説明

測定装置

【課題】単純補完処理が困難な場合においても、探触子に不良素子があることによる情報の欠落を精度よく補完する。
【解決手段】受信素子を2次元的に配列した探触子と、受信感度が所定の閾値以下または大きい受信素子の位置を記憶する記憶装置と、被検体に対する探触子の測定位置を移動させる駆動手段と、前記探触子の移動情報を作成する作成手段と、各測定位置で測定された弾性波から被検体情報を取得する信号処理手段と、を有し、作成手段がいずれの測定位置でも閾値以下の受信素子で測定される位置が閾値より大きい受信素子で測定されるように移動情報を作成する測定装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置に関し、特に、複数の受信素子が2次元的に配列された探触子を有する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被検体にレーザ光を照射し、被検体内部からレーザ照射に起因する超音波(光音響波)を発生させ、この光音響波を解析することで、被検体表面および内部の構造や状況を解析する技術が考案されている。このような装置は光音響波測定装置と呼ばれ、主に材料の微細な傷や亀裂の有無を検出するための検査に利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記測定方式は、レーザ超音波計測とも呼ばれ、非接触かつ非破壊で検査が行えるため、人体内部の検査のために医療転用する動きも見られている。
光音響波測定装置では、生体(被検体)にレーザ光を照射することで、生体内の各組織が熱膨張を起こし、超音波(光音響波)が発生する。この超音波を受信し解析することで、光吸収率の大きな部分が、生体内の機能情報として画像化される。
【0004】
従来から、超音波を生体に対して送波し、反射してきた超音波を解析することで、生体内の構造を画像化する超音波診断装置が医療現場で運用されている。
超音波診断装置では、生体に対して送波した超音波が、生体内での音響インピーダンスの異なる境界面で反射する。この反射波を解析することで、音響インピーダンスの異なる境界面が生体内の形態情報として画像化される。
【0005】
前述の光音響波測定装置、および超音波診断装置は、超音波の発生原理は異なるものの、超音波を検知し、受信信号を画像化する過程において類似点が多く共通の課題も多い。両装置共に、超音波を電気信号に変換する検出器として、超音波探触子を備えている。
【0006】
近年、複数の受信素子が2次元的に配列された2次元アレイ超音波探触子が実用化されている。2次元アレイ超音波探触子においては、2次元配列素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を検出することができるため、超音波検出時間が大幅に短縮されている。
【0007】
現在では、検査精度向上のため、高精細化の要求がますます高度になっている。高精細化を実現するため、超音波探触子を構成する素子数は増加の一途をたどっており、その中で欠陥数がゼロの超音波探触子を作る事が困難となってきている。さらに、超音波探触子を構成する数多くの受信素子の中には、生産時には正常素子であっても、使用環境や経年劣化によって、所望の受信感度が得られなくなった素子(便宜上不良素子と呼ぶ)が現れることがある。
【0008】
上記の不良素子位置においては、超音波信号が極端に小さな値、もしくは検知できない状況となる。そのような場合、そのまま超音波画像を形成すると、輝度情報が欠落した虫食い画像や、アーチファクトが生じた画像が形成される一因となってしまうことが知られている。
【0009】
超音波診断装置の場合においては、上記のように超音波測定データが欠落すると、欠落した部分に微細なサイズの病巣や兆候が存在していても、画像化されない。その結果、医師および技師が病変を見逃してしまう恐れがある。
【0010】
以上の懸念から、超音波探触子は、正確な超音波画像を形成するために、探触子を構成する各素子が正常に機能しているか、定期的な試験によって確認する必要があった。このような課題に対処するため、超音波探触子の各素子を駆動し、超音波を送受信することで各素子の特性を評価し、超音波診断の可否を判定するシステムも提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−257793号公報
【特許文献2】特開2009−178262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の特許文献2に記載された装置によれば、2次元アレイ超音波探触子に備えられた複数からなる素子の特性を評価し、その探触子を用いて超音波診断の可否を判定することが可能となっている。
