を備えるとともに該導入路を前記射出液の供給路に連通せしめ、さらに、導入路に堰などの逆流防止手段を形成する(請求項2)。
この請求項2によれば、液溜室の加圧時において射出液が導入路へ逆流することが防止される。
勿論、上記射出ノズルの上部に供給リングを介在させないことも任意であり、その場合には、上記射出ノズルの上面に液溜室へ通じる導入路を形成するとともに該導入路を前記射出液の供給路に連通せしめ、さらに、導入路に逆流防止手段を形成すればよい(請求項3)。
【0010】
本発明において、圧電素子の出力を補強してプランジャーによる液溜室の圧縮力を増圧させるため、また、射出液の射出性を高めるために、好ましくは次の手段を採用する。
すなわち、上記シリンダ孔と液溜室との臨界面にダイアフラムを配設するとともに該ダイアフラムを前記プランジャーの微伸縮動に追従させる連接部材を設け(請求項4)、その場合には、前述した射出ノズルの上面に導入路を形成することに代えて、ダイアフラムに導入路および逆流防止手段を形成することも可能である(請求項5)。
また、上記射出ノズルは先端に微小径の射出孔を有し、液溜室が前記射出孔に向けて径を順次に小さくなるよう、好ましくはホーン形状に形成し(請求項6)、さらに、上記液溜室に複数のガイド条縁又はガイド溝を螺旋状に形成した構成とする(請求項7)。
【0011】
また、本発明において、上記射出ノズルには液溜室及び射出孔を形成することが必要であり、その射出ノズルを一部材で構成することもよいが、製作上の利便性、仕上がり精度を考慮すると、ノズルホルダーとそれに嵌入されるノズル管との二部材により構成され、そのノズル管の先端に前記射出孔が形成され、ノズルホルダーとノズル管とにわたり前記液溜室が形成されていることがよい(請求項8)。
上記本発明においては、射出液としては前記導電インク、樹脂溶液など各種の液体材料や試料を使用することができるが、その選択材料の一つとして、導電インク、すなわち、金属微粒子を含んだ配線回路の描画用分散液に適用する(請求項9)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プランジャーにより大きな射出力をもって射出液を射出ノズルから射出させることができるので、高粘性の導電インクなどの射出液を使用する場合でも高精度確実な液滴射出を担保することができ、また、ケーシングに内部構成部材を収納してペンシル型又は短柱型でコンパクトな外観形態を呈してユニット化が可能な装置を提供することができる。
そして、そのケーシング構造、圧電素子の支持構造により全体としての構成が簡素化されるとともに部品数を減じて製作容易かつ安価に提供できる。
また、請求項2及び3によれば、液溜室の加圧時において射出液が導入路へ逆流することを防止して、射出液の安定した供給・射出を可能にすることができる。
【0013】
さらに、請求項4によれば、プランジャーの微伸縮動に追従するダイアフラムにより液溜室の圧縮力がより増強されるとともに液溜室の伸縮動作の応答性が高まり射出液の液切れをよくし、しかも、液溜室内のシール性を向上させることができ、請求項5においては、ダイアフラムにエッチング加工を施すことにより逆流防止手段を含めて各種多様な溝形状の流入路を効率よく作製して安価に提供することができる。
請求項6によれば、液溜室から射出孔に至る内面形状によって液溜室内における射出液の増圧作用をさらに高めることができる。
また、請求項7によれば、射出液が螺旋状のガイド条縁又はガイド溝による整流作用により射出孔の軸心へ誘導されるので、射出液の直進性を高めて所定位置へ高精度に射出させることができる。
【0014】
そして、請求項8によれば、液溜室及びノズル孔の成形が容易であるとともに高精度に仕上げることができる。
また、請求項9によれば、配線パターンを効率よく確実に描画できるとともに射出孔を微小径とすることにより極微細なパターンを描画でき、従来のスクリーン印刷法やフォトリソエッチング法に代わる直接描画法を実用化する液滴射出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明第1実施例の液滴射出装置を示す断面側面図である。
【図2】素子ホルダー及び圧電素子を示す立体図である。
【図3】ケーシングの射出ケース部を拡大して示す断面側面図である。
【図4】図3の射出ケース部の分離図である。
【図5】他の実施態様を示す射出ケース部の断面側面図である。
【図6】さらに他の実施態様を示す射出ケース部の断面側面図である。
【図7】図6におけるノズル本体の平面視立体図である。
【図8】さらに他の実施態様を示す射出ケース部の断面側面図である。
【図9】液溜室の内面形状を改良した実施態様を示す断面側面図である。
