説明

減衰要素及び減衰装置

【課題】部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく極低温度における減衰力を適宜調整することができる減衰要素及び減衰装置を提供すること。
【解決手段】本発明による減衰要素11〜13は、流体に路長Lに対応する抵抗を付与する流路12c、11fと、流路の路長Lを温度に応じて変更する変更手段11fを備えるとともに、変更手段11fが変更手段11fを構成する材料の特性に基づいて路長Lを変更することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両に適用されて好適な減衰要素及び減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両においては路面から車輪に作用する衝撃を直接的に車体に伝達させないために、車輪を回転自在に支持するナックルと車体との間には、衝撃を緩和するための緩衝装置としてのスプリングが介装され、さらに、ナックルに衝撃が作用した後、ナックルがスプリングにより継続的に振動するエネルギーを迅速に減衰する減衰装置としてのショックアブソーバが、同様にナックルと車体との間に介装されており、これらによりサスペンション装置が構成されている。
【0003】
前者のスプリングとしては円筒状の鋼材を螺旋状に巻回したコイルスプリングや、棒状の鋼材の捩り剛性を利用するトーションバースプリングや、空気やその他の気体を封入したダイヤフラムを用いた空気バネが用いられる。後者のショックアブソーバとしては、外筒と内筒を軸方向にオーバーラップさせて設けて、外筒に固定されて内筒に挿通されるシャフトと、シャフトの外筒と反対側に設けられて内筒の内周面と摺接するピストンとをさらに備え、内筒内部のピストン上下の液室に油等の流体を充填し、ピストンに絞りと弁を適宜設けることで、外筒と内筒とが軸方向に変位した場合に、流体が上下の液室間を移動して、流体が絞りを通過する時に絞りが流体に抵抗を付与することにより発生する減衰効果を利用するものが一般的に用いられる。
【0004】
このようなショックアブソーバは、油等の流体の動粘度が低温になるほど高くなり、外気温が極めて低温となる極低温度においては減衰力が高くなりすぎて、車両の乗り心地が低下するという問題が生じる。
【0005】
前述した絞りの減衰力を適宜変更する手法としては、例えば、特許文献1に記載されているように、シャフトを中空形状として、外周面の周方向を含んで延在するチョークを設けたロータリーバルブを設けて、このロータリーバルブの周方向に回転させるコントロールロッドとアクチュエータとを設けることにより、ロータリーバルブを周方向に回転させてチョークの路長を調整することが提案されている。
【0006】
このような技術を応用して、流体の温度を検出する温度センサと、検出した温度に基づいてアクチュエータを制御するECU(Electronic Control Unit)を追加することにより、上述した極低温度において、チョークの路長を適宜短くして、これによりチョークすなわち絞りの減衰力を適宜低下させて適切な値に調整することは可能である。
【特許文献1】特開2000−179609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このような従来技術においては、ショックアブソーバを構成するシャフトを中空形状として、ロータリーバルブを設けてさらに、そのロータリーバルブを回転させるためのコントロールロッドとアクチュエータを追加する必要が生じて、部品点数の増加と構造の複雑化を招くとともに、温度センサ及びECUという電子部品を追加する必要も生じるので部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく極低温度における減衰力を適宜調整することができる減衰要素及び減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の減衰要素は、
流体に路長に対応する抵抗を付与する流路と、前記流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を備えるとともに、前記変更手段が前記変更手段を構成する材料の特性に基づいて前記路長を変更することを特徴とする。
【0010】
ここで、前記減衰要素において、
前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くすることとする。
【0011】
なお前記路長に対応する抵抗を付与する流路とは、絞りとして一般に使用されるもののうち流路の路長が断面積に比して比較的長いチョークを示すものである。絞りとして一般に使用される他の形態であるオリフィスは、流路の断面積に対して路長が比較的短いものであり、断面積に対応した抵抗を流体に付与して差圧を発生させて減衰力を発生するが、チョークは流路の路長に対応した抵抗を流体に付与して差圧を発生させて減衰力を発生するものである。一般にチョークにおいては路長が長くなると抵抗は大きくなる。すなわち前記減衰要素とは、チョークを構成する流路と、前記流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を含む。
