説明

温度応答性を有する生分解性グラフト共重合体

【課題】水溶液とした場合に温度に応答してゾル-ゲル転移型の温度応答性を示す生分解性ポリマー、及びその製造方法の提供。
【解決手段】ヒドロキシ酸ユニット及びアスパラギン酸ユニットを含む生分解性共重合体を主鎖とし、該主鎖に親水性ポリエーテルを含む側鎖を有してなる温度応答性を有する生分解性ポリマーであり、具体的には、一般式(A):


(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示す。)で表される温度応答性生分解性ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度に応答してゲル化する生分解性グラフト共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度、pH、電界、及び化学物質の変化に対する刺激応答性ポリマーの物理化学的応答に焦点を合わせた多くの研究がなされてきた。特に、外部の温度変化に応じて相転移現象を示す温度応答性ポリマーは、薬物担体などの医療用材料として広く研究されてきた。
【0003】
非特許文献1及び2によって開示されたN-イソプロピルアクリルアミド (NIPAAm) のホモポリマーまたはコポリマーは、1つの類である。もう1つの類は、例えば、非特許文献3によって開示されたプルロニック(ポロキサマー, Poloxamer, 商標)のような、ミドルブロックとして疎水性ポリ(プロピレンオキシド) および側面サイドブロックとして親水性ポリ(エチレンオキシド) からなるトリブロック共重合体である。このトリブロック共重合体は温度に応答して溶液状態(ゾル)から溶媒を含んだゲル状態へ転移する挙動(以下,ゾル−ゲル転移と表記)を示す。これはに、特定の分子量および組成範囲を有する共重合体水溶液が、ゾル−ゲル転移温度より低い温度では水溶液として存在するが、温度が転移温度より高いとき(例えば体温まで上昇するとき)、共重合体間の相互作用によって不溶性ゲルを形成するという現象である。外部からの添加物なしに,留置されたその場で(in situ)ゾルからゲルへの変化が可能なこれらのポリマーは,体内への注射による投与が可能な医療用材料として用いることができる。投与の際および投与後において、外科的処置の必要が無く、生体内において低侵襲的に任意の希望の形状のインプラントを形成できるという利点を有する。つまり、生理(薬理)活性物質とポリマー溶液を体内に注射することで容易に生理(薬理)活性物質を内部に取込んだゲルが調製でき,それをリザーバーとした生理(薬理)活性物質の徐放が可能である。また,適した細胞をポリマー溶液に懸濁させたものを体内に注射することで、容易に細胞を内部に取込んだゲルが調製できる。
【0004】
この様に、in situでゲル化する材料は、注射によって生体内に埋植可能な埋め込み型ドラッグデリバリーシステムや生体組織工学 (tissue engineering) 用マトリックスとして注目を集めている。理想的な注射可能な系として機能するため、ポリマーの水溶液は、調製条件では注射可能な程度の低い粘性を示し、そして生理条件下(37℃付近)で迅速にゲル化する必要がある。医用材料として考慮する場合、重合体の生体適合性および安全性も重要な問題である。このため、その材料は生分解性で代謝可能あるいは毒性を発現することなく体外へ排泄される程度の分子量にまで分解される必要がある。また,その分解中、含水性に富んだヒドロゲルの性質を保持することにより、生体組織の刺激を誘起しないようでなければならない。
【0005】
しかしながら、ポロキサマー型コポリマー(プルロニック)は非生分解性であり、そして動物実験で、ポロキサマーの水溶液を腹腔内に注射するとトリグリセリドとコレステロールが増加することが示されている(非特許文献4)。
【0006】
最近、Jeongらは、生分解性で、in situでゲル化するポリ(エチレングリコール‐block‐(DL‐乳酸‐random‐グリコール酸)‐block‐エチレングリコ−ル); (PEG‐PLGA‐PEG)トリブロック共重合体を報告している(特許文献1参照)。
【0007】
また、非特許文献5では、(PLGA‐PEG‐PLGA)トリブロック共重合体を報告している。
【0008】
しかし、最初透明であったこれらのゲルは、加水分解に伴って不透明になりひいてはゲルが崩壊してしまう。また、形態構造の変化と界面または相の発生は、生体内のタンパク質を変性する可能性があり、または生体組織工学での細胞損壊の原因になる可能性が指摘されている。さらに、分子量が低いためこのヒドロゲルの力学的強度は低く、生体組織との力学的適合性に乏しいとの指摘もある。
【0009】
医療分野では、通常、生体内の臓器と異なる力学的な特性を有する人工材料を埋植すると、生体内で力学的性質の違いに起因する連鎖反応が起こることが知られており、そのため、生体内の臓器と同様の力学的な特性を有する材料の開発が求められている。