【図10】図9における(10)−(10)線に沿う断面平面図である。
【図11】液溜室の内面形状を改良した他の実施態様を示す断面側面図である。
【図12】図11における(12)−(12)線に沿う断面平面図である。
【図13】本発明第2実施例の液滴射出装置を示す断面側面図である。
【図14】図13の(14)−(14)線に沿う断面底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、射出液として導電インクを供給する配線パターンの直接描画法に使用される液滴射出装置の場合について図面により説明する。
図1〜図12は第1実施例を示し、図1は、装置全体を示す断面側面図であって、図中の符号1はケーシング、2は素子ホルダー、3は圧電素子、4はプランジャー、5は射出ノズル、6は導電インクを射出ノズル5へ供給する供給口管である。
【0017】
ケーシング1は、金属製の長筒からなる駆動ケース部1aとその下端にボルト止めにより一体的に連結される射出ケース部1bとにより構成され、全体として縦細型の外観形態を呈し、その駆動ケース部1aの上端には蓋板1cをボルト止めして着脱可能に封着してなる。
駆動ケース部1a内には、圧電素子3を取り付け保持した素子ホルダー2を挿入し、該ホルダー2の上面をボルト11,11により前記蓋板1cに止着して固定し、この素子ホルダー2の略上半部は駆動ケース部1aの内面に密接させるが、下半一部は駆動ケース部1aの内面から離間させた状態にして微伸縮動が可能なようにする。
【0018】
素子ホルダー2は、図2の立体図を併用して説明すると、略矩形状の板体に長手方向へ長尺な収納孔12を開口し、その収納孔12の底壁から下向き一体に突出する連結アーム2aを有し、この連結アーム2aの先端には波形カップリングの一半部を構成する噛合い面13aを形成する。また、素子ホルダー2は、側壁の略下半部分に適宜の肉抜き部14を設けるとともに側壁を薄肉な波形に形成した弾性部15を形成し、この弾性部15が撓み変形することによって連結アーム2aが微伸縮動するようにする。
連結アーム2aの噛合い面13aには、プランジャー4の上部に一体に形成した波形カップリングの他半部を構成する噛合い部13bを噛合い状に接合させ、締付ネジ16により締結するものであり、この連結アーム2aを介してプランジャー4と素子ホルダー2とを一体的構造とする。
そして、素子ホルダー2の前記収納孔12内に圧電素子3が嵌め合い一体的に取り付けられる。
【0019】
圧電素子3は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を主成分とする圧電材料と内部電極を交互に積み重ねた積層型であって、電圧を印加することによって積層方向(長手方向)の変位が得られるものであり、本発明においては、狭いケーシング1内に配置されて前記プランジャー4に向け集中的に出力するように長方体形状のものを使用する。
この圧電素子3は、素子ホルダー2の前記収納孔12内に嵌め合い収納して、その上面を素子ホルダー2に接着等により固定し、側面と素子ホルダー2との間には若干の間隙を形成しておく。また、圧電素子3の下面は前記収納孔12の底壁に当接させて素子ホルダー2に係合させるが、圧電素子3には伸張した後の収縮側の復元力が弱いので、素子ホルダー2の弾性部15に弾性力を残した状態、すなわち薄肉な波形を保持した状態で収納孔12に嵌め合い保持させる。
【0020】
上記圧電素子3には電源コード17が配線され、この電源コード17により印加される電圧の周波数及び波形によって微伸縮動をし、それを駆動源として素子ホルダー2に連結した前記プランジャー4を微伸縮動させる。すなわち、圧電素子3の伸張時に素子ホルダー2の弾性部15が伸張してプランジャー4を下降させ、電圧の印加が停止したときに弾性部15の弾性復元力によって素子ホルダー2及び圧電素子3が収縮してプランジャー4を上昇させ、その反復動作によりプランジャー4が高速で微伸縮動をする。
なお、圧電素子3の積層数によって素子ホルダー2の長さ、ひいてはケーシング1の長さが設定され、装置全体は、図示例のようなペンシル型に限らず、それより短い短柱型の外観形態となる。
【0021】
射出ケース部1bを図3及び図4の拡大図を併用して説明すると、射出ケース部1b内には前記プランジャー4を摺動自在に挿入するシリンダ孔20が開口され、下端部には凹部21が形成され、その凹部21内に供給リング22及び前記射出ノズル5が取り付けられ、側面に導電インクを供給する供給口管6が取り付けられる。なお、図中の符号23はメタルブッシュ、24は金属シール、25はOリングである。
