説明

渦流探傷装置および渦流探傷方法

【課題】被検査物の表面と渦流探傷センサとの距離を一定に保つために渦流探傷センサの位置を機械的に高精度に変化させる機構を設けることなく、被検査物の表面に形成された鋳巣または傷の検出精度を高める。
【解決手段】渦流探傷センサ24から出力される渦流探傷信号の出力値と、距離センサ25から出力される距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、渦流探傷センサ24のセンサ面とシリンダブロック(被検査物)におけるボア5Aの内面との距離の変化による渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する。また、補正後の渦流探傷信号の出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換して平面上に配列することにより、ボア5Aの内面における鋳巣または傷の位置および大きさを示す画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流を用いて被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する渦流探傷装置および渦流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
渦流探傷装置は、被検査物の表面に渦電流を発生させ、渦電流の変化に基づいて被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検出する装置である。渦流探傷装置は、例えばエンジンのシリンダまたはシリンダブロックのボア内面の鋳巣または傷の検査に用いられている。
【0003】
渦流探傷装置は、渦流探傷センサと、被検査物に対する渦流探傷センサの位置を変化させる位置制御機構とを備えている。鋳巣または傷の検出を行う際には、位置制御機構により、渦流探傷センサを被検査物の表面に接近させた状態を保ちつつ、被検査物に対する渦流探傷センサの位置を被検査物の表面に沿うように変化させる。渦流探傷センサの位置が被検査物の表面に沿うように変化している間、渦流探傷センサが被検査物の表面に渦電流を発生させると共に、渦電流の変化を検出する。被検査物の表面に鋳巣または傷が形成されている場合には、鋳巣または傷により渦電流が変化するので、この渦電流の変化を渦流探傷センサにより検出することにより、鋳巣または傷を検出することができる。
【0004】
ところで、渦電流は、被検査物の表面と渦流探傷センサとの間の距離によっても変化する。したがって、鋳巣または傷の検出を行う際には、被検査物の表面と渦流探傷センサとの間の距離を一定に保ち、これにより、被検査物の表面と渦流探傷センサとの間の距離の変化に起因する渦電流の変化を取り除くことで、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる。この点に着目した技術が以下に述べる通りいくつか知られている。
【0005】
すなわち、下記の特許文献1には、エンジンシリンダブロックのボア内面に近接して回転すると共にX−Yテーブルに支持された回転体の周面に、ボア内面で生じる渦電流を検出する磁気プローブと距離測定用の近接センサとを設け、近接センサの出力変化に基づいてX−Yテーブルを制御し、ボア内面と磁気プローブとの間隔寸法を一定に維持する検査装置が記載されている。
【0006】
また、下記の特許文献2には、検査プローブと被検査体との間の距離(リストオフ)を測定手段により測定し、当該距離が目的軌道の許容範囲から外れている場合には、当該距離が目的軌道に入るように検査プローブを移動させることにより、当該距離を一定に保ちながら欠陥検査を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3893074号公報
【特許文献2】特許第3758439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1および2に記載されている技術では、渦流探傷センサの位置を機械的に変化させて調整することにより、被検査体の表面と渦流探傷センサ(磁気プローブまたは検査プローブ)との間の距離を一定に保つようにしている。しかしながら、この技術には次のような問題がある。
【0009】
例えば、被検査体の表面と渦流探傷センサとの間の距離が0.1mm程度変化すると、直径が0.5mm程度の鋳巣の検出が困難になることが判明している。このことを考慮すると、上記特許文献1および2に記載された技術を渦流探傷装置に実際に適用する場合には、被検査物の表面と渦流探傷センサとの間の距離を一定に保つために、渦流探傷センサの位置を0.1mm以下の微少な距離変化させることができる高精度な位置調整機構が必要になる。
【0010】
しかしながら、このような高精度な位置調整機構を渦流探傷装置に設けると、渦流探傷装置が高価になる。
【0011】
また、渦流探傷装置が用いられる場所が、環境の良い研究室ではなく、エンジン等の製造工場であることを考えると、たとえ高精度な位置調整機構を有する渦流探傷装置を用いたとしても、周囲の悪環境により渦流探傷センサの高精度な位置調整を実際上実現することができないおそれがある。
【0012】
また、製造現場において、渦流探傷装置をエンジンのシリンダブロック等の検査に用いる場合には、検査時間が短いことが望まれるが、高精度の位置調整機構を有する渦流探傷装置は、渦流探傷センサの高精度な位置調整を実現するために動作速度が遅く、このため、検査時間が長くかかってしまう。この点、渦流探傷装置の剛性を高めることにより渦流探傷センサの高精度な位置調整を実現しながら動作速度を速くすることが可能であると考えられるが、この結果、渦流探傷装置がさらに高価となってしまう。
【0013】
一方、鋳巣または傷を検出する際に渦流探傷センサから得られる出力は、渦電流の変化を示すアナログの交流信号である。そして、鋳巣または傷の判定は、当該交流信号の振幅が所定の閾値を超えたか否かを見極めることにより行う。このため、被検査物の表面上における鋳巣または傷の位置や大きさを把握することは容易でなく、また、検査基準を満足するように上記閾値を設定することは容易でない。