しかしながら、特許文献2においては、不良素子の数や分布の表示方法、および超音波診断の可否を判定する方法が示されているのみである。特許文献2では、判明した不良素子の数や分布を利用して、不良素子位置における超音波信号を補完する方法については言及されていない。
【0013】
通常、超音波探触子の不良素子部分においては、近傍の正常な素子で受信した測定値を引用し、バイリニアやメディアンフィルタを用いるなどして数学的に補間するのが一般的である。
【0014】
しかし、隣接する受信素子が不良素子として連続している場合においては、上記の単純なデータ補間では正確な補間は困難である。また、超音波探触子の受信特性には指向性があるため、上記のように不良素子が連続している場合に単純補間を行うと、本来はその不良素子位置では検出されないはずの受信信号が算出されてしまうことがある。
【0015】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単純補完処理が困難な場合においても、探触子に不良素子があることによる情報の欠落を精度よく補完することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、被検体を伝搬した弾性波を受信する複数の受信素子を2次元的に配列した探触子と、前記探触子に配列された複数の受信素子のうち、受信感度が所定の閾値以下の受信素子の位置および受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子の位置の少なくともいずれかを記憶する記憶装置と、被検体に対する前記探触子の測定位置を移動させる駆動手段と、前記駆動手段が前記探触子を第一の測定位置から移動させる先の第二の測定位置に基づく移動情報を作成する作成手段と、前記作成手段が作成した前記移動情報に従って前記駆動手段が前記探触子を移動させた各測定位置で測定された弾性波から被検体情報を取得する信号処理手段と、を有し、前記作成手段は、被検体上の位置のうち、前記第一の測定位置またはそれ以前のいずれの測定位置における測定でも受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子で測定される被検体上の位置が、前記第二の測定位置では受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子で測定されるように前記移動情報を作成することを特徴とする測定装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、単純補完処理が困難な場合においても、探触子に不良素子があること
による情報の欠落を精度よく補完することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1における光音響波測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施形態1における探触子の受信特性の説明図。
【図3】実施形態1における補完移動量算出工程を示すフローチャート。
【図4】実施形態1における光音響波測定の工程を示すフローチャート。
【図5】実施形態2における光音響波測定装置の構成を示すブロック図。
【図6】実施形態2における光音響波測定の工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。以下の実施形態では、本発明の測定装置は被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した弾性波を受信して、被検体情報を取得する光音響効果を利用する光音響波測定装置であるが、これに限られない。つまり、本発明の測定装置は、被検体に弾性波を送信し、被検体内部で反射した弾性波(反射した弾性波)を受信して、被検体情報を取得する超音波エコー技術を利用した装置を含む。なお弾性波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、音響波、光音響波と呼ばれる弾性波を含む。本発明では、このようにして弾性波測定が行われる。
【0020】
前者の光音響効果を利用した装置の場合は、取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布、被検体内の初期圧力分布、あるいは初期圧力分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。後者の超音波エコー技術を利用した装置の場合、取得される被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報である。