また、上記素子ホルダー2の連結アーム2aは射出ケース部1b内に配置され、射出ケース部1bには、連結アーム2aとプランジャー4とを連結するカップリングの噛合い面13a,13bの配置に対応して窓孔26を開口し、この窓孔26を通して前記締付ネジ16を操作し得るようにする(図1参照)。
【0022】
射出ノズル5は、ノズルホルダー5aとそれに嵌入されたノズル管5bとにより構成され、そのノズルホルダー5aを供給リング22と共に前記射出ノズル1bの凹部21内に嵌入して取り付けられる。なお、ノズルホルダー5a及び供給リング22の取り付けは、図示省略するが、ネジ又はビス止めによってノズル管5bに締め付け固定することが好ましい。
供給リング22は、その中央部にシリンダ孔20に連続する開口を形成して液溜室31の上部室となる液溜上部室31aとし、ノズル管5bは、その先端に小径な所定孔径からなる射出孔30を開口し、ノズルホルダー5aには、前記上部室31aと射出孔30との間に介在する液溜室31を形成する。この液溜室31は、実質的には液溜上部室31aと共に液溜室を構成するものである。
そして、上記シリンダ孔20、液溜上部室31a、液溜室31及び射出孔30は前記プランジャー4の軸心と同一軸心上に配置されるように形成し、プランジャー4の先端は前記液溜上部室31a内に位置させるようにする。また、プランジャー4の先端面には滑らかな凹面32を形成しておくことが好ましい。
射出孔30は微小長さを同一孔径とした微小孔であるが、液溜室31は、その上端を液溜上部室31aに連続する同一径にするとともにそこから射出孔30に向けて径を順次に小さく形成し、それには増圧形状として知られているホーン形状を含むものである。
【0023】
また、供給リング22は、その底面に外周方向へ伸びる導入路33を形成し、その内端を液溜上部室31aに連通させ、外端には前記供給口管6に接続した導電インクの供給路34に連通させ、図示しないインクタンクより加圧状態で供給口管6から供給される導電インクが供給路34、導入路33を通して液溜上部室31a内に入り液溜室31に供給・補給されるようにする。
そして、導入路33には、その通路を絞った構造、具体的には通路幅を狭くし又は通路高さを小さくした構造の堰33aを形成し、それにより、プランジャー4が下降する圧縮時に液溜室31内の導電インクが供給路34側へ逆流することを防止する。
【0024】
導電インクとしては特に制限されるものではないが、ナノサイズやサブミクロンサイズ或いはそれらを混合した銀(Ag)又は銅(Cu)などの金属微粒子、又はそれらに被覆処理を施した金属微粒子に、アルキルアミン、カルボン酸アミン等の分散剤やバインダー、界面活性剤などを溶媒中に添加した金属微粒子分散液を使用する。特に、配線パターンを直接描画する際に線を細く薄く多層化に効果的な描画を可能にすることを考慮すると、従来のインクジェット方式による場合よりも高密度で粘度が数十倍から数百倍ないしそれ以上の高粘度の導電インクを使用することが好適である。勿論、従来のインクジェット方式で提案されている直接描画用の導電インクを使用することも任意である。
【0025】
而して、本発明の液滴射出装置は、電源コード17により圧電素子3に電圧を印加することにより圧電素子3が変位するので、それを駆動源としてプランジャー4が液溜室31に向けて微伸縮動する。そのプランジャー4の伸張時に液溜室31が圧縮され導電インクが加圧されるので射出孔30より射出され、プランジャー4の収縮時に液溜室31内が負圧となるので供給路34、導入路33を通してインクタンクより導電インクが液溜室31へ補給され、この動作の反復により導電インクを液滴として射出することができる。
そして、上記圧電素子3の出力と相俟って液溜室31の形状及びプランジャー4の下端面に形成した凹面32によりプランジャー4が液溜室31内の導電インクを圧縮する加圧力が増圧されるので、導電インクが高粘度であっても確実かつ円滑に射出することができる。また、液溜室31へ通じる導電インクの導入路33に堰33aを形成して導電インクの逆流を防止するようにしたので、プランジャー4による加圧時の圧力損失を最小にするとともに導電インクの補給遅れがなく、導電インクの液滴射出をさらに確実にすることができる。
【0026】
因みに、上記液滴射出装置における主要部の寸法を例示すれば、ケーシング1の外径は18mm、長さは84mm、圧電素子4は4.5mm×5.2mm×41mm、射出孔30の孔径は5〜100μm(図示は50μm)である。
【0027】
次に、上記第1実施例の他の実施態様を説明する。
図5は、上記シリンダ孔20と液溜上部室31a(実質的には液溜室31)との臨界面にダイアフラム40を配設した構成である。具体的には、供給リング22の上面にダイアフラム40を接着して取り付け、それを射出ケース部1bに形成した凹部21の上面壁との間に狭着保持させるとともにプランジャー4の下端面を前記ダイアフラム40に当接させる。また、上記シリンダ孔20の下端部には、ダイアフラム40の上向き膨出を助成するように拡径部41を形成する。