【0010】
しかし、今まで開発されたin situでゲル化する生分解性ポリマーのうち、生体内に埋植後十分な力学強度、生体適合性を併せ持ったものは極めて少ない。
【0011】
例えば、非特許文献6〜7には、8本に分岐した構造を持つポリエチレングリコール(PEG)とポリ(L‐乳酸)からなる分岐ブロック共重合体の末端に、メソゲン基(コレステロール基)を結合させたポリマーが、温度に応答してゾル−ゲル転移を示し,ゲル状態で高い力学的強度を示すことを報告されている。
【0012】
しかし,このポリマーを合成するためには、8本に分岐したPEGという特殊なポリマーを調達する必要があり,またそれを用いて乳酸の環状二量体(ラクチド)を重合した後に,コレステロール誘導体を化学修飾する必要があり、原料の調達および製造方法に制約がある。
【0013】
ところで、ポリ(L‐乳酸)などのポリ乳酸系高分子の優れた特性を維持あるいは向上させながら、化学修飾による用途の拡張と物性の制御を行う試みがなされている。例えば、非特許文献8〜11には、官能基を有する環状コモノマーとのランダムおよびブロック共重合や、ヒドロキシル基を有する機能分子を開始種として用いた重合反応、グラフト重合といった高分子合成の手法を活用して、様々な分子形態(ランダム、ブロック、グラフト)および化学的性質(反応性官能基、親疎水性)を有する乳酸共重合体の合成が提示されている。
【0014】
具体的には、1)側鎖に反応性官能基を有するデプシペプチド−乳酸・ランダム共重合体(非特許文献12〜15)、2)側鎖に反応性官能基を有するデプシペプチド−乳酸・ブロック共重合体(非特許文献16〜17)、3)ポリ乳酸グラフト化多糖(非特許文献18〜19)、4)分岐型ポリエーテル-ポリ乳酸ブロック共重合体(非特許文献20〜21)などが合成されている。
【0015】
このように、様々な様態のポリ乳酸系高分子が開発されてきているが、生体適合性を有し、温度に応答したゾル-ゲル転移を示し,かつゲル状態で高い力学的強度を示し、簡便に入手可能な材料から合成できる生分解性材料はいまだ得られていないのが現状である。
【特許文献1】米国特許第6117949号明細書
【非特許文献1】Baeら Makromol. Chem. Rapid Commun., 8, 481-485 (1987)
【非特許文献2】Chenら Nature, 373, 49-52 (1995)
【非特許文献3】Malstonら Macromolecules, 25, 5440-5445 (1992)
【非特許文献4】Wout et. al, J. Parenteral Sci. & Tech., 46, 192-200 (1992)
【非特許文献5】Doo Sung Lee, Macromol. Rapid Commun. 2001, 22, 587.
【非特許文献6】第55回高分子学会年次大会 高分子学会予稿集 55巻1935頁(平成18年5月10日発行)
【非特許文献7】第35回医用高分子シンポジウム 高分子学会講演予稿集 23〜24頁(2006年8月1日発行)
【非特許文献8】大矢裕一:生分解性高分子の現状と新展開.人工臓器 1999,28:582−589
【非特許文献9】大矢裕一,大内辰郎:生分解性バイオマテリアルとしての新しいポリ乳酸系高分子.高分子加工 1999,48:530
【非特許文献10】大矢裕一:ポリ乳酸をベースとした新規な生分解性高分子の合成とバイオマテリアルとしての応用.高分子論文集 2002,59:484−498
【非特許文献11】大内辰郎,大矢裕一:新規なポリ乳酸系医用材料.未来材料 2002,2:30−35.
【非特許文献12】Ouchi T,et al:Macromol Chem Rapid Commun 1993,14:825−831
【非特許文献13】Ouchi T,et al:Macromol Chem Phys 1996,197:1823−1833
【非特許文献14】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 1997,35:377−383
【非特許文献15】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 1998,36:1283−1290.
【非特許文献16】Ouchi T,et al:Designed Monom Polym 2000,3:279−287
【非特許文献17】Ouchi T,et al:J Polym Sci Part A:Polym Chem 2002,40:1218−1225.
【非特許文献18】Ohya Y,et al:Macromolecules 1998,31:4662−4665
【非特許文献19】Ohya Y,et al:Macromol Chem Phys 1998,199:2017−2022.
【非特許文献20】Nagahama K,et al:Polym J 2006,38:852−860.
