説明

渦流探傷プローブおよび渦流探傷装置

【課題】簡単かつコンパクトな構成で渦流探傷プローブの検出部を加熱することができる渦流探傷プローブおよび同渦流探傷プローブを備える渦流探傷装置を提供する。
【解決手段】渦流探傷プローブ100は、基部101と検出部106とで構成されている。基部101は、棒状に延びる胴部102と胴部102から張り出したフランジ部104とで構成されている。フランジ部104内には、検出部106に向かって露出した状態で8つの光ファイバ105が設けられている。光ファイバ105は、渦流探傷装置200が備える光源部211に接続されており、同光源部211から供給される赤外線を検出部106に向かって出射する。検出部106は、磁芯107に巻き回されたコイル108a,108bの外側がケーシング109で覆われて構成されている。ケーシング109の表面には、光ファイバ105から出射された赤外線を吸収する熱線吸収層110が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査対象物の成形欠陥を被検査対象物に誘起した渦電流の変化を用いて検出するための渦流探傷プローブおよび同渦流探傷プローブを備える渦流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、成形品における寸法不良、キズ、割れおよび欠けなどの成形欠陥を検出する検査装置として渦流探傷装置がある。渦流探傷装置は、成形品などの被検査対象物に交流電流が流れるコイルを近接配置することにより検査対象部分に交番磁界による渦電流を誘起させた際のコイル両端部における電圧やインピーダンスの変化を用いて被検査対象物における上記成形欠陥を検出している。
【0003】
このような渦流探傷装置においては、渦流探傷プローブにおけるコイルの温度変化に起因した抵抗値の変化によって検出精度にバラツキが生じることがある。このため、例えば、下記特許文献1には、渦流探傷プローブにおけるコイルを内包する検出部に温度調節した空気を吹き付けることにより渦流探傷プローブにおける検出部の温度変化を抑えて成形欠陥の検出精度を向上させる渦流探傷プローブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−220541号公報
【0005】
しかしながら、このような渦流探傷プローブを用いた渦流探傷装置においては、渦流探傷プローブの検出部に温度調節した空気を供給するためのコンプレッサ、空気の加熱装置およびこれらを制御する制御装置が必要となって渦流探傷装置が大型化および複雑化するとともに検出部の温度制御も困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、簡単かつコンパクトな構成で渦流探傷プローブの検出部を加熱することができる渦流探傷プローブおよび同渦流探傷プローブを備える渦流探傷装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る本発明の特徴は、被検査対象物の成形欠陥を被検査対象物に誘起した渦電流の変化を用いて検出するための渦流探傷プローブであって、渦電流を誘起するとともに同渦電流の変化を検出する少なくとも1つのコイルを有した検出部と、検出部の長手方向における一方の端部側から前記コイルを加熱するための電磁波を出射する電磁波出射部とを備えることにある。この場合、本発明における電磁波とは、物質に吸収されることにより熱を生じさせる光線であって、主として、赤外線(近赤外線、中赤外線、遠赤外線)、可視光線または紫外線である。
【0008】
このように構成した請求項1に係る本発明の特徴によれば、渦流探傷プローブは、被検査対象物に渦電流を誘起させとともに被検査対象物の渦電流の変化を検出するコイルを備える検出部を加熱するための電磁波を出射する電磁波出射部を有している。この場合、渦流探傷プローブにおける電磁波出射部には、電磁波を供給する電磁波供給手段、具体的には、上記赤外線や可視光線などを照射する光源が接続される。すなわち、渦流探傷プローブは、従来に比べて少ない構成要素で検出部を加熱することができる。この結果、渦流探傷プローブおよび同渦流探傷プローブを備える渦流探傷装置を簡単かつコンパクトに構成することができるとともに検出部の温度制御を比較的容易に行なうことができる。
【0009】
また、請求項2に係る本発明の他の特徴は、前記渦流探傷プローブにおいて、検出部は、前記コイルを覆うケーシングを備えることにある。この場合、ケーシングは、磁気的に中立な素材、換言すれば、透磁率が「1」に近い非磁性素材で構成すると良い。
