説明

減数分裂期キネシンに関連する疾患を治療する方法

本発明は、減数分裂期キナーゼの阻害剤を投与することによって、減数分裂期キナーゼ、好ましくは、減数分裂期キナーゼHSETに関連する疾患を治療する方法を提供する。好ましくは、該疾患は、癌等の過剰な中心体の存在に関連する。腫瘍細胞を減数分裂期キナーゼ、好ましくは、HSETの阻害剤と接触させることによって、腫瘍細胞の成長を阻害する方法も提供する。減数分裂期キナーゼHSETの阻害剤を同定するためのスクリーニング方法も提供する。HSET等の減数分裂期キナーゼの阻害剤による治療のための対象を選択する方法も提供する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
中心体は、有糸分裂中の二極性紡錘体形成に寄与することによって、染色体の等分割における重要な役割を担う(Doxsey,S.(2001) Nat Rev Mol Cell Biol :688−698(非特許文献1))。中心体の複製に対し、それを一細胞周期当たり1回に制限する厳密な制御により、正常な細胞が2つの中心体つまり微小管形成中心(MTOC)と共に有糸分裂に入ることが保証される。中心体の数および機能を適切に制御できなければ、多極性紡錘体、異数性、細胞極性の崩壊、および非対称細胞分裂不全につながる可能性がある(Heneen,W.K.(1970) Chromosoma 29:88−117(非特許文献2)、Nigg,E.A.(2002) Nat Rev Cancer :815−825(非特許文献3))。
【0002】
中心体数の増加(しばしば、中心体増幅と呼ばれる)は、固形および血液癌の共通する特徴である。中心体増幅は、腫瘍細胞株、マウス腫瘍モデル、およびヒト腫瘍における異数性および悪性挙動と相関する(D‘Assoro,A.B.et al.(2002) Breast Cancer Res Treat 75:25−34(非特許文献4)、Giehl,S.et al.(2005) Leukemia 19:1192−1197(非特許文献5)、Levine,D.S.et al.(1991) Proc Natl Acad Sci USA 88:6427−6431(非特許文献6)、Lingle,W.L.et al.(1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:2950−2955(非特許文献7)、Pihan,G.A.et al.(2003) Cancer Res 63:1398−1404(非特許文献8))。様々な腫瘍抑制遺伝子または癌遺伝子の変異または誤制御は、中心体増幅に相関する(Fukasawa,K.(2007) Nat Rev Cancer :911−924(非特許文献9))。中心体増幅は、主に、様々な種類の細胞分裂のエラー(中心体の過剰複製、中心体のデノボ合成、細胞融合、または細胞質分裂不全)から生じる可能性がある(Boveri,T.(1929) The Origin of Malignant Tumors(Baltimore:Williams and Wilkins)(非特許文献10)、Ganem,N.J.et al.(2007) Curr Opin Genet Dev 17:157−162(非特許文献11)、Nigg,E.A.(2002) Nat Rev Cancer :815−825(非特許文献3))。
【0003】
腫瘍生物学における過剰中心体の役割は、多面的である可能性が高い。複数の中心体は、異数性を促進する、および/または細胞極性を崩壊させることによって、腫瘍形成を円滑にし得る一方、複数の中心体によって、多極性有糸分裂の可能性があるために、成熟癌の成長は、適正な犠牲を負い得る。この問題を回避するために、多くの癌細胞は、多極性有糸分裂を抑制する機構を有するように見え、最も良く研究されているのは、二極性有糸分裂を可能にする、2つのグループ内への過剰中心体のクラスター形成である(Brinkley,B.R.(2001) Trends Cell Biol 11:18−21(非特許文献12)、Nigg,E.A.(2002) Nat Rev Cancer :815−825(非特許文献3)、Ring,D.et al.(1982) J Cell Biol 94:549−556(非特許文献13))。
【0004】
腫瘍細胞における中心体クラスター形成は、完全には理解されていないが、これは、微小管関連タンパク質(MAP)および紡錘体極を編成するモーターに相当依存すると予想されている(Karsenti,E.and Vernos,I.(2001)Science 294:543−547(非特許文献14)、Nigg,E.A.(2002)Nat Rev Cancer :815−825(非特許文献3))。例えば、近年の研究は、中心体クラスター形成における、細胞質ダイニン、マイナス端方向性微小管(MT)モーター、およびNuMA、紡錘体関連MAPの必要条件を明らかにした(Quintyne,N.J.et al.(2005)Science 307:127−129(非特許文献15))。多極性有糸分裂を抑制する機構の存在により、癌に向けた新規治療方針の可能性が高まり、中心体クラスター形成機構を妨げる薬物は、複数の中心体を含む腫瘍細胞に致命的であり得るが、正常な細胞には潜在的に危害を与えない。タキソールを含む、様々な薬物は、多極性有糸分裂を促進することができるが、いずれも複数の中心体を有する細胞に特異的ではない(Chen,J.G.and Horwitz,S.B.(2002)Cancer Res 62:1935−1938(非特許文献16)、Rebacz,B.et al.(2007)Cancer Res 67:6342−6350(非特許文献17))。
【0005】
したがって、腫瘍細胞内の中心体クラスター形成機構に関与する構成成分の同定が依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Doxsey,S.(2001) Nat Rev Mol Cell Biol 2:688−698
【非特許文献2】Heneen,W.K.(1970) Chromosoma 29:88−117
【非特許文献3】Nigg,E.A.(2002) Nat Rev Cancer 2:815−825
【非特許文献4】D‘Assoro,A.B.et al.(2002) Breast Cancer Res Treat 75:25−34
【非特許文献5】Giehl,S.et al.(2005) Leukemia 19:1192−1197
【非特許文献6】Levine,D.S.et al.(1991) Proc Natl Acad Sci USA 88:6427−6431
【非特許文献7】Lingle,W.L.et al.(1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:2950−2955
【非特許文献8】Pihan,G.A.et al.(2003) Cancer Res 63:1398−1404
【非特許文献9】Fukasawa,K.(2007) Nat Rev Cancer 7:911−924
【非特許文献10】Boveri,T.(1929) The Origin of Malignant Tumors(Baltimore:Williams and Wilkins)
【非特許文献11】Ganem,N.J.et al.(2007) Curr Opin Genet Dev 17:157−162
【非特許文献12】Brinkley,B.R.(2001) Trends Cell Biol 11:18−21
【非特許文献13】Ring,D.et al.(1982) J Cell Biol 94:549−556
【非特許文献14】Karsenti,E.and Vernos,I.(2001)Science 294:543−547
【非特許文献15】Quintyne,N.J.et al.(2005)Science 307:127−129
【非特許文献16】Chen,J.G.and Horwitz,S.B.(2002)Cancer Res 62:1935−1938
【非特許文献17】Rebacz,B.et al.(2007)Cancer Res 67:6342−6350
【発明の概要】
【0007】
本発明は、腫瘍細胞内の中心体クラスター形成機構に関与する主要構成成分を同定し、かつ、この構成成分の阻害による中心体のクラスター分離(declustering)が、過剰な中心体を有する細胞において選択的に細胞死を誘導することができることを示す。この主要構成成分である、減数分裂期キネシン(meiotic kinesin)HSET(キネシン−14ファミリーメンバー)は、正常な細胞における有糸分裂には必須ではないが、過剰な中心体を有する癌細胞の生存に必須であることを本明細書に示す。したがって、本発明は、正常な細胞の死滅を回避しながら、癌細胞等の過剰な中心体を含む細胞の選択的な死滅という目標を提供する。
【0008】
したがって、一態様において、本発明は、減数分裂期キネシンに関連した疾患または障害を治療する方法に関連し、該方法は、疾患または障害の治療が達成されるように、その治療を必要とする対象に減数分裂期キネシンを阻害する薬剤を投与するステップを含む。一実施形態において、該疾患または障害は、常染色体疾患または障害である。好ましい実施形態において、該疾患または障害は、中心体疾患または障害(例えば、過剰な中心体の存在を特徴とする)。別の好ましい実施形態において、該疾患または障害は、癌または悪性腫瘍等の細胞増殖性疾患である。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーのメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。減数分裂期キネシンを阻害するための好適な薬剤の例としては、RNAi薬剤および小分子が挙げられる。一実施形態において、該薬剤は、キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、キネシンの微小管結合活性を阻害する。該薬剤は、例えば、経口的または非経口的に投与することができる。
【0009】
別の態様において、本発明は、細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する腫瘍細胞の成長を阻害する方法に関連し、該方法は、腫瘍細胞の成長が阻害されるように、腫瘍細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤と接触させるステップを含む。好ましい実施形態において、該腫瘍細胞は、過剰な中心体を含む。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーのメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。減数分裂期キネシンを阻害するための好適な薬剤の例としては、RNAi薬剤および小分子が挙げられる。一実施形態において、該薬剤は、キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、キネシンの微小管結合活性を阻害する。該腫瘍細胞は、例えば、腫瘍細胞を該薬剤とともに培養するか、または該腫瘍細胞を含む腫瘍内に該薬剤を直接注入するか、もしくは、該腫瘍細胞を含む腫瘍を有する対象に該薬剤を投与することによって、該薬剤と接触させることができる。
【0010】
別の態様において、本発明は、細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する細胞の増殖を阻害する方法に関連し、細胞増殖の阻害が達成されるように、細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤に接触させることを含む。好ましい実施形態において、該細胞は、過剰な中心体を含む。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーのメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。減数分裂期キネシンを阻害するための好適な薬剤の例としては、RNAi薬剤および小分子が挙げられる。一実施形態において、該薬剤は、キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、キネシンの微小管結合活性を阻害する。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物を同定するための方法に関連し、該方法は、
