説明

減圧成形型

【課題】スライド部分30,40,50,60を備えている減圧成形型において、成形空間70の密封度を高める。
【解決手段】
各スライド部分30,40,50,60が前進位置にある第1型20と、第2型(図2には示されていない固定型)を当接させると、第1型本体22と複数個のスライド部分30,40,50,60と第2型によって閉じられた成形空間70が完成する。各スライド部分30,40,50,60に、第1型本体22との当接面と隣接するスライド部分との当接面と第2型との当接面を一巡するシームレスのシール部材39,49,59,69を配置する。成形空間70の密封度が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、減圧しておいた成形空間に物質を充填して成形する減圧成形法に用いる減圧成形型を開示する。
【背景技術】
【0002】
相対移動可能な第1型(例えば可動型)と第2型(例えば固定型)を利用し、第1型と第2型を閉じることで密封された成形空間を作り、その成形空間を減圧し、減圧した成形空間に物質を充填し、成形空間内で物質を硬化させる減圧成形法が知られている。物質が硬化して成形空間の形状に成形された成形品が得られたら成形空間から取り出す。
充填する物質に溶融金属を用いれば鋳造品が成形され、溶融樹脂を用いればプラスチック製品が成形される。
【0003】
複雑な形状を成形するために、型本体に対してスライド可能なスライド部分が用意されている型を用いる場合がある。本明細書では、スライド部分が用意されている側を第1型という。可動型にスライド部分が用意されていれば可動型が第1型であり、その場合には固定型が第2型となる。固定型にスライド部分が用意されていれば固定型が第1型であり、その場合には可動型が第2型となる。
【0004】
型本体に対してスライド可能なスライド部分が複数個用意されている場合もある。各スライド部分を前進させると隣接するスライド部分同士が当接して成形空間を密封する一助となる場合もある。本明細書では、隣接するスライド部分同士が当接する位置関係のことを前進位置という。各スライド部分が前進位置にある第1型と第2型を当接させると、第1型本体と複数個のスライド部分と第2型によって閉じられた成形空間が完成する。閉じられた成形空間を完成するプロセスには限定されない。スライド部分が前進位置にある第1型と第2型を当接させることで閉じられた成形空間が完成してもよいし、第1型本体と第2型を当接させてからスライド部分を前進させて成形空間を完成してもよい。
第1型と第2型を離反させると、成形空間が外部に解放されて成形品が取り出し可能となる。スライド部分を後退させてから第1型と第2型を離反させてもよいし、第1型と第2型を離反させてからスライド部分を後退させてよい。
【0005】
スライド部分を備えている場合、スライド部分が第1型本体に対してスライド可能であるとともに、前進時には両者間を密封しておかなければならない。隣接するスライド部分同士の当接面でも、当接・離反可能であるとともに、当接時には両者間を密封しておかなければならない。スライド部分と第2型の関係も同様であり、当接・離反可能であるとともに、当接時には両者間を密封しておかなければならない。
【0006】
当接・離反可能な面同士の間において、当接時に密封される関係を得るには、シール部材の配置に熟慮を必要とする。
【0007】
特許文献1に、スライド部分を備えている第1型と第2型で成形空間を密封する技術が開示されている。その技術を模式的に図10に示す。なお図10は、特許文献1の技術思想を概念的に示すものであり、特許文献1から変形されている。
【0008】
参照番号10は、固定型であり、本明細書でいう第2型に相当する。参照番号20は、可動型であり、可動型本体22とスライド部分30を備えている。本明細書でいう第1型に相当する。
可動型本体22には、スライド部分30をスライド可能に案内するガイド溝23が形成されている。スライド部分30の外型端部には、鍔部分31が形成されている。スライド部分30は、鍔部分31が可動型本体22の側面に当接するまで前進することができる。スライド部分30の鍔部分31が可動型本体22の側面に当接するまで前進した状態で、可動型20を固定型10に向けて移動させて両者を当接させると、成形空間70が形成される。成形空間70は、可動型本体22と、スライド部分30と、固定型10とによって閉じられる。
【0009】
