説明

液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、カーテンエアーバッグ及びその製造方法

【課題】エアーバッグ用基布に対する接着性に優れる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を有するカーテンエアーバッグ、及び該カーテンエアーバッグの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)1分子中にケイ素原子結合アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)付加反応触媒、
(E)式(1)の有機ケイ素化合物、
(R1O)3Si−R2−Si(OR13 (1)
(R1は1価炭化水素基、R2はケイ素原子を含有してもよい2価炭化水素基。)
(F)分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、
(G)チタニウム化合物及び/又はジルコニウム化合物
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6,6−ナイロン、6−ナイロン、ポリエステル等の繊維布にシリコーンゴムコーティング膜を形成させた車両等のエアーバッグを作製するのに好適な、特に、運転席や助手席に装着されるエアーバッグとは異なり、フロントピラーからルーフサイドに沿って収納され、衝突時や車両の転倒時に頭部の保護や飛び出しを防ぐために一定膨脹時間を維持することが要求されるカーテンエアーバッグを作製するのに好適な液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を有するカーテンエアーバッグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維表面へゴム被膜を形成することを目的としたエアーバッグ用シリコーンゴム組成物としては、以下のものが知られている。例えば、特許文献1(特開平5−214295号公報)には、付加硬化型組成物に無機質充填剤とオルガノポリシロキサンレジンとエポキシ基含有有機ケイ素化合物とを添加してなる、基布に対する接着性に優れるエアーバッグ用液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が開示されている。特許文献2(特開2002−138249号公報)には、付加硬化型組成物に無機質充填剤、オルガノポリシロキサンレジン、有機チタン化合物及びアルキルシリケート又はアルキルポリシリケートを添加してなる、短時間の加熱硬化で基布に対する優れた接着性を発現するエアーバッグ用の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が開示されている。特許文献3(特開2001−287610号公報)には、ビニル基含有オルガノポリシロキサンの粘度を8,000センチポイズ以下に限定した薄膜コート性に優れたエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング組成物が開示されている。特許文献4(特開2001−59052号公報)には、ゴムコーティング組成物にBET法による比表面積が平均150〜250m2/gで、平均粒径が20μm以下である湿式シリカを添加してなり、粘着感の低減したシリコーンゴムコーティング基布の製造に用いられるコーティング用液状シリコーンゴム組成物が開示されている。
【0003】
しかし、これら組成物は、カーテンエアーバッグ用途に使用した場合には、いずれもエアーバッグ用基布に対する接着性に劣るために、インフレーターガスの洩れを抑えて膨脹時間を満足に持続させうるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−214295号公報
【特許文献2】特開2002−138249号公報
【特許文献3】特開2001−287610号公報
【特許文献4】特開2001−59052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、特に、カーテンエアーバッグ用途に使用した際に、エアーバッグ用基布に対する接着性に優れる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、該基材の少なくとも一方の表面に、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を有するカーテンエアーバッグ、及び該カーテンエアーバッグの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)付加反応触媒、(E)下記一般式(1)で表される非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物、(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物、及び(G)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方、好ましくは更に(D)比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカを含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を、カーテンエアーバッグのシリコーンゴムコーティング層に使用した場合、該コーティング層が、エアーバッグ用基布に対する接着性に優れるために、インフレーターガスの洩れを抑え、カーテンエアーバッグの膨脹を一定時間維持できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、カーテンエアーバッグ及びその製造方法を提供する。
〔請求項1〕
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:
本成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成
分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり1〜10個となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカ:0〜50質量部、
(E)下記一般式(1)で表される非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、
(R1O)3Si−R2−Si(OR13 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、R2はケイ素原子を含有してもよい非置換又は置換の炭素数2以上の2価炭化水素基である。)
(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、並びに
(G)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方:0.1〜5質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項2〕
