説明

深海探査用ビークルの耐圧容器

【課題】本発明は、高耐座屈性と高比強度とを有する外圧用の耐圧容器とその製造方法を提供するものである。
【解決手段】両端の開口部を鏡板により閉止した円筒形状の金属製コア材の外周面に繊維強化樹脂層を一体的に形成し、更に前記コア材の外周面に、コア材の軸方向に所定間隔で複数の円環状の突条体を一体的に形成し、前記繊維強化樹脂層は、長繊維が一方向に揃えられ、かつ熱硬化樹脂含浸させ、半硬化状態のプリプレグシートを使用し、前記プリプレグシートを前記コア材の円筒状外周面を一周分覆う長さに切断してプリプレグシート片を形成し、前記プリプレグシート片は、繊維の長さ方向に対して傾斜しあるいは直交して切断されており、前記コア材の外周面に前記シート片を巻回して積層する際に、下層のシート片と上層のシート片の繊維方向は、互いに交差して積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深海探査用ビークルの電子機器が収容されている耐圧容器に関し、詳しくは高耐座屈性と高比強度とを有する外圧用の耐圧容器とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海底・海洋資源(深海微生物・深海魚等からの有用物質、ガスハイドレート、貴金属等の鉱物)の開発が注目されている。特に、高圧のかかる大深度の深海(数千m〜1万m、数百気圧〜千気圧)の海中或いは海底における資源の開発が活発に行われるようになってきている。このような深海の高圧に耐え、かつ乗員の居住空間が確保できる大きさを有する室内を形成することが困難であり、また圧壊の危険性も高くなることから有人探査船に代わって無人探査機(ビークル)が頻繁に用いられている。
【0003】
図9に示すように前記ビークルには自律型無人探査機(図A)と遠隔操作型無人探査機(図B)とがあり、前記自律型無人探査機(以下、AUV)はビークルC1に動力源(電池)を搭載しており単独で探査が行えるようになっている。一方の遠隔操作型無人探査機(以下、ROV)はビークルC2が海洋調査船A2からテザーケーブル(21,22)を介して電力を供給されるようになっており、単独では探査が行えない。また、このテザーケーブル21,22を介してビークルC2に搭載された観測機器からの信号が海洋調査船A2の制御装置や観察用テレビジョンに送信されている。
【0004】
図9に示すようにAUVタイプ及びROVタイプのビークルC1,C2は、電池や各種制御機器・観測機器を収容する円筒状の耐圧容器29と、この耐圧容器29等を保護するバンパー27やフレーム26、浮力材28、スラスタ25等から構成されている。
【0005】
前記耐圧容器29は、円筒状の筒体とこの筒体の両端を鏡板で水密に閉止して形成されており、CCDカメラ等の観測機器やビークルの姿勢制御等の制御機器、マニピュレーターやビークル浮上時の回収信号発生装置などの各種機器・装置が収容されている。
【0006】
また、海中でビークルが沈降したり浮上したりすることなく定深度に静止することができるように浮力材28が設けられており、ビークルに中性浮力が付与されている。
【0007】
特に最近は10,000m級の深海での探査が行えるビークルの必要性が高まっているので、前記浮力材28は数百気圧〜千気圧という高圧下においてつぶれてしまうことがないように数十μmの中空ガラス球をエポキシ樹脂等で固めたものが使用されている。
【0008】
また、ビークルは、例えば6,000m程度の海底に潜航して浮上するだけの時間で4時間程度かかるので、一回当たりの探査時間が長いことが望まれている。そこで、電力を最も消費するスラスタ25の駆動力を小さくしてもビークルを精密にコントロールできるようにするためにビークルの総重量を軽量化することが一般に行われている。具体的には、前記バンパー27やフレーム26、耐圧容器29を軽金属合金のチタン合金またはアルミニウム合金によって製造したり、マニピュレーターや水中照明等を小型化したりしている。更に、バンパー27やフレーム26等は耐圧構造とする必要がないので丸や四角のパイプを使用し、パイプ内部に水が入る均圧構造にすることにより肉厚を薄くすることで軽量化がなされている。
