説明

温熱療法の実施により腫瘍の成長を防止する方法

器官または付属器官へのマイクロ波の照射により、器官または付属器官を加熱するステップの後に、血流量を減少させて、追加的な等価熱量を集積させるために、加熱ステップの後に器官または付属器官を圧迫するステップが、温熱治療に加えられる。好適な実施形態において、器官は前立腺であり、周期的な前立腺圧迫を用いて、前立腺の血流を減少させ、これにより、化学療法、感熱リポソームカプセル化化学療法、または遺伝子療法を、治療の間に前立腺領域に集積させる。ドップラー超音波撮影を用いて、腫瘍血流量を測定し、リアルタイムフィードバックとして機能させ、風船カテーテル膨張の量の調節を補助し、治療の間に腫瘍血管構造への損傷を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年9月20日に出願された米国特許出願第10/247,747号の優先権を主張し、2000年6月20日に出願された米国特許出願第09/597,234号に一部継続するものである。
【0002】
本発明は、一般に、単一のエネルギーアプリケータまたは複数のマイクロ波アプリケータのいずれかを選択的に用いて、集束されたエネルギーを身体に加え、前立腺組織内の可視の腫瘍ならびに微視的な悪性および良性細胞を温熱療法により治療するシステムに関する。本発明に係るシステムを、水分含有量の高い未検出の微視的な病理的変質細胞(腫瘍形成)を含む健康的な組織の治療に使用して、癌性、前癌性または良性の前立腺病変の発生または再発を防止することができる。さらに、開示されるシステムおよびシステムの使用方法は、前立腺内の腫瘍の成長を防ぐことができ、かつ、前立腺の外への癌細胞の拡散を防ぐことができる。
【背景技術】
【0003】
温熱治療により前立腺腫瘍を治療するには、患者の前立腺内の健康な組織ならびに尿道および直腸壁を含む周辺組織を保存しながら、前立腺の大部分を加熱する必要がある。米国では、一年間に約200,000件の前立腺癌の検出、および約375,000件のBPH(Benign Prostatic Hyperplasia)として知られる良性前立腺肥大(拡大した前立腺)が発生している。BPHは、前立腺の非癌性の拡大(腫瘍)であり、ほぼすべての男性に、歳を取るとともに、特に50歳を過ぎると発生する。BPHの場合、前立腺の拡大は、組織の過度な成長を伴い、これは最終的に、尿道出口をふさぎ、排尿を困難にする。前立腺癌の場合、最終的に、癌が前立腺カプセルを突破し、身体の骨格および重要な器官への癌の拡散に至る。BPHと前立腺癌の徴候のいくつかは、同じであるが、BPHを有することは、前立腺癌にかかる確率を増やすわけではない。しかしながら、BPHを持つ患者は、同時に未検出の前立腺癌を有する可能性があり、あるいは将来に前立腺癌にかかる可能性がある。
【0004】
当該技術分野で周知のように、熱を用いた前立腺腫瘍の治療は、多くの面で効果的となり得る。しかしながら、多くの場合、熱治療は、尿道および結腸壁を過度に熱することなく、前立腺の大部分を加熱できなければならない。放射線療法では、前立腺全体および隣接組織にX線を照射し、微視的な癌細胞のすべてを殺傷する。前立腺の大部分の加熱が、前立腺内の微視的な癌細胞の多くまたはすべてを破壊することができる一方、既知の腫瘍の加熱方法では、患者の前立腺内ならびに、より有害なことに、尿道および直腸壁内の健康な組織を破壊する場合がある。
【0005】
前立腺は、筋肉に類似した電気的な性質を有し(T.S.イングランド(England)およびN.A.シャープルス(Sharples)、ネイチャー(Nature)、Vol.163、1949年3月26日、487〜488頁)、およそ80%の高い水分含有量を有することが知られている(F.A.ダック(Duck)、組織の物理的性質(Physical Properties of Tissue)、総合参考図書(Comprehensive Reference Book)、アカデミック出版(Academic Press)、ニューヨーク(New York)、321頁、1990年)。腫瘍組織は、一般的に、正常な組織より水分含有量が10〜20%高い傾向がある(フォスター(Foster)およびシェップス(Shepps)、マイクロ波電力のジャーナル(Journal of Microwave Power)、Vol.16、ナンバー2、107〜119頁、1991年)。したがって、前立腺腫瘍は、およそ90%の水分含有量を有する場合がある。その結果、前立腺の選択的マイクロ波加熱が、癌性または良性細胞の標的化の最良の方法となる。
【0006】
マイクロ波エネルギーは、水分含有量がより低い正常な組織に起こる加熱に比べて、水分含有量の高い腫瘍組織をより早く加熱できることが、周知である。腫瘍組織は、あまり潅流しない傾向があり、よって、血流が治療温度でしばしば減少し、急速な加熱を可能にする一方、正常な組織においては、血流がしばしば増加し、正常で健康な組織を熱ダメージから保護する。多くの臨床研究により、マイクロ波帯における電磁エネルギー吸収により誘発される高い熱(高温)が、人体内の悪性腫瘍の治療における放射線療法の効果を顕著に高めることが立証されている(バルダニ(Valgdagni)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.28、163〜169頁、1993年;オーバーガード(Overgaard)ら、温熱療法の国際ジャーナル(International Journal of Hyperthermia)、Vol.12、No.1、3〜20頁、1996年;バーノン(Vernon)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.35、731〜744頁、1996年)。Sフェイズ細胞などの耐放射線細胞は、高温により直接殺傷することができる(ホール(Hall)、放射線学者のための放射線生物学(Radiobiology for the Radiologist)、第4版、JBリッピンコットカンパニー(JB Lippincott Company)、フィラデルフィア(Philadelphia)、262〜263頁、1994年;ペレスおよびブレイディ(Perez and Brady)、放射線腫瘍学の原理と実践(Principles and Practice of Radiation Oncology)第2版、JBリッピンコットカンパニー(JB Lippincott Company)、フィラデルフィア(Philadelphia)、396〜397頁、1994年)。マイクロ波放射装置による温熱治療は、通常、悪性腫瘍を約43℃で約60分間加熱する、いくつかの治療セッションで施される。腫瘍細胞を殺傷する時間は、約43℃より上で温度が1度上がるごとに、2の因数で減少することが知られている(サパレト(Sapareto)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.10、787〜800頁、1984年)。したがって、43℃で60分の加熱のみの治療は、45℃において、約15分にまで減少することができ、これはしばしば、等価線量(t43℃等価分)と呼ばれる。
【0007】
非侵襲性マイクロ波アプリケータによる治療の間、望まれない熱点による周囲の健康な表面組織への苦痛または損傷を防ぎながら、やや深い腫瘍を適切に加熱することは、困難であることが判明した。組織中の特定吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)は、組織の加熱を特徴付けるために用いられる一般的な指標である。SARは、所定の時間間隔における温度の上昇×組織の特定の熱に比例し、マイクロ波エネルギーにおいては、SARはまた、電界の2乗×組織の導電性に比例する。絶対SARの単位は、キログラム当たりのワット数である。
【0008】
深部組織温熱療法のための非侵襲性フェイズドアレイを述べた最初に公表されたレポートは、論理的研究であった(フォン・ヒッペル(von Hippel)ら、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)、絶縁体リサーチ研究室(Laboratory for Insulation Research)、技術論文13、AD−769 843、16〜19頁、1973年)。ロドラー(Rodler)の米国特許第3,895,639号には、2チャンネルおよび4チャンネルの非適応性フェイズドアレイ温熱療法回路が記載されている。同様に、非適応性フェイズドアレイ温熱療法システムが、ターナー(Turner)の米国特許第4,589,423号に開示されている。
【0009】
バッセン(Bassen)らの、放射線科学(Radio Science)、Vol.12、No.6(5)、1997年11−12月、15〜25頁には、電界プローブを用いて、組織内の電界パターンを測定できることが示されており、特に、測定された電界が、中央組織において焦点ピークを有するいくつかの例を示している。この文献は、また、生体標本における電界のリアルタイム測定の概念を述べている。しかしながら、バッセン(Bassen)らは、電気プローブによるリアルタイムを用いた、フェイズドアレイを適応集束させる電界測定の概念を開発していない。
【0010】
マイクロ波エネルギーによる深部前立腺組織への温熱療法の実施における最も困難な側面は、尿道および直腸壁ならびに周辺器官を火傷から保護しながら、所定の深さにて、十分な加熱を提供することである。侵襲性および非侵襲性の電界プローブを有する非侵襲性多重アプリケータ適応性マイクロ波フェイズドアレイを用いて、適応性ヌルを健康な組織に形成した状態での腫瘍位置への適応性集束ビームの生成を、フェンの米国特許第5,251,645号、第5,441,532号、第5,540,737号、および第5,810,888号に記載されているように行うことができ、これらはすべて、参考のため本明細書に引用される。理想的には、集束されたマイクロ波放射ビームを、周辺の健康な組織には最小限のエネルギーを供給しながら、腫瘍に集中させる。治療の間のマイクロ波電力の制御には、温度感知フィードバックプローブ(サマラス(Samaras)ら、第2回国際シンポジウムの議事録(Proceedings of the 2nd Internal Symposium)、エッセン(Essen)、ドイツ(Germany)、1977年6月2〜4日、アーバン&シュワルツェンバーグ(Urban & Schwarzenberg)、バルチモア(Baltimore)、1978年、131〜133頁)が、腫瘍に挿入されるが、プローブを正確に腫瘍内に設置するのは、しばしば困難である。さらに困難なのは、高い熱を、前立腺全体に広がる癌腫に供給することであり、その理由は、温度感知フィードバックプローブのための良く定められた標的位置が、欠けているためである。他の状況では、プローブが腫瘍領域を通過する際の感染または癌細胞の拡散のリスクを減らすために、単にプローブ(温度または電界のいずれも)の前立腺への挿入を避けることが望ましい。
【0011】
前立腺癌治療のための二重の腔内(経尿道および経直腸)コヒーレントフェイズドアレイマイクロ波アプリケータの使用に関する、いくつかの論文が書かれている(A.スロウィエク(Surowiec)ら、高温腫瘍学(Hyperthermic Oncology)1992、Vol.1、要約書(Summary Papers)、第6回高温腫瘍学に関する国際会議議事録(Proceedings of the 6th International Congress on Hyperthermic Oncology)、1992年4月27日〜5月1日(アリゾナ評議会(Arizona Board of Regents))、268頁(要約);M.M.イエ(Yeh)ら、高熱腫瘍学(Hyperthermic Oncology)1992、Vol.1、要約書(Summary Papers)、第6回高温腫瘍学に関する国際会議議事録(Proceedings of the 6th International Congress on Hyperthermic Oncology)、1992年4月27日〜5月1日(アリゾナ評議会(Arizona Board of Regents))、269頁(要約);J.C.カマート(Camart)、高熱腫瘍学(Hyperthermic Oncology)1996、Vol.2、第7回高温腫瘍学に関する国際会議議事録(Proceedings of the 7th International Congress on Hyperthermic Oncology)、ローマ(Rome)、イタリア(Italy)、1996年4月9〜13日、598〜600頁)。さらに、ステルザー(Sterzer)の米国特許第5,007,437号において、非コヒーレントな経尿道および経直腸アプリケータの、BPH治療への使用が述べられている。しかしながら、既知の従来技術は、固形の腫瘍塊に対する経尿道および経直腸アプリケータの使用を対象としていた。既知の処置はいずれも、微視的な疾病の治療、ならびに、癌およびBPHにおいて生じるような固形の腫瘍塊の発生の防止を考慮していなかった。