【非特許文献21】Nagahama K,et al:Macromol Biosci 2006,6:412−419.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、生体適合性、ゲル状態において十分な力学強度を持った、温度応答性ゾル−ゲル転移を示す生分解性ポリマー及びその簡便な製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該生分解性ポリマーを用いた医療用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ヒドロキシ酸ユニット(例えば、乳酸ユニット、グリコール酸ユニット等)及びアスパラギン酸ユニットを含む生分解性共重合体を主鎖とし、親水性ポリエーテルを含む側鎖を有する生分解性グラフト共重合体が、温度に応答してin situで高い力学強度のゲルを形成し得ることを見出した。かかる知見に基づきさらにこれを発展させて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は以下の温度応答性生分解性ポリマー及びその製造方法を提供する。
【0019】
項1. ヒドロキシ酸ユニット及びアスパラギン酸ユニットを含む生分解性共重合体を主鎖とし、該主鎖に親水性ポリエーテルを含む側鎖を有してなる温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0020】
項2. 一般式(A):
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示し、xは20〜1000を示し、yは0〜100を示し、zは2〜1000を示し、z/(x+y+z)が0.002〜0.5であり、x、y及びzの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される項1に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0023】
項3. 一般式(A)においてRで示される親水性ポリエーテルがポリアルキレングリコールである項2に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0024】
項4. 一般式(A)においてRで示される親水性ポリエーテルが一般式(B):
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、Rはメチル基、エチル基又は水素原子を示し、nは1〜500を示す。)
で表される基である項2に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0027】
項5. 数平均分子量(Mn)が3,000〜500,000である項1〜4のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0028】
項6. 前記一般式(A)において、xが50〜200を示し、yが0〜20を示し、zが5〜100を示し、x/(x+y+z)が0.6〜0.95であり、z/(x+y+z)が0.05〜0.4であり、nが40〜200である項3、4又は5に記載の温度応答性生分解性ポリマー。
【0029】
項7. 数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.00〜5.00である項1〜6のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0030】
項8. 濃度20wt%の水溶液としたときの、温度37℃において形成されるヒドロゲルの貯蔵弾性率が50〜50000Paである項1〜7のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【0031】
項9. 一般式(A):
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示し、xは20〜1000を示し、yは0〜100を示し、zは2〜1000を示し、z/(x+y+z)が0.002〜0.5であり、x、y及びzの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される温度応答性生分解性ポリマーの製造方法であって、一般式(C):
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、R、R、x、y及びzは前記に同じ。)
で表されるカルボン酸化合物と、一般式(D):
HO−R (D)
(式中、Rは前記に同じ。)
で表されるアルコールを縮合反応させることを特徴とする製造方法。
【0036】
項10. 前記項1〜8のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマーを含む医療用材料。
【発明の効果】
【0037】
本発明の生分解性ポリマーは、温度応答性ゾル−ゲル転移を示し、特に室温と体温の間の温度でゲル化させることができるという特徴を有している。しかも、生体内で十分に高い力学強度を有した安定な生分解性ヒドロゲルを形成する。そのため、優れたin situゲル化システムを提供でき、外科的処置の必要を無くし、注射により低侵襲にインプラントを形成することができる。生理(薬理)活性物質等を安定に内包し,それらを体内で徐放できるため、注入可能な(インジェクタブル)ドラッグデリバリーシステムを提供できる。さらに、注射可能な組織修復および器官再生用の足場として、また、適した生細胞を内包させることにより,注射投与で生体内組織の欠損部位に細胞を移植する細胞デリバリーシステム等に用いることもできる。
【0038】
また、本発明の温度応答性生分解性ポリマーの製造方法は,比較的容易に入手可能な市販の試薬を用いて,簡便にかつ収率良く実施できるという特徴を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
