説明

測定セルの熱連結性をモニタリングするための方法

【課題】測定セルと、分析装置のサーモスタット調温された要素との間の熱連結性をチェックするための方法を提供する。
【解決手段】(a)測定セルを該分析装置内に挿入し、それによりサーモスタット調温された要素との機械的接触を確立する工程、(b)分析装置により供給される検量用流体、濯ぎ用流体などの流体で測定チャンネルを満たすか、あるいは外部から供給されるサンプル流体、品質管理流体などの流体で測定チャンネルを満たす工程、(c)測定チャンネルと、外部流体又は内部流体との間に温度平衡が得られるまで待機する工程、(d)前記サーモスタット調温された要素により急速な温度変化を適用する工程、(e)急速な温度変化が適用された後の少なくとも1つのセンサー素子の経時信号曲線を測定する工程、(f)上記工程(e)の測定で得られた経時信号曲線を分析することにより熱連結性の質を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定セルと、分析装置のサーモスタット調温された要素との間の熱連結性(thermal coupling)をモニターするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定チャンネル内に少なくとも1つのセンサー素子を有する測定セル又はセンサーカートリッジは、サーモスタット調温された支持面を有する分析装置内に交換自在に挿入され、少なくとも1つの接触領域において、このサーモスタット調温された支持面と接触させることができるようになっている。測定セル内に収容された媒体とセンサー素子との迅速、且つ、再現可能なサーモスタット調温のため、サーモスタット調温された要素と、測定セルの壁面との間の熱連結性は極めて重要である。サーモスタット調温された要素と、測定セル又はセンサーカートリッジとの間の如何なるエアギャップ(空隙)も、通常完全には回避できないとしても、狭い許容範囲内に維持されなければならない。
【0003】
多くの測定装置および分析装置のセンサー素子は温度依存的信号特性を有することが知られている。使用されるセンサーの特定のタイプのものでは、この温度依存性は、化学的プロセス、その平衡および/又は動力学に対する温度の影響によるものであるか、あるいは、特に電気化学センサーの場合、物理化学的特性の変化によりもたらされる。
【0004】
このようなセンサーは、体液中のガス分圧、pH値、又はイオン濃度および代謝産物濃度を判定するための医療分析システムにおいてしばしば使用される。特に、このようなセンサーは医療診断において重要な役割を果たす血液ガス分析装置で使用されている。
【0005】
これらセンサーの温度係数は適当な検量線測定により比較的容易に判定することができるが、測定される変数(pO、pCO、pH)が温度依存性であると、血液ガスおよびpHの測定において問題が生じ、計算補正に必要なサンプルの温度係数は十分な精度で知られていない。仮に血液サンプルについて得た測定値、例えば室温での測定値を計算処理により補正し、体温(37℃)での値を得ようとしても、結果は不正確となる。
【0006】
上述の温度依存性を回避するため、制御された温度条件下で(すなわち、サーモスタット内で)センサーを使用することが知られている。測定セルが或る期間の使用後に交換される場合、測定セルおよび分析装置の固定部材であるサーモスタットは容易に分離可能となっていなければならない。
【0007】
一般に、測定セルは分析装置のサーモスタット調温されたチャンバー内で操作される。この場合、このチャンバーは一定温度に維持され、通常、合成材料で作られている。
【0008】
患者の体内で支配的な状況を最適にシミュレートするため、測定は37℃のサンプル温度で行われる。サンプルの採取と測定との間で僅かな時間が経過したとしても、血液サンプルは有意に冷却され、通常、分析装置内部の測定セル内で体温に急速に再加熱する必要がある。
【0009】
迅速、且つ、再現可能なサーモスタット調温のため、測定セル内に導入された媒体、例えば検量媒体、対照媒体、サンプル流体を必要な操作温度に迅速、且つ、再現可能に加熱することが必須であるのみならず、測定セル内に収容されたセンサーも加熱する必要がある。
【0010】
