説明

渦電流探傷装置、方法、及びプログラム

【課題】被検査体を磁気飽和させる素子を小型化して狭隘部の探傷を容易化するとともに、被検査体間との引力を低減してその表面に対するコイル等の走査性を向上させる渦電流探傷技術を提供することを目的とする。
【解決手段】渦電流探傷装置1は、探傷コイル(第1コイル11)及び磁化コイル(第2コイル21)を被検査体2の表面に走査させる走査部30と、この第1コイル11に交流磁場を発生させ被検査体2に生じた渦電流の誘導磁場を検出する探傷部10と、第2コイル21にパルス磁場を発生させそのパルス周期Tに応じて被検査体2を磁気飽和させる磁化部20と、このパルス周期Tに対応して前記誘導磁場の検出信号Dを取得する解析部14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被検査体の表面又は内部に存在するき裂等の欠陥を検出する渦電流探傷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の表面近傍に存在するき裂を検出する手法として渦電流探傷装置がある。この装置は、金属表面に設置されたコイルにより磁場を発生させ、この磁場により金属表面近傍に渦電流を誘起する。
金属表面近傍にき裂があると誘起された渦電流の流れが変化し、渦電流のつくる磁場強度分布が変化する。この磁場強度分布変化をコイルにおいて検出することでき裂の有無を検知することができる。
【0003】
この渦電流探傷装置においては、被検査体を構成する金属が磁性を帯びていると、磁気ノイズの影響により、この被検査体に存在する欠陥の検出感度が低下してしまう。
そこで、この磁気ノイズを低減するために、この被検査体を構成する金属を磁気飽和させる方法が知られている。そして、金属を磁気飽和させる素子として永久磁石を用いることが開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−309573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、永久磁石を用いて金属を磁気飽和させる場合、永久磁石の大型化が避けられず被検査体の狭隘部の探傷が困難になる。また、永久磁石と被検査体とが強い磁力で引き合うため、永久磁石とコイルとを被検査体の表面に走査させることが困難になるといった課題があった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、被検査体を磁気飽和させる素子を小型化して狭隘部の探傷を容易化するとともに、コイル等の走査性を向上させる渦電流探傷技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
渦電流探傷装置は、第1コイル及び第2コイルを前記被検査体の表面に走査させる走査部と、前記第1コイルに交流磁場を発生させ前記被検査体に生じた渦電流の誘導磁場を検出する探傷部と、前記第2コイルにパルス磁場を発生させそのパルス周期に応じて前記被検査体を磁気飽和させる磁化部と、前記パルス周期に対応して前記誘導磁場の検出信号を取得する解析部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、被検査体を磁気飽和させる素子を小型化して狭隘部の探傷を容易化するとともに、コイル等の走査性を向上させる渦電流探傷技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る渦電流探傷装置の実施形態を示すブロック図。
【図2】被検査体の表面に対するコイル走査の説明図。
【図3】被検査体を磁気飽和させるパルス磁場を発生する第2コイルに流す電流チャート。
【図4】(A)正のバイアスを有するパルス磁場を発生させる電流チャート、(B)負のバイアスを有するパルス磁場を発生させる電流チャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、渦電流探傷装置1は、探傷コイル(第1コイル11)及び磁化コイル(第2コイル21)を被検査体2の表面に走査させる走査部30と、この第1コイル11に交流磁場を発生させ被検査体2に生じた渦電流の誘導磁場を検出する探傷部10と、第2コイル21にパルス磁場(図3参照)を発生させそのパルス周期Tに応じて被検査体2を磁気飽和させる磁化部20と、このパルス周期Tに対応して前記誘導磁場の検出信号Dを取得する解析部14と、を備えている。
【0011】
このように構成されることにより、被検査体2が磁気飽和したタイミングで、探傷試験を実施することになるので、磁気ノイズの影響を低減して、被検査体2の欠陥検出の感度が向上する。
また、被検査体2を磁気飽和させる第2コイル21は、流れる電流の時間平均値を小さくすることができるために(図3参照)、小型化される。これにより、被検査体2の狭隘部(図示略)の探傷が容易化する。