【0012】
前立腺癌
前立腺癌を治療するための、現在の標準的な医療には、前立腺全体を手術により除去する根治的または神経温存的前立腺摘除術や、前立腺カプセルを貫通、または貫通する可能性がある微視的な癌細胞を捕らえる外部ビーム放射療法と組み合わせて、6〜9ヵ月にわたり放射が有効な少量の放射線シードを前立腺に永続的に埋め込む、または多量の放射線シードを一時的に約2日間にわたり前立腺に埋め込む近接照射療法が含まれる。手術の副作用には、失禁やインポテンスが挙げられる。手術後の癌の再発率は、特に前立腺特異抗原レベル(後述)が10を超える場合に、5年目で約35%、10年目で約60%と非常に高い。放射線療法は、皮膚反応、疲労および嘔気などの短期の副作用をもたらす。前立腺への放射線療法のさらなる長期の副作用として、尿失禁(膀胱コントロールの喪失)およびインポテンス、ならびに周辺器官への損傷などが挙げられる。
【0013】
癌細胞の成長を止めることによる、ホルモン療法も、前立腺癌治療の補助として用いられている。テストステロンなどの男性ホルモンは、癌細胞の成長を助け、対照的に、女性ホルモンすなわちエストロゲンは、成長を抑える。エストロゲン療法の副作用は、嘔気および嘔吐、体熱感、体液鬱帯、体重増加、頭痛および男性における女性化乳房(胸部組織の増加)が挙げられる。
【0014】
基本的に、現在の前立腺治療における問題は、前立腺からの微視的なカプセル貫通の制御ができないことであり、これは、重要な器官へと癌を拡散させてしまう。癌細胞の微視的カプセル貫通が生じた男性は、根治的前立腺摘除術では治療できない。これらの微視的細胞は、前立腺カプセルを通じて、リンパ系または血管によって、前立腺から遠くの重要な器官へと拡散する可能性がある。
【0015】
前立腺癌の存在を、周知の血清分析前立腺特異抗原(PSA:Prostate-Specific Antigen)検査により検出することが可能である(M.K.ブラワー(Brawer)、“前立腺特異抗原:現状(Prostate-Specific Antigen: Current Status)”、CAA臨床医のための癌ジャーナル(CA A Cancer Journal for Clinicians)、Vol.49、264〜281頁、1999年、およびJ.E.オイスターリング(Oesterling)、“前立腺特異抗原:前立腺の腺癌のための最も有用な腫瘍マーカーの批評的な評価(Prostate Specific Antigen: A Critical Assessment of the Most Useful Tumor Marker for Adenocarcinoma of the Prostate)”、泌尿器学のジャーナル(The Journal of Urology)、Vol.145、907〜923頁、1991年5月)。前立腺管腔は、人体内で最も高い濃度のPSAを含む。PSAは、すべての種類の前立腺組織(正常、良性増殖性、および悪性)を生成する酵素である。特に、PSAは、前立腺の細葉および管に並ぶ上皮細胞によってのみ生成されるセリンプロテアーゼ(Serine Protease)であり、基質および血管系の要素を含む、前立腺の他の細胞構成要素はいずれも、PSAを生成しない。研究により、BPH組織の上皮細胞、主要な前立腺癌組織、および転移性の前立腺癌組織においてPSAが生成されることが立証されている。血清PSA検査は、数多くの前立腺癌を検出し、前立腺腫瘍の破壊は、PSAレベルの減少をもたらす。これは、腫瘍が除去されると、身体がPSAの生成を止めるからである。現在、4.0ng/ml以上のPSAが、前立腺内の癌腫の存在の検証を試みるために、患者に生検を行うかどうかの決定に用いられている。したがって、特に夜間の頻尿、排尿不能、排尿の開始または抑制の困難、弱い尿流またはその中断、および下背部、臀部または大腿上部の頻繁な痛みまたはこりを含む、前立腺癌の徴候および症状が出ている場合であっても、4.0ng/ml未満のPSAレベルを有する患者には、現在、生検は行われていない。
【0016】
PSAレベルに加え、グリーソン等級(Gleason Grade)を用いて、前立腺の腺癌が組織学的に等級付けされる(G.K.ザガース(Zagars)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.31、No.2、237〜245頁、1995年)。等級1は最小の悪性であり、成長が遅い。グリーソン等級3は、診断の際にもっとも一般的に起こる等級である。グリーソン等級4、5およびそれ以上(10まで)は、非常に活動的な、成長の速い癌腫とみなされる。
【0017】
生検結果および段階化を用いて、癌の挙動およびその拡散の可能性を予測することができる。ステージ1の腫瘍は、小さく、直腸診では触知できない。ステージ2以上は、腫瘍が触知できる前立腺を呼ぶ。ステージ3の癌は、前立腺の境界を越えて広がっている。ステージ4においては、骨スキャン、CT、またはMRIスキャンなどの画像検査により測定することができ、癌は周辺のリンパ腺、骨、または身体の他の部分に広がっている。医療分野で周知のように、癌の発見が早いほど、癌の克服者となるチャンスは高い。ステージ2より前の検出が可能でない場合、次の最良な医療的選択肢は、外見上健康な組織を安全に治療することである。このように、癌は、一般に、ステージ2またはその後のステージに達するまで検出されないため、健康な組織を治療する必要性がある。
【0018】
前立腺管癌には、移行細胞癌、管内腺癌、混合腺管癌、および類内膜癌の、4種類がある。移行細胞癌および混合腺管癌は、活動的な癌であり、発見された場合は、腫瘍がまだ前立腺内にある間に、前立腺および膀胱を完全に除去する必要がある。前立腺および膀胱の完全な除去は、医療的に受け入れられている類内膜癌の治療でもある。管内腺癌は、根治的前立腺摘除術により治療される。したがって、手術的な前立腺摘除術を必要としない、癌の成長および拡散を治療および防止するためのシステムが必要とされている。
【0019】
良性前立腺肥大
良性前立腺肥大(BPH:Benign Prostatic Hyperplasia)は、主に、尿道に圧迫を加える前立腺の拡大として説明されており、結果として尿の流れを妨げる、中高年の男性に多い悩みである。65歳以上の男性の約50%が、BPH症状を持ち、これは、彼らの生活の質に多大な影響を及ぼしている。米国泌尿器科学会(AUA:American Urological Association)症状指標(Symptom Index)は、BPH症状の分類を助けるために開発された。AUAスコアは、次のスコア範囲を有している。0〜7ポイントでは、BPH症状は軽いとみなされる。8〜19ポイントでは、BPH症状は中程度とみなされる。20〜35ポイントでは、BPH症状は深刻とみなされる。しかしながら、多くのBPH患者は、AUAスコアが約12になるまで治療を求めない。
【0020】
過去20年間にわたって、数多くのBPHの治療法が開発されており、それぞれが長所と短所を有している。主要なBPH治療システムの種類は、1)前立腺の経尿道的切除術(TURP:Transurethral Resection of the Prostate)、2)前立腺の経尿道的電気蒸散(TVP:Transurethral Electrovaporization of the Prostate)、3)薬物、4)介在性レーザー凝固(Interstitial Laser Coagulation)、5)RF針切除、および6)前立腺のマイクロ波温熱療法、である。他の治療技術についても、研究されており、これには、前立腺の経尿道的切開術、前立腺ステント、および風船膨張があるが、より少ない程度で使われている。
【0021】
BPH治療の成功および実用性は、1)効果性、2)持続性、3)苦痛のレベル(処置中および処置後)、4)回復期間、5)処置の複雑さ、6)処置の費用、および7)副作用、の観点から測定することができる。BPH治療の効果性は、一般に、AUA症状指標(SI:Symptom Index)および最大尿流量を用いて定量化される。正常な尿流量は、約16ml/秒である。残尿量および圧力流などの他の任意の検査も、時折、効果性の判断に用いられる。持続性は、治療が効果的である時間の長さである。苦痛のレベルは主に、全身麻酔または局部麻酔のいずれを必要とするかに関係する。回復期間は、入院および自宅療養の日数で測られる。処置の複雑さは、処置の長さ、処置を施す個人(泌尿器科医または技術者のいずれか)の訓練、必要な麻酔の種類、および治療後に必要なフォーリーカテーテル法の時間の長さ、に関係する。処置の費用は、処置の長さと複雑さ、特に入院が必要かどうかに大きく影響される。
【0022】
1990年ごろまでは、BPHのための主要な治療(“最良の選択(Gold Standard)”)は、泌尿器科医により施される、前立腺の経尿道的切除術(TURP:Transurethral Resection of the Prostate)であった。TURPは高価であり、長い回復時間を要し、多くの顕著な副作用を有しており、より良い治療技術の研究を促している。手術、薬物およびレーザー、RF、ならびにマイクロ波印加を含む、BPHを治療する手法の概要を、以下に述べる。
【0023】
前立腺の経尿道的切除術(TURP:Transurethral Resection of the Prostate)
BPH治療の“最良の選択(Gold Standard)”)は、電子手術ループを有する硬質の経尿道スコープを用いて肥大した前立腺組織の一部(主に、前立腺の中央領域)を、RFエネルギーにより除去する手術処置を含む。実際には、BPHのための手術処置の90%は、TURPを含んでおり、これは、90%の患者に対するその良好な効果性(85%以上)、長い持続性(10〜15年)による。一年間におよそ200,000回のTURPが、米国で行われている。TURPは、多くの欠点を有する。これは、非常に大きな苦痛を伴う処置であり、2〜4日の入院および2〜4週間の自宅療養の両方を必要とする。TURP処置は、約1時間で行われ、全身麻酔を必要とする。処置は、泌尿器科医が行わなければならない。治療後は約2〜3日の間、フォーリーカテーテルが必要となる。TURPの主要な潜在的副作用には、インポテンス、失禁、大量失血、および逆行性射精が含まれる。
【0024】
開放性前立腺摘除術
開放性前立腺摘除術は、非常に大きな前立腺を有する患者に主に用いられ、良好な結果をもたらしている。効果性は95%を超え、持続性はTURPと同等(10〜15年)である。どのような手術処置によっても、苦痛レベルは非常に高く、全身麻酔が必要である。約7〜10日の入院と、追加の3〜5週間の自宅療養が必要である。処置は数時間を要し、泌尿器科医によって行われなければならない。治療後に、膀胱からの排水を行うために、2〜4日の間フォーリーカテーテルを使用する必要がある。開放性前立腺摘除術は、TURPのほぼ2倍の費用を要し、大量失血、インポテンス、および失禁などを含む深刻な潜在的副作用および併発症を有する。
【0025】
前立腺の経尿道的電気蒸散術(TVP:Transurethral Electrovaporization of the Prostate)