また、図5においては、射出ノズル5の構成として、ノズルホルダー5a及びノズル管5bの二部材とすることなく、ノズルホルダー自体をノズル本体5a’とし、それに液溜室31、射出孔30を形成した場合を例示している。
なお、図5において、説明の重複を避けるために、図3と同一の部材は同一符号を付すことにより説明を省略する。
【0028】
このダイアフラム40を配設した構成によれば、液溜上部室31aの上面が完全に密閉されるので、プランジャー4の微伸縮動に連動したダイアフラム40の微伸縮動により液溜室31内の圧縮力が増大するとともに液溜室31内の気密性が高まってエアーが溜まりにくく、また、プランジャー4下端部の摺動面に導電インクが触れないので、プランジャー4の円滑な微伸縮動が長期にわたり維持でき、しかも、金属シール24やOリング25(図3参照)などシール部材が不要になって構造を簡素化できる。
さらに、プランジャー4がダイアフラム40に当接する下端部の外径を変更すれば液溜室31内の加圧力を変更できるので、外径を違えたプランジャーと交換することにより導電インクの射出量を変更することができる。
【0029】
上記の説明においては、何れも射出ノズル5の構成部材として供給リング22を使用した場合を例示したが、その供給リング22を使用しないことも可能である。
図6及び図7は、供給リング22を使用しない場合を図5の実施形態に対応させて例示する。すなわち、射出ケース部材1bの下端部にノズル本体5a’のみを嵌め込む凹部42を形成し、その凹部42内にノズル本体5a’を嵌入して図示しないネジ又はビス止めすることにより取り付け、このノズル本体5a’の上面に、前記導入路33及び堰33aに相当する導入路43及び43aを形成したものである(図7参照)。
【0030】
図8は、前示図5と同様にダイアフラム40を配設した構成をさらに改良した実施態様を示す。
図8において、符号44はダイアフラム40の上面に接着したマグネットプレート、45はプランジャー4の下端に挿着されたマグネット(永久磁石)であり、このマグネット45をマグネットプレート44の上面に吸着させた構成である。
この図8の構成によれば、ダイアフラム40を具備するので図5の場合と同様の作用が得られる他に、プランジャー4が、マグネット45及びマグネットプレート44を介してダイアフラム40に連接されているので、プランジャー4の微伸縮動に対するダイアフラム40の追従性、特に上向きの収縮時における追従性に優れ高速射出に対応することができる。
なお、図8においても、説明の重複を避けるために、図3と同一の部材は同一符号を付すことにより説明を省略する。
【0031】
図9及び図10は、ノズル管5bに形成した射出孔30へ通じる液溜室31を改良した実施態様を示す。
同図に示すように、液溜室31を形成する内壁面に、下流へ向かうに従って螺旋状に湾曲した突条縁からなるガイド条縁50を等間隔で複数本形成し、それらを全体として平面視で渦巻状に配置した構成とする。
それにより、液溜室31から射出孔30へ圧流される導電インクは、ガイド条縁50…による整流作用を受けて射出孔30の軸心に向け流下するので、導電インクの射出時における直進性を高めることができる。
【0032】
図11及び図12は、上記液溜室31を形成する内壁面に、下流へ向かうに従って螺旋状に湾曲したガイド溝52を等間隔で複数本形成し、それらを全体として平面視で渦巻状に配置した構成としたものである。その各ガイド溝52は、略中間部を最大幅にして上流側及び下流側に向けてそれぞれ狭小にするとともに溝底面は放物面でなく円錐面52a、つまり順次に縮径する直線面を基調としている。
この構成においても、液溜室31から射出孔30へ圧流される導電インクは、ガイド溝52…による整流作用を受けるので、導電インクの射出時における直進性を高めることができる。また、ガイド溝52の場合には、前記ガイド条縁50に比べれば導電インクにかかる抵抗が小さいので、より高粘度の導電インクに対しても直進性の確保に効果がある。
【0033】
なお、図9〜図12の実施態様においては、ノズル管5bに形成した液溜室31の場合について説明したが、ノズル管5bを用いないノズル本体5’(図5、図7参照)に形成した液溜室31にも適用され得ることは勿論である。
【0034】
次に、本発明の第2実施例、詳しくは、ケーシングの全体構造や圧電素子の支持構造等を違えた実施例を図13および図14により説明する。