成形空間70の密封度を向上させるために、固定型10の下面にシームレスのシール部材18が配置されている。図10では、固定型10を可動型本体22に当接させた状態におけるシール部材18の位置を示している。シール部材18は、スライド部分30の上面に接して横断し、ガイド溝23と成形空間70を一巡する。
【0010】
鍔部分31の内面に、スライド部分30を取り囲むシール部材32が配置されている。シール部材32は、鍔部分31の上面と同じ高さにおいて、端面34,36を露出させている。
鍔部分31が可動型本体22の側面に当接するまで前進した状態で、可動型20と固定型10を当接させると、シール部材32の端面34は参照番号14で示す位置でシール部材18に接触し、シール部材32の端面36は参照番号16で示す位置でシール部材18に接触する。シール部材18と、シール部材18に接触するシール部材32によって、成形空間70は型の外部から密封される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−211918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術で用いるシール部材32は、シームレスでなく、端面34から端面36にまで伸びている。シール部材32がシームレスでない場合、経時的変化によって、シール部材32の長さが短くなってしまう。比較的短期間の間に、シール部材32の端面34がシール部材18に接触しなくなり、シール部材32の端面36がシール部材18に接触しなくなってしまう。従来技術では、成形空間70の密封度が短期間で低下し、シール部材32をたびたび交換しなければならない。
【0013】
本明細書では、シームレスのシール部材を利用して、第1型本体と複数個のスライド部分と第2型によって閉じられている成形空間の密封度を向上させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書では、減圧しておいた成形空間に物質を充填して成形するための減圧成形型を開示する。その減圧成形型は、第1型と第2型を備えている。第1型には第1型本体に対してスライド可能な複数個のスライド部分が用意されているとともに、各スライド部分を前進させると隣接するスライド部分同士が当接する関係に設定されている。第1型と第2型は相対移動可能であり、各スライド部分が前進位置にある状態の第1型と第2型を当接させると、第1型本体と複数個のスライド部分と第2型によって閉じられた成形空間が完成する。第1型と第2型を離反させると、成形空間が外部に解放されて成形品が取り出し可能となる。前記したように、スライド部分が用意されている側を第1型という。可動型にスライド部分が用意されていれば可動型が第1型であり、固定型にスライド部分が用意されていれば固定型が第1型である。
本明細書で開示する減圧成形型では、各スライド部分に、第1型本体との当接面と隣接するスライド部分との当接面と第2型との当接面を一巡するシームレスのシール部材が配置されている。各スライド部分が前進位置にあると、隣接するスライド部分との当接面に配置されているシール部材同士が接触することを特徴とする。
【0015】
各スライド部分に、第1型本体との当接面と隣接するスライド部分との当接面と第2型との当接面を一巡するシームレスのシール部材が配置されており、各スライド部分が前進すると隣接するスライド部分との当接面に配置されているシール部材同士が接触する位置関係に設定されていると、第1型本体と前進位置にある複数個のスライド部分と第2型によって閉じられている成形空間に連なる間隙、すなわち、スライド部分と第1型本体の間の間隙と、隣接するスライド部分同士の間の間隙と、スライド部分と第2型の間の間隙がシール部材で密封される。その結果、成形空間の密封度が大幅に改善される。しかも、各々のシール部材はシームレスであり、使用中にシール部材の長さが縮んでシール部材とシール部材の間に間隙があいてしまうこともない。成形空間の密封度が改善し、メンテナンスの負担が軽減される。
【0016】
スライド部分同士の当接面が、先端に向かって細くなる向きに傾斜していることが好ましい。この場合、隣接するスライド部分同士を当接させる際に当接面に配置されているシール部材同士がこすれあう度合いを減少することができ、シール部材の寿命を長期化することができる。
【0017】