減数分裂期キネシンHSETを含む指標組成物を提供することと、
該指標組成物を試験化合物と接触させることと、
該試験化合物の存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性を判定することと
を含み、該試験化合物の非存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性と比較した、該試験化合物の存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性の減少により、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物として該試験化合物が同定される。
【0012】
好ましい実施形態においては、該指標組成物を、試験化合物のライブラリのそれぞれのメンバーと接触させ、ライブラリ内の、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する1つもしくは複数の試験化合物を選択する。
【0013】
一実施形態において、減数分裂期キネシンHSETの活性は、キネシンのATPアーゼ活性を測定することによって判定される。別の実施形態において、減数分裂期キネシンHSETの活性は、キネシンの微小管結合活性を測定することによって判定される。さらに別の実施形態において、減数分裂期キネシンHSETの活性は、HSETのmRNAまたはタンパク質の発現を測定することによって判定される。
【0014】
本発明は、本発明のスクリーニング方法によって同定された単離された化合物にも関連する。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のために、腫瘍を有する対象を選択する方法に関連し、該方法は、(i)対象から腫瘍細胞試料を得ることと、(ii)該腫瘍細胞試料内の中心体の数を決定することとを含み、該腫瘍細胞試料内の過剰な中心体の存在により、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のための対象が選択される。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーのメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。好ましくは、該試料中の少なくとも50%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含み、より好ましくは、該試料中の少なくとも75%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含み、さらに好ましくは、該試料中の少なくとも90%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】そのノックダウンによって多極性紡錘体(中心体のクラスター分離)がもたらされる遺伝子を同定するための、ショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞におけるゲノム全体でのRNAiスクリーニングのスキームを示す。
【図2】EGFPもしくはMad2のRNAiノックダウンのみ、またはMG132による処理を加えたEFGPもしくはMad2のRNAiノックダウン時の異常な紡錘体を有するS2細胞の割合の棒グラフである。
【図3】ラトランクリン(LatA)、サイトカラシンD、またはコンカナバリン−A(Con−A)による処理時の異常な紡錘体を有するS2細胞の割合の棒グラフである。
【図4】DMSO、LatA、またはDCBによる処理時のMCF−7、MDA−231、MMECS4N、またはN1E−115細胞における多極性紡錘体を有する細胞の割合の棒グラフである。
【図5】MDA−231およびMCF−7細胞におけるsiRNAの3日後のHSETの喪失を示すウェスタンブロットである。
【図6】MDA−231およびMCF−7細胞におけるsiRNAの3日後のMyo10の喪失を示すウェスタンブロットである。
【図7】HSETまたはMyo10のsiRNAによる処理時のMCF−7またはMDA−231細胞における多極性紡錘体を有する細胞の割合を示す棒グラフである。
【図8】共にLatAを有する(+)か、または有さない(−)、HSETまたはMyo10のsiRNAによる処理時の多極性紡錘体を有する有糸分裂細胞の割合を示す棒グラフである。
【図9】HSET siRNA処理の6日後のN1E−115細胞による細胞生存能力の消失およびコロニー形成の阻害を示す棒グラフである。
【図10】過剰な中心体を有する細胞の分率に比例する、様々な癌細胞株におけるHSET RNAi誘導性細胞死を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、腫瘍細胞内の中心体クラスター形成機構に関与する主要構成成分を同定する。本発明は、中心体のクラスター分離が、過剰な中心体を有する細胞において選択的に細胞死を誘導することができることをさらに示す。少なくとも1つの実施形態において、本発明は、正常には非必須のキネシンモーターである減数分裂期キネシンHSETが、過剰な中心体を含む細胞の生存能力に必要であるという発見に少なくとも部分的に基づく。腫瘍細胞内の複数の中心体は、異数性および細胞死につながる場合がある多極分裂の可能性をもたらす。それにもかかわらず、多くの癌細胞は、多極分裂を抑制する機構により、うまく分裂する。ショウジョウバエS2細胞におけるゲノム全体でのRNAiスクリーニングおよび癌細胞における二次解析は、多極分裂を抑制する機構を定義した。特に、減数分裂期キネシンHSETは、現在、細胞の生存能力の阻害につながるHSETの阻害と共に、特定の過剰な中心体を含む癌細胞の生存能力に必須であることが分かっている(特に、本明細書の実施例6および8を参照)。したがって、マイナス端方向性モーターHSETが、過剰な中心体をクラスター形成するのに必須であるという本明細書に説明する知見は、新たな治療戦略(中心体クラスター形成を阻害し、かつ多極分裂を促進して、複数の中心体を含む細胞を高比率で有する腫瘍において死を選択的に誘導する)を提供する。本発明は、HSET等の減数分裂期キネシンの活性を調節する薬剤を同定する検査法、ならびに減数分裂期キネシン活性に関連する疾患または障害を治療する方法、および減数分裂期キネシン阻害剤による治療のための対象を選択する方法を提供する。
【0018】
本発明がより容易に理解され得るように、まず特定の用語を定義する。
【0019】
「キネシン」という用語は、ATPの加水分解によって、微小管に沿って移動することが可能な真核細胞内に認められるモータータンパク質群を指す。「減数分裂期キネシン」という用語は、減数分裂の細胞機能に関与し、かつそれに必要とされるキネシンを指す。
【0020】
「キネシン−14ファミリーメンバー」という用語は、キネシン−14ファミリーのメンバーであり、そのファミリーが他のキネシンタンパク質とは異なる共通のC末端モータードメインを共有する、キネシンを指す。該キネシン−14ファミリーは、当該技術分野において、C末端キネシンとしても周知である。キネシン−14ファミリーメンバーの非制限的な例としては、ヒト(Homo sapiens)タンパク質HSET、CHO2、KIFC2、およびKIFC3、マウス(Mus musculus)タンパク質HSETおよびKIFC2、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)タンパク質Ncd、ならびにサッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)タンパク質Kar3が挙げられる。
【0021】
「HSET」という用語は、当該技術分野においてKIFC1(キネシンファミリーメンバーC1)としても周知のキネシン−14ファミリーメンバーを指す。ヒトHSETのmRNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、Genbank受託番号NM_002263およびNP_002254で入手可能である。マウスHSETのmRNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、Genbank受託番号NM_053173およびNP_444403で入手可能である。ヒトHSET配列は、例えば、保存された変異または非保存領域における変異を有することによって、Genbank受託番号NP_002254のヒトHSETとは異なり得、HSETは、Genbank受託番号NP_002254のヒトHSETと実質的に同一の生物学的機能を有する。特定のヒトHSET配列は、一般的には、アミノ酸配列において、Genbank受託番号NP_002254等のヒトHSETと少なくとも90%同一であり得、他の種(例えば、ネズミ)のHSETアミノ酸配列と比較した場合に、ヒトであるとしてアミノ酸配列を同定するアミノ酸残基を含む。特定の場合において、ヒトHSETは、アミノ酸配列において、Genbank受託番号NP_002254等のヒトHSETと少なくとも95%、さらに少なくとも96%、97%、98%、または99%同一であり得る。特定の実施形態において、ヒトHSET配列は、10個を超えないアミノ酸が、Genbank受託番号NP_002254等のヒトHSET配列と異なることを示すと考えられる。特定の実施形態において、ヒトHSETは、5個を超えない、またはさらに4個、3個、2個、もしくは1個を超えないアミノ酸が、Genbank受託番号NP_002254等のヒトHSET配列と異なることを示し得る。
【0022】
「減数分裂期キネシンに関連した疾患または障害」という用語は、その発症が、減数分裂において機能することが周知であるキネシンの活性を必要とする、疾患または障害を指すことを意図する。
【0023】
「常染色体疾患または障害」という用語は、その発症が非性染色体に関連する、疾患または障害を指すことを意図する。
【0024】
「中心体疾患または障害」という用語は、その発症が中心体の数または活性の変化に関連する、疾患または障害を指すことを意図する。
【0025】
「過剰な中心体」という用語は、細胞内の通常または規定数以上の中心体、典型的には、細胞内の通常数である2つよりも多い中心体を指すことを意図する。
【0026】
「細胞増殖性疾患または障害」という用語は、その発症が、変化した細胞増殖または異常な細胞増殖に関連する、疾患または障害を指すことを意図する。
【0027】
本明細書に使用される、HSET等の減数分裂期キネシンの「活性を阻害する」薬剤または化合物は、阻害が部分的または完全であってもよい、減数分裂期キネシンの活性を減少するか、または低減するか、もしくは低下させる、薬剤または化合物を指すことを意図し、かかる「活性」は、例えば、細胞内のキネシンをコードするmRNAの発現、細胞内のキネシンのタンパク質レベルの発現、またはキネシンの酵素活性もしくは他の生物学的活性の発現であってもよく、かかる酵素活性および他の生物学的活性の例としては、ATPアーゼ活性および微小管結合活性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
「薬剤」という用語は、任意の物質、分子、要素、化合物、実体、またはこれらの組み合わせを含む。これは、例えば、タンパク質、オリゴペプチド、有機小分子、ポリサッカリド、ポリヌクレオチド等を含むが、これらに限定されない。これは、天然生成物、合成化合物、もしくは化合物、または2つ以上の物質の組み合わせであってもよい。特に規定がないかぎり、「薬剤」、「物質」、および「化合物」という用語は、互換的に使用することができる。
【0029】
本明細書に使用される、「アンチセンス」核酸は、タンパク質をコードする「センス」核酸に相補的、例えば、二重鎖cDNA分子のコード鎖に相補的、mRNA配列に相補的、または遺伝子のコード鎖に相補的であるヌクレオチド配列を含む。したがって、アンチセンス核酸は、センス核酸に水素結合することができる。
【0030】