図13において、ケーシング101は、前述のような駆動ケース部と射出ケース部とに分けることなく一体構造とし、その下端面にノズルホルダー105aとノズル管105bからなる射出ノズル105を組み付けて構成され、その射出ノズル105はボルト111により着脱可能に取り付けられる。
また、ケーシング101は、上端にキャップ部101cをボルト112により着脱可能に封着し、下部内にはシリンダ孔120を開口している。
【0035】
ケーシング101内には、素子ホルダーを用いることなく積層型の圧電素子103を装着し、この圧電素子103の下端にプランジャー104の上面を直接に衝合させた状態とし、圧電素子103の微伸縮動によってプランジャー104がシリンダ孔120内を摺動するように配設する。
圧電素子103は、上面を取付円板113に接着固定され、その取付円板113を前記ボルト112によりケーシング101とキャップ部101cとの間に共締めすることによって固定されるとともに、キャップ部101cに取り付けた配線プラグ114により電源コード117が接続される。
また、ケーシング101の外周、詳しくは前記取付円板113の外周に調整リング118を螺合つまりネジどうしの噛み合いにより回動自在に取り付け、この調整リング118を回動操作することによりケーシング101を微小な範囲で上下動させて高さ調整できるようにする。調整リング118にはスリット118aを形成しておき、そのスリット118aをクランプネジ116により狭圧することによって調整リング118の回動を規制、すなわちケーシング101を調整した位置で固定するようにする。
【0036】
そして、ケーシング101の下部外周には、導電インクを射出ノズル105へ供給する供給口管106が配設され、該管106に接続する供給路134からダイアフラム140に形成した流入路133を通して液溜室131へ導電インクが供給される。
なお、図13中の符号115はプランジャー104を上向きに付勢して圧電素子103の収縮動作を助成する弾性部材(皿バネ)、同123はプランジャー104を摺動させるためのメタルブッシュ、同144はマグネットプレート、同145はマグネット(永久磁石)、同104aはプランジャー104の先端部に設けたプランジャーチップである。
【0037】
この第2実施例においては、液溜室131へ通じる流入路133をダイアフラム140に形成した場合を例示している。
具体的には、ダイアフラム140としてステンレス、ベリリュウム銅などバネ性の高い金属薄板を使用し、それにエッチング加工を施すことにより図14に示すように、前記供給路134へ通じる二又路133aとそれに連通する環状路133bとにより流入路133を形成し、その環状路133bが前記プランジャーチップ104aの外周縁との間に形成されて前記液溜室131の上面に開口するものである。
そして、上記二又路133aは、プランジャー104が下降する圧縮時に液溜室131内の導電インクが供給路134側へ逆流する際に合流点にて衝突するようにし、それにより導電インクの逆流を防止させる。
なお、図示の二又路133aは左右対称な溝形状とした場合を例示したが、それに限らず、例えば、一方を主として流入用とする曲線溝形状とし、他方を流入側の途中に接続した曲線溝であって環状路133b側の溝幅を大きく順次に溝幅を狭くするなどの変更を加えることも任意である。
【0038】
而して、第2実施例によれば、ケーシング101および射出ノズル105からなる全体構造が第1実施例に比べて簡素化されるとともに圧電素子用の素子ホルダーを用いないので、構成部品数が少なく製作容易かつ安価である。また、ダイアフラム140に流入路133を形成したことにより、エッチング加工により各種の溝形状に効率よく作製することができ、しかも、流入路133に二又路133aを設けたことにより導電インクの逆流をより確実に防止することができる。
なお、この第2実施例において、前述した第1実施例の図5〜図12で説明した実施態様を適宜に変更・適用することは任意であり、また、第1実施例において、第2実施例で説明したダイアフラム140および二又路133aを有する流入路133を適宜に変更・適用することも勿論自由である。
【0039】
以上の本発明における実施の形態においては、射出液として配線パターンの直接描画法で使用される導電インクの場合について説明したが、それ以外にも、CRTなどのディスプレイ面用の蛍光体材料や光造形用の液体レジスト等の液体材料、食品分野や薬品分野における分析用の液体試料、DNA解析用の試料など各種の液体材料・試料を射出液として使用することも可能であり、また、粘度が10,000〜100,000mPa・sの高粘性材料、例えば、金属・セラミックス・樹脂等を混合した微小物体造形用の高粘度微粒子液に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1:ケーシング 1a:駆動ケース部 1b:射出ケース部