【0012】
これによれば、前記変更手段が前記変更手段自身を構成する材料の特性に基づいて、前記路長を前記温度に基づいて変更することができるので、前記変更手段を追加するのみで、部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく、前記減衰要素の発生する減衰力を適宜調整することができる。
【0013】
すなわち、従来技術のように部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化ひいてはコストアップを招くことなく極低温度における減衰力を適宜調整することができる。
【0014】
また、前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くするので、前記極低温度において前記減衰要素の発生する減衰力を適宜低下させて適切な値となるように調整することができる。
【0015】
ここで、前記減衰要素の具体的態様は以下のようなものとすることができる。
【0016】
すなわち、前記減衰要素において、
円筒内を軸方向に摺動可能な摺動部材の前記軸方向に隣接して積層される第一板状部材と、前記第一板状部材に前記軸方向に隣接して積層される第二板状部材とを備えるとともに、前記第二板状部材に溝部分を設け、前記第一板状部材に前記溝部分を前記摺動部材から視て部分的に覆う突起部分を設け、前記溝部分と前記突起部分により前記流路を構成し、前記突起部分が前記変更手段を構成することとする。
【0017】
なお、前記円筒とはショックアブソーバを構成するシリンダを、前記摺動部材とはピストンを指す。
【0018】
これによれば、前記摺動部材に前記第一板状部材と前記第二板状部材を前記軸方向に順番に積層することにより、より簡易な構成で前記減衰要素を構成することができる。
【0019】
ここで、前記減衰要素において、
前記突起部分が形状記憶合金により構成されることが好ましい。
【0020】
これによれば、前記調整手段すなわち前記突起部分を前記形状記憶合金により構成して、周知の形状記憶合金の性質を利用して、例えば通常温度において前記突起部分の全てが前記溝状部を覆い、ある温度より低い前記極低温度において前記突起部分が変形して前記突起部分の一部のみが前記溝状部を覆うようにすることにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0021】
すなわち、前記極低温度における前記流路の路長を、通常温度における前記流路の路長よりも短くすることができる。これにより、前記極低温度における前記減衰要素の発生する減衰力を適宜低下させて適切な値となるように調整することができる。
【0022】
ここで、前記減衰要素において、
前記突起部分が前記温度の低下に応じて前記第二板状部材から離隔する方向に変形することが好ましい。
【0023】
これによれば、前記突起部分の変形にあたり必要な空間を確保することができる。
【0024】
さらに、前記減衰要素において、
前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させることが好ましい。
【0025】
なお、前記円筒内に設けられる前記摺動部材は通常円板状であり、前記第一板状部材及び前記第二板状部材も円板状に構成されるため、前記第二板状部材に設けられる前記溝状部も前記軸方向に垂直な方向すなわち前記円筒及び前記第一板状部材の径方向に延在させることにより、前記第一板状部材を例えばプレス加工で成形するにあたって、より製造が容易な形態とすることができる。
【0026】
また、前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させることにより、前記第一板状部材を例えばプレス加工で打ち抜き成型して前記突起部分を接合する受け面を設けて、前記受け面に前記突起部分を接合することを、より容易なものとすることができる。
【0027】
さらに、前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させて前記溝部分の径方向外側を前記第二板状部材の外周面に開口させることにより、前記流路の開口をより容易に構成することもできる。
【0028】
ここで、前記第二板状部材は一の第二板状部材部分により構成しても良いし、二の第二板状部材部分により構成しても良い。前記第二板状部材を一の第二板状部材部分により構成する場合には前記溝状部は、第二板状部材部分の前記第一板状部材に隣接する面に前記体に板状部材部分の厚みよりも浅い深さに切削により設けられる。
【0029】