本明細書に使用される、「RNAi薬剤」は、RNA干渉を媒介する、核酸分子等の薬剤を指す。RNA干渉(RNAi)は、二重鎖RNA(dsRNA)を使用して、dsRNAと同一の配列を含むメッセンジャーRNA(mRNA)を分解する、転写後標的遺伝子サイレンシング技術である(例えば、Sharp,P.A.and Zamore,P.D.(2000)Science 287:2431−2432、Zamore,P.D.,et al.(2000)Cell 101:25−33、Tuschl,T.et al.(1999)Genes Dev.13:3191−3197、Cottrell T.R.,and Doering T.L.(2003)Trends Microbiol.11:37−43、Bushman F.(2003)Mol Therapy :9−10、McManus M.T.and Sharp P.A.(2002)Nat Rev Genet.:737−47を参照)。該プロセスは、内因性リボヌクレアーゼが、より長いdsRNAを、低分子干渉RNAまたはsiRNAと呼ばれる、より短い、例えば、21または22ヌクレオチド長のRNAへと開裂するときに生じる。次いで、より小さいRNA断片は、標的mRNAの分解を媒介する。siRNAの合成のためのキットは、例えば、New England Biolabs、Dharmacon、またはAmbionから市販されている。したがって、一実施形態において、「RNAi薬剤」は、siRNA分子である核酸分子である。RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするのに使用することができる核酸分子の他の例としては、短ヘアピンRNA(shRNA)およびミクロRNA(miRNA)が挙げられる。したがって、「RNAi薬剤」という用語は、RNA干渉によって遺伝子発現をサイレンシングするのに使用することができる、shRNA、miRNA等の分子を含むことも意図する。
【0031】
本明細書に使用される、「対象」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」という用語は、すべての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等の哺乳類および非哺乳類を含む。
【0032】
疾患または障害を治療する方法
一態様において、本発明は、疾患または障害を治療する方法に関連する。具体的には、本発明は、減数分裂期キネシンに関連した疾患または障害を治療する方法を提供する。該方法は、疾患または障害の治療が達成されるように、その治療を必要とする対象に、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤を投与することを含む。
【0033】
好ましくは、該疾患または障害は、常染色体疾患または障害である。より好ましくは、該疾患または障害は、中心体疾患または障害である。さらに好ましくは、該疾患または障害は、細胞増殖性疾患または障害である。最も好ましくは、該疾患または障害は、癌、腫瘍、または他の悪性腫瘍である。好ましくは、癌、腫瘍、または他の悪性腫瘍は、癌、腫瘍、または悪性細胞が、過剰な中心体を含むものである。より好ましくは、少なくとも50%の癌、腫瘍、または悪性細胞が、過剰な中心体を含み、さらに好ましくは、少なくとも75%の癌、腫瘍、または悪性細胞が、過剰な中心体を含み、さらに好ましくは、少なくとも90%の癌、腫瘍、または悪性細胞が、過剰な中心体を含む。本発明の方法に従い治療することができる癌の非制限的な例としては、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌、脳癌、胃癌、腎臓癌、肝臓癌、骨癌、皮膚癌、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、および黒色腫が挙げられる。
【0034】
過剰な中心体の蓄積に関連する他の疾患または障害としては、HPVに関連した子宮頸部新生物を含む、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が挙げられる(例えば、Duensing,S.and Munger,K.(2002)Oncogene 21:6241−6248を参照)。
【0035】
好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーメンバーである。さらに好ましくは、減数分裂期キネシンは、HSETである。
【0036】
減数分裂期キネシン、例えば、HSETの活性を阻害し、対象に使用するのに好適である、任意の薬剤は、本発明の治療方法に使用することができる。好ましい実施形態において、該薬剤は、siRNA等のRNAi薬剤である。実施例6および8に詳細に説明するとおり、ヒトHSETのsiRNA阻害剤は、様々な異なる癌細胞株の生存能力を減少させることを示した。ヒトHSETのsiRNA阻害剤として機能することができる核酸分子の非制限的な例としては、配列番号1〜4で示すオリゴヌクレオチドが挙げられる。減数分裂期キネシン、例えば、HSETの活性を阻害するために使用することができる他の薬剤としては、アンチセンス分子および小分子阻害剤(例えば、有機小分子)が挙げられるが、これらに限定されない。かかる薬剤は、例えば、本明細書に詳細に説明するHSET阻害剤のためのスクリーニング分析を使用して同定することができる。一実施形態において、該薬剤は、キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、キネシンの微小管結合活性を阻害する。
【0037】
本発明の薬剤は、典型的には、医薬組成物内で対象に投与される。投与は、所望の治療を達成するのに好適な任意の経路による。例えば、一実施形態において、該薬剤は、経口的に投与される。別の実施形態において、該薬剤は、非経口的に投与される。
【0038】
該医薬組成物は、典型的には、医薬的に許容される担体と共に調剤される薬剤を含む。医薬組成物は、併用療法において、すなわち、他の薬剤と組み合わせて投与することができる。本明細書に使用される、「医薬的に許容される担体」は、生理学的に適合性である、いずれかおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。好ましくは、該担体は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、または表皮投与(例えば、注入または点滴)に好適である。投与の経路によって、活性剤は、薬剤を、酸の作用および薬剤を非活性化し得る他の自然条件から保護するために材料でコーティングし得る。
【0039】
該医薬組成物は、1つもしくは複数の医薬的に許容される塩を含み得る。「医薬的に許容される塩」は、親化合物の所望の生物活性を保持し、いかなる望ましくない毒性効果も与えない塩を指す(例えば、Berge,S.M.et al.(1977) J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)。かかる塩の例としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等の非毒性無機酸、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニルで置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等の非毒性有機酸から誘導されるものが挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、ならびにN,N′−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等の非毒性有機アミンから誘導されるものが挙げられる。
【0040】
医薬組成物は、医薬的に許容される抗酸化剤も含み得る。医薬的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等の油溶性抗酸化剤、および(3)クエン酸、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等の金属キレート剤が挙げられる。
【0041】
該医薬組成物に使用し得る好適な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびこれらの好適な混合物、オリーブ油等の植物油、ならびにオイレン酸エチル等の注入可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング剤の使用、分散の場合に必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0042】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤等の補助物質も含み得る。微生物の存在の阻止は、上記の殺菌処理、ならびに様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等の封入の両方によって保証し得る。糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物内に含むことも望まれ得る。また、注入可能な医薬形態の持続的吸収は、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチン等の、吸収を遅延する薬剤の封入によって引き起こされ得る。
【0043】
医薬的に許容される担体は、注入可能な滅菌溶液または分散液の即時調製のための、滅菌水溶液または分散液、および滅菌粉末を含む。医薬的活性物質のためのかかる媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が活性化合物に不適合である場合を除き、本開示の医薬組成物におけるその使用が企図される。補助的活性化合物は、組成物内に組み込むこともできる。
【0044】
治療組成物は、典型的には、製造および保管の条件下で滅菌かつ安定化されなければならない。該組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬物濃度に好適な他の規則構造として調剤することができる。該担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)およびこれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用、分散の場合に必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合において、等張剤、例えば、糖、マンニトール等のポリアルコール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物内に含むことが好ましいと考えられる。注入可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延する薬剤、例えば、モノステアレート塩およびゼラチンを組成物内に含むことによって引き起こすことができる。
【0045】
注入可能な滅菌溶液は、必要に応じて、上記に列挙した成分のうちの1つまたはこれらの組み合わせを有する適切な溶媒中に、必要量の活性化合物を組み込むことによって調製することができ、次いで滅菌精密ろ過を行なう。一般的には、分散液は、上記に列挙したものからの塩基分散媒および必要とされる他の成分を含む滅菌媒体内に、活性化合物を組み込むことによって調製される。注入可能な滅菌溶液の調製のための滅菌粉末の場合において、好ましい調製方法は、活性成分の粉末および任意の付加的な所望の材料が、事前に滅菌ろ過されたその溶液から得られる、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)である。
【0046】
単回投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療される対象、および特定の投与方法によって異なると考えられる。単回投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般的に、治療効果をもたらす組成物の量と考えられる。この量は、医薬的に許容される担体と組み合わせた場合に、一般的に、100パーセントのうち、約0.01パーセント〜約99パーセントの範囲の活性成分、好ましくは、約0.1パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは、約1パーセント〜約30パーセントの範囲の活性成分であると考えられる。
【0047】