1.温度応答性を有する生分解性ポリマー
本発明の温度応答性を有する生分解性ポリマーは、ヒドロキシ酸ユニット及びアスパラギン酸ユニットを含む生分解性共重合体を主鎖とし、親水性のポリエーテルを含む側鎖を有するグラフト共重合体である。
【0040】
主鎖を構成するヒドロキシ酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、酒石酸、リンゴ酸、メバロン酸等が挙げられるが、好ましくは乳酸、グリコール酸等のα−ヒドロキシ酸である。ヒドロキシ酸は、1種又は2種以上を含んでいても良い。
【0041】
側鎖は、主鎖を構成するアスパラギン酸ユニットの側鎖カルボン酸を足がかりにして形成される。該側鎖には、親水性ポリエーテル、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコールを含むものが挙げられる。これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の温度応答性生分解性ポリマーの具体例としては、一般式(A):
【0043】
【化5】

【0044】
(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示し、xは20〜1000を示し、yは0〜100を示し、zは2〜1000を示し、z/(x+y+z)が0.002〜0.5であり、x、y及びzの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)で表される化合物が挙げられる。即ち、ラクチド(乳酸二量体)ユニット又はグリコリド(グリコール酸二量体)ユニット、乳酸ユニット又はグリコール酸ユニット、及びアスパラギン酸ユニットを含む主鎖と、アスパラギン酸の側鎖カルボン酸から誘導された親水性ポリエーテルを含む側鎖とからなる。
【0045】
及びRは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を示すが、好ましくはRがメチル基、Rが水素原子である。なお、R及びRがメチル基の場合、メチル基が結合する炭素原子は不斉炭素となり得る。本発明のポリマーにおいては、該不斉炭素の立体配置は(R)体、(S)体或いはそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0046】
ここで、x、y及びzは、ポリマー中の各ユニットの平均個数を表し、H-NMR及びGPCから求められる。また、上記したように、x、y及びzの各ユニットの配列はランダムでもブロックでもよい。
【0047】
本発明のポリマーにおけるxは20〜1000であり、好ましくは50〜200であり、より好ましくは100〜200である。ラクチドユニット及びグリコリドユニットはそれぞれ乳酸の二量体及びグリコール酸の二量体からなり、それぞれ通常原料であるラクチド(乳酸の環状二量体)及びグリコリド(グリコール酸の環状二量体)に由来する。好ましくはラクチドユニットである。ラクチドユニットはL−乳酸及び/又はD−乳酸のいずれから構成されていてもよいが、主鎖が非晶性となるようなD−乳酸とL−乳酸の混合物、特に両者の等量混合物から構成されるものが好ましい。
【0048】
yは0〜100であり、好ましくは0〜20であり、より好ましくは0〜10である。
【0049】
zは2〜1000であり、好ましくは5〜100であり、より好ましくは10〜20である。
【0050】
x/(x+y+z)は0.5〜0.99、好ましくは0.6〜0.95、より好ましくは0.8〜0.9である。xがこの範囲にあることにより、本発明のポリマーに好適な温度応答性および生分解性が付与される。
【0051】
z/(x+y+z)は0.002〜0.5、好ましくは0.05〜0.4、より好ましくは0.06〜0.2である。zがこの範囲にあることにより、親水性側鎖と疎水性主鎖のバランスにより、本発明のポリマー水溶液に温度応答性のゾル-ゲル転移する性質およびゲル状態における高い力学的強度が付与される。
【0052】
Rで示される親水性ポリエーテルの具体例としては、例えば、一般式(B):
【0053】
【化6】

【0054】
(式中、Rはメチル基、エチル基又は水素原子を示し、nは1〜500を示す。)が挙げられる。nは好ましくは3〜100、より好ましくは5〜50である。
【0055】
Rで示される親水性ポリエーテルは、親水性を示し適当な温度で脱水和する性質を満たす鎖であれば特に限定は無い。具体例としてはポリエチレングリコール、メトキシ-又はエトキシ-ポリエチレングリコールなどが挙げられる。好ましくはメトキシ-ポリエチレングリコールである。水溶液中で、この鎖が温度の上昇に伴い脱水和することにより疎水性主鎖ポリマーの凝集が引き起こされ、温度応答性のゾル-ゲル転移を示す性質が付与される。
【0056】
本発明のポリマーのゾル−ゲル転移温度、分解速度、ゲル状態での力学強度等は、該ポリマー中の主鎖ポリマーと側鎖ポリエーテルの分子量、ポリエーテルの導入率等を適切に選択することにより、また、該ポリマーの濃度を調節することにより、容易に調整できる。
【0057】
本発明の温度応答性生分解性ポリマーの水液体は、ゲル化温度以下で貯蔵され、そして筋肉内、腹腔内、皮下又は類似の注射法により、非経口的に投与することができる。
【0058】
本発明のポリマーの数平均分子量(Mn)は3,000〜500,000、好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは10,000〜25,000であり、重量平均分子量(Mw)は3,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜100,000、より好ましくは10,000〜30,000である。また、分子量分布の指標である数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.00〜5.00、好ましくは、1.05〜3.00、より好ましくは1.05〜2.00である。数平均分子量及び重量平均分子量は、例えばGPC等の公知の方法を用いて測定できる。