【0009】
しかしながら、耐圧容器29は中空容器であり圧壊しないことが前提であるので軽量化のために肉厚を薄くすることには限度があり、肉厚を薄くして軽量化することは実用的ではない。
【0010】
軽量化によるメリットとして、AUVの場合はエネルギー消費が低減され探査時間が延長される。また、軽量化により浮力材28の使用量を減量することができるという点がある。この浮力材は、前述のように数百気圧〜千気圧という高圧下においてつぶれてしまうことがないようになっているので、非常に高価なものとなっている。従って、浮力材の比重量は通常0.4〜0.6kg/dmであるから、僅かな重量の軽減であっても、浮力材の体積を減少することによって浮力材の使用量を減らしてコストの削減ができる。また、ビークル自体の体積も減少して水の抵抗が減って機動性が向上するのである。
【0011】
そこで、更なる軽量化を図るために、前記耐圧容器29に用いられている材料を一層軽量なものとする研究がなされており、特にセラミックスやマグネシウム合金が注目がされている。しかしながら、金属からなる耐圧容器としては、未だにチタン合金又はアルミニウム合金に勝る強度(耐座屈性)と高比強度とを有する材料は実現していないので、他の材料との複合化(ハイブリッド化)による高強度化が注目されている。
【0012】
金属製耐圧容器のハイブリッド化としては、軽量化と共に高強度化されている耐圧容器として金属ライナ上に樹脂を含浸させた連続長繊維を巻き付けたFRPと金属とのハイブリッド耐圧容器が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−153296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1記載のハイブリッド耐圧容器は、フィラメントワインディング法(以下、FW法)により連続炭素繊維をアルミニウムライナ上に巻回して形成されている。このハイブリッド耐圧容器は巻回された炭素繊維の張力が金属容器に作用することで、金属容器そのものの強度よりも高強度となっているが、CNG(圧縮天然ガス)やLNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の圧縮ガスや液化ガスを充填するための耐圧容器であって、ビークルの耐圧容器のように外圧がかかる状況での使用は全く想定されていないのであり、圧壊に対する強度が不明である。
【0014】
また、耐圧容器の全面をFRPのような熱伝導性が金属よりも低い素材で覆ってしまうと、耐圧容器内に収容されている各種機器や装置からの発熱により容器内の温度が上昇し、最終的には電子機器の誤動作や故障によってビークルの誤動作や操作不能といった事故の原因となる。
【0015】
従って、本発明は、ビークル用の耐圧容器において、軽量化および耐圧壊性向上、そして放熱性(熱伝導性)を有する外圧用の耐圧容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための本発明に係る耐圧容器は、
1)両端の開口部を鏡板により閉止した円筒形状の金属製コア材の外周面に繊維強化樹脂層を一体的に形成し、更に前記コア材の外周面に、コア材の軸方向に所定間隔で複数の円環状の突条体を一体的に形成し、前記繊維強化樹脂層は、長繊維が一方向に揃えられ、かつ熱硬化樹脂含浸させ、半硬化状態のプリプレグシートを使用し、前記プリプレグシートを前記コア材の円筒状外周面を一周分覆う長さに切断してプリプレグシート片を形成し、前記プリプレグシート片は、繊維の長さ方向に対して傾斜しあるいは直交して切断されており、前記コア材の外周面に前記シート片を巻回して積層する際に、下層のシート片と上層のシート片の繊維方向は、互いに交差して積層されていることを特徴としている。