【0010】
このように構成した請求項2に係る本発明の他の特徴によれば、渦流探傷プローブにおける検出部は、コイルがケーシングによって覆われている。これにより、コイルによって誘起される磁束の向きを規制することができ、渦流探傷プローブによる成形欠陥の検出精度が向上する。例えば、ケーシングを磁気的に中立な素材(例えば、ステンレス鋼)で構成することにより、コイルによって誘起される磁束の向きをケーシングの一方の端部から他方の端部に向うように形成することができる。
【0011】
また、請求項3に係る本発明の他の特徴は、前記渦流探傷プローブにおいて、検出部は、外側表面に熱線吸収層を備えることにある。この場合、検出部における外側表面は、コイルが露出している場合には、コイルの外表面であり、コイルがケーシングによって覆われている場合にはケーシングの外表面である。また、熱線吸収層は、電磁波を吸収して熱に変換易い材料からなる層である。この熱線吸収層は、例えば、カーボンブラックやセレンなどの非磁性素材を主材として構成されていることが好ましい。また、熱線吸収層は、電磁波を吸収し易い色、例えば黒色系に着色されていると良い。そして、このような熱線吸収層は、検出部の外側表面に塗布、塗装、付着または貼り付けによって構成することができる他、電磁波を吸収して熱に変換易い材料をコイルやケーシングの材料に混ぜて構成することもできる。
【0012】
このように構成した請求項3に係る本発明の他の特徴によれば、渦流探傷プローブにおける検出部は、外側表面に熱線吸収層を備えている。これにより、検出部を効率的に加熱することができる。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の他の特徴は、前記渦流探傷プローブにおいて、電磁波出射部は、検出部に沿ってまたは向って電磁波を出射する光ファイバを備えることにある。
【0014】
このように構成した請求項4に係る本発明の他の特徴によれば、渦流探傷プローブにおける電磁波出射部は、光ファイバを備えている。これにより、電磁波供給手段から供給される電磁波を効率的に検出部に導くことができる。
【0015】
また、本発明は渦流探傷プローブの発明として実施できるばかりでなく、この渦流探傷プローブを備えた渦流探傷装置の発明としても実施できるものである。
【0016】
具体的には、請求項5に示すように、被検査対象の成形欠陥を被検査対象物に誘起した渦電流の変化を用いて検出する渦流探傷装置であって、請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した渦流探傷プローブと、渦流探傷プローブに電磁波を供給する電磁波供給手段とを備えるとよい。
【0017】
このように構成した請求項5に係る本発明の特徴によれば、上記渦流探傷プローブの発明と同様の作用効果が期待できる。
【0018】
また、この場合、請求項6に示すように、前記渦流探傷装置において、電磁波供給手段は、渦流探傷プローブの作動を制御する制御部と同一筐体内に収められるハロゲンランプと、ハロゲンランプから出射された電磁波を渦流探傷プローブに導く光ファイバとを備えるとよい。
【0019】
このように構成した請求項6に係る本発明の他の特徴によれば、渦流探傷装置は、渦流探傷プローブの作動を制御する制御部を収容する筐体内に渦流探傷プローブの検出部に電磁波を供給するハロゲンランプを収容している。これにより、渦流探傷装置の電源を入れた際、ハロンランプの点灯による発熱によって筐体内を早期に暖めることができ、筐体内に設けられた制御部を構成する各種電気回路および電子回路を早期に暖めて安定状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A),(B)は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷プローブの外観構成を概略的に示しており、(A)は渦流探傷プローブの一部を切り欠いた一部切欠き正面図であり、(B)は(A)に示す渦流探傷プローブを図示下側から見た底面図である。
【図2】図1(A),(B)に示す渦流探傷プローブを備える渦流探傷装置の作動を制御するための制御システムのブロック図である。