投薬計画は、最適な所望の反応(例えば、治療反応)を提供するように調整される。例えば、治療状況の危急性が示すとおり、単回ボーラスを投与し得るか、いくつかの分割された用量を経時的に投与し得るか、あるいは用量を比例的に減少または増加し得る。容易な投与および投薬の均一性のために、非経口組成物を投薬単位に製剤化することが特に有益である。本明細書に使用される投薬単位は、治療される対象への単位投薬として適した物理的に不連続な単位を指し、それぞれの単位は、必要とされる医薬担体に付随する所望の治療効果をもたらすように計算された、所定量の活性化合物を含む。本開示の投薬単位形態の仕様は、(a)活性化合物の特有の特徴および達成される特定の治療効果、および(b)当該技術に固有の、個人の感受性を処置するためのそのような活性化合物を配合する限界度によって特定付けられ、かつそれに直接左右される。
【0048】
医薬組成物内の活性成分の実際の投薬レベルは、特定の患者に有害でないように、該患者、組成物、および投与方法において、所望の治療反応を達成するのに効果的な量の活性成分を得るように変化し得る。選択された投薬レベルは、使用される本開示の特定の組成物の活性、またはそのエステル、塩もしくはアミドを含む様々な薬物動態要因、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排せつ率、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態、および以前の病歴、ならびに医学分野において既知の類似要因に左右されると考えられる。
【0049】
医薬組成物は、当該技術分野において周知の様々な方法の1つもしくは複数を使用して、1つもしくは複数の投与経路を介して投与することができる。当業者に理解されるように、該投与経路および/または方法は、所望の結果によって異なると考えられる。好ましい投与経路としては、経口、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄、または例えば、注入または点滴による他の非経口投与経路が挙げられる。本明細書に使用される「非経口投与」という用語は、腸内投与および局所的な投与以外の、通常は注入による投与方法を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節包内、眼窩内、心腔内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外、および胸骨内の注入および点滴が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
該活性化合物は、放出制御製剤等の、急速な放出に対して該化合物を保護する担体と共に調製することができ、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムを含む。エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤の調製のための多くの方法は、特許取得済みであるか、または当業者に一般的に周知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照。
【0051】
治療組成物は、当該技術分野に周知の医療デバイスを用いて投与することができる。例えば、治療組成物は、米国特許第5,399,163号、5,383,851号、5,312,335号、5,064,413号、4,941,880号、4,790,824号、または4,596,556号に開示されるデバイス等の、針のない皮下注入デバイスを用いて投与することができる。本開示に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例としては、制御された速度で、薬物を投与するための移植可能な微量点滴ポンプを開示する、米国特許第4,487,603号、皮膚を介して薬物を投与するための治療デバイスを開示する、米国特許第4,486,194号、正確な点滴速度で薬物を送達するための薬物点滴ポンプを開示する、米国特許第4,447,233号、連続的薬物送達のための変流量の移植可能な点滴装置を開示する、米国特許第4,447,224号、複数のチャンバコンパートメントを有する浸透圧薬物送達システムを開示する、米国特許第4,439,196号、および浸透圧薬物送達システムを開示する、米国特許第4,475,196号が挙げられる。これらの特許は、参照により、本明細書に組み込まれる。多くの他のかかるインプラント、送達システム、およびモジュールは、当業者に周知である。
【0052】
特定の実施形態において、該医薬組成物は、生体内の適切な分布を保証するように調剤することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高親水性化合物を遮断する。該治療薬剤が、(必要に応じて)BBBを横断するのを保証するために、これは、例えば、リポソーム内に調剤することができる。リポソームを製造する方法については、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号、および第5,399,331号を参照されたい。これらのリポソームは、特定の細胞または臓器内に選択的に輸送され、したがって、標的の薬物送達を強化させる、1つもしくは複数の部分を含む(例えば、V.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照)。例示的な標的部分は、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらの米国特許第5,416,016号を参照)、マンノシド(Umezawa et al、(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038)、抗体(P.G.Bloeman et al.(1995)FEBS Lett.357:140、M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180)、サーファクタントタンパク質A受容体(Briscoe et al.(1995)Am.J.Physiol.1233:134)、p120(Schreier et al.(1994)J.Biol.Chem.269:9090)を含む。K.Keinanen、M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123、J.J.Killion、I.J.Fidler(1994)Immunomethods :273も参照されたい。
【0053】
細胞成長または増殖の阻害
別の態様において、本発明は、細胞成長を阻害する方法に関連する。例えば、本発明は、細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する腫瘍細胞の成長を阻害する方法を提供し、該方法は、該腫瘍細胞の成長が阻害されるように、該腫瘍細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤と接触させることを含む。好ましくは、該腫瘍細胞は、過剰な中心体を含む。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。上記にさらに詳細に説明したとおり、該薬剤は、例えば、RNAi薬剤、アンチセンス分子、または小分子であってもよい。一実施形態において、該薬剤は、キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、該キネシンの微小管結合活性を阻害する。
【0054】
例えば、該薬剤とともに該腫瘍細胞を培養することによって、該腫瘍細胞を該薬剤と接触させることができる。さらに、または、あるいは、該腫瘍細胞を含む腫瘍内に薬剤を直接注入することによって、腫瘍細胞を薬剤と接触させることができる。さらに、または、あるいは、該腫瘍細胞を含む腫瘍を有する対象に該薬剤を投与することによって、該腫瘍細胞を該薬剤と接触させることができる。
【0055】
別の態様において、本発明は、細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する細胞の増殖を阻害する方法を提供し、該方法は、細胞増殖の阻害が達成されるように、細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤と接触させることを含む。好ましくは、該細胞は、過剰な中心体を含む。好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーメンバーであり、最も好ましくは、HSETである。上記にさらに詳細に説明したとおり、該薬剤は、例えば、RNAi薬剤、アンチセンス分子、または小分子であってもよい。一実施形態において、該薬剤は、該キネシンのATPアーゼ活性を阻害する。別の実施形態において、該薬剤は、該キネシンの微小管結合活性を阻害する。
【0056】
例えば、該薬剤とともに該細胞を培養することによって、該細胞を該薬剤と接触させることができる。さらに、または、あるいは、該細胞を含む腫瘍内に該薬剤を直接注入することによって、該細胞を該薬剤と接触させることができる。さらに、または、あるいは、該細胞を有する対象に該薬剤を投与することによって、該細胞を該薬剤と接触させることができる。
【0057】
スクリーニング方法
別の態様において、本発明は、HSET等の減数分裂期キネシンの活性を阻害する化合物を同定する方法に関連する。例えば、本発明は、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物を同定する方法を提供し、該方法は、
減数分裂期キネシンHSETを含む指標組成物を提供することと、
該指標組成物を試験化合物と接触させることと、
該試験化合物の存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性を判定することと
を含み、該試験化合物の非存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性と比較した、該試験化合物の存在下における減数分裂期キネシンHSETの活性の減少により、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物として該試験化合物が同定される。
【0058】
該指標組成物は、例えば、HSETを含む(即ち、発現する)細胞、またはHSETを含む無細胞組成物であってもよい。該指標組成物が、HSETを含む(即ち、発現する)細胞である場合、これは、HSETを自然に発現する細胞であっても、または、HSETを発現するか、もしくは過剰発現するように、(例えば、標準的な組換えDNA技術によって)操作された細胞であってもよい。HSETを自然に発現する細胞としては、癌細胞株MDA−231、MMEDX4N、およびN1E−115、ならびに実施例に説明する他の細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。ヒトHSETを発現するように細胞株を操作するために、ヒトHSETのcDNA(Genbank受託番号NM_002263に示す配列を有する)を、標準的方法(例えば、PCR増幅)によって得、標準的組換えDNA技術を使用して、発現ベクター内に挿入し、かつ宿主細胞内にトランスフェクトすることができる。無細胞組成物内のHSETを得るために、HSETは、当該技術分野において周知の方法を使用して精製することができる。例えば、DeLuca,J.G.et al.(2001)J.Biol.Chem.276:28014−28021は、HeLa細胞からのヒトHSETの精製を説明する。抗HSET抗体は、当該技術分野において説明されており、それを使用して、標準的免疫親和性技術によってHSETを精製することができる。
【0059】
該方法の「接触させる」ステップは、例えば、HSETを含む(即ち、発現する)細胞との試験化合物のインキュベーション、またはHSETを含む無細胞組成物との試験化合物のインキュベーションを含むことができる。
【0060】