【0014】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、被検査物の表面と渦流探傷センサとの距離を一定に保つために渦流探傷センサの位置を機械的に高精度に変化させる機構を設けることなく、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる渦流探傷装置および渦流探傷方法を提供することにある。
【0015】
本発明の第2の課題は、被検査物の表面上における鋳巣または傷の位置や大きさを容易に把握することができる渦流探傷装置および渦流探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の渦流探傷装置は、被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する渦流探傷装置であって、前記被検査物の表面に接近した位置に配置され、前記被検査物の表面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化を示す出力値を有する渦流探傷信号を出力する渦流探傷センサと、前記渦流探傷センサが前記被検査物の表面に接近した状態を維持しつつ前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置を前記被検査物の表面に沿うように変化させる位置制御手段と、前記位置制御手段により前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置が前記被検査物の表面に沿うように変化している間に、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化量を検出し、当該変化量に対応する出力値を有する距離変化信号を出力する距離センサと、前記渦流探傷センサから出力された前記渦流探傷信号の出力値と前記距離センサから出力された前記距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する補正演算手段とを備えていることを特徴とする。
【0017】
また、前記補正演算手段は、前記渦流探傷センサから出力された前記渦流探傷信号の出力値に前記距離センサから出力された前記距離変化信号の出力値を加算または減算することにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正することが望ましい。
【0018】
また、前記渦流探傷信号の出力値を前記補正演算手段により補正することにより取得された補正出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換し、これにより取得された複数の輝度値を前記被検査物の表面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、前記被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を示す画像を生成する画像生成手段を備えていることが望ましい。
【0019】
本発明の渦流探傷装置によれば、渦流探傷センサから出力された渦流探傷信号の出力値と距離センサから出力された距離変化信号の出力値とを用いて、被検査物の表面と渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる渦流探傷信号の出力値の誤差を補正するので、被検査物の表面と渦流探傷センサとの距離を一定に保つために渦流探傷センサの位置を機械的に高精度に変化させる機構を設けることなく、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる。
【0020】
また、画像生成手段を設けた場合には、被検査物の表面の鋳巣または傷を示す画像により、被検査物の表面上における鋳巣または傷の位置や大きさを容易に把握することが可能になる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の渦流探傷方法は、被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する渦流探傷方法であって、前記被検査物の表面に接近した状態を維持しつつ前記被検査物に対する位置が前記被検査物の表面に沿うように変化する渦流探傷センサにより、前記被検査物の表面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化を示す出力値を有する渦流探傷信号を取得する渦流探傷工程と、前記渦流探傷工程において前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置が前記被検査物の表面に沿うように変化している間に、距離センサにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化量を検出し、当該変化量に対応する出力値を有する距離変化信号を取得する距離変化検出工程と、前記渦流探傷工程において取得された前記渦流探傷信号の出力値と前記距離変化検出工程において取得された前記距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する補正演算工程とを備えていることを特徴とする。
【0022】
また、前記補正演算工程では、前記渦流探傷工程において取得された前記渦流探傷信号の出力値に前記距離変化検出工程において取得された前記距離変化信号の出力値を加算または減算することにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正することが望ましい。
【0023】