【図3】渦流探傷プローブを備えた渦流探傷装置のシステム構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る渦流探傷プローブおよび同渦流探傷プローブを備えた渦流探傷装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A),(B)は、本発明に係る渦流探傷プローブ100の構成を概略的に示しており、(A)は渦流探傷プローブ100の一部を切り欠いた一部切欠き正面図であり、(B)は(A)に示す渦流探傷プローブ100を図示下側から見た底面図である。また、図2は、図1(A),(B)に示す渦流探傷プローブ100を備える渦流探傷装置200の作動を制御するための制御システムのブロック図である。また、図3は、渦流探傷プローブ100を備えた渦流探傷装置200のシステム構成を示した模式図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0022】
この渦流探傷プローブ100および同渦流探傷プローブ100を備えた渦流探傷装置200は、成形品などの被検査対象WKにおける寸法不良、キズ、割れおよび欠けなどの成形欠陥を渦流探傷法により検出する。この場合、渦流探傷法とは、被検査対象物WKに交番磁界による渦電流を誘起させた際のコイル両端部における電圧やインピーダンスの変化を用いて被検査対象物WKにおける成形欠陥を検出する検出方法である。本実施形態においては、渦流探傷プローブ100および同渦流探傷プローブ100を備えた渦流探傷装置200は、レシプロエンジンにおけるシリンダブロックなどの被検査対象物WKに形成されたネジ穴(所謂、タップ穴)THの成形欠陥をこの渦流探傷法を用いて検出することを想定している。
【0023】
(渦流探傷プローブ100の構成)
渦流探傷プローブ100は、基部101を備えている。基部101は、ステンレス鋼を図示上下方向に延びる棒状に形成した部品であり、胴部102とフランジ部104とで構成されている。胴部102は、図示しない貫通孔を有した丸棒状に形成された部分であり、胴部102の側面中央部に光ファイバケーブル91を接続するための光ファイバ接続部102aが形成されている。また、この胴部102における図示上側端部には、この渦流探傷プローブ100を保持プレート92に取り付けるための雄ネジ部103aが形成されるとともに、同雄ネジ部103aにおける図示上側端部に三芯ケーブル93を接続するためのケーブル接続部103bが形成されている。保持プレート92は、被検査対象物WKの成形欠陥を検査する際に渦流探傷プローブ100を保持する板状の部材である。この保持プレート92は、図示しない変位機構によって被測定対象物WKに対して3次元方向(上下左右前後方向)に変位するように支持されている。
【0024】
フランジ部104は、胴部102における図示下側端部にて鍔状に張り出して形成された部分であり、図示下方に向って延びて形成されている。このフランジ部104内には、フランジ部104内を軸線方向に貫通するとともに、フランジ部104における図示下側端面から露出した状態で8つの光ファイバ105が設けられている。光ファイバ105は、後述する光源部211から出射された赤外線を後述するケーシング107に向かって出射させるための光路を形成するガラス繊維である。これら8つの光ファイバ105は、フランジ部104における図示下側端面において、後述するケーシング109の外側であって同ケーシング109の外周に沿ったリング状に互いに等間隔で配置されている。
【0025】
フランジ部104における図示下方には、検出部106が形成されている。検出部106は、被検査対象物WKに交番磁界による渦電流を誘起させるとともに同渦電流の変化を検出するための部分であり、主として、磁芯107、コイル108a,108b、ケーシング109および熱線吸収層110によって構成されている。磁芯107は、コイル108a,108bに交流電流を通電することにより生じる磁束を強くするための部品であり、フランジ部104の図示下側端面における中央部から図示上下方向に棒状に延びて形成されている。この磁芯107は、コイル108a,108bとともに磁気回路を形成可能な強磁性材料によって構成されている。本実施形態においては、磁芯107は、パーマロイによって構成されている。この磁芯107の外周部には、2つのコイル108a,108bがそれぞれ巻き回されている。
【0026】
コイル108a,108bは、交流電流が流されることにより交番磁界を生じさせるための部品であり、銅線を螺旋状に巻いて構成されている。これら2つのコイル108a,108bは、磁芯107の外周上において互いに反対方向に向う磁束が誘起される所謂差動接続によって繋がれて後述するブリッジ回路205の一部を構成する。このコイル108a,108bの外側には、ケーシング109が設けられている。
【0027】