「減数分裂期キネシンHSETの活性を判定する」ステップは、1つもしくは複数の様々な可能な「読み出し」を使用して実行することができる。例えば、一実施形態において、HSETの活性は、HSETを発現する細胞内のHSETのmRNAレベルを測定することによって判定され、試験化合物は、試験化合物の非存在下におけるレベルと比較して、それがHSETのmRNAの発現レベルを減少させる場合、HSET活性の阻害剤である。ノーザンブロット分析およびPCR増幅方法を含むが、これらに限定されない、HSETのmRNAレベルを測定するための方法は、当該技術分野において十分に確立されている。別の実施形態において、HSETの活性は、HSETを発現する細胞内のHSETタンパク質レベルを測定することによって判定され、試験化合物は、試験化合物の非存在下におけるレベルと比較して、それがHSETタンパク質の発現のレベルを減少させる場合、HSET活性の阻害剤である。ウェスタンブロット分析および免疫沈降方法を含むが、これらに限定されない、HSETタンパク質レベルを測定するための方法は、当該技術分野において十分に確立されている。
【0061】
さらに他の実施形態において、HSETの活性は、HSETの1つもしくは複数の酵素活性または生物学的活性を測定することによって判定される。例えば、精製されたHSETは、タキソールで安定化された微小管を、精製されたHSETと接触させた場合に、微小管滑走をもたらすことを示している(DeLuca,J.G.et al.(2001)J.Biol.Chem.276:28014−28021を参照)。したがって、一実施形態において、試験化合物の非存在下におけるHSETで媒介された微小管滑走と比較した、HSETで媒介されたインビトロ微小管滑走への試験化合物の影響を判定し、それによって、HSET活性への試験化合物の影響を判定することができる。
【0062】
さらに、または、あるいは、HSET ATPアーゼ活性への試験化合物の影響を判定することができる。例えば、DeBonis,S.et al.(2004)Mol.Cancer Ther.:1079−1090は、有糸分裂期キネシンEg5の阻害剤を同定するために使用された、微小管活性化ATPアーゼ分析を説明する。同様に、かかる微小管活性化ATPアーゼ分析は、精製されたHSETと共に使用して、HSET ATPアーゼ活性への試験化合物の影響を判定することができる。したがって、一実施形態において、減数分裂期キネシンHSETの活性は、該キネシンのATPアーゼ活性を測定することによって判定される。
【0063】
HSET活性への試験化合物の影響を判定する上で「読み出し」として使用することができるHSETの他の生物学的活性としては、微小管結合活性および中心体クラスター形成活性が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、他の実施形態において、減数分裂期キネシンHSETの活性は、該キネシンの微小管結合活性または中心体クラスター形成活性を測定することによって判定される。
【0064】
細胞内のHSET遺伝子の過剰発現が成長停止および細胞死につながることが発見されている。したがって、本発明は、HSET誘導性成長停止および細胞死への試験化合物の影響を判定し、それによって、HSETのモジュレーター(例えば、阻害剤)を同定するための、細胞に基づく分析も提供する。一般的には、これらの分析は、(a)HSET遺伝子が該指標細胞内で発現する条件下において、プロモーターに機能的に連結されたHSET遺伝子を含む組換え発現ベクターを含む指標細胞を提供することと、(b)該指標細胞を、試験化合物と接触させることと、(c)HSET誘導性成長停止および細胞死に対する該試験化合物の影響を判定することとを含み、該試験化合物の非存在下におけるHSET誘導性成長停止および細胞死と比較した、該試験化合物の存在下におけるHSET誘導性成長停止および細胞死の減衰によって、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物として該試験化合物が同定される。一実施形態において、該プロモーターは、誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターシステムを理解する任意の技術分野が考慮され、これにはエクジソン誘導性システムが挙げられるが、それに限定されない(例えば、Wakita et al.,2001,Biotechniques 31:414を参照)。細胞増殖および細胞生存能力を測定する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Wilson,A.P.,Cytotoxicity and Viability Assays in Animal Cell Culture:A Practical Approach,3rd ed.(ed.Masters,J.R.W.)Oxford University Press:Oxford 2000,Vol.1、およびMosmann,T.,Rapid Colorimetric Assay for Cellular Growth and Survival:Application to Proliferation and Cytotoxicity Assays.J.Immunol.Meth.1983,65,55−63を参照)。
【0065】
好ましい実施形態において、化合物のライブラリを、本発明のスクリーニング分析においてスクリーニングし、HSETの活性を阻害する能力を呈する該ライブラリ内の化合物を同定する。したがって、好ましい実施形態においては、上述の指標組成物を、試験化合物のそれぞれのメンバーと接触させ、ライブラリ内の、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する1つもしくは複数の試験化合物を選択する。
【0066】
さらに別の態様において、本発明は、本発明のスクリーニング方法によって同定された、単離された化合物に関係する。
【0067】
対象を選択する方法
別の態様において、本発明は、HSET等の減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のための対象を選択する方法に関係する。本明細書に示すとおり、HSET活性の阻害により、過剰な中心体を含む癌細胞等の細胞の生存能力が選択的に減少される。したがって、過剰な中心体を有する細胞を含む腫瘍を有する対象は、HSET等の減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のための、特定の関心対象である。したがって、別の態様において、本発明は、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のために、腫瘍を有する対象を選択する方法を提供し、該方法は、(i)対象から腫瘍細胞試料を得ることと、(ii)該腫瘍細胞試料内の中心体の数を判定することとを含み、該腫瘍細胞試料内の過剰な中心体の存在により、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のための対象が選択される。細胞内の中心体の数を決定するための方法は、当該技術分野において周知であり、この対象選択方法に適用することができる。例えば、中心体は、抗γ−チューブリン抗体および蛍光標識された二次抗体を使用して蛍光染色され、その後免疫蛍光撮像し、細胞当たりの中心体の数を定量することができる(実施例にさらに説明する)。
【0068】
好ましくは、減数分裂期キネシンは、キネシン−14ファミリーメンバーであり、より好ましくは、HSETである。好ましくは、該腫瘍細胞試料内の少なくとも50%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む。より好ましくは、該腫瘍細胞試料内の少なくとも75%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む。さらにより好ましくは、該腫瘍細胞試料内の少なくとも90%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む。
【0069】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明するが、これは、さらなる限定であると解釈してはならない。本願に引用した、すべての参考文献、Genbank登録、特許および公開特許明細書は、参照により、その全体として本明細書に明確に組み込まれる。
【実施例】
【0070】
実施例1:減数分裂期キネシンに関連する疾患または障害の治療のための治療標的の同定
本実施例において、RNAiスクリーニングを使用して、過剰な中心体をクラスター形成するのに必要とされる分子経路を包括的に画定した。特徴付けられた8つのショウジョウバエ細胞株のうち、ほぼ4倍体のS2細胞が、スクリーニングに最も適し、これは、細胞の50%超が、有糸分裂中に2つの極に有効にクラスター形成される過剰な中心体を含むためであった。ゲノム全体でのスクリーニングのスキームを図1に図示し、これは、一次および二次スクリーニングのための詳細な手順を提供する。
【0071】
ショウジョウバエゲノムの約99%(約14,000個の遺伝子)を標的とする23,172個のdsRNAをスクリーニングして、S2細胞内において、そのノックダウンが多極性紡錘体(中心体のクラスター分離)につながる遺伝子を同定した。S2細胞を、4日間、dsRNAに曝露させ、有糸分裂像を、RNAi処理の最後の9時間の間、プロテアソーム阻害剤MG132を用いた処理によって強化させた。細胞をDNA、微小管(MT)、および中心体について染色し、画像を、ハイスループット自動顕微鏡を使用して、20倍対物レンズで得た。
【0072】
より具体的には、S2細胞を、0.25μgのdsRNA(dsRNAは、Drosophila RNAi Screening Center,DRSC,http://flyrnai.orgで入手可能である)を事前に播いた384ウェルプレート内の無血清のシュナイダー培地において、1×10個の細胞/ウェルの密度で播いた。細胞を、室温(RT)で、40分間、無血清培地内でdsRNAとともにインキュベートし、次いで血清含有培地を添加し、タンパク質の喪失を可能にするように、3.5日間インキュベートした。中期−後期移行を阻止するために、該RNAi処理(3.5日間、RNAiで処理された細胞)の最後に、25μMのMG132、プロテオソーム阻害剤を添加し、さらに9時間インキュベートした(合計、約4日間のRNAiインキュベーション)。有糸分裂細胞の付着を促進するために、RNAiで処理された細胞を再懸濁し、コンカナバリンA(Con−A、0.25mg/ml)で事前にコーティングされた新たな384ウェルプレートに移し、これらのプレートを、1分間、1,000rpmで回転させた。細胞を、PBS(pH7.2)中の4%のパラホルムアルデヒド(PFA)内で固定し、PBS−トリトン0.01%(PBST)で透過処理し、PBST中の0.5%のSDSでインキュベートし、免疫染色に進むまで、4℃でPBST中に維持した。
【0073】
一次スクリーニングでは、該固定細胞を、MTおよび中心体について、それぞれFITC抗α−チューブリン(DMlA、1:300、Sigma)抗体およびマウス抗γ−チューブリン(GTU88、1:500)抗体を用いて染色した。Alexa Fluor568または594ロバ抗マウスIgGを、二次抗体(1:1000)として使用した。細胞を、DNAについて、PBST中のHoechst33342(1:5000、Invitrogen)を用いて染色し、4℃の同一溶液中で保存した。
【0074】
一次スクリーニングでは、細胞を、ImageXpress Micro(Molecular Devices、ICCB、倒立完全自動落射蛍光顕微鏡、レーザー自動焦点、測光CoolSNAP ESデジタルCCDカメラ装備、分析用MetaXpress)、または20倍空気対物レンズを使用した、Discovery−1(Molecular Devices、DRSC、自動フィルターおよびダイクロイックホイール、ならびに6個の対物レンズのターレット、高速レーザー自動焦点、ならびに複数のウェルプレートにおいて、1回の分析当たり最大8個の蛍光色素分子を測定可能)のうちのいずれか一方の自動顕微鏡を使用して、撮像した。自動焦点を、FITC(MT)上で実施し、画像を、3つのチャネル(Hoechst、Cy3、およびFITC)について単一焦点面から得た。
【0075】
二次スクリーニングは、96ウェルプレート(5×10個の細胞/ウェルに、1μgのdsRNA/ウェル)内で実施し、一次スクリーニングとほぼ同一の方法に従った。RNAiの最後に、細胞を、高分解能撮像のために、96ウェルガラス底プレート(Whatman)に移した。細胞を、有糸分裂細胞を同定するために、抗ウサギリン酸ヒストンH3およびAlexa Fluor660ロバ抗ウサギIgGを使用してさらに染色した。すべての中心体の撮像を保証するために、Zeiss Axiovert顕微鏡および1μmのステップサイズを有する40倍空気ELWD対物レンズ(Zeiss)を使用した、Slidebrookソフトウエア(Intelligent Imaging Inovations,Denver,CO)を用いて3D画像を撮影した。Zスタックの高さ(開始点および終了点)を、すべての701RNAi条件のために手動で調整した。