さらに、パルス磁場の時間平均値が小さいことに起因して被検査体2と第2コイル21との引力が低減し、その表面に対する走査性が向上する。
【0012】
走査部30は、支持部材31に固定した第1コイル11及び第2コイル21を、被検査体2の表面に近接又は接触させた状態で、設定された運行経路に沿って移動させるものである(図2参照)。
なお、被検査体2として平面板を例示しているが、その他、配管、球面体、曲面体を含む任意形状のものが対象となる。
【0013】
この走査部30の具体例は、種々あるが、図1のように車輪付の台車である場合の他に、ワイヤによる牽引装置、圧力ガスによる押出装置等で実現することができる。
もしくは、支持部材31を、回転スクリューによりレール案内されるステージ上に配置して、X軸方向、Y軸方向、又はZ軸方向の任意の方向に走査することもできる。また、多軸アームロボットの先端に、この支持部材31を固定して、複雑形状の表面を走査させることもできる。
【0014】
探傷部10は、第1コイル11に交流電流Jを流してその内部および周辺に交流磁場を発生させる交流磁場発生部12と、この交流磁場により被検査体2の内部に発生した渦電流の誘導磁場が第1コイル11に交差して出力される検出信号Dを受信する応答磁場検出部13とから構成される。
被検査体2にき裂等の欠陥があると、その部分における渦電流の流れが変化し、渦電流の誘導磁場の強度分布が変化する。そして、この強度分布変化を、第1コイル11で検出することにより、この第1コイル11周辺における被検査体2の欠陥の有無を知ることができる。
【0015】
このように、第1コイル11は、交流電流Jを入力して被検査体2に交流磁場を印加する機能と、この被検査体2に発生した渦電流による磁場を検知して検出信号Dを出力する機能と、を併せ持つ。なお、第1コイル11は、そのように交流電流Jを入力するコイルと、検出信号Dを出力するコイルとが、それぞれ別体で構成される場合もある。
【0016】
磁化部20は、パルス電流U(図3)を第2コイル21に入力させるパルス磁場発生部22と、このパルス電流Uの供給源である電源部23と、このパルス電流Uに直流電流Bを重畳させるバイアス部25と、から構成されている。
【0017】
これにより第2コイル21は、パルス電流U(図3)に同期したパルス磁場を被検査体2に印加することになる。すると、被検査体2は、パルス周期Tの時間間隔で、磁気飽和する状態変化を繰り返す。
【0018】
これにより、初期状態で被検査体2が磁性を帯びている場合に、検出信号Dに反映される磁気ノイズを低減することができる。また、第2コイル21は、流す電流の時間平均値を小さくすることができるために、小型化される。さらに、第2コイル21から発生するパルス磁場の時間平均値も小さくなるために被検査体2と第2コイル21との引力が低減し、走査性が向上する。
【0019】
バイアス部25は、第2コイル21が付与するパルス磁場に対し直流磁場を正方向(図4(A))又は負方向(図4(B))に重畳するものである。
図4(A)に示すように、パルス電流に、正の直流電流を重畳させた波形を第2コイル21に入力することにより、電流値の変動量を低減して電源部23の負担を減らすことができる。
【0020】
また、図4(B)に示すように、パルス電流に、負の直流電流を重畳させた波形を第2コイル21に入力することにより、被検査体2を反対方向に磁化させた後に、磁気飽和させることになる。これにより、被検査体2がこれまで受けた磁気履歴の影響を排除することができ、磁気飽和状態の再現性が向上し、高精度の探傷試験が実現される。
【0021】
条件設定部24は、第2コイル21に流すパルス電流Uのパルス周期T及びパルス幅Wを調整してパルス磁場の出力を設定するパルス条件設定部(図示略)と、第2コイル21に流れる電流のパルス振幅Lを電源部23において調整しパルス磁場の出力を設定する振幅条件設定部(図示略)と、から構成されている。
【0022】
パルス条件設定部(図示略)で設定されるパルス周期Tは、その設定値に依存して被検査体2の磁気飽和状態が変化するために、種々の条件を鑑みたうえで最適値を選択する。また、パルス幅Wは、このパルス周期Tの1/2以下に設定する(W≦0.5T)ことが望ましい。
【0023】
また、パルス条件設定部は、図2に示される第1コイル11及び第2コイル21の走査速度X及び検出点S(図2)の検出ピッチYの入力情報から、次式(1)(2)に基づいてパルス周期T又はパルス幅Wを設定することができる。
T=Y/X (1)
W=kT (k≦0.5) (2)
【0024】
振幅条件設定部(図示略)で設定されるパルス振幅Lは、その設定値に依存して被検査体2の磁気飽和状態が変化するために、種々の条件を鑑みたうえで最適値を選択する。
この磁気飽和の状態に依存して、検出信号Dに反映される磁気ノイズが変化するために、解析結果の判定において欠陥に由来するものか否かを識別するうえで、パルス周期T、パルス振幅L、パルス幅Wを可変測定する意義がある。