【0021】
(実施形態1)
まず、図1を参照しながら本実施形態にかかる光音響波測定装置の構成を説明する。本実施形態の光音響波測定装置は、被検体の内部の情報を画像化する光音響イメージング装置である。被検体が生体の場合、光音響波測定装置は、悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的として、生体情報(被検体情報)の画像化を可能とする。
【0022】
(光音響波測定装置)
本実施形態の光音響装置は、ハードウェアの基本的な構成として、レーザ光源100、光学系101、探触子104を有する。レーザ光源100は、被検体にパルス光を照射するための光源である。以下、被検体の計測時について説明する。
【0023】
生体などの被検体(不図示)は、レーザ光源100および光学系101と、探触子104との間に固定される。光源からのパルス光は、例えばレンズ、ミラー、光ファイバなどの光学系101によって、被検体表面に導かれ、拡散パルス光となり被検体に照射される。被検体の内部を伝播した光のエネルギーの一部が血管などの光吸収体に吸収されると、その光吸収体から熱膨張により音響波(典型的には超音波)が発生する。すなわち、パルス光の吸収により、光吸収体の温度が上昇し、その温度上昇により体積膨張が起こり、音響波が発生する。このときの光パルスの時間幅は、光吸収体に吸収エネルギーを効率に閉じ込めるために、熱・ストレス閉じ込め条件が当てはまる程度にすることが好ましい。典型的には1ナノ秒から200ナノ秒程度である。
【0024】
音響波を検出するための探触子104は、音響波を検出する複数の受信素子からなる検出器である。検出器は、被検体内で発生し伝搬してきた音響波を検出し、アナログ信号で
ある電気信号に変換する。この検出器から取得される検出信号は「光音響信号」ともいう。
【0025】
信号処理部108は、この光音響信号から被検体内部の情報を取得する。信号処理部108は、探触子104から取得した光音響信号を、受信アンプによって増幅し、A/Dコンバータによってデジタル信号としての光音響信号に変換する。信号処理部は、このデジタル信号に対して画像再構成処理を施し、三次元情報を取得する演算処理を行って画像データとし、画像表示部109に送る。そして、画像表示部109は三次元情報を表わす画像データを受信し、被検体の光音響像を表示する。画像を形成する際には、被検体上の位置から得られた光音響信号の強度値、すなわち弾性波強度値を求める。また、装置の全ての要素はシステム制御部110によって制御されている。
【0026】
なお、ここで言う画像データとは、画像を生成する元となり得る数値データのことを指す。したがって、必ずしも画像データから画像を生成する必要はなく、数値データのまま情報処理を行っても構わない。
【0027】
以降の説明では、特に断りのない限り、被検体にパルス光を照射し、光音響波を発生させ、これを探触子で受信し、信号処理部でデジタルの光音響信号として取得するまでの処理を、撮影と表記する。また、上記の撮影を含み、複数回の撮影を経て最終的に画像表示部にて被検体の光音響像を表示するまでの処理を、測定と表記する。
【0028】
(光源)
被検体が生体の場合、光源からは、生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射する。光源としては数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源が好ましい。光源としてはレーザが好ましいが、レーザのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なレーザを使用することができる。
なお、本実施の形態においては、単一の光源の例を示しているが、複数の光源を用いても良い。
【0029】
(探触子)
検出器(探触子)104は、音響波を検知し、電気信号に変換するものである。生体から発生する光音響波は、100KHzから100MHzの超音波である。そのため音響波検出器104には上記の周波数帯を受信できる超音波検出器が用いられる。圧電現象を用いた超音波検出器、光の共振を用いた超音波検出器、容量の変化を用いた超音波検出器など、音響波信号を検知できるものであれば、どのような音響波検出器を用いてもよい。
【0030】
