説明

測位システム

【課題】マルチパスが測位に与える影響を正確に算出し、その影響を極力除外することで測位精度を確実に向上する。
【解決手段】電波信号を、マルチパス対応の所定の態様で送信する移動局10と、受信された電波信号に対して同期検出を行い受信時刻を算出する到来時刻検出部42、及び、受信された電波信号の強度を検出するRSSI部47を備えた複数の基地局12A〜12Dと、受信時刻に基づいて移動局10の測位処理を行う測位サーバ14とを有し、測位サーバ14は、RSSI部47で検出された電波信号の強度より、到来時刻検出部42で算出される受信時刻に対するマルチパスの影響を表す、マルチパス強度因子を算出し、基地局12で算出されマルチパス強度因子に応じた所定の処理が行われた受信時刻に基づいて、測位処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局から送信され基地局で受信した電波信号に基づき、移動局の測位処理を行う測位システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局と基地局との間の無線通信の結果に基づいて、移動局の測位を行う測位システムとして、種々の方式のものが既に提唱されている。例えば、TOA(Time of Arrival)方式は、ある移動局における電波の送信時刻と複数の基地局における電波の受信時刻とに基づいて算出した、電波の伝搬時間に基づいて、移動局と複数の基地局との間の距離をそれぞれ算出し移動局の測位を行う方式である。TDOA(Time Difference of Arrival)方式は、複数の基地局それぞれの受信時刻の相対受信時刻を用いて、移動局と複数の基地局との間の距離をそれぞれ算出し、移動局の測位を行う方式である。また、位相差方式は、複数の移動局から送信される異なる周波数の電波ごとに、複数の基地局間での受信電波の位相差を検出し、その検出された位相差に基づく等位相面の交点を求めることで、移動局の位置を推定するものである。
【0003】
ここで、無線通信を用いたこのような測位システムにおいて、障害物等がある電波伝搬環境では、基地局では、移動局からの直接波に加えて反射波(マルチパス波)も受信される。このマルチパス環境では、反射波の干渉により測位精度が低下するおそれがある。そこで、このようなマルチパス環境においても測位精度を向上するための従来技術として、例えば特許文献1記載のものが知られている。
【0004】
この従来技術は、上記位相差方式を用いるものであり、移動局(送信機)から送信され基地局(受信アンテナ)で受信された現時刻の受信電力レベルを、記憶手段に記憶された過去の時刻の受信電力レベルから求めたしきい値と比較する。そして、前述のようにして検出された位相差の中から、受信電力レベルがしきい値より大きい基地局の受信信号の位相差を選択し、その選択された位相差により計測点の位置を推定する。これにより、マルチパス環境であっても測位精度の劣化を抑制できるようになっている。
【特許文献1】特開2005−227167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、測位精度を向上するために基地局を選択するのに、直接波と反射波の合成波の受信電力レベルの大小によって評価している。すなわち、受信電力レベル中の直接波と反射波の割合については評価に加味されていないため、マルチパスの影響(反射波が直接波に対してどの程度悪影響を及ぼしているのか)を正しく評価しているとは言い難かった。したがって、そのような受信電力レベルの大小により選択された受信信号に基づく測位において、十分に高い測位精度を確保できるとは限らなかった。
【0006】
本発明の目的は、マルチパスが測位に与える影響を正確に算出し、その影響を極力除外することで測位精度を確実に向上することができる測位システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、電波信号を、マルチパス対応の所定の態様で送信する送信部を備えた移動局と、前記送信部から送信された前記電波信号を受信する受信部と、受信された前記電波信号に対して同期検出を行い、前記電波信号の受信時刻を算出する同期検出部と、受信された前記電波信号の強度を検出する信号強度検出部とを備えた複数の基地局と、前記受信時刻に基づいて前記移動局の測位処理を行う測位処理手段とを有する測位システムであって、前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度より、前記同期検出部で算出される受信時刻に対するマルチパスの影響を表す、マルチパス強度因子を算出するための強度因子算出手段とを有し、前記測位処理手段は、前記基地局で算出され、前記マルチパス強度因子に応じた所定の処理が行われた受信時刻に基づいて、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0008】
移動局の送信部から電波信号が送信されると、その信号が基地局の受信部にて受信され、同期検出部で受信時刻が算出される。そして、その受信時刻に基づき、測位処理手段が、移動局の測位を行う測位処理を行う。
【0009】
ここで、マルチパス環境においては、送信部からの電波信号の直接波に対し、時間差をもって遅れて反射波が受信部にて受信される。この遅れて受信される反射波が直接波と干渉することでビット反転が生じ、送信された電波信号に誤りが含まれる場合がある。この場合、受信時刻検出において誤差が生じ、測位精度が低下する。
【0010】
本願第1発明においては、強度因子算出手段が、信号強度検出部で検出された電波信号の強度より、同期検出部で算出される受信時刻に対するマルチパスの影響を表す所定のマルチパス強度因子(例えば反射波及び直接波の信号強度比や、合成波の信号強度最大値及び最小値の差の合計、等)を算出する。そして、各基地局で算出された受信時刻に対し、上記マルチパス強度因子に対応した所定の処理が行われ、その処理が行われた受信時刻を用いて、測位処理手段が測位処理を行う。このように、マルチパス強度因子によって測位精度へのマルチパスの影響を正確に評価し、影響を極力除外した測位処理を行うことで、確実に測位精度を向上することができる。
【0011】
第2発明は、上記第1発明において、前記測位処理手段は、前記所定の処理として、前記基地局で算出された前記受信時刻のうち前記マルチパス強度因子に応じた選択が行われた、受信時刻に基づいて、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0012】
これにより、各基地局で算出された受信時刻の中から、マルチパス強度因子に対応して測位精度の向上が期待できる受信時刻を選択し、その選択された受信時刻を用いて測位処理手段が測位処理を行う。このような受信時刻データの取捨選択を行うことで、確実に測位精度を向上することができる。
【0013】
第3発明は、上記第2発明において、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、前記基地局での受信時に、前記直接波と前記反射波との位相差が、略0となるか、若しくは、略πとなるような態様で、前記電波信号を送信することを特徴とする。
【0014】
直接波と反射波との位相差が0やπに近い場合、合成波の受信信号強度の変動と直接波及び反射波の信号強度との関係が明確となり、最大値Smaxと最小値Sminとの和や差を用いて直接波及び反射波の信号強度Sd,Srが簡単に精度よく求められる。逆に直接波と反射波との位相差がπ/2や2π/3に近くなると、合成波の受信信号強度の変動と直接波及び反射波の信号強度との関係が不明確となる。本願第3発明においては、直接波と反射波との位相差が0やπに近い状態を実現することにより、合成波の受信信号強度の最大値Smax及び最小値Sminから直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。すなわち、位相差がほぼ0の場合は、Smax=Sd+Sr、Smin=Sd−Srとなるため、Sd=(Smax+Smin)/2、Sr=(Smax−Smin)/2で求められる。位相差がほぼπの場合は、Smax=Sd−Sr、Smin=Sd+Srとなるため、Sd=(Smax+Smin)/2、Sr=(Smin−Smax)/2で求められる。
【0015】
第4発明は、上記第3発明において、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、1MHz以下の周波数の前記電波信号を送信し、前記強度因子算出手段は、前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記電波信号の前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを検出する第1最大値・最小値検出手段と、前記第1最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを検出する第1直接波・反射波強度検出手段と、前記第1直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として算出する第1信号強度比算出手段とを備えており、前記測位処理手段は、前記第1信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0016】
例えば室内での測位システムにおいて移動局と基地局との間の最大距離は40m程度であり、この場合、基地局に対し45度の角度で反射して入ってくる反射波の伝搬距離は40×√2=56mとなる。すなわち、室内で考え得るマルチパスによる距離差は、最大でも15m程度となる。周波数が1MHz以下であれば、波長は300m以下であるから、最大15mの距離差があっても、15/300×2π=0.1πの位相差にとどまる。以上により、室内での測位であれば、電波信号の周波数を1MHz以下(波長300m以上)とすることにより、直接波と反射波との位相差はほぼ0とみなせる。この結果、1回の送受信において第1最大値・最小値検出手段で検出した合成波の受信信号強度の最大値Smax及び最小値Sminから、第1直接波・反射波強度検出手段で、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。
【0017】
第1信号強度比算出手段は、それらの信号強度比Sr/Sdを算出する。そして、測位処理手段は、Sr/Sdの値が小さい基地局(言い換えれば反射波の悪影響が小さい基地局)から順に選択し当該基地局で算出された受信時刻を優先的に用いて測位処理を行う。これにより、測位精度に悪影響を及ぼす反射波の影響を確実に低減し、測位精度を向上することができる。
【0018】
第5発明は、上記第3発明において、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、互いに周波数の異なる複数回の前記電波信号を送信し、前記強度因子算出手段は、前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第2最大値・最小値検出手段と、前記第2最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminが最も大きくなる電波信号の、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを各基地局ごとに検出する第2直接波・反射波強度検出手段と、前記第2直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として各基地局ごとに算出する第2信号強度比算出手段とを備えており、前記測位処理手段は、前記第2信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0019】
電波信号の直接波と反射波との位相差は、反射波の遅延時間によって決まる。このとき、電波信号の周波数を変えることで、同じ遅延時間に対しても位相を変えることができる。
【0020】
すなわち、例えば反射波の直接波との伝搬距離の差が10mであった場合、遅延時間△t=10/(3×10)[秒]となる。このとき、例えば電波信号が無線LANの電波(周波数2.412GHz)であったとすると、位相差は、△t/(1/f)= 10/(3×10)×2.412×10=0.8πとなる。一方、電波信号の周波数として2.427GHzを用いると、△t/(1/f)=1.8πとなる。仮に周波数を0.005GHz単位で変化させると、0.5/3×2π=0.33π刻みで位相差を変えることが可能となる。
【0021】
以上により、電波信号の周波数を変えながら複数回送信及び受信を行うことにより、位相差が0又はπに近い場合の波形を取得することが可能となる。この結果、1回の送受信において第2最大値・最小値検出手段で検出した合成波の受信信号強度の最大値Smax及び最小値Sminから、第2直接波・反射波強度検出手段で、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。
【0022】
第2信号強度比算出手段は、それらの信号強度比Sr/Sdを算出する。そして、測位処理手段は、Sr/Sdの値が小さい基地局(言い換えれば反射波の悪影響が小さい基地局)から順に所定の個数を選択し当該選択された基地局で算出した受信時刻を優先的に用いて測位処理を行う。これにより、測位精度に悪影響を及ぼす反射波の影響を確実に低減し、測位精度を向上することができる。
【0023】
第6発明は、上記第3発明において、前記移動局は、複数のアンテナと該複数のアンテナを切り換える切り換え部を有し、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、異なる複数の前記アンテナを順次選択して前記電波信号を送信し、前記強度因子算出手段は、前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第2最大値・最小値検出手段と、前記第2最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminが最も大きくなる電波信号の、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを各基地局ごとに検出する第2直接波・反射波強度検出手段と、前記第2直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として各基地局ごとに算出する第2信号強度比算出手段とを備えており、前記測位処理手段は、前記第2信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0024】
