説明

減圧処理装置

【課題】合成樹脂製のOリングは、大気雰囲気で150℃以上の高温になると、熱分解を起こし、気密性を維持できなくなることが観測された。
【解決手段】処理容器と蓋体とを気密封止するOリングの外気側に、不活性ガスを流すと共に、Oリングの外気側に形成される気体通路を封止カバーによって覆う構成の外気遮断容器が得られる。更に、Oリングの接触面に、酸化アルミニウム層を形成することによって、Oリングの熱分解温度を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密構造を備えた減圧処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラズマ処理装置等の減圧処理装置は、処理すべき基板等を収容する処理容器と、処理容器上に搭載される蓋体とによって構成された外気遮断容器を備え、当該外気遮断容器を減圧した状態で、プラズマ処理等の処理を行っている。
【0003】
通常、減圧処理装置には、処理装置と蓋体とを気密に封止するために、処理装置と蓋体の間に、気密構造部を設け、処理容器と蓋体とを気密に封止する構成が採用したものがある。この場合、気密構造部として、合成樹脂によって形成されたOリングを含む構造では、120℃以上の高温状態になると、Oリングを形成する合成樹脂が、水分、不純物ガス(特に、酸素ガス)に対して透過性を持つため、高温状態における気密性が維持できないことが指摘されている。
【0004】
一方、特許文献1は、処理容器が高温に加熱された場合にも、気密性を保持できる減圧処理装置を開示している。特許文献1に示されたプラズマ処理装置では、処理容器と蓋体の間の接触面に、環状のOリングが2重に設けられており、2重のOリング間の隙間には、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスが供給されている。特許文献1に示されたOリングは、フッ素ゴム等の合成樹脂によって形成されている。
【0005】
このように、合成樹脂によって形成されているOリングを環状に2重に設け、内側のOリングと外側のOリングとの間の隙間に、不活性ガスを流し、処理容器の内部と外部との間に、環状の不活性ガス層を形成することによって、処理容器の内部から外部へのガスの流出を抑制できると共に、処理容器の外部から内部へのガスの流入を抑制できる。
【0006】
更に、合成樹脂によって形成されたOリングは、150℃になると、水分、不純物ガス等を透過させてしまうと言う特性があるが、上記したように、Oリングを環状に2重に設けた構成では、Oリングが透過性を持った場合にも、Oリング間の隙間に形成される不活性ガス層がシール材として機能するため、処理容器内の気密性を保持することができる。
【0007】
また、特許文献1には、単一のOリングの外側に、複数のガス流入口から不活性ガスを処理容器の外部に向かって流出させることにより、処理容器の内部と外部の間に環状の不活性ガスの層を形成して、処理容器の外部から内部へのガスの流入を抑制すると共に、処理容器の内部から外部へのガスの流出を抑制する例も上げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2009/060756A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Oリングの数を増加させることなく、150℃〜180℃の高温において十分な気密性を保持できる減圧処理装置を提供することである。
【0010】
また、本発明は、単一のOリングの外側に不活性ガスを流入させた場合における問題点をも解決することを企図している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
Oリングを形成する合成樹脂が、大気雰囲気では熱分解の始まる温度が低下すること、及び、合成樹脂性のOリングと接触する材料に依存して、高温状態で触媒作用による熱分解を起こし易いと云う知見に、本発明は基づいている。
【0012】
本発明によれば、Oリングと接触する接触面を改善すること、及び/又は、Oリングを高温の大気雰囲気に曝さないことにより、Oリングの熱分解による劣化を抑制できる減圧処理装置が得られる。
【0013】