また、前記第二板状部材を二の第二板状部材部分により構成する場合には、前記第一板状部材に隣接する前記第二板状部材部分にプレス加工により打ち抜き部を設けて、これに前記板状部材に隣接しない前記第二板状部材部分を積層することにより、前記溝状部が構成される。
【0030】
さらに、前記減衰要素において、
前記形状記憶合金が二方向性であることが好ましい。
【0031】
なお、前記形状記憶合金は例えばニッケルチタン合金であって、一方向性のものと二方向性のものがあり、一方向性のものは、常温状態に対して高温側のオーステナイト相の状態を記憶するものであり、二方向性のものは常温状態に対して高温側のオーステナイト相の状態と、常温状態に対して低温側のマルテンサイト相の状態を記憶するものである。
【0032】
ここで常温とは、前記形状記憶合金のオーステナイト相の状態とマルテンサイト相の状態の中間となる温度を示すものであり、前記極低温度以外、つまりは通常使用時の温度を示す通常温度とは意味が異なる。
【0033】
すなわち、前記突起部分を構成する前記形状記憶合金を一方向性のものとすると、例えば、前述した通常温度において常温状態に対して高温側のオーステナイト相の状態となり、前記極低温度において常温状態となるように、前記形状記憶合金の材質及び組成を選択するとともに、前記突起部分の高温側のオーステナイト相の状態において前記突起部分が前記第二平板状部材の平面内に位置するように形状記憶させ、前記突起部分の通常温度における形態を前記第二板状部材から離隔する方向に折り曲げて変形させることにより、前記流体の温度が前記通常温度から前記極低温度に変化する過程において前記突起部分が前記第二板状部材から離隔するように一段階に変形させることができる。
【0034】
これに対して、前記突起部分を構成する前記形状記憶合金を二方向性のものとした場合には、例えば、前述した通常温度において常温状態に対して高温側のオーステナイト相の状態となり、前記通常温度から前記極低温度に到る途中の途中温度において常温状態となり、前記極低温度において低温側のマルテンサイト相の状態となるように、前記形状記憶合金の材質及び組成を選択する。これとともに、前記突起部分の高温側のオーステナイト相の状態において前記突起部分が前記第二平板状部材の平面内に位置するように形状記憶させ、通常温度における形態を前記第二板状部材から離隔する方向に折り曲げて変形させて、前記突起部分の低温側のマルテンサイト相の状態において通常温度における折り曲げ変形量よりも更に大きく折り曲げ変形量となるように形状記憶させることにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0035】
すなわち、前記通常温度から前記中間温度に到る段階において、前記突起部分が前記第二板状部材から離隔するように変形し、前記中間温度から前記極低温度に到る段階において、前記突起部分が前記第二板状部材からさらに離隔するように変形させることができる。これにより、前記温度の低下に応じて前記流路の路長を段階的に短くして、前記減衰要素の発生する減衰力を段階的に適宜低下させて適切な値となるように調整することができる。
【0036】
なお、温度が低下することに対応して前記突起手段すなわち前記変更手段は前記路長を短くするが、通常ショックアブソーバのような減衰装置及びそれに用いられる減衰要素は、ヒートサイクルに対して繰り返し使用することが求められるため、その逆の温度が上昇する変化すなわち温度が低温側から常温を経て高温側に変化する場合には、前記変更手段は前記路長を長くすることが必要となる。
【0037】
この要請がある場合には、温度に応じて形状を変更する材料は、温度変化に対して可逆性を有するものを選定する。すなわちこれによれば、温度低下と温度上昇が繰り返して発生するヒートサイクルにおいても、前記減衰要素の減衰力を適宜調整することができる。
【0038】
また、上記課題を解決するため、本発明の減衰装置は、
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて流体に路長に対応する抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を備えるとともに、前記変更手段が前記変更手段を構成する材料の特性に基づいて前記路長を変更することを特徴とする。
【0039】
なお、前記減衰装置とは、前記減衰要素すなわち前記流路の路長を温度に応じて変更することができるチョークを含むショックアブソーバ全体を指す。
【0040】
ここで、前記減衰装置において、
前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くすることが好ましい。
【0041】
これによれば、前記変更手段が前記変更手段自身を構成する材料の特性に基づいて、前記路長を前記温度に基づいて変更することができるので、前記変更手段を追加するのみで、部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく、前記減衰装置の発生する減衰力を適宜調整することができる。
