説明

混合セルロースアシレートの製造方法、混合セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】混合セルロースアシレートフィルムを組み込んだ液晶表示装置において、黒表示した時に発生する表示故障を解消することのできる混合セルロースアシレートフィルムを供給することができる混合セルロースアシレートの製造方法を提供する。
【解決手段】水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸、または水と少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸との混合物により膨潤させた膨潤セルロースを、重硫酸塩、または重硫酸塩とブレンステッド酸の存在下、35〜100℃で混合アシル化する混合セルロースアシレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合セルロースアシレートの製造方法、混合セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置に関し、詳しくは微小異物を含まない混合セルロースアシレートの製造方法、剥ぎ取り性が良好で微小異物を含まない混合セルロースアシレートフィルム、表示故障がない偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースエステルフィルムを延伸し、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の位相差膜として使用し、視野角拡大を図ることが実施されている。STN型液晶表示素子と使用する場合、あまり大きなRe,Rthを必要とせず、従来2〜3置換のセルロースアセテートフィルムが中心に使用されてきた。しかし、近年バーティカルアラインメント(VA)方式の液晶表示素子が開発され、セルロースアセテートフィルムでは対応が困難な高いRe、Rthを持った位相差膜が必要となった。このような位相差膜に対応するため、アセチル基以外にプロピオニル基を導入したセルロースアシレートフィルムを溶液流延し製膜したフィルムを用いる技術が公開されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、従来の製造方法によって製造される混合セルロースアシレートを光学フィルムとして用いる場合に種々の問題点がみられる。例えば、工業的に製造市販されている混合セルロースアシレートをフィルムに加工し、そのフィルムを用いた偏光板を、液晶表示装置に組み込むと本来黒であるべき画素から光が漏れ、灰色の表示になり、液晶画像表示の質が低下してしまうことである。
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液晶表示装置において、黒表示した時に発生する表示故障を解消することのできる混合セルロースアシレートの製造方法、混合セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、従来の混合セルロースアシレートフィルムを組み込んだ液晶表示装置を黒表示時した時に発生する表示故障は、原料の混合セルロースアシレート中に含まれる微細偏光異物に起因することを突き止めた。工業的に製造市販されている混合セルロースアシレートには、通常のろ過では除去困難な微細偏光異物が多数含まれるため、これをフィルムに加工するとフィルム表面上に微細偏光異物が残存する。本発明者は、この微細偏光異物は、従来の混合セルロースアシレートの製造における、未反応セルロースもしくは反応不十分な混合セルロースアシレートであることを推定し、セルロースの混合アシル化の改良に取り組んだ。
その結果、水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸またはこれらの混合物により膨潤させた膨潤セルロースを、重硫酸塩または重硫酸塩とブレンステッド酸とからなる触媒の存在下に35〜100℃で混合アシル化することで得られる混合セルロースアシレートから微細偏光異物を消失しうることを見出した。そして、このような混合セルロースアシレートを流延製膜して得られたフィルムを液晶表示装置に組み込むと、表示故障が解消しうることを見出した。さらに、驚くべきことに、この手法を取り入れることで、混合セルロースアシレートを用いたフィルムを製膜し、これを支持体より剥ぎ取るときに、剥ぎ取り性が著しく向上することを見出した。すなわち、上記手法で製造された混合セルロースアシレートを用いることで、フィルムの生産性が向上し、これを組み込んだ液晶表示装置の表示故障が解消しうることを見出したのである。本発明は、この知見に基づき完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)を提供するものである。
(1)水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸、または水と少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸との混合物により膨潤させた膨潤セルロースを、重硫酸塩、または重硫酸塩とブレンステッド酸の存在下、35〜100℃で混合アシル化することを特徴とする混合セルロースアシレートの製造方法。
(2)(1)項記載の製造方法で製造された混合セルロースアシレートを流延製膜して得ることを特徴とする混合セルロースアシレートフィルム。
(3)前記混合セルロースアシレートの置換度が下記式を満たすことを特徴とする(2)項記載の混合セルロースアシレートフィルム。
2.5≦X+Y≦3.0
0≦X≦2.5
0.3≦Y<3
(式中、Xは、アセチル基の置換度を表し、Yは、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
(4)前記流延製膜法が、溶融流延製膜法であることを特徴とする(3)項記載の混合セルロースアシレートフィルム。
(5)(2)〜(4)のいずれか1項に記載の混合セルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする偏光板。
(6)(2)〜(4)のいずれか1項に記載の混合セルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする液晶表示装置。
【0007】
β−1,4−グリコシド結合でセルロースを構成しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。本発明に用いられるセルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。本明細書において、置換度とは、繰り返し単位の2位、3位および6位について、セルロースがエステル化している割合の合計を表す。具体的には、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基が100%エステル化した場合をそれぞれ置換度1とする。したがって、セルロースの2位、3位および6位のすべてが100%エステル化した場合、置換度は最大の3となる。
【0008】
本発明で用いる「混合セルロースアシレート」とは、セルロースの水酸基が二種類以上のアシル基に、一部または全部置換されたものと定義される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、微細偏光異物が実質的に存在しない混合セルロースアシレートを製造できる。また、本発明の製造方法により製造された混合セルロースアシレートを用い製膜した場合、剥ぎ取り性が著しく向上する。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、微細偏光異物が実質的に存在しないうえ、十分なRe,Rthを有することができる。また、本発明の偏光板は、液晶表示装置において、本来黒であるべき画素から光が漏れること防ぐことができる。さらに、本発明の液晶表示装置は、黒表示時した時に発生する表示故障を防止できる。また、本発明のフィルムは、バーティカルアラインメント(VA)型等の液晶表示装置に特に有利に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
[混合セルロースアシレートの構造]
本発明の混合セルロースアシレートのアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。アシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素原子数2〜22であることが好ましく、炭素原子数2〜8であることが更に好ましく、炭素原子数2〜4であることが特に好ましい。脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル、アルケニルカルボニルあるいはアルキニルカルボニルなどを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素原子数7〜22であることが好ましく、炭素原子数7〜18であることが更に好ましく、炭素原子数7〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれ更に置換基を有していてもよい。
【0012】
好ましいアシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、更に好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などであり、最も好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基である。さらに、これらのアシル基の中でも以下の置換度の条件を満たすものが好ましい。
2.5≦X+Y≦3.0
0≦X≦2.5
0.3≦Y<3
ただし、Xはアセチル基の置換度を示し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、およびヘキサノイル基の置換度の総和を示す。
【0013】
上記の置換度設定のように、アセチル基の置換度を少なくし、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を多くしていることにより、延伸中に伸びむらが発生し難く、レターデーション(Re)および厚み方向レターデーション(Rth)むらが発現しにくい上、結晶融解温度(Tm)を下げることができる。特に溶融製膜をする場合、溶融熱による分解で発生する黄変を抑制することもできる。
【0014】
これらの効果は、なるべく炭素原子数の大きな置換基を用いることで達成できるが、大きすぎるとガラス転移温度(Tg)や弾性率を低下させすぎるため好ましくない。このためアセチル基より大きなプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基が好ましく、最も好ましくはプロピオニル基、ブチリル基である。
【0015】
本発明で用いられる混合セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で好ましくは50〜700、さらに好ましくは50〜550、より好ましくは50〜400であり、特に好ましくは粘度平均重合度50〜350である。
【0016】
本発明で用いられる混合セルロースアシレートの重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比は、好ましくは1.5〜5.5であり、特に好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、最も好ましくは3.0〜5.0である。
【0017】
これらの混合セルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、混合セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。
【0018】
本発明で原料として用いられるセルロースは、特に限定されるものではなく、例えば、通常の綿花リンター、木材パルプ、ラミーなどを用いることができる。
【0019】
[混合セルロースアシレートの製造]
本発明の混合セルロースアシレート合成方法は、例えば、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されているトリアセチルセルロースの製造方法を参考として、三段階に分けることができる。
【0020】
第一段階は、綿花リンターや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸、または水と少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸との混合物によりセルロースを膨張させるセルロース活性化処理である。この活性化処理を行うことで、セルロースのアシル化の進行を促進させることができる。
活性化操作の好ましい例を以下に述べる。まず、100質量部のセルロースを適当な大きさに裁断したあと、反応容器に仕込み、1〜10000質量部の膨潤媒体を添加し、攪拌する。膨潤媒体は、水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸、またはこれらの混合物である。膨潤媒体の分子が小さいほど、セルロース内部に浸透するため、セルロース膨潤効果が高い。したがって、水が最大の効果を示すが、水はアシル化前にクエンチする必要があり操作上に負担がかかることから、炭素原子数2〜6のカルボン酸単独、炭素原子数2〜6のカルボン酸と水との混合物、または炭素原子数2〜6のカルボン酸の二種類以上の組み合わせが好ましい。この中でも酢酸、プロピオン酸、および酪酸は他のカルボン酸よりセルロース膨潤効果が高いことから好ましく、酢酸もしくは酢酸を含む二種類以上のカルボン酸がさらに好ましく、酢酸のみが最も好ましい。容器内部は30℃〜150℃にする。温度が40℃以下であると活性化が不十分であり、150℃以上であるとセルロースが分解する。したがって、セルロースが程よく膨潤しかつ分解しない程度の50℃以上120℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。なお、加熱の手段として、マイクロ波を用いてもよい。また、容器内を何らかの媒体によって加圧してもよい。このような状態で、30分以上24時間以下、好ましくは1時間以上12時間以下、さらに好ましくは1時間以上12時間以下、攪拌を行う。活性化を行った後は、室温程度に冷却する。なお、膨潤させたセルロースから、吸引ろ過などの操作によって、膨潤媒体を除去してもよい。
【0021】
第二段階は、セルロースの完全アシル化である(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00とする)。第一段階で活性化した膨潤セルロースにアシル化剤を添加する。アシル化剤は、触媒を含むものであって、好ましくは、溶媒としての酢酸またはカルボン酸、アシル化試薬としてのカルボン酸無水物、触媒から成るものである。溶媒としての酢酸またはカルボン酸とカルボン酸無水物の比率は、生じる混合セルロースアシレートの組成比率に依存する。アシル化の方法としては、触媒以外のアシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。したがって、アシル化剤は、アシル化の手法に従い、触媒、溶媒、酸無水物の組成を適宜最適化することが重要である。例えば、活性化工程を酢酸で行った場合、触媒と別のカルボン酸の酸無水物を添加するだけで混合セルロースアシレートを得ることができる。
【0022】
本発明において触媒は重硫酸塩を使用する。重硫酸塩として、アルカリ金属の重硫酸塩が好ましく、重硫酸リチウム、重硫酸ナトリウムおよび重硫酸カリウムがさらに好ましく、重硫酸ナトリウムが最も好ましい。この重硫酸塩は、セルロース100質量部に対し、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜40質量部、さらに好ましくは1〜30質量部用いる。また、これらの重硫酸塩とブレンステッド酸を併用することもでき、この場合混合物として用いるのが好ましい。ブレンステッド酸として、硫酸、過塩素酸、リン酸が好ましく、硫酸、過塩素酸がさらに好ましく、硫酸がもっとも好ましい。したがって、重硫酸とブレンシテッド酸を組み合わせる場合は、重硫酸ナトリウムと硫酸の組み合わせが最も好ましい。この重硫酸塩とブレンステッド酸はそれぞれ、セルロース100質量部に対し、好ましくは0.1〜50質量部と0.005〜10質量部、より好ましくは0.5〜40質量部と0.1〜5質量部、さらに好ましくは2〜5質量部と0.1〜1.5質量部用いる。
【0023】
従来のブレンステッド酸、特に硫酸触媒のみを用いた混合アシル化では、反応温度の厳密なコントロールが必要となる。すなわち、温度を50℃以上にすると、アシル化とともにセルロースの解重合が進行し、生じるセルロースアシレートの分子量が劇的に低下する。これに対し、本発明における混合アシル化では、用いる触媒が重硫酸塩もしくは少量の重硫酸塩とブレンステッド酸の併用であるため、反応温度を高くしても、セルロースの解重合が過剰に進行せず、生じるセルロースアシレートの分子量は、フィルムの使用に十分なレベルにとどまる。アシル化反応温度は高いほうが、混合アシル化の速度が速くなるが、高すぎると部分的なセルロース分解が起こる。また、温度が低すぎると混合アシル化が十分に起こらない。したがって、本発明の混合アシル化の温度は35〜100℃であり、好ましくは45〜80℃、さらに好ましくは50〜80℃である。
好ましいアシル化時間は0.5時間以上24時間以下であり、1時間以上12時間以下がより好ましく、1.5時間以上6時間以下が特に好ましい。0.5時間以下では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
【0024】
このようにして得たアシル化混合物が透明な高粘度溶液となる時点を反応終了と判断するが、未反応物を消失させるために、これよりさらに数時間反応を継続させることが好ましい。
【0025】
第三段階は、完全にアシル化された混合セルロースアシレートの部分的な加水分解である。アシル化反応終了後に水もしくは酢酸水溶液を添加し、系内に残存している過剰の無水カルボン酸をクエンチする。さらに、例えば、セルロース100質量部に対して、1〜10質量部のブレンステッド酸(硫酸が好ましい)を添加し、30〜90℃に保つことにより、生成している完全混合セルロースアシレートを所望のアシル置換度および重合度を有する混合セルロースアシレートに変化させることができる。さらに触媒としての酸の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)の水溶液を添加する。最後に水もしくは酢酸水溶液を滴下し、混合セルロースアシレートを再沈殿させる。洗浄および安定化処理により混合セルロースアシレートを得る。