電波信号の直接波と反射波との位相差は、反射波の遅延時間によって決まる。このとき、互いに異なる周波数にそれぞれ対応した複数のアンテナを用意しておき、これら複数のアンテナを切り換えて使用して電波信号の周波数を変えることにより、同じ遅延時間に対しても位相を変えることができる。
すなわち、例えば反射波の直接波との伝搬距離の差が10mであった場合、遅延時間△t=10/(3×10)[秒]となる。このとき、例えば電波信号が無線LANの電波(周波数2.412GHz)であったとすると、位相差は、△t/(1/f)= 10/(3×10)×2.412×10=0.8πとなる。一方、電波信号の周波数として2.427GHzを用いると、△t/(1/f)=1.8πとなる。仮に周波数を0.005GHz単位で変化させると、0.5/3×2π=0.33π刻みで位相差を変えることが可能となる。
【0025】
以上により、アンテナを切り換えて電波信号の周波数を変えながら複数回送信及び受信を行うことにより、位相差が0又はπに近い場合の波形を取得することが可能となる。この結果、1回の送受信において第2最大値・最小値検出手段で検出した合成波の受信信号強度の最大値Smax及び最小値Sminから、第2直接波・反射波強度検出手段で、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。
【0026】
第2信号強度比算出手段は、それらの信号強度比Sr/Sdを算出する。そして、測位処理手段は、Sr/Sdの値が小さい基地局(言い換えれば反射波の悪影響が小さい基地局)から順に所定の個数を選択し当該選択された基地局で算出した受信時刻を優先的に用いて測位処理を行う。これにより、測位精度に悪影響を及ぼす反射波の影響を確実に低減し、測位精度を向上することができる。
【0027】
第7発明は、上記第2発明において、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、互いに周波数の異なる複数回の前記電波信号を送信し、前記強度因子算出手段は、前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、直接波及び反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第3最大値・最小値検出手段を備えており、前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、Smax−Sminが最小となるような態様で、前記電波信号を送信することを特徴とする。
【0028】
Smax−Sminが最小となる場合として、直接波と反射波の位相差がπ/2か3π/2に近い場合と、Sr/Sdが小さい場合とが考えられる。例えば基地局の受信部でBPSK復調を考えると、直接波と反射波の位相差がπ/2か3π/2に近い場合には、反射波が復調に及ぼす影響は小さく、復調時にビット反転が発生する可能性が低くなる。また、Sr/Sdが小さい場合も同様である。本願第7発明においては、これらのようにして、Smax−Sminが最小となるようにすることで、反射波の影響を低減し、測位精度を向上することができる。
【0029】
第8発明は、上記第7発明において、前記強度因子算出手段は、前記第3最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、各回の電波信号において、Smax−Sminを各基地局ごとに算出する強度差算出手段と、前記強度差算出手段での算出結果に基づき、各回の電波信号において、複数の基地局に係るSmax−Sminの和を前記マルチパス強度因子として算出する強度差総計算出手段とを備えており、前記測位処理手段は、前記強度差総計算出手段の算出結果に応じて、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminの和が最も小さくなる周波数における、各基地局での受信時刻に基づき、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0030】
電波信号の直接波と反射波との位相差は、反射波の遅延時間によって決まる。このとき、電波信号の周波数を変えることで、同じ遅延時間に対しても位相を変えることができる。電波信号の周波数を変えながら複数回送信及び受信を行うことにより、合成波の受信信号強度の最大値Smax及び最小値Sminの差Smax−Sminが小さくなるような波形を取得することが可能となる。上記Smax−Ssinが小さい場合、直接波と反射波との位相差がπ/2や3π/2に近いか、あるいは、反射波の強度が小さくなっている。反射波の強度が小さい場合は、直接波と反射波の干渉によるビット反転が発生する可能性が低い。また、直接波と反射波の位相差がπ/2、3π/2に近い場合は、例えば基地局の受信部でBPSK復調を行う場合では、反射波が復調に及ぼす影響が小さくなる。
【0031】
上記に鑑み、本願第8発明では、第3最大値・最小値検出手段で上記合成波信号強度最大値Smax及び最小値Sminを検出した後、その強度差Smax−Sminを各基地局ごとに強度差算出手段で算出する。その後、強度差総計算出手段が、周波数が異なる各回の電波信号において、複数の基地局それぞれの強度差Smax−Sminの和を算出する。
【0032】
そして、測位処理手段は、複数の基地局それぞれの強度差Smax−Sminの和が最も小さい回(言い換えれば反射波の悪影響が最も小さい回)の電波信号を用いて測位処理を行う。これにより、測位精度に悪影響を及ぼす反射波の影響を確実に低減し、測位精度を向上することができる。
【0033】
第9発明は、上記第8発明において、前記強度差総計算出手段は、前記強度差算出手段での算出結果に基づき、各回の電波信号において、Smax−Sminが小さい順に基地局を所定の個数選択し、当該選択された基地局に係るSmax−Sminの和を前記マルチパス強度因子として算出し、
前記測位処理手段は、前記強度差総計算出手段の算出結果に応じて、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminの和が最も小さくなる周波数における、各基地局での受信時刻に基づき、前記測位処理を行うことを特徴とする。
【0034】
強度差総計算出手段が、周波数が異なる各回の電波信号において、複数の基地局のうち強度差Smax−Sminが小さいものから優先的に所定個数だけ選択する(すなわち、複数の基地局のうち強度差Smax−Sminが大きいものは選択されなくなる)。そして、その選択された基地局のみに限定した形でそれら各基地局での強度差Smax−Sminの和を算出する。測位処理手段では、選択された基地局での強度差Smax−Sminの和が最も小さい回の電波信号を用いて測位処理を行うことで、さらに確実に測位精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、マルチパスが測位に与える影響を正確に算出し、その影響を極力除外することで測位精度を確実に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、この実施形態では、TDOA方式により測距を行う場合を例にとって説明する。
【0037】
(A)測位システムの基本構成
図1は、本実施形態の測位システムの構成の一例を表す説明図である。
【0038】
図1において、平面上の任意の形状(この例では縦20(m)、横30(m)の長方形状)を備えた移動可能領域50が設けられる。この移動可能領域50には、1つの移動局10と、4つの基地局12(第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12C、第4基地局12D)が設けられ、領域近傍には測位サーバ14が設けられている。
【0039】
移動局10は、移動可能領域50内を移動可能に配置されている。第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12C、及び第4基地局12Dは、長方形の移動可能領域50の既知の位置に(この例では4隅それぞれに1つずつ)固定的に配置されている。
【0040】
測位サーバ14は、例えばLANケーブル等の有線ケーブル52により各基地局12A〜12Dと接続され、互いに情報通信可能となっている。そして、測位サーバ14は、移動局10によって送信された電波(=測距用電波信号。詳細は後述)が上記基地局12A〜12Dによって受信されるときの受信時刻情報に基づき(詳細には後述のように各基地局12A〜12Dにおける測距用電波信号の受信時刻の時間差に基づき)、移動可能領域50内における移動局10の位置を算出する(=測位)。
【0041】
図2は、上記位置算出のために、移動可能領域50において便宜上設定される座標系を表す説明図である。
【0042】
図2において、x軸及びy軸を備えた座標系が定義されており、移動可能領域50上の点はこれらx座標系、y座標系において座標が規定される。この例では、(理解の容易のため)x座標y座標の値は、原点(0,0)からの距離[m]に対応させてある。すなわち、第1基地局12Aは座標(0,20)に配置され、第2基地局12Bは座標(0,0)に配置され、第3基地局12Cは座標(30,0)に配置され、第4基地局12Dは座標(30,20)に配置されている。
【0043】
図3は、移動局10の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【0044】
図3において、移動局10は、電波を送受信するために用いるアンテナ部20と、平衡不平衡変換器22と、送受信切換部24と、送信アンプ部26と、無線部28と、制御部32と、電池40と、増幅率一定の低雑音増幅器27とを有する。なお、時計41についてはTDOA方式を行う本実施形態では必ずしも必要ない(後述の(5)の変形例を参照)。
【0045】
平衡不平衡変換器22は、例えばバラン(Balun)で構成される。この平衡不平衡変換器22は、送受信切換部24の不平衡線路をアンテナ部20に適合するように平衡線路に変換する。
【0046】
送受信切換部24は、移動局10の送信状態と受信状態とを切り換える。すなわち、送受信切換部24が移動局10を送信状態に切り換えると、移動局10は送信機として機能し、送受信切換部24が移動局10を受信状態に切り換えると、移動局10は受信機として機能する。
【0047】
無線部28は、移動局10が送信機として機能する場合には、制御部32によって生成される信号を無線通信を行うための形式に変換する。移動局10が受信機として機能する場合には、アンテナ部20によって受信された受信波から制御部32によって処理されるための信号に変換する。この無線部28は、この例では、PLL(phase lock loop)回路29、VCO回路31、及びデジタル変調復調部30などを備えたIC等によって実装される。
【0048】
PLL回路29は、制御部32からの指令により所定の周波数の搬送波を発生させるものである。デジタル変調復調部30は、制御部32によって生成される信号をデジタル変調する。またデジタル変調復調部30は、受信された受信信号の復調を行い、生成されたデジタルデータを制御部32に出力する。これにより、移動局10と基地局12との間の無線通信がデジタル通信によって実行される。
【0049】
送信アンプ部26は、移動局10が送信機として機能する場合に、上記無線部28によって生成された信号波を増幅する。
【0050】
制御部32は、移動局10の各部の制御を行う。例えば、PLL回路29に送受信の周波数設定を行ったり、送受信切換部24を制御して送信状態と受信状態の切り換えを行う。また、送受信信号を処理する信号処理部35を有する。制御部32は、例えば、ゲートアレイやマイコンなどによって実装される。
【0051】
信号処理部35は、基地局12で到来時刻検出を行うために、予め記憶しておいた拡散符号を読み出し、無線部28に入力し、基地局に送信する。この拡散符号の第1条件は、自己相関関数に高いピークを持つ符号であることである。すなわち、位相差がゼロである場合において自己相関が大きな値となる一方、位相差がゼロでない場合には自己相関が十分に小さいような符号が用いられる。発生させる拡散符号の第2条件は、相互相関が小さい符号であることである。すなわち、符号間における相関がすべての位相差において十分小さい符号列が用いられる。これら2つの条件を満たす符号としては、例えば、M系列符号や、GPSにおいても使用されているGold系列符号等を用いることができる。このGold系列符号は疑似雑音符号(pseudo−noise code;PN信号)の一種である。また、信号処理部35は、基地局12から送信され、無線部28で復調されたベースバンド信号を解析する。解析された内容にしたがって、制御部32が移動局の各部を制御して動作させる。
【0052】
このような拡散符号を送信することで、基地局12での正確な受信タイミングの検出が可能になり、時計と合わせて受信時刻の判定を行うことができるのである。
【0053】
電池40は、上述した送信アンプ26、無線部28、制御部32、時計41等の各機能部に対し、必要な電力を供給する。
【0054】
なお、上記アンテナ部20、平衡不平衡切換器22、送受信切換部24、送信アンプ26、無線部28、制御部32等の、電波の送信及び受信のための機能部が各請求項記載の送信部及び受信部に相当する。
【0055】
図4は、基地局12A〜12Dの機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。図3と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0056】