【0059】
本発明のポリマーを濃度20wt%の水溶液としたときの、温度37℃において形成されるヒドロゲルの貯蔵弾性率は50〜50000Paであり,好ましくは,100〜30,000Pa,より好ましくは500〜30,000Paである。
【0060】
例えば、本発明のポリマーを試験管内で20wt%の濃度でpH=7.4のリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、37℃にしてヒドロゲルを形成させてその重量(初期重量)を測定し、該ヒドロゲルをpH=7.4のリン酸緩衝生理食塩水(37℃)に浸漬し60日間静置した後のヒドロゲルの重量はヒドロゲル形成時の初期重量(100%)に対して0〜80%、好ましくは0〜50%となる。
2.温度応答性生分解性ポリマーの製造方法
本発明のポリマーは、例えば次のようにして製造することができる。
【0061】
【化7】

【0062】
(式中、Bzlはベンジル基を示し、R、R、R、x、y及びzは前記に同じ。)
上記(1)で表される化合物は、例えば、T. Ouchi, et. al., Macromol. Chem. Phys. 197, 1823-1833 (1996) 等に準じて製造することができ、また上記(2)で表される化合物は市販されている。
【0063】
続いて、上記(1)(2)で表される化合物を、触媒(スズ 2-エチルヘキサノエート等)を用いて開環重合させて上記(3)で表される化合物とし、これを酸触媒(トリフルオロメタンスルホン酸:TFMSA等)又は水素還元(H2、Pd/C等)により、側鎖のベンジルエステルを遊離のカルボン酸に変換して上記(C)で表されるカルボン酸化合物を得る。本反応は慣用の方法を用いて実施することができる。
【0064】
さらに上記(C)で表されるカルボン酸化合物を、縮合剤(ジシクロヘキシルカルボジイミド:DCC、DMAP等)の存在下、一般式(D)で表されるアルコール化合物と反応させることにより、上記(A)で表されるグラフト共重合体を得る。
【0065】
本反応では、一般式(D)で表されるアルコール化合物は、上記(C)で表されるカルボン酸化合物に対し、通常1.2〜2等量用いることができる。反応溶媒は、例えば、塩化メチレン、テトラヒドロフラン,ジメチルホルムアミドを用いることができ、反応温度は0〜60℃程度である。縮合剤は、上記(C)で表されるカルボン酸化合物に対し、通常1.2〜2等量用いることができる。例えば、上記(C)で表されるカルボン酸化合物に対し、DCCは1.2〜2等量程度、DMAPは触媒量である。
3.温度応答性生分解性ポリマーの性質及び用途
本発明のポリマーは、上記したように、良好な生体適合性、生分解性及び温度応答性に加え、ゲル状態における十分な力学強度を有している。これにより、ヒドロゲルに生体内の臓器と同等の力学的強度を付与することができる点において有利である。
【0066】
ここで温度応答性とは、一般に化合物の水溶液が下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature、LCST)を境にして、可逆的なゾル−ゲル転移の相分離挙動を示す性質をいう。具体的には、LCST以上の温度に加熱すると白濁しゲル状態となり、それ以下の温度に冷却すると再び溶解して透明のゾル状態に戻るという性質をいう。
【0067】
本明細書では、ポリマーのLCSTは、試験管倒置法によりポリマー水溶液の粘度変化を測定することにより求める。或いは、動的粘弾性試験により求めることもできる。
【0068】
本発明のポリマーは、通常、10〜56℃程度の範囲にLCSTが存在し、かかる範囲で容易にLCSTを調節できる。特に、一般式(A)で表される化合物の場合に上記の性質が好適に発揮される。
【0069】
本発明のポリマーは、応用範囲は極めて広範である。特に、薬物と共に医用材料として用いることができる。具体的には、本発明のポリマーが、LCSTを25〜35℃の範囲に有する場合、室温(例えば10〜20℃程度)と体温(35〜37℃程度)の間にLCSTが存在するため、溶液状態のまま注射により体内に投与可能であり体内でハイドロゲルを形成することができる。このようなポリマーの水溶液は、室温付近では溶液状態となるため注射時における取扱が容易であり、一方体温付近では不溶状態となるため、体内に投与後は不溶物となり薬物の早期拡散を抑制し特定部位での薬物の滞留性を向上させることができる。そのため、インジェクタブル製剤、特に持続性インジェクタブル製剤における生分解性ポリマー材料として好適に用いることができる。投与形態としては、例えば、皮下注射、筋肉内注射等が挙げられる。
【0070】
さらに、本発明のポリマーは、その分解物において細胞毒性がないか又は極めて低いことから、安全性の面からも優れている。
【0071】
さらに、本発明のポリマーは、ゲル状態において良好な力学強度を有している。例えば、濃度20wt%のポリマー水溶液を、温度37℃にしたとき、生成するヒドロゲルの貯蔵弾性率は、50〜50000Pa、好ましくは500〜30,000Paとなる。
【0072】
医薬組成物へのポリマーの配合量は、用いる薬物の種類などにより適宜選択することができ、例えば、医薬組成物の全重量に対し、60〜99.9重量%程度であればよい。
【0073】