2:素子ホルダー 2a:連結アーム 3:圧電素子
4:プランジャー 5:射出ノズル 5a:ノズルホルダー
5a’:ノズル本体 5b:ノズル管 6:供給口管
13a:噛合い面 13b:噛合い面 15:弾性部
20:シリンダ孔 22:供給リング 26:窓孔
30:射出孔 31:液溜室 31a:液溜上部室
33:導入路 33a:堰 34:供給路
40:ダイアフラム 43:導入路 43a:堰
44:マグネットプレート 45:マグネット 50:ガイド条縁
52:ガイド溝 101:ケーシング 103:圧電素子
104:プランジャー 105:射出ノズル 105a:ノズルホルダー
105b:ノズル管 113:取付円板 120:シリンダ孔
131:液溜室 133:流入路 133a:二又路
133b:環状路 134:供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦細型ケーシングの先端に微小径な射出孔を有する射出ノズルを設け、ケーシング内には、積層型の圧電素子を配設するとともに該圧電素子を駆動源とするプランジャーをシリンダ孔内に微伸縮動自在に収納し、そのシリンダ孔の先端に前記射出孔へ連なる液溜室を形成し、液溜室には射出液を導入する供給口管の供給路を接続して、該供給路から供給された液溜室内の射出液を前記圧電素子の駆動によって加圧することにより射出ノズルの射出孔から射出させるようにし、前記ケーシングが、下端面に射出ノズルを取り付けるとともにその上部にシリンダ孔を開口して該シリンダ孔にプランジャーを摺動可能に配設し、ケーシング内には、ケーシングに固定される取付部材に上端面を取り付けた積層型の圧電素子を配設して、その圧電素子の下端に前記プランジャーの上面を衝合させた液滴射出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴射出装置において、上記射出ノズルの上部には供給リングを配設し、その中央部に形成された開口によって前記液溜室の上部室を構成し、この供給リングには、裏面に前記上部室へ通じる導入路を備えるとともに該導入路を前記射出液の供給路に連通せしめ、さらに、導入路に逆流防止手段を形成したことを特徴とする液滴射出装置。
【請求項3】
請求項1記載の液滴射出装置において、上記射出ノズルの上部に供給リングを介在させることなく、射出ノズルの上面に液溜室へ通じる導入路を形成するとともに該導入路を前記射出液の供給路に連通せしめ、さらに、導入路に逆流防止手段を形成したことを特徴とする液滴射出装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の液滴射出装置において、上記シリンダ孔と液溜室との臨界面にダイアフラムを配設するとともに該ダイアフラムを前記プランジャーの微伸縮動に追従させる連接部材を設けたことを特徴とする液滴射出装置。
【請求項5】
請求項4記載の液滴射出装置において、射出ノズルの上面に導入路を形成することに代えて、ダイアフラムに導入路および逆流防止手段を形成したことを特徴とする液滴射出装置。
【請求項6】
請求項1又は4又は5のいずれか1項記載の液滴射出装置において、上記射出ノズルは先端に微小径の射出孔を有し、液溜室が前記射出孔に向けて径を順次に小さくなるよう形成されていることを特徴とする液滴射出装置。
【請求項7】
上記液溜室に複数のガイド条縁又はガイド溝が螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項6記載の液滴射出装置。
【請求項8】
上記射出ノズルがノズルホルダーとそれに嵌入されるノズル管との二部材により構成され、そのノズル管の先端に前記射出孔が形成され、ノズルホルダーとノズル管とにわたり前記液溜室が形成されていることを特徴とする請求項6又は7記載の液滴射出装置。
【請求項9】
射出液が金属微粒子を含んだ配線回路の描画用分散液であることを特徴とする請求項1記載の液滴射出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−230122(P2011−230122A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112808(P2011−112808)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【分割の表示】特願2005−357576(P2005−357576)の分割
【原出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(503071428)NEXT I&D株式会社 (11)
【Fターム(参考)】