2)前記コア材は、チタン合金あるいはアルミニウム合金等の軽金属合金により形成されており、前記繊維強化樹脂層を構成するシート片の長繊維は炭素繊維あるいはボロン繊維あるいはガラス繊維、或いは炭素繊維とボロン繊維とガラス繊維から選ばれた少なくとも2種類の繊維からなることを特徴としている。
3)前記耐圧容器は、深海探査用ビークルの観測機器等の電子機器を収容する耐圧容器であることを特徴としている。
【0017】
本発明における繊維強化樹脂層は、炭素繊維などの高張力をもつ長繊維を一方向に平行に並べた帯状体を形成し、これに熱硬化樹脂を含浸させ、半硬化状態のプリプレグシートとし、このプリプレグシートを繊維方向あるいは幅方向に斜めに切断してプリプレグシート片を準備する。このプリプレグシート片の中には繊維方向に直交して切断したものも含まれる。なぜなら、補強する部分に巻き付けるプリプレグシート片の枚数は数十枚に及ぶので、補強層の内部の状態を調整する都合上直交して切断したものも必要である。
【0018】
このプリプレグシート片の長さは、円筒状の金属製コア材の円周方向に一回巻くことができる長さである。これにより、巻き付ける繊維の層ごとに、繊維の方向を適宜選択できるため、補強層の内部状態の調整が容易となる。
【0019】
多くのプリプレグシート片の形状は、平行四辺形ないし菱形であり、一方向に繊維が揃っている。平行四辺形の傾斜角、つまり繊維の方向は、前記金属製コア材の長手方向の軸線に傾斜しているが、軸線に直交したものや軸線に平行となったものを使用することで補強層を構成する。
【0020】
前記プリプレグシート片を前記金属製コア材の円筒部分に一回巻きで巻き付けて多数枚を積層することによって繊維強化樹脂層を形成するが、このプリプレグシート片が積層されたときの繊維の方向は互いに斜めになって、面状の補強をしている。この斜めに交差した繊維は、外部から作用する高圧によって金属製コア材が圧壊されることを防止する抵抗力を十分に発揮する作用を発揮するものである。
【0021】
なお、ここでいう交差とは、積層している複数のプリプレグシート片の繊維方向が一方向のみではないことを示しており、隣り合った層の繊維方向が同じ場合も含むものとする。
【発明の効果】
【0022】
耐圧容器を構成する筒状の金属製コア材の外周面に円環状の突条体を一体的に複数突設したことにより外圧に対する強度(耐圧壊強度、特に耐座屈強度)が向上し、また、コア材の肉厚を薄くして軽量化し、更に突条体が海水と直接接触することで熱伝導性が向上する。従って、比強度が高く、放熱性に優れた外圧用の耐圧容器が得られる。
【0023】
また、長繊維方向をシート片の傾斜方向と略平行としたので、端部において長繊維が切断されることで、この端部から長繊維がほつれて強度が低下することが防止される。また、端部での長繊維のほつれが防止されるので、シート片の中央部と端部との強度差が発生せず、シート片の面内の強度のバラツキが防止される。また、隣接するシート辺の長繊維方向が斜交しているので、長繊維方向が一方向のものと比較して外圧に対する座屈性が著しく向上する。
【0024】
前記突条体により耐圧容器胴体の耐座屈性向上と該胴体の肉厚を薄くして軽量化とが図られると共に、突条体が放熱フィンとして作用するので、耐圧容器内の温度が上昇して機器や装置が誤動作したり故障したりすることが防止される。
【0025】
比強度を向上させることができる。即ち、耐座屈性が高く軽量の外圧用耐圧容器が得られる。
【0026】
また、重量を軽くすることができるので高価な浮力材を削減することができコストを削減することもできる。
【0027】
更に、重量が軽減されたことによりビークルの慣性が小さくなり操縦性が向上する。よって、スラスタを低動力(低消費電力)のものとして電池の消耗時間を延長し、特にAUV形のビークルでは長時間の探査が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る耐圧容器の実施態様について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0029】