これに関連して、血液ガスパラメータ、pH、pCOおよびpOを測定するためのセンサー装置が米国特許No.5,046,496Aに開示されている。この場合、個々の電極が非導電性セラミックの矩形のキャリアプレート上に薄膜技術により適用されている。この測定用電極を備えたキャリアプレートは、フロースルー(flow-through)セルのハウジング内に接着されている。このキャリアプレート上には、測定のために必要な温度を達成、制御するために温度センサーおよび加熱要素も設けられている。
【0011】
米国特許No.6,890,757 B2には、携帯式診断システムが開示されている。この場合も、加熱要素は個々の電極を備えたセンサーチップに直接、一体化されていて、温度測定のためのIRセンサーにより無接触様式でモニターされるようになっている。
【0012】
最後に、米国特許No.2003/0057108 A1には、化学的、電気化学的および生化学的センサーの急速水和および加熱のための方法が開示されている。そのセンサーカートリッジは、複数のセンサーが設けられたプラスチック製下方部材と、このセンサーカートリッジに熱を伝達するのに使用できる金属製カバープレートとからなっている。この目的のため、このカバープレートは適当な加熱用又は冷却用要素、例えばペルティエ素子と接触している。
【0013】
加熱要素および温度測定要素を測定セル内に一体化させることによって生じる追加費用は、上述の解決策の欠点となっている。
【0014】
EP 1 367 392 B1には、詳述されてはいない複数の電気化学的電極を有するサーモスタット調温測定セルを備えた分析装置が開示されている。この測定セルはペルティエ素子によりサーモスタット調温されるようになっていて、平坦な熱伝導性分配要素が、ペルティエ素子と、測定セルの壁面との間に配置されている。この種のサーモスタット調温は避けられないエアギャップのため空気浴と等価のものであり、熱伝達は主として電気化学的センサーを囲む低熱伝導性ポリマー材料の厚み、およびサーモスタット調温表面に対して残留するエアギャップにより制限される。
【0015】
測定セルへの熱伝達を改良するため、EP 1 674 866には、熱伝導性弾性又は塑性層を使用することが開示されている。この層は少なくとも測定セルの壁面又は分析装置のサーモスタット調温支持面に対する接触領域に接着されており、測定セルの交換の際にサーモスタット調温支持面又は測定セル壁面から除去することができるようになっている。更に、測定チャンネルに面する内面に1又はそれ以上のセンサー素子を担持する測定セルの壁面を、少なくとも分析装置のサーモスタット調温支持面との接触領域において、熱伝導性金属又は合金から作成することが提案されている。
【0016】
このような配置(熱伝導性層又は測定セルの金属壁面)(これらは組合せることもできる)により、熱源、分析装置のサーモスタット調温支持面およびセンサー面又はサンプル面間の熱伝達抵抗を実質的に最小化することができる。
【0017】
測定セルが損傷したり、接触領域がかなり汚れたりしている場合、サーモスタット調温面との接触は、数点でのみ、そして再現不可能な状態で達成されることになり、熱連結性の質が劣化し、機能不全を迅速に検出することができなくなる。
【0018】
熱連結性が不十分となる結果、センサーとサンプルとの間の温度適合が遅延することになる。従って、所望の目標温度で測定するのにより多くの時間を要したり、測定が時期尚早に(例えば、37℃の正しい測定温度に達する前に)行われたりすることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第5,046,496 号明細書
【特許文献2】米国特許第6,890,757 号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0057108 号明細書
【特許文献4】欧州特許第1 367 392 号明細書
【特許文献5】欧州特許第 1 674 866 号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述の如き従来技術に鑑み、本発明の目的とするところは、分析装置内に挿入された測定セル熱連結性をチェックするための方法を提供するものであり、これは、可能な場合には、測定セル内での加熱要素および温度センサーの使用を回避し、測定セルの交換の際、機能不全の際又は通常の使用において熱連結性の悪化の有無を迅速、且つ、確実に検出することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の解決手段は以下の工程を含む。すなわち、