本明細書で開示するシール部材は、隣接するスライド部分との当接面から第2型との当接面に掛けて連続して伸びている。そのために、前記した当接面から当接面に移行する位置においてシール部材が屈曲し、シール部材のシール面にカーブが生じる(いわゆるRが生じる)。そのカーブが間隙となって密封度を損ねる場合がある。
一層の密封度を得るためには、各スライド部分における前記移行位置に対応する位置の第2型に、シール部材を屈曲させる際に生じるカーブに倣う突起が形成しておくことが好ましい。
第2型に突起を形成しておくと、第2型によって成形空間を閉じたときに、シール部材のカーブしたシール面に第2型が隙間なく密着する。成形空間の密封度が一層に高められる。
【発明の効果】
【0018】
本明細書に開示されている減圧成形装置によると、シームレスのシール部材を利用することから、シール部材の長さが縮んでシール部材同士の間に間隙が生じることがなく、シール部材のメンテナンス負荷が軽減される。しかも、第1型本体や第2型にはシール部材が配置されておらず、スライド部分にのみシール部材が配置されている。個々のスライド部分は小型で扱いやすく、シール部材の交換作業等も容易化される。本明細書に開示されている減圧成形装置によると、成形空間の密封度が高く、成形時に生じるガスの巻き込み現象等を抑制することができる。成形品の品質も向上する。
スライド部分同士の当接面を、先端に向かって細くなる向きに傾斜させておくと、シール部材の寿命を長期化することができる。
また第2型に、シール部材のRに倣う突起を形成しておくと、成形空間の密封度がさらに向上し、成形品の品質がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スライド部分が前進位置にあり、第1型と第2型が離れた位置にある状態の実施例1の減圧成形型を模式的に示す。
【図2】第1型本体からスライド部分を抜き出した状態の第1型を模式的に示す。
【図3】第1型本体と成形空間とシール部材の位置関係を模式的に示す。
【図4】隣接するスライド部分との当接面から第2型との当接面に掛けて連続して伸びているシール部材に生じるカーブを模式的に示す。
【図5】シール部材に生じるカーブと、第2型に形成されている突起の関係を示す。
【図6】第2型に形成されている突起の位置を示す。
【図7】スライド部分が前進位置にある実施例2の第1型を模式的に示す。
【図8】実施例2の第2型に形成されている突起の位置を示す。
【図9】第1型本体からスライド部分を抜き出し、第1型と第2型が離れた位置にある状態の実施例3の減圧成形型を模式的に示す。
【図10】従来の減圧成形型を模式的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
下記に示す実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)成形空間に溶融した金属を充填する。減圧鋳造型である。
(特徴2)スライド部分の第1型本体とのスライド面の先端部分では、スライド部分が先端に向けて細くなる向きに傾斜している。
(特徴3)前進位置にあるスライド部分の先端に対応する位置の第1型本体に、特徴2の傾斜面に当接する傾斜面が設けられている。
(特徴4)特徴2の傾斜した当接面に、シール部材が配置されている。
(特徴5)スライド部分の第1型本体とのスライド面に配置されているシール部材が、スライド部分のスライド時には第1型本体に接触しない。
【実施例】
【0021】
図1は、可動型本体(第1型本体の実施例)22に対してスライド部分30,40,50,60が前進位置にある可動型(第1型の実施例)20と、固定型(第2型の実施例)10を模式的に示している。可動型20を固定型10に当接すると、可動型本体22と、スライド部分30,40,50,60と、固定型10によって閉じられた成形空間70が得られる。固定型10には筒12が設けられており、筒12は成形空間70に連通している。
【0022】
成形空間70が閉じられた状態で筒12から成形空間70を減圧して成形空間70に残存している気体等を除去する。筒12から減圧された状態の成形空間70に溶融した金属を充填する。成形空間70に充填された金属は冷却されて硬化して鋳造品となる。図1の減圧成形型は、減圧鋳造型である。
【0023】
図1は、図示の明瞭化のために、固定型10が可動型20の上方に配置されているように図示されている。実際には、固定型10と可動型20が左右に配置されていることもあれば、固定型10が可動型20の下方に配置されていることもある。固定型10と可動型20の配置関係は制約されない。
【0024】
