説明

測定装置および測定方法

【課題】測定子のたわみ量が考慮され、測定部位間の寸法が小さい場合であっても、その寸法を正確に測定できる測定装置および測定装置の提供。
【解決手段】測定装置は、ケース本体と、測定部位101,102に先端部511B,521Bがそれぞれ当接され互いに近接離隔可能な一対の測定子51,52と、一対の測定子51,52の基端部511C,521C間の相対移動量を検出する移動量検出手段と、移動量検出手段による検出値を基に測定部位101,102間の寸法を算出する演算制御手段とを備える。演算制御手段により、予め設定された計算式において、移動量検出手段による検出値に基く測定部位101,102間の検出値Xが、測定子51,52の測定部位101,102との当接によるたわみ量T1,T2に相当する値を用いて補正され、測定部位101,102間の寸法の真値Yが算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関する。詳しくは、測定部位間の両端にそれぞれ当接される一対の測定子により測定部位間の寸法を測定する測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な製品の製造現場などでは、隙間や溝幅、パイプ径などの測定部位間の寸法を測定する際に、ダイヤルゲージの測定原理を利用した測定装置が使用されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。特許文献1の測定装置は、パイプ内周面に沿って回転自在に設けられる一対のアームを備えている。そして、これらのアームの先端にはチップ状の測定子がパイプの内周面に当接するようにピンで取り付けられ、この測定子のパイプ内周面上の回転により、測定部位間の寸法を測定するものとなっている。
【0003】
一方、特許文献2の測定装置は、測定部位間に挿入される円錐状の測定子をスピンドルの先端に備え、この測定子の円錐形状における直径とこの直径および高さとの比とが定数として予め設定されている。また、ステムには、スピンドルの軸方向に移動可能な基準片が設けられている。そして、測定の初期化時は、基準片の先端と測定子の円錐底面とを一致させ、測定にあたっては、測定子を溝の内周面に軽く接触させた状態で、基準片を溝に隣接する平面に当接するまで下方に押し込む。この際、上方に移動したスピンドルの移動量と設定された定数とを基に、溝の幅寸法が算出されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−136201号公報([0007]、[0008]、図1、図2)
【特許文献2】特開平7−113603号公報([0014]、[0015]、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような測定装置に関し、近年、被測定物の測定部位間の寸法が小さくなってきている。例えば、自動車産業においては、自動車のボディとランプとの間の建付合わせ部の隙間寸法が非常に狭くなってきており、この隙間寸法を測定して品質を管理する必要がある。
しかしながら、小さい隙間の寸法を測定するために、測定子を薄くあるいは細くなど、測定部位間の寸法に応じてサイズを小さくすると、測定子の強度確保が難しく、測定部位との当接などによる測定子のたわみ量が大きくなって、このたわみが測定の精度に大いに影響する。このため、測定子のたわみ量を別途計算して実測値を補正する必要があるが、この計算に大変な手間および時間が掛かっていた。また、測定子がたわむので、プリセットのためのマスタ測定作業が極めて困難であり、マスタゲージの溝幅を測定する作業は習熟度によって測定値がばらつくから、プリセットの信頼性に欠けるおそれがあった。
現状では、自動車のボディとランプとの間のような小さな隙間を測定可能な測定装置であって、かつ測定子のたわみ量が考慮されたものはなく、上述の特許文献1および特許文献2においても、たわみについては一切考慮されていない。
【0006】
ここで、本発明の目的は、測定子のたわみ量が考慮され、測定部位間の寸法が小さい場合であっても、その寸法を正確に測定できる測定装置および測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測定装置は、ケース本体と、被測定物の測定部位間の両端部に先端側がそれぞれ当接され互いに近接離隔可能な一対の測定子と、前記一対の測定子の基端間の相対移動量を検出する移動量検出手段と、前記移動量検出手段による検出値を基に前記測定部位間の寸法を算出する演算制御手段とを備えた測定装置であって、前記測定子は、前記基端から先端に向かって延出し、前記演算制御手段は、前記測定子の前記測定部位との当接によるたわみ量と、前記検出値とを基に、予め設定された計算式から前記測定部位間の寸法を算出することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、演算制御手段により、測定子のたわみ量に応じて実測値が補正され、真の測定値が算出されるので、測定部位間の寸法が小さく、測定子のたわみによる実測値への影響が大きい場合であっても、測定部位間の正確な寸法を測定できる。これにより、測定子を薄くあるいは細くなど、測定部位間の寸法に応じて十分に小さくした場合の測定精度を大幅に向上させることができ、ごく小さな隙間の測定にも対応できる。また、換算表などに基いて測定子のたわみ量を別途計算する手間が省け、測定作業の時間短縮も図られる。
【0009】
次に、本発明の測定装置では、前記測定部位間の寸法の真値をY、前記移動量検出手段による検出値をX、前記測定子の前記測定部位との当接位置から前記測定子の基端までの長さをL、前記測定子の弾性係数をE、前記測定子の断面係数をI、前記測定子を互いの離隔方向に付勢するバネのバネ定数をk、定数をcとして、前記測定子において前記L、E、Iは互いに同一であり、かつ、Aを、{1−(2kL/3EI)}、Bを、{−(2L/3EI)c}、とすると、前記Yを求める計算式は、Y=AX+B で表されることが好ましい。
なお、上記「検出値」には、移動量検出手段による検出値にプリセット値などを加えて取得される実測値が含まれる。
【0010】
ここで、測定部位との当接によって測定子に掛かる荷重をPとして、かつ測定子においてPが互いに同一であるとしたとき、測定部位間の寸法の真値Yを求める数式は、
【0011】
【数1】


で表されるところ、さらに、P=kX+c・・・(4)であることに基いて数式(1)を変形すると、測定部位間の寸法の真値Yを求める数式は、
【0012】
【数2】


で表される。数式(2)は、Y=AX+B・・・(3)と置くことができ、この数式(3)が、測定装置に予め設定された計算式である。数式(3)における演算係数であるAおよびBは、数式(2)におけるL、E、I、k、cに具体的な数値を適用することにより得られ、これらのAおよびBの値は、演算制御手段に設けられた記憶手段などに予め設定されている。
【0013】
この発明によれば、測定子の材質や形状に応じたたわみ量の設定が可能となる。
また、計算式「Y=AX+B」において検出値Xが変数とされ、さらに、バネ定数k、およびバネの初張力などの定数cを設定することが可能であって、上記数式(4)からもわかるように、測定範囲の広狭に応じた測定子のたわみ量の変化に対応することが可能となる。これにより、測定子の最大たわみ量を基に補正する場合よりも測定精度が向上し、より適切な測定値を得ることができる。