図4において、基地局12A〜12Dは、移動局10に備えられたものと共通の機能である、アンテナ部20、平衡不平衡変換器22、送受信切換部24、送信アンプ26、無線部28、低雑音増幅器27、時計41、電池40等を有する。また、移動局10の制御部32に対応した制御部33を備えている。すなわち、基地局12A〜12Dも、上述の移動局10と同様、送信機(送信部)及び受信機(受信部)としての両方の機能を有する。
【0057】
制御部33は、ベースバンド信号生成復元部36を備えている。このベースバンド信号生成復元部36は、基地局12が送信機として機能する場合には、伝送したい情報を符号化しベースバンド信号を生成する。またベースバンド信号生成復元部36は、基地局12が受信機として機能する場合には、移動局10から送信され、無線部28で復調されたベースバンド信号から、伝送された情報を取りだす。
【0058】
時計41は、制御部33ほかの各機能部の動作時や、電波の送信・受信時において参照可能な時刻情報を供給する。この時計41は、例えばリファレンスクロック等により構成される。
【0059】
また基地局12A〜12Dは、上記以外に、到来時刻検出部42(同期検出部)と、測位サーバ14との通信を行うための有線通信部43と、記憶部(メモリ)45、RSSI部47(信号強度検出部)とを有する。
【0060】
到来時刻検出部42は、移動局10から送信された上記電波(測距用電波信号)が基地局12A〜12Dで受信された時刻を検出する。なお、本実施形態では、後述のように移動局10からは複数回(例えば3回)の周波数(後述するチャンネル)の異なる測距用電波信号が送信され、到来時刻検出部42では、各回ごとに測距用電波信号の受信時刻を検出する。この到来時刻検出部42は例えばマッチドフィルタを含んで構成され、この例では、レプリカ符号発生部44と、遅延回路46と、相関計算部50とを備えている。
【0061】
レプリカ符号発生部44は、レプリカ符号を発生する。このレプリカ符号は、移動局10の上記信号処理部35で用いられた拡散符号と同一の符号である。
【0062】
遅延回路46は、例えば周知のシフトレジスタにより構成される。この遅延回路46は、移動局10から送信され基地局12A〜12Dで受信された電波に含まれる信号波を入力し、その信号波を予め定められた所定の時間間隔ごとにサンプリングして遅延させる。
【0063】
RSSI部47は、受信信号の信号強度を検出する(詳細は後述)。
【0064】
相関計算部50は、遅延回路46によって遅延された受信波とレプリカ符号との相関値を算出する。そして、算出された相関値が最大となった際の時刻を、移動局10からの電波(測距用電波信号)の到来時刻(=受信時刻)とする。
【0065】
有線通信部43は、例えばLANケーブルなどの有線ケーブル52によって測位サーバ14と接続されている。これにより、基地局12は、有線通信部43を介し、到来時刻検出部42によって測定された上記測距用電波信号の受信時刻情報や、基地局12各部の動作に関する情報などを、測位サーバ14と送受信可能となっている。
【0066】
図5は、測位サーバ14の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【0067】
測位サーバ14は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたいわゆるコンピュータにより構成されている。これにより、測位サーバ14は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムにしたがって信号処理を行い、移動局10の位置の算出(=測位)を実行する。この測位サーバ14は、機能的構成として、インターフェース部82と、測位部演算部83と、記憶部(メモリ)86とを備えている。
【0068】
インターフェース部82は、通信ケーブル52を介し接続された基地局12との間で必要となる情報を入出力する。例えば測位サーバ14は、基地局12の作動を指令するコマンド等を上記インターフェース部82を介し出力し、基地局12の到来時刻検出部42で検出された上記受信時刻情報をインターフェース部82を介し入力する。
【0069】
記憶部86は、いわゆるメモリなどの記憶手段であり、測位部演算部83等における処理を実行する際に必要となる情報や、インターフェース部82を介して基地局12などから得られた情報を読み出し可能に記憶する。例えば、基地局12の位置に関する情報や、基地局12から取得した受信時刻情報等が記憶される。
【0070】
測位演算部83は、測位部84と、解析部88と、選択部90とを有する。測位部84は、各基地局12で取得した前述の受信時刻情報に基づき、移動可能領域50中の移動局10と各基地局12との距離を算出(測距)し、最終的に移動局10の位置の検出(測位)を行う。
【0071】
解析部88は、基地局12から入力した受信信号により、移動局10から送信された上記測距用電波信号の直接波の信号強度と反射波の信号強度とを反映した所定のマルチパス強度因子の検出や算出等を実行する(詳しくは後述する)。
【0072】
選択部90は、解析部88により検出、算出された上記マルチパス強度因子に基づき、上記4つの基地局12A〜12Dからの受信時刻情報のうち、所定の個数の基地局12に係わる受信時刻情報を選択する(詳しくは後述する)。
【0073】
なお、図5においては、本実施形態の測位に関する制御作動に直接関係のない機能についてはその記載が省略されている。例えば測位サーバ14には、図示しない電源が設けられ、各機能部に対して必要となる電力が供給されている。
【0074】
(B)移動局の位置検出の手法原理
図6は、上記測位部84による移動局10の位置を検出する方法の原理の手法を説明するための説明図である。なお、図6中においては、図示の煩雑を避けるために第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12Cの3つを用いる場合を例にとって説明する。
【0075】
図6において、移動局10は前述したようにxy座標系が設定されている移動可能領域50内を自由な座標位置に移動できるのに対し、3つの基地局12A,12B,12Cは同じ移動可能領域50内でそれぞれ既知の設置位置に固定的に配置されている。そして各基地局12A,12B,12Cは有線ケーブル52を介して測位サーバ14に情報を送受可能に接続されている。
【0076】
この構成において、各基地局12A,12B,12Cでの移動局10からの測距用電波信号の受信時刻差に基づき、測位サーバ14は、各基地局12A,12B,12Cから移動局10までの距離をそれぞれ測定検出する。つまり、移動局10が測距用電波信号を各基地局12A,12B,12Cに向けて送信する。このとき、移動局10が測距用電波信号を送信してから基地局12において受信されるまでの時間(到来時間)は、基地局12と移動局10との空間的な距離に比例する。各基地局12A,12B,12Cから移動局10までの距離が異なる場合には、上記到来時間は、各基地局12A,12B,12Cごとに異なる値となって時間差が生じる。測位サーバ14は、その時間差に基づいて移動局10の位置を算出することができる。
【0077】
例えば移動局10の座標を(x,y)、基地局12A,12B,12Cの座標をそれぞれ、(x1,y1)、(x2,y2)、(x3,y3)とする。そして、第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12Cそれぞれにおいて、移動局10から時刻T0で送信された測距用電波信号を受信した受信時刻をT1,T2,T3とする。
【0078】
以上のような条件においては、図6において、
c×(T1−T0)=√{(x−x1)+(y−y1)} ・・(1A)
c×(T2−T0)=√{(x−x2)+(y−y2)} ・・(1B)
c×(T3−T0)=√{(x−x3)+(y−y3)} ・・(1C)
が成り立つ。
【0079】
すると、式(1A)から式(1B)を減じることで、
√{(x−x1)+(y−y1)}−√{(x−x2)+(y−y2)}=c×(T1-T2) …(1D)
また、式(1A)から式(1C)を減じることで、
√{(x−x1)+(y−y1)}−√{(x−x3)+(y−y3)}=c×(T1-T3) …(1E)
で表される関係が成り立つ。なお、cは電波速度(光速:約3.0×108[m/s])である。
【0080】
このとき、(受信時刻T1,T2,T3は測定値として既知であり)変数はx,yの2つのみであるから、上記(1D)(1E)の2つの式を例えばニュートンラプソン法などにより解くことにより、移動局10の位置のx,y座標(x,y)を特定することができる。なお、本実施形態のように4つの基地局12A,12B,12C,12Dを設けることで、さらに精度のよい位置検出を行うことができる。
【0081】
なお、上記の例では、各基地局12A,12B,12Cは測距用電波信号の受信時刻を検出し測位サーバ14に送信するのみであり、測位処理(基地局12A,12B,12Cから移動局10までの距離の算出)は測位サーバ14が行うが、これに限られない。すなわち、各基地局12A,12B,12Cのうちの1つの制御部33が他の受信時刻情報を収集し、測位するようにしてもよい。
【0082】
(C)マルチパスの影響
ところで、無線通信を用いた測位システムでの測距用電波信号の送受信においては、壁、障害物等の存在等により、電波信号が複数の経路(例えば、直接波、反射波、透過波、回折波等)によって伝搬するマルチパス(多重波伝送路)が発生する場合がある。このマルチパス環境においては、移動局10から送信された測距用電波信号の直接波に対し、時間差をもって遅れて反射波が基地局12に受信される。そして、この遅れて受信された反射波は、直接波と干渉し、測位精度の低下を招く。以下、その詳細を説明する。
【0083】
図7(a)及び(b)は、このような直接波と反射波とによる干渉を説明するための説明図である。図7(a)は、変調方式として、BPSK(Binary Phase Shift Keying;二位相偏移変調)形式を用いた波形の一例を示している。
【0084】
図示するように、この方式では、基準となる正弦波(=波形(1);位相0)と、上記波形(1)の位相が反転した波(=波形(2);位相π)とを使い、波形(1)に情報「1」を対応させ、波形(2)に情報「0」を対応させている。これにより、移動局10と基地局12との間では、「1」又は「0」という2種類(1ビット)の情報を電波信号で送受信することができる。
【0085】
図7(b)は、横軸に時間(t)をとり、上記図7(a)の波形(1)及び波形(2)にそれぞれ対応した、4ビットの情報(「1」→「0」→「1」→「1」)を含む波形の例を示している。また、上段に直接波の例を示し、下段に反射波の例を示す。直接波及び反射波の振幅AD,AR(AD>AR)は、受信電力(信号強度)を示しており、直接波の信号強度を信号強度Sd、反射波の信号強度を信号強度Srとする。
【0086】
図示するように、この例では、反射波は、直接波よりも時間差として△tだけ遅れて基地局12に受信され、また上記情報(「1」→「0」→「1」→「1」)を含む直接波とこれに対応する反射波との位相差が、△Φとなっている。
【0087】
図8(a)、図8(b)、図8(c)、及び図8(d)はそれぞれ、上記図7(b)に示した信号波の区間(A)、区間(B)、区間(C)、及び区間(D)における位相及び振幅の関係をそれぞれ表す図である。これら図8(a)〜(d)では、I軸及びQ軸を備えた座標系に、ベクトル(各矢印)の長さで振幅(言い換えれば、電波信号の信号強度)が表され、ベクトルの傾きで位相が表されている。また、上記直接波の振幅ADと位相との関係を直接波ベクトルDV(実線矢印)で示し、反射波の振幅ARと位相との関係を反射波ベクトルRV(点線矢印)で示し、上記直接波ベクトルDVと上記反射波ベクトルRVとのベクトルの和を合成波ベクトルCV(破線矢印)で示している。
【0088】
なお、この例では、合成波ベクトルCVが第1象限(I>0,Q>0)及び第4象限(I>0,Q<0)にある場合は情報「1」として認識され、合成波ベクトルCVが第2象限(I<0,Q>0)及び第3象限(I<0,Q<0)にある場合は情報「0」として認識される。
【0089】
図8(a)及び図7(b)に示す上記区間(A)においては、振幅ADの直接波ベクトルDVは位相0であり、情報「1」を表す。振幅ARの反射波ベクトルRVは、直接波(位相0)との位相差は△Φであり、情報「1」を表す。したがって、合成波ベクトルCVは第1象限の破線矢印で表され、情報は「1」となる。
【0090】
図8(b)及び図7(b)に示す上記区間(B)においては、振幅ADの直接波ベクトルDVは位相πであり、情報「0」を表す。振幅ARの反射波ベクトルRVは、直接波(位相0)との位相差はπ−△Φであり、情報「1」を表す。したがって、合成波ベクトルCVは第2象限の破線矢印で表され、情報は「0」となる。
【0091】
図8(c)及び図7(b)に示す上記区間(C)においては、振幅ADの直接波ベクトルDVは位相πであり、情報「0」を表す。振幅ARの反射波ベクトルRVは、直接波(位相π)との位相差は△Φであり、情報「0」を表す。したがって、合成波ベクトルCVは第3象限の破線矢印で表され、情報は「0」となる。
【0092】
図8(d)及び図7(b)に示す上記区間(D)においては、振幅ADの直接波ベクトルDVは位相0であり、情報「1」を表す。振幅ARの反射波ベクトルRVは、直接波(位相0)との位相差はπ−△Φであり、情報「0」を表す。したがって、合成波ベクトルCVは第4象限の破線矢印で表され、情報は「1」となる。
【0093】
以上の結果、直接波と反射波との情報(「1」または「0」)が異なる場合(図8(b)及び図8(d)の場合)においては、合成波ベクトルCVが直接波ベクトルDVよりもQ軸(情報「1」と情報「0」との境界線)に近づくことになる。この場合、移動局10が送信する電波信号の電力のバラツキや、電波伝搬中の電力の変動によるバラツキ等により、直接波の信号強度Sd(言い換えれば直接波の振幅AD)や反射波の信号強度Sr(言い換えれば反射波の振幅AR)が変動することで、基地局12において合成波の復調を行う際に、いわゆる「1」から「0」、「0」から「1」へのビット反転(ビット誤り)を生じるおそれがある。特に、反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdが大きいほど(言い換えればAR/ADが大きいほど)、反射波の影響が大きくなり、上記ビット反転を生じる可能性は高くなる。
