説明

渦電流探傷方法

【課題】被検査面の曲率半径が不明な場合でも、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できる渦電流探傷方法を提供することにある。
【解決手段】演算制御部40は、試験体20Aの平面に渦電流プローブ3を密着させるまでに発生する検出信号と試験体20Bの曲面に渦電流プローブ3を密着させる際に発生する検出信号からリサージュ平面上にリフトオフ許容領域Aを求める。さらに、演算制御部40は、渦電流プローブを被検査体に密着させる過程で発生するリサージュ平面上の信号とリフトオフ許容領域Aを比較して、任意曲面に渦電流プローブを押付けた際のリフトオフ量を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流探傷方法に係り、特に、曲率を有する検査面の渦電流探傷に用いるに好適な渦電流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷法の原理は、導電性の被検査体を対象としてコイルにより発生する交流磁場により、被試験体に渦電流を誘起させ、欠陥による渦電流の乱れに起因するコイルのインピーダンス変化から欠陥の有無を評価するものである。渦電流探傷装置は、プローブと被検査体の距離であるリフトオフの変化によっても信号が発生する。この特性を利用することでリフトオフを測定することが可能である。一方、プローブとして、広範囲の測定や曲面の検査が可能である複数のコイルを規則的に配列したマルチコイルプローブが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
渦電流探傷法は、プローブと被検査体との距離(リフトオフ)により検出感度が変化することから、探傷前にプローブは、適切に被検査体へ配置することが必要となる。この状態は目視で確認できるが、狭隘部や構造物が隣接する部位の検査に関しては、目視での確認が困難となる場合がある。加えて、遠隔操作の場合も同様である。
【0004】
この対策として、リフトオフの信号が得られる渦電流探傷プローブの利用により、被検査体との距離を推定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−147525号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第8回表面探傷シンポジウム講演論文集p.139-142(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のものは、プローブを被検査体に配置する際の密着性を評価するものであるが、プローブを配置する被検査面の曲率が既知の場合に有効な手段である。それに対して、曲率の分からない部位に対しては、プローブの曲がり状態によってリフトオフの信号特性が変化することが考えられ、適用できない場合が生じる。このため、被検査面の曲率半径が不明な場合は、別の手段が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、被検査面の曲率半径が不明な場合でも、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できる渦電流探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、複数のコイルを規則的に基板に配置した渦電流プローブと被検査体と同材であり、平面及び曲面を模擬した試験体を用いて、該試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させるまでに発生する検出信号と前記試験体の曲面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する検出信号からリサージュ平面上にリフトオフ許容領域を求め、前記渦電流プローブを被検査体に密着させる過程で発生するリサージュ平面上の信号と前記リフトオフ許容領域を比較して、任意曲面に渦電流プローブを押付けた際のリフトオフ量を評価するようにしたものである。
かかる方法により、被検査面の曲率半径が不明な場合でも、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるものとなる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記リフトオフ許容領域は、前記試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第一の検出信号と、前記試験体の曲面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第二の検出信号と、前記リサージュ平面上の第一の検出信号の前記プローブが密着した位置の点と第二の検出信号の前記プローブが密着した位置での点とにより求められる直線と、前記リサージュ平面上の前記試験体の平面に前記渦電流プローブをリフトオフXmmまで接近させた点と、前記試験体の曲面に前記渦電流プローブをリフトオフXmmまで接近させた点とより求められる直線近似とから求めるようにしたものである。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記リフトオフ許容領域は、前記試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第一の検出信号と、前記試験体の平面にプローブを密着させ、密着(状態を維持し曲面部に向かって走査する際の第二の検出信号と、前記試験体の曲面からにプローブを離す際に発生する第三の検出信号と、試験体の平面にプローブをリフトオフXmmまで近づけ、この距離を維持し曲面に走査する際に発生する第四の検出信号とから求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検査面の曲率半径が不明な場合でも、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法に用いる渦電流プローブの構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法を実施する渦電流探傷装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、平板状の被検査面にプローブが近づく場合の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、平板状の被検査面にプローブが近づく場合の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、プローブが徐々に曲げられた場合の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、プローブが徐々に曲げられた場合の説明図である。