本発明に係る耐圧容器の概略斜視図を図2に、平面図を図3、断面図を図4及び図5に示す。前記図2〜図5に示すように耐圧容器1は、複数の円環状の突条体2(リブ)がコア材1aの外周面に一体的に形成され、また、コア材の外周面に繊維強化樹脂層5が一体的に形成されている。前記コア材1aは、削出加工あるいは遠心鋳造により製造されている。
【0030】
本実施例においては、3,000m〜6,000m程度の深海で使用されるビークルを想定している。本来、軽量かつ耐食性に優れたアルミニウム合金7050などを用いるが、これに限定されるものではない。例えば、10,000mに達するような深海で使用されるときには高強度・軽量であるチタン合金が使用される。
【0031】
本実施例においては、繊維強化樹脂/アルミニウム合金の複合材料から構成された容器の製作方法と品質を示すために、コア材として比較的低コストで入手容易なアルミニウム合金2024−T4を使用したものである。
【0032】
繊維強化樹脂層5は、金属製コア材1aの圧壊を阻止する抵抗力を発生するように、プリプレグシート片4aの繊維方向を一方向に限定しないように構成し、全体として面状の補強部材として形成されている。即ち、全体として繊維方向が交差状態となっている。
【0033】
コア材1aは、例えば内径L3は100mm、外径L4は112mm、全長Lは500mmであり、図6に示すように肉厚K1は6mm、突条体2の高さh1は16mm、厚さh2は5mmである。突条体2同士の間隔は、図4に示すようにコア材1aの両端側に位置する突条体2aとリブ3との間隔Laは87.5mm、中間に位置する突条体2bの間隔Lbは95mmである。前記間隔La及び間隔Lbは、コア材1aがアルミニウム合金2024−T4であり、かつ繊維強化樹脂層による強化のない場合において、300気圧(約3,000mの深海)の圧力でコア材1aが圧壊しない強度を有する間隔となっている。繊維強化樹脂層で強化した場合は、600気圧(6,000mの深海)で圧壊しない強度を有する間隔となっている。なお、コア材1aの重量は5.7kgである。
【0034】
前記コア材1aに展着されるシート片4aは、本実施例においては前述のごとく容器の製作方法と品質を示すために、高強度かつ比較的低コストで入手容易な材料として炭素繊維プリプレグシートを一例として用いたものであり、ボロン繊維あるいはガラス繊維から選ばれたプリプレグシートを使用することができる。また、炭素繊維、ボロン繊維、ガラス繊維から2種類以上を組み合わせることもできる。
【0035】
本実施例では、炭素繊維プリプレグシート4として、東レ(株)の品番T300/#2580を用いた。このプリプレグシート4を、図7に示すように前記コア材1aの外周長(シート片4aの長さL5に相当)と突条体2の間隔LaあるいはLb(シート片4aの幅L6に相当)とに合わせ、更に長繊維方向が0°、90°、+45°(角度α)、−45°(角度β)となるように切り出す(図B)。このようにして、必要量のシート片4aが形成される。
【0036】
また、コア材1aを覆う繊維強化樹脂層5は、前記シート片4aの長繊維方向が表1に示す角度θとなるように積層されて形成されている(第1層から第38層まで)。表1に示すように第1層から第22層までは、繊維方向が+45°(角度α)のシート片4aと−45°(角度β)のシート片4aとが交互に積層されている。第23層以降は、繊維方向が0°、45°、90°、−45°・・・0°のシート片4aが積層されている。この表1に示すように、本実施例においては、繊維方向が−45°のシート片4aや、0°のシート片4aなどのように繊維方向が同方向のシート片4aを連続して積層されている箇所があるが、全体として繊維方向が交差状態となり、外力によるコア材の圧壊に対向する抵抗力を発揮するように積層されている。前記シート片4aの厚さは約0.2mm、繊維強化樹脂層5の厚さK2は約7mmとなっている(図6)。
【0037】
【表1】

【0038】