(a) 測定セルを分析装置内に挿入し、それによりサーモスタット調温された要素との物理的または機械的接触を確立する工程、
(b)分析装置により供給される検量用流体、濯ぎ用流体などの流体で測定チャンネルを満たすか、あるいは外部から供給されるサンプル流体、品質管理流体などの流体で測定チャンネルを満たす工程、
(c) 測定チャンネルと、外部流体又は内部流体との間に温度平衡が得られるまで待機する工程、
(d)前記サーモスタット調温された要素により急速な温度変化を適用する工程、
(e) 急速な温度変化が適用された後の測定セルの少なくとも1つのセンサー素子の経時信号曲線を測定する工程および、
(f)上記工程(e)の測定で得られた経時信号曲線を分析することにより熱連結性の質を判定する工程。
【0022】
本発明によれば、工程(e)で測定される経時信号曲線は、内部又は外部流体の温度依存特性のもの、あるいは温度依存的な電気化学的又は光学的センサー素子のものであってもよい。
【0023】
工程(c)における内部又は外部流体と、測定チャンネルとの間の温度平衡までの待機は、例えば、温度平衡が生じることができる予め規定された長さの時間だけ待つことにより行うことができる。変形例として、内部又は外部流体の温度依存特性の経時信号曲線あるいは温度依存性電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線を工程(c)のもとで測定、分析し、内部又は外部流体と、測定チャンネルとの間の温度平衡の到達を上記信号曲線から判定することもできる。これは例えば、信号曲線の実質的な変化が最早生じなくなるまで待機することにより行うことができる。
【0024】
例えば、血液ガス分析装置の場合、操作用流体(検量用流体、濯ぎ用流体、品質管理用流体)およびサンプル(血液)の導電性は温度依存性である。ガス分圧(pCOおよびpO)およびpH値もまた温度依存性である。測定すべき濃度、特にイオンおよび代謝産物の濃度は原則として温度依存性ではない。少なくとも広範囲に亘って、それらの温度依存性は非常に低く、考慮する必要はない。これらの場合、電気化学的又は光学的センサー素子それ自体の温度依存性が使用される。
【0025】
サンプル測定のための測定セル内に既に存在するセンサー素子も経時信号曲線を得るために使用されるならば、それは特に有利となる。これは既に存在する感知装置によるセンサーカートリッジの熱連結性の完全に自動化された、従って経済的なチェックを提供することになる。
【0026】
好ましい変形例として、熱連結性のチェックを、例えば、操作用流体の導電率、電気抵抗又はインピーダンス(又はそれから得られるパラメータ)の経時信号曲線を測定することにより行うことができる。
【0027】
好ましい測定方法、すなわち導電性測定を非常に簡単な様式で行うことができる。導電性測定の場合、“センサー素子”は測定用チャンネル内の単純な電気的接触子であり、センサー素子自体は認め得るほどの温度依存性(第1次近似)を示さない。測定変数自体、すなわち測定用チャンネル内での流体の導電性は基本的に温度に比例して変化する。従って、経時信号曲線は温度に直接的に(すなわち、遅延なく)相関する。
【0028】
化学的センサーの場合、判定すべき物質の濃度の温度依存的変化を信号曲線上に重ねることができる。例えば、仮にこのセンサーが或る温度で判定すべき物質と平衡でない場合は、或る応答時間、待機することが必要であろう。
【0029】
本発明の変形例として、サンプル流体中に含まれる物質を判定するための測定チャンバー内の電気化学的又は光学的センサー素子の測定信号の経時信号曲線を測定することも可能である。ここで、このセンサー素子は突然の温度変化を適用した後に内部又は外部流体と接触させる。
【0030】
特に好ましいセンサー素子は、例えばLi,Na,K,Mg++,Ca++などのカチオン又はClなどのアニオンなどのイオンを判定するための電気化学的又は光学的センサー素子である。使用される流体、例えば検量用流体、品質管理用流体において、これらの物質は溶解塩(LiCl,NaCl,KCl,MgCl,CaCl)として存在する。