基本的には、TURPの改良である、前立腺の経尿道的電気蒸散術は、溝のある電子手術ローラーボール電極を用いて、前立腺組織により塞がれていた尿道のチャンネルを開く。TVP処置は、より安全であり、TURPと比べて最小の副作用をもたらす。効果性は良好(85%)であるが、これも非常に苦痛を伴う処置であり、2〜4日の入院と、1〜2週間の自宅療養を必要とする。泌尿器科医がこの60分の処置を施し、患者は全身麻酔にかけられる。この処置の後、フォーリーカテーテルを、2〜4日間使用しなければならない。この処置は、TURPよりは、いくらか低い費用を要する。TURPよりも、少ない失血を伴うが、やはりインポテンス、失禁、および逆行性射精などの潜在的副作用がある。
【0026】
前立腺の経尿道的切開術(TUIP:Transurethral Incision of the Prostate)
前立腺の小さな患者向けの、比較的新しい処置である、前立腺の経尿道的切開術は、約80%の効果性を提供する。しかしながら、TUIPは、大きな前立腺には効果的でない。この処置では、最小量の前立腺組織を除去する。前立腺の全長に沿って簡素な切開を行う。TUIP処置は、膀胱頸部の開口を可能にし、尿の流れを自由にする。持続性は、TURPと同様であると見込まれるが、臨床研究は現在も進行中である。この処置は、中程度の苦痛を伴い、1〜2日のみの入院を必要とし、あるいは数人の患者に対しては、外来処置となる。処置後は通常、4〜7日の自宅療養が必要である。泌尿器科医が、この60分の手術処置を行わなければならず、フォーリーカテーテルを、2〜4日間使用しなければならない。TUIPの費用は、TURPとほぼ同じである。この処置では、TURPと比べてより少ない失血を伴うが、ここでもまだ、インポテンス、失禁、および逆行性射精などの潜在的副作用がある。
【0027】
風船膨張
前立腺の小さな患者に対し、尿道前立腺部内での風船膨張を用いて、BPH症状のいくらかの軽減を提供することができる。効果性は、約60%しかなく、持続性は1〜5年のみである。この処置は、TURPよりも低い費用を要し、通常は、数日の自宅療養を要する外来処置として行われる。処置は、局部麻酔のもと、泌尿器科医により、約30分で行われる。フォーリーカテーテルを、約2〜4日間必要とする。この処置では、いくらかの出血の可能性があり、感染およびインポテンスなどの潜在的副作用がある。この処置は、大きな前立腺には上手くいかない。
【0028】
ステント(Stent)
小さな前立腺を持つ極めて重篤の患者向に対し、ステントを用いて、良好な効果でBPH症状の改善をもたらすことができる。これらの患者は通常、他の病気で重篤であるため、持続性は大きな問題とならない。この処置は、中程度の苦痛を伴い、局部麻酔のみを必要とし、泌尿器科医により約30分の間で行われ、約4〜5日の自宅療養を要する外来処置として行われる。この処置の費用は、TURPよりもいくぶん低い。潜在的副作用に、炎症、感染、およびステントへの破片蓄積がある。
【0029】
薬物
2種類の薬物が、BPHの治療に用いられる。1つの種類は、アルファ遮断剤(ハイトリン(Hytrin)またはカルデュラ(Cardura))を使用し、前立腺を囲む筋肉を弛緩させ、尿流量を向上させる。他の種類の薬物は、レダクターゼ抑制剤(プロスカー(Proscar))で、これは前立腺を実際に収縮させる。
【0030】
ハイトリンは、例えば、非常に良好な効果性(74%)を有し、いくつかのBPH症状を即座に和らげる。しかしながら、完全な効果が得られるまで、2〜3週間を要する。臨床データは、この薬物が、少なくとも3〜5年の持続性を有し、単に一般開業医により処方することを示している。費用は、TURPよりも低く、治療の年数に依存する。めまい、胸痛、不整脈、および息切れなどの、いくつかの深刻な副作用の可能性がある。
【0031】
プロスカーは、大きな前立腺に対して良く作用するが、小さな前立腺には効果がない。薬の最大の効果まで、3〜6ヶ月を要し、持続性は少なくとも3〜5年と推定される。この薬は、一般開業医により処方され、少なくとも12ヶ月にわたって服用する必要がある。この薬の費用は、TURPよりも低い。知られている副作用のいくつかは、インポテンス、唇の腫れ、射精量の低下、および皮膚発疹である。
【0032】
介在製レーザー凝固
ここで、介在製レーザー凝固手術装置は、レーザーエネルギーを、注文設計された光拡散器の長さに沿って放射状に放出するものである。拡散器は、熱ダメージの楕円パターンを生成し、レーザーエネルギーを前方向かつ均一に印加し、前立腺内の治療組織量を最大化する。これは、中程度の苦痛を伴う手術処置であり、1〜2日の入院に次いで1〜2週間の自宅療養を必要とする。この30分の処置は、泌尿器科医により行われる必要があり、患者の状態に応じて、全身または局部麻酔のいずれかが選択される。この処置の深刻な欠点は、フォーリーカテーテルを使用して膀胱の尿を排出させる期間が、1〜2週間と長いことである。この処置の費用は、TURPより低い。この治療では、インポテンス、失禁、失血、および逆行性射精を含む多くの潜在的副作用がある。
【0033】
RF針切除(経尿道針切除)
このシステムは、2つの高エネルギーRF(約0.47MHz)針を使用し、これらは、尿道を介して前立腺に挿入され、前立腺組織を数分間で切除する。世界中で10,000人を超える患者が、このシステムにより治療されている。このシステムは、良〜最良の効果性を提供する。このシステムには、12ヵ月の限定された持続性データしかなく、長期の効果については知られていない。この処置は、中程度の苦痛を伴い(局部麻酔を要する)外来処置として行われ、1〜2週間の自宅療養を要する。処置は、通常、泌尿器科医により、約30分で行われる。患者の約40%が、約2〜3日間にわたりフォーリーカテーテルを必要とする。この処置の費用は、TURPよりも低い。この処置の大きな副作用として、排尿時の痛み、勃起障害、および逆行性射精などがある。
【0034】
費用が高くて苦痛を伴い、危険な潜在的副作用のある手術または薬物を必要とする、BPHの既知の治療に鑑みると、苦痛を伴わず、外来処置ベースで行うことができ、患者を迅速に通常機能へと回復させる良性前立腺肥大(BPH)の治療システムの必要性がある。加えて、顕著な量の微視的な腫瘍細胞が前立腺内に形成される前に、前立腺を集束エネルギーにより安全に治療することができる方法の必要性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
既知の治療法に関わる上述の問題は、本発明に係るシステムおよびシステムの使用方法によって解決される。本発明に係るシステムおよび方法は、尿道および直腸内のフェイズ非コヒーレントまたはコヒーレントなアレイアプリケータのいずれか、あるいは前立腺内に配置される介在性アプリケータにより供給される、マイクロ波エネルギーなどの集束または集中されたエネルギーにより、前立腺を加熱することによって、前癌性、癌性、前良性、および良性状態の前立腺を、安全に加熱する。非コヒーレントなアレイでは、個別のマイクロ波発振器でアプリケータを駆動することができ、共通のフェイズ関係はない。フェイズコヒーレントなアレイ(フェイズドアレイ)においては、単一のマイクロ波発振器で、共通のフェイズ関係を有して、複数のアプリケータを駆動することができる。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本出願者の手法は、顕著な量の微視的な腫瘍細胞が前立腺内に形成される前に、前立腺をマイクロ波エネルギーなどの集束エネルギーにより治療することである。上述のように、すべての過去の温熱療法は、中〜高のPSAレベル(4.0ng/mlを超える)を有する確定された前立腺癌の治療のため、またはBPHのAUA症状指標スコアが中程度〜重症の治療に用いられていた。本発明の好適な実施形態は、防止または検出される前のため、あるいは医療の関与が必要となる前のためのものである。したがって、この発明的な方法は、PSAレベルが4.0ng/ml未満の場合の前立腺癌を治療、あるいはBPH症状が重症未満またはAUA症状指標スコアが13未満のBPHを治療するためのものである。言い換えれば、この発明的な方法は、癌またはBPHが、患者にとって大きな問題にまで発展することを(すなわち、深刻な悪影響が生じる前に)防ぐものである。
【0037】
前立腺を治療する好適な方法は、本発明によると、コヒーレントな適応性フェイズドアレイによるものであり、尿道および直腸の壁の温度を監視するステップと、2つのマイクロ波アプリケータを尿道および直腸のうち少なくとも1つに向けるステップと、前立腺に供給されるマイクロ波電力を、監視された尿道および直腸壁の温度に基づいて調整するステップと、治療される前立腺に供給されるマイクロ波エネルギー量を監視するステップと、所望の合計マイクロ波エネルギー量がマイクロ波アプリケータにより供給された際に、治療を自動的に終了するステップとを備える。
【0038】
非コヒーレントアレイまたは非適応性フェイズドアレイ温熱治療システムは、放射周波数に応じて、やや深い組織および深い組織の加熱に使用することができる。前立腺腫瘍などの、水分含有量の高い組織の誘電性加熱により、非コヒーレントアレイまたは非適応性フェイズドアレイのいずれかで、前立腺腫瘍を安全に加熱することが可能となる。
【0039】
さらに、本発明に係るシステムおよび方法は、温度フィードバックセンサを配置するための明確に定められた位置がない状況、または前立腺組織への温度プローブの挿入を避けることが望ましい状況に、適用を見出す。単一アプリケータの場合、電界プローブ(または電界センサ)は必要ではなく、よって、本発明に係る好適なシステムおよび方法では、侵襲性プローブは必要ではない。この発明的なシステムおよび方法は、前立腺のすべての前癌および癌細胞または良性病変を、集束エネルギーにより生成された熱によって破壊することができ、これにより、癌細胞または良性病変のさらなる進行を回避する。
【0040】
加えて、本発明に係る方法は、放射線療法の強化、あるいはフェン(Fenn)の米国特許第5,810,888号に記載されるように感熱リポソームを用いた、または用いない標的薬物供給および/または標的遺伝子療法供給に使用することができる。
【0041】
本発明に係る方法は、正常な前立腺組織を保存しながら、前立腺内の前癌、癌、前良性、および良性細胞を破壊する。これにより、本発明に係るシステムおよび方法は、熱的前立腺摘除を達成し、健康な組織への損傷を回避する。したがって、この発明的な方法は、前立腺を保存する技術である。
【0042】
尿道および直腸壁の温度を、経尿道および経直腸アプリケータから離して配置された温度プローブセンサにより測定して、尿道および直腸壁の真の温度を得ることができる。あるいは、組織温度を、従来技術で周知の赤外線、レーザー、超音波、電気インピーダンス断層撮影法、磁気共鳴撮影、および放射測定技術を含む外部の手段により監視することもできる。
【0043】
あるいは、温度プローブを、前立腺組織の適当な深さに挿入して、温度を監視することもできる。以下に述べるように、温度プローブの挿入は、好適な実施形態ではない。
【0044】
2つ以上のエネルギーアプリケータを用いる実施形態において、治療される組織に供給されるマイクロ波電力を測定し、集束エネルギー治療の長さを決めるために、前立腺に挿入される侵襲性電界プローブを、使用してもしなくてもよい。好適な実施形態においては、侵襲性電界プローブは、前立腺に挿入された電界プローブに印加されるエネルギーの集束に用いることができる。
【0045】
代わりの実施形態として、コヒーレントなフェイズドアレイ用に、2つの電界センサを尿道前立腺部および直腸に非侵襲的に配置して、尿道および直腸の電界のヌル化および前立腺組織におけるマイクロ波放射の効果的な集束に使用することができる。さらに、経尿道および経直腸アプリケータのためのマイクロ波フェイズを、前立腺の領域の端から端までマイクロ波エネルギーがスキャンされるように、調整することができる。
【0046】
本発明に係るシステムおよび方法は、前立腺を圧迫して、または圧迫せずに、達成することができる。好適な方法においては、尿道風船または直腸風船のうち少なくとも1つを膨張させることにより、患者の前立腺を圧迫する。集束されたエネルギーおよび前立腺の圧迫は、水分含有量の低い周辺の正常な前立腺組織および前立腺を囲む組織に比べて、前立腺内の水分含有量の高い前立腺癌および良性細胞の、優先的な加熱を提供する。