【0094】
すなわち、移動局10が送信する直接波が情報「1」を表していたのに対し、基地局12で復調された合成波が情報「0」となったり、直接波が情報「0」を表していたのに対し、基地局12で復調された合成波が情報「1」となるおそれがある。例えば前述の図7(b)においてこのようなビット反転が発生すると、基地局12で情報「1」から情報「0」に復調するタイミングが、本来(直接波)は上記区間(B)の開始時であるのに対し、合成波は上記区間(C)の開始時となる。同様に、情報「0」から情報「1」に復調するタイミングが、本来(直接波)は上記区間(D)であるのに対し、合成波は上記区間(D)の次の区間(図示せず)となる。すなわち、移動局10から送信された電波信号を基地局12で復調するタイミングに遅延が発生する。この結果、基地局12での同期検出による受信時刻に誤差が発生し、測位精度が低下するおそれがあった。
【0095】
(D)本発明に関わる要部構成
本実施形態においては、前述した直接波の信号強度Sdに対する反射波の信号強度Srを求めることにより、反射波の影響が小さい基地局12A〜12Dに係わる受信時刻情報を優先的に用いることで、測位精度の向上を図るものである。
【0096】
具体的には、移動局10が、マルチパス対応の所定の態様で(この例では周波数を変化させて3回の)測距用電波信号の送信を行い、各基地局12A〜12Dにおいて3回の測距用電波信号が受信される。この結果、基地局12においては、それら3つの測距用電波信号の受信信号強度が互いに異なることとなる。これに対応して、本実施形態では、上記図4で前述したように、基地局12に、RSSI部(Received Signal Strength Indicator)47が設けられている。RSSI部47では、上記3回の受信ごとに合成波の受信信号強度Scを検出し、測位サーバ14に出力する。
【0097】
このとき、測位サーバ14の解析部88では、基地局12A〜12Dからそれぞれ入力された、上記3回の受信ごとの受信信号強度Scにより、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminの差(Smax−Smin)と、反射波及び直接波の信号強度比Sr/Sd(マルチパス強度因子)とを各基地局12ごとに算出する。また、選択部90が、上記信号強度比Sr/Sdに基づき、各基地局12A〜12Dからの受信時刻情報の選択を行う。すなわち、選択部90は、解析部88の算出結果に応じて、基地局12A〜12Dのうち信号強度比Sr/Sdが小さい順に所定の個数(この例では3つ)の基地局12を選択し、その選択した基地局12から送信された上記受信時刻情報に基づき、移動局10の位置の算出を行う。以下、その手法の一例を説明する。
【0098】
(a)直接波・反射波の位相差と信号強度の関係
図9〜図15は、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srの算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【0099】
図9において、上記図7(b)と同様、反射波が直接波よりも遅れて基地局12に受信される時間差(遅延時間)が△tであり、このときの直接波及び反射波の位相差が△Φである例を示している。また、上段に直接波の例を示し、下段に反射波の例を示す。前述したように、直接波の振幅AD及び反射波の振幅ARを一定とすると、位相差△Φの大きさの差異により、合成波のベクトルの大きさ(=受信信号強度Sc)が変化する。以下、直接波と反射波との位相差△Φが、略0である場合、略π/2である場合、略πである場合を例にとって、合成波の受信信号強度Scの変動を説明する。
【0100】
(a−i)位相差0の場合
図10(a)、図10(b)、図10(c)、及び図10(d)はそれぞれ、上記図9に示した信号波の、直接波と反射波との位相差△Φが略0である場合の、図9中の区間(A′)、区間(B′)、区間(C′)、区間(D′)における位相及び振幅の関係をそれぞれ表す図である。図11は、この場合の上記図9中の区間(A′)〜(D′)における合成波の受信信号強度Scの変動を表す図である。
【0101】
図10(a)に示す区間(A′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略同一方向(ともに情報「1」を表す)となり、このとき、合成波ベクトルCVの大きさが最大となる。すなわち、このときの合成波の受信信号強度Scが最大値Smaxとなる。そして、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxは、直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとの和(Smax=Sd+Sr)にほぼ等しい(図11の区間(A′)参照)。
【0102】
図10(b)に示す区間(B′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略逆方向(直接波ベクトルDVは情報「1」を表し、反射波ベクトルRVは情報「0」を表す)となり、このとき、合成波ベクトルCVの大きさが最小となる。すなわち、このときの合成波の受信信号強度Scが最小値Sminとなる。そして、上記合成波の受信信号強度Scの最小値Sminは、直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとの差(Smin=Sd−Sr)にほぼ等しい(図11の区間(B′)参照)。
【0103】
図10(c)に示す区間(C′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略同一方向(ともに情報「0」を表す)となり、上記図10(a)の場合と同様に、このときの合成波の受信信号強度Scが最大値Smax(=Sd+Sr)にほぼ等しい(図11の区間(C′)参照)。
【0104】
図10(d)に示す区間(D′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略逆方向(直接波ベクトルDVは情報「1」を表し、反射波ベクトルRVは情報「0」を表す)となり、上記図10(b)の場合と同様に、このときの合成波の受信信号強度Scが最小値Smin(=Sd−Sr)にほぼ等しい(図11の区間(D′)参照)。
【0105】
(a−ii)位相差π/2の場合
図12(a)、図12(b)、図12(c)、及び図12(d)はそれぞれ、上記図9に示した信号波の、直接波と反射波との位相差△Φが略π/2である場合の、図9中の区間(A′)、区間(B′)、区間(C′)、区間(D′)における位相及び振幅の関係をそれぞれ表す図である。図13は、この場合の上記図9中の区間(A′)〜(D′)における合成波の受信信号強度Scの変動を表す図である。
【0106】
図12(a)〜図12(d)に示す区間(A′)〜(D′)において、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略直交(直接波ベクトルDVはI軸上、反射波ベクトルRVはQ軸上)となり、合成波ベクトルCVの大きさは一定となる。すなわち、合成波の受信信号強度Scは、一定(Sc=√(Sd+Sr))となる(図13の区間(A′)〜(D′)参照)。なお、図12(a)〜(d)では、直接波と反射波との位相差△Φが略π/2の場合を示したが、直接波と反射波との位相差△Φが略3π/2の場合であっても同等の結果を得る。
【0107】
(a−iii)位相差πの場合
図14(a)、図14(b)、図14(c)、及び図14(d)はそれぞれ、上記図9に示した信号波の、直接波と反射波との位相差△Φが略πである場合の、図9中の区間(A′)、区間(B′)、区間(C′)、区間(D′)における位相及び振幅の関係をそれぞれ表す図である。図15は、この場合の上記図9中の区間(A′)〜(D′)における合成波の受信信号強度Scの変動を表す図である。
【0108】
図14(a)に示す区間(A′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略逆方向(直接波ベクトルDVは情報「1」を表し、反射波ベクトルRVは情報「0」を表す)となり、このとき、合成波ベクトルCVの大きさが最小となる。すなわち、このときの合成波の受信信号強度Scが最小値Sminとなる。そして、上記合成波の受信信号強度Scの最小値Sminは、直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとの差(Smin=Sd−Sr)にほぼ等しい(図15の区間(A′)参照)。
【0109】
図14(b)に示す区間(B′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略同一方向(ともに情報「0」を表す)となり、このとき、合成波ベクトルCVの大きさが最大となる。すなわち、このときの合成波の受信信号強度Scが最大値Smaxとなる。そして、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxは、直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとの和(Smax=Sd+Sr)にほぼ等しい(図15の区間(B′)参照)。
【0110】
図14(c)に示す区間(C′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略逆方向(直接波ベクトルDVは情報「0」を表し、反射波ベクトルRVは情報「1」を表す)となり、上記図14(a)と同様、このときの合成波の受信信号強度Scは最小値Smin(=Sd−Sr)にほぼ等しい(図15の区間(C′)参照)。
【0111】
図14(d)に示す区間(D′)では、直接波ベクトルDV及び反射波ベクトルRVの向きは互いに略同一方向(ともに情報「1」を表す)となり、上記図14(b)と同様、このときの合成波の受信信号強度Scが最大値Smax(=Sd+Sr)にほぼ等しい(図15の区間(D′)参照)。
【0112】
以上により、直接波と反射波との位相差△Φが略0である場合(図11参照)及び略πである場合(図15参照)は、合成波の受信信号強度Scの変動と直接波及び反射波の信号強度Sd,Srとの関係が明確となる。これらの場合、合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの和や差を用いて直接波及び反射波の信号強度Sd,Srが簡単に精度よく求められる。
【0113】
すなわち、直接波と反射波との位相差△Φが、略0や略πである場合においては、
Smax=Sd+Sr ・・(2A)
Smin=Sd−Sr ・・(2B)
が成り立つ。
【0114】
したがって、式(2A)、式(2B)により、
Sd=(Smax+Smin)/2 ・・(2C)
Sr=(Smax−Smin)/2 ・・(2D)
で表される関係が成り立つ。
【0115】
このとき、合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminは測定値として既知であるので、上記(2C)、(2D)の2つの式を解くことにより、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを求めることができる。この結果、反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sd(本実施形態におけるマルチパス強度因子)を求めることができる。
【0116】
なお、直接波と反射波との位相差△Φが0、若しくはπに近いほど、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの差(Smax−Smin)が大きくなる。そして、直接波と反射波との位相差△Φがπ/2や3π/2であったり(図13参照)それらに近くなるほど、上記Smax−Sminが小さくなって受信信号強度Scの変動と直接波及び反射波の信号強度Sd,Srとの関係が不明確となり、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを求めることは困難となる。
【0117】
(b)位相差を実現するための移動局からの送信
次に、移動局10が、上記信号強度比Sr/Sdを算出するために、直接波と反射波との位相差△Φが略0となるか、若しくは略πとなるような態様)で、測距用電波信号を送信する手法を説明する。
【0118】
前述したように、移動局10から送信される測距用電波信号の直接波と反射波との位相差△Φは、反射波が直接波よりも遅れて基地局12に受信される時間差(反射波の遅延時間△t)によって決まる。このとき、移動局10から送信される測距用電波信号の周波数(後述するチャンネル)を変えることで、同じ遅延時間△tに対しても直接波と反射波との位相差△Φを変えることができる。
【0119】
図16(a)及び図16(b)は、上記移動局10から送信される周波数(後述するチャンネル)の異なる測距用電波信号の直接波と反射波との位相差△Φを説明するための説明図である。
【0120】
図16(a)において、例えば、測距用電波信号として無線LAN(IEEE 802.11b規格)の電波を使用し、周波数がf1=2.412[GHz](後述するチャンネル1に相当)であった場合を考える。反射波(下段)と直接波(上段)との伝搬距離の差△λが10[m]であったとすると、上記遅延時間△tは、10/(3×10)[s]となる。そして、位相差△Φaは、
△Φa=△t/(1/f1)×2π
=10/(3×10)×2.412×10×2π
=160.8π
=0.8π
となる。
【0121】
一方、図16(b)において、例えば、測距用電波信号の周波数として、周波数f4=2.427[GHz](後述するチャンネル4に相当)を用いた場合を考える。上記図16(a)と同様に反射波(下段)と直接波(上段)との伝搬距離の差△λが10[m]であったとすると、同様に遅延時間△tは10/(3×10)[s]であるから、位相差△Φbは、
△Φb=△t/(1/f4)×2π
=10/(3×10)×2.427×10×2π
=161.8π
=1.8π
となる。
【0122】