(E)成分の非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物における式(1)のR2が、ジオルガノシリレン基を含有してもよい炭素数2〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、又は1〜4個のフェニレン骨格を含有し、ジオルガノシリレン基を含有してもよい炭素数6〜40の2価の芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項1記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項3〕
(E)成分の非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物が、直鎖状であり、分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項4〕
(G)成分が有機チタニウム化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項5〕
(G)成分の有機チタニウム化合物が、有機チタン酸エステル、有機チタンキレート化合物、又はこれらの組み合わせである請求項4に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項6〕
(G)成分が有機ジルコニウム化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項7〕
(G)成分の有機ジルコニウム化合物が、有機ジルコニウムエステル、有機ジルコニウムキレート化合物、又はこれらの組み合わせである請求項6に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項8〕
カーテンエアーバッグ用である請求項1〜7のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
〔請求項9〕
繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面に請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を塗布し、該組成物を硬化させることにより、該基材の少なくとも一方の表面に、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を形成させることを特徴とするカーテンエアーバッグの製造方法。
〔請求項10〕
繊維布からなる基材と、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層とを有し、該シリコーンゴムコーティング層が該基材の少なくとも一方の表面に形成されているカーテンエアーバッグ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エアーバッグ用基布に対する接着性に優れる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が得られる。該基材の少なくとも一方の表面に、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を有するカーテンエアーバッグは、インフレーターガスの洩れを抑えて膨脹時間を満足に持続させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定した値であり、Meはメチル基を示す。
【0010】
<液状シリコーンゴムコーティング剤組成物>
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、以下の(A)〜(G)成分(但し、(D)成分は任意成分)を含有してなるものであって、室温(25℃を意味する。以下、同じ)で液状のものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0011】
[(A)成分]
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するものであり、本発明組成物のベースポリマーである。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0012】
(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造等が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい(なお、これらのオルガノ基はアルケニル基も包含し得る。)。また、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造が直鎖状又は分岐鎖状である場合、該オルガノポリシロキサンの分子中においてアルケニル基が結合するケイ素原子の位置は、分子鎖末端及び分子鎖途中(分子鎖非末端)のどちらか一方でも両方でもよい。特に好ましくは、(A)成分は、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0013】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、例えば、互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の、通常、炭素数2〜8、好ましくは炭素数2〜4のものが挙げられる。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
【0014】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した1価の有機基(即ち、非置換又は置換の1価炭化水素基)全体に対して0.001〜10モル%であることが好ましく、特に0.01〜5モル%程度であることが好ましい。
【0015】
(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する1価の有機基としては、例えば、互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の、通常、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜10程度の1価炭化水素基が挙げられる。該1価炭化水素基が置換されている場合、その例としては、ハロゲン置換のものが挙げられる。該有機基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられ、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0016】
(A)成分の25℃における粘度は、100〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に300〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。該粘度がこの範囲内にあると、得られる組成物の取扱い作業性が良好であり、また、得られるシリコーンゴムの物理的特性が良好である。
【0017】
(A)成分の好ましい例としては、下記平均組成式(2)で示されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
aSiO(4-a)/2 (2)
(式中、Rは互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、aは1.5〜2.8、好ましくは1.8〜2.5、より好ましくは1.95〜2.05の範囲の正数であり、但し、全Rの0.001〜10モル%、好ましくは0.01〜5モル%がアルケニル基である。)
【0018】