【0047】
マイクロ波エネルギーのようなエネルギーを、コヒーレントに前立腺に集束させるために、尿道または直腸風船を介して患者の前立腺を圧迫することができ、患者の前立腺内でエネルギーを集束させる場所を決定するための手段が用いられる。エネルギーを集束させる場所を決定するための手段は、前立腺の中心部分に挿入される単一の電界プローブまたは尿道および直腸壁上の2つの非侵襲性電界センサのいずれかを使用することができる。プローブまたはセンサは、フィードバック信号の測定に使用することができる信号を受信し、尿道および直腸に配置されるアプリケータに供給されるエネルギーフェイズを調整する。
【0048】
本発明の他の実施形態によると、マイクロ波誘導加熱ステップの終了に続いて、前立腺の圧迫ステップを維持することができる。すなわち、前立腺の圧迫を、マイクロ波誘導加熱ステップに続く一定時間維持して、前立腺の血流を減少させ、追加的な等価熱量を集積させる。前立腺の圧迫は、尿道および直腸領域のうち少なくとも1つに風船カテーテルの膨張圧力を維持することにより達成することができる。前立腺血流を減少させるための周期的な前立腺圧迫を、温熱療法の間の前立腺領域への化学療法、感熱リポソームカプセル化化学療法、または遺伝子療法の集積に用いることができる。
【0049】
本発明のシステムおよび方法に係る治療により提示される、既知の療法に対する大きな利点を、以下に列記する。
【0050】
1.前立腺腫瘍(癌性および良性を含む)の予防および破壊
2.存在し得るBPH症状の即座の軽減
3.長い持続性
4.経験される苦痛が低レベルであること
5.外来処置
6.局部麻酔
7.フォーリーカテーテルが不要であること
8.大きな副作用または合併症がないこと
1999年に、譲受人セルシオンコーポレーション(Celsion Corporation)により行われた臨床試験で証明されたように、圧縮風船の膨張とマイクロ波熱(マイクロ波尿道形成術)の組み合わせにより、生物学的なステントを、尿道前立腺部に形成することができる。その結果、既知のBPH治療における大きな欠陥の1つ、すなわち数日間必要なフォーリーカテーテルが、もはや必要ではなくなり、患者は、BPH症状の即座の軽減を経験することができる。
【0051】
以下に説明するように、出願者の発明的システムおよび方法は、治療される前立腺に供給されるマイクロ波エネルギー量を監視し、受けた合計マイクロ波エネルギー量に基づいて、治療を終了する。すなわち、従来の腫瘍熱量の温度フィードバック測定を、コヒーレントなフェイズドアレイまたは非コヒーレントなマイクロ波アプリケータに、次いで治療領域に供給された合計マイクロ波エネルギーに置き換えることができる。したがって、本発明によると、温度フィードバックプローブの前立腺への挿入を必要とする温度フィードバック測定およびその固有の問題の代わりに、マイクロ波エネルギー量をフィードバックとして使用し、必要な治療の長さを決定する。本出願においては、“マイクロ波エネルギー量”(ジュールまたはワット秒)は、放射線療法にて用いられる量、すなわち組織のグラム当たり100ergsのエネルギーの蓄積として定義される放射線の吸収量の単位である、放射線吸収量(Rad:radiation absorbed dose)と同じである。
【0052】
したがって、癌性および良性状態の前立腺を選択的に加熱するこの方法は、温度プローブが、前立腺の治療領域(腫瘍ベッド)に挿入されないため、癌細胞の拡散の危険性を避ける。挿入される温度プローブの排除は、プローブ挿入の結果として生じる患者への感染の危険性を減少させる。同様に、腫瘍に印加されるマイクロ波場は、温度プローブ、特に金属プローブにより生じる分散または他の障害を受けない。さらに、温度プローブの挿入に関わる時間および費用が節約される。
【0053】
この発明的なシステムおよび方法は、健康な前立腺組織または外見上は健康な前立腺組織内の未検出の水分含有量の高い微視的な前癌または前良性細胞の治療に使用して、前立腺の癌状態の発生または再発を防止することもできる。したがって、本発明に係るシステムおよび方法は、前立腺(例えば80%)よりも水分含有量が高い(例えば90%)、前立腺内の微視的前癌または前良性細胞を、これらが検出される前に破壊または切除することが可能である。これは、癌の前立腺内での成長および前立腺からの拡散、または前立腺の拡大を防止することができる、早期の治療となる。外見上は健康な組織の場合、水分含有量の低い健康な組織を損なうことなく、前立腺組織にマイクロ波エネルギーが照射され、病変を形成することで知られる水分含有量の高い微視的細胞に集束される。
【0054】
経尿道および経直腸アプリケータの両方が用いられ、両方がそれぞれの風船により膨張されると、前立腺を圧迫および固定するための手段を有し、組織貫通の深さを減少させ、前立腺の血流を減少させる好適なシステムが達成される。
【0055】
代わりの方法においては、前立腺は、単一の経尿道風船により圧迫され、これは、前立腺組織を固定し、血流量を減少させ、マイクロ波放射に必要とされる貫通の深さを減少させる。圧迫風船は、ラテックス(Latex)などのマイクロ波透明プラスチック材料製である。電界フィードバックプローブの前立腺への配置は、超音波トランスデューサまたは他の種類の撮影ガイダンスにより達成することができる。好適な方法において、エピネフリンまたは抗脈管形成薬を有する局部麻酔リドカインを前立腺に注射することにより、血流量のさらなる減少を達成することができる。
【0056】
2つのマイクロ波アプリケータ(例えばスターザー(Sterzer)の米国特許第5,007,437号に記載されており、参考のため本明細書に引用する)を、経尿道または形直腸で配置することができる。フェイズドアレイを、2つ以上の複数のアプリケータにより達成することができる。好適な実施形態においては、コヒーレントな915MHzのマイクロ波電力が、2つの経尿道および経直腸アプリケータに、所定の電力レベルで供給され、一方で、各チャンネルのフェイズシフタを調整して、マイクロ波エネルギーを最大化し電界プローブセンサに集束する。カテーテルおよび風船内の水冷却により、尿道および直腸壁の冷却を可能にする。追加的な介在製のアプリケータを前立腺に挿入して、経尿道および経直腸アプリケータにより生成される加熱を補助することもできる。
【0057】
温熱治療の間、各アプリケータに供給されるマイクロ波電力レベルを、手動または自動のいずれかで調整して、尿道または直腸壁の火傷または水ぶくれの原因となる高温を避けることができる。さらに、前立腺圧迫が用いられた場合、その量を治療の間に必要に応じて調整して、患者を快適にさせる。毎回、前立腺圧迫を調整して、マイクロ波エネルギー/フェイズドアレイを再集束し、電界プローブセンサに最大電力を受けさせる。治療の開始からの、マイクロ波アプリケータに供給された合計のマイクロ波エネルギーを、治療の間監視する。所望量の合計マイクロ波エネルギーがマイクロ波アプリケータに供給されると、治療を終了させる。これは、病変細胞の多くが破壊されたこと(すなわち熱による縮小)、または完全に破壊されたこと(すなわち熱的前立腺摘除)を意味する。
【0058】
治療の効果性を決定するために、マイクロ波合計エネルギー量が与えられる前後に、X腺、超音波、および磁気共鳴撮影のうちの1つにより前立腺組織を撮影し、前立腺組織の針生検の病理学的結果と併せて検査してもよい。
【0059】
本発明の代わりの実施形態においては、単一の侵襲性電界プローブを、尿道および直腸に配置された2つの電界センサに置き換え、2つのセンサにより受け取られた個別または組み合わせた電力により最小化(ヌル化)することにより、コヒーレントなアレイをフェイズ集束して、完全な非侵襲性治療を提供する。好ましい実施形態においては、2つの電界センサを、尿道および直腸壁への圧迫接触を提供する圧迫風船の外面に取りつけたカテーテルと共に含ませる。アルゴリズムを、電界センサにより感知されたフィードバック信号と組み合わせて使用して、外側の尿道および直腸壁上の領域をヌル化し、これにより、印加されるエネルギーを内部サイトに集束する。ヌル化アルゴリズムが終了した後、電界センサを取り出すことができ、温度センサを挿入して、尿道および直腸壁の温度を測定することができる。
【0060】
電界センサおよび温度センサにより尿道および直腸壁を監視する、このような完全に非侵襲性の温熱治療は、前立腺内の良性および癌生病変を破壊する効果的な方法を提供する。非コヒーレントアプリケータを有する実施形態においては、組織の加熱に、電界集束プローブおよびフェイズシフタを必要としない。非コヒーレントなエネルギーにより、アプリケータが放射する電力のみが印加可能であり、フェイズシフトは使用されない。
【0061】
好適な実施形態を、適応性マイクロ波フェイズドアレイ技術を参考にして説明したが、出願者のシステムおよび方法は、一般的なエネルギーの集束による組織の領域の加熱および切除によって達成することもできる。集束エネルギーには、電磁波、超音波または無線周波数の波が含まれる。すなわち、出願者の発明的なシステムおよび方法は、集束して組織の領域を加熱および切除することができるどのようなエネルギーをも含む。この、マイクロ波または超音波エネルギーなどのエネルギーは、コヒーレントまたは非コヒーレントにすることができる。他の実施形態においては、エネルギーは流体またはレーザーアプリケータから供給することができる。
【0062】
コヒーレントなフェイズドアレイを有する本発明のさらに他の実施形態においては、身体内の治療する組織(例えば前立腺)の領域の境界が計算され、電界プローブを身体に挿入することができ、または少なくとも2つの電界センサを、尿道および直腸内に配置する。エネルギーは、治療する領域にアプリケータを介して印加される。この実施形態においては、エネルギーの焦点を変化させ、治療する領域を焦点でスキャンさせる。すなわち、印加されたエネルギーの相対フェイズを調整して、治療する領域内で焦点を移動させるので、固定の焦点スポットがなくなり、これにより、加熱の幾何学形状が得られる。
【0063】
固定の焦点スポットは、適切なアルゴリズムによって決定される。次いで、例えば、この固定焦点スポットを得るためのアプリケータの相対フェイズが、一方向に30°(プラス)および他方向に30°(マイナス)調整され、より大きな加熱/治療領域を“スキャン”する。治療する領域の大きさに応じて、スキャンは、180°〜90°または60°〜120°の間で集束することができる。
【0064】
さらなる目的および利点は、説明内容および図面を考察することにより、明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
本発明は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより、より良く理解されるであろう。図面においては、全体にわたって、同様の参照番号は同様の要素を示す。
【0066】
前立腺とそのマイクロ波特性の説明
前立腺220は、男性生殖系の一部であり、膀胱202のすぐ下および直腸210の前で尿道205の第1部分を囲む、固体でクルミ形の器官である。前立腺癌は、前立腺から発生し、前立腺癌の最も一般的な形態は、腺癌として知られており、これは、腺の癌という意味である。ほとんどの前立腺癌は、前立腺の直腸に最も近い底部(時に、周辺領域と呼ばれ、これは前立腺の約70%を含む)から成長し、これは、大きな治療を必要とする領域である。直腸触診は、前立腺内の硬化部分またはかたまりの検出に有用であるが、微視的な前立腺疾患の検出には有用ではない。前立腺のこの部分への到達に、経直腸アプリケータを使用することが、前立腺の完全な治療のために重要である。前立腺の中央領域(膀胱に最も近い)は、BPHおよび前立腺癌疾患の両方に対し、比較的免疫性がある。BPHは、主に中央領域と周辺領域の間に位置する移行領域において発生する。
【0067】