具体的には、本発明の一態様によれば、熱分解の始まる温度が大気雰囲気では低下し、高温で使用される処理容器では熱分解が早期に開始してしまうことを考慮して、Oリングの外側(外気側)に不活性ガスを流して大気と接触しないようにした構成を備えた減圧処理装置が得られる。この場合、Oリングを二重にはせず、単一のOリングの外側のフランジに、取り換え可能な封止カバーを設けると共に、Oリングと封止カバーとの間に、不活性ガスを流す構成を採用することより、Oリングの外側に流される不活性ガスの量を減少させることができる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、高温状態での樹脂は、接触面と接触した状態で、接触面との触媒作用による熱分解を起こしやすいことを考慮して、減圧処理装置の外気遮断容器の壁面のうち、少なくともOリングと接触する面に、酸化アルミニウム層を被覆し、触媒作用を抑制した減圧処理装置が得られる。この酸化アルミニウム層は、アルミ合金の容器の表面を非水溶液での陽極酸化によって酸化することによって、或いは、アルミを含有するステンレススチールの表面を熱酸化によって選択的にアルミ酸化物の保護膜を形成することによって得られる。
【0015】
更に、本発明の態様によれば、単一のOリングの外側(外気側)に不活性ガスを流すと共に、Oリングの外側のフランジに、取り換え可能な封止カバーを設けた外気遮断容器が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、150℃〜180℃の高温で使用される合成樹脂製Oリングの熱分解による気密性の低下を抑制できると共に、Oリングの外気側に流入する不活性ガスの量を軽減できる外気遮断容器及び減圧処理装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例に係る減圧処理装置を概略的に説明する断面図である。
【図2】図1に示された減圧処理装置の蓋体を取り除いた状態を示す平面図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る減圧処理装置を説明する部分拡大図である。
【図4】(a)及び(b)はOリングの圧縮率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、本発明の第1の実施例に係る減圧処理装置は、例えば、図示されたような外気遮断容器10を備えたプラズマ処理装置である。図示された外気遮断容器10は、内側に処理空間を規定する処理容器12、当該処理容器12に搭載された蓋体14、及び、処理容器12と蓋体14とを気密に封止する気密構造部16とを有している。図示された処理容器12は円筒形状を有しているものとし、処理容器12及び蓋体14は、アルミニウム又はステンレススチールによって構成されているものとする。
【0019】
処理容器12の上端は、外周に沿って外側に突出して容器突出部、即ち、フランジ部12aを形成しており、他方、蓋体14側面の下端も、外周に突出して蓋体突出部14aを形成している。
【0020】
図示された処理容器12のフランジ部12aには、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガスを流入させるガス流入口と、不活性ガスを流出させるガス流出口が設けられている。更に、ガス流入口及びガス流出口には、それぞれガス供給管18及びガス排出管19が取り付けられており、ガス供給管18は不活性ガス供給源20に接続されている。
【0021】
また、処理容器12のフランジ部12aのガス流入口より内側には、パーフロロエラストマー等の合成樹脂によって形成された単一のOリング22が、フランジ部12aの内側に沿って配置され、処理容器12と蓋体14とを気密に封止している。したがって、容器突出部12a及び蓋体突出部14aは、蓋体14が処理容器12の上端に搭載された場合、Oリング22によって気密に封止される。
【0022】
したがって、Oリング22は処理容器12と蓋体14とを気密に封止する気密構造部16の一部を構成している。更に、図示された気密構造部16は、処理容器12のフランジ部12aの外周及び蓋体突出部14aの外周に沿って取り付けられた封止カバー25を備え、当該封止カバー25はテープ形状のものを使用することができる。
【0023】
封止カバー25がフランジ部12aの外周及び蓋体突出部14aの外周に取り付けられ、処理容器12と蓋体14とが気密に封止された場合、Oリング22と封止カバー25との間には、気体通路が規定される。図示された気体通路は、処理容器12のフランジ部12a、蓋体14の蓋体突出部14a、Oリング22、及び封止カバー25によって囲まれた空間に形成されている。一方、図示された気密構造16は、気体通路を規定するフランジ部12a、蓋体突出部14a、Oリング22、及び封止カバー25によって構成されている。