【0042】
また、前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くするので、前記極低温度において前記減衰装置の発生する減衰力を適宜低下させて適切な値となるように調整することができる。
【0043】
加えて、前記減衰装置において、
円筒内を軸方向に摺動可能な摺動部材の前記軸方向に隣接して積層される第一板状部材と、前記第一板状部材に前記軸方向に隣接して積層される第二板状部材とを備えるとともに、前記第二板状部材に溝部分を設け、前記第一板状部材に前記溝部分を前記摺動部材から視て部分的に覆う突起部分を設け、前記溝部分と前記突起部分により前記流路を構成し、前記突起部分が前記変更手段を構成することが好ましい。
【0044】
これによれば、前記減衰要素を含む減衰装置をより容易に構成することができる。
【0045】
ここでも、前記減衰装置において、
前記突起部分が形状記憶合金により構成され、
前記突起部分が前記温度の低下に応じて前記第二板状部材から離隔する方向に変形するとともに、前記摺動部材の前記第一板状部材側に前記突起部分の変形を許容する変形許容部を備えることが好ましい。
【0046】
これによれば、前記変形許容部により、前記突起部分の変形に必要な空間を確保することができる。
【0047】
加えて、前記減衰装置において、
前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させることが好ましく、
さらに、前記減衰装置において、
前記摺動部材の前記溝部分に対応する部分に前記軸方向に貫通する貫通通路を備えることが好ましい。
【0048】
これによれば、前記減衰装置が含む前記減衰要素をなす前記流路に前記減衰装置内部の流体を適切に導くことができる。
【0049】
なお、ここでも、前記減衰装置において
前記形状記憶合金が二方向性であることが好ましい。
【0050】
これによれば、前記温度の低下に応じて前記流路の路長を段階的に短くして、前記減衰要素の発生する減衰力を段階的に適宜低下させて適切な値となるように調整することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく極低温度における減衰力を適宜調整することができる減衰要素及び減衰装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0053】
図1は、本発明に係る減衰装置が適用されるサスペンション装置の一実施形態を示す模式図である。また、図2は、本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【0054】
図1に示すように、本実施例1の減衰装置が適用されるサスペンション装置51は、ナックル52と、ショックアブソーバ1と、スプリング53と、ロアアーム54と、タイヤ55と、ホイール56と、ボールジョイント57と、ロアスプリングシート58と、アッパスプリングシート59と、ロッド60を備えて構成される。なお、図1中FRは車両前後方向前方を示し、INは車幅方向内側を示し、UPは上方を示す。
【0055】
ナックル52はタイヤ55及びホイール56を回転自在に支持するものであり、その下端部が、ボールジョイント57を介してAアーム形状のロアアーム54の車幅方向外側端部に連結されると共に、その上端部が、ショックアブソーバ1の下端部に連結されるものである。
【0056】
ショックアブソーバ1は、その一部を構成するロット60の上端部が図示しないブッシュを介して車体側の図示しないサスタワーに連結され、その下端部がナックル52の上端部に連結されて、タイヤ55及びホイール56からナックル52を介して伝達される路面からの振動によって、ナックル52が振動し続けることをその減衰力により防止するとともにナックル52を車体側に連結するものであって、減衰装置に相当するものである。
【0057】
スプリング53は、ショックアブソーバ1の外周面の上端部近傍に円板状に設けられたロアスプリングシート58と、ロッド60の上端部近傍の車体側に円板状に設けられたアッパスプリングシート59との間に挟持されて、ロッド60の周囲を渦巻くように形成されて構成され、タイヤ55及びホイール56からナックル52を介して車体側に伝達される振動を低減し緩和する。
【0058】
ロアアーム54は、車幅方向に延在して、車幅方向内側が二股状に分岐するように形成されるいわゆるAアームにより構成され、その車幅方向外側端部つまりはAアームの頂点側がナックル52の下端部に対してボールジョイント57を介して連結され、その車幅方向内側つまりはAアームの頂点の反対側の二箇所が、図示しないブッシュを介して車体側の図示しないサスペンションメンバに揺動自在に連結されて、ナックル52と車体とを連結するものである。
【0059】