【0026】
[流延製膜]
本発明の混合セルロースアシレートを用い、例えば、溶液流延製膜もしくは溶融流延製膜によって、混合セルロースアシレートフィルムを得ることができる。以下にこの2つの流延製膜について説明する。
【0027】
(1)溶液流延製膜
以下に、溶液流延製膜の好ましい例について説明する。
(添加剤)
溶液流延製膜では、耐傷性やフィルムの搬送性を良好に保持するために混合セルロースアシレート組成物に微粒子を添加することができる。それらは、マット剤、ブロッキング防止剤あるいはキシミ防止剤と称されて従来から利用されている。それらは、前述の機能を呈する素材であれば特に限定されないが、これらのマット剤の好ましい具体例は、無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロンチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、混合セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましい。又、表面処理された無機微粒子も混合セルロースアシレート中への分散性が良好となり好ましい。処理法としては、例えば、特開昭54−57562号公報に記載の方法が挙げられる。粒子としては、例えば、特開2001−151936号公報に記載のものが挙げられる。
有機化合物としては、例えば、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、なかでも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂のなかでも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましい。これらの微粒子の1次平均粒子径としては、ヘイズを低く抑えるという観点から、好ましくは0.001〜20μmであり、より好ましくは0.001〜10μmであり、更に好ましくは0.002〜1μmであり、特に好ましくは0.005〜0.5μmである。混合セルロースアシレートに対する微粒子の添加量は、混合セルロースアシレート100質量部に対して、微粒子は0.01〜0.3質量部が好ましく、0.05〜0.2質量部がさらに好ましい。
【0028】
上記微粒子に加えて、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤(吸収剤)、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開平2001−151901号公報などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、混合セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開平2001−151902号公報などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。さらにこれらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。これらの添加剤の使用量は、混合セルロールアシレート全組成物中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい。
【0029】
これらの添加剤を混合セルロースアシレート溶液へ添加する場合は、特にその方法は限定されず、いずれの方法でも所望の混合セルロースアシレート溶液を得ることができれば問題ない。例えば、混合セルロースアシレートと溶媒を混合する段階で添加物を含有させてもよいし、混合セルロースアシレートと溶媒で混合溶液を作製した後に添加物を添加してもよい。更にはドープを流延する直前に添加混合してもよく、いわゆる直前添加方法であり、その混合にはスクリュー式混練がオンラインで設置して用いられる。添加剤の混合は、混合物それ自身を添加してもよいが、予め溶媒やバインダー(好ましくは混合セルロースアシレート)を用いて溶解しておいたり、場合により分散して安定化した溶媒として用いることも好ましい態様である。
【0030】
(ドープ調製)
溶液流延製膜を行う場合、まず混合セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製を行う。溶解する有機溶媒としては、低級脂肪族炭化水素の塩化物や低級脂肪族アルコールが一般に使用される。低級脂肪族炭化水素の塩化物の例には、メチレンクロライドを挙げることができる。低級脂肪族アルコールの例には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びn−ブタノールが含まれる。その他の溶媒の例としては、ハロゲン化炭化水素を実質的に含まない、アセトン、炭素原子数4〜12までのケトン(例えばメチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノン等)、炭素原子数3〜12のエステル(例えばギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル及び2−エトキシ−エチルアセテート等)、炭素原子数1〜6のアルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等)、炭素原子数3〜12のエーテル(例えばジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等)、炭素原子数5〜8の環状炭化水素類(例えばシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等)が挙げられる。好ましくは、エステル類、ケトン類、アルコール類の混合溶媒をドープ調製溶媒に用いることが、セルロースアシレートの溶解性の点から好ましい。また、メチレンクロライドのようなハロゲン化炭化水素を含まない非ハロゲン系有機溶媒系として、例えば、特開2002−146043号公報の段落番号〔0021〕〜〔0025〕、特開2002−146045号公報の段落番号〔0016〕〜〔0021〕等に記載の溶媒系の例が挙げられる。
【0031】
本発明の混合セルロースアシレートは、有機溶媒に10〜30質量%溶解している溶液であることが好ましい。これらの濃度に混合アシル化を実施する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予め高濃度の混合セルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度の混合セルロースアシレート溶液としてもよく、いずれの方法で本発明の混合セルロースアシレート溶液濃度になるように実施されれば特に問題ない。
【0032】
本発明の混合セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温溶解法でもよくさらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号公報、特開昭61−106628号公報、特開昭58−127737号公報、特開平9−95544号公報、特開平10−95854号公報、特開平10−45950号公報、特開2000−53784号公報、特開平11−322946号公報、さらに特開平11−322947号公報、特開平2−276830号公報、特開2000−273239号公報、特開平11−71463号公報、特開平04−259511号公報、特開2000−273184号公報、特開平11−323017号公報、特開平11−302388号公報などにセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明の混合セルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0033】
本発明の混合セルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率がある範囲であることが好ましい。粘度と動的貯蔵弾性率は以下のように測定することができる。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定する。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度n(Pa・sec)及び−5℃の貯蔵弾性率G’(Pa)を求める。尚、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始する。本発明では、40℃での粘度が1〜300Pa・secであり、かつ−5℃での動的貯蔵弾性率が1万〜100万Paであることが好ましい。
【0034】
(製膜)