Rの具体例としては、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基として上記で具体的に挙げたアルケニル基、及び(A)成分のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基として上記で具体的に挙げた有機基が挙げられる。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、式:R’3SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R’2R''SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R’2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R’3SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R’2R''SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R’2R''SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R’2SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:R’R''SiOで示されるシロキサン単位と式:R’SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R''SiO1.5で示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0020】
上記式中のR’はアルケニル基以外の同一又は異種の非置換もしくは置換の1価炭化水素基であり、その例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。また、上記式中のR''はアルケニル基であり、その例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基などが挙げられる。
【0021】
[(B)成分]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分と反応し、架橋剤として作用するものであり、その分子構造に特に制限はなく、従来製造されている例えば線状、環状、分岐状、三次元網状(樹脂状)等各種のものが使用可能であるが、1分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を有する必要があり、また実質的に分子中にケイ素原子に結合した水酸基(即ち、シラノール基)を含有しないものであり、通常、2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のSiH基を有することが望ましい。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(3)で示されるものを用いることができる。
4bcSiO(4-b-c)/2 (3)
【0023】
上記式(3)中、R4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を除く、好ましくは炭素数1〜10の、ケイ素原子に結合した非置換又は置換の1価炭化水素基であり、このR4における非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。R4の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。また、bは0.7〜2.1、cは0.001〜1.0で、かつb+cが0.8〜3.0を満足する正数であり、好ましくは、bは1.0〜2.0、cは0.01〜1.0、b+cが1.5〜2.5である。
【0024】
1分子中に少なくとも2個(通常、2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば、3〜200個)、より好ましくは4〜100個程度含有するSiH基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、通常2〜300個、好ましくは3〜150個、より好ましくは4〜100個程度のものが望ましく、25℃における粘度が、通常0.1〜1,000mPa・s、好ましくは0.5〜500mPa・s程度の、室温(25℃)で液状のものが使用される。なお、重合度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度である。
【0025】
このような(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサンや、これらの各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたもの、式:R43SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R42HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R42HSiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R4HSiOで示されるシロキサン単位と式:R4SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:HSiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。上記式中のR4はアルケニル基以外の1価炭化水素基であり、前記と同様の基が例示される。
【0026】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モル(又は個)に対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が1〜10モル(又は個)、好ましくは1〜5モル(又は個)の範囲内となる量である。(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が1モル未満であると、組成物は十分に硬化せず、またこれが10モルを超えると、得られるシリコーンゴムの耐熱性が極端に劣る。
【0027】
[(C)成分]
(C)成分の付加反応触媒としては、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものであればいかなる触媒を使用してもよい。(C)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
(C)成分としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物が挙げられるが、特に好ましくは白金化合物である。
【0028】
(C)成分の配合量は、付加反応触媒としての有効量でよく、好ましくは(A)及び(B)成分の合計質量に対して触媒金属元素の質量換算で1〜500ppmの範囲であり、より好ましくは10〜100ppmの範囲である。該配合量がこの範囲内にあると、付加反応が十分に促進されやすく、また硬化が十分となりやすく、更に該配合量の増加に応じて付加反応の速度が向上しやすいので、経済的にも有利となりやすい。
【0029】
[(D)成分]
必要に応じて任意的に本発明に用いられる(D)成分の微粉末シリカは、補強剤として作用する。即ち、本発明組成物の硬化物に対して高引裂き強度を付与するものである。(D)成分の微粉末シリカを補強剤として使用することにより、優れた引裂き強度特性を有するコーティング膜を形成することができる。