ケーシング109は、コイル108a,108bによって誘起される磁束の向きを規制するための円筒状の部品であり、磁気的に中立な素材(例えば、ステンレス鋼)で構成されている。この場合、磁気的に中立な素材とは、透磁率が「1」に近い非磁性の素材である。このケーシング109は、コイル108a,108bを覆うことができるとともに被測定対象物WKにおけるネジ穴THに挿入可能な内径、外径および長さにそれぞれ形成されている。このケーシング109により、コイル108a,108bによって誘起される磁束は、ケーシング109の一方の端部から他方の端部に向うように形成される。
【0028】
ケーシング109の外側表面には、熱線吸収層110が形成されている。熱線吸収層110は、光ファイバ105から照射される赤外線を吸収して熱に変換易い材料からなる層である。本実施形態においては、熱線吸収層110は、カーボンブラックを主材とした黒色の熱線吸収耐熱塗料をケーシング109の表面に塗布することにより構成されている。
【0029】
(渦流探傷装置200の構成)
この渦流探傷プローブ100は、光ファイバケーブル91および三芯ケーブル92を介して渦流探傷装置200に接続されている。渦流探傷プローブ200は、被検査対象物WKにおけるネジ穴THの成形欠陥を検出するために渦流探傷プローブ100の作動を制御する制御装置である。この渦流探傷装置200は、発振回路201を備えている。発振回路201は、所定の周波数(例えば、20〜160Hz)の交流信号を位相調整回路202および電流増幅回路203にそれぞれ発振する回路である。
【0030】
位相調整回路202は、発振回路201から出力された交流信号の位相(0〜360度)を調整して位相検波回路207に出力する回路である。一方、電流増幅回路203は、発振回路201から出力された交流信号の電流を増幅して出力トランス204に出力する回路である。出力トランス204は、ブリッジ回路205におけるインピーダンスを調整するために電流増幅回路203から出力された交流信号の電圧を調整する回路である。
【0031】
ブリッジ回路205は、渦流探傷プローブ100に内蔵されているコイル108a,108bを三芯ケーブル93を介して含んで構成された所謂ホイーストンブリッジ回路である。このブリッジ回路205は、ブリッジを構成する各コイルの非平衡状態となった際のインピーダンス変化に応じた電圧信号である差信号を交流増幅回路206に出力する。また、ブリッジ回路205は、コイル108a,108bに流れる電流を検出する図示しない電流検出器を備えており、この電流検出器による検出信号を制御部209に出力する。交流増幅回路206は、ブリッジ回路205から出力された差信号を増幅して位相検波回路207に出力する回路である。
【0032】
位相検波回路207は、発振回路201から入力された交流信号を基準信号とするとともにブリッジ回路205から入力した差信号を参照信号として位相検波する回路である。具体的には、位相検波回路207は、発振回路201から入力された交流信号とブリッジ回路205から入力した差信号とを掛け算することにより、基準信号の振幅に比例した直流分と2倍の周波数の交流分とからなる乗算信号を生成してローパスフィルタ208に出力する。ローパスフィルタ208は、位相検波回路207から入力した乗算信号から直流成分を抽出して制御部209に出力する回路である。
【0033】
制御部209は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、渦流探傷装置200の全体の作動を総合的に制御する。具体的には、制御部210は、発振回路201、位相調整回路202、判定回路210および光源部211の各作動をそれぞれ制御する。この場合、制御部209は、ローパスフィルタ208からの出力される直流信号をA/D変換して得たデータ値、すなわち、コイル108a,108bのインピーダンス変化量を表すデータ値を判定回路210に出力する。また、制御部209は、ブリッジ回路205の電流検出器から出力される電流検出信号に基づいて光源部211の作動を制御する。また、この制御部209は、制御部209に対して作業者からの操作を受付けるための操作スイッチ群からなる入力装置209a、および作業者に対して制御部209の作動状況を表示するための液晶ディスプレイからなる表示装置209bをそれぞれ備えている。
【0034】
判定回路210は、被測定対象物WKにおける成形欠陥の有無を判定する回路である。具体的には、判定回路210は、入力装置209aおよび制御部209を介して設定される成形欠陥の基準判定値と、制御部209から入力するインピーダンス変化量を表すデータ値とを比較する。そして、判定回路210は、インピーダンス変化量を表すデータ値が基準判定値に対して所定の範囲内ある場合には、成形欠陥が無いと判定するとともに同判定結果を表す制御信号を制御部209に出力する。一方、判定回路210は、インピーダンス変化量を表すデータ値が基準判定値に対して所定の範囲外である場合には、成形欠陥が有ると判定するとともに同判定結果を表す制御信号を制御部209に出力する。