本発明の混合セルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備には、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を用いることができる。例えば、溶解機(釜)から調製されたドープ(混合セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載され、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離、延伸などに分類される。上記以外に流延する方法としては、例えば、流延されたドープ膜流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等がある。
【0035】
ここで、本発明においては流延部の空間温度は特に限定されないが、−50℃〜50℃であることが好ましい。更には−30℃〜40℃であることが好ましい。特に低温での空間温度により流延された混合セルロースアシレート溶液は、支持体の上で瞬時に冷却されゲル強度アップすることでその有機溶媒を含んだフィルムを保持することができる。これにより、混合セルロースアシレートから有機溶媒を蒸発させることなく、支持体から短時間で剥ぎ取りことが可能となり、高速流延が達成できるものである。なお、空間を冷却する手段としては通常の空気でもよいし窒素やアルゴン、ヘリウムなどでもよく特に限定されない。またその場合の湿度は0〜70%RHが好ましく、さらには0〜50%RHが好ましい。また、本発明では混合セルロースアシレート溶液を流延する流延部の支持体の温度が−50℃〜130℃であり、好ましくは−30℃〜25℃である。流延部を本発明の温度に保つためには、流延部に冷却した気体を導入して達成してもよく、あるいは冷却装置を流延部に配置して空間を冷却してもよい。この時、水が付着しないように注意することが重要であり、乾燥した気体を利用するなどの方法で実施できる。
【0036】
流延工程では1種類の混合セルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上の混合セルロースアシレート溶液を同時及びまたは逐次共流延しても良い。2層以上の複数のセルロースアシレート溶液を共流延する方法としては、例えば、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させる方法(例えば、特開平11−198285号公報記載の方法)、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延する方法(特開平6−134933号公報記載の方法)、高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出す方法(特開昭56−162617号公報記載の方法)等が挙げられる。本発明ではこれらに限定されるものではない。
【0037】
得られたフィルムは支持体(バンド)から剥ぎ取り、更に乾燥させる。乾燥工程における乾燥温度は40℃〜250℃、特に70℃〜180℃が好ましい。更に残留溶媒を除去するために、50℃〜160℃で乾燥させ、その場合逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることが好ましい。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載されている。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することができる。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組み合わせに応じて適宜選ぶことができる。最終仕上がりフィルムの残留溶媒量は2質量%以下、更に0.4質量%以下であることが、寸度安定性良好なフィルムを得る上で好ましい。これらの乾燥工程の具体的な方法は、例えば、前述の発明協会公開技報に記載の従来公知の方法及び装置のいずれを用いてもよく、特に限定されるものではない。
【0038】
本発明に従い製造されるフィルムの厚さは、5〜500μmであることが好ましく、15〜300μmであることが更に好ましく、20〜200μmであることが最も好ましい。また、光学フィルムに用いる場合には20〜80μmも好ましい。
【0039】
(2)溶融流延製膜
以下に、溶融流延製膜の好ましい例について説明する。
(ペレット化)
溶融流延製膜をする場合、用いる混合セルロースアシレートは粉体よりもペレットであることが好ましい。ペレット作製は、好ましくは次のように行う。初めに、混合セルロースアシレートを十分予備乾燥(80℃〜150℃で0.1時間〜24時間)させる。次に、2軸混練押し出し機を用い、150℃以上220℃以下、より好ましくは160℃以上210℃以下、さらに好ましくは170℃以上200℃以下で、スクリュー回転数100rpm以上800rpm以下、より好ましくは150rpm以上600rpm以上、さらに好ましくは200rpm以上400rpm以下で、滞留時間5秒以上3分以下、より好ましくは10秒以上2分以下、さらに好ましくは20秒以上90秒以下でペレット作製する。この時、2軸混練押し出し機の出口側にベントを設け真空排気しながらペレットを作製することが好ましい。混合セルロースアシレート粉体は親水的であるため、0.2mass%程度の残留水分が残り低アセチル化体は水の存在で分解が促進され、架橋性の異物となり易いためである。ベント部の好ましい真空度は90kPa以下100Pa以上が好ましく、より好ましくは80kPa以下1kPa以上、さらに好ましくは70kPa以下10kPa以上である。このような真空排気は、2軸混練押出し機のスクリューのケーシングに排気口をつけ、これを真空ポンプに配管することで達成できる。溶融後30℃以上90℃以下、より好ましくは35℃以上80℃以下、さらに好ましくは37℃以上60℃以上の温水中でストランド状に固化させた後、裁断、乾燥する。
【0040】
通常の工程では、2軸混練押出し機で溶融した後、数mmの孔が多数空いたダイからこれを5℃から20℃の冷水に押出しストランド状にし凝固させた後、搬送させながら脱水、裁断しペレット化する。この時、凝固させるための水温は上述のように低くするのが一般的である。これはストランドを搬送する際、なるべく弾性率を高くし搬送し易くするためである。本発明では温水で凝固させることも好ましい。低アシル化体は水酸基が多く残存しており、水に溶解し易いため、このように凝固浴の温度を上げることで溶出を促す効果がある。このような温水への浸漬時間は3秒以上10分以下が好ましく、より好ましくは5秒以上5分以下、さらに好ましくは10秒以上3分以下である。このような凝固浴の後、5℃以上30℃未満の冷水中に通すことでストランドの弾性率を高め、搬送し易くすることが好ましい。
【0041】
[可塑剤]
【0042】
本発明のセルロースアシレートに可塑剤を添加することは、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm、以下融点とも言う)を下げることができるので好ましい。本発明に用いることのできる可塑剤の分子量は特に限定されるものではなく、低分量でもよく高分子量でもよい。可塑剤の種類は、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類、アルキレングリコールのエステル誘導体などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行う場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0043】
リン酸エステルの具体例としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、1,4―フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル等を挙げることができる。また特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。
【0044】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0045】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチル化グリセライド、モノグリセライド、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
また、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などの高分子量系可塑剤が挙げられる。可塑剤はこれらを単独もしくは低分量可塑剤と併用して使用することができる。
【0046】
多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0047】
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0048】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、数平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0049】
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0050】
可塑剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0〜20質量%が好ましく、より好ましくは2〜18質量%、最も好ましくは4〜15質量%である。