【0014】
本発明の測定装置では、前記ケース本体は、前記演算制御手段で算出された算出値が表示される表示部と、前記ケース本体に軸方向移動可能に設けられて前記測定子の一方が取り付けられるスピンドルとを備え、前記測定子は、前記測定部位に当接される測定子本体と、この測定子本体に着脱可能に設けられるホルダとを備え、前記スピンドルの端部には、前記ホルダが着脱可能に設けられるホルダ取付部が設けられ、このホルダ取付部には、前記スピンドルの軸方向に沿った平面状の押さえ面が当該軸の周りに複数形成され、前記ホルダは、前記押さえ面のいずれかに位置決め固定されて前記表示部に対する向きが変更可能であることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、測定子が測定子本体とホルダとを備えるため、測定子本体が破損、汚損、磨耗などした際に、ホルダの着脱により、測定子本体のみを良品に交換できる。これにより、測定装置全体の交換が不要となってメンテナンス性が向上するとともに、ランニングコストを低減できる。また、被測定物の形状や材質などに応じて測定子の形状変更や材質変更も容易であり、使い勝手を向上させることができる。
そして、スピンドルの端部にホルダ取付部が設けられ、このホルダ取付部に平面状の押さえ面が形成されているので、この押さえ面にホルダを容易に位置決め固定できる。さらに、押さえ面はスピンドルの軸周りに複数形成されていることから、ホルダから延出する測定子の表示部に対する向きを少なくとも2方向に変更可能である。言い換えると、測定部位の位置や向きに応じて、適宜、表示部を見易いように角度調整できる。これにより、表示部における測定値の視認性、および取扱性が向上する。特に、狭隘部の隙間を測定する際など、測定装置を配置する向きが限られる場合に有用である。
なお、ホルダ取付部と同様の構成を前記ケース本体の測定子取付部分に設けることも考えられる。
【0016】
本発明の測定装置では、前記測定子は、その延出方向に対する断面形状において前記測定部位に当接される部分が凸状であることが好ましい。
ここで、測定子の延出方向に対する断面形状としては、略半円形、略円形など、その円弧状に湾曲する凸状の外周部分が測定部位に当接されるものを例示できる。また、断面凸状部分が、例えば、略半円形状における径部分の直線と円弧とが交差する部分や、三角形、菱形などの角部分などであってもよい。
【0017】
この発明によれば、測定子がその凸状部分で当該測定子の延出方向に沿って測定部位に線接触(当接)する。これにより、測定子の姿勢がその延出方向の回転方向に変化しても、測定部位の被当接面上に凸状部分が線接触したままで転動した状態となり、その変化の前後で一対の測定子間の相対移動量に殆んど差がない。すなわち、本発明によれば、測定子の延出方向に対する断面形状が例えば矩形であって、測定子の姿勢変化によって測定子が測定部位に面接触したり線接触したりする構成と比べて、測定子の測定部位に当接される際の姿勢の違いによって生じる測定誤差を十分に小さくできる。したがって、測定装置の設置作業が容易になるとともに、使い勝手も向上する。
なお、測定子の延出方向に対する断面形状において、一対の測定子の近接離隔方向と交差する方向での幅が小さい方が好ましい。測定子の当該方向に対する幅が大きい場合は、測定子が互いに十分に離隔しないで測定部位に当接してしまい、測定誤差が大きくなるが、本発明のように測定子の幅が小さければ測定誤差を小さくできる。
【0018】
本発明の測定装置では、前記測定子は、その延出方向に対する断面形状が一端から他端に向かってテーパされた楔形であって前記楔形におけるテーパ部が前記測定部位に対向し、かつ当該一対の測定子の前記一端同士が近接対向することが好ましい。
ここで、一対の測定子の楔形形状は、所定の点に対して対称に形成され、測定子の近接離隔方向が測定部位間を垂直に結ぶ方向と一致するとき(正姿勢の状態とする)は、テーパの一端側が測定部位に当接され、テーパ部は測定部位に当接されない状態であるものとする。
【0019】
この発明によれば、測定子の姿勢がその延出方向の回転方向に変化した状態では、測定部位の被当接面に沿ってテーパ部が当接される。すなわち、測定子の姿勢が正姿勢に対してずれていても、そのずれが、測定子が正姿勢であるときにテーパ部と測定部位の被当接面とがなす角度の範囲内のものであれば、一対の測定子間の相対移動量に影響がなく、測定誤差が生じない。したがって、使い勝手が大きく向上するとともに、測定装置の設置作業が容易になる。
【0020】
本発明の測定方法は、互いに近接離隔可能に設けられ且つ基端から先端に向かって延出する一対の測定子の先端側を被測定物の測定部位間の両端部にそれぞれ当接させて、前記一対の測定子の基端間の相対移動量を検出し、この検出された検出値を基に前記測定部位間の寸法を算出する測定方法であって、前記測定子の前記測定部位との当接によるたわみ量と、前記検出値とを基に、予め設定された計算式から前記測定部位間の寸法を算出することを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、前述のように、測定子のたわみ量に応じて実測値が補正され、真の測定値が算出されるので、測定子が僅かな隙間に挿入される小片であって測定子のたわみが測定の精度に大きな影響を及ぼす場合でも、測定を精度良く実施できる。また、測定子のたわみ量を別途計算するような手間や時間も掛からない。
【0022】
本発明の測定方法では、前記測定子は、前記測定子の近接離隔方向における寸法が互いに等しくなるように形成され、前記測定子の近接離隔方向における前記測定子の互いの位置を揃え、前記測定子の近接離隔方向における両側から前記測定子を挟み込んでその位置を固定した状態で、プリセット(測定に必要となる値の設定)を実行することが好ましい。
【0023】
この発明によれば、測定子が挟み込まれて位置が固定されるので、測定初期化のためにプリセットボタン等を操作する際に、測定子の位置がずれることがなく、プリセットの信頼性が向上する。
【0024】
本発明の測定方法では、前記測定子の近接離隔方向における前記測定子の互いの位置が揃った状態で、一対のジョーを有する厚さ測定器の前記ジョー間に前記測定子を挟み込んで当該測定子の近接離隔方向における寸法を測定し、この厚さ測定器により測定された測定値をプリセット値とすることが好ましい。
【0025】
この発明によれば、熟練が必要なマスタ測定作業を行う代わりに、厚さ測定器を用いて測定子の厚さ寸法(測定子1つ分の厚さ寸法に相当)を測定し、その測定値をプリセット値としている。このプリセット値は、測定子の基端間の相対移動量について測定部位に応じて加減される。これにより、マスタを不要にできるとともに、個人差によるプリセット値のばらつきが解消されて、プリセット値の信頼性が大きく向上する。また、測定子がノギスなどの厚さ測定器で挟み込まれて、たわんでいない状態の測定子の厚さが測定されるので、測定子の厚さ寸法を正確に測定できる。この点でもプリセット値の信頼性を向上させることができる。
上述のように、プリセット実行の際には、測定子を挟み込んで位置固定しているから、測定子の位置調整を行う必要がなく、プリセットに要する時間を大幅に短縮できる。
また、厚さ測定器により測定子を挟み込むことにより、測定子の位置が固定されると同時に測定子の厚さ寸法が測定されるので、プリセット実行時に、厚さ測定器による測定値とプリセット値とが一致しているか否かを確認でき、ミスを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を図面に基いて説明する。