図2は、可動型本体22からスライド部分30,40,50,60を抜き出した状態の可動型20を模式的に示している。
可動型本体22には、スライド部分30をスライド可能にガイドする溝23が設けられている。同様に、スライド部分40をスライド可能にガイドする溝24、スライド部分50をスライド可能にガイドする溝25、スライド部分60をスライド可能にガイドする溝26が形成されている。
スライド部分30がガイド溝23にガイドされて図1に示す前進位置に前進し、スライド部分40がガイド溝24にガイドされて図1に示す前進位置に前進し、スライド部分50がガイド溝25にガイドされて図1に示す前進位置に前進し、スライド部分60がガイド溝26にガイドされて図1に示す前進位置に前進すると、底面が可動型本体22によって閉じられ、4側面がスライド部分30,40,50,60で閉じられた空間70が形成される。その状態で、可動型20と固定型10が当接すると、空間70の上面が固定型10で閉じられる。可動型20と固定型10の内部に、可動型本体22とスライド部分30,40,50,60と固定型10で閉じられた成形空間70が確保される。
【0025】
固定型10には、成形空間70に連通する筒12が形成されている。可動型本体22とスライド部分30,40,50,60と固定型10で成形空間70が閉じられた状態で、筒12から吸引すると、成形空間70が減圧され、成形空間70に存在していた気体等が成形空間70から除去される。その状態で、成形空間70に溶融した金属を充填する。充填前の成形空間70から気体等が除去されているので、成形空間70に充填する溶融金属に気体等が巻き込まれることがない。欠陥の少ない鋳造品を成形することができる。
【0026】
成形空間70を十分に減圧するためには成形空間70の密封度を高める必要がある。成形空間70には、スライド部分30,40,50,60と可動型本体22の間の間隙、スライド部分30,40,50,60と固定型10の間の間隙、スライド部分30,40,50,60同士の間の間隙が連通しており、成形空間70の密封度を高めるためには、これらの間隙をシール部材で封止する必要がある。
【0027】
成形空間70の周囲を封止するために、スライド部分30にシール部材39が配置されており、スライド部分40にシール部材49が配置されており、スライド部分50にシール部材59が配置されており、スライド部分60にシール部材69が配置されている。
【0028】
スライド部分30に配置されているシール部材39は、スライド部分30の先端側の4側面に亘って伸びている。すなわち、スライド部分30の固定型10との当接面31を横断している部分32と、スライド部分60との当接面33を横断している部分34と、可動型本体22との当接面35(図2では図示されていない)を横断している部分36(後記する図3に示す)と、スライド部分40との当接面37(図2では図示されていない)を横断している部分38(後記する図3に示す)を備えている。シール部材39は、固定型10との当接面31を横断している部分32と、スライド部分60との当接面33を横断している部分34と、可動型本体22との当接面35を横断している部分36と、スライド部分40との当接面37を横断している部分38が連続しており、シームレスである。シームレスのシール部材39が、スライド部分30の先端側の4側面に亘って一巡している。
【0029】
スライド部分50に配置されているシール部材59も、シール部材39に同様である。シール部材59も、スライド部分50の固定型10との当接面51を横断している部分52と、スライド部分40との当接面53(図2では図示されていない)を横断している部分54(後記する図3に示す)と、可動型本体22との当接面55(図2では図示されていない)を横断している部分56(後記する図3に示す)と、スライド部分60との当接面57を横断している部分58を備えている。シール部材59は、固定型10との当接面51を横断している部分52と、スライド部分40との当接面53を横断している部分54と、可動型本体22との当接面55を横断している部分56と、スライド部分60との当接面57を横断している部分58が連続しており、シームレスである。シームレスのシール部材59が、スライド部分50の先端側の4側面に亘って一巡している。
【0030】