【0030】
(D)成分の微粉末シリカは、比表面積が50m2/g以上、好ましくは50〜400m2/g、特に好ましくは100〜300m2/gである。該比表面積がこの範囲内にあると、得られる硬化物に優れた引裂き強度特性を付与しやすい。比表面積はBET法により測定される。
(D)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
(D)成分の微粉末シリカとしては、比表面積が上記範囲内である限り、従来からシリコーンゴムの補強性充填剤として使用されている公知のものを用いることができ、例えば、煙霧質シリカ、沈降シリカなどが挙げられる。
【0032】
これらの微粉末シリカはそのまま使用してもよいが、本発明組成物に対してより良好な流動性を付与させやすくするため、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のメチルクロロシラン類;ジメチルポリシロキサン;ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等のヘキサオルガノジシラザンなどの有機ケイ素化合物などの表面処理剤で表面疎水化処理することにより、疎水性微粉末シリカとして使用することが好ましい。表面の疎水化処理は、予め微粉末シリカの1種又は2種以上と表面処理剤の1種又は2種以上とを加熱下又は非加熱下に混合することにより表面疎水化処理を行ってもよいし、前記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む組成物の構成成分と微粉末シリカとを混合する際に、同様の処理によって表面処理を行ってもよい。
【0033】
(D)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して50質量部以下(即ち、0〜50質量部)である。該配合量が50質量部を超えると、組成物の流動性が低下しやすく、コーティング作業性が悪くなりやすい。該配合量は、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜50質量部、特に好ましくは5〜40質量部である。該配合量がこの範囲内にあると、本発明組成物の硬化物に対して特に良好な高引裂き強度を付与しやすい。
【0034】
[(E)成分]
(E)成分の非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物は、本組成物を硬化して得られるシリコーンゴムの基材に対する接着性を向上させる接着向上剤として作用するものである。該有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
(R1O)3Si−R2−Si(OR13 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、R2はケイ素原子を含有してもよい非置換又は置換の炭素数2以上の2価炭化水素基である。)
【0035】
前記一般式(1)中のR1は、好ましくは脂肪族不飽和結合を含まない、互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の1価炭化水素基である。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;シアノエチル基等のシアノ基置換炭化水素基が挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基等のアルキル基が好ましい。一般式(1)において、全R1がメチル基又はエチル基等のアルキル基である場合、合成が容易で化学的安定性がよい。
【0036】
また、R2は、ケイ素原子を含有してもよい非置換又は置換の炭素数2以上の2価炭化水素基であり、より好ましくは、ジオルガノシリレン基(−(R32Si−構造)を含有してもよい炭素数2〜20、特に炭素数3〜10の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基、又は1〜4個、特に1〜2個のフェニレン骨格を含有し、ジオルガノシリレン基(−(R32Si−構造)を含有してもよい炭素数6〜40、特に炭素数10〜30の2価のアリーレン基やアルキレン・アリーレン基等の芳香族基である。ここで、R3は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、上記R1で例示したものと同様のものを例示することができる。
【0037】
上記R2として、具体的には、
【化1】


(上記式中、nは2〜10の整数、好ましくは6、8又は10である。)
等が挙げられ、これらの中でも
【化2】


が好ましい。
【0038】
この有機ケイ素化合物(E)の構造は、直鎖状、環状、分岐鎖状等であればよいが、好ましくは直鎖状であり、分子鎖末端が、(R1O)3Si−基(R1は上記と同じ)、好ましくはトリアルコキシシリル基で封鎖されているものである。
【0039】
(E)成分の有機ケイ素化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化3】

【0040】
【化4】


また、上記各式においてメトキシ基(MeO−)の全てをエトキシ基に置換した化合物を例示することができる。
なお、本発明において、(E)成分の有機ケイ素化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
(E)成分の有機ケイ素化合物の25℃における回転粘度計(例えばBL型回転粘度計)による粘度は、好ましくは1〜500mPa・s、より好ましくは5〜100mPa・sである。粘度が低すぎると接着面へのブリードが速すぎて接着性が十分発現しない場合があり、高すぎると接着面へのブリードが遅すぎて結果的に接着性に劣る場合がある。
【0042】
ここで、上記(E)成分の有機ケイ素化合物の製造方法としては、上記式(1)で示され、非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物の構造が維持されている限り限定はないが、例えば下記一般式(4)
【化5】


(式中、R1は上記の通り。)
で示されるトリオルガノキシシランと、両末端アルケニル基含有化合物を付加反応させる方法が好適に採用される。
ここで、上記両末端アルケニル基含有化合物としては、その両末端アルケニル基がSiH基の水素原子に付加した場合、R2を形成する化合物が用いられる。
【0043】
なお、上記式(4)で示されるトリオルガノキシシランと両末端アルケニル基含有化合物との反応割合は、上記式(4)のSiH基のモル数に対して、両末端アルケニル基含有化合物のアルケニル基のモル数が0.8〜1.2とすることが好ましい。付加反応は常法に従って行うことができ、白金、白金化合物等の付加反応触媒を、使用するアルケニル基含有化合物の総質量に対して白金量が1〜200ppm程度となるような量を用いて30〜150℃、特に50〜120℃の反応温度で行うことができる。なお、反応時間は通常30分〜24時間である。
【0044】
(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部であり、好ましくは0.25〜5質量部である。該配合量が0.1質量部未満であると、得られる組成物が十分な接着力を有しない。該配合量が10質量部を超えると、該配合量を増加させても、得られる組成物は接着力が向上しにくくなり、コスト的に高いものとなり、不経済となりやすい。