可塑剤の含有量が20質量%より多い場合、セルロースアシレートの熱流動性は良好になるもの、可塑剤が溶融製膜したフィルムの表面にしみ出したり、また耐熱性であるガラス転移温度Tgが低下する。
【0051】
[安定剤]
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、ホスファイト系化合物、亜リン酸エステル化合物、フォスフェイト、チオフォスフェイト、弱有機酸、エポキシ化合物等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。ホスファイト系安定剤の具体例としては、特開2004−182979の段落[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることが出来る。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を用いることが出来る。
本発明における安定剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.005〜0.5質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4質量%、さらに好ましくは0.05〜0.3質量%である。添加量を0.005質量%未満の場合、溶融製膜時の劣化防止及び着色抑制の効果が不十分であるため、好ましくない。一方、0.5質量%以上の場合、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムの表面にしみ出し、好ましくない。
【0052】
[紫外線吸収剤]
次に本発明のセルロースアシレートには、紫外線防止剤を含有することが好ましく、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させてもよい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースアシレートに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0053】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
【0054】
さらに、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物、又紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤、特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤なども好ましく用いられる。
【0055】
また、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0056】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。
ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 234(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 320(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 326(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 327(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 328(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、スミソーブ340(住友化学)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成)、シーソーブ101(シプロ化成)、シーソーブ101S(シプロ化成)、シーソーブ102(シプロ化成)、シーソーブ103(シプロ化成)、アデカスタイプLA-51(旭電化)、ケミソープ111(ケミプロ化成)、UVINUL D-49(BASF)などを挙げられる。オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)やTINUBIN 315(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)がある。またサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成)やシーソーブ202(シプロ化成)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成)、UVINUL N-539(BASF)がある。
【0057】
(添加剤)
可塑剤以外に、種々の添加剤(例えば、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、赤外吸収剤、界面活性剤、臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤は例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれ混合セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。微粒子は、平均粒径が5〜3000nmのものを使用することが好ましく、金属酸化物や架橋ポリマーから成るものを使用でき、混合セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。劣化防止剤は混合セルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有させることが好ましい。光学異方性コントロール剤は例えば特開2003−66230号公報、特開2002−49128号公報記載のものを使用でき、混合セルロースアシレートに対して0.1〜15質量%含有させることが好ましい。
【0058】
(製膜)
上述のペレット化した混合セルロースアシレート、可塑剤および種種の添加剤を混合し、溶融押出し機のホッパーに投入する。このときホッパーを好ましくはTg−50℃以上Tg+30℃以下、より好ましくはTg−40℃以上Tg+10℃以下、さらに好ましくはTg−30℃以上Tg以下にする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0059】
これらの混合物を、好ましくは120℃以上250℃以下、より好ましくは140℃以上220℃以下、さらに好ましくは150℃以上200℃以下で混練溶融する。この時、溶融温度は一定温度で行ってもよく、いくつかに分割して制御しても良い。好ましい混練時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0060】
溶融した樹脂をギヤポンプに通し、押し出し機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルター等で濾過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みむらを調整することができる。この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。キャスティングドラムは60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上150℃以下である。この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。製膜幅は1m以上5m以下、さらに好ましくは1.2m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0061】
本発明では、流延製膜は溶液と溶融のいずれの方法をとることができるが、製造の簡便性より溶融流延製膜が好ましい。
【0062】
本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムのReとRthは下式を満足することが好ましい。
0≦Re≦20
0≦Rth≦80
より好ましくは
0≦Re≦15
0≦Rth≦70
さらに好ましくは
0≦Re≦10
0≦Rth≦60
である。
【0063】
[延伸]
本発明において、レターデーションを発現させるために、混合セルロースアシレートフィルムを延伸してもよい。延伸はTg以上Tg+50℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+1℃以上Tg+30℃以下、さらに好ましくはTg+2℃以上Tg+20℃以下である。好ましい延伸倍率は10%以上300%以下、より好ましくは20%以上250%以下、さらに好ましくは30%以上200%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここで云う延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