該医薬組成物に用いられる薬物としては、特に限定されないが、生理活性を有するペプチド類、蛋白類、その他の抗生物質、抗腫瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去痰剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗てんかん剤、抗潰瘍剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、強心剤、不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗凝血剤、止血剤、抗結核剤、ホルモン剤、麻薬拮抗剤などがあげられる。
【0074】
本発明の医薬組成物における薬物の配合量は、薬物の種類などにより適宜選択することができる。特に、持続性注射剤とした場合には、薬物の配合量は、薬物の種類、持続放出させる期間等によって定められる。例えば、薬物がペプチド類の場合、約1週間〜約1ケ月の徐放製剤とするためには、通常、医薬組成物全重量に対し、0.001重量%〜50重量%程度含有させればよい。
【0075】
また、本発明のポリマーは、温度応答性、生分解性、生体に対する安全性を有することから、手術後の組織癒着防止材として用いることができる。塗布またはスプレーなどにより術後の内臓組織などを被覆し、他の生体組織と一定期間、隔離することで癒着を防止することができる。
【0076】
さらに、本発明のポリマーは、再生医療用のスカフォールド(足場)、細胞培養基材などとしての応用も可能である。スカフォールドとしては、細胞、本発明のポリマー及び培養液などを低温においてゾル状態で混合し、この混合物を高温で所定の形状にゲル化することでスカフォールドとして用いることができる。細胞培養基材としては、所定の3次元の形状を持つ繊維質又は多孔質の基材に、細胞、本発明のポリマー及び培養液を含む液状混合物を含浸させ、所定温度で高粘度化又はゲル化させて、基材中に再生細胞を保持することも可能である。なお、繊維質又は多孔質の基材としては、コラーゲン、ハイドロキシアパタイトなどの生体親和性の高い材料を使うことが可能で、軟骨組織や骨組織の再生などに特に有効である。さらに、損傷組織に細胞を移植する(細胞デリバリー)システムを提供することが可能である。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、本発明のポリマーをpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA] -g-PEG共重合体または単にグラフト共重合体とも表記する。
[実施例1]グラフト共重合体の合成(図1)
(1)重合管に470mg (1.79mmol)のcyclodepsipeptide [Glc-Asp(OBzl)] と1100mg (7.64mmol)のDL-lactideを入れバキュームラインで前日乾燥した。次に窒素ガスで満たしたグローブボックス内で、100 μlのTHFに溶解した3.8 mg (9.4μmol)の2-エチルへキサン酸スズ(II)を重合管内に加え、スリ付二方コックをかぶせた。その後、重合管をグローブボックスから取り出し、バキュームラインにつなぎ、液体窒素で凍結乾燥してTHFを除去し、脱気、窒素置換を10回繰り返した。その後重合管の封管を行い、これを160℃のオイルバスに浸しモノマーを完全に溶融した後に、135℃のオイルバスで24時間保持することにより開環共重合反応を行った。反応終了後、反応混合物を少量のクロロホルムに溶解し、これを大量のメタノール中に注ぎ、沈殿を生成させた。回収した沈殿物を真空ポンプを用いて24時間減圧乾燥し、1,360 mgのpoly{[Glc-Asp(OBzl)]-r-DL-LA}を得た。
(2)上記(1)で得られた635mg (190μmol) の化合物を15mlのトリフルオロ酢酸に溶解し,氷冷下で1.7ml (1.67mmol) の1M-TFMSAを加えて1時間攪拌した。その後、反応混合液を大量の冷ジエチルエーテル中に沈殿させた。得られた沈殿物を回収し、真空ポンプを用いて24時間減圧乾燥することで、430 mgのpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]を得た。
1H NMR (CDCl3), δ(ppm); 1.5 (3H, CHCH3)、4.6 (2H, OCH2CO)、4.9 (2H, CH2COOH)、5.1 (1H, CH)。
(3)120mg(0.22mmol)の分子量550のメトキシPEG(nは約12)を2mlのクロロホルムに溶解した後、54mg(0.26mmol)のジシクロヘキシルカルボジイミド (DCC)を固体で加え、氷零下で2 時間攪拌した。その後1mlの塩化メチレンに溶解した300mg(16.7μmol) のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]と8mg(65.6μmol)のDMAPを加え、室温で24時間攪拌した。生じたDCUreをろ過により除去した後、回収したろ液をn-ヘキサン/エタノール(7/3)に滴下し、沈殿を生成させた。回収した沈殿物を24時間減圧乾燥し、327mgのpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体を得た(図1)。化合物poly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG 共重合体の1H NMR (CDCl3)を図2に示す。
1H NMR (CDCl3)、δ(ppm); 1.5 (3H, CHCH3)、3.0 (2H, CHCH2)、3.4 (4H, OCH2CH2)、4.6 (2H, OCH2CO)、4.9 (2H, CH2COO)、5.1 (1H, CHCH3)。
【0078】
[実施例2〜3]
表1に記載の原料を用いて使用するcyclodepsipeptide [Glc-Asp(OBzl)]とDL-lactideの比、及び使用するメトキシPEGの分子量を変えて、上記実施例1と同様に反応させることにより、実施例2〜3のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体を得た。