【図7】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、プローブが徐々に曲げられた場合の説明図である。
【図8】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、被検査体の曲率が変化するような部分に対してプローブを走査した場合の説明図である。
【図9】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、被検査体の曲率が変化するような部分に対してプローブを走査した場合の説明図である。
【図10】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、曲面部に密着したプローブを、徐々に被検査面から離した場合の説明図である。
【図11】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、曲面部に密着したプローブを、徐々に被検査面から離した場合の説明図である。
【図12】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法における、被検査体及びプローブの状態による検出信号の内容の説明図である。
【図13】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【図14】本発明の一実施形態による渦電流探傷方法の説明図である。
【図15】本発明の他の実施形態による渦電流探傷方法を実施する渦電流探傷装置の構成を示すブロック図である。
【図16】本発明の他の実施形態による渦電流探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図14を用いて、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法に用いる渦電流プローブの構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法に用いる渦電流プローブの構成図である。図1(A)は平面図であり、図1(B)は正面図である。
【0015】
本実施形態で用いるマルチコイルプローブ3は、可撓性基板2に複数のコイル1を規則的に取り付けたものであり、プローブ自体が曲がることで被検査面の曲率に密着し、曲がりによる信号が発生する。
【0016】
渦電流探傷プローブ3は、例えば、検出信号1chは、コイル1A1で磁場を発生し、コイル1A2で信号を検出する。検出信号2chはコイル1B1で磁場を発生し、コイル1B2で検出する。これを、高速に切替えコイル幅に対応する領域の検査を1度の走査で実施できる。
【0017】
次に、図2を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法を実施する渦電流探傷装置の構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法を実施する渦電流探傷装置の構成を示すブロック図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0018】
渦電流探傷装置は、マルチコイルプローブ3と、移動部30と、演算制御部40とから構成される。また、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)の許容値を求めるための試験体20A,20Bが用いられる。試験体20Aは、表面が平坦であり、実検査部と同材、又は同等の電気・磁気特性を有する部材からなる。試験体20Bは、その表面に所定の曲率を有する断面円弧状の溝が形成されており、実検査部と同材、又は同等の電気・磁気特性を有する部材からなる。
【0019】
移動部30は、試験体20A,20Bとの間の距離を変えながら、マルチコイルプローブ3を移動させるものであり、演算制御部40によって制御される。移動部30は、マルチコイルプローブ3を試験体20A,20Bに密着させることもできる。移動部30は、破線Aで示すように、マルチコイルプローブ3を試験体20Aの表面に徐々に近づけ、さらに、試験体20Aの表面に密着させることができる。また、移動部30は、破線Bで示すように、マルチコイルプローブ3を試験体20Bの上に移動し、マルチコイルプローブ3を試験体20Bの表面に徐々に近づけ、さらに、試験体20Bの表面に密着させることができる。マルチコイルプローブ3は、試験体20Bの円弧状の溝に密着したときは、その溝の曲率に応じて曲げられる。さらに、移動部30は、破線Cで示すように、マルチコイルプローブ3を試験体20Bに密着した状態から徐々に離すことができる。このとき、移動部30は、マルチコイルプローブ3が曲げられた状態を保持したまま移動する。
【0020】
演算制御部40は、例えば、渦電流探傷プローブ3の図1に示したコイル1Aで磁場を発生する。このとき、図1に示したコイル2Aから検出された信号は、演算制御部40に取り込まれる。
【0021】
次に、図3〜図12を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法におけるリフトオフ測定の原理について説明する。