また、コア材1aの両端に形成されたフランジ3に取り付けられる図示しない鏡板は、熱の拡散や導線孔の製作等を考慮し、金属製(アルミニウム合金2024−T4製)のものが用いられている。このようにして形成された耐圧容器1の重量は7.75kgである。
【0039】
次に、本実施例の耐圧容器1の製造方法について説明する。
【0040】
図1は、耐圧容器の製造装置30の概略図であり、この図に示すように、台紙31と剥離紙32との間に多数のシート片4aをサンドイッチ状態とし、この台紙31とシート片4aと剥離紙32とからなる帯状体fがローラR1に巻回されている。このローラR1から巻取りローラR2に台紙31が巻き取られ、剥離紙32が巻取りローラR5に巻き取られるようになっている。
【0041】
また、コア材1aは、図示しない回転装置に軸支され、台紙31の移動に合わせて回転するようになっている。さらにコア材1aの下部には、台紙31上のプリプレグシート片4aをコア材1aに押圧して展着する押圧器Pが設けられている。
【0042】
シート片4aの長繊維方向は、コア材1の軸方向に対して0°、90°、プラス45°(角度α)、マイナス45°(角度β)となるように台紙31上に配置されている。また、展着したシート片4aの端部m(図7C)がコア材1aの円周上において90°程度ずれるように間隔L10が空けられている。更に、前記回転装置には、軸心送り出し機構が設けられており、所定の枚数のシート片4aが展着されると、未だシート片4aが展着されていない部分にシート片4aを順次展着するようになっている。
【0043】
また、プリプレグシート片4aをコア材1aに巻き付ける毎に前記押圧器Pによりシート片4aを押圧しながら展着し、このシート片4aの表面を平滑に整えると共にエア抜きがされる。このような展着操作が順次なされ、コア材1aの外周に繊維強化樹脂層5が形成される。
【0044】
この繊維強化樹脂層5が形成されたコア材1aを回転装置から取り外し、前記繊維強化樹脂層5の外周にポリテトラフルオロエチレン製の離型シート6(図2C)を巻き付ける。さらにその外周に、離型シート7aが内側に貼り付けられた0.3mm厚のステンレスシート7(図2D)を巻き付ける。このステンレスシート7は、コア材1aに巻き付けたときに前記繊維強化樹脂層5の外周よりも30mm程度長く形成されている。また、ステンレスシート7の幅と突条体2同士の間隔La及びLbとは0.2mm以内の間隔となっている。
【0045】
そして更に、前記繊維強化樹脂層5の外周の1/4の円弧状に形成されたアルミニウム合金(例えば、2024−T4)製カバー9(図2B)を、繊維強化樹脂層5を押圧するようにして嵌め込む(図8)。次いで、カバー9を嵌め込んだ状態で全体を図示しない真空バッグで覆い、このバッグ内を真空ポンプを利用して真空にする。
【0046】
前記真空状態を保ちながらオートクレーブにて加熱・加圧(例えば、130℃、3気圧程度)して熱硬化樹脂(マトリックス樹脂)を硬化させる。但し、真空バッグ内の真空状態はオートクレーブにて圧力を加えたときと同時に解除する。
【0047】
前記カバー9の厚さは、このカバー9をコア材1aに嵌め込んだ後の該カバー9の外周面の高さが突条体2の高さh1と同等または±1mm程度とする厚さに形成されている。カバー9の外周面の高さが突条体2の高さh1と同等とするのは、真空バッグで真空引きをする際に、表面の凹凸によって真空バッグが破損しないようにするためである。
【0048】
このようにして製作された外圧用の耐圧容器1を、軸方向に平行に切断して繊維強化樹脂層5(CFRP)の積層状態、及びCFRPとコア材1aとの接合境界について観察し、空洞や剥離のような欠陥がないことを確認した。
【実施例2】
【0049】
上記実施例1では大量生産する場合の製造方法について説明したが、特注品や少量生産の場合など、手作業により耐圧容器を生産する場合の一例を説明する。
【0050】
(展着工程)