【0076】
約96,000個の画像の目視検査によって、それぞれのRNAi条件に対する多極性紡錘体の割合を記録した。スクリーニング結果を、以下の表1にまとめる。
【0077】
(表1)S2細胞におけるRNAiスクリーニング結果のまとめ

【0078】
95%の信頼区間を使用して、一次スクリーニングは、多極性紡錘体表現型に関連する701個の候補を同定した。表現型の強度、容易に同定可能な哺乳類ホモログの存在、およびわずかであるか、または全くない予想されたオフターゲット効果に基づくさらなる研究のために、292個の遺伝子を初期コホートとして選択した。また、紡錘体多極性が細胞質分裂不全の二次効果である場合があるため(Goshima,G.et al.(2007)Science 316:417−421)、以前、ショウジョウバエ細胞における細胞質分裂に必要であると判定された遺伝子の殆どを除外した(Echard,A.et al.(2004)Curr Biol 14:1685−1693、Eggert,U.S.et al.(2004)PLoS Biol :e379)。二次スクリーニングのために選択された292個の遺伝子のうち、133個は、中心体クラスター形成における真の役割を有することが確認された。確認された遺伝子の中で、同定された遺伝子の62%(133個の遺伝子のうち83個)は、哺乳類ホモログを有する一方、該遺伝子の33%(44個)は、周知の機能を有さない。中心体クラスター形成は、異なる効率で生じることができる。欠損の以下の分類を区別した:紡錘体周辺に散在した複数の中心体を有する二極性紡錘体、小さな多星状体の紡錘体、および大きな多極性紡錘体。
【0079】
該スクリーニングは、過剰な中心体の組織化を制御する機構における理解されていない複雑性を示唆する多様な範囲の細胞プロセスに関与する、紡錘体MTの束化を促進するいくつかの遺伝子、例えば、マイナス端方向性キネシンNcd(ヒトHSET)を含む遺伝子を同定した。該スクリーニングは、予想外のプロセスにおける遺伝子も同定した。SAC、アクチン、細胞極性および細胞接着に必要とされる遺伝子の発見により、多極性有糸分裂を抑制する機構が示唆された。以下に、多極性有糸分裂を抑制する3つの重複機構(SACを使用するタイミング機構、MT制御因子に依存する固有の極クラスター形成機構、ならびにアクチンおよび細胞接着を必要とする新規機構)を定義する実験を表す。
【0080】
実施例2:紡錘体形成チェックポイント(SAC)は、多極性有糸分裂を阻止する
SAC構成要素であるMad2、BubR1(ヒトBub1)およびCENP−Meta(ヒトCENP−E)は、中心体クラスター形成に必要である。図2は、Mad2が中心体クラスター形成に必要であることを図示する。中心体クラスター形成の欠損は、EGFP、Mad2のRNAiのみ、および7時間のMG132の処理を加えたEGFPまたはMad2のRNAiの際に、S2細胞内で記録した。図2のグラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±Sd、*p<0.05、***p<0.001、スチューデントのt検定)。
【0081】
図2に示す結果は、中心体クラスター形成のプロセスにおけるSACが果たす役割を示す。この必要条件は、MG132による処理が施されていない細胞において、さらにより明らかであり、これは、スクリーニングに使用されたMG132による短期処理により、紡錘体多極性へのSAC遺伝子RNAiの影響が部分的に遮蔽されたことを示す。該SACが多極性紡錘体または複数の中心体によって活性化されないことを示唆する、PtK1細胞における以前の研究を考慮すると、この知見は若干意外であった(Sluder,G.et al.(1997)J Cell Sci 110(Pt4);421−429)。
【0082】
低速度撮影の撮像は、多極性有糸分裂を阻止する上でのSACが果たす役割を支持した。中心小体およびMTが、GFP−SAS−6およびmCherryα−チューブリンで標識されているS2細胞において、中心体の増加数と、二極性紡錘体を形成するのに必要な延長された時間(2.7倍)との間の明確な相関関係が存在した。NEBDと後期開始との間の間隔を、2つまたは2つより多い中心体を有する細胞と比較して、測定した(GFP−Cid、Drosophila CENP−Aを用いて目視化)。2つの中心体を有する細胞に対して、複数の中心体を有する細胞は、後期開始において、著しい遅延を呈した(1.8倍)。その上、後期開始における該遅延は、Mad2RNAiによって消滅し、これらの細胞は、クラスター分離した中心体および不整列の動原体を伴って後期に突入した。SAC活性化をさらに示唆する、多極性後期前紡錘体は、二極性中期紡錘体に対して、BubRl集束(foci)の数において、大きな増加を有した。最後に、多極性有糸分裂を阻止するためのSACの必要条件は、MG132を用いた処理によって与えられた人工的な中期遅延によって、部分的に抑制することができる。これは、SACが多極性有糸分裂自体を監視しないことを示唆するのではなく、むしろ、異常な動原体付着または張力によって恐らく引き起こされるSAC活性化が、代償機構に対し複数の中心体を組織化するのに十分な時間を提供することを示唆する。
【0083】
実施例3:紡錘体固有の極クラスター形成力は、多極性有糸分裂を阻止する
S2細胞における以前の研究は、紡錘体極集束におけるMTモーターおよびMAPが果たす重要な役割を示した(Goshima,G.et al.(2005)J Cell Biol 171:229−240、Morales−Mulia,S.and Scholey,J.M.(2005)Mol Biol Cell 16:3176−3186)。実施例2 1に説明したスクリーニングは、一次スクリーニングにおける最大の的中として、Ncd、キネシン−14ファミリーメンバーを同定した。Ncdは、紡錘体極においてMTを束化する、マイナス端方向性モーターである(Karabay,A.and Walker,R.A.(1999)Biochemistry 38:1838−1849)。GFP−SAS−6標識によって、Ncdが複数の中心体をクラスター形成するのに必要であることが示された。ショウジョウバエダイニンは、該スクリーニングにおいて同定されなかった。これは、ダイニンの欠乏が中心体付着および紡錘体極の強い集束に影響を及ぼすにもかかわらず、S2細胞において、ダイニンの欠乏が多極性有糸分裂を有意には誘導しないためであると予想される(Goshima,G.et al.(2005)J Cell Biol 171:229−240)。該スクリーニングのさらなる検証から、極集束におけるMAP Aspの役割を確認した(Morales−Mulia,S.and Scholey,J.M.(2005)Mol Biol Cell 16:3176−3186、Wakefield,J.G.et al.(2001)J Cell Biol 153:637−648)。
【0084】
また、該スクリーニングは、紡錘体MTの固有の凝集性に寄与する様々な他の因子を同定した。中心体クラスター形成におけるBj1/RCC1(RanGEF)の必要条件が同定され、哺乳類細胞における多極性有糸分裂を阻止する上でのその役割と一致した(Chen,T.et al.(2007)Nat Cell Biol :596−603)。ADPリボシル化因子である、タンキラーゼおよびCG15925、推定ヒトPARP−16ホモログが果たす役割も同定された(Schreiber,V.et al.(2006)Nat Rev Mol Cell Biol :517−528)。タンキラーゼによるADPリボシル化は、MTモーターおよび他の紡錘体タンパク質を固定し得る静止マトリクスを提供することによって、紡錘体二極性に寄与すると考えられる(Chang,P.et al.(2005)Nat Cell Biol :1133−1139)。有糸分裂におけるPARP−16が果たす役割は、以前に説明されていない。
【0085】
実施例4:アクチン依存力は、紡錘体多極性を制御する
紡錘体MTの束化および組織化に寄与する可能性の高い遺伝子の他に、予期せずに、ホルミンForm3/INF2等のアクチン細胞骨格の組織化および制御に関与する遺伝子も同定した(Chhabra,E.S.and Higgs,H.N.(2006)J Biol Chem 281:26754−26767)。これらの遺伝子のノックダウンは、細胞質分裂不全を引き起こすことによる多極性有糸分裂の間接的な誘導をもたらすものではない。アクチン細胞骨格を破壊する小分子による短時間(2時間)の処理を使用する実験は、同様に、多極性有糸分裂を誘導する。
【0086】
より具体的には、2時間、ラトランクリン(40μMのLatA)、サイトカラシンD(20μM)を用いて細胞を処理し、中心体クラスター形成の欠損の割合を決定した。結果を図3に示し、これは、S2細胞内の中心体クラスター形成のためのアクチン細胞骨格の必要条件を示す。グラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±SD、*p<0.05、**p<0.005、スチューデントのt検定)。
【0087】
さらに、S2細胞の生細胞撮像により、アクチンが複数の中心体の初期のクラスター形成に実際に必要であることが明らかになった。対照に対して(14.7±6.4分)、15個中13個のLatA処理された細胞内の中心体クラスター形成において、1.5倍の遅延があった(22.1±12.3分)。15個中残りの2個の細胞は、過剰な中心体をクラスター形成することが全くできなかった。LatA処理によって誘導された細胞周期の遅延は、LatA処理された細胞内のBubRlによる動原体の顕著な標識によって証明されるとおり、SACの活性による可能性が高い。
【0088】
次に、皮質収縮が中心体クラスター形成に必要であるかどうかを判定した。細胞膜を架橋し、それによって皮質収縮を全体的に阻害する、可溶性四価レクチンコンカナバリンA(Con−A)に、2時間、細胞を曝露させた(Canman,J.C.and Bement,W.M.(1997)J Cell Sci 110(Pt16):1907−1917)。Con−A処理後の中心体クラスター形成欠陥の割合を決定した。結果を図3にも示し、これは、Con−A処理が中心体クラスター形成欠陥を誘導したことを示す。
【0089】
さらに、ミオシンに基づく収縮性を強化させることによって、紡錘体の多極性を抑制することができることが発見された。低濃度のカリクリンA(CA)は、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)を阻害し、その分布を変化させずにミオシンII活性を促進する(Gupton,S.M.and Waterman−Storer,C.M.(2006)Cell 125:1361−1374)。CAで処理された野生型S2細胞は、中心体クラスター形成欠陥において軽度の減少を有した(15%〜9%)。また、CA処理は、NcdのRNAiによって誘導された中心体クラスター形成欠陥を部分的に回復させた。したがって、過剰な中心体を有する細胞における、アクチンおよびアクチンに基づく収縮性は、有糸分裂が二極性となるかまたは多極性となるかに影響を与える。
【0090】
アクチンおよび固有の紡錘体の力が、協力して作用して、多極性有糸分裂を阻止するかどうかも判定した。実際に、NcdまたはBj1/RCC1欠失細胞におけるLatA処理は、紡錘体の多極性における組み合わせ的な増加をもたらした。この見解をさらに評価するために、低速度撮影の回転ディスク顕微鏡を使用して、Ncd欠失S2細胞における中心体の動作の軌道を画定した。対照細胞と比較して、Ncd欠失細胞における中心体は、移動性において著しい増加を呈し、動作の速度および範囲の両方も増加した。また、中心体動作の大部分は、紡錘体から離れ、かつ細胞皮質に向かって方向付けられた。Ncd欠失細胞における中心体の移動性は、LatAへの細胞の過度の曝露によって大幅に減少し、これは、これらの皮質の牽引力に対するアクチンの必要性を示す。したがって、皮質力は、固有の紡錘体の束化力と連携して、複数の中心体を組織化する。
【0091】