【0045】
[(F)成分]
(F)成分は、1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物であり、該有機ケイ素化合物としては、1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有するものであれば、いかなる有機ケイ素化合物でも使用できるが、接着発現性の観点からは、少なくとも1個のエポキシ基と少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基(例えば、トリアルコキシシリル基、オルガノジアルコキシシリル基等)とを有する有機ケイ素化合物、例えば、オルガノシラン、又はケイ素原子数が2〜30個、好ましくは4〜20個程度の環状もしくは直鎖状のオルガノシロキサンであって、少なくとも1個のエポキシ基と少なくとも2個のケイ素原子結合アルコキシ基とを有するものであることが好ましい。(F)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
エポキシ基は、例えば、グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基;2,3−エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等のエポキシ含有シクロヘキシルアルキル基等の形で、ケイ素原子に結合していることが好ましい。ケイ素原子結合アルコキシ基は、ケイ素原子と結合して、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基等のアルキルジアルコキシシリル基等を形成していることが好ましい。
【0047】
また、(F)成分は、1分子中にエポキシ基及びケイ素原子結合アルコキシ基以外の官能性基として、例えば、ビニル基等のアルケニル基、アクリル基、(メタ)アクリロキシ基、及びヒドロシリル基(SiH基)からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するものであっても、有さないものであってもよいが、前記(E)成分の一般式(1)におけるSi−R2−Si構造を分子中に有さないものである点において、(E)成分と差別化されるものである。
【0048】
(F)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、下記の化学式で示される有機ケイ素化合物、これらの2種以上の混合物、あるいはこれらの1種もしくは2種以上の部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0049】
【化6】


(式中、hは1〜10の整数、kは0〜100の整数、好ましくは0〜20の整数、pは1〜100の整数、好ましくは1〜20の整数、qは1〜10の整数である。)
【0050】
(F)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部であり、好ましくは0.25〜5質量部である。該配合量が0.1質量部未満であると、得られる組成物が十分な接着力を有しない。該配合量が10質量部を超えると、該配合量を増加させても、得られる組成物は接着力が向上しにくくなり、コスト的に高いものとなり、不経済となりやすい。
【0051】
[(G)成分]
(G)成分は、チタニウム化合物(特に、有機チタニウム化合物)及びジルコニウム化合物(特に、有機ジルコニウム化合物)のいずれか一方又は両方であり、接着促進のための縮合助触媒として作用するものである。(G)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
(G)成分としては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド等の有機チタン酸エステル、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラアセチルアセトネート等の有機チタンキレート化合物等のチタン系縮合助触媒(チタニウム化合物)、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド等の有機ジルコニウムエステル、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウムキレート化合物等のジルコニウム系縮合助触媒(ジルコニウム化合物)が挙げられる。
【0053】
(G)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜2質量部の範囲である。該配合量が0.1質量部未満であると、得られる硬化物は高温高湿下での接着耐久性が低下しやすい。該配合量が5質量部を超えると、得られる硬化物は耐熱性が低下しやすい。
【0054】
[その他の成分]
本発明の組成物には、前記(A)〜(G)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の任意の成分を配合することができる。その具体例としては、以下のものが挙げられる。これらのその他の成分は、各々、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
・反応制御剤
反応制御剤は、上記(C)成分の付加反応触媒に対して硬化抑制効果を有する化合物であれば特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。その具体例としては、トリフェニルホスフィンなどのリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾールなどの窒素含有化合物;硫黄含有化合物;アセチレンアルコール類等のアセチレン系化合物;アルケニル基を2個以上含む化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体などが挙げられる。
【0056】
反応制御剤による硬化抑制効果の度合は、その反応制御剤の化学構造によって異なるため、反応制御剤の添加量は、使用する反応制御剤の各々について、最適な量に調整することが好ましい。最適な量の反応制御剤を添加することにより、組成物は室温での長期貯蔵安定性及び硬化性に優れたものとなる。
【0057】
・無機充填剤
無機充填剤としては、例えば、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機充填剤;これらの無機充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した充填剤;シリコーンゴムパウダー;シリコーンレジンパウダーなどが挙げられる。
【0058】
・その他の成分
その他にも、例えば、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサン、1分子中に1個のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子もケイ素原子結合アルケニル基も他の官能性基も含有しない無官能性のオルガノポリシロキサン、有機溶剤、クリープハードニング防止剤、可塑剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、防かび剤などを配合することができる。
【0059】
[調製方法]
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製することができ、組成物の粘度は、25℃において、通常、10〜500Pa・s、好ましくは20〜200Pa・s程度とすることができる。