上述したように、現在の医療処置では、PSAが4.0ng/mlに達するまで、腫瘍の生検を行わない。表1に示されるデータは、PSAが4ng/ml未満である場合、針生検による癌検出の確率は、約15%しかないことを示している。癌の検出の確率は、非常に低いが、前立腺内に微視的な癌細胞が存在する実際の確率は、顕著である(25%以上)(F.H.シュロダー(Schroder)ら、泌尿器学のジャーナル(The Journal of Urology)、Vol.163、No.3、806頁(要約)、2000年3月)(エッシェンバッハ(Eschenback)ら、CAA臨床医のための癌ジャーナル(CA Cancer J. Clinicians)、Vol.47、261〜264頁、1997年)。したがって、0〜4ng/mlの範囲のPSAレベルであっても、前立腺の温熱治療が、ほぼ保証される。4ng/ml未満のPSAレベルのための前立腺の温熱治療は、前立腺内の微視的癌細胞を殺傷し、PSAレベルが4ng/mlを超えないように維持することを意図している。
【0068】
【表1】

ISM(Industrial, Scientific, Medical)帯域の902〜928MHzでのマイクロ波放射が、一般的に、商用の臨床温熱療法システムに用いられており、ここでは第1の周波数帯域とみなす。前立腺は、水分含有量の高い組織であることが知られており、したがって、良く特徴化された筋肉組織に類似している。915MHzにおける正常な前立腺組織では、平均誘電定数は50であり、平均導電率は1.3S/mである。前立腺組織を通じて伝播する915MHz平面波の、計算された減衰による損失は、cmごとに約3dBである。非定型過形成および導管内形成異常としても知られる前立腺上皮内腫瘍は、前癌であり、前立腺の腺癌の発達に関係している。新生細胞は、周囲の正常な前立腺細胞よりも水分含有量が高いとみなされ、正常で健康な前立腺細胞よりも早く加熱される。前立腺内の正常な腺管組織は、水分含有量が低から中の範囲とみなされる。
【0069】
癌治療に無線周波数(マイクロ波)電磁界を使用することの安全性が、疑われている。最近行われた包括的な試験では、癌の発生または増進と、3KHz〜300GHzの周波数範囲の無線周波数電磁界への暴露との間には、何の関係もないと断定された(L.N.ヘイニック(Heynick)、無線周波数電磁界と癌:空軍作戦に関する文献の包括的レビュー(Radiofrequency Electromagnetic Fields (RFEMF) and Cancer: A comprehensive Review of the Literature Pertinent to Air Force Operations)、AFRL-HE-BR-TR-1990-0145、米国空軍研究所(United States Air Force Research Laboratory)、指向エネルギー生体効果部(Directed Energy Bioeffects Division)、1999年6月)。したがって、このレポートに基づき、本出願者は、前立腺のマイクロ波治療は、微視的な癌細胞を含む外見上は健康な前立腺を、安全に加熱でき、マイクロ波治療の結果として、新たな癌は形成されないという、確かな証拠があることを理解した。
【0070】
前立腺組織を加熱するためのシステム
図1は、好ましくはマイクロ波である適応性エネルギーフェイズドアレイ温熱療法システムを、電界および温度フィードバックと共に用いた、前立腺組織の癌腫および良性腫瘍細胞を加熱するための好適なシステムを示している。エネルギー周波数において深部組織を確実に加熱するために、身体(前立腺葉220)を、適応性フェイズドアレイアルゴリズムで制御された2つ以上のエネルギーアプリケータ110,111(それぞれ尿道205および直腸210内にある)によって囲む必要がある。エネルギーアプリケータ110,111は、コヒーレントなマイクロ波アプリケータであってもよい。焦点190として示される黒い円は、治療される前立腺220の中央の腫瘍または健康な組織を表わしている。
【0071】
焦点190は、腺癌、癌肉腫、横紋筋肉腫、軟骨肉腫および骨肉腫のうちの1つを含む前立腺の癌生状態、または前立腺上皮内腫瘍を含む前癌状態、および良性前立腺肥大を含む良性の前立腺病変を表わす。さらに、本発明に係るシステムは、外見上健康な組織を治療することにより、癌生または良性状態の発生または再発を防ぐことができる。
【0072】
好適な実施形態においては、電界フィードバックプローブ175を、治療する前立腺220の組織の適当な深さに挿入することができる。電界フィードバックプローブ175の挿入は、超音波トランスデューサのガイダンスにより達成することができる。各アプリケータ110,111に供給される初期のエネルギーフェイズを設定するための手段は、電界プローブ175からの電界フィードバック信号450と、挿入された電界プローブ175にエネルギー放射を集束させるための適当なアルゴリズムを有するコンピュータ250とを含む。好ましくは、電界プローブ175は、フェン(Fenn)の米国特許第5,810,888号に開示されるように、適応性フェイズドアレイ高速アクセラレーション勾配サーチアルゴリズムと共に使用して、エネルギー放射を腫瘍サイト190に標的付けする。
【0073】
さらに、本発明に係るシステムは、各エネルギーアプリケータに供給された初期エネルギーまたはマイクロ波電力を設定するための手段と、治療される前立腺に隣接した尿道および直腸の壁の温度を監視し、これらの壁が過熱されないようにするための手段とを含む。尿道および直腸壁を監視するための手段は、尿道および直腸壁(215,216)に対して非侵襲的に挿入される、前立腺組織に隣接する尿道および直腸壁の温度を測るための温度フィードバックセンサ410を含んでいてもよい。温度フィードバックセンサ410は、温度フィードバック信号400を、コンピュータ250に送り、そこで、信号400を用いて、焦点190において腫瘍または組織を加熱するためにアプリケータ110,111に供給される相対マイクロ波電力レベルが調整される。
【0074】
好ましくはマイクロ波アプリケータである、経尿道および経直腸アプリケータの設計は、ステルザー(Sterzer)の米国特許第5,007,437号に基づいたものであることが好ましい。経直腸アプリケータは、特に、反射器またはフェイズドアレイを使用して、マイクロ波エネルギーを優先的に前立腺に向ける。アプリケータは、導波管、単極、または双極アンテナなどの非侵襲性アプリケータ、あるいは単極または双極アンテナなどの介在性アプリケータ109(図3を参照)とすることができる。好適な実施形態においては、アプリケータは、フェイズドアレイとしてコヒーレントに駆動することができる。加えて、複数の周波数アレイにおいて非コヒーレントに駆動可能な、前立腺220(図4)を囲む複数のアプリケータ108を用いて、前立腺組織を選択的に加熱することができる。
【0075】
好ましくは、身体または前立腺220は、それぞれ経尿道および経直腸アプリケータ110,111を囲む2つの圧迫風船112,113の間で圧迫される。圧迫風船112,113は、蒸留または脱イオン化水により膨張させることができる。代わりに、圧迫風船112,113を、空気により、あるいは風船を膨張させる他の既知の手段で膨張させることができる。圧迫風船112,113は、マイクロ波を透過するラテックス(latex)などの材料で作られている。前立腺組織を固定し、アプリケータの位置を固定することに加えて、前立腺圧迫は、温熱治療において多くの潜在的な利点を有する。前立腺圧迫の活用の結果、深いマイクロ波加熱を得るために必要な貫通深さを浅くし、血流を減少させる。これも、組織を加熱する能力を向上させる。
【0076】
エピネフリンまたは抗脈管形成薬を有するリドカインなどの局部麻酔薬の前立腺組織への注射を用いて、血流量を減らすこともできる。本発明に係る好適な方法においては、前立腺内の血流量を減らすための前立腺圧迫技術と薬物療法の両方を用いて、微視的な悪性および良性癌細胞の急速な加熱を可能にする。この好適な方法は、PSAレベルが4未満の場合の癌およびBPH、ならびにAUA症状指標スコアが13未満の場合のBPHの予防手段として施すことができる。
【0077】
前立腺の内部および外部からの圧迫は、マイクロ波アプリケータ放射器から遠くへ、前立腺の表面を移動し、これは、表面の熱点の減少を助ける。好適な実施形態において、アプリケータは、流体で満たされた空洞を有し、これは、アプリケータから治療する組織へのマイクロ波エネルギーの結合を向上させる。温熱治療の間の、経尿道および経直腸アプリケータまたはアプリケータ風船内の、蒸留または脱イオン化水などの流体の冷却は、尿道205および結腸210内の熱点が発達する可能性の回避を助け、尿道および直腸壁を過熱から守る。
【0078】
適応性フェイズドアレイ温熱治療の前に、前立腺を圧迫風船112,113の間で圧迫し、単一の侵襲性電界フィードバックプローブ175を、前立腺の中央組織サイト(焦点190)内に、マイクロ波アプリケータ110,111の極性に平行して挿入する。マイクロ波アプリケータ110,111は、直線または螺旋形の単極または双極アンテナ放射器のいずれかである。フェイズシフタを、適応性フェイズドアレイ勾配サーチアルゴリズムを用いて、最大フィードバック信号向けに調整する間、電界プローブ175を用いて、焦点電界振幅を監視する。非侵襲性温度センサ410が、位置184,185において、それぞれ尿道および直腸壁温度を監視し、これらの信号は、温度フィードバック信号400として個別にコンピュータへと送信される。
【0079】
温度センサ410の先端は、これらの先端が断熱性を有する限り、経尿道および経直腸圧迫風船112,113の外部に取り付けることができる。断熱は、薄いパッド(図示せず)を、温度プローブと風船の外面との間に取りつけることにより、圧縮風船に含まれる冷却流体の効果によって、得ることができる。本発明の二重アプリケータ適応性フェイズドアレイは、電界フィードバックプローブと共に、フェイズシフタを調整して、集中した電界を生成できるようにし、組織内の適切な深さにおける加熱の集束を可能にする。
【0080】
好ましくは、温度センサ410は、尿道205および直腸210の開口部を通じて非侵襲的に挿入され、これにより、センサ410が、尿道および直腸壁のそれぞれに圧力接触する。したがって、図1に示すように、2つの温度フィードバックプローブセンサ410が、尿道205および直腸210にそれぞれ配置され、温度フィードバック信号400を生成する。2つのマイクロ波水冷カテーテル300,301が、それぞれマイクロ波アプリケータ110,111と共に、尿道205および直腸210に配置される。経尿道カテーテル300は、フォーリー風船118を含み、これは、膀胱202内で空気膨張され、マイクロ波アプリケータ110を、前立腺の標的領域に対する正しい位置に固定する。
【0081】
コヒーレントな治療のために、発振器105をノード107において分割し、フェイズシフタ120に供給させる。好適な方法における発振器105は、約915MHzのマイクロ波エネルギー源である。フェイズ制御信号125は、マイクロ波信号のフェイズを、0〜360の電気角度の範囲にわたって制御する。各フェイズシフタ120からのマイクロ波信号は、マイクロ波電力増幅器130に供給される。結果としてのマイクロ波信号は、コンピュータ生成された制御信号135で制御され、これは、各マイクロ波増幅器に供給される初期マイクロ波電力レベルを設定する。コヒーレントな915MHzマイクロ波電力の形を取るマイクロ波信号150は、マイクロ波電力増幅器130により、2つのアプリケータ110,111に供給され、一方で、各チャンネルのフェイズシフタ120は、マイクロ波エネルギーを最大化して電界プローブセンサ175に集束させるように調整され、これにより、マイクロ波電力が、焦点190において最大化される。次いで、治療が開始される。
【0082】
他の実施形態においては、前立腺の温度を監視するための手段は、前立腺組織の適当な深さに挿入された温度プローブである。この場合、各アプリケータに供給される初期の相対エネルギーフェイズを設定するための手段が、電界プローブ175に集束された後に、電界プローブを除去することができ、温度プローブ176を、その位置に、前立腺組織の適当な深さに挿入することができる。
【0083】