【0031】
その他の好ましいセンサー素子は、グルコース、乳酸、尿又はクレアチニンなどのサンプル中の生化学的物質を判定するための電気化学的又は光学的センサー素子である。これらのセンサー素子は測定セル内に上述のセンサー素子が何も存在しない場合に使用することができる。
【0032】
更に、サンプル中の溶存ガス、例えば酸素、二酸化炭素を判定するための電気化学的又は光学的センサー素子、あるいはpHを判定するための電気化学的又は光学的センサー素子を使用することができる。これらのセンサー素子は、それらセンサー素子自体並びに流体中に溶解している物質の固有変数、例えばそれらの分圧又はHイオン濃度が温度依存性のものである限りにおいて最初に述べたセンサー素子とは異なる。
【0033】
内部又は外部流体の温度依存性の量の経時温度曲線をサーモスタット調温された要素の経時温度曲線と比較すると、特に有利となる。測定された夫々の曲線を例えば規格化し、それらの差又は比率の経時曲線を決定することができる(図3〜図6参照)。経時曲線を評価する他の方法、例えば時間導関数の決定も使用することができる。
【0034】
本発明の方法を適用した場合、測定セルが液状媒体(検量媒体、品質管理用媒体、濯ぎ用媒体又はサンプル流体)で満たされた後、測定セルのための分析装置支持面の温度が分析装置一体化加熱要素により突然変化する。或る範囲内では、温度急騰の大きさも方向(加熱又は冷却)も決定的ではない。温度変化と並行して、測定セル内に存在する導電性電極を用いて導電性(又は別の量)が時間の関数として測定される。
【0035】
分析装置により適用された温度急騰に応答する導電性変化の動力学を使用して、熱連結性の質が評価される(例えば、測定された曲線の傾斜から、又は前記支持面の温度曲線と導電性変化との間のヒステリシス様パラメータを評価することにより)。
【0036】
殆どの場合、記録する必要があるのは温度そのものでなく、温度に相関するパラメータの記録で十分であるから、測定セル内に既に存在するセンサー素子(例えば、血液サンプル内の電気伝導度を測定することによりヘマトクリット値を判定するための電極)を使用することができ、測定セル内に追加で温度センサーを組込むコストを回避することができる。
【0037】
電気伝導度を測定するための電極の他に、測定セル内に存在する他のセンサー素子を本発明に従って使用することができる。例えば、体液中、特に血液サンプル中の気体分圧(例えば、pCO、pO)、pH値、電解質(Li,K,Na,Mg++,Ca++,Cl)、代謝産物(例えば、グルコース、乳酸、尿、クレアチニン)を測定するための電気化学的又は光学的センサーを使用することができる。
【0038】
特に好ましいセンサー素子は電解質の値を測定するための電気化学的および光学的センサーである。光学的センサーは染料を使用し、その光学的特性(例えば、吸収、ルミネセンス)は温度依存性である。
【0039】
電解質の値を測定するための電気化学的センサーは通常、電位電極である。電位EMF(起電力)の差は、参照電極と、イオン選択的測定電極との間で測定される。測定されるべきイオンの濃度[c]又はイオンの活動度[a]の関数としての、このEMFはネルンスト等式により与えられる:
EMF=E+2.303RT/(zF)log[a]
ここで、Rは気体定数、Tは絶対温度、Fはファラデー定数、zは測定されるべきイオンの電荷数である。このネルンスト等式からして、測定された信号が温度依存性であることは明らかである。生理学的範囲内の濃度において、濃度の値は温度と共に変化することはなく、特に水性流体に溶解しているアルカリ金属カチオンの場合はそうであり、他方、電位差計信号は変化する。
【0040】
同様のことが、グルコース、乳酸などの幾つかの代謝産物の濃度値について云える。センサー素子の測定原理に従えば、上記測定信号は多少なりとも温度依存性である。
【0041】
例えば血液ガスなどのガスの判定のため、あるいはpH値の判定のためのセンサー素子の場合、測定信号は通常、いくつかの温度依存性の量により、例えばセンサー素子内のプロセスにより、更には流体中の検体値により影響を受ける。
【0042】