【0035】
光源部211は、渦流探傷プローブ100に供給する赤外線を出射する機械装置であり、主として、図示しないハロゲンランプおよびアパーチャをそれぞれ備えて構成されている。これらのうちハロゲンランプは、制御部209に作動が制御されることにより赤外線を発光する光源である。また、アパーチャは、制御部209に作動が制御されることによりハロゲンランプから照射されて光ファイバケーブル91に導かれる赤外線の量を調整する光量調整器である。
【0036】
この光源部211は、発振回路201、位相調整回路202、電流増幅回路203、出力トランス204、ブリッジ回路205、交流増幅回路206、位相検波回路207、ローパスフィルタ208、制御部209および判定回路210とともに筺体212内に収容されている。そして、この光源部211は、光ファイバケーブル91を介して渦流探傷プローブ100の光ファイバ105に接続される。
【0037】
(渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200の作動)
次に、上記のように構成した渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200の作動について説明する。まず、作業者は、渦流探傷プローブ100を保持プレート92に保持させるとともに、光ファイバケーブル91および三芯ケーブル93を光ファイバ接続部102aおよびケーブル接続部103bにそれぞれ接続する。次いで、作業者は、渦流探傷装置200における入力装置209aを操作することにより、渦流探傷装置200の電源をONにする。
【0038】
この操作に応答して制御部209は、図示しない所定の制御プログラムを実行することにより各部、具体的には、発振回路201、位相調整回路202、判定回路210および光源部211をそれぞれ起動させた後、作業者からの指示を待つ待機状態となる。この場合、光源部211は、制御部209による作動制御によってハロゲンランプ(図示せず)が点灯を開始する。これにより、渦流探傷装置200の筺体212内はハロゲンランプから伝わる熱によって急速に暖められるため、筺体212内の各回路は安定して動作することができる定常状態に早期に移行する。なお、この場合、光源部211が備えるアパーチャ(図示せず)は閉じているため、ハロゲンランプから照射された赤外線が光ファイバケーブル91を介して渦流探傷プローブ100に導かれることはない。
【0039】
次に、作業者は、渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200を被検査対象物WKの成形欠陥を検出可能な状態である成形欠陥検出モードに設定する。具体的には、作業者は、入力装置209aを操作することにより、制御部209に対して成形欠陥検出モードの実行を指示する。この制御部209への成形欠陥検出モードの実行の指示に先立って作業者は、入力装置209aを操作することにより、判定回路210が成形欠陥を判定に用いる基準判定値を予め設定しておく。そして、この指示に応答して制御部209は、図示しない成形欠陥検出プログラムの実行を開始することにより渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200を被検査対象物WKの成形欠陥の検出可能な状態とする。
【0040】
具体的には、制御部209は、発振回路201から所定周波数の交流信号を出力することにより渦流探傷プローブ100の検出部106内に設けられてブリッジ回路205を構成するコイル108a,108bを励磁する。また、制御部209は、光源部211のアパーチャ(図示せず)を開いてハロゲンランプから照射される赤外線を光ファイバケーブル91に導く。光ファイバケーブル91に導かれた赤外線は、この光ファイバケーブル91を介して渦流探傷プローブ100における光ファイバ105の一方の端部に導かれた後、渦流探傷プローブ100のフランジ104の図示下側端面に露出する光ファイバケーブル105の他方の端面から出射する。すなわち、渦流探傷プローブ100のフランジ104の図示下側端面に露出する光ファイバケーブル105の他方の端面が、本発明における電磁波出射部に相当する。
【0041】