本発明により示されるさらに他の実施形態において、第2の温度監視手段が、尿道および直腸の壁に圧力接触する非侵襲性温度センサに加えて提供される。第2の温度監視手段は、前立腺組織に、電解プローブ175が除去されたのと同じ位置に挿入される侵襲性温度プローブ176である。
【0084】
本発明に係るシステムおよび方法は、前立腺の正常な組織への損傷を避けながら、所望の合計マイクロ波エネルギー量がマイクロ波アプリケータに供給されたときに、すべての治療される前立腺癌、前癌細胞、および良性病変を破壊することを可能にする。
【0085】
非コヒーレントな治療においては、好ましくは915MHzにおいて動作する個別の発振器105が、コンピュータ制御された2つのマイクロ波電力増幅器130に供給を行うことができ、これらは、マイクロ波電力を2つのアプリケータ110,111に供給する。単一アプリケータを用いることができる適用においては、図2に示すように、尿道に配置される単一アプリケータ110が、好ましい。
【0086】
温熱治療の間、各アプリケータに供給されるマイクロ波信号150および電力レベルは、電力フィードバック信号500として測定され、PCなどのマイクロプロセッサすなわちコンピュータ250に送られる。電力増幅器130の電力制御信号は、手動または自動のいずれかで調整され、尿道および直腸温度ならびに前立腺組織に供給される等価熱量を制御する。センサ410が、尿道および直腸壁温度を測定し、電力制御信号135が、感知された温度に基づいて調整され、火傷または水ぶくれを起こい得る高温を避ける。圧迫風船112,113により実現される圧迫の量は、患者に快適さを提供するように、治療の間必要に応じて調整される。コヒーレントな治療のために前立腺圧迫が調整されるたびに、フェイズシフタ120は、電界プローブ175が最大電力を受け取るように、再調整/最集束される。
【0087】
本発明に係るシステムによると、マイクロ波アプリケータ110,111に供給されるマイクロ波エネルギーを監視するための手段が、治療の間に供給されるエネルギー/電力を監視し、所望の合計マイクロ波エネルギーがマイクロ波アプリケータ110,111により前立腺に供給されると、治療を終了するための手段が、アプリケータへのエネルギー放射を止める。すなわち、本発明に係るシステムおよび方法は、前立腺に供給されているエネルギーを自動的に止め、これにより、所望の合計マイクロ波エネルギー量が前立腺220に供給されたときに温熱治療を終了する。好適な実施形態において、合計マイクロ波エネルギー量は、合計の等価熱量を前立腺腫瘍で生成し、これは、摂氏43度に対して約60分から400分の間となる。マイクロ波アプリケータに治療の開始時から供給された合計マイクロ波エネルギーは、コンピュータ250内で計算され、治療の間にコンピュータモニタ260に表示することができる。
【0088】
代わりの実施形態として、電界プローブ175に供給されるマイクロ波電力レベルを監視するための手段が提供され、いつ治療を終了すべきかを決定する。この実施形態によれば、電界フィードバック信号450から計算される、電界プローブ175により受け取られた合計マイクロ波エネルギーを用いて、治療の長さが制御される。この電界フィードバック信号450は、コヒーレントおよび非コヒーレント治療の両方に有用となり得る。治療の効果性を決定するために、マイクロ波合計エネルギー量が加えられる前後に、X腺および磁気共鳴撮影のうちの1つにより前立腺組織を撮影し、前立腺組織の針生検の病理学的結果と併せて検査した。
【0089】
コヒーレントな治療のために、単一の侵襲性電界プローブ175を、尿道および直腸内の固定位置186,187にある2つの非侵襲性電界センサにより、それぞれ置き換えることができる。電界センサが、尿道205および直腸210の自然開口部に挿入され、腫瘍または健康な組織を加熱するのに適切な位置に固定される。電界センサは、位置186,187において尿道および直腸壁に取りつけることができるが、これらは、尿道および直腸壁内に接触している必要はない。超音波の、X腺または他の既知の電界監視装置により、適切な電界センサ位置を確かめることができる。2つの非侵襲性電界センサにより測定される合計電力は、マイクロ波フェイズシフタ120を調整することによって(米国特許第5,810,888号でのように)最小化され、前立腺の中央部分または治療される前立腺の領域に、集束電界を生成する。
【0090】
この実施形態では、挿入されるプローブによる感染の危険がなく、皮膚を傷つけてプローブを挿入する必要がある処置によって皮膚に傷を残す危険がなく、そして、挿入電界プローブが使用されないので、癌細胞の拡散の危険がない。電界センサは、単に尿道および直腸内に固定されているだけであり、よって、腫瘍ベッドを通過しないので、成長可能な癌細胞を手術処置の間に不注意に撒き散らす可能性を減少させ、したがって、周辺組織における癌の局部再発を減少させる。同様に、温度および電界センサの両方を、この方法に従って尿道205および直腸210に配置することができるので、微視的な前立腺疾患の治療でのように、前立腺に定義された単一領域がない場合に、本発明が良好に機能する。
【0091】
好ましくは、フェイズドアレイの各チャンネル(ノード107のいずれかの側)は、電子的に可変のマイクロ波電力増幅器130(0〜100W)と、電子的に可変のフェイズシフタ120(0〜360度)と、水冷マイクロ波アプリケータ110,111とを含んでいる。
【0092】
好適な実施形態では、約915MHzのマイクロ波エネルギーを開示しているが、マイクロ波エネルギーの周波数は、100MHzから10GHzの間であればよい。マイクロ波エネルギーの周波数は、902MHzから928MHzの範囲から選択することができる。実際に、より低いエネルギーの周波数を用いて、癌組織を切除または防止することもできる。
【0093】
好適な実施形態においては、各アプリケータに供給される初期マイクロ波電力は、0から70ワットの間であり、好ましくは20から60ワットの間である。組織の治療の全体において、各アプリケータに供給されるマイクロ波電力を、0〜150Wの範囲にわたって調整して、所望のマイクロ波エネルギー量を供給し、かつ、尿道および直腸の加熱を避けることもできる。加えて、2つのマイクロ波アプリケータに供給される相対マイクロ波電力は、治療前および治療中に−180〜180度の間で調整され、前立腺組織における集束場を生成する。典型的には、非コヒーレントなアプリケータ治療の方が、コヒーレントなアプリケータ治療よりも、より大きなマイクロ波電力を必要とする。
【0094】
好適な実施形態においては、中心導体を1cm伸ばした0.9mm外径(OD:outside diameter)の侵襲性電界同軸単極プローブ(半硬質のRG−034)を、電界プローブ175として使用して、組織に向けられた電界の振幅を測定し、かつ、電子フェイズシフタに必要な相対フェイズの決定に用いられるフィードバック信号450を、治療の前に提供することができる。同軸に供給されるこの種の単極プローブは、圧迫された胸部模型における直線分極された電界の正確な測定に用いられている(フェン(Fenn)ら、電磁適合性に関する国際シンポジウム(International Symposium on Electromagnetic Compatibility)、1994年5月17〜19日、566〜569頁)。この直線分極された電界プローブは、1.6mmODのテフロンカテーテルに挿入される。熱電対プローブ(フィジテンプインストルゥメンツ(Physitemp Instruments, Inc.)、Tタイプ銅コンスタンタン(copper-constantan)、0.6mmODのテフロン鞘に封入)を用いて、治療の間に、腫瘍内の局部温度を測定することができる。この温度プローブは、0.1℃の正確度による100msの反応時間を有する。また、光ファイバ温度プローブを使用してもよい。
【0095】
電界プローブ175を、フェン(Fenn)の米国特許第5,810,888号に開示されているように、適応性フェイズドアレイ高速アクセラレーション勾配サーチアルゴリズムと共に用いて、マイクロ波放射を腫瘍サイトに標的付けする。腫瘍内の侵襲性温度プローブ175により感知された温度は、治療の間にリアルタイムフィードバック信号として使用することができる。このフィードバック信号450を使用して、可変電力増幅器のマイクロ波出力電力レベルを制御することができ、これは、腫瘍サイトにおける焦点温度を、43〜46℃の範囲に設定および維持する。フェイズドアレイの2つのチャネルに供給される電力およびフェイズは、デジタル−アナログ変換器を用いて、コンピュータの制御化で適応的に調整される。
【0096】
合計マイクロ波エネルギー量を用いて、必要な加熱時間を推定することができる。すなわち、出願者は、非侵襲性の等価温度感知手段を、侵襲性のプローブと換えることができ、合計マイクロ波エネルギー量を用いて、治療の持続時間を確実に制御できることを理解した。前立腺圧迫は、上述したように、血流量を減少させるが、これは、治療に必要なマイクロ波エネルギーにおける血流量の効果を無くす可能性があり、マイクロ波治療にて予期されるマイクロ波エネルギーの変化を減少させるおそれがある。
【0097】
好適な実施形態によると、治療の終了を決定するための、導波管アプリケータに供給される合計マイクロ波エネルギーは、25キロジュールから250キロジュールの間である。癌性または前癌組織を破壊するマイクロ波エネルギー量の合計量は、約175キロジュールである。しかし、特定の条件下では、必要なマイクロ波エネルギー量は、25キロジュールと低いこともある。
【0098】
出願者が認識するように、厚みを減らす身体の圧迫は、癌、前癌または良性病変の防止または破壊における効果的な治療に、(厚みを増やす圧迫に比べて)より少ないマイクロ波エネルギー量を必要とするであろう。各アプリケータに供給される適切な初期マイクロ波電力レベル(P1,P2)、および治療する領域にエネルギーを集束する2つのアプリケータの間で、適切なマイクロ波フェイズを選択することが重要である。
【0099】
温熱治療の間、尿道および直腸壁の温度を監視し、摂氏約41度を大きく超えることが、何度も起こらないようにすることが必要である。尿道および直腸壁センサのための等価熱量を計算することができ(サパレト(Sapareto)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.10、787〜800頁、1984年)、フィードバック信号として用いることができる。一般的に、数等価分熱量以上の供給を避ける必要がある。本発明に従う高い尿道および直腸温度の回避は、治療の間にアプリケータに供給される個別の電力(P1,P2)を、手動または自動コンピュータ制御のいずれかによって調整することにより達成される。
【0100】
ドップラー超音波を用いて、治療前および治療中に、腫瘍および周囲の前立腺組織の血流量を測定し、マイクロ波エネルギー量の計画および調整を行うことができる。例えば、腫瘍血流量量が減少した場合、より少ないエネルギー量が必要であり、これは、前立腺が圧迫され、かつ/または腫瘍が治療温度まで加熱された場合に起こり得る。あるいは、針生検からの前立腺腫瘍組織の水分含有量および誘電パラメータを測定して、治療の前に、必要なマイクロ波エネルギー量の決定に使用することができる。例えば、腫瘍内の高い水分含有量および高い導電率は、必要なマイクロ波エネルギー量を減少させる。上の変化に加えて、腫瘍の大きさが、必要なマイクロ波エネルギー量に影響を与える。大きな腫瘍は、小さな腫瘍よりも加熱がより難しく、より大きなマイクロ波エネルギー量を必要とする。腫瘍の加熱可能性を推定するための低い量のマイクロ波エネルギーの供給と、それに続く必要な全マイクロ波エネルギー量による完全な治療とを含む、初期の治療計画セッションを、行ってもよい。
【0101】
安全機能に対する臨床的な動機
前立腺癌および良性前立腺肥大の温熱治療においては、尿道および直腸の温度を低く保ちながら、前立腺内の治療温度を得ることが望ましい。前立腺にマイクロ波エネルギーを照射する間に、尿道および直腸における周辺組織が加熱される傾向があるため、周囲の健康な組織を保護しながら安全に前立腺を加熱するための方法を、開発する必要がある。
【0102】