また、前記渦流探傷信号の出力値を前記補正演算工程において補正することにより取得された補正出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換し、これにより取得された複数の輝度値を前記被検査物の表面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、前記被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を示す画像を生成する画像生成工程を備えることが望ましい。
【0024】
本発明の渦流探傷方法によれば、渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値とを用いて渦流探傷信号の出力値の誤差を補正するので、被検査物の表面と渦流探傷センサとの距離を一定に保つために渦流探傷センサの位置を機械的に高精度に変化させる機構を用いることなく、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる。また、画像生成工程を追加した場合には、被検査物の表面の鋳巣または傷を示す画像により、被検査物の表面上における鋳巣または傷の位置や大きさを容易に把握することが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被検査物の表面と渦流探傷センサとの距離を一定に保つために渦流探傷センサの位置を機械的に高精度に変化させる機構を設けることなく、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる。また、渦流探傷方法を採用しながらも、被検査物の表面上における鋳巣または傷の位置や大きさを容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態による渦流探傷装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態による渦流探傷装置のセンサヘッドの構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態による渦流探傷装置における渦流探傷信号を示す特性線図である。
【図4】本発明の実施形態による渦流探傷装置における距離変化信号を示す特性線図である。
【図5】本発明の実施形態による渦流探傷装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態による渦流探傷装置において、補正後の渦流探傷信号に対応する輝度値を被検査物の表面上の位置に対応するように平面上に配列した状態を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態による渦流探傷装置における検査結果画像を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態による渦流探傷装置において渦流探傷信号の出力値に対応する輝度値に基づいて生成した渦流探傷画像を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態による渦流探傷装置において距離変化信号の出力値に対応する輝度値に基づいて生成した距離変位画像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
(渦流探傷装置の全体構成と動作)
図1は、本発明の実施形態による渦流探傷装置を示している。図1において、本発明の実施形態による渦流探傷装置1は、渦電流を用いて被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する装置である。本実施形態において被検査物はエンジンのシリンダブロック5であり、渦流探傷装置1は、シリンダブロック5におけるボア5Aの内面に形成された鋳巣または傷の検査に用いられる。なお、本実施形態におけるシリンダブロック5のボア5Aの横断面は設計上真円である。
【0029】
渦流探傷装置1は、水平方向移動装置11、探傷ユニット12およびコンピュータ装置17を備えている。水平方向移動装置11は、その上に載置されたシリンダブロック5を、図1中の矢示Aに示すように水平方向に移動させる装置である。
【0030】
探傷ユニット12は、回転駆動装置13、シャフト14、センサヘッド15、および垂直方向移動装置16を備えている。回転駆動装置13は、垂直方向移動装置16と共に位置制御手段の具体例であり、センサヘッド15を回転させるモータを有する。シャフト14は、上端側が回転駆動装置13に回転可能に接続され、回転駆動装置13のモータの駆動により例えば矢示B方向に回転する。センサヘッド15は、シャフト14の下端側に固定され、シャフト14と共に回転する。センサヘッド15には後述するように渦流探傷センサ24および距離センサ25等が設けられている。垂直方向移動装置16は、回転駆動装置13、シャフト14およびセンサヘッド15からなる構造体を矢示Cに示すように垂直方向に移動させる。このような構成を有する探傷ユニット12は、垂直方向移動装置16の下端側を架台(図示せず)に固定することにより、当該架台上に支持されている。
【0031】
コンピュータ装置17は、コンピュータ装置本体18およびディスプレイ19等を備えている。コンピュータ装置17として、パーソナルコンピュータシステムを用いることができる。
【0032】
シリンダブロック5のボア5Aの内面における鋳巣または傷の検査を行うときには、コンピュータ装置17により水平方向移動装置11を制御し、ボア5Aの開口部の位置とセンサヘッド15の位置とを水平方向において合わせる。続いて、コンピュータ装置17により垂直方向移動装置16を制御してセンサヘッド15を下方向に移動させ、センサヘッド15をボア5A内に挿入し、ボア5A上端側の開口部付近の所定の検査開始位置に位置決めする。続いて、コンピュータ装置17により回転駆動装置13および垂直方向移動装置16を制御し、センサヘッド15を一定の速度で360度回転させる動作と、センサヘッド15を下方向に一定距離移動させる動作とを、センサヘッド15がボア5Aの底部付近の所定の検査終了位置に到達するまで繰り返し行う。
【0033】
(センサヘッドの構成と動作)