本実施形態の検出器104は、複数の受信素子が2次元的に配列されたものである。このような2次元配列素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を検出することができ、検出時間を短縮できると共に、被検体の振動などの影響を低減できる。また、音響波検出器104と被検体との間には、音響波の反射を抑えるために、ジェルや水などの音響インピーダンスマッチング剤を使うことが望ましい。
【0031】
(記憶装置)
本実施形態の光音響波測定装置は、記憶装置102を有する。記憶装置102は、例えばEEPROM(登録商標)のような不揮発性メモリであって、電源を切った状態でも情報を保持できるものであることが望ましい。記憶装置102として不揮発性メモリを用いれば、装置の各種パラメータなど、電源を切っても記憶させておきたい情報を記憶しておくことができる。例えば、後述する素子欠損情報、取得信号、補完移動量リスト、閾値情報および補完優先設定情報などを記憶することができる。
【0032】
(素子欠損情報)
素子欠損情報は、探触子104の受信素子のうち、感度が所定の閾値以下である不良素子を特定するための情報である。この素子欠損情報は記憶装置102に記憶されている。つまり、素子欠損情報は、探触子104の不良素子位置を特定することができる情報である。例えば、全受信素子の順に並べられた数値配列であって、不良素子位置であれば1、不良素子でなければ0が対応するようなビット列である。素子欠損情報は、不良素子位置が特定できれば良いので、任意の座標系で表現された座標値であっても良いし、各素子にIDを割り振ったもので、不良素子位置のIDを羅列したリストであっても良い。したがって、素子欠損情報は、不良素子の位置を表わす不良素子位置情報だと言える。なお不良素子とは、受信感度が所定の閾値以下の素子を便宜上呼ぶものである。また、素子欠損情報の代わりに、感度が所定の閾値よりも大きい素子の位置を特定するための情報が記憶装置102に記憶されていてもよいし、その情報と素子欠損情報との両方を記憶していてもよい。
【0033】
通常の装置においては、生産時に探触子104の素子欠損情報が書き込まれている。生産時において、実際に探触子104の受信素子ひとつひとつについて受信感度測定を行うなどして、前記素子欠損情報を取得することが可能である。
【0034】
(補完処理制限パラメータ)
上述のように、不良素子位置における光音響波受信データを補完するために、補完処理を行うと、測定時間が余計にかかるという課題がある。本実施形態の光音響波測定装置では、この課題を緩和するために、補完処理にかかる時間を制限するためのパラメータを設ける。このパラメータは、例えば、測定時間そのものを規定する測定時間上限、補完処理のために再撮影する補完処理回数上限値、再撮影する度に移動させる探触子の補完移動量上限値、不良素子によるデータ欠損を許容するデータ欠損許容量、などが挙げられる。補完処理制限パラメータは、上記のうち少なくとも1つ以上を備えているものとする。
【0035】
また、本実施形態においては、上記の補完処理制限パラメータを任意に設定するために、パラメータ設定手段111を有する。パラメータ設定手段111は、例えば装置に接続したコントロールパネルや、シリアルコンソールなど、一般的なユーザインタフェースによって、使用者が各種パラメータを設定可能となっている。
続いて、それぞれの補完処理制限パラメータについて説明する。
【0036】
((測定時間上限))
測定時間上限は光音響波の測定にかかる時間を規定するパラメータである。本実施形態においては、光音響波測定を開始してから、補完処理も終わり、超音波画像が再構成されて表示手段109に画像表示されるまでの時間を規定する。
また、別の時間指定として、複数回の撮影と移動を繰り返す補完処理にかかる時間を規定するパラメータであっても良い。この場合、名称を、補完処理時間上限、としても良い。
【0037】
((補完処理回数上限値))
補完処理回数上限値は、不良素子のために、測定できなかった部分を再測定するための補完処理を行う回数を規定するパラメータである。補完処理を行う回数を規定することで、測定時間を短縮する。
【0038】
((補完移動量上限値))
補完移動量上限値は、補完処理のために探触子を移動させる量を算出する工程において、最大移動量を規定するパラメータである。最大移動量を規定することで、比較検討する
素子移動の組み合わせを制限し、算出時間を短縮するものである。本パラメータは、探触子の補完移動において、距離を指定するものであっても良いし、移動させる素子数を指定するものであっても良い。本パラメータによって、一度の補完処理での移動量も制限されるので、探触子の移動に伴う時間消費も抑えることができる。