そして、渦流探傷プローブ100のフランジ104の図示下側端面に露出する光ファイバケーブル105の他方の端面から出射した赤外線、換言すれば、検出部106の長手方向における一方(図示上方)の端部側から出射された赤外線は、ケーシング109の表面に沿って進行しながらケーシング109の表面に形成された熱線吸収層110に吸収されて熱に変換される。これにより、ケーシング109の内部に収容されたコイル108a,108bは熱線吸収層110から生じた熱によって加熱される。この場合、ケーシング109は、熱伝導性の良い金属(例えば、ステンレス鋼)で構成されているため、効率的に熱を伝導してコイル108a,108bを加熱することができる。すなわち、コイル108a,108bは、熱線吸収層110から生じた熱によって外気から熱的に遮断された状態となる。
【0042】
そして、この場合、制御部209は、ブリッジ回路205に内蔵される電流検出器から出力される電流検出信号を入力することにより、コイル108a,108bの温度を算出するとともに、この算出した温度が所定の設定温度となるように光源部211のアパーチャの開度を調節する。すなわち、渦流探傷プローブ100の検出部106に内蔵されるコイル108a,108bは自身の温度センサとしても機能する。これにより、渦流探傷プローブ100の検出部106に照射される赤外線の光量が調整されるため、コイル108a,108bの温度が所定の一定温度に維持される。この場合、コイル108a,108bが温度調整される所定の温度は、本発明者の実験によれば、20〜25℃が好適である。
【0043】
このように渦流探傷プローブ100のコイル108a,108bの温度が一定温度に調整された状態で渦流探傷プローブ100は、保持プレート92の変位を介して被検出対象物WKのネジ穴THに対して位置決めされる。そして、保持プレート92が図示下方(図示矢印参照)に変位することにより、渦流探傷プローブ100の検出部106がネジ穴TH内に挿入される。これにより、渦流探傷プローブ100の検出部106が挿入された被検出対象物WKにおけるネジ穴THの周囲には、渦流探傷プローブ100の検出部106の周囲に誘起された交番磁界により渦電流が生じる。このため、ネジ穴TH内に挿入されたコイル108a,108bは、ネジ穴THの形状に応じた渦電流によってインピーダンスが変化する。
【0044】
このコイル108a,108bにおけるインピーダンスの変化量は、ブリッジ回路205、交流増幅回路206、位相検波回路207およびローパスフィルタ208を介して制御部209によって検出されて判定回路210に出力される。これにより、判定回路210は、予め設定された成形欠陥の基準判定値と、制御部209から入力するインピーダンス変化量を表すデータ値とを比較することにより成形欠陥の有無を判定するとともに、この判定結果を表す制御信号を制御部209に出力する。したがって、制御部209は、判定回路210から入力した判定結果を表示装置209bに表示させる。一方、渦流探傷プローブ100は、保持プレート92の変位を介して検出部206がネジ穴TH内に所定時間だけ配置された後速やかにネジ穴THから離隔されて待機位置に戻る(図3参照)。
【0045】
被検出対象物WKのネジ穴THに対する一連の成形欠陥の検出処理の間、渦流探傷プローブ100のコイル108a,108bは、光ファイバ105から照射される赤外線によって所定の一定温度に維持される。そして、被検出対象物WKのネジ穴THに対する成形欠陥の検出作業を終了する場合には、作業者は、入力装置209aを操作することにより、制御部209に対して成形欠陥検出モードの実行の終了を指示する。この指示に応答して制御部209は、発振回路201、位相調整回路202、判定回路210および光源部211の作動を停止させて成形欠陥検出プログラムの実行を終了した後、再び作業者からの指示を待つ待機状態となる。これにより、渦流探傷プローブ100におけるコイル108a,108bの励磁状態および加熱状態がそれぞれ解消される。そして、作業者が入力装置209aを操作することにより、渦流探傷装置200の電源をOFFにすることにより、制御部209は、発振回路201、位相調整回路202、判定回路210および光源部211の各起動を停止させる。