図17は、移動局10と基地局12との間での測距用電波信号の送受信の際に用いる、周波数の異なる各チャンネルにおける、中心周波数、使用周波数帯域を表した図である。この例では、無線LANの規格として、2.4[GHz]帯の周波数で無線通信を行うIEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)802.11b規格を用いた場合を示している。
【0123】
図17に示すように、日本では、チャンネル1〜チャンネル14までが割り当てられている。すなわち、チャンネル1は中心周波数f1=2.412[GHz]、使用周波数帯域FR1=2.401〜2.423[GHz]であり、チャンネル2は中心周波数f2=2.417[GHz]、使用周波数帯域FR2=2.406〜2.428[GHz]であり、チャンネル3は中心周波数f3=2.422[GHz]、使用周波数帯域FR3=2.411〜2.433[GHz]であり、チャンネル4は中心周波数f4=2.427[GHz]、使用周波数帯域FR4=2.416〜2.438[GHz]であり、チャンネル5は中心周波数f5=2.432[GHz]、使用周波数帯域FR5=2.421〜2.443[GHz]であり、チャンネル6は中心周波数f6=2.437[GHz]、使用周波数帯域FR6=2.426〜2.446[GHz]であり、チャンネル7は中心周波数f7=2.442[GHz]、使用周波数帯域FR7=2.431〜2.453[GHz]であり、チャンネル8は中心周波数f8=2.447[GHz]、使用周波数帯域FR8=2.436〜2.458[GHz]であり、チャンネル9は中心周波数f9=2.452[GHz]、使用周波数帯域FR9=2.441〜2.463[GHz]であり、チャンネル10は中心周波数f10=2.457[GHz]、使用周波数帯域FR10=2.446〜2.468[GHz]であり、チャンネル11は中心周波数f11=2.462[GHz]、使用周波数帯域FR11=2.451〜2.473[GHz]であり、チャンネル12は中心周波数f12=2.467[GHz]、使用周波数帯域FR12=2.456〜2.478[GHz]であり、チャンネル13は中心周波数f13=2.472[GHz]、使用周波数帯域FR13=2.461〜2.483[GHz]であり、チャンネル14は中心周波数f14=2.484[GHz]、使用周波数帯域FR14=2.473〜2.495[GHz]となっている。
【0124】
この場合、図17に示したように、チャンネル13とチャンネル14との間を除くチャンネル1〜13の隣接チャンネル間では、中心周波数fが0.005[GHz]単位で変動している。このため、例えば、前述の図16(a)及び(b)の場合と同様に反射波と直接波との伝搬距離の差△λが10[m]である場合は、
△Φ=△t/(1/f)×2π
= 10/(3×10)×0.005×10×2π
=0.33π
となり、0.33π刻みで上記位相差△Φを変えることが可能となる。
【0125】
そこで、本実施形態では、移動局10が、上記所定の態様として、互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回(この例では3回)の測距用電波信号を各基地局12A〜12Dに送信し、測位サーバ14が、各基地局12ごとに各チャンネルの前述した合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを検出し、Smax−Sminを算出する。そして、測位サーバ14は、各基地局12ごとに、Smax−Sminが最も大きくなるチャンネルの上記直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを算出し、これによって信号強度比Sr/Sdを算出する。そして、算出した信号強度比Sr/Sdが小さい順に、所定数(この例では3つ)の基地局12からの受信時刻情報を選択し、測位処理を行う。以下、その詳細を図18〜図20を用いて説明する。
【0126】
(c)Smax−Ssinの算出
前述したように、本実施形態では、4つの基地局12A〜12Dごとに、3回の異なる周波数(チャンネル1〜14のいずれか)の測距用電波信号におけるSmax−Sminを算出する。以下、それらのうち、基地局12Aでの算出を例にとって説明する。
【0127】
図18は、互いに異なる周波数で送信された3回の測距用電波信号における合成波の基地局12Aでの受信信号強度Scの変動の一例を表す図である。図18では、基地局12Aにおいて、測距用電波信号が、1回目にチャンネル1で受信され、2回目にチャンネル6で受信され、3回目にチャンネル11で受信された例を示している。また、図19は、上記図18で示した、チャンネル1,6,11で送信された3回の測距用電波信号における合成波の受信信号強度Scの最大値Smax、最小値Smin、Smax−Sminの一例を表した図である。
【0128】
前述したように、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの差(Smax−Smin。図18中の矢印参照))が大きいチャンネルほど、直接波と反射波との位相差△Φが0、若しくはπにより近くなる。したがって、上記Smax−Sminが最大となるチャンネルを選ぶことで、直接波と反射波との位相差△Φが0、若しくはπにより近くなるような態様で測距用電波信号を送信したチャンネルを選ぶことができる。
【0129】
図18及び図19に示す例では、基地局12Aが1回目に受信したチャンネル1の測距用電波信号では、合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxは10となり、最小値Sminは6となる。これにより、Smax−Smin=4となる。以下同様に、チャンネル6は、Smax=10,Smin=8,Smax−Smin=2となり、チャンネル11は、Smax=13,Smin=10,Smax−Smin=3となる。すなわち、図19においては、Smax−Sminはチャンネル1>チャンネル11>チャンネル6となり、チャンネル1が最大となる。
【0130】
したがって、この例では、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの差(Smax−Smin)が最大のチャンネル1が選択され、当該チャンネル1での上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを用いて、前述の手法で、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを検出する。そして、これによって、反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを算出することができる。
【0131】
すなわち、チャンネル1においては、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax=10、最小値Smin=6なので、
Sd=(Smax+Smin)/2=(10+6)/2=8
Sr=(Smax−Smin)/2=(10−6)/2=2
となる。この結果、
Sr/Sd=2/8=0.25
と算出することができる。
【0132】
上記は、チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11の3回の測距用電波信号の基地局12Aでの受信結果に基づく信号強度比Sr/Sdの算出を例にとって説明した。このとき、他の基地局12B,12C,12Dでも、同様の3回の測距用電波信号が受信されており、同様にして信号強度比Sr/Sdを算出することができる。
【0133】
図20は、全基地局12A〜12Dについて、上記のようにして算出した反射波と直接波との信号強度比Sr/Sdの一例を表した図である。この例では、前述したように、基地局12Aはチャンネル1が選択され、直接波の受信信号強度Sd=8、反射波の受信信号強度Sr=2、反射波と直接波との信号強度比Sr/Sd=0.25となる。以下同様に、基地局12Bはチャンネル11が選択されてSd=10、Sr=5、Sr/Sd=0.5となり、基地局12Cはチャンネル6が選択されてSd=10、Sr=2、Sr/Sd=0.2となり、基地局12Dはチャンネル6が選択されてSd=6、Sr=2、Sr/Sd=0.33となる。
【0134】
すなわち、上記算出した反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdは、基地局12C<基地局12A<基地局12D<基地局12Bとなる。したがって、基地局12A〜12Dを反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdが小さい順(=反射波の割合が少なく高精度が期待できる順)に3つ、基地局12C、基地局12A、基地局12Dでの受信時刻情報を選択する。すなわち、この例では、前述のように、移動局が、チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11で3回測距用電波信号を送信し、基地局12A,12B,12C,12Dのそれぞれにおいて各測距用電波信号を受信して到来時刻検出部42で受信時刻が検出され、それら検出した全時刻情報が測位サーバ14に送られている。測位サーバ14はそれらの全受信時刻情報の中から、チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11のいずれか1つを選択し、その際の、基地局12C、基地局12A、基地局12Dでの受信時刻情報を用いて移動局10の測位を行うことで、高精度の測位を行うことができるのである。
【0135】
(E)制御シーケンス
図21は、本実施形態において、測位サーバ14、基地局12A〜12D、移動局10の間で送受される各種信号の送受と制御動作の一例を表すシーケンス図である。前述したように、測位サーバ14と基地局12A〜12Dとの間は有線ケーブル52を介した信号の送受である。また、基地局12A〜12Dと移動局10との間は、無線通信を介した信号の送受となっている。
【0136】
まず最初に、ステップSS10において、測位サーバ14の測位部84が有線ケーブル52を介し、各基地局12A〜12D(あるいは特定の1つの基地局12でもよい)に対し、移動局10への測距用電波信号の送信要求を送信するよう指示信号を出力する。これにより、ステップSR10で、各基地局12A〜12Dの無線部28がアンテナ部20を介し移動局10に向けて測距用電波信号の送信要求信号を送信する。
【0137】
そして、この送信要求信号を受信した移動局10の無線部28が、ステップST10において、アンテナ部20を介し、互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回(上記の例では3回)の測距用電波信号を送信する。
【0138】
各基地局12A〜12Dの無線部28が、ステップSR20で、アンテナ部20を介し上記3回の測距用電波信号を受信する。そして、到来時刻検出部42が上記測距用電波信号受信時の時計41による時刻(受信時刻)を、受信時刻情報として検出する。
【0139】
その後、各基地局12A〜12DのRSSI部47が、ステップSR30で、上記3回の測距用電波信号の受信信号強度を検出(測定)する。
【0140】
次に、各基地局12A〜12Dの制御部32が、ステップSR40で、上記3回の測距用電波信号の受信時刻情報及び受信信号強度を(例えば互いに関連付けた状態で)有線ケーブル52を介して測位サーバ14に出力する。
【0141】
なお、上記ステップSS10における測位サーバ14から基地局12A〜12Dに対する移動局10への測距用電波信号の送信要求を送信するよう指示信号の出力は、所定の時間間隔△toで常時行われる(例えば△to=1秒)。この結果、上記移動局10の位置検出も、リアルタイムで常時行われることとなっている。また、このような基地局12A〜12D(又は特定の基地局12)からの送信要求に応じて移動局10からの測距用電波信号を送信するようにしたが、これに限られない。すなわち、移動局10が一定時間間隔で自発的に測距用電波信号を発信し続け、各基地局12A〜12Dがその発信し続ける測距用電波信号を受信し、これに基づき測位サーバ14で位置検出を行うようにしてもよい。この場合も、移動局10の位置検出はリアルタイムで常時行われる。
【0142】
次にステップSS20で、ステップSR40で各基地局12A〜12Dから入力した受信時刻情報及び受信信号強度に基づき、測位サーバ14の解析部88が、前述の手法により、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号それぞれにおける(各チャンネルごとの)上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを検出する(第2最大値・最小値検出手段、第3最大値・最小値検出手段)。その後、ステップSS30に移る。
【0143】
ステップSS30では、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS20で検出した上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを用いて、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号それぞれにおける(各チャンネルごとの)、上記最大値Smaxと最小値Sminとの差Smax−Sminを算出する(前述の図19も参照)。
【0144】
そして、ステップSS40に移り、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS30での算出結果に基づき、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号のうち上記Smax−Sminが最も大きくなる測距用電波信号の周波数(チャンネル)を選択する。これにより、基地局12ごとに1つずつ、すなわちこの例では合計延べ4つのチャンネルが選択されることとなる。その後、各基地局12A〜12Dごとに、当該チャンネルにおける、直接波の信号強度Sdと、反射波の信号強度Srとを、前述の手法により検出する(第2直接波・反射波強度検出手段)。その後、ステップSS50に移る。