図1〜4の、以下のマイクロ波温熱療法の適用において、マイクロ波電力制御信号135が、経尿道アプリケータ用のマイクロ波電力増幅器130、および/または経直腸アプリケータ用のマイクロ波増幅器130のうちの少なくとも1つに、オフになるよう命令し、かつ、前立腺に圧力を維持する経尿道風船112および経直腸風船113のうち少なくとも1つに、血流を減少させるよう命令して、熱を閉じ込めて追加的熱量を集めさせる。この安全性の実施形態を、熱単独の前立腺治療に、あるいはフェン(Fenn)の米国特許第5,810,888号に記載のように、温熱治療を化学療法と共に、または感熱リポソームからの化学療法の放出に用いる場合に、使用することができる。前立腺内の血流量を確認し、前立腺圧迫の量を変化させることにより調整するために、血流量を、前立腺圧迫の間、ドップラー超音波撮影により測定および表示することができる。
【0103】
前立腺癌のための化学療法、感熱リポソームにより供給される化学療法、または遺伝子療法においては、患者の治療される組織に、可能な限り多くの薬物を供給することが望ましい。化学療法、感熱リポソームにより供給される化学療法、遺伝子療法、または他の薬剤の形態の所望の治療剤が、患者の血流に注入される。経尿道および/または経直腸風船カテーテルの圧迫は、前立腺組織内の血流を調整できるように、調節することができる。前立腺内の血流は、尿道および/または直腸内の圧迫風船の圧力を増加させることにより、減少させることができる。この前立腺内の血流の減少は、注入される治療剤が、前立腺内でより多くの時間を過ごすことを意味し、治療価値を潜在的に高める。さらに、治療剤が前立腺血管内でより多くの時間を過ごした場合、治療剤が血管から前立腺組織内に溢出(浸透または漏洩)し、前立腺癌細胞に達する可能性を増加させる。したがって、前立腺の圧迫は、前立腺に供給される治療剤の量を増加させることができ、一方で、正常で健康な周辺組織に放出される治療剤の量を減少させる。
【0104】
望ましい前立腺の風船圧迫の順序は、以下の通りである。化学療法、感熱リポソームにより供給される化学療法、遺伝子療法、または他の薬剤を、患者の血流に注入し、前立腺を、経尿道および経直腸風船カテーテルのうち少なくとも1つにより、1分から10分の間圧迫する。次いで、実質的に前立腺の温度を下げることなしに、経尿道および経直腸風船のうち少なくとも1つを収縮させて、1分未満の間、前立腺に正常な血流を流れさせ、治療剤を前立腺血流に入らせる。次に、1分から10分の間、前立腺を再度圧迫して、血流量を減少させ、治療剤を前立腺内に閉じ込める。上述の風船カテーテルの膨張および収縮のプロセスを、前立腺を加熱しながら、所望の量の治療剤が前立腺に供給されるまで繰り返す。
【0105】
好適な実施形態においては、化学療法剤は、ドキソルビシン(アドリアマイシン)である。他の好適な実施形態においては、感熱リポソーム配合は、ニーダム(Needham)の米国特許第6,200,598号に記載されたものである。
【0106】
出願者は、腫瘍の血流量の測定に、ドップラー超音波撮影を用いることができることを示している。すなわち、前立腺の圧迫の有無に関わらず、ドップラー超音波撮影により、腫瘍の血流量を測定することができ、治療の間、前立腺腫瘍の脈管構造への損傷を推定するために、これらの測定値をフィードバックとして用いことができる。
【0107】
簡素化されたマイクロ波放射理論
温熱療法アプリケータからのマイクロ波エネルギーは、身体の近距離場において、電界振幅が部分的にアプリケータからの放射距離rの逆として変化しながら、球面波として放射される。その上、身体組織の減衰定数αと、図1に示される身体内を横切る距離(または深さ)dとの積の指数関数として、振幅が減衰する。電界フェイズが、フェイズ伝播定数βと距離dとの積に従う距離により直線に変化する。簡潔さのために、二重対向アプリケータを、アプリケータ放射が平面波に近似するという過程のもとに分析する。数学的に、組織内の深さに対する平面波電界は、E(d)=E0exp(−αd)exp(−iβd)により得られ、ただし、E0は表面電界であり(一般に、振幅およびフェイズ角として表わされる)、iは虚数である(フィールド(Field)およびハンド(Hand)、臨床温熱療法の実践的側面の概論(An Introduction to the Practical Aspects of Clinical Hyperthermia)、テイラー&フランシス(Taylor & Francis)、ニューヨーク(New York)、263頁、1990年)。
【0108】
915MHzのマイクロ波周波数における平面波電磁エネルギーは、前立腺組織などの水分含有量の高い組織において、cmごとに約3dBの速度で減衰する。したがって、単一の放射アプリケータは、そのマイクロ波エネルギーのうち、介在する表面的身体組織に吸収される部分が、深部組織を照射するエネルギーと比べて、非常に大きく、表面組織に熱点を形成しやすい。最大でわずか約0.25〜0.5cmの深さの空気または水のいずれかによる表面冷却で、組織を守っているので、熱点を避けるために、第1のアプリケータと同一のマイクロ波放射振幅を有する第2のフェイズコヒーレントなアプリケータを、導入する必要がある。第2のフェイズコヒーレントなアプリケータは、深部組織に供給される電力(よってエネルギー)を、単一のアプリケータと比べて4の因数で理論的に増幅することができる(フィールド(Field)およびハンド(Hand)290頁、1990年)。
【0109】
2つ以上のアプリケータ(フェイズドアレイとして知られる)からの電磁放射のフェイズ特性は、異なる組織に供給される電力の分配に、明白な効果を持つことができる。均質な組織における相対的な特定吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)が、電界振幅|E|2の2乗で概算される。SARは、所定の時間間隔における温度の上昇に比例する。簡素化されたケース、マイクロ波放射が中央組織サイトに集束される均質な前立腺組織、を以下に詳細に述べる。フェン(Fenn)らの文献、電磁適合性に関する国際シンポジウム1994(1994 International Symposium on Electromagnetic Compatibility)仙台、日本、Vol.10、No.2、1994年5月17〜19日、566〜569頁に記載されるように、模型内の多重のマイクロ波信号反射の影響は、無視することができる。
【0110】
均質な正常前立腺組織(概算で、誘電定数50および導電率1.3S/mを有する)内の波形は、915MHzにおいて約4.5cmであり、マイクロ波損失は、3dB/cmである。減衰定数αは、0.34ラジアント/cmであり、伝播定数βは、1.4ラジアント/cm(または80度/cm)である。2.25cmの圧縮された前立腺厚さに対し、左側に放射される単一アプリケータの電界は、前立腺の表面でE0であり、中央位置(深さ1.125cm)で−i0.7E0(ただしiは90度フェイズシフトを表わす)であり、右側表面で−0.5E0である。2つのフェイズコヒーレントアプリケータを組み合わせると、両面に0.5E0の電界値をもたらし、中央位置(深さ1.125cm)に−i1.4E0をもたらす。したがって、圧縮された前立腺に対し、上述のコヒーレントな電界を2乗してSARを計算すると、表面のSARが、中央のSARと比べて約2.0の因数により著しく低くなっている。2.25cmの前立腺組織を通じて伝達されるマイクロ波場が受ける180度フェイズシフトは、0度のフェイズシフトで組織に入る場を部分的に相殺またはヌル化する。中央焦点から離れたマイクロ波の破壊的干渉により、表面前立腺組織において温度がより低いことが予想される。対向面におけるより低いSARの測定および実施は、マイクロ波エネルギーを、効果的に、腫瘍に深く集束する。表面または周辺領域の前立腺組織に対し、より強く放射することが望まれる場合では、圧迫の厚さを2.25cmより大きくして、伝播する波のフェイズ遅延を2つの波よりも長くして表面で相殺されないようにすることができ、あるいは経尿道または経直腸アプリケータのうちいずれか1つ(特に経直腸アプリケータ)を、前立腺の加熱に使用することができる。
【0111】
ここで非コヒーレントアプリケータについて、上述の計算を繰り返すと、2.25cmの圧迫された前立腺厚さに対し、左側に放射する単一アプリケータの電界放射は、前立腺の表面でE0であり、中央位置(深さ1.125cm)で−i0.7E0(ただしiは90度フェイズシフトを表わす)であり、右側表面で−0.5E0である。個別の電界を2乗して加算することにより、2つのアプリケータを非コヒーレントに組み合わせると、両面で1.5E02のSAR値をもたらし、中央位置(深さ1.125cm)で0.98E02をもたらす。したがって、圧迫された前立腺に対し、上述の非コヒーレントな電界を2乗してSARを計算することにより、表面のSARが、中央のSARと比べて約1.5の因数により著しく高くなっている。この理由から、深部腫瘍組織を非コヒーレントなアレイにより加熱することは、コヒーレントなアレイに比べてより困難である。しかしながら、上述したように、前立腺癌治療においては、前立腺癌細胞のいくらかは、直腸の近くに位置する場合があり、非コヒーレントな治療によって十分な加熱を提供することができる。
【0112】
本発明に係る適応性フェイズドアレイシステムは、共通の発振器105で供給される、2つの電子的に調整可能なフェイズシフタ120を含んだ2つのマイクロ波チャンネルを使用して、マイクロ波エネルギーを電界フィードバックプローブ175に集束させる。この発明的な適応性フェイズドアレイシステムは、非適応性フェイズドアレイに対する大きな利点を有する。2つのチャンネルを有する非適応性フェイズドアレイは、理論上、2つの波が180度異相、完全に同相、または部分的に異相であるかどうかに応じて、それぞれヌル、最大、または中間値の電界を生成することができる。すなわち、マイクロ波アプリケータに供給されるマイクロ波フェイズは、本発明によると、前立腺組織に集束場を生成するために、治療前および治療中に−180度から180度の間で調整することができる。
【0113】
本発明に係る適応性フェイズドアレイは、すべての散乱構造が組織内に存在する状態で、電界を自動的に集束する。したがって、本発明に係る適応性フェイズドアレイは、ターナー(Turner)の米国特許第4,589,423号に記載されるように相互に調整または事前治療計画制御されたフェイズドアレイと比べて、より信頼性のある深部集束加熱を提供する。さらに、本発明に係る適応性フェイズドアレイシステムは、電界を腫瘍サイトにおいて散乱または変質し得る侵襲性の温度プローブを使用しない。
【0114】
マイクロ波エネルギーの計算
電気エネルギー消費は、一般にキロワット時間の単位で表現される。数学的に、アプリケータにより供給されるマイクロ波エネルギーWの表現は、次の式により得られる(ビトロガン(Vitrogan)、電気および磁気回路の素子(Elements of Electric and Magnetic Circuits)、ラインハート出版(Rinehart Press)、サンフランシスコ(San Francisco)、31〜34頁、1971年)。
【0115】
W=ΔtΣPi (1)
上の式において、Δtは、一定間隔を(秒で)表わし、この間隔において、無線周波数電力が測定され、合計Σは、第i間隔における電力(ワット)をPiで表わした、全治療間隔にわたるものである。
【0116】
マイクロ波エネルギーWは、ワット秒の単位を有し、これは、ジュール(Joule)としても示される。例えば、3つの連続する60秒間隔において、マイクロ波電力が30ワット、50ワット、60ワットの場合、180秒間に供給される合計のマイクロ波エネルギーは、それぞれ、W=60(30+50+60)=8,400ワット秒=8,400ジュール=8.4kJとして計算される。
【0117】
厚さ(Dで表わす)が変化する均質な前立腺組織の中央位置に、二重の対向するアプリケータにより当てられる単位時間W’(’は素数を表わす)当たりの集束エネルギーを、より理解するために、コヒーレント治療向けの以下の計算を考察する。P1およびP2を、それぞれ2つのアプリケータに供給される電力とする。各アプリケータにより放射される電界は、アプリケータに供給される電力の平方根に比例する。対称であると仮定して、放射される場は、2つのアプリケータからの中央集束位置において同相である。各アプリケータおよび平面照射からの電力が等しい、すなわち、P1=P2=Pと仮定して、中心の深さにおける単位時間当たりの集束エネルギーは、次のように表わされる。