【0039】
((データ欠損許容量))
データ欠損許容量は、不良素子によって、測定データに欠けができる量を規定するパラメータである。該許容量は、データ欠損部分の箇所数であっても良いし、全測定データにおけるデータ欠損の割合であっても良い。あるいは、データ欠損に関して、所定の重み付けを行った評価値を規定する閾値であっても良い。例えば、素子の位置に応じて重み付けを行い、不良素子に基づく測定データが画像形成に用いられるときは、それらの不良素子の重み付けの総和を求めても良い。今までの測定位置で不良素子のみによって測定された被検体上の部位の箇所数などが、これらのデータ欠損許容量を下回った場合、それ以降の測定を制限することができる。
以上、補完処理制限パラメータについて説明した。
【0040】
(補完優先設定情報)
超音波探触子には指向特性があるため、受信素子位置によって、超音波画像の画質に影響を与える度合いに違いがある。以下、図2を用いて、探触子の受信特性と、それから導かれる補完優先設定情報についての説明を行う。
【0041】
図2は、探触子の受信素子面を受信面正面から見た図である。探触子エッジ端203は、探触子の受信素子がある領域の境界線である。注目素子200は、探触子の端に位置し、探触子エッジ端203に接する受信素子である。ここで、音源1(201)、音源2(202)は、共に受信素子の開口方向で、十分離れた場所に位置する光音響波源(音源)であると仮定する。また、各素子の指向特性については、被検体内のある点に位置する音源からの音響波を取得できるのは、音源直下の受信素子を中心とする9素子であると仮定する。
【0042】
ここで、注目素子200の直上(注目素子200における、受信面に対する法線上)の音源1(201)の超音波強度値につき検討する。図2において、探触子エッジ端203より上の部分には受信素子が無いため、音源1からの信号を取得できない。そのため、正確な音源位置が特定できず、超音波画像を形成した際に、アーチファクトが生じやすい。同様に、探触子エッジ端より外側に位置する音源2(202)から発生する超音波も、注目素子200を含む3つの受信素子だけで受信してしまうため、超音波画像を形成した際に、アーチファクトを引き起こしやすい。
【0043】
つまり、探触子のエッジ端に近い場所に位置する受信素子においては、正確な補完を行っても画質改善に寄与しにくい傾向にあるといえる。逆に、探触子の内側に位置する不良素子があった場合、影響を与える素子が多い。そのため、探触子エッジ端よりも探触子内側に位置する受信素子の欠損の方が、画質に影響を与えやすいことが分かる。
【0044】
以上のことから、本実施形態においては、探触子の各受信素子について、補完の優先度を規定するための補完優先設定情報を設ける。具体的には、探触子の各受信素子について、プライオリティ値(優先度)によって重みづけを行う。探触子の各受信素子のプライオリティ値は、受信開口サイズなどの設計値によって、ひとつひとつ導きだすことができる。
【0045】
また、補完優先設定情報は、上記プライオリティ値を導き出すための元となる情報であっても良い。例えば、優先度による受信面のエリア区分を、探触子エッジ端からの素子数
で規定(エリア区分パラメータ)し、各エリアにおける優先度(プライオリティ)を規定することで、目的を達成するパラメータを指定できる。例えば、各素子の指向特性から、互いに影響しあう素子範囲が、周囲8方向に2素子分の領域であるとする。このとき、上記エリア区分パラメータはエッジ端から2素子、プライオリティは、外周側が2、内周側が3、などと規定することで、探触子外周2素子幅の領域と、その内側とで優先度の設定ができる。
【0046】
以上のように補完優先設定情報が確定すると、後述の探触子補完移動量算出処理において、補完移動量を評価するにあたり、補完優先設定情報で重みづけを行うことができる。その結果、画質に影響を与える不良素子を優先的に対処する補完移動量の導出が可能となる。
【0047】
(駆動手段)
また本実施形態の装置は、探触子を任意の測定位置に移動するための駆動手段を有する(探触子駆動部105)。特に、本実施形態の場合は、探触子の駆動移動は、探触子駆動部105が駆動手段に相当する。
【0048】
(補完移動量算出部)
本実施形態における測定装置では、不良素子による超音波データ欠損を補完するために、探触子を相対的に移動させて再撮影を行う。そこで、補完移動量算出部103において、補完のための探触子移動量を求める。本算出部では、上述の素子欠損情報、補完処理パラメータ、優先補完設定情報に基づいて補完移動量を算出し、補完移動リストを生成する。補完移動リストの算出方法の詳細は後述する。