〔1.測定装置の全体構成〕
図1は、本実施形態の測定装置としての測定装置1の正面図であり、図2は、図1の測定装置1の左側側面を示す図である。
測定装置1は、略円筒形状のケース本体2を備え、ケース本体2の外周壁を貫通するスピンドル4がその軸方向に移動可能に設けられている。この測定装置1は、図3に示すように、測定部位としての隙間100の両端部101,102に一対の測定子51,52をそれぞれ当接させ、自動車のボディとランプとの間のような建付合わせ部である隙間100の幅寸法を測定するものとなっている。なお、このような建付合わせ部の隙間寸法と同様に、通常の溝の幅やパイプの内径なども同様にして測定可能である。
ケース本体2の正面には、測定値がデジタル表示される表示部61が設けられ、この表示部61の周りには、電源ボタン621、モードボタン622、ゼロセットボタン623、プリセットボタン624などの操作ボタン類が配置されている。
また、測定装置1は、スピンドル4の移動量に対する演算機能を内蔵している。
【0027】
なお、以下では、スピンドル4の軸方向をY方向、スピンドル4の軸方向と交差する面内において測定子51,52が基端から先端に向かってそれぞれ延出する方向をZ方向、そして、これらY方向およびZ方向と直交する方向をX方向として説明する場合がある。
【0028】
スピンドル4は、ケース本体2の外周壁に設けられた軸受22およびステム21(図5参照)内部の軸受(不図示)に保持され、軸受22近傍に設けられたスプリング29により、図1において上方に付勢されている。測定時には、図1上方の押下部42を押し下げ、スプリング29の付勢力の方向と反対方向にスピンドル4を移動させるものとなっている。
なお、図1および図2において、スピンドル4は、スプリング29の付勢力によって軸受22近傍の図示しないストッパの位置まで上方に移動した自由状態となっている。
【0029】
測定子51,52は、スピンドル4またはケース本体2に取り付けられ、互いに近接離隔可能に設けられている。
具体的に、スピンドル4の先端部には、スピンドル4の軸方向移動に追従する可動測定子51が設けられている。
そして、ケース本体2には、ステム21の軸周りに取り付けられた断面略正方形状の筒体23が設けられ、この筒体23の側面には固定測定子52がねじSC4によって取り付けられている。
なお、筒体23は、ステム21にねじSC6によって取り付けられ、ステム21と筒体23との間に設けられた図示しない位置決め部材により、スピンドル4の軸周りに90°ずつ回転させて取り付け可能となっている。
【0030】
ケース本体2の内部構成3は、図4に示すように、スピンドル4の移動量を電気信号として検出する移動量検出手段31と、この移動量検出手段31による検出値に基いて算出した値を表示部61に表示する演算制御手段32と、モードボタン622、ゼロセットボタン623、プリセットボタン624などの操作ボタンが接続されたスイッチ部33とを備えて構成されている。
【0031】
移動量検出手段31は、測長センサ311を備えて構成されている。この測長センサ311は、図示を省略するが、ケース本体2とスピンドル4との間に設けられるメインスケールおよびインデックススケールと、これらのスケールの相対移動量を電気信号として検出する測長回路とを有している。
【0032】
演算制御手段32は、移動量検出手段31から出力された検出値に基いて、隙間100の寸法を算出するものである。ここで、測定装置1の演算機能は演算制御手段32として実装され、演算制御手段32には、演算機能に係る計算式(後述)が設定されている。演算制御手段32は、CPU321、およびメモリ322を含んで構成されている。
メモリ322は、演算機能に係る計算式や、計算式における演算係数、測定装置1のプリセット値などを記憶する。
CPU321は、移動量検出手段31から出力された検出値、メモリ322から読み出したプリセット値、演算係数を基に、計算式の演算を行う。
【0033】
〔2.測定子の構造〕
次に、可動測定子51および固定測定子52の構造について説明する。
図5は、可動測定子51をスピンドル4から取り外した状態を示す図であり、図6は、可動測定子51のスピンドル4軸方向に対する断面図である。
可動測定子51は、図5に示すように、隙間100の端部101(図3)に先端部511Bが当接される測定子本体511と、この測定子本体511の基端部511Cを保持するホルダ512とを備え、スピンドル4の軸方向と略直交する面内方向に延出している。この可動測定子51のホルダ512は、スピンドル4の先端のホルダ取付部41に着脱可能に取り付けられている。
ここで、ホルダ取付部41は、スピンドル4の軸方向に突出する筒体であって、その軸に対する断面が略正方形状であり、側面四方には、ホルダ512が係止される平面状の押さえ面411がそれぞれ形成されている。また、ホルダ取付部41の内部には、雌ねじが形成されている。
【0034】
ホルダ512は、スピンドル4への取り付け用の六面体状のブロック部513と、スピンドル4の軸方向と直交する面内でZ方向に延びて測定子本体511を保持する保持部514と、この保持部514との間に測定子本体511を挟持するプレート部515と、を備えて構成されている。
【0035】
ここで、ブロック部513とスピンドル4との取付構造について説明する。図5および図6に示すように、ブロック部513には、スピンドル4のホルダ取付部41が挿通される固定孔513Aがスピンドル4の軸方向(Y方向)に沿って貫通形成されている。この固定孔513Aの内部は、スピンドル4が挿入される側とは反対が小径となる段付き形状となっている。そして、ホルダ取付部41とは反対側から固定孔513Aに挿入されたねじSC2がホルダ取付部41の内側の雌ねじに螺合されることによって、ホルダ512はスピンドル4に固定されている。
【0036】
さらに、ブロック部513には、図6に示すように、スピンドル4の軸方向と直交するZ方向に沿って、係止孔513Cが形成されている。係止孔513Cは、固定孔513Aまで貫通しており、この係止孔513Cを介してねじSC5が挿通されている。ねじSC5は、係止孔513Cを介してホルダ取付部41の押さえ面411を押圧し、ホルダ取付部41を固定孔513Aに係止している。これによってホルダ512が位置決めされている。
そして、このねじSC5を緩めることにより、固定孔513Aにホルダ取付部41が挿通されたままの状態で、ホルダ512の向きをスピンドル4の軸周りに90°ずつ変更することができる。すなわち、図6においては、表示部61の表示面に対して、前、後、左、右の4方向に測定子51が延出する向きを変更可能である。
【0037】
保持部514は、ブロック部513の固定孔513Aが形成された面と交差する側面の1つに、2つのねじSC1によって固定されている。保持部514は、ブロック部513の側面に取り付けられる略矩形状の取付部514Bと、この取付部514Bと連続してZ方向に延びる延出部514Cとにより構成され、全体としてはスピンドル4の軸方向を含む板面を有する板状に形成されている。
プレート部515は、延出部514Cの延出方向側方の端面(スピンドル4の軸方向と直交するXZ面)に重ねて設けられている。
【0038】
次に、図7は、測定子51の先端側を拡大して示す図である。
測定子本体511は、硬質合金などにより極薄の板状に形成され、保持部514とプレート部515との間からZ方向に延出している。