スライド部分40に配置されているシール部材49は、他の型部材と当接する4面に亘って伸びている。すなわち、固定型10との当接面41を横断している部分42と、スライド部分30との当接面43を横断している部分44と、可動型本体22との当接面45(図2では図示されていない)を横断している部分46(後記する図3に示す)と、スライド部分50との当接面47を横断している部分48を備えている。シール部材49は、固定型10との当接面41を横断している部分42と、スライド部分30との当接面43を横断している部分44と、可動型本体22との当接面45を横断している部分46と、スライド部分50との当接面47を横断している部分48が連続しており、シームレスである。シームレスのシール部材49が、スライド部分40の先端側の4面に亘って一巡している。スライド部分40は、上面41で固定型10に当接し、先端面43でスライド部分30に当接し、下面45で可動型本体22に当接し、先端面47でスライド部分50に当接することから、シール部材49は、スライド部分40の上面41から先端面43と下面45と先端面47を巡って上面41に戻っている。
【0031】
スライド部分60に配置されているシール部材69も、シール部材49と同様である。シール部材69も、固定型10との当接面61を横断している部分62と、スライド部分50との当接面63(図2では図示されていない)を横断している部分64(図3に示す)と、可動型本体22との当接面65(図2では図示されていない)を横断している部分66(図3に示す)と、スライド部分30との当接面67を横断している部分68(図3に示す)を備えている。シール部材69は、固定型10との当接面61を横断している部分62と、スライド部分50との当接面63を横断している部分64と、可動型本体22との当接面65を横断している部分66と、スライド部分30との当接面67を横断している部分68が連続しており、シームレスである。シームレスのシール部材69が、スライド部分60の先端側の4面に亘って一巡している。スライド部分60は、上面61で固定型10に当接し、先端面63でスライド部分50に当接し、下面65で可動型本体22に当接し、先端面67でスライド部分30に当接することから、シール部材69は、スライド部分60の上面61から先端面63と下面65と先端面67を巡って上面61に戻っている。
なお図示はしないが、シール部材39,49,59,69の各々は断面円形のゴム材であり、スライド部分30,40,50,60には、シール部材39,49,59,69が辿っている経路に沿って断面四角形の溝が形成されている。その溝によって、シール部材39,49,59,69が伸びている経路が管理されている。
【0032】
図3は、成形型を閉じた状態における、成形空間70と、シール部材39,49,59,69の位置関係を示している。スライド部分同士が当接する面に配置されているシール部分同士が接触する位置関係にあることがわかる。すなわち、シール部分34はシール部分68に接触し、シール部分64はシール部分58に接触し、シール部分54はシール部分48に接触し、シール部分44はシール部分38に接触する。
【0033】
図3から明らかに、成形空間70の周囲は、シール部材39,49,59,69によって完全に閉じられる。すなわち、成形空間70には、固定型10と可動型本体22の間の間隙、スライド部分30,40,50,60と可動型本体22の間の間隙、スライド部分30,40,50,60と固定型10の間の間隙、およびスライド部分30,40,50,60同士の間の間隙が連通しているところ、シール部材39,49,59,69はこれらの間隙の全部を封止している。シール部材39,49,59,69によって、成形空間70の密封度が非常に高められる。
【0034】
シール部材は、経年変化によって、その長さが縮む性質を持っている。シール部材39,49,59,69はシームレスであることから、長さが縮んでギャップを生じることがない。シール部材39,49,59,69の寿命は長い。
本実施例では、可動型本体22と固定型10にはシール部材が必要とされない。シール部材39,49,59,69はスライド部分30,40,50,60に配置されている。スライド部分30,40,50,60は、可動型本体22から取り出すことが可能である。スライド部分30,40,50,60を可動型本体22から取り出した状態で、シール部材39,49,59,69の交換作業をすることができる。シール部材39,49,59,69の交換作業が簡単化される。
【0035】