【0118】
W’(D)=|E|2=4Pexp(−αD) (2)
等価熱量の計算
摂氏43度に比例する、累積すなわち合計の等価熱量を、次のように合計として計算する(サパレト(Sapareto)ら、放射線腫瘍生物物理学の国際ジャーナル(International Journal of Radiation Oncology Biology Physics)Vol.10,787〜800頁、1984年)。
【0119】
t43℃等価分=ΔtΣR(43−T) (3)
ただし、Σは治療の間の一連の温度測定の合計であり、Tは一連の温度測定(T1,T2,T3,...)であり、Δtは、測定の間の一定の時間間隔(秒の単位で、分に変換)であり、Rは、T>43℃の場合に0.5に等しく、Rは、T<43℃の場合に0.25に等しい。等価な熱量計算は、前立腺組織、尿道および直腸への、発生し得る熱ダメージを推定するのに有用である。
【0120】
均等物
本発明を、特に、好適な実施形態を参照して図示し、説明してきたが、当該分野の当業者には、形態および詳細のさまざまな変更を、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、行うことが可能であることが理解されるであろう。例えば、本明細書に記載される温熱療法システムは、前立腺癌および良性前立腺病変の治療に関するものであるが、本発明は、胸部、肝臓、肺および卵巣などの他の種類の癌の治療にも適用可能である。開示される好適な実施形態に加えて、本明細書に記載される方法は、風船カフ(例えば血圧カフ)または他の器具により圧迫可能な脚および腕ならびに胴などの、人体の他の付属器官および位置のマイクロ波、無線周波数、または超音波温熱治療に適用できるものと理解される。また、同様の結果をもたらすより多いまたは少ない数のアレイアンテナアプリケータ、またはインプラントなどの単一のアンテナアプリケータ、あるいは経尿道または経直腸アプリケータを使用できるものと理解される。本明細書に記載される方法および技術のいくつかは、また、超音波温熱療法システム、特にフィードバック制御のためのエネルギー量の使用に適用可能である。本発明に係るシステムは、放射線療法の拡張のために、または感熱リポソームを用いた標的薬物供給、および/または標的遺伝子供給、あるいは標的遺伝子療法に使用することができる。本発明は、工業加熱に用いられるような、非医療用の温熱システムにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】コヒーレントな経尿道および経直腸アプリケータからの圧迫下の前立腺を加熱するための、本発明に係るマイクロ波温熱療法システムを示している。
【図2】単一の非コヒーレントな経尿道アプリケータからの圧迫下の前立腺を加熱するための、本発明に係るマイクロ波温熱療法システムを示している。
【図3】追加的な介在性アプリケータを用いた、図1のマイクロ波療法システムの他の実施形態を示している。
【図4】本発明のさらに他の実施形態に係る患者の身体の皮膚表面の外側にある2つ以上のアプリケータにより囲まれた前立腺を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺の組織を治療するための方法であって、マイクロ波エネルギー、超音波エネルギー、レーザーエネルギーおよび流体を介したエネルギーのうちの1つの印加後に、治療される前立腺組織に加えられる熱量を集積させるために、前立腺を圧迫するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
マイクロ波エネルギー、超音波エネルギー、レーザーエネルギーおよび流体を介したエネルギーのうちの1つの前記印加は、単一のアプリケータにより達成され、前記アプリケータは、インプラント、経尿道アプリケータおよび経直腸アプリケータのうちの1つであることを特徴とする請求項1に記載の前立腺を治療するための方法。
【請求項3】
前記圧迫ステップは、経尿道カテーテル風船および経直腸風船のうち少なくとも1つを膨張することにより達成されることを特徴とする請求項1に記載の前立腺を治療するための方法。
【請求項4】
ドップラー超音波速度撮影システムからのリアルタイムフィードバックを使用し、前記経直腸および/または経尿道風船の膨張の結果としての、前立腺圧迫の量を調整および確認するステップをさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の前立腺を治療するための方法。
【請求項5】
温熱療法を安全に施すための方法であって、治療される器官および付属器官のうち少なくとも1つを、風船カテーテルおよび風船カフのうちの1つを使用して圧迫し、器官または付属器官の血流を減少させるステップと、
前記器官および/または付属器官の癌および/または良性状態を治療するために、化学療法、遺伝子療法、化学療法を含む温熱リポソーム、および放射線療法のうちの1つを、前記圧迫と組み合わせて加えるステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記風船カテーテルは、経尿道風船カテーテルおよび経直腸風船カテーテルのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項7】
治療される前記器官は前立腺であり、前記カテーテルを圧迫するために、風船カテーテルが用いられ、前立腺圧迫の量を調整するステップと、前記経直腸および/または経尿道風船カテーテルの結果としての、前立腺圧迫の量を確認するステップさらに備える、ことを特徴とする請求項6に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項8】
前記調整ステップおよび確認ステップは、ドップラー超音波速度撮影システムからのリアルタイムフィードバックを用いて達成されることを特徴とする請求項7に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項9】
前記器官は前立腺であり、前記カテーテルを圧迫するために、風船カテーテルが用いられ、前記前立腺の圧迫ステップは、化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および放射線療法のうちの1つの後に発生し、治療剤を供給するための放射線療法が患者の血流に注入され、前記圧迫ステップは、前記風船カテーテルを膨張させ、約1分から約10分の間の第1時間間隔の間に前立腺を圧迫することと、次いで、前記第1時間間隔の圧迫後に、前記風船カテーテルを収縮させ、約1分未満の第2時間間隔の間、前立腺への血流を無制限にすることを含むことを特徴とする請求項5に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項10】
前記風船カテーテルを膨張し収縮させる前記プロセスは、所望量の治療剤が前立腺に供給されるまで繰り返されることを特徴とする請求項9に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項11】
付属器官を圧迫して、癌および/または良性状態を治療することを特徴とする請求項5に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項12】
前記付属器官は、腕、脚または胴のうちの1つであることを特徴とする請求項11に記載の温熱療法を安全に施すための方法。
【請求項13】
化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法を効果的に供給するための方法であって、化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法のうちの1つを、器官または付属器官に加えるステップと、次いで、前記器官または付属器官の周りの風船カテーテルおよび風船カフのうちの1つの膨張または縮小を調節して、前記器官または付属器官を圧迫し、その内部の血流を変化させるステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記器官または組織の組織を、マイクロ波、超音波、無線周波数、およびレーザーエネルギーのうちの1つで加熱するステップをさらに備え、前記器官または付属器官の圧迫の調節と、温熱療法は、共に、供給される化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法のうちの1つの医療効果を増加させる、ことを特徴とする請求項13に記載の化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法を効果的に供給するための方法。
【請求項15】
治療される前記器官は、前立腺であることを特徴とする請求項14に記載の化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法を効果的に供給するための方法。
【請求項16】
治療される前記付属器官は、腕、脚および胴のうちの1つであることを特徴とする請求項14に記載の化学療法、化学療法を含む感熱リポソーム、および遺伝子療法を効果的に供給するための方法。
【請求項17】
化学療法を含むリポソームを治療される前立腺に効果的に供給するための方法であって、前立腺の風船カテーテル圧迫を時間調節し、前立腺内の血流を減少させ、化学療法を含むリポソームが前立腺に化学療法を供給する時間を、より長くするステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項18】
前記風船カテーテルの圧迫を時間調節するステップは、ドップラー超音波速度撮影システムからのリアルタイムフィードバックを用いて、前立腺圧迫の量の調整と確認を行う、ことを特徴とする請求項17に記載のリポソームを効果的に供給するための方法。
【請求項19】
前記圧迫ステップは、経尿道カテーテル風船および経直腸風船のうちの少なくとも1つを膨張することにより達成されることを特徴とする請求項17に記載のリポソームを効果的に供給するための方法。
【請求項20】
腫瘍の温熱治療の方法であって、ドップラー超音波撮影を用いて、圧迫の有無にかかわらず、腫瘍領域内の血流量を測定し、温熱療法の間にフィードバックを行い、腫瘍への損傷を推定するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項21】
癌、前癌、または良性状態の前立腺を、前立腺への照射により早期治療するための方法であって、
a)患者の前立腺特異抗原(PSA:Prostate-Specific Antigen)レベルおよび米国泌尿器学会(AUA:American Urology Association)症状指標(Symptom Index)を決定するステップと、
b)患者の前立腺を圧迫するステップと、
c)PSAレベルが4.0ng/ml未満およびAUA指標が13未満のいずれかの場合に、集束されたマイクロ波エネルギーにより、患者の圧迫された前立腺を加熱するステップと、
を備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−500103(P2006−500103A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537804(P2004−537804)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/028898
【国際公開番号】WO2004/026098
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(504305337)セルシオン コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】