このように構成されるサスペンション装置51において、路面からタイヤ55に上下方向の外力が作用すると、ナックル52及びロアアーム54は車体側のブッシュをバネとして上下方向にバウンドリバウンドして、これに伴いナックル52のショックアブソーバ1の下端部との連結点と、ロッド60との間隔はショックアブソーバ1の中心軸線に一致する軸C方向に伸長又は圧縮する。
【0060】
ここで、ショックアブソーバ1の基本的構成を、図2を用いて説明する。図2(a)(b)に示すように、ショックアブソーバ1は、シリンダ2と、前述したロッド60に連結されるピストン3と、ピストン3に設けられたチョーク4及びチョーク5と、図2(a)に示すように、チョーク4に伸長時にのみ流体を流すバルブ6と、図2(b)に示すように、チョーク5に圧縮時にのみ流体を流すバルブ7とを備える。ここでは、チョーク4及びチョーク5及びバルブ6及びバルブ7は説明のため模式的に示している。
【0061】
シリンダ2は円筒を構成し、ピストン3はシリンダ2内を軸C方向に摺動自在な摺動部材を構成し、ピストン3によりシリンダ2内部には、第一流体室8と第二流体室9とが画成される。チョーク4及びチョーク5は流体に路長に対応する抵抗を付与して第一流体室8と第二流体室9とを連通する流路を構成する。
【0062】
加えて、ショックアブソーバ1は、流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を備え、この変更手段が変更手段を構成する材料の特性に基づいて路長を変更するが、図1において図示は省略している。また、ショックアブソーバ1の伸長又は圧縮に伴うロッド60の体積分の流体の移動を吸収するリザーバ及びベースバルブについても図示は省略している。チョーク4と対応する変更手段、チョーク5と対応する変更手段の構造は、流体の移動方向が異なるだけで同等であるため、ここでは後者についてのみ説明する。
【0063】
以下、チョーク5と対応する変更手段について図3を用いてより詳細に説明する。図3は、本発明に係わる減衰要素について軸Cを含む断面において示す模式断面図である。図3中UPは上方を示す。ここでは前述したバルブ7についての図示は省略している。
【0064】
ピストン3は、流体を構成する油と必要により油に含まれる窒素ガスのいずれをも透過させることのない、例えば鉄やアルミニウム等の溶融材又は合成樹脂により中空円板柱状に構成されており、その外周面にはここでは図示しないシリンダ2の内周面との間をシールする円筒状のピストンバンド10が嵌合されている。
【0065】
ピストン3の軸C近傍部分には、ロッド60を挿通する挿通穴3aが穿設されており、挿通穴3aには、ロッド60の周上一箇所に設けられた平板状の切り欠き部60aに対応する図示しない突部が設けられており、切り欠き部60aと突部の係合により、ピストン3にロッド60を挿通した場合に、ロッド60の周方向に対してピストン3が固定される。
【0066】
ピストン3の軸Cから径方向外側に距離Dだけ離隔した位置には、周方向三箇所に軸C方向に貫通する貫通通路3bが設けられ、貫通通路3bの上側部分には貫通通路3bよりも径が大きい大径部3cが設けられる。この貫通通路3bはショックアブソーバ1の圧縮時において、第二流体室9から減衰要素に流体を供給する機能を果たす。
【0067】
加えて、ピストン3の上側端面に軸C方向に隣接して第一板状部材11が積層され、第一板状部材11の上側端面に軸C方向に隣接して第二板状部材を構成する第二板状部材部分12と第二板状部材部分13がさらに積層される。
【0068】
第二板状部材部分13は、例えば鉄やアルミニウム等の溶融剤又は合成樹脂をプレス加工により打ち抜き加工して、軸Cを中心とする円板状に形成され、軸C近傍にはロッド60を挿通する挿通穴13aが設けられるとともに、挿通穴13aにはロッド60の切り欠き部60aが係合する突部13bが設けられる。
【0069】
第二板状部材部分12は、例えば鉄やアルミニウム等の溶融剤又は合成樹脂をプレス加工により打ち抜き加工して、軸Cを中心とする円板状に形成され、軸C近傍にはロッド60を挿通する挿通穴12aが設けられるとともに、挿通穴12aにはロッド60の切り欠き部60aが係合する突部12bが設けられる。
【0070】
さらに、第二板状部材部分12に第二板状部材部分12を軸C方向に貫通する溝状部12cが周上等間隔に三箇所設けられており、溝状部12cは軸C方向に垂直な方向すなわち径方向に延在してその外周側は第二板状部材部分12の外周面に開口しており、内周側は挿通穴12aよりも径方向外側に位置する箇所にて停止しており挿通穴12aに対して開口しない。
【0071】
第一板状部材11は、例えば鉄やアルミニウム等の溶融剤又は合成樹脂をプレス加工により打ち抜き加工して、形成されるものであって、外円環状部11aと、外円環状部11aの周上一箇所から径方向内側に向けて延びる延長部11bと、延長部11bに接続されて軸C周りに延在する内円環状部11cと、内円環状部11dに設けられてロッド60を挿通する挿通穴11dと、挿通穴11dに設けられてロッド60の切り欠き部60aに係合される突部11eとを備える。