プレート部515には、孔515Aが2つ形成され、この孔515Aを介してねじSC3がそれぞれ挿通され、このねじSC3が保持部514に形成された2つのねじ部514Aにそれぞれ螺合されている。なお、プレート部515は、保持部514に対してケース本体2とは反対側に設けられているため、ねじSC3を取り扱いやすくなっている。
ここで、測定子本体511には、ねじSC3を逃がすU字状の切欠511Aが形成されており、ねじSC3を緩めることにより、切欠511A部分にて測定子本体511をホルダ512から容易に取り外せるようになっている。
【0039】
図8は、測定子本体511の先端側の拡大図である。測定子本体511は、テーパ状に形成され、先端部511Bが測定子本体511の延出方向に沿って細いU字状に突出形成されている。このような形状により、僅かな隙間の間にも測定子本体511の先端部511Bを挿入することができるとともに、先端部511Bよりも幅広の基端部511Cには強度が与えられている。
また、テーパ部511Dから先端部511Bまでは、板厚の1/2相当のR処理がされた3次元曲面形状に形成されている。なお、この曲面R加工は、板厚の1/2に限られない。
【0040】
一方、固定測定子52についても、測定子本体521とホルダ522とを備えて構成されている(図1および図2参照)。測定子本体521は、上述した可動測定子51の測定子本体511と同様の構成であって、ホルダ522に着脱自在とされている。ホルダ522は、保持部524と、上述のプレート部515と同様のプレート部525とを有する。
保持部524は、スピンドル4の軸方向およびこの軸方向に直交するZ方向に延出した略L字形状であって、基端側がねじSC4により筒体23に取り付けられている。
ここで、筒体23のホルダ522が取り付けられる部分には、X方向に突出する凸部231が形成され、可動測定子51のホルダ512と固定測定子52のホルダ522とは、X方向に並んでいる(図2)。
前述のように、筒体23をステム21の軸周りに90°ずつ回転させることができるから、筒体23に取り付けられたホルダ522の向きも上述のホルダ512と同じ向きに変更でき、測定子本体511,521が延出する向きを揃えることができる。
【0041】
〔3.測定子のたわみ量〕
以上、測定子51,52について説明したが、測定子本体511,521は、全体的に薄く、また先端部511Bが細い形状であって、隙間100の端部101,102に当接された際のたわみ量が大きい。図3に、そのたわみを強調して示した。測定時には、スピンドル4の押下部42を押し下げ、測定子本体511,521が互いに近接し位置が互いにほぼ揃った状態で、先端部511B,521Bを隙間100の内部に挿入する。この状態で、押下部42に外力を加えるのを止めると、スプリング29の復元力によってスピンドル4が図1において上方に移動し、これに伴って測定子本体511,521が互いに離隔し、先端部511B,521Bが隙間100の端部101,102にそれぞれ当接される。この際、測定子本体511,521は、隙間100の端部101,102との当接により荷重を受け、図3のようにたわむ。
【0042】
このとき、測定子本体511,521の基端部511C,521C間の相対移動量は、端部101,102間の寸法の真値Yよりも大きい。すなわち、基端部511C間の相対移動量は、スピンドル4の移動量として移動量検出手段31により検出され、演算制御手段32において、移動量検出手段31から出力された検出値にプリセット値(測定補正値)を加えることにより求められる実測値は、図3におけるXに相当する値となる。この実測値X(検出値を基とする値)は、測定子本体511のたわみ量T1および測定子本体521のたわみ量T2のぶん、真値Yよりも大きく、ここに測定誤差が生じる。
【0043】
そこで、メモリ322では、次のように、測定子本体511,521のたわみ量に相当する演算係数を記憶している。
ここで、隙間100の端部101との当接によって測定子本体511に掛かる荷重をP、測定子本体511の隙間100の端部101との当接位置からホルダ512への基端部511Cまでの長さをL、測定子本体511の弾性係数をE、測定子本体511の断面係数をIとする。これらの測定子本体511に係る荷重P、長さL、弾性係数E、断面係数Iについて、固定測定子52の測定子本体521も測定子本体511と同一であるとき、上述の実測値Xを基に、隙間100の寸法の真値Yを求める数式は、材料力学における片持ち梁のたわみの公式から、
【0044】
【数3】


で表される。そして、スピンドル4のスプリング29に係るバネ定数をバネ定数kとし、スプリング29の初張力、あるいはスピンドル4とステム21および軸受22との摩擦係数などを定数cとして、ばね定数に係る公式、P=kX+c・・・(4)に基いて数式(1)を変形する。そうすると、真値Yを求める数式は、
【0045】
【数4】


で表される。
ここで、数式(2)は、Y=AX+B・・・(3)と置くことができ、この数式(3)が測定装置1の演算機能に係る計算式としてメモリ322に記憶されている。また、数式(3)におけるAおよびBは、測定子本体511,521のたわみ量を求める演算係数であり、これらの演算係数A,Bもメモリ322に記憶されている。演算係数AおよびBは、数式(2)におけるL、E、I、k、cに具体的な数値を適用することにより得られ、予め、所定のボタン操作によってメモリ322に入力されている。
【0046】
〔4.測定装置のプリセット〕
次に、測定装置1のプリセットの方法について図9を参照して説明する。
測定装置1のプリセットでは、マスタ測定を行わずに、ノギスCLを用いて測定子本体511,521の1つ分の厚さ寸法を測定し、その測定値をプリセット値としている。なお、測定子本体511,521の材質および形状は互いに同様であって、厚さ寸法も互いに同一である。
【0047】
(4-1)ノギスによる測定
まず、測定子本体511,521の互いの近接離間方向(スピンドル4の軸方向であるY方向)において、測定子本体511,521の位置を揃える。この測定子本体511,521はX方向に並んで設けられているので(図2)、測定子本体511,521は隙間100の端部101,102間を分ける方向(スピンドル4の軸方向と直交する面内方向)に沿って、重ならずに互いの位置が揃う。
この状態で、図9に示すように、測定子本体511、521の先端部511B,521Bから基端部511C,521CまでをY方向における両側からノギスCLの一対のジョーJ1,J2で挟み込み、たわんでいない状態の測定子本体511,521の厚さを測定する。
【0048】
(4-2)プリセット値の設定
次に、プリセットボタン624を複数回押下し、ノギスCLによる測定値、すなわち測定子本体511,521の厚さ寸法をプリセット値として設定する。この際は、ノギスCLで測定子本体511,521を挟む必要はない。
【0049】
(4-3)スタンバイ状態にセット
続いて、ボタン操作により、プリセット実行のスタンバイ状態とする。すると上述の(4-2)で設定したプリセット値が表示部61に表示される。
【0050】
(4-4)プリセットの実行
プリセット実行にあたって、再度、ノギスCLで測定子本体511,521を挟み込み、測定子本体511,521の位置を固定する。