【0145】
ステップSS50では、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS40で検出した信号強度Sd,Srを用いて、各基地局12A〜12Dごとに、マルチパス強度因子としての、反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを算出する(第2信号強度比算出手段。前述の図20も参照)。これにより、Sr/Sdの値が、基地局12の数だけ(この例では4つ)算出されることとなる。その後、ステップSS60に移る。なお、上記ステップSS30、ステップSS40、ステップSS50が、各請求項記載の強度因子算出手段を構成する。
【0146】
ステップSS60では、測位サーバ14の選択部90が、上記ステップSS50での算出結果に応じて、4つの基地局12A〜12Dのうち、上記Sr/Sdが小さい順に所定の個数(前述の例では3個)の基地局12を選択する。3つのチャンネルのいずれか1つを選択し、その際の、該3基地局での受信時刻情報を選択する。
【0147】
そして測位サーバ14の測位部84が、ステップSS70において、上記ステップSS60で選択された受信時刻情報の受信時刻の差(=到来時刻の差)に基づき、移動局10の位置を、図6を用いて前述した手法により算出する(測位処理手段)。
【0148】
なお、上記において、Sr/Sdに基づいて、予め決められた所定の個数の基地局を選択したが、これに限られない。すなわち、Sr/Sdに基づいて、基地局の重み付けを行い、それによって測位演算を行ってもよい。Sr/Sdを重み値とし、基地局12A〜12Dの受信時刻情報を用いて測位することができる。基地局に重み付けして測位する方法としては、GPSで用いられている重み付き最小二乗法がよく知られている。
【0149】
次にステップSS80で、測位サーバ14の測位部84が、記憶部86にアクセスし、上記ステップSS70で算出した、移動局10の位置を記憶部86に格納する。そして、このフローを終了する。
【0150】
以上説明したように、本実施形態の測位システム8においては、移動局10の無線部28から測距用電波信号が送信されると、その測距用電波信号が各基地局12A〜12Dの無線部28にて受信され、このときの測距用電波信号の受信時刻が到来時刻検出部42で検出される。そして、測位サーバ14が、各基地局12A〜12Dの受信時刻差に基づき移動局10の位置データの算出(測位)を行う。このとき、上記反射波の信号強度Sr及び直接波の信号強度Sdを反映した信号強度比Sr/Sdを算出する(ステップSS50)。そして、この信号強度比Sr/Sdに対応して選択した受信時刻情報を用いて(この例では、Sr/Sdの値が小さい順に選択した基地局12の受信時刻情報を優先的に用いて)、移動局10の測位を行う(ステップSS70)。このようにして、信号強度比Sr/Sdを用いて測位精度へのマルチパスの影響を正確に評価し、影響を極力除外した測位処理を行うことで、確実に測位精度を向上することができる。
【0151】
また、本実施形態では特に、移動局10と基地局12A〜12Dとの間で、測距用電波信号の周波数(チャンネル)を変えながら複数回(前述の例では3回)送受信を行うことにより、位相差△Φが0又はπに近い場合の波形を取得することができる。この結果、1回の送受信において合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminから、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。
【0152】
なお、本実施形態では、移動局から周波数を変えて3回送信する様態について説明したが、送信する回数はこれに限らない。処理時間や移動局の電池寿命の許す範囲において、できるだけ多くの回数を送信した方が、より位相差が0又はπに近い状態の受信電力波形を取得することができ、より正確にSr/Sdを算出することができる。
【0153】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0154】
(1)1MHz以下の周波数で測距用電波信号を送信する場合
上記実施形態においては、移動局10が互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回(前述の例では3回)の測距用電波信号を送信することにより、直接波と反射波との位相差△Φが0又はπに近い信号波を取得したが、これに限られない。すなわち、移動局10が、上記所定の態様として、直接波と反射波との位相差△Φがほぼ0となるような特定の周波数(この例では、1[MHz]以下の周波数。詳細は後述)を用いた1回の測距用電波信号を送信するようにしてもよい。
【0155】
図22は、1[MHz]の周波数で測距用電波信号を送信した場合の直接波と反射波との位相差を説明するための説明図である。図23は、上記図22の破線で囲んだ部分(直接波及び反射波の1周期)の拡大図にほぼ相当する図である。
【0156】
図22及び図23において、上段に示した直接波及び下段に示した反射波の1周期の波長をλとすると、周波数f=1[MHz]であることから、波長λは、
λ=(3×10)/(1×10)=300[m]
となる。
【0157】
一方、ここで、例えば、室内での測位システムにおいて、移動局10と基地局12との間の距離を40[m]程度とすると、基地局12に対し45度の角度で反射して入ってくる反射波の伝搬距離は40×√2=56[m]となる。したがって、室内で考え得るマルチパスによる距離差は、最大でも15[m]程度となる。
【0158】
図22及び図23に示す周波数f=1[MHz]の条件で、直接波と反射波との伝搬距離差△λが△λ=15[m]である場合を考えると、このときの直接波と反射波との位相差△Φは、
△Φ=15/300×2π=0.1π
となる。すなわち、移動局10と基地局12との間の距離が40[m]程度のシステムにおいて、周波数f=1[MHz]を用いて通信を行う場合には、直接波と反射波との位相差△Φは高々0.1πに過ぎず、事実上、ほぼ0とみなすことができる。
【0159】
図10(a)〜(d)及び図11を用いて前述したように、このように直接波と反射波との位相差△Φが0に近い場合は、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminを検出でき、上記(2A)、(2B)、(2C),(2D)の式を用いて直接波及び反射波の信号強度Sd,Srが求められる。したがって、マルチパス強度因子としての上記信号強度比Sr/Sdを算出でき、このSr/Sdが小さい順に所定の(例えば3つ)の基地局12を選択することができる。そして、その選択された基地局12で受信した受信時刻情報を用いることで、高い測位精度を確保することができる。
【0160】
図24は、本変形例における測位サーバ14、基地局12A〜12D、移動局10の間で送受される各種信号の送受と制御動作の一例を表すシーケンス図であり、上記実施形態の図21に対応する図である。図21と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0161】
図24では、測位サーバ14に関してステップSS30を削除し、ステップSS20、ステップSS40、ステップSS50に代えてステップSS20′、ステップSS40′、ステップSS50′を設けた点と、移動局10に関してステップST10に代えてステップST10′を設けた点が図21と異なる。
【0162】
すなわち、上記ステップSR10において、各基地局12A〜12Dの無線部28がアンテナ部20を介し移動局10に向けて測距用電波信号の送信要求信号を送信した後、ステップST10′に移る。
【0163】
ステップST10′では、上記送信要求信号を受信した移動局10の無線部28が、アンテナ部20を介し、1[MHz]以下の周波数の測距用電波信号を送信する。
【0164】
その後のステップSR20、ステップSR30、ステップSR40は、図21と同様であり、移動局10から受信した上記1[MHz]以下の周波数の測距用電波信号の受信時刻情報及び受信信号強度情報を検出し、これらの情報を測位サーバ14に出力した後、新たに設けたステップSS20′に移る。
【0165】
ステップSS20′では、測位サーバ14の解析部88が、全基地局12A〜12Dからそれぞれ1つずつ取得した上記受信信号強度情報から、前述した手法により上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを検出する(第1最大値・最小値検出手段)。その後、新たに設けたステップSS40′に移る。
【0166】
ステップSS40′では、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS20′での検出結果に基づき、直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとを前述の手法により検出する(第1直接波・反射波強度検出手段)。その後、新たに設けたステップSS50′に移る。
【0167】
ステップSS50′では、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS40′で検出した直接波の信号強度Sdと反射波の信号強度Srとを用いて、前述したマルチパス強度因子としての反射波の信号強度Srと直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを算出する(第1信号強度比算出手段)。これにより、上記実施形態と同様、Sr/Sdの値が、基地局12の数だけ(この例では4つ)算出されることとなる。その後、ステップSS60に移る。なお、上記ステップSS30′、ステップSS40′、ステップSS50′が、各請求項記載の強度因子算出手段を構成する。
【0168】
ステップSS60は、上記図21と同様、測位サーバ14の選択部90が、上記ステップSS50′での算出結果に応じて、4つの基地局12A〜12Dのうち、上記Sr/Sdが小さい順に所定の個数(前述の例では3個)の基地局12を選択する。そして、上記ステップSR40で全基地局12A〜12Dより入力したすべての受信時刻情報(上記の例では4つの基地局×1回の受信=合計4個の受信時刻情報)の中から、当該選択された基地局12において受信された受信時刻情報を選択する。以降の処理及び手順は、図21と同様であるので説明を省略する。
【0169】
本変形例においては、1回の測距用電波信号の送受信だけで、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminから、直接波及び反射波の信号強度Sd,Srを簡単に精度よく求めることができる。そして、上記実施形態同様、算出した直接波及び反射波の信号強度Sd,Srから算出した信号強度比Sr/Sdが小さい基地局12の受信時刻情報を優先的に用いて移動局10の位置の算出を行う。このようにして、信号強度比Sr/Sdを用いて測位精度へのマルチパスの影響を正確に評価し、影響を極力除外した測位処理を行うことで、確実に測位精度を向上することができる。
【0170】
(2)周波数の異なる複数回の測距用電波信号を送信し、周波数のみを選択する場合
以上においては、直接波と反射波との位相差△Φが0又はπに近い場合に、合成波の受信信号強度Scと直接波及び反射波の信号強度Sd,Srとが明確な関係を持つことを利用し、Sr/Sdを指標として反射波の悪影響の小さい基地局12を選択するようにしたが、これに限られない。すなわち、図12(a)〜(d)を用いて前述したように、基地局12A〜12DでBPSK復調を行う場合には、直接波と反射波の位相差△Φがπ/2か3π/2に近いと、反射波が復調に及ぼす影響は小さく、復調時に前述したビット反転が発生する可能性が低くなる。したがって、移動局10が、互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回の測距用電波信号を送信し、直接波と反射波との位相差△Φがπ/2又は3π/2に近い信号波を基地局12で取得することで、反射波の悪影響が最も小さい周波数(チャンネル)の測距用電波信号の受信時刻情報を選択するようにしてもよい。
【0171】
図12及び図13を用いて前述したように、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの差(Smax−Smin)が小さいチャンネルは、直接波と反射波との位相差△Φがπ/2や3π/2に近いか、若しくは、反射波の大きさが小さい。そして、図16(a)、(b)及び図17を用いて前述したように、測距用電波信号の周波数(チャンネル)を変えることで、反射波の遅延時間△tが同じであっても、測距用電波信号の直接波と反射波との位相差△Φを変えることができる。したがって、上記所定の態様として互いにチャンネルの異なる複数回(この例では3回)の測距用電波信号を移動局10から送信しておき、上記Smax−Sminが最小となるチャンネルを選ぶことで、直接波と反射波との位相差△Φがπ/2や3π/2に近いか、若しくは反射波が小さくなるチャンネルを選ぶことができる。
【0172】
そこで、本変形例では、移動局10が、互いに周波数(チャンネル)の異なる3回の測距用電波信号を各基地局12A〜12Dに送信し、各基地局12ごとに、各チャンネルの前述した合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminの強度差(Smax−Smin)を算出する。そして、上記3回のチャンネルの異なる測距用電波信号において、マルチパス強度因子として、複数(この例では4つ)の基地局12A〜12Dに係る上記強度差Smax−Sminの和を算出する。そして、4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネルを選択し、全基地局12A〜12Dにおけるその選択されたチャンネルにおける受信結果に基づき、移動局10の測位を行う。以下、その詳細を図25及び図26を用いて説明する。
【0173】