図4は、スライド部分40に配置されているシール部材49が、固定型10との当接面41に沿って伸びている部分42から、スライド部分30との当接面43に沿って伸びている部分44に移行する部分を示している。また、スライド部分30に配置されているシール部材39が、固定型10との当接面31に沿って伸びている部分32から、スライド部分40との当接面37に沿って伸びている部分38に移行する部分を示している。図示の明瞭化のために、スライド部分30の図示を省略している。
シール部材は、シームレスであることから、面から面に移行する位置で屈曲し、シール面がカーブする。そのために、図5に示すように、スライド部分40とスライド部分30を当接させた際に、シール部材49とシール部材39の境界に、谷間状のくぼみ90が形成される。成形空間70の密封度を向上させるためには、くぼみ90をも塞ぐことが好ましい。
本実施例では、固定型10の下面に、くぼみ90に倣う形状の突起19が形成されている。その突起19がシール部材49とシール部材39の境界に生じる谷間状のくぼみ90を塞ぐことから、成形空間70の密封度はさらに向上する。
【0036】
谷間状のくぼみ90は、シール部分34,68の境界、シール部分64,58の境界、シール部分54,48の境界、シール部分44,38の境界で生じる。図6に示すようにくぼみ90を塞ぐ突起19は、上記の4境界の位置に形成されている。
【0037】
シール部分34,68の境界、シール部分64,58の境界、シール部分54,48の境界、シール部分44,38の境界では、可動型本体22と接する側でもくぼみが生じる。可動型本体22にも、上記の4境界の位置に、くぼみを塞ぐ突起を形成しておくことが好ましい。
【0038】
図7は、スライド部分30,40,50,60の別実施例を示す。スライド部分30,40,50,60のそれぞれの先端面と側面の境界部に、先端に向かって細くなる向きに傾斜している傾斜面が形成されている。その傾斜面同士が当接する。傾斜面が当接面となっている。それぞれのシール部材は、上面から右側傾斜面と下面と左側傾斜面を辿って、上面に戻っている。この実施例でも、シール部材39,49,59,69のそれぞれはシームレスである。
【0039】
シール部材39,49,59,69が、スライド部分30,40,50,60の右側傾斜面と左側傾斜面を辿っていると、スライド部分30,40,50,60がスライドしている間に、シール部材39,49,59,69が可動型本体22にこすれることがない。スライド部分30,40,50,60の右側面と左側面が傾斜していなければ、スライド部分30,40,50,60がスライドしている間に、シール部材39,49,59,69は、図7においてハッチが付されている可動型本体22の側面にこすれて消耗する。また、シール部材39,49,59,69が、スライド部分30,40,50,60の右側傾斜面と左側傾斜面を辿っていると、シール部材39と49、49と59、59と69、ならびに69と39がこすれあうこともない。スライド部分30,40,50,60が前進位置に達したときに、シール部材39と49、49と59、59と69、ならびに69と39が圧縮しあう。シール部材39,49,59,69の寿命はさらに長期化される。
【0040】
各スライド部分30,40,50,60の先端面と下面(可動型本体22とのスライド面)の境界部に、先端に向かって細くなる向きに傾斜している傾斜面を形成してもよい。この場合には、前進位置にあるスライド部分30,40,50,60の傾斜面に対応する位置の可動型本体22に、スライド部分30,40,50,60の傾斜面に当接する傾斜面を設けておく。また、シール部材39,49,59,69は、その傾斜面を横断する位置に配置する。この場合、シール部材39,49,59,69は、傾斜面に配置されていることから、スライド部分30,40,50,60がスライドしている間に、可動型本体22に接触しない。スライド部分30,40,50,60が前進位置に達したときに、シール部材39,49,59,69が可動型本体22側の傾斜面に押し当てられて圧縮される。シール部材39,49,59,69の寿命はさらに長期化される。
【0041】
本実施例でも、スライド部分30,40の境界、スライド部分40,50の境界、スライド部分50,60の境界、スライド部分60,30の境界で、シール部材同士の間にくぼみができる。本実施例でも、図8に示すように、固定型10の内面に、シール部材同士の間に生じるくぼみを塞ぐ突起19が形成されている。本実施例の場合、シール部材同士の間に生じるくぼみの谷筋は、成形空間70の対角線の方向に伸びている。それに対応するために、突起19の稜線は成形空間70の対角線の方向に伸びている。