【0079】
[試験例1]分子量測定
実施例1〜3のグラフト共重合体の数平均分子量(Mn)と分子量分布(Mw/Mn)をゲルろ過クロマトグラフィー(GPC;TOSOH製、Tosoh GPC-8020 series system)により測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
ポリマー3mgをDMF 0.5mlに溶かし、これを0.2μm孔のフィルターに通すことでゴミ等の固体を除去し、その後装置にシリンジを用いて打ち込んだ。
【0081】
[試験例2]Poly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液の温度応答性挙動
実施例1〜3のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液の温度応答性ゲル化挙動を異なる濃度で検討した。
【0082】
試験管転倒法により、工程当たりの温度上昇1℃で、ゾル−ゲル転移を測定した。サンプル管(内径が15mm)中でグラフト共重合体水溶液を調製し、5〜25wt%のグラフト共重合体水溶液の粘度変化を10℃〜60℃の温度範囲で観察した。このサンプル管を、15分間、オイルバス中に浸漬した。このバイアルを転倒することにより、そのゾル−ゲル転移温度を監視し、そして30秒流動しなかったらそれをゲルと見なした。この転移温度は、±1℃の精度で測定された。20wt%グラフト共重合体水溶液の相転移温度範囲と相転移後の性状(ゲルか否か)を表1に示した。また、温度とグラフト共重合体濃度の関数として、実施例1〜3のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液の相図を作成した(図3)。
【0083】
図3中では曲線で囲まれた範囲でゲル状を示し、これより下ではゾル状態を示し、これより上では2層に分離(沈殿)した。また、図3中に示した写真は、実施例2のグラフト共重合体の20wt%水溶液のゲル状態およびゾル状態の写真である。これによりグラフト共重合体は特定の組成において温度変化に応答したゲル化を示すことが明確となった。また、共重合体組成(グラフト鎖長,グラフト本数)を変化させることにより、ゲル化温度の調節が可能であることも分かった。
【0084】
特に、実施例3のグラフト共重合体では,生理学的温度 (例えば体温37℃程度)でのゲル化が特に優勢であったので、薬剤や細胞デリバリー目的のための基材として有用であることが明らかとなった。
【0085】
【表1】

【0086】
[試験例3]Poly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液の動的粘弾性試験
実施例1〜3のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液(20wt%)におけるゾル−ゲル転移現象を、動機械的レオメータ(HAAKE社HAAKE RS600)を用いて調べた(図4)。
【0087】
このグラフト共重合体水溶液を、直径25mmそして間隙間隔0.5mmの平行板の間に入れた。応力(4.0 dyne/cm2) および周波数(1.0 rad/sec)を制御しながらデータを収集した。加熱速度は0.5℃/minであった。図4中G’は貯蔵弾性率を示し、G’’は損失弾性率を示している。室温でゾル状態であったグラフト共重合体水溶液の貯蔵弾性率は0.6Pa程度であったが、温度上昇に伴ってその貯蔵弾性率は顕著に増大した。例えば実施例2のグラフト共重合体は37℃付近において,490Paの貯蔵弾性率を有するヒドロゲルとなり、これまでに報告されている生分解性ゲル化ポリマーであるポリ(乳酸-ランダム-グリコール酸)-ポリエチレングリコール-ポリ(乳酸-ランダム-グリコール酸)トリブロック共重合体(PLGA-PEG-PLGA)の約80Paを大きく超える貯蔵弾性率を示した。
【0088】
[試験例4]
実施例2のグラフト共重合体について、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中(pH=7.4, イオン強度I=0.14)中で動的粘弾性試験を行った。その結果を図5に示す。グラフト共重合体は室温と体温の間の温度である35℃付近において,1095Paの貯蔵弾性率を示し、溶液のイオン強度が高く、生理条件に近い方がさらに高い弾性率を有するヒドロゲルとなることが示された。このように、本発明のグラフト共重合体から形成されるヒドロゲルは高い貯蔵弾性率を示しており、in situゲル化型ドラッグデリバリーや細胞デリバリー目的のための基材として有用であることが確認された。
【0089】
[試験例5]Poly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体ゲルの分解試験
実施例2のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体ゲルの37℃(in vitro)におけるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中(pH=7.4, イオン強度I=0.14)での分解性挙動を調べた。試験管内でグラフト共重合体を20wt%の濃度でpH=7.4のリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、37℃にしてヒドロゲルを形成させた。この重量(初期重量)を測定した後、pH=7.4のリン酸緩衝生理食塩水(37℃)を加えて浸漬した。ゲルの重量は所定時間ごとに上澄み液を取り除き、試験管中に残ったゲルの重量を秤量することにより求めた。ゲルの重量は、ゲル作成時の初期重量を100%とした時の相対値(%)で表した(図6)。