【0049】
(補完データ加算部)
本実施形態においては、探触子を相対的に移動させて再撮影して得られたデータを、データ欠損部からのデータを含む超音波強度値に加算する必要がある。そのために本実施形態の装置は、補完データ加算部106を備える。補完データ加算部106は、補完移動量から、再撮影時に補完データを取得した正常素子位置(最初の測定時における不良素子位置)を逆算する。そして、再撮影時に取得した超音波強度値を、該当するデータ欠損部に加算すべき超音波強度値として加算処理する。
【0050】
(補完移動量算出工程)
補完移動量の算出は、原則として、光音響波測定を行っていないうちに終了させておくことが好ましい。以下に、図3のフローチャートを用いて、本算出工程の説明を行う。
前提として、本実施形態においては、補完処理制限パラメータとして、補完処理回数上限値、補完移動量上限値、データ欠損許容量が指定されているものとする。
【0051】
また、補完優先設定情報も設定されているものとする。本実施形態では、補完優先設定情報は、受信素子の位置ごとにプライオリティ値が設定されたものであって、数値が大きいものほど優先度が高いものとする。
【0052】
まず、初回撮影時のデータ取得領域の予測情報を作成する(S301)。ここで、データ取得領域の予測情報は、各受信素子において、すでにデータが取得できているか否かが表現できるものならばよい。具体的には、全受信素子分の配列であって、受信位置が1、非受信位置が0であるような情報であっても良い。最初の撮影時のデータ取得状況は、素子欠損情報を反転させた結果になるはずである。
【0053】
また、データ取得領域の予測情報については、変動値であるので、格納先は前記の記憶装置102のような不揮発性メモリである必要はなく、不図示ではあるが、DRAMのよ
うな、揮発性メモリであっても良い。
【0054】
次に、補完移動回数を確認する(S302)。補完移動回数が上限値に達している場合は、処理を終了する。
一方、補完移動回数が上限値に達していなければ、次に、補完のための探触子移動量を算出するループに入る。
補完のための探触子移動量を算出する際には、不良素子連続箇所のうち、最大連続箇所を探し出し、探触子がこれに対応して移動するよう、移動量を算出していく。
【0055】
まずは探触子横方向における、不良素子(素子抜け)が連続する不良素子連続箇所のうち、最大連続箇所を抽出する(S303)。
ここで、不良素子の最大連続箇所の評価については、各不良素子について、プライオリティ値を掛け合わせた総和の値を比較し、評価する。よって、抽出される最大連続箇所は、優先度によって重み付けされた結果、最優先に補完すべき不良素子連続箇所が導出される。
このとき、連続箇所が見つかったら、縦方向への移動量を仮決めする(S304)。
【0056】
次に、同様の処理によって縦方向の不良素子連続箇所(素子抜け最大数)を導出する(S305)。同様に、連続箇所が見つかったら、横方向への移動量を仮決めする。(S306)。
【0057】
次に、縦横ともに不良素子の連続箇所を持たないかどうかが判断される(S307)。縦横ともに連続箇所を持たない場合、後述のように所定の移動量が設定される。
【0058】
一方、縦横の両方、またはいずれかに不良素子の連続箇所がある場合、移動量算出ループを続行する。
仮決めした移動量に基づき、素子欠損情報をシフト移動させ、01反転したテーブルを求める。これにより、探触子を移動した後の不良素子と正常素子の位置がわかる。このテーブルと、データ取得領域の予測情報(探触子を移動する前の不良素子と正常素子の位置情報)とを用いて、探触子移動後の撮影によっても未だ補完されない素子位置リストを作成する。
この補完されない素子位置リストに、補完優先設定情報で規定されたプライオリティ値を掛け合わせ、補完移動の評価値を算出する(S308)。このとき、先程求めた、縦横の最大連続箇所にあたる素子位置のプライオリティ値を1、増分して計算する。こうすることで、縦横に連続する不良素子領域が比較的優先されて補完されるような補完移動量が算出されやすくなる。
【0059】
引き続き、縦横の移動量と評価値を、上述の補完移動量上限値の範囲で求める。これらの組み合わせで、補完移動の評価値が最小となるような補完移動量を求め(S309)、補完移動量を移動順につづった情報である補完移動量リストに追加し、以前の該補完移動量リストを更新する(S310)。なお、補完移動量リストは、探触子の測定位置に基づく移動情報を連続的に記載できるものであれば、どのようなデータ形式でも構わない。