このような延伸は縦延伸、横延伸、およびこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸は、(1)ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸)、(2)固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)、等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸(フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸)、等を使用することができる。これらの縦延伸、横延伸は、それだけでおこなっても良く(1軸延伸)、組み合わせて行っても良い(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦、横逐次で実施しても良く(逐次延伸)、同時に実施しても良い(同時延伸)。縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分以上10000%/分以下が好ましく、より好ましくは20%/分以上1000%/分以下、さらに好ましくは30%/分以上800%/分以下である。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。このような延伸に引き続き、縦あるいは横方向に0%から10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、150℃以上250℃以下で1秒以上3分以下熱固定することも好ましい。
【0064】
このような延伸により発現するRe,Rthは、Re≦Rthであることが好ましく、より好ましくはRe×1.5≦Rth、さらに好ましくはRe×2≦Rthである。このようなRe,Rthは固定端1軸延伸、より好ましくは縦、横方向の2軸延伸により達成される。即ち縦、横に延伸することで面内の屈折率(nmd、ntd)の差を小さくしReを小さくする、さらに、縦、横に延伸し面積倍率を大きくすることで厚み減少に伴う厚み方向の配向を強くすることでRthを大きくすることができるためである。このようなRe,Rthにすることで、より一層黒表示での光漏れを軽減することができる。
【0065】
Reは、0nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上250nm以下がさらに好ましく、20nm以上200nm以下が特に好ましい。Rthは、0nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上400nm以下がさらに好ましく、80nm以上350nm以下が特に好ましい。
【0066】
なお、ここで云うRe、Rthは以下の式で定義されるものである。
Re=|nmd−ntd|×d
Rth={(nmd+ntd)/2−n}×d
md、ntd、nはそれぞれ、長手方向(md)、幅方向(td)、厚み方向(z)の屈折率を指し、dは厚み(nm単位で表したもの)を指す。
【0067】
このようにして延伸した後の膜厚は10〜300μmが好ましく、より好ましくは20μm以上200μm以下、さらに好ましくは30μm以上100μm以下である。
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°あるいは−90±2°、さらに好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
【0068】
これらの未延伸、延伸の混合セルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用しても良い。
【0069】
[表面処理]
混合セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、混合セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理であり混合セルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0070】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬しても良く、鹸化液を塗布しても良い。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、WO02/46809号公報に内容の記載が挙げられる。
【0071】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁に記載されている。
【0072】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0073】
[機能層との組み合わせ]
本発明の混合セルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)である。以下に偏光膜との組み合わせを説明する。
【0074】
(偏光膜の素材)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏向性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0075】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0076】
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与しても良い。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0077】
偏光膜(層)の保護膜の厚みは、25〜350μmが好ましく、より好ましくは30〜200、さらに好ましくは40〜120μmである。本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光膜の保護膜として使用する場合は未延伸フィルム、延伸フィルムいずれも用いることが出来る。また、本発明の延伸したセルロースアシレートフィルムは偏光膜の保護膜機能として使用でき、かつ位相差補償機能として使用することも好ましい。
得られた偏光板は以下のような構成を有することが好ましい。下記において、未延伸セルローストリアセテートフィルムは富士写真フイルム(株)製のフジタックTD80、TD80U、TD80UF等が挙げられる。

偏光板A:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルローストリアセテートフィルム
偏光板B:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板C:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルローストリアセテートフィルム
偏光板D:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板E:延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/延伸セルロースアシレートフィルム
【0078】
(偏光膜の延伸)
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10度から80度の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。以下に延伸に手法について説明する。
【0079】
(イ)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は好ましくは1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の重量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、就中1.5〜3.0倍である。この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0080】
(ロ)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%以上100%以下、より好ましくは10%以上100%以下である。延伸時の温度は40℃以上90℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。湿度は50%rh以上100%rh以下が好ましく、より好ましくは70%rh以上100%rh以下、さらに好ましくは80%rh以上100%rh以下である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。延伸の終了後、50℃以上100℃以下より好ましくは60℃以上90℃以下で、0.5分以上10分以下乾燥する。より好ましくは1分以上5分以下である。このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10度から80度が好ましく、より好ましくは30度から60度であり、さらに好ましくは実質的に45度(40度から50度)である。
【0081】
(混合セルロースアシレートフィルムと偏光膜の貼り合せ)