以下、添付の図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の方法を実施するための装置、すなわち分析装置内に挿入することができる測定セルをサーモスタット調温するための装置を、サンプルの流れ方向に対し垂直な断面で示す図。
【図2】導電路およびセンサー素子を備えた測定用チャンネルの領域における測定セルの断面を示す図。
【図3】良好な熱連結性のケースにおいて、分析装置のサーモスタット調温された要素の温度T、並びに測定用チャンネル内の流体の導電率Lを百分率で示す規格化信号曲線図であって、ここでは温度急騰が適用されている。
【図4】低下した熱連結性のケースにおける、図3同様のTおよびLの規格化信号曲線を示す図。
【図5】良好な熱連結性のケースにおいて、サーモスタット調温された要素の温度T、並びにカリウム含有内部又は外部流体と接触させた電気化学的(電位差計型)カリウムセンサー(測定電極および参照電極を有する)の測定信号Sを百分率で示す規格化信号曲線図であって、ここでは温度急騰が適用されている。
【図6】低下した熱連結性のケースにおいて、図5同様のTおよびSの規格化信号曲線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1に、分析装置(ここでは詳細に示されていない)内に挿入される測定セル1をサーモスタット調温するための装置を示す。この装置は、少なくとも1つの平面的な測定セル壁2を有し、これが分析装置のサーモスタット調温支持面3と接触できるようになっている。この支持面3はサーモスタット調温された要素4(加熱用又は冷却用要素、例えばペルティエ素子)により供給される熱エネルギーの均一な伝達を行う役割をなす。
【0045】
図示の実施例において、測定セル1は二個構成フロースルーセルとして構成され、これを介してサンプルが紙面に垂直な方向に流れるようになっている。平面的測定セル壁2はハウジングの下方部分を形成し、熱伝導率の良好な材料から作られていて、断熱性上方ハウジング部5と一緒になって測定用チャンネル7の境界を画成している。なお、封止要素(複数)6がその間に介在している。これら2つのハウジング部2、5はロッキング用要素8,9により連結されている。少なくとも1つのセンサー素子(例えば電気化学的センサー)10が測定用チャンネル7内に配置されている。図示の実施例において、測定セルの平面的壁2は金属又は合金から作られ、それにより測定用チャンネル7内のセンサー素子10およびサンプルへの良好な熱伝達が確保されるようになっている。電気化学的センサーが使用される場合、これらセンサーおよびそれらのセンサー信号移送用導電性リード12は、絶縁層13を介在させた状態で測定セルの壁2上に配置される。
【0046】
本発明の方法が適用されるとき、前記支持面3は加熱又は冷却素子により急速に加熱又は冷却される。
【0047】
血液サンプルのヘマトクリットを判定するに当たり、導電率を測定し、測定された血液サンプルの導電率からヘマトクリット値を計算する方法が、例えば米国特許No.4,686,479 Aに開示されている。
【0048】
導電率測定のためのこの種のアレンジメント(図2参照)が、測定用チャンネル7内の流体(例えば、サンプル流体、検量用流体、品質管理用流体、濯ぎ用流体)の導電性の温度依存的変化を記録するのに本発明で使用される。図2には更に、導電率測定のための導電性リード12、つまり夫々電気絶縁層を介在させた状態で測定セル壁面2に適用されたもの、並びにO、COおよびpH値を測定するためのリード14,14'、15,15'および16が示されている。
【0049】
測定セル壁2と、分析装置のサーモスタット調温された要素4の支持面3との間の熱連結性の質は、温度動力学の線図から推断することができる。例えば、サーモスタット調温された要素の規格化された温度曲線Tと、規格化された導電率曲線L又は抵抗ないしインピーダンス曲線との間の最大差Dを判定することにより推断することができる。この場合、熱連結性の質は最大差Dについての所定の閾値(例えば45%)を使用して評価される。示差信号は図3〜6においてDとラベルされている。
【0050】
前記支持表面の規格化された温度曲線T(図3〜6参照)および導電率測定用電極の規格化信号曲線L(図3および4)並びにカリウム電極の規格化信号曲線S(図5および6)は以下のようにして得た。