図2は、渦流探傷装置1のセンサヘッド15を示している。図2に示すように、センサヘッド15は支持部材21を備えている。支持部材21は、シリンダブロック5のボア5A内においてボア5Aの内面に接触しないで回転することができるように、ボア5Aの直径よりも小さい長さ寸法を有する上面視長方形の板状に形成されている。支持部材21は、シャフト14の一端側に、図2中の矢示D、E方向に移動可能に接続されている。また、支持部材21には、シャフト14に対する支持部材21の矢示D、E方向の移動を規制するばね22が取り付けられている。また、支持部材21の水平方向の一端側(図2中の右側)には、一対のローラガイド23が支持部材21から水平方向における一方向(図2中の右方向)に突出するように設けられている。
【0034】
さらに、支持部材21の水平方向の一側(図2中の右側)には、渦流探傷センサ24が設けられている。渦流探傷センサ24は、シリンダブロック5のボア5Aの内面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化に基づいてボア5Aの内面に形成された鋳巣または傷を検出するセンサである。渦流探傷センサ24は、センサヘッド15がボア5A内に挿入されたときに、そのセンサ面が、ボア5Aの内面に接近した位置でボア5Aの内面に対向するように支持部材21上に位置決めされ、固定されている。また、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離は所定の距離、例えば0.3mmに設定されている。
【0035】
また、支持部材21の水平方向の他側(図2中の左側)には、距離センサ25が設けられている。距離センサ25は、シリンダブロック5のボア5Aの内面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化に基づいて距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離を検出するセンサである。距離センサ25は、センサヘッド15がボア5A内に挿入されたときに、そのセンサ面がボア5Aの内面に対向し、センサ面とボア5Aの内面との間の距離が所定の距離、例えば1.0mmとなるように支持部材21上に位置決めされ、固定されている。
【0036】
また、渦流探傷センサ24と距離センサ25とは水平方向において互いに反対の位置(互いに180度離れた位置)に配置されている。すなわち、センサヘッド15がボア5A内に挿入されたときに、渦流探傷センサ24と距離センサ25とを結んだ直線(図2中の一点鎖線)がボア5Aの直径と上下方向において重なり合う。
【0037】
ボア5Aの内面における鋳巣または傷の検査を行っている間、センサヘッドは、上述したように、ボア5A内において、一定の速度で矢示B方向に360度回転する動作と、ボア5Aの底部に向かって下方向に一定距離移動する動作とを繰り返し行う。この間、渦流探傷センサ24はボア5Aの内面に接近した状態を維持しつつ、ボア5Aの内面に沿うように移動する。
【0038】
すなわち、センサヘッド15がボア5A内に挿入されているとき、センサヘッド15に設けられたばね22により支持部材21が図2中の矢示E方向に押圧され、これにより一対のローラガイド23のローラがボア5Aの内面に当接する。これにより、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が0.3mmとなり、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が1.0mmとなる。たとえシャフト14の回転中心がボア5Aの水平方向における中心からずれた場合でも、支持部材21が矢示D、E方向に移動し、一対のローラガイド23のローラがボア5Aの内面に当接した状態が維持される。この結果、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が0.3mmに保たれ、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が1.0mmに保たれる。
【0039】
ここで、センサヘッド15の回転速度が低速(例えば毎分500回転程度)である場合には、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が0.3mmに保たれ、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が1.0mmに保たれることが実験等により確認されている。ところが、センサヘッド15の回転速度が高速(例えば毎分1000回転程度)になると、回転により生じる遠心力等が作用することにより、渦流探傷センサ24のセンサ面がボア5Aの内面にわずかに接近し、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離がわずかに(例えば0.1mm程度)減少すると共に、距離センサ25のセンサ面がボア5Aの内面からわずかに離間し、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離がわずかに(例えば0.1mm程度)増加することが実験等により判明している。
【0040】
(渦流探傷信号)
図3は、渦流探傷センサ24から出力された渦流探傷信号を示している。ボア5Aの内面における鋳巣または傷の検査を行っている間、渦流探傷センサ24は、図3に示すような渦流探傷信号を出力する。渦流探傷信号は、ボア5Aの内面に発生した渦電流の変化を示す信号であり、具体的には、ボア5Aの内面に発生した渦電流の変化に対応して出力値(電圧値)が変化するアナログの交流信号である。センサヘッド15が上記検査開始位置から検査終了位置にかけてボア5A内を移動している間、渦流探傷センサ24は渦流探傷信号を連続的に出力し続ける。
【0041】
渦流探傷センサ24のセンサ面がボア5Aの内面において鋳巣または傷が形成された部分に対向したとき、渦流探傷信号の出力値が増加する。また、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との距離が減少すると、渦流探傷信号の出力値が増加する。上述したように、センサヘッド15の回転速度が高速であり、遠心力等が作用して、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が減少すると、渦流探傷信号の出力値が増加する。そして、この渦流探傷信号の出力値の増加は、渦流探傷信号に基づいて鋳巣または傷を検出するに当たり誤差となる。