上記鹸化後の混合セルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、混合セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下に本発明について、実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
実施例1
混合セルロースアシレートの製造
混合セルロースアシレートを、以下のようにして製造した。
【0084】
(製造例1)
セルロース100.0gと酢酸50.0gを2Lセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ外部の温度を30℃とし、5時間攪拌した。得られた酢酸膨潤セルロースにアシル化試薬としての無水プロピオン酸1030.0gとアシル化触媒の重硫酸ナトリウム(アルドリッチ社製)20.0gを添加し、この混合物を70℃で4時間攪拌した。加熱を止め、室温に戻し、酢酸/水(3/1)混合物500gを約1時間かけて滴下した。これに硫酸5gを滴下し、60℃で1時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物80gを溶解させた水溶液100mLを滴下した。さらに水1Lを滴下し、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を再沈殿させた。得られたCAPをろ過し、流水で連続洗浄した。再びろ過し、飽和水酸化カルシウム水溶液中60℃で3時間攪拌した。これをろ過し、pHが7になるまで、流水で連続洗浄した。再びろ過し、真空乾燥し、白色固体CAP1を得た。得られた白色固体CAP1の質量は180gだった。
【0085】
(製造例2)
製造例1において、アシル化触媒を重硫酸ナトリウム2.0gと硫酸0.1gとする以外は、製造例1とまったく同様に行い、白色固体CAP2を得た。得られた白色固体CAP2の質量は185gだった。
【0086】
(製造例3(比較例))
セルロース100.0gと酢酸50.0gを2Lセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ外部の温度を30℃とし、5時間攪拌した。得られた酢酸膨潤セルロースにアシル化試薬としての無水プロピオン酸1030.0gとアシル化触媒の重硫酸ナトリウム(アルドリッチ社製)20.0gを添加し、この混合物を30℃で攪拌した。しかし、48時間経ってもアシル化は終了しなかった。
【0087】
(製造例4)
セルロース100.0gと酢酸50.0gを2Lセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ外部の温度を30℃とし、5時間攪拌した。これを、氷浴で冷却し、−20℃以下に冷却した無水プロピオン酸1030.0gと硫酸10.0gの混合物を一度に添加した。30分後に氷浴をとり、30℃で24時間攪拌した。生じた透明な粘性液体を外温5℃とし、酢酸/水(3/1)混合物500gを約1時間かけて滴下した。滴下後、40℃で1時間攪拌し、酢酸マグネシウム4水和物80gを溶解させた水溶液100mLを滴下した。さらに水0.5Lを滴下し、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を再沈殿させた。得られたCAPをろ過し、流水で連続洗浄した。再びろ過し、飽和水酸化カルシウム水溶液中60℃で3時間攪拌した。これをろ過し、pHが7になるまで、流水で連続洗浄した。再びろ過し、真空乾燥し、白色固体CAP4を得た。得られた白色固体CAP4の質量は175gだった。
【0088】
(製造例5)
セルロース100.0gと酢酸140.0gを2Lセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ外部の温度を30℃とし、5時間攪拌した。得られた酢酸膨潤セルロースにアシル化試薬としての無水酪酸950.0gとアシル化触媒の重硫酸ナトリウム20.0g(アルドリッチ社製)を添加し、この混合物を70℃で4時間攪拌した。加熱を止め、室温に戻し、酢酸/水(3/1)混合物500gを約1時間かけて滴下した。これに硫酸5gを滴下し、60℃で1時間攪拌した。硫酸マグネシウム4水和物80gを溶解させた水溶液100mLを滴下した。さらに水1Lを滴下し、セルロースアセテートブチレート(CAB)を再沈殿させた。得られたCABをろ過し、流水で連続洗浄した。再びろ過し、飽和水酸化カルシウム水溶液中60℃で3時間攪拌した。これをろ過し、pHが7になるまで、流水で連続洗浄した。再びろ過し、真空乾燥し、白色固体CAB1を得た。得られた白色固体CAB1の質量は180gだった。
【0089】
上記のCAP1、CAP2、CAP4、CAB1および比較としてのCAB381−20(イーストマンケミカル社製)の物性データを表1に示す。なお、それぞれの置換度はHNMRで決定した。この結果より、混合セルロースアシレートの繰り返し単位の分子量をもとめた。この分子量で、GPCで求めた平均分子量を割ることで、平均重合度を決定した。
【0090】
(溶融状態の微細偏光異物)
上記のCAP1、CAP2、CAP4、CAB1および比較としてのCAB381−20を少量スライドグラス上にのせカバーグラスで挟み込みこんだ。これを融点以上に加熱溶融させた。この状態を、偏光子を直交させた偏光顕微鏡を用い倍率100倍で観察した。ここで観察される1μm以上10μm未満の白色の異物の数を目視で計測し、1mmあたりの個数で表した。この結果を表1に記した。
【0091】
表1の結果のように、本発明の混合セルロースアシレートには、微細偏光異物が含まれない。一方、本発明の範囲外のものは、微細偏光異物が多く含まれる。
【0092】
実施例2
混合セルロースアシレートの溶液流延製膜
上記のCAP1、CAP2、CAP4、CAB1および比較としてのCAB381−20のサンプル100gを、塩化メチレン/メタノール(9/1)溶液600mLに溶かし、これを2気圧で加圧ろ過した。このドープを、15℃に保冷したSUS板上にドクターブレード流延し、25℃で30分乾燥させた。形成されたフィルムを、200mm/秒の速度で支持体から剥ぎ取った。この時、支持体上のはげ残りを目視で評価した。フィルム剥ぎ取り後の支持体上において、残存フィルムが全く見られない場合を「なし」、残存フィルムが確認できる場合を「あり」、残存フィルムがかすかに確認できる場合を「あり(微量)」とした。これを、100℃で10分、133℃で30分乾燥し、透明フィルムを得た。このフィルムを上記と同様の手法で微細偏光異物を観察した。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示されるように、本発明の混合セルロースアシレートフィルムは、製膜したときの剥ぎ取り性が良好である。一方、本発明の範囲外のものは、剥ぎ取り性が劣る。
【0095】
実施例3
混合セルロースアシレートフィルムの溶融流延製膜
(1)混合セルロースアシレートペレットの調製
実施例1の製造例5をスケールアップして、混合セルロースアシレートCAB1をバルク製造した。このCAB1とイーストマンケミカル社製CAB381−20を以下のように、溶融製膜した。
【0096】
混合セルロースアシレートを120℃で3時間乾燥し、含水率を0.1質量%にしたものに、可塑剤トリフェニルフォスフェートと二酸化珪素粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加した。これらを混合したものを2軸混練押出し機のホッパーに入れ、さらに温度170℃、スクリュー回転数200rpm、滞留時間80秒で混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)した。このようにして融解した後、40℃の水浴中に直径3mmのストランド状に押出し1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒通過させ温度を下げた後、長さ5mmに裁断した。このようにして調製したペレットを100℃で10分乾燥した後、袋詰した。
【0097】
(2)未延伸フィルム
上記方法で調製した混合セルロースアシレートペレットを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをTg−10℃になるように調整したホッパーに投入し、190℃で5分間かけ溶融した後、T/D比(リップ間隔/製膜フィルムの厚み)4、キャスティングドラム(CD)とダイの間隔(CD−ダイ間の間隔を製膜幅で割り百分率でしめしたもの)10%で製膜した。このとき、キャスティングドラムの速度を押出し速度のT/D倍にすることで所望の厚み(D)のフィルムを得た。この時、ダイの両端の温度を中央部より10℃だけ高くした。端部を1℃以上20℃以下高くしたものはいずれも端部の割れは発生せず、1℃未満では端部の割れが発生し、一方20℃を越えると、樹脂の熱分解が発生し端部の着色が発生した。キャスティングドラムはTg−10℃とし、この上で固化しフィルムとした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で3000m巻き取った。このようにして得た未延伸フィルムの幅は各水準とも1.5mであり、厚みは80μmであった。
【0098】
(3)延伸
(2)で得た未延伸フィルムをMD方向70%Td方向70%の倍率で延伸した。この後、両端各5%ずつトリミングした。これらのサンプルフィルムの微細偏光異物、Re、及びRthを以下の手法に従い、測定した。なお、延伸は上記で測定したTgより10℃高い温度で、300%/分で実施した。