励磁コイルと検出コイルを有する相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブは、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)に対応して検出信号が発生する。図1に示したように、可撓性基板2に複数のコイル1を規則的に取り付けたマルチコイルプローブ3は、プローブ自体が曲がることで被検査面の曲率に密着するが、曲がりによる信号が発生する。
【0022】
以下、リフトオフ、プローブ曲がりによる信号に関して説明する。
【0023】
最初に、図3及び図4を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法において、平板状の被検査面にプローブが近づく場合のプローブの検出信号の変化について説明する。
図3及び図4は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、平板状の被検査面にプローブが近づく場合の説明図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0024】
図3に示すように、検査では、プローブ3を被検査面に設置するため、表面が平板状の被検査面20Aから離れている(状態1)から、矢印A方向にプローブ3を移動させ、被検査面20Aに接近させ密着させ、最終的に密着した(状態2)が存在する。この間に発生するプローブ3の検出信号がリフトオフによる信号である。
【0025】
ここで、図4は、コイル1Anとコイル1A(n+1)の対で発生する検出信号を示している。図4において、横軸にX成分を示し、縦軸にY成分を示している。仮に、(状態1)を(原点5)とした場合を考えると、リフトオフによる信号は(状態2)を示す(点6)に向かう軌跡を描く。
【0026】
次に、図5〜図7を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法において、プローブが徐々に曲げられた場合のプローブの検出信号の変化について説明する。
図5〜図7は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、プローブが徐々に曲げられた場合の説明図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0027】
図5に示すように、(状態1)からプローブがある曲率に曲がった状態3に変化した場合、検出信号は図6に示すようになる。すなわち、(状態1)を(原点5)とすると、(状態3)は(点7)に向かって直線的に変化する。これは、図7に示すように、nchを形成するプローブ要素を励磁コイル1Anと検出コイル1A(n+1)、は、プローブが曲がることにより、励磁コイル1Anと検出コイル1A(n+1)の距離が変化する。磁場8は励磁コイル1Anから距離が離れるに従い減衰することから、プローブが曲がることにより検出信号も変化する。また、この変化は渦電流の発生、分布の変化を伴わないため、図6に示すように、検出信号は直線的に変化する。
【0028】
次に、図8及び図9を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法において、被検査体の曲率が変化するような部分に対してプローブを走査した場合のプローブの検出信号の変化について説明する。
図8及び図9は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、被検査体の曲率が変化するような部分に対してプローブを走査した場合の説明図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0029】
図8に示すように、平面部から曲面になめらに変化する被検査体20’に対して、平面部にプローブ3を配置する。この状態は図3の(状態2)と同様である。プローブ3は、被検査面に密着した状態で曲面部に走査する。表面の曲率半径は徐々に小さくなるように変化する。図8に示すように、プローブ3を曲面部まで走査した状態を、(状態4)とする。
【0030】
この場合の検出信号は、図9に示すように、(状態2)を示す(点6)から、(点10)まで直線的に変化する。これは、先に図7により説明したように、プローブの曲がることによる変化を示すためである。また、被検査体9に発生する渦電流は減衰したり分布が大きく変化することがないため、(点6)から(点10)まで直線的に変化する。
【0031】
次に、図10及び図11を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法において、曲面部に密着したプローブを、徐々に被検査面から離した場合のプローブの検出信号の変化について説明する。
図10及び図11は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法において、曲面部に密着したプローブを、徐々に被検査面から離した場合の説明図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0032】
図10に示すように、曲面の被検査体20Bにプローブ3が密着した状態を(状態4)とし、徐々に離した状態を(状態5)とする。このときの検出信号は、図11に示すように、(点10)から(点7)に移動する。(状態5)は、先に説明した(状態2)と同様であるため、双方の状態を示す(点7)は重なる。
【0033】
次に、図12を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法における、被検査体及びプローブの状態による検出信号について纏めて説明する。
図12は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法における、被検査体及びプローブの状態による検出信号の内容の説明図である。
【0034】