図25は、互いに異なる周波数で送信された3回の測距用電波信号における各基地局12ごとの合成波の受信信号強度Scの変動の一例を表す図である。図26は、上記図25で示した、互いに異なる周波数で送信された3回の測距用電波信号における、4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和の一例を表した図である。これら図25及び図26に示す例では、各基地局12A〜12Dにおいて、測距用電波信号が、チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11の3つのチャンネルで受信された例を示している。
【0174】
図25及び図26において、チャンネル1においては、基地局12Aは、最大値Smaxは15となり、最小値Sminは5となり、合成波の受信信号強度Scの最大値Smaxと最小値Sminとの強度差(矢印参照)Smax−Smin=10となる。また、基地局12Bは、最大値Smaxは17となり、最小値Sminは12となり、Smax−Smin=5となる。基地局12Cは、最大値Smaxは18となり、最小値Sminは15となり、Smax−Smin=3となる。また、基地局12Dは、最大値Smaxは17となり、最小値Sminは14となり、Smax−Smin=3となる。したがって、チャンネル1における4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和は、21となる。
【0175】
同様に、チャンネル6は、基地局12Aに係わるSmax−Sminは3となり、基地局12Bに係わるSmax−Sminは3となり、基地局12Cに係わるSmax−Sminは0となり、基地局12Dに係わるSmax−Sminは5となる。したがって、4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和は11となる。
【0176】
同様に、チャンネル11は、基地局12Aに係わるSmax−Sminは5となり、基地局12Bに係わるSmax−Sminは3となり、基地局12Cに係わるSmax−Sminは5となり、基地局12Dに係わるSmax−Sminは10となり、4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和は23となる。
【0177】
すなわち、上記算出した4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和は、チャンネル6<チャンネル1<チャンネル11となる。したがって、選択対象として、上記4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネル、すなわち、チャンネル6を選択する。そして、この選択されたチャンネル6における全基地局12A〜12Dでの測距用電波信号の受信結果に基づき、移動局10の測位を行う。
【0178】
図27は、本変形例における測位サーバ14、基地局12A〜12D、移動局10の間で送受される各種信号の送受と制御動作の一例を表すシーケンス図であり、上記実施形態の図21、上記(1)の変形例の図24に対応する図である。図21と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0179】
図27では、測位サーバ14に関してステップSS40、ステップSS50、ステップSS60を削除し、さらに、ステップSS30とステップSS70との間に新たにステップSS45、ステップSS65を設けた点が図21と異なる。
【0180】
すなわち、上記ステップSS20において、ステップSR40で各基地局12A〜12Dから入力した受信時刻情報及び受信信号強度に基づき、測位サーバ14の解析部88が、前述の手法により、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号それぞれにおける(各チャンネルごとの)、上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを検出する(第3最大値・最小値検出手段)。
【0181】
次に、ステップSS30では、測位サーバ14の解析部88が、上記ステップSS20で検出した上記合成波の受信信号強度Scの最大値Smax及び最小値Sminを用いて、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号それぞれにおける(各チャンネルごとの)、上記最大値Smaxと最小値Sminとの差Smax−Sminを算出する(強度差算出手段)。その後、新たに設けたステップSS45に移る。
【0182】
ステップSS45では、測位サーバ14の解析部88が、上記強度差Smax−Sminに基づき、異なるチャンネルで送信された3回の測距用電波信号において、マルチパス強度因子としての、複数(前述の例では4つ)の基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和を算出する(強度差総計算出手段)。なお、上記ステップSS20、ステップSS30、ステップSS45が、各請求項記載の強度因子算出手段を構成する。
【0183】
そして、新たに設けたステップSS65で、測位サーバ14の選択部90が、上記ステップSS45での算出結果に応じて、上記互いにチャンネルの異なる3回の測距用電波信号のうち、上記4つの基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネルを選択する。そして、上記ステップSR40で全基地局12A〜12Dより入力したすべての受信時刻情報(上記の例では4つの基地局×3回の受信=合計12個の受信時刻情報)の中から、当該選択されたチャンネルにおいて全基地局12A〜12Dにおいて受信された、4つの受信時刻情報を選択する。以降の処理及び手順は、図21と同様であるので説明を省略する。
【0184】
本変形例によれば、移動局10が、互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回(前述の例では3回)の測距用電波信号を送信し、そのうち、基地局12A〜12Dそれぞれの強度差Smax−Sminの和が最も小さい(言い換えれば反射波の悪影響が最も小さい)チャンネルを用いることで、各基地局での直接波と反射波との位相差△Φがπ/2か3π/2に近くなる、若しくは、反射波の大きさが小さくなるようにする。そして、そのチャンネルにおける受信時刻情報を用いて測位を行うことにより、測位精度に悪影響を及ぼす反射波の影響を確実に低減し、測位精度を向上することができる。
【0185】
(3)周波数の異なる複数回の測距用電波信号を送信し、基地局及び周波数を選択する場合
上記(2)の変形例においては、互いに周波数(チャンネル)の異なる複数回の測距用電波信号において、4つの基地局12A〜12Dに係る上記強度差Smax−Sminの和を算出したが、これに限られない。すなわち、4つの基地局12A〜12Dのうち上記強度差Smax−Sminが小さいものから優先的に所定個数(この例では3個)だけ選択し(=4つの基地局12A〜12Dのうち強度差Smax−Sminが大きいものは選択されない)、当該選択された3個の基地局12のみに限定した形でそれら各基地局12での強度差Smax−Sminの和を算出するようにしてもよい。
【0186】
図28は、本変形例における、基地局12の選択及び選択された基地局12での強度差Smax−Sminの和の算出の手法を説明するための説明図であり、上記(2)の変形例の図26に対応する図である。図28では、互いに異なる周波数(チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11)で送信された3回の測距用電波信号における、各基地局12A〜12Dごとの強度差Smax−Sminと、選択された3つの基地局12における強度差Smax−Sminの和とを示している。なお、この例では、各チャンネルにおける各基地局12A〜12Dごとの強度差Smax−Sminは図26と同じ値を用いている。
【0187】
図28において、チャンネル1では、各基地局12ごとの上記強度差Smax−Sminの値は、基地局12C=基地局12D<基地局12B<基地局12Aとなる。したがって、強度差Smax−Sminが小さいものから3個選択すると、基地局12D、基地局12B、基地局12Aが選択される(値を円で囲んだもの)。同様に、チャンネル6では、各基地局12ごとの上記強度差Smax−Sminの値は、基地局12C<基地局12A=基地局12B<基地局12Dとなり、基地局12C、基地局12A、基地局12Bが選択される。また、チャンネル11では、各基地局12ごとの上記強度差Smax−Sminの値は、基地局12B<基地局12A=基地局12C<基地局12Dとなり、基地局12B、基地局12A、基地局12Cが選択される。
【0188】
次に、各チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11のそれぞれにおいて、上記のようにして選択された3個の基地局12に係る強度差Smax−Sminの和を算出する。すなわち、チャンネル1においては、選択された基地局12B,12C,12Dに係る強度差Smax−Sminの和は11となる。また、チャンネル6においては、選択された基地局12A,12B,12Cに係る強度差Smax−Sminの和は6となる。また、チャンネル11においては、選択された基地局12A,12B,12Cに係る強度差Smax−Sminの和は13となる。
【0189】
次に、各チャンネル1、チャンネル6、チャンネル11における、上記選択された3個の基地局12に係る強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネルを選択する。すなわち、上記選択された3個の基地局12に係る強度差Smax−Sminの和は、チャンネル6<チャンネル1<チャンネル11となるので、チャンネル6が選択される。
【0190】
図29は、本変形例における測位サーバ14、基地局12A〜12D、移動局10の間で送受される各種信号の送受と制御動作の一例を表すシーケンス図であり、上記実施形態の図21、上記(1)の変形例の図24、上記(2)の変形例の図27に対応する図である。図21及び図27と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0191】
図29では、測位サーバ14に関してステップSS40、ステップSS50、ステップSS60を削除し、さらに、ステップSS30とステップSS70との間に新たにステップSS35、ステップSS55、ステップSS65′を設けた点が図21と異なる。
【0192】
すなわち、上記ステップSS30において、測位サーバ14の解析部88が、前述と同様、各基地局12A〜12Dごとに、上記3回の測距用電波信号それぞれにおける(各チャンネルごとの)、上記強度差Smax−Sminを算出(強度差算出手段)したら、新たに設けたステップSS35に移る。
【0193】
ステップSS35では、測位サーバ14の選択部90が、上記ステップSS30の算出結果に基づき、周波数(チャンネル)が異なる3回の測距用電波信号において、4つの基地局12A〜12Dのうち強度差Smax−Sminが小さいものから所定個数(前述の例では3個)だけ選択する(すなわち、4つの基地局12A〜12Dのうち強度差Smax−Sminが最も大きい基地局12は選択しない。
【0194】
次に、新たに設けたステップSS55では、測位サーバ14の解析部88が、マルチパス強度因子としての、上記ステップSS35で選択した3個の基地局12に係る強度差Smax−Sminの和を算出する。なお、上記ステップSS35とステップSS55とが、各請求項記載の強度差総計算出手段を構成し、さらにこれらとステップSS20、ステップSS30とが、各請求項記載の強度因子算出手段を構成する。その後、新たに設けたステップSS65′に移る。
【0195】
ステップSS65′では、測位サーバ14の選択部90が、上記ステップSS55の算出結果に応じて、上記互いにチャンネルの異なる3回の測距用電波信号のうち、上記選択した3個の基地局12の強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネルを選択する。そして、上記ステップSR40で全基地局12A〜12Dより入力したすべての受信時刻情報(上記の例では4つの基地局×3回の受信=合計12個の受信時刻情報)の中から、当該選択されたチャンネルにおいてステップSS35で選択された3個の基地局12において受信された3つの受信時刻情報を選択する。以降の処理及び手順は、図21と同様であるので説明を省略する。
【0196】
本変形例によれば、移動局10による、測距用電波信号の複数回の送信のうち、強度差Smax−Sminの和が最も小さいチャンネルを用い、さらに当該チャンネルでの全基地局12A〜12Dでの受信結果のうちからSmax−Sminが小さい3つを選択する。そして、それら選択された3つの基地局12における受信時刻情報を用いて測位を行うことにより、さらに確実に測位精度を向上することができる。
【0197】
(4)アンテナ切り換え方式で電波信号の送信を行う場合
なお、以上においては、移動局10が、同一のアンテナを用いて互いに周波数の異なる複数回の電波信号を送信する態様を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、移動局10が、異なる複数の周波数にそれぞれ対応した複数のアンテナを切り換えながら用いつつ、互いに異なる複数のチャンネルで電波信号を送信するようにしてもよい。
【0198】
図30は、このような変形例による移動局10の機能的構成の概略を表す機能ブロック図であり、図3に対応する図である。図3と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0199】
図30において、本変形例においては、移動局10が、上記図3のアンテナ部20とほぼ同等の機能を備えた複数(この例では3つ)のアンテナ部20A〜20Cを備えている。そして、この例では、アンテナ部20A〜20Cと、平衡不平衡変換器22との間にアンテナ切換部21(切り換え部)を新たに備えている。
【0200】