【0024】
図2に示された平面図からも明らかな通り、処理容器12のフランジ部12aは、内部処理空間Sを囲むように設けられ、当該フランジ部12aの内部処理空間側には、Oリング22が設けられている。また、フランジ部12aの外周には、封止カバー25が取り付けられており、Oリング22と封止カバー25との間の空間には、ガス供給管18に取り付けられたガス流入口から、アルゴン、窒素等の不活性ガスが供給され、且つ、ガス流出口に設けられたガス排出管19から排出されている。
【0025】
この構造では、Oリング22の外気側に不活性ガスが与えられることによって、外気遮断容器10の内部空間Sが150〜180℃まで加熱されても、Oリング22は大気雰囲気に曝されないため、Oリング22の特性の劣化を抑制できる。
【0026】
尚、ガス流入口及びガス流出口の数は複数設けられても良い。
【0027】
一方、本発明者等の研究によれば、パーフロロエラストマー等の合成樹脂によって形成されたOリング22の熱分解特性は、大気雰囲気に曝されると、Oリング22に接触する接触面の材料によっても変化することが判明した。例えば、特許文献1に示されているように、通常、処理容器12及び蓋体14をアルミニウムによって形成し、当該アルミニウムと合成樹脂製のOリング22を接触させた場合、アルミニウムとして、耐食性の優れたA5052を使用しても、Oリング22の熱分解は、130℃程度から始まるため、外気遮断容器10の温度が150℃以上になると、Oリング22の特性が劣化してしまうことが分った。
【0028】
また、処理容器12及び蓋体14をSUS316L等のステンレススチールによって構成した場合にも、大気雰囲気では、Oリング22の熱分解温度が低下することも判明した。
【0029】
図1の一部を拡大して示す図3を参照して、本発明の第2の実施例に係る外気遮断容器について説明する。図3では、処理容器12のフランジ部12a及び蓋体14の蓋体突出部14aを高純度アルミニウム(S2M)により形成しておき、当該フランジ部12a及び蓋体14の蓋体突出部14aの少なくともOリング22と接触する表面部分に酸化アルミニウム層121及び141を設けている。
【0030】
このように、アルミニウムによって形成されたフランジ部12a、蓋体突出部14aに酸化アルミニウム層を設けることにより、大気雰囲気(1%HO/20%O/Ar)中で、熱分解開始温度を150℃以上にすることができ、これによって、高温に加熱された状態でも、Oリング22の熱分解による劣化を抑制することができた。
【0031】
アルミニウムによって形成されたフランジ部12a及び蓋体突出部14aの表面に、酸化アルミニウム層121、141を形成する方法としては、非水溶媒を用いた陽極酸化法を用いることができる。このように、非水溶媒を用いたアルミニウムの陽極酸化法については、特開2008−179884号公報に記載された方法を使用することができる。フランジ部12a及び蓋体突出部14aを形成するアルミニウムとして、Ceを1%添加したアルミニウム合金を用い、当該アルミニウム合金の表面を陽極酸化することによって酸化アルミニウム層121、141を形成しても、同様な効果を得ることができた。即ち、アルミニウム或いはアルミニウム合金の表面に、酸化アルミニウム層121、141を形成し、Oリング22を酸化アルミニウム層121、141と接触させることにより、Oリング22の熱分解温度を150℃以上に高くすることができた。
【0032】
更に、ステンレススチール(SUS)によって形成された処理容器12及び蓋体14に、合成樹脂製のOリング22を接触させた場合にも、大気雰囲気では、Oリング22の熱分解温度が130℃以下になることが判明した。この場合にも、少なくともOリング22と接触する処理容器12及び蓋体14の部分に、酸化アルミニウム層121、141を形成することによって、Oリング22の熱分解温度を150℃以上にすることができた。
【0033】
このように、ステンレススチールの表面に、酸化アルミニウム層を形成する手法としては、アルミニウムを含有するステンレススチールの表面を熱酸化することによってアルミ酸化物の保護膜を形成する手法を用いることができる。アルミニウム含有のステンレススチールを熱酸化して、アルミ酸化物層を形成する手法としては、例えば、特開2004−262133号公報に記載されている手法を用いることができる。即ち、アルミニウムのほかに、鉄、クロム、ニッケルを含有するステンレス鋼を、アルミニウムだけが酸化されるような酸化性雰囲気で酸化して、酸化アルミニウムの不働態層を形成する手法を使用することができる。ステンレススチール中のアルミニウムだけを酸化する酸化性雰囲気としては、500ppb〜100ppmの酸素濃度、200ppb〜50ppmの水分濃度を含む雰囲気が好ましく、酸化性ガス中に水素を含む酸化性混合ガスを用いることが望ましい。この場合、700〜1200℃の温度で酸化処理が30分〜3時間行われ、酸化アルミニウム層121、141を得ることができる。