以上をまとめると、被検査体及びプローブの状態により検出信号は特徴的な変化を示すことが分かる。
【0035】
被検査体が無くプローブが伸びた状態(点5)を基準にする(これは検出信号の原点に設定することを示す)。その検出信号は、図11に示すように、(点5)から(点7)へ矢印12方向に向かう軌跡は、被検査体が無い状態でプローブが伸びた状態から曲率半径が小さくなるように曲がる際の検出信号である。(点6)から(点10)へ向かう矢印13方向の軌跡は、被検査体上にプローブを密着させた状態で、被検査体の曲率に倣ってプローブが曲がる状態を示す。(点6)は平面上にプローブがある状態から曲率半径が小さくなるに従い(点10)へ変化する。そして、この双方の特性の間を移動する検出信号はプローブと被検査体のリフトオフにより発生する検出信号である。矢印14に示す方向に対応してリフトオフが小さくなり、(点6)と(点10)間の線上で被検査体に密着する。
【0036】
この被検査体及びプローブの状態による検出信号の特性を予め準備しておくことで、被検査体の曲率の分からない部位に対しても、プローブを設置した際の密着状態を把握することができる。
【0037】
次に、図13及び図14を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法の内容について説明する。
図13は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法の内容を示すフローチャートである。図14は、本発明の一実施形態による渦電流探傷方法の説明図である。
【0038】
本実施形態では、図12の(点5)、(点6)、(点10)を、以下の手順で決定する。
【0039】
最初に、ステップS10において、演算制御部40は、被検査体から離れた位置でプローブを伸ばした状態で検出信号の原点設定を実施する。この設定は、渦電流探傷検査においてバランス設定やNULL設定と呼ばれる。この設定値が(点5)となる。
【0040】
その後、ステップS15において、演算制御部40は、移動部30を制御して、図2に示す試験体20Aにプローブを密着させるようにプローブを移動するとともに、この過程で発生する検出信号を収録する。試験体20Aは、実検査部と同材、又は同等の電気・磁気特性である。この検出信号により(点6)が決定される。
【0041】
次に、ステップS20において、演算制御部40は、図13に示す試験体20Bを利用して、曲面にプローブを密着させた状態の検出信号を収録する。これにより、(点10)が決定される。
【0042】
次に、ステップS25において、演算制御部40は、(点6)と(点10)の間を直線近似する。
【0043】
次に、ステップS30及びステップS35において、演算制御部40は、リフトオフの許容値の値を同様の手順で測定する。この点を(点6’)、(点10’)とする。具体的には、試験体20Aの平面部にプローブをリフトオフXmmまで近づける過程で検出信号を測定し、また、試験体20Bの曲面部にプローブをリフトオフXmmまで近づける過程で検出信号を測定する。リフトオフの許容値Xmmが、例えば1mmであれば、試験体上に1mmのスペーサを配置した状態で測定することで可能である。なお、(点6)、(点10)を決定する測定で、リフトオフの距離に対応する検出信号を収録している場合は、改めて測定することは必要なく、データからリフトオフ1mmに対する(点6’)、(点10’)を決定する。
【0044】
そして、ステップS40において、演算制御部40は、ステップS30で求められた(点6’)とステップS35で求められた(点10’)を直線で近似する。
【0045】
さらに、ステップS45において、演算制御部40は、リサージュ平面上の(点6)、(点10)、(点10’)、(点6’)、(点6)で囲まれる領域Aを決定する。
【0046】
このようにして得られる特性は、図14に示すようになる。(点6)、(点10)、(点10’)、(点6’)、(点6)で囲まれる領域がリフトオフ許容値を踏まえリフトオフ許容領域Aとなる。
【0047】
なお、前記の説明では、(点7)について論究していたが、実際に必要となるのは、(点6)、(点10)、(点10’)、(点6’)、(点6)で囲まれる領域であるので、(点7)は必ずしも求める必要はないものである。(点7)を求める際には、曲面に沿って曲がったプローブ形状を保持した状態で、試験体21から離す過程で発生する検出信号を収録する。
【0048】
次に、実際に渦電流プローブを用いて被検査体の検査を行う際には、まず、ステップS50において、演算制御部40は、移動部30により被検査部の近傍に配置した状態で原点設定を実施する。被検査体の影響を受けないように、プローブは被検査体から十分はなれた距離であることが必要となる。30mm以上離すことが望ましい。
【0049】
ステップS55において、演算制御部40は、渦電流プローブ3を被検査体に密着させる過程で発生するリサージュ平面上の信号を測定し、さらに、ステップS60において、測定した信号と前述のリフトオフ領域Aを比較する。試験体で求めたリフトオフ許容領域の内部にあれば検査可能、無ければ再試行となる。
【0050】
以上の手順により、任意曲面に渦電流プローブを押付けた際のリフトオフを評価できる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め平面から曲面までの被検査体に対する渦電流探傷による検査信号を収録できることから、被検査体の曲率の分からない部位に対しても、プローブを設置した際の密着状態を把握することができる。
【0052】
次に、図15及び図16を用いて、本発明の他の実施形態による渦電流探傷方法について説明する。
図15は、本発明の他の実施形態による渦電流探傷方法を実施する渦電流探傷装置の構成を示すブロック図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。図16は、本発明の他の実施形態による渦電流探傷方法の内容を示すフローチャートである。
【0053】