そして、ノギスCLによる測定値と、表示部61に表示されたプリセット値とが一致していることを確認したら、ノギスCLで測定子本体511,521を挟み込んだ状態のまま、プリセットボタン624を押下してプリセットを実行する。このように、測定子本体511,521の位置がノギスCLで固定されているため、測定子本体511,521の位置を調整することなくプリセット値を確定することが可能となる。プリセットボタン624が押下される際の振動、あるいは重力により、測定子本体511,521の位置がずれたりたわんだりする心配がない。
プリセットを実行すると、プリセット値が確定されてメモリ322に記憶される。
【0051】
〔5.測定部位間の測定〕
以下、測定装置1の測定手順について、図1、図3、図4などを参照して説明する。
まず、スピンドル4の押下部42を押し下げ、測定子本体511,521が互いに近接し位置が互いにほぼ揃った状態で、先端部511B,521Bを隙間100の内部に挿入する。この状態で、押下部42に外力を加えるのを止めると、スプリング29の復元力によってスピンドル4が図1において上方に移動し、これに伴って測定子本体511,521が互いに離隔し、先端部511B,521Bが隙間100の端部101,102にそれぞれ当接される。
【0052】
測定子本体511,521が端部101,102にそれぞれ当接されると、基端部511C間の相対移動量は、スピンドル4の移動量として移動量検出手段31により電気的な信号として検出され、その検出値信号が演算制御手段32に出力される。
演算制御手段32では、プリセット値、演算機能に係る計算式、およびこの計算式の演算係数A,Bがメモリ322からそれぞれ読み出され、移動量検出手段31から出力された検出値と、測定子本体511,521のたわみ量とを基に、演算機能に係る計算式から隙間100の寸法が算出される。
【0053】
具体的に、演算制御手段32では、移動量検出手段31から出力された検出値にプリセット値が加算されることにより、実測値Xが求められる。さらに、この実測値Xおよび演算係数A、Bが計算式「Y=AX+B」に代入されることにより、隙間100の端部101,102間の真値Yが求められる。
この真値Yは、図3に示すように、測定子本体511,521のたわみ量T1,T2が実測値Xから差し引かれた値に相当する値(算出値)であり、演算制御手段32によって表示部61の所定領域に表示される。これで隙間100の寸法測定が完了する。
【0054】
なお、端部101,102の形状や材質等に応じて、測定子本体511,521をホルダ512,522から取り外して別の種類の測定子本体511,521に交換することが可能である。この場合は、交換後の測定子本体511,521の弾性係数E、断面係数I、長さLなどに基いて演算係数AおよびBの再設定をすることが好ましい。
また、スプリング29のバネ力調整などを行った場合にも、調整後のバネ定数k、定数cなどに基いて演算係数AおよびBの再設定をすることが好ましい。
【0055】
このような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)演算制御手段32により、測定子本体511,521のたわみ量に応じて実測値Xが補正され、真値Yが算出されるので、測定子本体511,521のたわみ量を考慮した正確な測定を迅速に行うことができる。これにより、狭い隙間100も測定可能なように、薄く細長い測定子本体511,521を採用した場合の測定精度を大幅に向上させることができ、ごく小さな隙間100の測定にも対応できる。また、換算表などに基いて測定子本体511,521のたわみ量を別途計算する手間が省け、測定作業の時間短縮も図られる。
【0056】
(2)測定子本体511,521の弾性係数E、断面係数I、基端部511C,521Cから端部101.102との当接位置に係る長さL,スプリング29のバネ定数kや初張力cによって求められた値が、測定子本体511,521のたわみ量に相当する演算係数AおよびBとしてメモリ322に記憶されている。すなわち、弾性係数E、断面係数I、長さLの設定により、測定子本体511,521の材質や形状に応じたたわみ量の設定が可能となる。
また、計算式「Y=AX+B」において実測値Xが変数とされ、バネ定数k、およびバネの初張力などの定数cを設定することが可能であって、上記数式(4)からもわかるように、測定範囲の広狭(スピンドル4のストローク)に応じた測定子本体511,521のたわみ量の変化に対応することが可能となる。したがって、真値Yとして求められた隙間100寸法の測定値の精度を機動的に向上させることができる。
【0057】
(3)測定子本体511,521は薄く、細いため破損するおそれがあるが、破損、あるいは汚損、磨耗などした場合でも、この測定本体511,512のみをホルダ512,522から取り外して新しいものと交換することができる。これにより、測定子51,52ないし測定装置1全体の交換を不要にできるので、メンテナンス性が向上するとともに、ランニングコストを低減できる。
また、被測定物の形状や材質などに応じて測定子本体511,521の形状変更や材質変更も容易であり、使い勝手が格段に向上する。
【0058】
(4)ここで、測定子本体511(測定子本体521も同様)には、保持部514とプレート部515とを互いに固定するねじSC3を逃がす切欠511Aが形成されているので、ねじSC3を緩めるだけで、測定子本体511,521を保持部514とプレート部515との間から抜き取って交換することができ、測定子本体511,521の交換作業が容易である。
【0059】
(5)さらに、ホルダ取付部41の側面四方に押さえ面411が形成され、スピンドル4の軸周りにホルダ512を90°ずつ回転させた状態で位置決め固定できる。すなわち、隙間100の幅方向に応じて可動測定子51の向きを変えることができ、固定測定子52の向きも筒体23の向きを変えることにより変更できるため、一対の測定子51,52の向きを揃えることができる。これにより、狭い場所で測定作業を行う場合であっても、表示部61が測定者から見て裏側を向き、表示された測定値が視認できないような不都合が生じない。したがって、取扱性を大きく向上させることができる。
【0060】
(6)また、測定子本体511(測定子本体521も同様)の先端部511Bの外周形状は凸曲面状であって角張っていないため、測定子本体511,521を隙間100の内部に挿入する際や、測定子本体511,521が端部101,102にそれぞれ当接される際の被測定物への傷付きを防止できる。これにより、傷付きやすい塗装面や樹脂製のバンパー部分の測定にも測定装置1を使用できる。すなわち、測定部位の材質を選ばない。
なお、測定子の測定部位との当接部分全体を曲面状に形成することが好ましい。
【0061】
(7)プリセットの際にノギスCLを使用したことにより、薄く細い測定子本体511,521のたわみの問題が解決され、プリセット作業が極めて容易となるとともに、ノギスCLの精度を活かしてプリセット値の信頼性を極限まで向上させることができる。
【0062】
すなわち、プリセットにあたって、ノギスCLで測定子本体511,521の基端部511C,521Cを挟み込んで測定子本体511,521の厚さ寸法を測定している。これにより、たわみがない状態の測定子本体511,521の厚さ寸法を正確に測定できる。
そして、プリセット実行の際にも、ノギスCLで測定子本体511,521を挟み込んで位置を固定した状態のまま、ノギスCLの測定値に設定されたプリセット値を確定している。これにより、プリセットボタン624の押下時にも測定子本体511,521の位置がずれることがなく、プリセットの信頼性を大幅に向上させることができる。