【0090】
時間とともにゲルの重量は増大し、ゲルが分解に伴い架橋度の低下のため膨潤していることが示された。そして14日後にはゲルの重量はゲル作成時の初期重量の2.2倍に到達した。14日後からゲルの溶出が始まり重量は徐々に減少したが、60日間はゲル状態を維持した。その後重量は徐々に減少し、最終的にはヒドロゲルの形状が崩壊し、PBSに溶解した。これより、poly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体はインプラント型バイオマテリアルとして応用可能な分解特性を示すことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例1のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体の合成方法を示す。
【図2】実施例1のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体の1H NMRを示す。
【図3】実施例1〜3のpoly[(Glc-Asp)-r-DL-LA]-g-PEG共重合体水溶液の温度応答性ゾル−ゲル転移現象の温度,濃度に関する相図を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3の共重合体水溶液(20wt%)およびPLGA-PEG-PLGA水溶液(20wt%)における、温度と貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)の温度依存性を示したグラフである。
【図5】実施例2の共重合体のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中(pH=7.4, イオン強度I=0.14,20wt%)における、貯蔵弾性率の温度依存性応答性を示すグラフである。
【図6】実施例2の共重合体の分解性挙動を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ酸ユニット及びアスパラギン酸ユニットを含む生分解性共重合体を主鎖とし、該主鎖に親水性ポリエーテルを含む側鎖を有してなる温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項2】
一般式(A):
【化1】

(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示し、xは20〜1000を示し、yは0〜100を示し、zは2〜1000を示し、z/(x+y+z)が0.002〜0.5であり、x、y及びzの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される請求項1に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項3】
一般式(A)においてRで示される親水性ポリエーテルがポリアルキレングリコールである請求項2に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項4】
一般式(A)においてRで示される親水性ポリエーテルが一般式(B):
【化2】

(式中、Rはメチル基、エチル基又は水素原子を示し、nは1〜500を示す。)
で表される基である請求項2に記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項5】
数平均分子量(Mn)が3,000〜500,000である請求項1〜4のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項6】
前記一般式(A)において、xが50〜200を示し、yが0〜20を示し、zが5〜100を示し、x/(x+y+z)が0.6〜0.95であり、z/(x+y+z)が0.05〜0.4であり、nが40〜200である請求項3、4又は5に記載の温度応答性生分解性ポリマー。
【請求項7】
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.00〜5.00である請求項1〜6のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項8】
濃度20wt%の水溶液としたときの、温度37℃において形成されるヒドロゲルの貯蔵弾性率が50〜50000Paである請求項1〜7のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマー。
【請求項9】
一般式(A):
【化3】

(式中、R及びRは独立して水素原子又はメチル基を示し、Rは親水性ポリエーテルを示し、xは20〜1000を示し、yは0〜100を示し、zは2〜1000を示し、z/(x+y+z)が0.002〜0.5であり、x、y及びzの各ユニットの配列は上記配列の順に限定されない。)
で表される温度応答性生分解性ポリマーの製造方法であって、一般式(C):
【化4】

(式中、R、R、x、y及びzは前記に同じ。)
で表されるカルボン酸化合物と、一般式(D):
HO−R (D)
(式中、Rは前記に同じ。)
で表されるアルコールを縮合反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記請求項1〜8のいずれかに記載の温度応答性を有する生分解性ポリマーを含む医療用材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−280412(P2008−280412A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124753(P2007−124753)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】