【0072】
さらに、第一板状部材11には、延長部11bから周上時計回りに60度の位置を基準として周上等間隔に位置する三箇所から径方向内側に突出する突起部分11fが設けられている。突起部分11fの内周側端の第一板状部材11の外周面に対する突出長さは溝状部12cの径方向の延在長さよりも短く形成される。
【0073】
ピストン3の上側面に対して、第一板状部材11と、第二板状部材部分12と、第二板状部材部分13とをこの順番に積層して、さらに第二板状部材部分13の上側面には、第一板状部材11と、第二板状部材部分12と、第二板状部材部分13とを軸C方向に下方に向けて付勢するワッシャ14〜16が積層され、ワッシャ14〜16はこの順番に外径を小さく形成して、ワッシャ16の上側面は、ロッド60に挿通されて嵌合される円板状のフランジ17により固定される。
【0074】
このように第一板状部材11と、第二板状部材部分12と、第二板状部材部分13とを積層することにより、突起部分11fは溝部分12cをピストン3から視て部分的に覆う形態をなし、溝部分12cの内周側はピストン3の大径部3cに向けて軸C方向に開口する。これにより、溝部分12c及び突起部分11fは、第一流体室8と第二流体室9と連通する流路を構成し、この流路はチョークすなわち減衰要素を構成する。
【0075】
さらに、この突起部分11fは二方向性の形状記憶合金により構成され、温度の低下に応じて流路の路長を短くする機能を備える。より具体的には、突起部分11fは、温度の低下に応じて第二板状部材12及び13から離隔する方向に変形する。なお、ピストン3の大径部3cは、突起部分11fの第一板状部材11から離隔する方向の変形を許容する変形許容部を構成する。
【0076】
なお、突起部分11fを形状記憶合金とするにあたり、第一板状部材11全体を形状記憶合金として、突起部分11fのみに形状を記憶させることができる場合には、第一板状部材11全体を形状記憶合金とすればよいし、突起部分11fのみに形状を記憶させることが形状記憶処理の精度上困難である場合には、例えば図3中AA断面に示すように、外円環状部11aに溝を設けて形状記憶合金で形成した突起部分11fを嵌合させて溶接又は蝋付けする構成としても良い。
【0077】
いずれの場合においても、突起部分11fを構成する形状記憶合金は、例えば油の温度が−20度である場合を常温として、その常温よりも高温側の例えば油の温度が0度である場合にオーステナイト相の状態となるように、その常温よりも低温側の例えば油の温度が−40度である場合にマルテンサイト相の状態となるように、材質及び組成を選択する。
【0078】
以下に突起部分11fの形状記憶処理の態様について図を用いて説明する。図4〜6は本発明に係わる減衰要素の温度に対応した変形態様を示す模式図である。図4は油の温度が0度である場合を、図5は油の温度が−20度である場合を、図6は油の温度が−40度である場合を示す。
【0079】
突起部分11fは、図5に示すように油の温度が−20度である場合に常温となるようにかつピストン3側に少し変形するように設定しておき、高温側のオーステナイト相の状態において図4に示すように、突起部分11fが平板状部材11の平面内に位置するように形状を記憶させ、マルテンサイト相の状態において、図6に示すように、ピストン3側に大きく変形するように形状記憶させる。
【0080】
このように構成される第一平板状部材11と第二平板状部材部分12と第二平板状部材部分13により、本発明の減衰要素すなわちチョークが構成され、このチョークを構成する流路の路長Lは、油の温度の低下に伴って、図4に示す温度0度の状態においてはL=L0、図5に示す温度−20度の状態においてはL=L20、図6に示す温度−40度の状態においてはL=L40となり、L0>L20>L40と設定でき、突起部分11fは油の温度の低下に対応して路長Lを短くする変更手段を構成する。
【0081】
なお、これとは逆の温度上昇を伴う場合には、このように構成される第一平板状部材11と第二平板状部材部分12と第二平板状部材部分13により構成される、本発明の減衰要素すなわちチョークは、このチョークを構成する流路の路長Lは、油の温度の上昇に伴って、図6に示す温度−40度の状態においてはL=L40、図5に示す温度−20度の状態においてはL=L20、図4に示す温度0度の状態においてはL=L0となるように機能する。すなわち、突起部分11fは油の温度の上昇に対応して路長Lを長くする変更手段を構成する。
【0082】
ここでチョークの一般的な性質について図を用いて説明する。図7はチョークの一般的な性質をオリフィスとの比較に基づいて示す模式図である。図8及び図9は流路の寸法と差圧の関係を示す模式図である。図10は温度による速度と減衰力の特性変化を示す模式図である。