さらに、プリセット実行の際に、ノギスCLによって挟んでいる測定素子511,521の厚さの測定値を読み取って表示部61におけるプリセット値と一致しているか否かを確認できるから、プリセットのミスをも防止できる。
【0063】
測定子本体511,521の厚さ寸法をプリセット値として、マスタ測定を行わないため、マスタゲージを不要にできるとともに、個人差によるプリセット値のばらつきが解消され、プリセット値の信頼性が大きく向上する。
また、使い勝手の良い種々のノギスCLが提供されているので、プリセットに要する時間を短縮できる。
【0064】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下の説明では、既に説明した実施形態と同様の構成については、同一符号を付して、説明を省略もしくは簡略化する。
本実施形態は、第1実施形態において、測定子本体の延出方向に対する断面形状を変更したものである。
【0065】
図10(A)および(B)は、本実施形態における測定子本体711,721をその延出方向に沿って見た断面図である。ここで、測定子本体511,521の延出方向をX方向、隙間100の端部101,102を結ぶ方向をY方向、YZ面に直交する方向をZ方向として説明する。また、測定子本体711,721の互いの近接離隔方向は、軸方向Sとして説明する。なお、隙間100の端部101,102それぞれの内壁面は、互いに平行であって、Y方向は、これらの端部101,102を垂直に結ぶ方向、すなわち隙間100の寸法が測定される幅方向であるものとする。
これらの図10(A)および(B)に示すように、測定子本体711,721は、その延出方向(Z方向)における断面形状が半円形であり、その径部分の直線と円弧とが交差する外周部711A,721Aが、測定子本体711,721の延出方向に沿って端部101,102にそれぞれ線接触している。
【0066】
ところで、第1実施形態で説明したように、隙間100の端部101,102間の寸法を測定する際には、測定子本体511,521が端部101,102にそれぞれ当接するまで互いに離隔し、その際の測定子本体511,521間の相対移動量を基に隙間100の寸法が算出されていた。したがって、測定にあたっては、測定子本体711,721の近接離隔方向(軸方向S)と隙間100の端部101,102間を結ぶY方向とを一致させる必要があると考えられる。
【0067】
図10(A)は、隙間100の端部101,102間を結ぶY方向と、測定子本体711,721の近接離隔方向(軸方向S)とが一致している状態を示している。ここで、測定子本体711,721のたわみ量を考慮せずに単純化して考えると、隙間100の寸法は、測定子本体711,721間の相対移動量(ここでは端部102から測定子本体711までの距離)D1に、プリセット値(測定子本体721の厚さ)PXを加算した寸法D2である。実際は、測定子本体711,721のたわみにより、D1よりも大きいXが実測値となるので(図3)、この実測値Xが第1実施形態で説明したように補正されて隙間100間の寸法の真値が求められる。
【0068】
ここで、測定装置1の設置姿勢や使用時の姿勢により、測定子本体711,721が端部101,102の被当接面に斜めに当てられ、軸方向SがY方向に対してZ方向における回転方向(XY面内回転方向)にずれている場合を考えてみる。この場合は、図10(B)に示す状態となり、測定子本体711,721の外周部711A,721Aは、図10(A)に示す状態と比べて、端部101,102の被当接面上にそれぞれ線接触したままで転動した状態となる。
この際、測定子本体711,721の延出方向に対する断面形状は、端部101,102に向かって突出する半円形であることから、測定子本体711,721のX方向での幅は比較的小さいものとなっている。このような形状から、測定子本体711,721は隙間100の内部で十分な距離間隔で離隔する。
なお、測定子本体711,721は、X方向における幅が小さく、端部101,102に突出する形状であるが、全ての角にR処理が施されているため、樹脂製のバンパーや塗装面ないしその近傍の部位などに傷をつけるおそれがない。なお、このR処理は、第1実施形態と同様、測定子本体711,721の厚みの1/2相当の3次元加工となっている。
【0069】
それゆえ、これらの図10(A)と図10(B)との間で、測定子本体711,721間の相対移動量は殆んど変わらない。すなわち、図10(A)における相対移動量D1は、図10(B)における測定子本体711,721間の相対移動量D3よりも僅かに小さいのみであり、このD3にプリセット値PXを加算した寸法D4もまた、図10(A)における寸法D2と比べて僅かに小さいのみである。よって、測定子本体711,721の姿勢の傾きが隙間100の寸法の測定値に与える影響は小さく、前述のたわみ量補正により、真値に近い測定値を得ることができる。
【0070】
なお、測定子本体711,721の断面形状の半円形の向きに関しては、図10(B)に示した状態で測定子本体711,721がY方向と一致する方向に近接離隔するものであってもよい。この場合において、測定子本体711,721が図10(B)中、左右いずれの方向に傾いた場合でも、測定子本体711,721は端部101,102の被当接面に常に線接触するので、上記と同様、測定子本体711,721の姿勢の傾きによる測定値の誤差を小さくできる。
【0071】
次に、図11(A)および(B)は、上述の図10(A)および(B)に示した状態とそれぞれ対比するための図である。図11(A)および(B)において、測定子本体811,821の延出方向における断面は角部がR処理された矩形状であり、X方向における測定子本体811,821の幅寸法は測定子本体711,721の同寸法よりも大きいものとなっている。なお、測定子本体811,821の断面形状は測定子本体711,721と異なるものの、測定子本体811,821と測定子本体711,721とでY方向における厚さ寸法は同じである。このため、プリセット値PXは、図10および図11において同じである。
【0072】
図11(A)は、軸方向SがY方向と一致している状態を示している。この状態では、測定子本体811,821は、その板面811A,821Aが端部101,102とそれぞれ面接触している。ここで、測定子本体811,821のたわみ量を考慮せずに単純化して考えると、隙間100の寸法は、測定子本体811,821間の相対移動量D1である。このD1、およびこのD1にプリセット値PXを加えた寸法D2は、図10(A)に示すD1およびD2と同様の値である。
【0073】
ここで、測定子本体811,821が端部101,102の被当接面に斜めに当てられ、図11(A)の状態から、軸方向SがZ方向における回転方向(XY面内回転方向)にずれている場合を考えてみる。この場合は、図11(B)に示す状態となり、板面811A,821Aが端部101,102の被当接面に対して傾き、測定子本体811,821は、その断面矩形状の角部分に沿って端部101,102に線接触した状態となる。
このように測定子本体811,821の姿勢が端部101,102の被当接面に対して変化したことにより、測定子本体811,821の相対移動量は図11(B)に示すD5となり、このD5は、図11(A)におけるD1と比べてかなり小さい。すなわち、測定本体811,821が断面矩形状であること、および、測定本体811,821のX方向での幅寸法が大きいことから、測定子本体811,821の姿勢の傾きにより、測定子本体811,821が互いに十分な間隔で離隔しない状態でその角部811B,821Bが端部101,102にそれぞれ当接されるのである。