【0042】
(距離変化信号)
図4は、距離センサ25から出力された距離変化信号を示している。ボア5Aの内面における鋳巣または傷の検査を行っている間、距離センサ25は、図4に示すような距離変化信号を出力する。距離変化信号は、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離の変化量を示すアナログの信号である。センサヘッド15が上記検査開始位置から検査終了位置にかけてボア5A内を移動している間、距離センサ25は距離変化信号を連続的に出力し続ける。
【0043】
距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が増加すると、距離変化信号の出力値(電圧値)が減少する。上述したように、センサヘッド15の回転速度が高速であり、遠心力等が作用して、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が増加すると、距離変化信号の出力値が減少する。
【0044】
なお、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離が減少すると、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面と間の距離が増加し、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離の減少量と、距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面と間の距離が増加量とは等しいので、距離変化信号の出力値の絶対値は、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離の変化量に対応する。
【0045】
(補正演算および画像生成)
図5は、渦流探傷装置1の電気的構成を示している。図6は画像生成回路における画像生成処理を示し、図7は画像生成回路により生成された検査結果画像を示している。
【0046】
センサヘッド15に設けられた渦流探傷センサ24および距離センサ25はそれぞれケーブル等を介してコンピュータ装置本体18に接続されている(図1参照)。そして、図5に示すように、コンピュータ装置本体18内には、補正演算手段としての補正演算回路27および画像生成手段としての画像生成回路28が形成されている。
【0047】
補正演算回路27は、渦流探傷センサ24から出力された渦流探傷信号の出力値と距離センサ25から出力された距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、ボア5Aの内面と渦流探傷センサ24との間の距離の変化によって生じる渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する回路である。上述したようにセンサヘッド15の回転速度が高速である場合には、渦流探傷信号の出力値が増加することによって渦流探傷信号の出力値に誤差が生じるが、この誤差は、補正演算回路27による演算によって補正され、取り除かれる。
【0048】
すなわち、ボア5Aの内面における鋳巣または傷の検査を行っている間、渦流探傷センサ24から出力された渦流探傷信号およびこれと同時に距離センサ25から出力された距離変化信号はそれぞれ補正演算回路27に入力される。補正演算回路27は、渦流探傷センサ24から出力された渦流探傷信号の出力値と、これと同時に距離センサ25から出力された距離変化信号の出力値とを用いて下記数式(1)により演算を行い、ボア5Aの内面と渦流探傷センサ24との間の距離の変化によって生じる渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する。
【0049】
Vr=k(Vp+L)+θ (1)
ここで、Vrは補正後の渦流探傷信号の出力値であり、Vpは補正前の渦流探傷信号の出力値であり、Lは距離変化信号の出力値であり、k、θは被検査物の材質等に起因する係数、固定値である。
【0050】
一方、画像生成回路28は、補正演算回路27から出力される補正後の渦流探傷信号の出力値に基づいて、ボア5Aの内面における鋳巣または傷を示す検査結果画像を生成する回路である。
【0051】
すなわち、図6に示すように、補正後の渦流探傷信号の出力値を、ボア5Aの内面上の位置に対応するように配列すると、ボア5Aの内面上において渦流探傷信号の出力値が大きい部分、すなわち、ボア5Aの内面上における鋳巣または傷の位置が明確に分かる。この観点から、画像生成回路28は、補正後の渦流探傷信号の出力値(補正出力値)を所定の単位時間ごとに輝度値に変換した後、これにより得られた複数の輝度値をボア5Aの内面上の位置に対応するように平面上に配列し、図7に示すような検査結果画像31を生成する。
【0052】
具体的に説明すると、画像生成回路28は、補正後の渦流探傷信号の出力値を、必要に応じてアナログーデジタル変換した後、所定の単位時間ごとに、下記の数式(2)により例えば256階調の輝度値に変換する。
【0053】
Br=255(1−(Vr/Vrmax−Vrmin))+α (2)
ここで、Brは補正後の渦流探傷信号の出力値に対応する輝度値であり、Vrmax、Vrminはそれぞれ、センサヘッド15が上記検査開始位置から検査終了位置にかけて移動する間に得られた補正後の渦流探傷信号の出力値の絶対値の最大値および最小値である。αは所定の調整値である。数式(2)による変換によれば、補正後の渦流探傷信号の出力値が大きければ大きい程、輝度値が小さくなる。
【0054】