図7に示すようにCFRP(GFRPまたはBFRPも使用できる)のプリプレグシート4の長繊維の方向が所定の角度(0°、±45°、90°)となるように、コア材1aの円周長と突条体間隔La,Lbとに合わせて切断する。このようにして得られたシート片4aは、表1に示す角度となるようにプリプレグシート4が切断され、第1層から第38層までが形成される。また、シート片4aは、コア材1aに巻き付けたときに両端部mが重ならない長さL5になっており、図Cに示すように僅かな隙間L2ができるようになっている。これは、1枚のシート片4aの両端部m(端面)が重なることで段差が生じ、この段差部分に海中における外圧の応力集中が発生するのを防止するためである。
【0051】
また、前記隙間L2は、第1層から第38層(最表面層)にかけて約0.1mmから1mm程度に拡大するようになっている。これは、加熱成形工程において熱可塑性樹脂の収縮が外側の方が大きいことから、シート片4aの巻き付けられた両端部分m(端面)が重なったり、隙間を生じたりしないようにするためである。
【0052】
従って、成形条件等により前述の隙間L2は調節されるものであり適宜最適な間隔が設けられており、前記のものに限定されるものではない。また、前記コア材1aから突設する突条体2の根本部分は円弧状の形状Rとなっており、コア材1a近傍に展着されるシート片は前記形状Rに合わせてシート幅が僅かに調節されている。
【0053】
なお、樹脂を硬化させる加熱工程において、金属製コア材1aとCFRPとの熱膨張の違いに起因する成形不良や熱残留応力を減少させるために、シート片4aは所定の張力を付与されながらコア材1aに巻き付けられている。これは、後述する加熱成形工程において、積層されたプリプレグシート片4aが熱膨張してたるみが生じ、繊維強化樹脂層5に凹凸が発生することがあるからである。
【0054】
次に、コア材1aの表面の油分や汚れをアセトン等の溶剤で脱脂・除去し、前記表1に示す積層順序に従ってシート片4aをコア材1aに順次展着・積層する。各層の継ぎ目(端面)が重ならないように、端部mがコア材の円周方向に90〜180°程度ずらされている。
【0055】
詳しくは、積層の構造を2種類としており、コア材軸方向を0°とするとき、炭素繊維方向が積層面内剪断力に強い±45°とするシート片4aをコア材の直近に積層し、その上にコア材1aの軸方向の座屈及び円周方向の座屈に強い0°、45°、90°、−45°のシート片4aを展着している。
【0056】
また、前記±45°のシート片4aは、繊維強化樹脂層5の厚さK2に対して1/2〜2/3の厚さとなるように積層され、また、繊維強化樹脂層5の厚さK2はコア材1aの肉厚K1の1.2〜1.5倍となっている。更に、突条体2の高さh1は金属コア1aと繊維強化樹脂層5を合わせた厚さの約1.2倍となっている。
【0057】
(エア抜き工程)
エア抜き工程は、前述の自動生産方法と同様に、プリプレグシート片4aの各層を巻き付ける工程と、所定の枚数を積層し終えたときの2工程で行われている。
【0058】
本実施例においては、巻き付けたプリプレグシート片4aの表面を板材や製作者の手などで押圧して平滑に整えてながらエアが抜かれている。そして、所定の枚数を積層して形成された繊維強化樹脂層5にポリテトラフルオロエチレン製離型シート6を巻き付け、その上にポリテトラフルオロエチレン製離型シート7aが内側に貼り付けられた0.3mm厚のステンレスシート7を巻き付けている。このステンレスシート7の長さは、繊維強化樹脂層5の外周よりも約30mm長く形成されている。また、ステンレスシート7の幅と突条体2との間隔とは0.2mm以内の隙間になるようにされている。続いて、繊維強化樹脂層5の外周の1/4の円弧状に形成されたアルミニウム合金2024−T4製カバー9が嵌め込まれている。最後にカバー9を嵌め込まれた状態で全体を真空バッグで覆い、このバッグ内を真空ポンプで真空にする。
【0059】
(加熱成形工程)