本実施形態で用いる試験体20Cは、平面部23から徐々に曲面部24へと変化する形状を持つ。試験体20Cは、実検査部と同材、又は同等の電気・磁気特性である。プローブ3を平面部に密着させる過程で発生する検出信号を収録するには、平面部23を利用する。これにより、(点6)を決定する。次に、平面部23から曲面部24までプローブを密着させた状態で移動させる。これにより、(点6)から(点10)への検出信号及び(点10)を決定する。
【0054】
図16において、最初にステップS10において、演算制御部40は、計測器のバランス設置を実施する。すなわち、被検査体から離れた位置でプローブを伸ばした状態で検出信号の原点設定を実施する。この設定値が(点5)となる。
【0055】
その後、図15に示す試験体20Cを用いる。この試験体は平面部から徐々に曲面へと変化する形状を持つ。
【0056】
次に、ステップS15において、演算制御部40は、平板試験体の平面部にプローブを近づけ、密着させる過程の第一の検出信号(図14の(点6))を測定する。
【0057】
次に、ステップS20’において、演算制御部40は、移動部30を制御して、試験体20Cの平面部22にプローブを密着させた状態を維持したまま、曲面部23に向かって走査する際に発生する第二の検出信号(図14の(点10)を測定する。
【0058】
次に、ステップS35’において、演算制御部40は、試験体20Cの曲面部23から、プローブを曲げたままの状態でプローブをリフトオフXmmまで離す際に第三の検出信号(図14の(点10’)を測定する。
【0059】
次に、ステップS40’において、演算制御部40は、試験体の平面部にプローブをリフトオフXmmまで近づける際に発生する第四の検出信号(図14の(点6’)を求める。
【0060】
さらに、ステップS45において、演算制御部40は、リサージュ平面上の(点6)、(点10)、(点10’)、(点6’)、(点6)で囲まれる領域Aを決定する。
【0061】
次に、実際に渦電流プローブを用いて被検査体の検査を行う際には、まず、ステップS50において、演算制御部40は、移動部30により被検査部の近傍に配置した状態で原点設定を実施する。被検査体の影響を受けないように、プローブは被検査体から十分はなれた距離であることが必要となる。30mm以上離すことが望ましい。
【0062】
ステップS55において、演算制御部40は、渦電流プローブ3を被検査体に密着させる過程で発生するリサージュ平面上の信号を測定し、さらに、ステップS60において、測定した信号と前述のリフトオフ領域Aを比較する。試験体で求めたリフトオフ許容領域の内部にあれば検査可能、無ければ再試行となる。
【0063】
以上の手順により、任意曲面に渦電流プローブを押付けた際のリフトオフを評価できる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め平面から曲面までの被検査体に対する渦電流探傷による検査信号を収録できることから、被検査体の曲率の分からない部位に対しても、プローブを設置した際の密着状態を把握することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…コイル
2…可撓性基板
3…マルチコイルプローブ
20…試験体
30…移動部
40…制御演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルを規則的に基板に配置した渦電流プローブと被検査体と同材であり、平面及び曲面を模擬した試験体を用いて、
該試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させるまでに発生する検出信号と前記試験体の曲面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する検出信号からリサージュ平面上にリフトオフ許容領域を求め、
前記渦電流プローブを被検査体に密着させる過程で発生するリサージュ平面上の信号と前記リフトオフ許容領域を比較して、任意曲面に渦電流プローブを押付けた際のリフトオフ量を評価することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項2】
請求項1記載の渦電流探傷方法において、
前記リフトオフ許容領域は、
前記試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第一の検出信号と、
前記試験体の曲面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第二の検出信号と、
前記リサージュ平面上の第一の検出信号の前記プローブが密着した位置の点と第二の検出信号の前記プローブが密着した位置での点とにより求められる直線と、
前記リサージュ平面上の前記試験体の平面に前記渦電流プローブをリフトオフXmmまで接近させた点と、前記試験体の曲面に前記渦電流プローブをリフトオフXmmまで接近させた点とより求められる直線近似とから求めることを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項3】
請求項1記載の渦電流探傷方法において、
前記リフトオフ許容領域は、
前記試験体の平面に前記渦電流プローブを密着させる際に発生する第一の検出信号と、
前記試験体の平面にプローブを密着させ、密着(状態を維持し曲面部に向かって走査する際の第二の検出信号と、
前記試験体の曲面からにプローブを離す際に発生する第三の検出信号と、
試験体の平面にプローブをリフトオフXmmまで近づけ、この距離を維持し曲面に走査する際に発生する第四の検出信号とから求めることを特徴とする渦電流探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−2632(P2012−2632A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137164(P2010−137164)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】