続いて、画像生成回路28は、補正後の渦流探傷信号の所定の単位時間ごとの出力値に対応する輝度値を、ボア5Aの内面上の位置に対応するように平面上に配列し、これにより、ボア5Aの内面における鋳巣または傷を示す検査結果画像31を生成する。この検査結果画像31は、ディスプレイ19に出力される。検査結果画像31において、鋳巣または傷がある部分は輝度が低くなるので暗く映り、鋳巣または傷がない部分は輝度が高くなるので明るく映る。図7に示す検査結果画像31中には鋳巣32が明確に映し出されている。検査者は、検査結果画像31を見ることにより、鋳巣または傷の有無だけでなく、ボア5Aの内面における鋳巣または傷の位置や、鋳巣または傷の大きさをも即座に明確に把握することができる。
【0055】
以上説明した通り、本発明の実施形態による渦流探傷装置1によれば、渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値とを用いて上記数式(1)による演算を行うことにより、ボア5Aの内面と渦流探傷センサ24との間の距離の変化によって生じる渦流探傷信号の出力値の誤差を補正し、これにより、鋳巣または傷の検出精度を高めることができる。
【0056】
また、高い検出精度を維持しながら、センサヘッド15の回転速度を高速化することができ、鋳巣または傷の検査時間を短くすることができる。
【0057】
また、鋳巣または傷の検出精度の向上またはセンサヘッド15の回転の高速化による検査時間の短縮を図るために、渦流探傷センサ24のセンサ面とボア5Aの内面との間の距離を精密に一定に保つための高価な位置調整機構を設ける必要がないので、鋳巣または傷の検出精度の向上またはセンサヘッド15の回転の高速化による検査時間の短縮を安価に実現することができる。
【0058】
また、画像生成回路28により、ボア5Aの内面における鋳巣または傷を示す検査結果画像31を生成する構成としたから、ボア5Aの内面における鋳巣または傷の位置や大きさを検査者に容易に把握させることができる。また、検査基準を満足するように、鋳巣または傷を欠陥と判定する閾値を容易に設定することが可能になる。
【0059】
なお、上述した実施形態では、補正演算回路27により渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値とを用いて渦流探傷信号の出力値を補正するに当たり、渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値との加算を含む上記数式(1)による演算を行う場合を例にあげた。しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば距離センサ25のセンサ面とボア5Aの内面との距離の変化に応じた距離変位信号の出力値の変化の方向が、上述した実施形態における場合と逆になる場合には、渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値との減算を含む数式による演算を行ってもよい。また、上記数式(1)よりも複雑な数式により演算を行ってもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では、補正演算回路27により渦流探傷信号の出力値と距離変化信号の出力値とを用いて上記数式(1)による演算を行って渦流探傷信号の出力値を補正した後、渦流探傷信号の出力値を上記数式(2)により輝度値に変換して検査結果画像31を生成する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。渦流探傷信号の出力値を輝度値に変換して配列することにより図8に示すような渦流探傷画像33を生成し、一方、距離変化信号の出力値を輝度値に変換して配列することにより図9に示すような距離変化画像34を生成し、これら2つの画像を用いて所定の画像処理を行うことにより、図7に示すような検査結果画像31を生成してもよい。
【0061】
具体的に説明すると、渦流探傷センサ24から出力された渦流探傷信号の出力値を用いて下記の数式(3)により演算を行い、渦流探傷信号の出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換する。
【0062】
Bp=255(1−(Vp/(Vpmax−Vpmin))+β (3)
ここで、Bpは渦流探傷信号の出力値に対応する輝度値であり、Vpは渦流探傷信号の出力値であり、Vpmax、Vpminはそれぞれ、センサヘッド15が上記検査開始位置から検査終了位置にかけて移動する間に得られた渦流探傷信号の出力値の絶対値の最大値および最小値であり、βは所定の調整値である。そして、これにより得られた複数の輝度値を、ボア5Aの内面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、図8に示すような渦流探傷画像33を生成する。
【0063】
また、距離センサ25から出力された距離変化信号の出力値を用いて下記の数式(4)により演算を行い、距離変化信号の出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換する。
【0064】
Bq=255(1−(L/(Lmax−Lmin))+β (4)
ここで、Bqは輝度値であり、Lは距離変化信号の出力値であり、Lmax、minはそれぞれ、センサヘッド15が上記検査開始位置から検査終了位置にかけて移動する間に得られた距離変化信号の出力値の最大値および最小値である。そして、これにより得られた複数の輝度値を、ボア5Aの内面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、図9に示すような距離変化画像34を生成する。
【0065】
続いて、渦流探傷画像33と距離変化画像34とを重ね合わせ、互いに対応する位置にある渦流探傷画像33の各輝度値と距離変化画像34の各輝度値とを用いて所定の演算を行うことにより、図7に示すような検査結果画像31を生成する。
【0066】
また、上述した実施形態では、エンジンのシリンダブロック5におけるボア5Aの内面に形成された鋳巣または傷を検査する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らず、他の部材の検査にも用いることができる。