前記真空状態を保ちながらオートクレーブにて130℃、3気圧まで加熱・加圧し、繊維強化樹脂層5を硬化させる。但し、真空バッグ内の真空状態はオートクレーブにて圧力を加えると同時に解除される。このときに使用する前記カバー9の厚さは、カバー9をコア材1aに嵌め込んだ状態で、該カバー9の外周面の高さと突条体2の高さとが同等または±1mmとなる厚さに形成されている。カバー9の外周面の高さが突条体2の高さh1と同等とするのは、真空バッグで真空引きをする際に、表面の凹凸によって真空バッグが破損しないようにするためである。
【0060】
上述のように製造した外圧用の耐圧容器の内部品質を調べるため、耐圧容器の円筒状本体を切断してCFRP積層状態及びCFRPとコア材1aとの接合境界について観察し、空洞や剥離のような欠陥は見あたらなかった。
【実施例3】
【0061】
本実施例は、前記実施例1又は実施例2と同形状のアルミニウム合金2024−T4で製造したコア材を用い、同じ製造方法で耐圧容器を製造するものである。違いとしては、本実施例ではCFRPとして、三菱レイヨン(株)のTR50S/#350を使用している。前記実施例1又は実施例2で用いた東レ(株)のT300/#2580と三菱レイヨンの(株)のTR50S/#350とは力学的性質はほぼ同等である。
【0062】
実施例1又は実施例2と同様の製造方法で製作された耐圧容器は、後述する耐圧試験において実際の使用で想定される圧力(600気圧)を優に超え、その圧壊圧力は700気圧であった。更に試験後のその耐圧容器の圧壊箇所及び容器全体、特に突条体側面とCFRPとの接合境界などについて観察したが、圧壊箇所以外の箇所において剥離や破壊は見あたらなかった。
【0063】
また、上記実施例1乃至2においては、コストと比強度とを総合的に鑑みて、高強度と高剛性を有する炭素繊維プリプレグを使用したものである。従って、高価ではあるが座屈に一番強いボロン繊維プリプレグを用いることもできる。また、コストを優先する場合では、高強度のガラス繊維プリプレグを用いることができる。更に、必要に応じ、この3種類のプリプレグをハイブリッドすることもできる。コストと比強度を総合的に考慮する必要があるときには、本実施例のように高強度と高剛性の炭素繊維プリプレグを用いることが望ましい。なお、実施例1乃至2では、CFRPとして東レ(株)のT300/#2580、三菱レイヨンの(株)のTR50S/#350を例示したが、もちろんこれらに限定されるものではなく、耐圧容器の強度や用途(使用される深度)に応じて適宜変更されるものである。
【0064】
上述の実施例1乃至3において説明したように、本発明に係る耐圧容器における繊維強化樹脂層は、プリプレグシート片の繊維方向を実質的に交差させて積層して全体として網目配列とし、前記金属製コア材の圧壊を阻止する耐力を発生する機能を奏することを特徴としている。
【0065】
また、前記強化繊維樹脂層を構成するプリプレグシート片は、端面が重ならないように一巻きして積層したことを特徴としている。これにより、プリプレグシート片の端面の重なり部に僅かな突条を生じ、この突条に外力が集中してコア材が圧壊してしまわないようにしている。
【0066】
更には、複数枚のプリプレグシート片を積層して形成された強化繊維樹脂層は、各プリプレグシート片の端面が重ならないようにコア材の周方向に分散させて積層したことを特徴としている。これによって、複数枚のプリプレグシート片の端面の位置が重なることで強化繊維樹脂層の強度が低下するのを防止している。
【0067】
〔耐圧試験〕
次に、本発明のハイブリッド型耐圧容器について耐圧試験を行ったので、以下に説明する。
【0068】
(本発明に係る外圧用耐圧容器)
前記実施例3の耐圧容器の内部に歪みゲージを貼り付け、静水圧試験機を用い、耐圧試験を行った。耐圧試験は、50kgf/cm/minの速度で加圧し、50kg/cm増加毎に5分間その圧力を保持する条件で行った。
【0069】
この耐圧試験で得られた実施例3におけるCFRP/金属ハイブリッド耐圧容器の耐圧強度は7.2kgf/mmであった。容器重量7.75kgより、この耐圧容器の比強度は0.93であった。