【0099】
(微細偏光異物)
流延製膜後のサンプルフィルムを、偏光子を直交させた偏光顕微鏡を用い倍率100倍で観察した。ここで観察される1μm以上10μm未満の白色の異物の数を目視で計測し、1mmあたりの個数で表した。結果を表2に示す。
【0100】
(Re,Rth)
サンプルフィルムを25℃60%rhに3時間以上調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、25℃60%rhにおいて、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および、フィルム面法線から±40°傾斜させて方向から波長550nmにおけるレターデーション値を測定した。垂直方向から面内のレターデーション(Re)を、垂直方向、±40°方向の測定値から厚み方向のレターデーション(Rth)を算出した。
【0101】
実施例4
偏光板の作製
(1)鹸化
実施例3における混合セルロースアシレートフィルムを次のように鹸化した。NaOHの1.5mol/L水溶液を鹸化液として、これを60℃に調温し、混合セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0102】
(2)偏光膜の作成
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸した。
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理した延伸および未延伸混合セルロースアシレートフィルムを、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸と混合セルロースアシレートフィルムの長手方向が45度となるように、下記の偏光板の層構成で張り合わせた。
延伸混合セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸混合セルロースアシレートフィルム
なお、未延伸セルロースアシレートは延伸前のフィルムを使用した。
【0103】
実施例5
光学補償フィルム・液晶表示素子の作成
実施例4で作製した位相差偏光板を、富士通(株)製15インチディスプレーVL−1530S(VA方式)の偏光板に代えて使用した。このとき一対の偏光板のうち片側のみに偏光位相差板を用いた。このようにして得た液晶表示装置を、下記の方法に従い光漏れ量を測定した。
(光漏れ評価方法)
上記液晶表示装置を、全面黒表示とし真っ暗な部屋の中に置く。この時の画面の明るさを光度計で測定する。この光量の値を、全面白表示にした時の値で割り、百分率で表した量を「光漏れ」として表2に記載した。
【0104】
【表2】

【0105】
表2の結果のように、本発明の混合セルロースアシレートフィルムを用いた位相差偏光板を使用したものは光漏れが少ない。一方、本発明の範囲外のものは、光漏れが顕著であった。
【0106】
以上のように、本発明の製造方法により製造された混合セルロースアシレートより得られたフィルム用いることで、液晶表示装置に組み込み黒表示時した時に発生する表示故障を解消できた。
【0107】
実施例6
実施例1の製造例1と4をスケールアップして、CAP1とCAP4をバルク製造した。このCAP1とCAP4を以下のように、溶融製膜した。
【0108】
混合セルロースアシレートを120℃で3時間乾燥し、含水率を0.1質量%にしたものに、可塑剤トリフェニルフォスフェートと二酸化珪素粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加した。これらを混合したものを2軸混練押出し機のホッパーに入れ、さらに温度240℃、スクリュー回転数200rpm、滞留時間80秒で混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)した。このようにして融解した後、40℃の水浴中に直径3mmのストランド状に押出し1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒通過させ温度を下げた後、長さ5mmに裁断した。このようにして調製したペレットを100℃で10分乾燥した後、袋詰した。
【0109】
上記方法で調製した混合セルロースアシレートペレットを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをTg−10℃になるように調整したホッパーに投入し、220℃で5分間かけ溶融した後、T/D比(リップ間隔/製膜フィルムの厚み)4、キャスティングドラム(CD)とダイの間隔(CD−ダイ間の間隔を製膜幅で割り百分率でしめしたもの)10%で製膜した。このとき、キャスティングドラムの速度を押出し速度のT/D倍にすることで所望の厚み(D)のフィルムを得た。この時、ダイの両端の温度を中央部より10℃だけ高くした。端部を1℃以上20℃以下高くしたものはいずれも端部の割れは発生せず、1℃未満では端部の割れが発生し、一方20℃を越えると、樹脂の熱分解が発生し端部の着色が発生した。キャスティングドラムはTg−10℃とし、この上で固化しフィルムとした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で3000m巻き取った。このようにして得た未延伸フィルムの幅は各水準とも1.5mであり、厚みは85μmであった。
【0110】
得られた混合セルロースアシレートフィルムの微細偏光異物数、Re、Rthを実施例3と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0111】
上記で得られた混合セルロースアシレートフィルムのサンプルを、次の浸漬鹸化法で鹸化した。2.5mol/LNaOH水溶液を鹸化液として用いた。これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/L硫酸水溶液に30秒浸漬し、水洗した。次に、特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を作製した。このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理したフィルムならびに鹸化処理したフジタックTD80U(未延伸トリアセテートフィルム)を、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光膜の延伸方向とセルロースアシレートの製膜流れ方向(長手方法)に下記組み合わせで張り合わせた。
偏光板A:未延伸CAPフィルム/偏光膜/フジタックTD80U
偏光板B:未延伸CAPフィルム/偏光膜/未延伸CAPフィルム
【0112】
VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板AもしくはBを貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。これを実施例5と同様に光漏れ評価方法で光漏れ量を評価した。結果を表3に併せて示した。
【0113】
【表3】

【0114】
以上のように、本発明の製造方法により製造された混合セルロースアシレートより得られたフィルム用いることで、液晶表示装置に組み込み黒表示時した時に発生する表示故障を解消できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸、または水と少なくとも一種の炭素原子数2〜6のカルボン酸との混合物により膨潤させた膨潤セルロースを、重硫酸塩、または重硫酸塩とブレンステッド酸の存在下、35〜100℃で混合アシル化することを特徴とする混合セルロースアシレートの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で製造された混合セルロースアシレートを流延製膜して得ることを特徴とする混合セルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記混合セルロースアシレートの置換度が、下記式を満たすことを特徴とする請求項2記載の混合セルロースアシレートフィルム。
2.5≦X+Y≦3.0
0≦X≦2.5
0.3≦Y<3
(式中、Xは、アセチル基の置換度を表し、Yは、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【請求項4】
前記流延製膜法が、溶融流延製膜法であることを特徴とする請求項3記載の混合セルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の混合セルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする偏光板。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の混合セルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−45499(P2006−45499A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143092(P2005−143092)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】