【0025】
解析部14は、パルス周期Tでパルス電流Uが極大値をとるタイミングで、検出信号Dを取得するものである。すなわち、被検査体2が磁気飽和した状態における磁気ノイズの影響の低減した検出信号Dにより、欠陥の有無を解析するものである。
この解析部14は、交流電流J及び検出信号Dの波形から両信号の強度比及び位相ずれ等の検出情報を導き、さらに一般的なデータ処理を施した上で、き裂等の欠陥の有無に関する解析結果を出力する。
【0026】
具体的な解析結果としては、検出信号Dが被検査体2に発生する渦電流の複素インピーダンスの変化を反映していることに基づいて、この複素インピーダンスを実数部と虚数部に分離してリサージュ描画する等が挙げられる。そして、このリサージュの波形からき裂等の欠陥の有無を判断することが可能となっている。
【0027】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、渦電流探傷装置は、コンピュータによって各手段を各機能プログラムとして実現することも可能であり、各機能プログラムを結合して渦電流探傷プログラムとして実施することも可能である。
また、走査部30によるコイルの走査は、一定速度であることを例示したが、これに限定されるものではない。コイルをステップ送りすることも考えられる。この場合、コイルの走査ステップの周期と、パルス磁場のパルス周期Tとは、同期している必要がある。
【符号の説明】
【0028】
1…渦電流探傷装置、2…被検査体、10…探傷部、11…第1コイル、12…交流磁場発生部、13…応答磁場検出部、14…解析部、20…磁化部、21…第2コイル、22…パルス磁場発生部、23…電源部、24…条件設定部、25…バイアス部、30…走査部、31…支持部材、D…検出信号、J…交流電流、S…検出点、U…パルス電流、X…走査速度、Y…検出ピッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コイル及び第2コイルを前記被検査体の表面に走査させる走査部と、
前記第1コイルに交流磁場を発生させ前記被検査体に生じた渦電流の誘導磁場を検出する探傷部と、
前記第2コイルにパルス磁場を発生させそのパルス周期に応じて前記被検査体を磁気飽和させる磁化部と、
前記パルス周期に対応して前記誘導磁場の検出信号を取得する解析部と、を備えることを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項2】
前記第2コイルに流す電流を調整して前記パルス磁場のパルス幅及び前記パルス周期を設定するパルス条件設定部を備えることを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷装置。
【請求項3】
前記パルス条件設定部は、前記走査の速度情報及び検出ピッチ情報に基づいて、前記パルス周期又は前記パルス幅を設定することを特徴とする請求項2に記載の渦電流探傷装置。
【請求項4】
前記パルス磁場に対し直流磁場が正方向又は負方向にバイアスされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の渦電流探傷装置。
【請求項5】
前記第2コイルに流す電流を調整して前記パルス磁場のパルス振幅を設定する振幅条件設定部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の渦電流探傷装置。
【請求項6】
第1コイル及び第2コイルを被検査体の表面に走査させるステップと、
前記第1コイルに交流磁場を発生させ前記被検査体に生じた渦電流の誘導磁場を検出するステップと、
前記第2コイルにパルス磁場を発生させそのパルス周期に応じて前記被検査体を磁気飽和させるステップと、
前記パルス周期に対応して前記誘導磁場の検出信号を取得するステップと、を含むことを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項7】
コンピュータを、
第1コイル及び第2コイルを被検査体の表面に走査させる手段、
前記第1コイルに交流磁場を発生させ前記被検査体に生じた渦電流の誘導磁場を検出する手段、
前記第2コイルにパルス磁場を発生させそのパルス周期に応じて前記被検査体を磁気飽和させる手段、
前記パルス周期に対応して前記誘導磁場の検出信号を取得する手段、として機能させることを特徴とする渦電流探傷プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−185026(P2012−185026A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48075(P2011−48075)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】