【0070】
(比較例)
アルミニウム合金2024−T4製の容器(コア材1a)について、耐圧試験を実施した。試験条件は前述の耐圧試験と同じ条件であり、前記容器の耐圧強度は3.4kgf/mmであった。容器の重量は5.7kgであったので、比強度は0.6であった。
【0071】
従って、本発明に係る外圧用耐圧容器は、アルミニウム合金製容器よりも比強度が55%程度高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明による繊維強化プラスチックのプリプレグを用いた複数の突条体付きコア材形FRP/金属ハイブリッド耐圧容器は、比強度が高く、放熱性に優れた複数の突条体を有する耐圧容器を提供することができる。特に、深海調査機に適した耐圧容器を提供できる。本発明に係る耐圧容器は従来の金属製のものより高い比強度が得られるため、ビークルの重量の軽減が図られ、エネルギー消費の低減による長時間探査が可能になり、ビークルとしての操縦性の向上も図られる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る耐圧容器の製造装置の概略図である。
【図2】本発明に係る耐圧容器の概略図である。
【図3】本発明に係る耐圧容器の側面図である。
【図4】本発明に係る耐圧容器のC−C矢視断面図である。
【図5】本発明に係る耐圧容器のA−A矢視断面図である。
【図6】(A)は本発明に係る耐圧容器のB−B矢視断面図、(B)はコア材の部分拡大断面図である。
【図7】プリプレグシートとシート片を示す図である。(A)はプリプレグシート、(B)はシート片、(C)は巻き付けた状態を示す。
【図8】本発明に係る耐圧容器の成形中の断面図である。
【図9】(A)はAUVタイプの一部断面概略図、(B)はROVタイプの概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 耐圧容器
1a コア材
2 突条体
4 プリプレグシート
4a シート片
5 FRP層
6 テフロン(登録商標)シート
7 ステンレスシート
9 押圧部材
M モーター
C1,C2 ビークル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端の開口部を鏡板により閉止した円筒形状の金属製コア材の外周面に繊維強化樹脂層を一体的に形成し、更に前記コア材の外周面に、コア材の軸方向に所定間隔で複数の円環状の突条体を一体的に形成し、
前記繊維強化樹脂層は、長繊維が一方向に揃えられ、かつ熱硬化樹脂含浸させ、半硬化状態のプリプレグシートを使用し、
前記プリプレグシートを前記コア材の円筒状外周面を一周分覆う長さに切断してプリプレグシート片を形成し、
前記プリプレグシート片は、繊維の長さ方向に対して傾斜しあるいは直交して切断されており、前記コア材の外周面に前記シート片を巻回して積層する際に、下層のシート片と上層のシート片の繊維方向は、互いに交差して積層されていることを特徴とする外圧用耐圧容器。
【請求項2】
前記コア材は、チタン合金あるいはアルミニウム合金等の軽金属合金により形成されており、
前記繊維強化樹脂層を構成するシート片の長繊維は炭素繊維あるいはボロン繊維あるいはガラス繊維、或いは炭素繊維とボロン繊維とガラス繊維から選ばれた少なくとも2種類の繊維からなることを特徴とする請求項1記載の外圧用耐圧容器。
【請求項3】
前記耐圧容器は、深海探査用ビークルの観測機器等の電子機器を収容する耐圧容器であることを特徴とする請求項1又は2記載の外圧用耐圧容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−121628(P2009−121628A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297902(P2007−297902)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】