【0083】
横軸にピストン3の速度、縦軸に減衰力をとると、チョークの特性は図7に示すように、減衰力が速度に対してリニアすなわち一時的に変化する特性となるが、オリフィスにおいては、減衰力が速度に対して二次的に変化する特性となる。
【0084】
なお、オリフィスもチョークも流路であることは同じであり、その相違点はチョークが路長の長さに応じて減衰力を得ることにあるが、通常温度においては微低速領域の減衰力を確保するにあたっては、前述した速度と減衰力がリニアな特性を有するチョークの方が望ましい。
【0085】
ただし、チョークの減衰力はチョークの入口と出口の差圧によるものであり、その差圧は図8に示すように、チョークの路長がLで幅がW、高さがHとした場合に、Δp=12ρν(1/WH)^2(LW/H)Q+0.5ζ(1/WH)^2Q^2で表されるものである。ここで、ρは流体密度を、νは動粘度を、ζは損失係数を、Qは流量を示す。
【0086】
従って、差圧Δpを示す数式の第一項は動粘度νに依存することとなる。ここで、一般的には、図10に示すように、流路の路長Lを一定として、流体を構成する油の温度が極低温となった場合には、動粘度νが高くなりすぎることにより、差圧Δpひいては発生する減衰力も過大なものとなり、乗り心地を低下させる要因となるおそれがある。加えて、差圧Δpを示す数式の第一項はチョークの路長Lにも依存しており、図9に示すように、路長Lが短くなると差圧Δpすなわち減衰力も小さくなる。
【0087】
これに対応して、本実施例のショックアブソーバ1及びそれに含まれる減衰要素においては、突起部分11fが温度の低下に応じて第二平板状部材11及び12から離隔する方向すなわちピストン3に接近する方向に変形することにより、路長LをL0からL20、L40へと段階的に短くすることができるので、差圧Δpを表す式の第一項を第二項に対して小さくして、動粘度νが大きくなることに伴う差圧Δpの過大な増加を抑制することができる。
【0088】
この効果について図を用いて説明する。図11は本発明に係わる減衰装置の効果を示す模式図である。図11に示すように、油の温度を0度から−20度、−40度に変化させても、突起部分11fをピストン3側に接近するように変形させて、路長Lを段階的に短くしているので、図10に示した従来技術のように、減衰力が過大に増加することを抑制することができる。
【0089】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0090】
例えば、上述した実施例においては突起部分11fを二方向性の形状記憶合金としたが段階的な変形が必須でない場合には一方向性のものとしても良い。また、実施例中に示した温度についても例示的なものであり、適宜変更することが可能である。
【0091】
また、第二板状部材部分12に設ける溝状部12cの延在方向は、径方向に限られず、周方向であってもよく径方向に対して傾斜する方向、あるいは、軸Cに対して螺旋状に巻回する形態のものであっても良い。これに対応して、第一板状部材11に設けられる突起部分11fについても適宜変更可能であり、溝状部12cをピストン3側から部分的に覆って、第一流体室8と第二流体室9とを連通する流路を構成でき、温度の低下に伴い流路の路長Lを短く変更できるものであれば特に形態は問わない。
【0092】
また、現状の二方向性の形状記憶合金では上述したように、突起部分11fの変形量及びその変形量に伴う路長Lは、温度の低下に対して段階的な変形となるが、温度の変化に対してリニアに変形する材質を用いて、上述した実施例の突起部分11fを構成することももちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、車両のサスペンション装置に適用されて好適な減衰装置に関するものであり、比較的簡易な構成により、部品点数の増加と構造の複雑化及び制御の複雑化を招くことなく極低温度における減衰力を適宜調整することができるので、通常の乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る減衰装置が適用されるサスペンション装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る減衰要素の一実施形態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図5】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図6】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図7】チョークの一般的な性質をオリフィスとの比較に基づいて示す模式図である。
【図8】チョークを構成する流路の寸法と差圧の関係を示す模式図である。
【図9】チョークを構成する流路の路長と差圧の関係を示す模式図である。
【図10】温度による速度と減衰力の特性変化を示す模式図である。
