説明

渦巻きコイルおよび巻線装置

【課題】渦巻きコイルのコイル厚を薄くすると共にターン数の自由度を増やす。
【解決手段】断面が扁平形状の扁平電線(1)の長軸(A)の方向をコイル巻軸(Ax)に対して傾斜角度θだけ傾斜させて、渦巻き状に扁平電線(1)を巻回する。傾斜角度θは、扁平電線(1)の長軸長をaとし、短軸長をbとするとき、コイル厚条件として、a*cosθ+b*sinθ<a、および、巻きピッチ条件として、b*tanθ*sinθ+b*cosθ<a、が共に成り立つ角度範囲に入るように設定する。
【効果】渦巻きコイルのコイル厚を薄くすることが出来る。所定のコイル幅に対する最大ターン数を増やし、ターン数の自由度を増やすことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻きコイルおよび巻線装置に関し、さらに詳しくは、コイル厚を薄くできると共にターン数の自由度を増やすことが出来る渦巻きコイルおよびその渦巻きコイルを製造するための巻線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回(平巻)した渦巻きコイルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
他方、平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回(エッジワイズ巻)した渦巻きコイルが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−236796号公報(図1)
【特許文献2】特開平8−045654号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルでは、平角線の短軸長bがほぼコイル厚Tとなるため、コイル厚Tを薄くすることが出来るが、巻きピッチPが平角線の長軸長a以上になるため、所定のコイル幅(=コイル外径−コイル内径)Dに対するターン数Nの最大値Nmxが小さくなってしまう(Nmx≒D/a)。つまり、コイル厚Tについては問題がないが、ターン数Nの自由度が小さい問題点がある。
他方、平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルでは、巻きピッチPが平角線の短軸長b以上になるため、所定のコイル幅Dに対するターン数Nの最大値Nmxを大きくすることが出来る(Nmx≒D/b)が、平角線の長軸長aがほぼコイル厚Tとなるため、コイル厚Tが厚くなってしまう。つまり、ターン数Nの自由度が大きいが、コイル厚Tを薄くできない問題点がある。
そこで、本発明の目的は、コイル厚Tを薄くできると共にターン数Nの自由度を増やすことが出来る渦巻きコイルおよびその渦巻きコイルを製造するための巻線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、断面が扁平形状の扁平電線(1)が渦巻き状に巻回されたコイルであって、前記扁平電線(1)の長軸長をaとし、短軸長をbとし、コイル巻軸(Ax)に対して前記長軸がなす角度をθとするとき、コイル厚条件として、a*cosθ+b*sinθ<a、および、巻きピッチ条件として、b*tanθ*sinθ+b*cosθ<a、が成り立つことを特徴とする渦巻きコイル(10)を提供する。
上記第1の観点による渦巻きコイル(10)では、0゜<θ<90゜になる。つまり、コイル巻軸(Ax)に対して扁平電線(1)を傾斜させて渦巻き状に巻回することになる。
このときのコイル厚Tは、T=a*cosθ+b*sinθとなるが、コイル厚条件として、a*cosθ+b*sinθ<a、であるため、扁平電線(1)の長軸長aよりもコイル厚Tを薄くできる。つまり、従来の平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルに比べて、コイル厚を薄くすることが出来る。
また、隣接するターンを密着させて巻回したときの巻きピッチPは、P=b*tanθ*sinθ+b*cosθとなるが、巻きピッチ条件として、b*tanθ*sinθ+b*cosθ<a、であるため、扁平電線(1)の長軸長aよりも巻きピッチPを小さく出来る。つまり、従来の平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルに比べて、所定のコイル幅Dに対するターン数Nの最大値Nmxを大きくでき(D/a<Nmx)、ターン数Nの自由度を増やすことが出来る。
【0005】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による渦巻きコイルにおいて、扁平電線(1)が平角線(リボン線)であり、且つ、a/b≧3であることを特徴とする渦巻きコイル(10)を提供する。