【0051】
第1の工程において、測定された曲線の全ての値Wが式、W'=(W/Wt=0)−1に従って変換される。この例において、Wは測定値であり、tは測定時間である。第2の工程において、全ての値W'が式、W″=(W'/Wt=120')×100に従って規格化され、図3〜6の線図中に曲線として組み込まれる。
【0052】
これら線図中の示差曲線Dはこれら2つの規格化された曲線の差として得たものである。
【0053】
図3は十分な質の熱連結性の動力学を示している。これは例えば、示差曲線Dの最大値が所定の閾値(この場合45%)よりも下に留まっているという事実から認識することができる。
【0054】
図4は前記支持面上の一本の毛の存在により劣化した熱連結性の動力学を示している。これは、所定の閾値(この場合45%)を超える示差曲線の最大値により診断することができる。
【実施例】
【0055】
実施例1(導電率測定)
前記支持面の温度曲線T(t)と、測定セル内に収容されている流体の導電率曲線L(t)との間の最大差Dの判定(図3および4参照):
(1)D=max[(T(t)−Ts)/(Te−Ts)−(L(t)−Ls)/(Le−Ls)]<0.45
T(t) 時間の関数としての温度
Ts T−急騰前の出発温度
Te T−急騰後の終点温度
L(t) 時間の関数としての導電率
Ls T−急騰前の導電率
Le T−急騰後の導電率
“max”とは、式(1)に従ってDを計算するため、図3又は4において示差信号Dが最大値に到達した時間tでまさに測定された温度T(t)および導電率L(t)が使用されることを意味している。この時点は例えば図3又は4の線図に示したような示差信号の曲線を分析することにより直接判定することができる。
【0056】
あるいはDは、或る期間に亘って取得した値のペアT(t)およびL(t)から一連のテスト値Dを式(1)を用いて計算し、これらのテスト値の最大のものに等しいDを設定することにより判定することができる。
【0057】
図3に示した示差曲線の最大値は10.5秒で生じている。表1に示したTおよびLについての生のデータから、Dについての値0.31が式(1)によって得られる。この値は所定の閾値0.45(又は45%)よりも小さい。従って、この実施例において測定セルの熱連結性は満足なものである。
【表1】

【0058】
図4の示差曲線の最大値は11.0秒に位置している。表2に示したTおよびLについての生のデータから、Dについての値0.61が式(1)によって得られる。この値は所定の閾値0.45(又は45%)よりも大きい。従って、この実施例において測定セルの熱連結性は不十分である。
【表2】

【0059】
実施例2(導電率測定)
熱連結性の質の評価については、サーモスタット調温された要素支持面の温度曲線の上昇傾斜部の曲率と、操作用流体の導電率、抵抗またはインピーダンス曲線の上昇傾斜部の曲率との差を商Qとして判定し、且つ、この商Qを予め選択された閾値と比較することによっても熱連結性の質を判定することができる。
【0060】
この商Qは例えば以下の式から得ることができる。
【0061】
(2)Q=[(T−T)/(T−T)]/[(L−L)/(L−L)]
ここで、T、T、Tは所定の時間t、t、tにおけるサーモスタット調温された要素支持面の温度を表し、L、L、Lは所定の時間t、t、tにおける内部又は外部流体の導電率、抵抗またはインピーダンスを表す。
【0062】
表3に示され、時間t=0.5s、t=4.5s、t=8.5sで測定されたTおよびLについての生のデータから、Qについての値1.26が式(2)によって得られる。この値は所定の閾値1.5よりも小さい。従って、測定セルの熱連結性は満足なものである。
【表3】

【0063】
表4に示され、時間t=0.5s、t=4.5s、t=8.5sで測定されたTおよびLについての生のデータから、Qについての値1.79が式(2)によって得られる。この値は所定の閾値1.5よりも大きい。従って、この実施例において測定セルの熱連結性は満足なものではない。
【表4】

【0064】