【0034】
また、本発明者等の研究によれば、Oリング22の圧縮率(%)が大きくなると、Oリング22の熱分解温度も低下することが判った。
【0035】
ここで、図4(a)及び(b)を参照して、圧縮率(%)の計算方法について説明する。図4(a)に示すように、直径Dを有するOリング22を図4(b)に示すように、圧縮することによりつぶした場合、つぶし量をPとすると、圧縮率(%)は、
圧縮率(%)=(P/D)×100
であらわすことができる。
【0036】
このようにして測定された圧縮率(%)が30%を超えると、合成樹脂製のOリング22は、150℃未満の温度で、熱分解する傾向があるため、10〜30%程度の圧縮率で使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0037】
10 外気遮断容器
12 処理容器
14 蓋体
16 気密構造部
18 ガス供給管
19 ガス排出管
20 不活性ガス供給源
22 Oリング
25 封止カバー
12a フランジ部
14a 蓋体突出部
121、141 酸化アルミニウム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、当該容器上に搭載される蓋体と、前記容器と前記蓋体とを気密に封止する気密構造部とを備え、前記気密構造部は、前記容器と前記蓋体との間に規定される気体通路と、該気体連通路を遮断するシール部とを有し、前記シール部は、Oリングを含むと共に、前記Oリングの外気側に設けられた封止カバーとを有することを特徴とする外気遮断容器。
【請求項2】
前記Oリングは樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の外気遮断容器。
【請求項3】
前記Oリングの外気側と前記封止カバーとの間の前記基体連通路に対して不活性ガスを流入、流出させるガス流入出口を有することを特徴とする請求項2記載の外気遮断容器。
【請求項4】
前記ガス流入出口は複数存在することを特徴とする請求項3記載の外気遮断容器。
【請求項5】
内側に処理空間を規定した処理容器と、当該処理容器上に搭載される蓋体と、前記処理容器と前記蓋体とを気密に封止する気密構造部とを備え、前記気密構造部は前記容器と前記蓋体の間に規定される気体連通路と、該気体連通路を遮断する合成樹脂製のOリングとを有し、前記気体連通路の少なくとも前記Oリングと接触する部分は、酸化アルミニウム層によって形成されていることを特徴とする減圧処理装置。
【請求項6】
前記酸化アルミニウム層は、アルミ合金の容器の表面を非水溶液での陽極酸化することによって得られた陽極酸化膜であることを特徴とする請求項5記載の減圧処理装置。
【請求項7】
前記酸化アルミニウム層は、アルミを含有するステンレススチールと、前記ステンレススチールの表面に形成されたアルミ酸化物の保護膜であることを特徴とする請求項5記載の減圧処理装置。
【請求項8】
前記Oリングの合成樹脂はパーフロロエラストマーであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の減圧処理装置。
【請求項9】
前記気密構造部は、前記Oリングの外気側に設けられた封止カバーを有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の減圧処理装置。
【請求項10】
前記Oリングの圧縮率が10〜30%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の外気遮断容器又は減圧処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256946(P2011−256946A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132329(P2010−132329)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】