アンテナ部20A〜20Cは、それぞれ予め設定された互いに周波数の異なる電波信号を送信可能となっている。言い換えれば、各アンテナ部20A〜20Cは、それぞれ特定の周波数の送受信に最も適した構成となっている。アンテナ切換部21は、例えばコントローラ(図示省略)からの指令により基地局12A〜12Dとの電波信号の送受信の際に用いるアンテナ部20A〜20Cを切り換え、順次選択する。これにより、上記同様、移動局10が実質的に互いに周波数の異なる3回の電波信号を送信することができる。
【0201】
本変形例によっても、上記実施形態や各変形例と同様の効果を得る。
【0202】
(5)TOA方式で測位を行う場合
なお、以上においては、移動局10からの測距用電波信号に対する各基地局12A〜12Dの受信時刻差により測距処理を行う、いわゆるTDOA(Time Difference of Arrival)方式を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、RSSI(受信信号強度)を用いる方式やTOA(Time of Arrival)方式を用いて測距処理を行うようにしてもよい。RSSI方式の場合は、基地局のRSSI部47にて移動局信号の受信強度を取得し、これに基づき、測位を行うことができる。また、TOA方式の場合は図3に示した移動局10の時計41が必須の構成となる。そしてこの移動局10の時計41と各基地局12A〜12Dの時計41との時刻合わせが行われる。そして、移動局10での送信時刻と基地局12A〜12Dでの受信時刻とにより、移動局10から基地局12A〜12Dまでの到来時間(伝搬時間)を算出し、これに基づき、測位を行うことができる。
【0203】
本変形例によっても、上記実施形態や各変形例と同様の効果を得る。
【0204】
(6)その他
以上においては、被測位局として移動可能な移動局10が設けられる場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、上記基地局12のように固定的に配置されるものに対し無線通信を介して測位を行う場合であっても、本発明を適用して、上記同様、マルチパス環境により生じる反射波の影響を軽減して、測位精度を向上することができる。
【0205】
また、図21、図24、図27、図29に示すシーケンスは本発明を図示する手順に限定するものではなく、発明の趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で手順の追加・削除又は順番の変更等をしてもよい。
【0206】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0207】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】本発明の一実施形態の測位システムの構成の一例を表す説明図である。
【図2】位置算出のために、移動可能領域において便宜上設定される座標系を表す説明図である。
【図3】移動局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【図4】基地局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【図5】測位サーバの機能的構成を表す機能ブロック図である。
【図6】測位部による移動局の位置検出の手法原理を説明するための説明図である。
【図7】直接波と反射波とによる干渉を説明するための説明図である。
【図8】位相及び振幅の関係を表す図である。
【図9】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図10】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図11】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図12】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図13】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図14】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図15】直接波及び反射波の信号強度の算出の手法の一例を説明するための説明図である。
【図16】周波数の異なる測距用電波信号の直接波と反射波との位相差を説明するための説明図である。
【図17】周波数の異なる各チャンネルにおける中心周波数、使用周波数帯域を表した図である。
【図18】信号強度比が小さい順に所定個数の基地局に係わる受信時刻情報を選択する手法を説明するための説明図である。
【図19】信号強度比が小さい順に所定個数の基地局に係わる受信時刻情報を選択する手法を説明するための説明図である。
【図20】信号強度比が小さい順に所定個数の基地局に係わる受信時刻情報を選択する手法を説明するための説明図である。
【図21】測位サーバ、基地局、移動局の間で送受される各種信号の送受と制御動作を表すシーケンス図である。
【図22】1MHzの周波数で測距用電波信号を送信する変形例において、直接波と反射波との位相差を説明するための説明図である。
【図23】直接波と反射波との位相差を説明するための説明図である。
【図24】測位サーバ、基地局、移動局の間で送受される各種信号の送受と制御動作を表すシーケンス図である。
【図25】周波数の異なる複数回の測距用電波信号を送信し、周波数を選択する変形例において、複数の基地局の強度差の和が最も小さい周波数の測距用電波信号を選択する手法を説明するための説明図である。
【図26】複数の基地局の強度差の和が最も小さい周波数の受信時刻情報を選択する手法を説明するための説明図である。
【図27】測位サーバ、基地局、移動局の間で送受される各種信号の送受と制御動作を表すシーケンス図である。
【図28】周波数の異なる複数回の測距用電波信号を送信し、基地局及び周波数を選択する変形例において、基地局の選択及び選択された基地局での強度差の和の算出の手法を説明するための説明図である。
【図29】測位サーバ、基地局、移動局の間で送受される各種信号の送受と制御動作を表すシーケンス図である。
【図30】アンテナ切り換え方式を行う変形例における移動局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0209】
8 測位システム
10 移動局
12A〜12D 基地局
14 測位サーバ
21 アンテナ切換部(切り換え部)
42 到来時刻検出部(同期検出部)
47 RSSI部(信号強度検出部)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波信号を、マルチパス対応の所定の態様で送信する送信部を備えた移動局と、
前記送信部から送信された前記電波信号を受信する受信部と、受信された前記電波信号に対して同期検出を行い、前記電波信号の受信時刻を算出する同期検出部と、受信された前記電波信号の強度を検出する信号強度検出部とを備えた複数の基地局と、
前記受信時刻に基づいて前記移動局の測位処理を行う測位処理手段と
を有する測位システムであって、
前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度より、前記同期検出部で算出される受信時刻に対するマルチパスの影響を表す、マルチパス強度因子を算出するための強度因子算出手段とを有し、
前記測位処理手段は、
前記基地局で算出され、前記マルチパス強度因子に応じた所定の処理が行われた受信時刻に基づいて、前記測位処理を行う
ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記測位処理手段は、
前記所定の処理として、前記基地局で算出された前記受信時刻のうち前記マルチパス強度因子に応じた選択が行われた、受信時刻に基づいて、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項1記載の測位システム。
【請求項3】
前記移動局の送信部は、
前記所定の態様として、前記基地局での受信時に、前記直接波と前記反射波との位相差が、略0となるか、若しくは、略πとなるような態様で、前記電波信号を送信する
ことを特徴とする請求項2記載の測位システム。
【請求項4】
前記移動局の送信部は、
前記所定の態様として、1MHz以下の周波数の前記電波信号を送信し、
前記強度因子算出手段は、
前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記電波信号の前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを検出する第1最大値・最小値検出手段と、
前記第1最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを検出する第1直接波・反射波強度検出手段と、
前記第1直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として算出する第1信号強度比算出手段と
を備えており、
前記測位処理手段は、
前記第1信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項3記載の測位システム。
【請求項5】
前記移動局の送信部は、
前記所定の態様として、互いに周波数の異なる複数回の前記電波信号を送信し、
前記強度因子算出手段は、
前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第2最大値・最小値検出手段と、
前記第2最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminが最も大きくなる電波信号の、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを各基地局ごとに検出する第2直接波・反射波強度検出手段と、
前記第2直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として各基地局ごとに算出する第2信号強度比算出手段と
を備えており、
前記測位処理手段は、
前記第2信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項3記載の測位システム。
【請求項6】
前記移動局は、
複数のアンテナと該複数のアンテナを切り換える切り換え部を有し、
前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、異なる複数の前記アンテナを順次選択して前記電波信号を送信し、
前記強度因子算出手段は、
前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、前記直接波及び前記反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第2最大値・最小値検出手段と、
前記第2最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminが最も大きくなる電波信号の、前記直接波の信号強度Sdと前記反射波の信号強度Srとを各基地局ごとに検出する第2直接波・反射波強度検出手段と、
前記第2直接波・反射波強度検出手段での検出結果に基づき、前記反射波の信号強度Srと前記直接波の信号強度Sdとの信号強度比Sr/Sdを、前記マルチパス強度因子として各基地局ごとに算出する第2信号強度比算出手段と
を備えており、
前記測位処理手段は、
前記第2信号強度比算出手段の算出結果に応じて、前記複数の基地局のうちSr/Sdが小さい順に所定の個数選択された基地局で算出された受信時刻に基づき、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項3記載の測位システム。
【請求項7】
前記移動局の送信部は、
前記所定の態様として、互いに周波数の異なる複数回の前記電波信号を送信し、
前記強度因子算出手段は、
前記信号強度検出部で検出された前記電波信号の強度に基づき、前記複数回の電波信号それぞれにおける、直接波及び反射波からなる合成波の信号強度の最大値Smax及び最小値Sminを各基地局ごとに検出する第3最大値・最小値検出手段を備えており、
前記移動局の送信部は、前記所定の態様として、Smax−Sminが最小となるような態様で、前記電波信号を送信する
ことを特徴とする請求項2記載の測位システム。
【請求項8】
前記強度因子算出手段は、
前記第3最大値・最小値検出手段での検出結果に基づき、各回の電波信号において、Smax−Sminを各基地局ごとに算出する強度差算出手段と、
前記強度差算出手段での算出結果に基づき、各回の電波信号において、複数の基地局に係るSmax−Sminの和を前記マルチパス強度因子として算出する強度差総計算出手段と
を備えており、
前記測位処理手段は、
前記強度差総計算出手段の算出結果に応じて、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminの和が最も小さくなる周波数における、各基地局での受信時刻に基づき、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項7記載の測位システム。
【請求項9】
前記強度差総計算出手段は、
前記強度差算出手段での算出結果に基づき、各回の電波信号において、Smax−Sminが小さい順に基地局を所定の個数選択し、当該選択された基地局に係るSmax−Sminの和を前記マルチパス強度因子として算出し、
前記測位処理手段は、
前記強度差総計算出手段の算出結果に応じて、前記複数回の電波信号のうちSmax−Sminの和が最も小さくなる周波数における、各基地局での受信時刻に基づき、前記測位処理を行う
ことを特徴とする請求項8記載の測位システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−71910(P2010−71910A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242012(P2008−242012)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】