【0060】
<エアーバッグ>
このようにして得られる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、エアーバッグ用基布に対する接着性に優れるため、フロントピラーからルーフサイドに沿って収納され、衝突時や車両の転倒時に頭部の保護や飛び出しを防ぐために一定膨脹時間を維持することが要求されるカーテンエアーバッグを作製するのに好適なものである。
【0061】
本発明において、上記組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層が形成されるエアーバッグ、特にカーテンエアーバッグとしては、公知の構成のものが用いられ、その具体例としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、ポリエステル繊維、アラミド繊維、各種ポリアミド繊維、各種ポリエステル繊維などの各種合成繊維の織生地を基布とし、内面がゴムコーティングされた2枚の平織り基布の外周部同士を接着剤で貼り合わせ、かつその接着剤層を縫い合わせて作製されるタイプ(平織りタイプ)のエアーバッグ、前記織生地を基布とし、織りにより袋部を形成した袋織りタイプのエアーバッグが挙げられる。
【0062】
[製造方法]
上記液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を、繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面、特には一方の表面に塗布し、例えば、熱風乾燥炉に入れて加熱して硬化させることにより、シリコーンゴムコーティング層を形成させることができる。このようにして得たカーテンエアーバッグ用シリコーンゴムコーティング基布を用いて、カーテンエアーバッグを製造することができる。
【0063】
ここで、繊維布からなる基材としては、上述した各種合成繊維の織生地を基布とする基材が挙げられる。また、上記組成物により該基材をコーティングする方法としては、常法を採用することができるが、コーティング層の厚さ(又は表面塗布量)は、好ましくは10〜150g/m2、より好ましくは15〜80g/m2、更に好ましくは20〜60g/m2程度である。
【0064】
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させることができる。具体的には、例えば、120〜180℃において1〜10分加熱することにより、該組成物を硬化させることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、Meはメチル基を示す。
【0066】
[実施例1]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約30,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン65質量部、ヘキサメチルジシロキサン8質量部、水2質量部、BET法で測定した比表面積が約300m2/gであるヒュームドシリカ(Aerosil(登録商標)300、日本アエロジル社製)40質量部を室温でニーダー中に投入し、1時間混合して混合物を得た。この混合物を150℃に加熱し、引き続き2時間混合した。この混合物を室温まで冷却し、この混合物に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約30,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン19質量部、主鎖中の全ジオルガノシロキサン単位に対してビニルメチルシロキサン単位を5モル%含有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が約700mPa・sであるジメチルポリシロキサン5質量部を添加し、均一になるまで混合して、ベースコンパウンド(I)を得た。
【0067】
上記で得たベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、下記式(5)で示され、25℃における粘度が30mPa・sである有機ケイ素化合物0.5質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド0.2質量部を混合して、組成物A((A)成分中のケイ素原子結合ビニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比;SiH/SiVi(以下、同様)=5)を調製した。
【0068】
【化7】

【0069】
得られた組成物Aを用いて、下記に示す各種試験(硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験)を行った。
【0070】
<硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ>
組成物Aを150℃で5分プレスキュアーし、次に150℃で1時間ポストキュアーすることで、JIS K 6249に準拠したシートを作製し、このシートについてJIS K 6249に従って硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さを測定した。結果を表1に示す。
【0071】
<ピール接着力>
組成物Aをエアーバッグ用6,6−ナイロン基布にコーターでむらなく均一にコーティングし(60g/m2)、オーブン中で170℃,1分間加熱硬化させて、シリコーンゴム被覆ナイロン基布を得た。シリコーンゴムコーティング層のナイロン基布へのピール接着力は次のようにして測定した。幅50mmのシリコーンゴム被覆ナイロン基布2枚を付加硬化タイプの室温硬化型シリコーン接着剤X−32−2600A/Bの厚さが0.6mmとなるように該接着剤により貼り合わせ、23℃,24時間放置して該接着剤を硬化させた。次に、貼り合わせた2枚のシリコーンゴム被覆ナイロン基布を切断して20mm幅の断片を作製し、この断片について200mm/分の引張り速度においてT形剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
<スコット揉み試験>
スコット揉み試験は、スコット揉み試験機を用いて行った。上記のシリコーンゴム被覆ナイロン基布について、押し圧力5kgfで500回の揉み試験を行った後、コーティング部分の破壊状況を目視で確認し、シリコーンゴムコーティング層がコーティング面から剥離していない場合を合格と評価し、剥離している場合を不合格と評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1で得たベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、下記式(6)で示され、25℃における粘度が30mPa・sである有機ケイ素化合物0.5質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド0.2質量部を混合して、組成物B(SiH/SiVi=5)を調製した。
【0074】
【化8】

【0075】
組成物Bの硬化物について、実施例1と同様にして、硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