【0042】
図9は、2つのスライド部分30,50を備えている成形型の実施例を示している。この実施例でも、スライド部分50に配置されているシール部材59は、固定型10との当接面51に沿って伸びている部分52と、スライド部分30との当接面53に沿って伸びている部分54と、可動型本体22との当接面55(図9では図示されていない)を横断している部分56(図9では図示されていない)と、スライド部分30との当接面57に沿って伸びている部分58を備えている。同様に、スライド部分30に配置されているシール部材39は、固定型10との当接面31に沿って伸びている部分32と、スライド部分50との当接面33(図9では図示されていない)に沿って伸びている部分34と、可動型本体22との当接面35(図9では図示されていない)を横断している部分36(図9では図示されていない)と、スライド部分30との当接面37(図9では図示されていない)に沿って伸びている部分38(図9では図示されていない)を備えている。シール部分58はシール部分33に接触し、シール部分54はシール部分38に接触する。この実施例でも、スライド部分30に、固定型10との当接面31から他方のスライド部分50との当接面33と可動型本体22との当接面35とスライド部分50との当接面37を一巡するシームレスのシール部材39が使用されている。また、スライド部分50に、固定型10との当接面51から他方のスライド部分30との当接面53と可動型本体22との当接面55とスライド部分30との当接面57を一巡するシームレスのシール部材59が使用されている。これによって、成形空間70の密封度が高められる。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0044】
10:固定型(第2型)
12:筒
19:突起
20:可動型(第1型)
22:可動型本体
23,24,25,26:ガイド溝
30,40,50,60:スライド部分
39,49,59,69:シール部材
70:成形空間
31,41,51,61:固定型との当接面
32,42,52,62:固定型との当接面に沿って伸びるシール部分
33,37,43,47,53,57,63,67:スライド部分との当接面
34,38,44,48,54,58,64,68:スライド部分との当接面に沿って伸びるシール部分
35,45,55,65:可動型本体との当接面
36,46,56,66:可動型本体との当接面に沿って伸びるシール部分
90:くぼみ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧しておいた成形空間に物質を充填して成形するための減圧成形型であり、
第1型と第2型を備えており、
第1型には第1型本体に対してスライド可能な複数個のスライド部分が用意されているとともに、各スライド部分を前進させると隣接するスライド部分同士が当接し、
第1型と第2型は相対移動可能であり、
各スライド部分が前進位置にある第1型と第2型を当接させると、第1型本体と複数個のスライド部分と第2型によって閉じられた成形空間が完成し、
第1型と第2型を離反させると、成形空間が外部に解放されて成形品が取り出し可能となり、
各スライド部分に、第1型本体との当接面と隣接するスライド部分との当接面と第2型との当接面を一巡するシームレスのシール部材が配置されており、各スライド部分が前進位置にあると隣接するスライド部分との当接面に配置されているシール部材同士が接触することを特徴とする減圧成形型。
【請求項2】
スライド部分同士の当接面が、先端に向かって細くなる向きに傾斜していることを特徴とする請求項1の減圧成形型。
【請求項3】
前進位置にある各スライド部分において隣接するスライド部分との当接面から第2型との当接面に移行する位置に対応する位置の第2型に、シール部材を屈曲させる際に生じるカーブに倣う突起が形成されていることを特徴とする請求項1または2の減圧成形型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−43192(P2013−43192A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181745(P2011−181745)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】