【0067】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う渦流探傷装置および渦流探傷方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 渦流探傷装置
5 シリンダブロック(被検査物)
5A ボア
11 水平方向移動装置
12 探傷ユニット
13 回転駆動装置(位置制御手段)
14 シャフト
15 センサヘッド
16 垂直方向移動装置(位置制御手段)
17 コンピュータ装置
18 コンピュータ装置本体
19 ディスプレイ
21 支持部材
22 ばね
23 ローラガイド
24 渦流探傷センサ
25 距離センサ
27 補正演算回路(補正演算手段)
28 画像生成回路(画像生成手段)
31 検査結果画像
32 鋳巣
33 渦流探傷画像
34 距離変化画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する渦流探傷装置であって、
前記被検査物の表面に接近した位置に配置され、前記被検査物の表面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化を示す出力値を有する渦流探傷信号を出力する渦流探傷センサと、
前記渦流探傷センサが前記被検査物の表面に接近した状態を維持しつつ前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置を前記被検査物の表面に沿うように変化させる位置制御手段と、
前記位置制御手段により前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置が前記被検査物の表面に沿うように変化している間に、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化量を検出し、当該変化量に対応する出力値を有する距離変化信号を出力する距離センサと、
前記渦流探傷センサから出力された前記渦流探傷信号の出力値と前記距離センサから出力された前記距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する補正演算手段とを備えていることを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項2】
前記補正演算手段は、前記渦流探傷センサから出力された前記渦流探傷信号の出力値に前記距離センサから出力された前記距離変化信号の出力値を加算または減算することにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正することを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷装置。
【請求項3】
前記渦流探傷信号の出力値を前記補正演算手段により補正することにより取得された補正出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換し、これにより取得された複数の輝度値を前記被検査物の表面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、前記被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を示す画像を生成する画像生成手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の渦流探傷装置。
【請求項4】
被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を検査する渦流探傷方法であって、
前記被検査物の表面に接近した状態を維持しつつ前記被検査物に対する位置が前記被検査物の表面に沿うように変化する渦流探傷センサにより、前記被検査物の表面に渦電流を発生させ、当該渦電流の変化を示す出力値を有する渦流探傷信号を取得する渦流探傷工程と、
前記渦流探傷工程において前記被検査物に対する前記渦流探傷センサの位置が前記被検査物の表面に沿うように変化している間に、距離センサにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化量を検出し、当該変化量に対応する出力値を有する距離変化信号を取得する距離変化検出工程と、
前記渦流探傷工程において取得された前記渦流探傷信号の出力値と前記距離変化検出工程において取得された前記距離変化信号の出力値とを用いて所定の演算を行うことにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正する補正演算工程とを備えていることを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項5】
前記補正演算工程では、前記渦流探傷工程において取得された前記渦流探傷信号の出力値に前記距離変化検出工程において取得された前記距離変化信号の出力値を加算または減算することにより、前記被検査物の表面と前記渦流探傷センサとの間の距離の変化によって生じる前記渦流探傷信号の出力値の誤差を補正することを特徴とする請求項4に記載の渦流探傷方法。
【請求項6】
前記渦流探傷信号の出力値を前記補正演算工程において補正することにより取得された補正出力値を所定の単位時間ごとに輝度値に変換し、これにより取得された複数の輝度値を前記被検査物の表面上の位置に対応するように平面上に配列することにより、前記被検査物の表面に形成された鋳巣または傷を示す画像を生成する画像生成工程を備えていることを特徴とする請求項4または5に記載の渦流探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−163338(P2012−163338A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21548(P2011−21548)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】