実施例1で得たベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、下記式(7)で示され、25℃における粘度が30mPa・sである有機ケイ素化合物0.5質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド0.2質量部を混合して、組成物C(SiH/SiVi=5)を調製した。
【0077】
【化9】

【0078】
組成物Cの硬化物について、実施例1と同様にして、硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験を行った。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例1で得たベースコンパウンド(I)78質量部に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約5,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン35質量部、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が約1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン15質量部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%と(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサン樹脂10質量部、25℃における粘度が45mPa・sであり、分子鎖側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量=1.08質量%)6.4質量部、1−エチニルシクロヘキサノール0.09質量部、塩化白金酸/1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.38質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド0.2質量部を混合して、組成物D(SiH/SiVi=5)を調製した。
【0080】
組成物Dの硬化物について、実施例1と同様にして、硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験を行った。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
実施例1の組成物Aからチタンテトラ−2−エチルヘキソキシド0.2質量部を除いた組成を混合して、組成物Eを調製し、実施例1と同様にして、硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
実施例2の組成物Bからγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部を除いた組成を混合して、組成物Fを調製し、実施例1と同様にして、硬さ、切断時伸び、引張り強さ、引裂強さ及びピール接着力の測定並びにスコット揉み試験を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:
本成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が(A)成
分中のケイ素原子結合アルケニル基1個当たり1〜10個となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)比表面積が50m2/g以上の微粉末シリカ:0〜50質量部、
(E)下記一般式(1)で表される非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、
(R1O)3Si−R2−Si(OR13 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、R2はケイ素原子を含有してもよい非置換又は置換の炭素数2以上の2価炭化水素基である。)
(F)1分子中にエポキシ基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物:0.1〜10質量部、並びに
(G)チタニウム化合物及びジルコニウム化合物のいずれか一方又は両方:0.1〜5質量部
を含有してなる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項2】
(E)成分の非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物における式(1)のR2が、ジオルガノシリレン基を含有してもよい炭素数2〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、又は1〜4個のフェニレン骨格を含有し、ジオルガノシリレン基を含有してもよい炭素数6〜40の2価の芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項1記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項3】
(E)成分の非シロキサン構造単位を形成するケイ素原子に結合したオルガノオキシ基を有する有機ケイ素化合物が、直鎖状であり、分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項4】
(G)成分が有機チタニウム化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項5】
(G)成分の有機チタニウム化合物が、有機チタン酸エステル、有機チタンキレート化合物、又はこれらの組み合わせである請求項4に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項6】
(G)成分が有機ジルコニウム化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項7】
(G)成分の有機ジルコニウム化合物が、有機ジルコニウムエステル、有機ジルコニウムキレート化合物、又はこれらの組み合わせである請求項6に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項8】
カーテンエアーバッグ用である請求項1〜7のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項9】
繊維布からなる基材の少なくとも一方の表面に請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を塗布し、該組成物を硬化させることにより、該基材の少なくとも一方の表面に、該組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層を形成させることを特徴とするカーテンエアーバッグの製造方法。
【請求項10】
繊維布からなる基材と、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物の硬化物からなるシリコーンゴムコーティング層とを有し、該シリコーンゴムコーティング層が該基材の少なくとも一方の表面に形成されているカーテンエアーバッグ。

【公開番号】特開2012−7058(P2012−7058A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143370(P2010−143370)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】