【0046】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、渦流探傷プローブ100は、被検査対象物WKに渦電流を誘起させとともに被検査対象物WKの渦電流の変化を検出するコイル108a,108bを備える検出部106を加熱するための赤外線を出射する光ファイバ105を有している。この場合、渦流探傷プローブ100における光ファイバ105には、赤外線を供給する光源部211、具体的には、前記赤外線を照射するハロゲンランプが接続される。すなわち、渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200は、従来に比べて少ない構成要素で検出部106を加熱することができる。この結果、渦流探傷プローブ100および同渦流探傷プローブ100を備える渦流探傷装置200を簡単かつコンパクトに構成することができるとともに検出部106の温度制御を比較的容易に行なうことができる。
【0047】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態においては、被検出対象物WKに渦電流を誘起するとともに同渦電流の変化を検出するために2つのコイル108a,108bを用いた。しかし、コイルの数は、渦電流を誘起するとともに同渦電流の変化を検出することができれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、渦電流を誘起するとともに同渦電流の変化を検出するコイルの数は、少なくとも1つ以上のコイルであればよい。この場合、渦電流を誘起するコイルと渦電流による電圧やインピーダンスの変化を検出するコイルとを同一のコイルとしてもよいし、それぞれ別々のコイルを用意して構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態においては、ハロゲンランプから出射される赤外線によって渦流探傷プローブ100における検出部106を加熱するように構成した。しかし、渦流探傷プローブ100における検出部106を加熱することができれば、光源や電磁波の種類は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ハロゲンランプに代えて赤外線を出射する電球やLEDを光源として用いることができる。また、赤外線に代えて赤外線以外の熱線、可視光線または紫外線を用いて検出部106を加熱することもできる。
【0050】
また、上記実施形態においては、光源部211を渦流探傷装置100の筐体212内に配置した。しかし、光源部211は、筐体212内以外の場所、例えば、渦流探傷プローブ100を保持する保持プレート92などの渦流探傷プローブ100の近傍に配置することもできる。また、赤外線などの電磁波を出射する光源をLEDなどのコンパクトな光源で構成すれば、このような光源(例えば、LED)を渦流探傷プローブ100内に配置することもできる。
【0051】
また、上記実施形態においては、渦流探傷プローブ100の検出部106は、コイル108a,108bの外側をケーシング109で覆って構成した。しかし、渦流探傷プローブ100の検出部106は、ケーシング109を省略してコイル108a,108bを露出させた状態で構成することもできる。この場合、熱線吸収層110は、コイル108a,108bの表面に熱線吸収塗料などを塗布や塗装などにより直接形成することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、渦流探傷プローブ100の検出部106は、ケーシング109の外側に熱線吸収層110を形成して構成した。しかし、渦流探傷プローブ100の検出部106は、熱線吸収層110を省略して構成することもできる。この場合、ケーシング109は、ステンレス鋼などの金属素材のみで構成してもよいが、電磁波を吸収して熱に変換し易い黒色系の色の素材で構成することもできる。この場合、ケーシング109を構成する素材に熱線吸収層110を構成する素材(例えば、カーボンブラック)を混ぜてケーシング109を構成することもできる。
【0053】
また、上記実施形態においては、光ファイバ105は、渦流探傷プローブ100のフランジ部104における図示下側端面においてケーシング109の外側表面に赤外線を照射するように配置されている。しかし、光ファイバ105は、渦流探傷プローブ100のフランジ部104における図示下側端面においてケーシング109の内側に配置してケーシング109内に赤外線を出射するように構成することもできる。
【0054】
また、上記実施形態においては、コイル108a,108bに流れる電流量に基づいてコイル108a,108bの温度を検出して光源部211におけるアパーチャの開度調整を介してコイル108a,108bの温度を一定温度に調整制御した。しかし、渦流探傷プローブ100の検出部106に常に一定量の赤外線を連続的または断続的に照射することにより検出部106(コイル108a,108b)を加熱するように構成することもできる。すなわち、コイル108a,108bの温度制御を省略することもできる。また、図2に示すように、コイル108a,108bの温度制御に際して、別途、渦流探傷プローブ100の外気温を検出する外気温センサ213を設けることにより、検出部106(コイル108a,108b)の温度を外気温に応じて制御するように構成することもできる。