測定セル壁2と、分析装置のサーモスタット調温された要素4の支持面3との間の熱連結性の質についての別の変数評価を、温度動力学を分析することにより行うことができる。すなわち、サーモスタット調温された要素の規格化温度曲線と、イオン選択性電極(例えばカリウム選択性電極)の測定信号の規格化値との最大差Dを判定し、このDを所定の閾値(例えば20%)と比較することにより熱連結性の質を判定することにより行うことができる。
【0065】
実施例3(電位差測定)
前記支持面の温度曲線T(t)と、測定セル内に存在するセンサー素子の測定信号S(t)の曲線との間の最大差Dの判定(図5および6参照):
(3)D=max[(T(t)−Ts)/(Te−Ts)−(S(t)−Ss)/(Se−Ss)]<0.45
T(t) 時間の関数としての温度
Ts T−急騰前の出発温度
Te T−急騰後の終点温度
S(t) 時間の関数としてのカリウム電極の測定信号
Ss T−急騰前のカリウム電極の測定信号
Se T−急騰後のカリウム電極の測定信号
“max”とは、式(3)に従ってDを計算するため、図5又は6において示差信号Dが最大値に到達した時間tでまさに測定された温度T(t)および前記電極の信号値S(t)が使用されることを意味している。この時点は例えば図5又は6に示したような示差信号の曲線を分析することにより直接判定することができる。
【0066】
あるいはDは、或る期間に亘って取得した値のペアT(t)およびS(t)から一連のテスト値Dを式(3)を用いて計算し、これらのテスト値のうちの最大のものに等しいDを設定することにより判定することができる。
【0067】
図5に示した示差曲線の最大値は14.5秒で生じている。表5に示したTおよびSについての生のデータから、Dについての値0.12が式(3)によって得られる。この値は所定の閾値0.25(又は25%)よりも小さい。従って、この測定セルの熱連結性は満足なものである。
【表5】

【0068】
図6の示差曲線の最大値は17.0秒に位置している。表6に示したTおよびSについての生のデータから、Dについての値0.36が式(3)によって得られる。この値は所定の閾値0.25(又は25%)よりも大きい。従って、この実施例において測定セルの熱連結性は満足なものではない。
【表6】

【0069】
実施例4(電位差測定)
熱連結性の質の評価については、サーモスタット調温された要素支持面の温度曲線の上昇傾斜部の曲率と、電位差センサーの測定信号の上昇傾斜部の曲率との差を商Qとして判定し、且つ、この商Qを予め選択された閾値と比較することによっても熱連結性の質を判定することができる。
【0070】
この商Qは例えば以下の式(4)から得ることができる。
【0071】
(4)Q=[(T−T)/(T−T)]/[(S−S)/(S−S)]
ここで、T、T、Tは所定の時間t、t、tにおけるサーモスタット調温された要素支持面の温度を表し、S、S、Sは所定の時間t、t、tにおける電位差センサーの測定信号を表す。
【0072】
表7に示され、時間t=0.5s、t=4.5s、t=8.5sで測定されたTおよびSについての生のデータから、Qについての値1.14が式(4)によって得られる。この値は所定の閾値1.20よりも小さい。従って、測定セルの熱連結性は満足なものである。
【表7】

【0073】
表8に示され、時間t=0.5s、t=4.5s、t=8.5sで測定されたTおよびSについての生のデータから、Qについての値1.34が式(4)によって得られる。この値は所定の閾値1.20よりも大きい。従って、この測定セルの熱連結性は満足なものではない。
【表8】

【符号の説明】
【0074】
1:測定セル
2:測定セル壁
3:サーモスタット調温支持面
4:サーモスタット調温された要素
5:断熱性上方ハウジング部
6:封止要素
7:測定用チャンネル
8:ロッキング用要素
9:ロッキング用要素
10:センサー素子
12:センサー信号移送用導電性リード
13:絶縁層
14:リード
14’:リード
15:リード
15’:リード
16:リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定セルと、分析装置のサーモスタット調温された要素との間の熱連結性の質をチェックするための方法であって、該測定セルが、サンプルの少なくとも1つのパラメータを測定するため該分析装置内に交換自在に挿入可能となっていると共に測定チャンネル内に少なくとも1つのセンサー素子が備えられていて、以下の工程、