【図11】本発明に係わる減衰装置の効果を示す模式図である。
【符号の説明】
【0095】
1 ショックアブソーバ(減衰装置)
2 シリンダ
3 ピストン
3b 貫通通路
3c 大径部(変形許容部)
4 チョーク(伸長時用)
5 チョーク(圧縮時用)
6 バルブ
7 バルブ
8 第一流体室
9 第二流体室
10 ピストンバンド
11 第一板状部材
11a 外円環状部
11b 延長部
11c 内円環状部
11d 挿通穴
11e 突部
11f 突起部分
12 第二板状部材部分(ピストン3側)
12c 溝状部
13 第二板状部材部分(12〜13:第二板状部材、11〜13:減衰要素)
14 ワッシャ
15 ワッシャ
16 ワッシャ
17 フランジ
51 サスペンション装置
52 ナックル
53 スプリング
54 ロアアーム
55 タイヤ
56 ホイール
57 ボールジョイント
58 ロアスプリングシート
59 アッパスプリングシート
60 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体に路長に対応する抵抗を付与する流路と、前記流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を備えるとともに、前記変更手段が前記変更手段を構成する材料の特性に基づいて前記路長を変更することを特徴とする減衰要素。
【請求項2】
前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くすることを特徴とする請求項1に記載の減衰要素。
【請求項3】
円筒内を軸方向に摺動可能な摺動部材の前記軸方向に隣接して積層される第一板状部材と、前記第一板状部材に前記軸方向に隣接して積層される第二板状部材とを備えるとともに、前記第二板状部材に溝部分を設け、前記第一板状部材に前記溝部分を前記摺動部材から視て部分的に覆う突起部分を設け、前記溝部分と前記突起部分により前記流路を構成し、前記突起部分が前記変更手段を構成することを特徴とする請求項2に記載の減衰要素。
【請求項4】
前記突起部分が形状記憶合金により構成されることを特徴とする請求項3に記載の減衰要素。
【請求項5】
前記突起部分が前記温度の低下に応じて前記第二板状部材から離隔する方向に変形することを特徴とする請求項4に記載の減衰要素。
【請求項6】
前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させることを特徴とする請求項5に記載の減衰要素。
【請求項7】
前記形状記憶合金が二方向性であることを特徴とする請求項6に記載の減衰要素。
【請求項8】
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて流体に路長に対応する抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記流路の路長を温度に応じて変更する変更手段を備えるとともに、前記変更手段が前記変更手段を構成する材料の特性に基づいて前記路長を変更することを特徴とする減衰装置。
【請求項9】
前記変更手段が前記温度の低下に応じて前記路長を短くすることを特徴とする請求項8に記載の減衰装置。
【請求項10】
円筒内を軸方向に摺動可能な摺動部材の前記軸方向に隣接して積層される第一板状部材と、前記第一板状部材に前記軸方向に隣接して積層される第二板状部材とを備えるとともに、前記第二板状部材に溝部分を設け、前記第一板状部材に前記溝部分を前記摺動部材から視て部分的に覆う突起部分を設け、前記溝部分と前記突起部分により前記流路を構成し、前記突起部分が前記変更手段を構成することを特徴とする請求項9に記載の減衰装置。
【請求項11】
前記突起部分が形状記憶合金により構成されることを特徴とする請求項10に記載の減衰装置。
【請求項12】
前記突起部分が前記温度の低下に応じて前記第二板状部材から離隔する方向に変形するとともに、前記摺動部材の前記第一板状部材側に前記突起部分の変形を許容する変形許容部を備えることを特徴とする請求項11に記載の減衰装置。
【請求項13】
前記溝部分を前記軸方向に垂直な方向に延在させることを特徴とする請求項12に記載の減衰装置。
【請求項14】
前記摺動部材の前記溝部分に対応する部分に前記軸方向に貫通する貫通通路を備えることを特徴とする請求項13に記載の減衰装置。
【請求項15】
前記形状記憶合金が二方向性であることを特徴とする請求項14に記載の減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−25166(P2010−25166A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184742(P2008−184742)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】