【0055】
また、上記実施形態においては、渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200は、シリンダブロックに形成されたネジ穴THの成形欠陥を検出した。しかし、この渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200は、シリンダブロック以外の成形品のネジ穴TH、シリンダブロックを構成する他の構成部分、シリンダブロック以外の成形品の構成部分の成形欠陥をそれぞれ検出するために用いることができることは当然である。これらの場合、渦流探傷プローブ100および渦流探傷装置200は、穴(貫通孔も含む)以外の形状、突起または平面形状部分における成形欠陥をそれぞれ検出することができる。
【符号の説明】
【0056】
WK…被検査対象物,TH…ネジ穴、
91…光ファイバケーブル、91…保持プレート、92…三芯ケーブル、
100…渦流探傷プローブ、101…基部、102…胴部、102a…光ファイバ接続部、103a…雄ネジ部、103b…ケーブル接続部、104…フランジ部、105…光ファイバ、106…検出部、107…磁芯、108a,108b…コイル、109…ケーシング、110…熱線吸収層、
200…渦流探傷装置、201…発振回路、202…位相調整回路、203…電流増幅回路、204…出力トランス、205…ブリッジ回路、206…交流増幅回路、207…位相検波回路、208…ローパスフィルタ、209…制御部、209a…入力装置、209b…表示装置、210…判定回路、211…光源部、212…筐体、213…外気温センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査対象物の成形欠陥を前記被検査対象物に誘起した渦電流の変化を用いて検出するための渦流探傷プローブであって、
前記渦電流を誘起するとともに同渦電流の変化を検出する少なくとも1つのコイルを有した検出部と、
前記検出部の長手方向における一方の端部側から前記コイルを加熱するための電磁波を出射する電磁波出射部とを備えることを特徴とする渦流探傷プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載した渦流探傷プローブにおいて、
前記検出部は、前記コイルを覆うケーシングを備えることを特徴とする渦流探傷プローブ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した渦流探傷プローブにおいて、
前記検出部は、外側表面に熱線吸収層を備えることを特徴とする渦流探傷プローブ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した渦流探傷プローブにおいて、
前記電磁波出射部は、前記検出部に沿ってまたは向って前記電磁波を出射する光ファイバを備えることを特徴とする渦流探傷プローブ。
【請求項5】
被検査対象の成形欠陥を前記被検査対象物に誘起した渦電流の変化を用いて検出する渦流探傷装置であって、
前記請求項1ないし前記請求項4のうちのいずれか1つに記載した渦流探傷プローブと、
前記渦流探傷プローブに電磁波を供給する電磁波供給手段とを備えることを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項6】
請求項5に記載した渦流探傷装置において、
前記電磁波供給手段は、
前記渦流探傷プローブの作動を制御する制御部と同一筐体内に収められるハロゲンランプと、
前記ハロゲンランプから出射された電磁波を前記渦流探傷プローブに導く光ファイバとを備えることを特徴とする渦流探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−202984(P2012−202984A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71240(P2011−71240)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(511079506)株式会社マイクロフィックス (1)
【Fターム(参考)】