(a) 測定セルを該分析装置内に挿入し、それによりサーモスタット調温された要素との機械的接触を確立する工程、
(b)分析装置により供給される検量用流体、濯ぎ用流体などの流体で測定チャンネルを満たすか、あるいは外部から供給されるサンプル流体、品質管理流体などの流体で測定チャンネルを満たす工程、
(c) 測定チャンネルと、外部流体又は内部流体との間に温度平衡が得られるまで待機する工程、
(d)前記サーモスタット調温された要素により急速な温度変化を適用する工程、
(e) 急速な温度変化が適用された後の測定セルの少なくとも1つのセンサー素子の経時信号曲線を測定する工程および、
(f)上記工程(e)の測定で得られた経時信号曲線を分析することにより熱連結性の質を判定する工程、
を含む前記方法。
【請求項2】
サンプル測定のための測定セル内に既に存在するセンサー素子を、前記工程(e)のもとで経時信号曲線を測定するために使用する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記工程(e)のもとで、前記外部流体又は内部流体の温度依存特性の経時信号曲線を測定する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記外部流体又は内部流体の導電率、電気抵抗又はインピーダンスの経時信号曲線を測定する請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
サーモスタット調温された要素の規格化された温度曲線と、規格化された導電率曲線、電気抵抗曲線又はインピーダンス曲線との間の最大差Dを判定し、該最大差Dについての所定の閾値を使用して熱連結性の質を判定する請求項4記載の方法。
【請求項6】
サーモスタット調温された要素の温度曲線の傾きと、操作用流体の導電率、電気抵抗又はインピーダンス曲線の傾きの商Qを判定し、この商Qについて予め選択された閾値を用いて熱連結性の質を評価する請求項4記載の方法。
【請求項7】
温度依存性の、電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線を請求項1の工程(e)のもとで測定する請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
Li,Na,K,Mg++,Ca++などのカチオン又はClなどのアニオンのイオンを判定するため、少なくとも1つの電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線を測定する請求項7記載の方法。
【請求項9】
グルコース、乳酸、尿又はクレアチニンなどの生化学的物質を判定するため、少なくとも1つの電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線を測定する請求項7記載の方法。
【請求項10】
酸素又は二酸化炭素などの溶存ガスを判定するため、あるいはpH値を判定するため、少なくとも1つの電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線を測定する請求項7記載の方法。
【請求項11】
サーモスタット調温された要素の規格化された温度曲線と、電気化学的又は光学的センサー素子の規格化された信号曲線との間の最大差Dを計算し、該最大差Dについての所定の閾値を使用して熱連結性の質を評価する請求項7〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
サーモスタット調温された要素の温度曲線の傾きと、電気化学的又は光学的センサー素子の経時信号曲線の傾きの商Qを判定し、この商Qについて予め選択された閾値を用いて熱連結性の質を評価する請求項7〜10のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145405(P2010−145405A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286606(P2009−286606)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】