これらの結果は、紡錘体の多極性を制御する皮質力ジェネレーターの性質についての手がかりも提供する。MT+チップCLIP−190およびミオシンMyo10Aが、中心体クラスター形成に重要であることが発見された。ショウジョウバエMyo10Aは、独自のMyTH4−FERMドメインを介してMTに結合することができる、ヒトMyo15のホモログである。哺乳類MyTH4−FERM含有ミオシンのメンバーである、Myo10は、紡錘体の位置付けに必要であることが分かっている(Sousa,A.D.and Cheney,R.E.(2005)Trends Cell Biol 15:533−539、Toyoshima,F.and Nishida,E.(2007)EMBO J26:1487−1498、Weber,K.L.et al.(2004)Nature 431:325−329)。他のショウジョウバエMyTH4−FERM含有ミオシンMyo7ではなく、Myo10AのRNAiは、細胞質分裂不全なく、中心体クラスター形成欠陥の2倍の増加を誘導した(Eggert,U.S.et al.(2004)PLoS Biol 2,e379)。また、Myo10Aのノックダウンは、細胞がLatAで同時に処理された場合に、紡錘体の多極性に対するさらなる効果を有さなかった。最後に、Myo10A欠失細胞の中心体の追跡により、LatA処理と同様の中心体動作に対する効果が明らかになり、Ncd欠失細胞に見られる広範囲の皮質方向性の動作と比較して、Myo10が欠失する細胞内では、中心体の無作為動作または大幅に減少された動作のみが検出された。それと共に、該データは、複数の中心体が、紡錘体に固有の力、および星状体MTに少なくとも部分的に作用するアクチン依存性皮質力によって、組合せ的に組織化されることを示す。
【0092】
実施例5:紡錘体の多極性に対する細胞の形状、細胞の極性、および接着の影響
該スクリーニングは、中心体クラスター形成のための細胞接着に関与する遺伝子である、カメ、ウニ網、Cad96Ca、CG33171、およびFit1の必要条件を同定した。タンパク質Fit1を含有するショウジョウバエFERMドメインは、高等真核動物において、細胞−マトリクス接着を制御する上で高度に保存された機能を有するように見える(Rogalski,T.M.et al.(2000)J Cell Biol 150:253−264、Tu,Y.et al.(2003)Cell 113:37−47)。該哺乳類Fit1ホモログ、Mig−2/ヒトPLEKHC1は、接着斑(FA)に局在し、かつ、インテグリンをアクチン細胞骨格に連結させることによる、インテグリン媒介細胞接着および細胞形状の調節に重要である(Tu,Y.et al.(2003)Cell 113:37−47)。未同定のCG33171タンパク質は、以前、細胞マトリクス接着の制御と結びつけられた、哺乳類Col18Aに対するホモロジーを有する(Dixelius,J.et al.(2002)Cancer Res 62:1944−1947、Wickstrom,S.A.et al.,(2004)J Biol Chem 279:20178−20185)。カメおよびウニ網含有フィブロネクチン3型ドメインは、細胞−細胞接着に関与する(Bodily,K.D.et al.(2001)J neurosci 21:3113−3125、Wei,S.Y.et al.(2005)Dev Cell :493−504)。また、後方/外側(lateral)極性遺伝子PAR−1(PAR−1/MARK/KIN1ファミリーメンバー)および頂端(apical)極性遺伝子であるCrumbsおよびCornettoを同定し、これらは、星状体MT機能、非対称的な細胞分裂、および上皮極性に重要である(Bulgheresi,S.et al.(2001)J Cell Sci 114:3655−3662、Munro,E.M.(2006)Curr Opin Cell Biol 18:86−94、Tepass,U.et al.(2001)Annu Rev Genet 35:747−784)。いくつかのこれらの遺伝子は、正常な間期細胞の形状および接着を維持するためのそれらの必要条件のために、以前に同定されている。実際、LatA処理またはMyo10喪失は、CG33171、Fit1、Crumbs、Cornetto、またはPAR−1タンパク質の喪失と組み合わされた場合、紡錘体の多極性の強化を呈さず、これは、これらの遺伝子が、アクチン細胞骨格を介した中心体クラスター形成に影響を与えることを示す。
【0093】
実施例6:多極性有糸分裂を阻止するための機構の保存
次に、S2細胞に認められるように、哺乳類の癌細胞が同様の機構を使用して、複数の中心体をクラスター形成するかどうかを判定した。これは、ヒトの癌に対するスクリーニングの妥当性を確立するものであり、かつ多極性有糸分裂に対する接着および細胞形状の影響を直接特性化することを可能にした、哺乳類の癌細胞を使用する技術のためのものである。その有効性において、いくつかの変動性が存在するが、過剰な中心体のクラスター形成は、哺乳類の細胞において共通して認められる。
【0094】
哺乳類の細胞における過度のアクチン崩壊の影響を判定するために、DMSO、LatA(5μM)、またはジヒドロサイトカラシンB(DCB)(10μM)を用いて、2時間、細胞株MCF−7、MDA−231、MMEDX 4N、およびN1E−115を処理した。MCF−7細胞株は、2つの中心体を含む一方、他の細胞株は、2つより多い中心体を含む。結果を図4に示す。グラフは、3つの独立した実験の平均を示す(平均±SD、*p<0.05、**p<0.005、***p<0.001、スチューデントのt検定)。図4に図示するとおり、過度のアクチン崩壊は、正常な中心体の数を有する細胞内ではなく、複数の中心体を含む細胞株内の多極性紡錘体の頻度において著しい増加をもたらした。これらの多極性紡錘体は、過剰な中心体のクラスター分離から生じ、中心小体の分裂/断片化によるものではなかった。アクチンは、恐らく、星状体MT上の力を介した中心体の位置付けに影響を与えると考えられる。この見解に一致して、星状体MTを選択的に分解する(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol :947−953)低用量のノコダゾール処理は、特に過剰な中心体を有する細胞内において多極性紡錘体の頻度を増加させた。
【0095】
ショウジョウバエの細胞と哺乳類の細胞との共通点は、中心体クラスター形成のための遺伝的必要条件にまで及ぶ。これをさらに調査するために、以下のとおり、哺乳類HSET(Ncdホモログ)およびMyo10遺伝子を用いてsiRNA実験を実施した。ヒトHSET、ヒトMyo10、およびマウスMyo10に対するsiRNAの4つの異なるオリゴの混合されたプール(ON−TARGETプラスおよびSMARTプール)をDharmaconから購入した。マウスHSETに対するsiRNAをAmbionから購入した。非特異的なスクランブルsiRNAを対照として使用した(Ambion)。siRNAのオリゴ配列を以下の表2に示す。
【0096】
(表2)siRNAオリゴ配列

【0097】
製造業者の説明書に従って、50nMのsiRNA最終濃度を有する、リポフェクタミンRNAiMAX(Invitrogen)を用いて、細胞をトランスフェクトした。トランスフェクト後、3日間、細胞を分析/採取した(特に規定がないかぎり)。図5および6は、MDA−231およびMCF−7細胞におけるsiRNAの3日後のHSET(図5)またはMyo10(図6)の喪失を示す、ウェスタンブロットの結果を示す。図7は、HSETまたはMyo10のsiRNAでの処理の時点で、MCF−7またはMDA−231細胞内に多極性紡錘体を有する細胞の割合を示す棒グラフである。図7に示す結果は、NcdホモログHSET(キネシン−14メンバー)およびMyo10のsiRNAが、特に、複数の中心体を含む細胞(即ち、MDA−231細胞)において、多極性の頻度を増加させたことを示す。S2細胞と同様に、Myo10で誘導された多極性は、細胞質分裂不全の結果ではない。
【0098】
最後に、皮質アクチン細胞骨格が、固有の紡錘体の極クラスター形成力とともに、中心体の組織化に影響を与えるかどうかを、アクチン崩壊剤LatAと組み合わせたHSETまたはMyo10のsiRNAの処理によって判定した。図8に示すとおり、アクチンおよびHSETの両方の崩壊は、組み合わせ効果を有し、個々の処理に対して多極性紡錘体の頻度を増加させた。Myo10のsiRNAがLatA処理と組み合わされる場合は、そのような効果は認められなかった。したがって、同様の重複機構は、哺乳類の癌細胞およびショウジョウバエS2細胞において、多極性有糸分裂を阻止する。
【0099】
実施例7:間期細胞形状、接着、および多極性有糸分裂
細胞は、有糸分裂において丸まるが、それらは、強い細胞マトリクス接着部位に連結されたアクチン含有収縮繊維(RF)を保持することによって、それらの間期形状の記憶を保護する(Mitchison,T.J.(1992)Cell Motil Cytoskeleton 22:135−151、Thery,M.and Bornens,M.(2006)Curr Opin Cell Biol 18:648−657)。アクチン含有RFの間期接着パターンおよび分布が、有糸分裂中の紡錘体の配向に大きく影響を与えることは周知である(Thery,M.et al.(2007)Nature 447:493−496、Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol :947−953)。多極性有糸分裂を阻止することには、細胞マトリクス接着遺伝子およびアクチン制御の両方が必要であるという該スクリーニングからの所見は、これらの遺伝子産物が、収縮繊維(RF)の分布および/または組成物に影響を及ぼし、したがって、皮質力制御に影響を及ぼすことによって、協力的に作用して、過剰な中心体を組織化することができるという興味深い仮説を示唆する。
【0100】
様々な一連の証拠が、この仮説を支持する。第1に、生細胞撮像を使用して、間期細胞形状を、有糸分裂中の細胞分裂のパターンと相関させた。間期において細長い、または偏極形状と仮定したMDA−231(過剰な中心体を含む乳癌細胞)は、ほぼ均一に二極性分裂を行った。対照的に、間期において円形形状と仮定したMDA−231細胞は、多極性分裂の頻度の増加を有した。第2に、4倍体細胞BSC−1の厚いRFがDIC撮像によって容易に目視化される4倍体細胞BSC−1において、該RFの位置付けと、細胞が二極性(RFの二極性分布)または多極性分裂(RFの等方性分布)を行ったかどうかとにおける強い相関関係に注目した。第3に、RFは、ERMタンパク質エズリン等の特異的タンパク質を蓄積し、それらは、皮質の不均一性に関与し、それによって、星状体MT上において局所的な力発生に関与する。srcキナーゼ阻害剤PP2によるこの皮質の不均一性の崩壊(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol 7:947−953)はまた、MCF−7細胞内ではなく、MDA−231細胞内において多極性紡錘体を誘導した。第4に、有糸分裂の効率に対する細胞マトリクス接着の役割を評価するために、細胞を、細胞マトリクス付着の強度を変化させるために、異なる濃度のフィブロネクチン(FN)に播いた。接着斑(FA)ターンオーバー(30μg/ml)を阻害するFNの濃度は、MCF−7細胞ではなく、MDA−231細胞における多極性紡錘体の頻度を増加させた。また、この影響は、皮質の収縮性を増加させることによって、FAターンオーバーを促進するCAによって、逆転することができる(Gupton,S.L.and Waterman−Storer,C.M.(2006)Cell 125:1361−1374)。
【0101】
中心体クラスター形成において、細胞接着パターンおよびRF位置付けの役割を直接試験するために、FNのマイクロ接触プリンティングを使用して、細胞接着パターンを操作した(Thery,M.et al.(2005)Nat Cell Biol:947−953)。Y型またはO型微小パターン上に播いたMDA−231細胞は、対照と比較して、多極性紡錘体の著しい(3〜4倍)増加を有した。対照的に、H型微小パターン上に播いた細胞は、対象細胞に対して多極性紡錘体の頻度を抑制した(2%、対照の半分)。したがって、接着性接触のOおよびY配列は、多極性有糸分裂に細胞を偏らせる一方、接着性接触の二極性配列(H型)は、二極性有糸分裂を促進する。これらの知見は、間期細胞接着パターン、したがって、細胞形状が、特に、過剰な中心体を含むがん細胞における有糸分裂の忠実度に著しい影響を及ぼすことができることを示す。