扁平電線(1)の断面が長方形であるときの対角線長dは長軸長aより大きいため、傾斜角θが0゜から或る角度までの角度範囲ではコイル厚Tが長軸長aより大きくなってしまう。この角度範囲は、長軸長aが短軸長bに近づくほど大きくなる。つまり、長軸長aが短軸長bに近づくほど、傾斜角度θが制限されてしまう。
そこで、上記第2の観点による渦巻きコイル(10)では、長軸長aを短軸長bの3倍以上とした。これにより、傾斜角度θの制限は約38゜以上なる(38゜<θ)。
【0006】
なお、平角線を用いた高周波用渦巻きコイルにおいて高周波損失低減を行うには、使用周波数における表皮深さの2倍より小さな短辺の平角線とする必要がある。一方、電流容量を大きくするためには、長辺を大きくして電線断面積を大きくせねばならない。つまり、長辺短辺比の大きな平角線を使用しなければならない。
この時、従来の平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルでは、コイル厚が大きくなってしまう。また、従来の平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルでは、巻線ピッチが大きくなるため、ターン数が不足してしまう。
これに対して、上記第2の観点による渦巻きコイル(10)では、長辺短辺比の大きな平角線を使用でき、コイル厚を薄くでき、且つ、巻線ピッチを小さくしてターン数を増やすことが出来る。
【0007】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点による渦巻きコイルにおいて、前記扁平電線(1)が、複数本の絶縁被覆素線を断面長方形または楕円になるように集めた集合線またはリッツ線であることを特徴とする渦巻きコイル(10)を提供する。
複数本の絶縁被覆素線を断面長方形または楕円になるように集めた集合線またはリッツ線としては、幾つかの既存の電線が市販されている。このような市販の電線では、長軸長aや短軸長bが決まっているため、これらを用いて従来の渦巻きコイルを作成すると、コイル厚Tやターン数Nが決まってしまい、自由度が小さい。
これに対して、上記第3の観点による渦巻きコイル(10)では、長軸長aや短軸長bが決まっている市販の電線を用いても、傾斜角度θを変えることにより、コイル厚Tやターン数Nを変えることが出来る。すなわち、設計の自由度を増やすことが出来る。
【0008】
第4の観点では、本発明は、断面が扁平形状の扁平電線(1)を渦巻き状に巻回するための巻芯(60)と、前記巻芯(60)に設けられ前記扁平電線(1)を挟む巻線空隙(63)を形成する第一フランジ(61)および第二フランジ(62)を備えた巻線装置であって、前記巻線空隙(63)での前記巻芯(60)の外周面(64)が該巻芯(60)の軸(65)に対して傾斜していることを特徴とする巻線装置(100)を提供する。
上記第4の観点による巻線装置(100)では、巻線空隙(63)での巻芯(60)の外周面(64)が巻芯(60)の軸(65)に対して傾斜しているから、コイル巻軸(Ax)に対して扁平電線(1)を傾斜させて巻芯(60)に渦巻き状に巻回することが出来る。すなわち、請求項1から請求項3に記載の渦巻きコイル(10)を好適に製造することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の渦巻きコイルによれば、従来の平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルに比べて、コイル厚を薄くすることが出来る。また、従来の平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルに比べて、ターン数Nの自由度を増やすことが出来る。
本発明の巻線装置によれば、本発明の渦巻きコイル(10)を好適に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係る渦巻きコイル10を示す上面図である。図2は、図1のA−A’断面図である。
この渦巻きコイル10は、断面が扁平形状の扁平電線1の長軸Aの方向をコイル巻軸Axに対して傾斜角度θだけ傾斜させて、渦巻き状に扁平電線1を巻回したものである。
【0012】
図3に示すように、扁平電線1の長軸長をaとし、短軸長をbとするとき、コイル厚Tは、T=a*cosθ+b*sinθ、となる。また、隣接するターンを密着させたときの巻きピッチPは、P=b*tanθ*sinθ+b*cosθとなる。
そして、コイル厚条件として、
a*cosθ+b*sinθ<a
および、巻きピッチ条件として、
b*tanθ*sinθ+b*cosθ<a
が共に成り立つ角度範囲に入るように、傾斜角度θが設定されている。
【0013】
数値例を示すと、長軸長a=1mm、短軸長b=0.2mmの断面長方形の扁平電線1をθ=45゜に傾けて且つ隣接するターンを密着させて渦巻き状に巻回し、コイル幅10mmの渦巻きコイル10とすると、コイル厚T≒0.85mm、ターン数N≒35となる。
【0014】