したがって、このD5にプリセット値PXを加えた寸法D6もまた、図11(A)における寸法D2よりもかなり小さくなる。すなわち、測定子本体811,821の場合、その姿勢の傾きによって隙間100の寸法の測定値に大きな誤差が生じ、前述のたわみ量補正によっても、真値に近い測定値を得ることができない。
【0074】
本実施形態によれば、前述した(1)〜(7)の効果に加えて、次のような効果がある。
(8)測定子本体711,721の凸状の外周部711A,721Aにより、測定子本体711,721が隙間100の端部101,102の被当接面に斜めに当てられた場合に生じる測定誤差を極力小さくすることができる。これにより、測定装置1の設置作業が容易になり、使い勝手も大きく向上する。
【0075】
(9)さらに、測定子本体711,721のX方向における幅寸法が比較的小さく、測定子本体711,721が隙間100の内部で傾いても隙間100の内部で十分な間隔で離隔される。この測定子本体711,721の幅寸法は、測定対象である隙間100の寸法に応じて決められる。このように、測定子本体711,721の端部101,102と当接される側の外周形状や、測定子本体711,721の全体断面形状を測定対象の最小測定幅に応じた形状とすることにより、測定装置1の傾きによる誤差を従来のノギスと同程度まで、極めて小さくできる。すなわち、信頼性が格段に向上する。
【0076】
〔変形例〕
本発明は、前述の各実施形態に限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施の形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、以上述べた実施の形態に対し、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができる。
【0077】
図12(A)および(B)に示す本発明の変形例では、第2実施形態と異なる構成により、測定子本体の姿勢の傾きによる測定誤差に対処している。
図12(A)および(B)に示された測定子本体911,921の延出方向に対する断面形状は楔形であり、具体的に、測定子本体911,921は、X方向において測定子本体911,921の互いの近接側の一端から他端に向かって次第に先細りとなるテーパ形状となっている。また、測定子本体911,921の形状は、図12(A)および(B)中の中心点Oに対称に形成されている。ここで、測定子本体911,921の近接離隔方向である軸方向SがY方向(端部101,102を垂直に結ぶ方向)と一致する図12(A)の状態(正姿勢)では、測定子本体911,921の楔形状におけるテーパ部911A,921Aは、隙間100の端部101,102に当接されない状態で対向している。なお、測定子本体911,921の楔形状において、角部にはR処理によって丸みが付けられ、傷付きが防止されている。
【0078】
このような構成によれば、測定子本体911,921の姿勢が図12(A)の状態からZ方向の回転方向に変化した図12(B)の状態となったときに、端部101,102の被当接面にはテーパ部911A,921Aがそれぞれ当接される。ここで、先に示した図11(B)において、断面矩形状の測定子本体811,821の角部811B,821Bが端部101,102にそれぞれ当接された場合とは異なり、端部101と測定子本体922との距離D1は、測定子本体921,922の姿勢変化の前後で変わらない。よって、このD1にプリセット値PXを加えた値D2もその姿勢変化の前後で変わらない。
すなわち、測定子本体911,921が正姿勢の状態に対してずれた状態であっても、そのずれが、図12(A)に示す正姿勢のときにテーパ部911A,921Aと端部101,102の被当接面とがなす角度θの範囲内であれば、測定子本体911,921間の相対移動量に影響がない。このように、測定子本体911,921の端部101,102に当接される際の姿勢の違いによって生じる測定誤差に対応できるので、使い勝手が大きく向上するとともに、測定装置1の設置作業を容易にできる。
【0079】
図13(A)および(B)に示す本発明の変形例は、第2実施形態で図10を参照して説明した測定子本体711,721の向きを当該測定子本体711,721の延出方向の周りに90°回転させたものである。すなわち、図13(A)および(B)において、測定子本体1011,1021の延出方向に対する断面形状は、端部101,102に当接される側が円弧凸状の半円形となっている。
このような構成によっても、その円弧凸状の外周部が端部101,102に当接するため、第2実施形態で述べたように、測定子本体1011,1021の姿勢が変化した場合も正確な測定を実施できる。すなわち、測定子本体1011,1021の近接離間方向(軸方向S)とスピンドル4の軸方向(Y方向)とが一致していた場合における一方の測定子本体1021から端部101までの距離D1と、軸方向SとY方向とがずれていた場合における測定子本体1021、端部101間の距離D9との差が小さい。よって、これらのD1,D9にプリセット値PXをそれぞれ加えた値D2,D10の誤差を小さくできる。
【0080】
なお、測定子本体1011,1021は、断面形状が半円形であって、端部101,102と当接される外周部1011A,1021Aと反対側の形状は平面状である。これにより、測定子本体1011.1021を断面円形状などとする場合よりも、測定子本体1011,1021の近接離隔方向(軸方向S)における寸法を小さくでき、より小さい測定部位間の寸法測定に適する。
【0081】
本発明の測定装置において、予め設定される計算式は前記各実施形態で示したものに限定されない。
例えば、計算式「Y=AX+B+CX−1」についても、第1実施形態で示した計算式「Y=AX+B」とほぼ同様に扱うことができるから、本発明の測定装置に予め設定された計算式に適する。すなわち、計算式における演算係数および変数の数、その態様は限定されない。
【0082】
また、計算式における演算係数AおよびBには、第1実施形態では、測定子本体511の基端部511Cから端部101との当接位置までの長さL、測定子本体511の弾性係数E、測定子本体511の断面係数I、スプリング29のバネ定数k、スプリング29の初張力などの定数c、の互いの関係により、具体的に求められた値が設定されていたが、これに限らず、その他の値を基に計算式の演算係数が設定されていてもよい。
【0083】
さらに、計算式における変数は、第1実施形態では検出値にプリセット値を加えた実測値に係る「X」のみであったが、これに限らず、例えば、測定子の先端部に測定部位との当接を検知するセンサが設けられ、測定子の基端部から測定部位との当接位置までの長さLが測定時に求められる構成の場合は、この長さLを変数として計算式を構成することも考えられる。一方で、この長さLは、測定子の形状などに基いて固定値とすることもできる。
前記各実施形態では、演算制御手段32で用いる計算式がメモリ322に記憶されていたが、計算式の記憶手段としては、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクなど、その種類を問わない。また、計算式を記憶手段に記憶する代わりに、演算制御手段における演算回路に実装してもよい。
【0084】