【0102】
実施例8:中心体クラスター形成の崩壊は、癌細胞を選択的に死滅させることができる
原則として、中心体クラスター形成の崩壊は、大半の体細胞が、有糸分裂中に2つの中心体を含むため、複数の中心体を含む癌細胞の生存能力に対し選択的な影響を有することができる。この潜在的な治療戦略の評価に向けた第1のステップとして、異なる癌細胞株の、HSETのノックダウンに対する感度を決定した。
【0103】
HSETは、それが正常な細胞の細胞分裂に必須ではなく、かつキネンシンが小分子阻害に適しているため、特に興味深い治療標的である(Mayer,T.U.et al(1999)Science 286:971−974、Mountain,V.et al.(1999)J Cell Biol 147:351−366)。siRNAによるHSETの喪失は、複数の中心体を含むヒト癌細胞内の多極性紡錘体の増加につながる(図7を参照、上記の実施例6にさらに説明されている)。中心体のクラスター分離の影響を判定するために、DIC顕微鏡を使用して、過剰な中心体を含む複数の細胞株内で細胞分裂を監視した。3つの独立したsiRNAを用いて確認された、ヒトHSETの喪失は、ほぼ100%の細胞が過剰な中心体を含むN1E−115細胞において、多極性後期の劇的な増加(88%)を誘導した(Spiegelman,B.M.et al.(1979)Cell 16:253−263)。同様の結果が、約50%の細胞が過剰な中心体を含むMDA−231細胞(HSET喪失後24%)、ならびに過剰な中心体を含む4倍体BJおよびNlH−3T3細胞を用いて得られた。対照的に、HSETノックダウンは、様々な2倍体対照細胞における細胞分裂に影響を及ぼさなかった。
【0104】
図9は、HSETのsiRNAの6日後の、細胞生存能力の損失およびN1E−115細胞のコロニー形成の阻害を図示する。図9は、トランスフェクションの6日後の3つの独立した実験からの、対照およびHSET欠失(−HSET)細胞における相対細胞数(左側のパネル)、および4つの異なる領域における2つの独立した実験からの平均コロニー数(右側のパネル、面積=10mm)を示す。siRNA処理による、6日間のN1E−115細胞からのHSETの喪失は、90%以上、細胞生存率を著しく減少させ、生存細胞の多くは、老化することが示された。
【0105】
図10は、過剰な中心体を有する細胞の分率に比例する、様々な癌細胞株におけるHSET RNAi誘導性細胞死を図示する。棒グラフは、siRNAを用いたトランスフェクションの6日後の対照およびHSET欠失(−HSET)細胞における相対細胞数を示す。2つより多い中心体を有する細胞の割合を、以下のグラフに示す。当該グラフは、3つの独立した実験の平均を示す。すべてのグラフは、平均±SD(**p<0.005、***p<0.001、スチューデントのt検定)を示す。したがって、HSET喪失は、過剰な中心体を含む細胞の分率におおよそ比例する、様々な癌細胞株における細胞死を誘導した。対照的に、大抵2つの中心体を有する細胞の生存率は、HSETの非存在下で、わずかに減少しただけであった。したがって、中心体のクラスター分離は、過剰な中心体を有する細胞において細胞死を選択的に誘導することができる。
【0106】
配列表の概要


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減数分裂期キネシン(meiotic kinesin)に関連する疾患または障害を治療する方法であって、前記疾患または障害の治療が達成されるように、その治療を必要とする対象に減数分裂期キネシンを阻害する薬剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記疾患または障害が、常染色体疾患または障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疾患または障害が、中心体疾患または障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患または障害が、細胞増殖性疾患または障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疾患または障害が、癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記減数分裂期キネシンが、キネシン−14ファミリーメンバーである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記減数分裂期キネシンが、HSETである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が、小分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤が、RNAi薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、前記キネシンのATPアーゼ活性を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、前記キネシンの微小管結合活性を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、経口的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が、非経口的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する腫瘍細胞の成長を阻害する方法であって、前記腫瘍細胞の成長が阻害されるように、前記腫瘍細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤と接触させることを含む、方法。
【請求項15】
前記腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記減数分裂期キネシンが、キネシン−14ファミリーメンバーである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記減数分裂期キネシンが、HSETである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、小分子である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤が、RNAi薬剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記薬剤が、前記キネシンのATPアーゼ活性を阻害する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記薬剤が、前記キネシンの微小管結合活性を阻害する、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記接触させることが、前記腫瘍への前記薬剤の直接注入を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
細胞増殖が減数分裂期キネシンに関連する細胞の増殖を阻害する方法であって、細胞増殖の阻害が達成されるように、前記細胞を、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤と接触させることを含む、方法。
【請求項24】
前記細胞が、過剰な中心体を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記減数分裂期キネシンが、キネシン−14ファミリーメンバーである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記減数分裂期キネシンが、HSETである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記薬剤が、小分子である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記薬剤が、RNAi薬剤である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記薬剤が、前記キネシンのATPアーゼ活性を阻害する、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記薬剤が、前記キネシンの微小管結合活性を阻害する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
減数分裂期キネシンHSETを含む指標組成物を提供することと、
前記指標組成物を試験化合物と接触させることと、
前記試験化合物の存在下における前記減数分裂期キネシンHSETの活性を判定することと
を含む、減数分裂期キネシンHSETの活性を阻害する化合物を同定するための方法であって、
前記試験化合物の非存在下における前記減数分裂期キネシンHSETの活性と比較した、前記試験化合物の存在下における前記減数分裂期キネシンHSETの活性の減少により、減数分裂期キネシンHSETの前記活性を阻害する化合物として前記試験化合物が同定される、方法。
【請求項32】
前記指標組成物を、試験化合物ライブラリのそれぞれのメンバーと接触させ、前記ライブラリ内の、前記減数分裂期キネシンHSETの前記活性を阻害する1つもしくは複数の試験化合物を選択する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記減数分裂期キネシンHSETの前記活性が、前記キネシンのATPアーゼ活性を測定することによって判定される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記減数分裂期キネシンHSETの前記活性が、前記キネシンの微小管結合活性を測定することによって判定される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記減数分裂期キネシンHSETの前記活性が、HSETのmRNAまたはタンパク質の発現を測定することによって判定される、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
請求項31に記載の方法によって同定された単離された化合物。
【請求項37】
(i)対象から腫瘍細胞試料を得ることと、(ii)前記腫瘍細胞試料内の中心体の数を決定することとを含む、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のために、腫瘍を有する対象を選択する方法であって、
前記腫瘍細胞試料内の過剰な中心体の存在により、減数分裂期キネシンを阻害する薬剤による治療のための対象が選択される、方法。
【請求項38】
前記減数分裂期キネシンが、キネシン−14ファミリーメンバーである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記減数分裂期キネシンが、HSETである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記腫瘍細胞試料内の少なくとも50%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記腫瘍細胞試料内の少なくとも75%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記腫瘍細胞試料内の少なくとも90%の腫瘍細胞が、過剰な中心体を含む、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−525174(P2011−525174A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511802(P2011−511802)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/045406
【国際公開番号】WO2009/155025
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(399052796)ディナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド (36)
【Fターム(参考)】