他方、図3において、θ=0゜で示しているのは、扁平電線1の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルである。コイル厚はほぼ長軸長aになり、隣接するターンを密着させたときの巻きピッチはほぼ短軸長bになるから、上記の数値例の扁平電線1を用いると、コイル厚≒1mm、ターン数≒50となる。
【0015】
また、図3において、θ=90゜で示しているのは、扁平電線1の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイルであり、コイル厚はほぼ短軸長bになり、隣接するターンを密着させたときの巻きピッチはほぼ長軸長aになるから、上記の数値例の扁平電線1を用いると、コイル厚≒0.2mm、ターン数≒10となる。
【0016】
実施例1の渦巻きコイル10によれば、従来の平角線の長軸方向をコイル厚方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイル(図3のθ=0゜)に比べて、コイル厚Tを薄くすることが出来る。また、従来の平角線の長軸方向をコイル径方向に向けて渦巻き状に巻回した渦巻きコイル(図3のθ=90゜)に比べて、ターン数Nの自由度を増やすことが出来る。
【実施例2】
【0017】
図4は、本発明に係る渦巻きコイルを製造するための巻線装置100を示す一部破断斜視図である。
回転する巻芯60に取り付けられた第一フランジ61と第二フランジ62の間に形成される巻線隙間63に、巻きテンションを調節しながら、扁平電線1を巻き込んでゆく。
【0018】
巻線空隙63での巻芯60の外周面64は、巻芯60の軸65に対して傾斜している。この傾斜角度は、製造したい渦巻きコイルの傾斜角度θになっている。
また、巻線隙間63の隙間幅は、製造したい渦巻きコイルのコイル厚Tにクリアランスを加えた寸法になっている。
【0019】
所定のターン数だけ渦巻き状に巻き終わると、巻き初め側の端部と巻き終わり側の端部の絶縁被覆を除去し、それら端部に通電加熱装置を接続し、通電加熱し、隣接するターンを自己融着させるか接着し、冷却する。これにより、巻芯60から取り外しても、支持板やスペーサのような部材を用いないで、渦巻きコイルのコイル形状を維持することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の渦巻きコイルは、例えば電力伝送電気回路や電源回路における空芯のコイル又はトランス、或いはIHヒーターコイル等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1に係る渦巻きコイルを示す上面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】コイル厚条件および巻きピッチ条件の説明図である。
【図4】実施例3に係る巻線装置を示す一部破断斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 扁平電線
10 渦巻きコイル
60 巻芯
61 第一フランジ
62 第二フランジ
63 巻線隙間
64 外周面
100 巻線装置
P 巻きピッチ
T コイル厚
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が扁平形状の扁平電線(1)が渦巻き状に巻回されたコイルであって、前記扁平電線(1)の長軸長をaとし、短軸長をbとし、コイル巻軸(Ax)に対して前記長軸がなす角度をθとするとき、
コイル厚条件として、a*cosθ+b*sinθ<a
および
巻きピッチ条件として、b*tanθ*sinθ+b*cosθ<a
が成り立つことを特徴とする渦巻きコイル(10)。
【請求項2】
請求項1に記載の渦巻きコイルにおいて、扁平電線(1)が平角線であり、且つ、a/b≧3であることを特徴とする渦巻きコイル(10)。
【請求項3】
請求項1に記載の渦巻きコイルにおいて、前記扁平電線(1)が、複数本の絶縁被覆素線を断面長方形または楕円になるように集めた集合線またはリッツ線であることを特徴とする渦巻きコイル(10)。
【請求項4】
断面が扁平形状の扁平電線(1)を渦巻き状に巻回するための巻芯(60)と、前記巻芯(60)に設けられ前記扁平電線(1)を挟む巻線空隙(63)を形成する第一フランジ(61)および第二フランジ(62)を備えた巻線装置であって、前記巻線空隙(63)での前記巻芯(60)の外周面(64)が該巻芯(60)の軸(65)に対して傾斜していることを特徴とする巻線装置(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−205999(P2009−205999A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48953(P2008−48953)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】