さらに、前記各実施形態において、隙間100の測定値はケース本体2に設けられた表示部61に表示されていたが、これに限らず、例えば、測定装置がコンピュータ・システムに接続され、そのシステム画面上に測定値が表示される構成としてもよい。
また、このようなコンピュータ・システムを介して、計算式の演算係数を設定してもよい。
【0085】
前記各実施形態では、隙間100の幅寸法が測定されていた。すなわち、物の内側寸法が測定されていたが、これに限らず、被測定物の凸状部分の幅あるいは長さなど、物の外側の寸法を測定する際にも測定子のたわみが生じるから、本発明の測定装置および測定方法を適用しうる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、隙間、溝幅などの寸法を測定する際に好適に利用できる。測定子のたわみ量が補正されることから、測定子をごく薄く細く形成して、僅かな隙間や細幅の溝の寸法を測定する場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態における測定装置の正面図。
【図2】前記実施形態における測定装置の側面図。
【図3】前記実施形態において、隙間の両端部にそれぞれ当接される測定子を示す側面図。
【図4】前記実施形態における測定装置の内部構造を示すブロック図。
【図5】前記実施形態の測定子のホルダを示す分解斜視図。
【図6】前記実施形態の測定子のホルダを示す断面図。
【図7】前記実施形態における測定子本体およびホルダを示す分解斜視図。
【図8】前記実施形態における測定子本体の先端側を示す拡大図。
【図9】前記実施形態の測定装置において、プリセット時にノギスを用いる様子を示す図。
【図10】本発明の第2実施形態の測定装置において、隙間の両端部に当接される測定子本体のその延出方向に対する断面図。
【図11】図10と対比するための図であって、隙間の両端部に当接される測定子本体のその延出方向に対する断面図。
【図12】本発明の変形例の測定装置において、隙間の両端部に当接される測定子本体のその延出方向に対する断面図。
【図13】本発明の他の変形例の測定装置において、隙間の両端部に当接される測定子本体のその延出方向に対する断面図。
【符号の説明】
【0088】
1 測定装置
2 ケース本体
4 スピンドル
31 移動量検出手段
32 演算制御手段
41 ホルダ取付部
51 可動測定子(測定子)
52 固定測定子(測定子)
61 表示部
100 隙間
101,102 端部(測定部位)
411 押さえ面
511,711,911,1011 測定子本体
511B 先端部
511C 基端部
512 ホルダ
521,721,921,1021 測定子本体
521B 先端部
521C 基端部
522 ホルダ
911A,921A テーパ部
CL ノギス(厚さ測定器)
J1,J2 ジョー
PX プリセット値
T1,T2 たわみ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース本体と、被測定物の測定部位間の両端部に先端側がそれぞれ当接され互いに近接離隔可能な一対の測定子と、前記一対の測定子の基端間の相対移動量を検出する移動量検出手段と、前記移動量検出手段による検出値を基に前記測定部位間の寸法を算出する演算制御手段とを備えた測定装置であって、
前記測定子は、前記基端から先端に向かって延出し、
前記演算制御手段は、前記測定子の前記測定部位との当接によるたわみ量と、前記検出値とを基に、予め設定された計算式から前記測定部位間の寸法を算出する
ことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記測定部位間の寸法の真値をY、前記移動量検出手段による検出値をX、前記測定子の前記測定部位との当接位置から前記測定子の基端までの長さをL、前記測定子の弾性係数をE、前記測定子の断面係数をI、前記測定子を互いの離隔方向に付勢するバネのバネ定数をk、定数をcとして、前記測定子において前記L、E、Iは互いに同一であり、かつ、
Aを、{1−(2kL/3EI)}、
Bを、{−(2L/3EI)c}、とすると、
前記Yを求める計算式は、
Y=AX+B
で表される
ことを特徴とする測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の測定装置において、
前記ケース本体は、前記演算制御手段で算出された算出値が表示される表示部と、前記ケース本体に軸方向移動可能に設けられて前記測定子の一方が取り付けられるスピンドルとを備え、
前記測定子は、前記測定部位に当接される測定子本体と、この測定子本体に着脱可能に設けられるホルダとを備え、
前記スピンドルの端部には、前記ホルダが着脱可能に設けられるホルダ取付部が設けられ、このホルダ取付部には、前記スピンドルの軸方向に沿った平面状の押さえ面が当該軸の周りに複数形成され、
前記ホルダは、前記押さえ面のいずれかに位置決め固定されて前記表示部に対する向きが変更可能である
ことを特徴とする測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の測定装置において、
前記測定子は、その延出方向に対する断面形状において前記測定部位に当接される部分が凸状である
ことを特徴とする測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の測定装置において、
前記測定子は、その延出方向に対する断面形状が一端から他端に向かってテーパされた楔形であって前記楔形におけるテーパ部が前記測定部位に対向し、かつ当該一対の測定子の前記一端同士が近接対向する
ことを特徴とする測定装置。
【請求項6】
互いに近接離隔可能に設けられ且つ基端から先端に向かって延出する一対の測定子の先端側を被測定物の測定部位間の両端部にそれぞれ当接させて、前記一対の測定子の基端間の相対移動量を検出し、この検出された検出値を基に前記測定部位間の寸法を算出する測定方法であって、
前記測定子の前記測定部位との当接によるたわみ量と、前記検出値とを基に、予め設定された計算式から前記測定部位間の寸法を算出する
ことを特徴とする測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の測定方法において、
前記測定子は、前記測定子の近接離隔方向における寸法が互いに等しくなるように形成され、
前記測定子の近接離隔方向における前記測定子の互いの位置を揃え、
前記測定子の近接離隔方向における両側から前記測定子を挟み込んでその位置を固定した状態で、プリセットを実行する
ことを特徴とする測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の測定方法において、
前記測定子の近接離隔方向における前記測定子の互いの位置が揃った状態で、
一対のジョーを有する厚さ測定器の前記ジョー間に前記測定子を挟み込んで当該測定子の近接離隔方向における寸法を測定し、
この厚さ測定器により測定された測定値をプリセット値とする
ことを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−194692(P2006−194692A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5436(P2005−5436)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】