【0060】
次に、決定した補完移動量をもって、素子欠損情報の値をシフトさせ01反転したテーブルを作成し、データ取得領域予測を更新する(S311)。
【0061】
上記S301からの処理を、前述の補完処理回数上限値までの範囲の回数行い、補完移動量の算出を終える。
【0062】
ここで、S307において、縦横共に連続箇所なし、という判定が成立した場合におい
ては、縦、または横に1素子分移動するだけで、全ての素子位置の補完が完了できることがわかる。よって、縦0素子、横1素子分の移動量で補完移動量リストを更新する(S313〜S315)。
【0063】
また、補完移動の評価値が、許容値以内であった場合においても、補完移動量算出処理を終了する(S312)。これにより、補完処理にかかる時間が短縮される。
【0064】
(測定の流れ)
本実施形態の光音響波測定装置における、光音響波測定の流れを図4のフローチャートに沿って説明する。
前提として、補完移動量リストは算出済みであるとする。
【0065】
記憶装置102内の、データ取得領域情報は、測定範囲において信号が取得できた場所を記録していく情報である。データ取得領域情報の内容は、測定範囲のうち探触子範囲内に関して、探触子の受信素子の位置ごとに、測定できたかどうかを記録していくものである。本実施形態では、光音響測定できたところを1、不良素子などの関係で測定できなかったところを0、で記載した配列である。該リストの初期値は、全部の素子について0が記録された状態である。
【0066】
測定を開始すると、探触子駆動部が探触子を測定位置に移動させる(S401)。
次に、光音響測定を行い(S402)、データ取得領域情報を更新し(S403)、取得できたデータを測定結果のリストに加算する(S404)。続いて、補完移動量リストを参照して、第一の補完移動量を取得し、該移動量の分だけ、探触子をオフセット移動させる(S405)。
【0067】
続いて、再度、光音響測定を行い(S402)、補完測定できた場所情報で、データ取得領域情報を更新する(S403)。取得データを、補完データ加算部106において、前記補完移動量に基づいてシフト移動させて記録する(S404)。
【0068】
これにより、第一の測定位置では不良素子で測定された被検体上の位置のうち、第二の測定位置では正常素子で測定された被検体上の位置については、素子抜けを補完できたデータが反映される。
移動前の測定位置を第一の測定位置とし、移動後の測定位置を第二の測定位置とすると、補完移動量リストに従って移動を行うたびに、前回の第二の測定位置が、次回の第一の測定位置になる。これを繰り返すことにより測定が完了する。
【0069】
このとき、各素子位置における光音響波撮影回数を記録するのであれば、全素子位置のデータを記録しても良いし、撮影回数を記録しない構成であれば、補完測定できた場所のデータだけ加算して記録する。
【0070】
以降、補完処理回数上限まで、S402からS405を繰り返し、取得できた全信号データを画像再構成処理にかけて画像データを生成し、画像表示部109にて画像を表示する。
【0071】
以上の方法によれば、光音響波測定において、不良素子に起因する超音波データ欠損を、補完処理によって補完し、より好適な再構成画像を表示することができる光音響波測定装置を提供できる。また、前記補完処理制限パラメータによって、補完処理内容そのものの適用回数を規定することで撮影処理にかかる時間を短縮し、補完優先設定情報を備えることによって、限られた撮影時間内で、より好ましいデータ補完を行う光音響波測定装置となる。
【0072】
(実施形態2)
図5に示す本実施形態のシステムのブロック図と、図6に示す撮影シーケンスのフローチャートを参照しながら、本実施形態にかかる光音響波測定装置の構成および制御方法を説明する。
【0073】
図5に示すように、本実施形態で示す光音響波測定装置は、実施形態1の装置に対して、素子欠損検出部401を加えたものである。
【0074】
図6のフローチャートについて、実施形態1で参照した図4との違いを中心に説明する。
本実施形態における光音響波測定装置は、素子欠損検出部401において不良素子の検知を試み(S601)、素子抜けの有無を判断する。従来の素子欠損情報と比較して新たな素子欠損が発生しているか確認を行う(S602)。
【0075】
素子抜けがあった場合、素子欠損情報を更新する(S603)。素子欠損情報は、例えば素子抜けテーブルとして記憶装置102に記憶されている。以前のテーブルと比較して新たな素子欠損が発生していたら、実施形態1における補完移動量算出工程を実施し、補完移動量リストを更新する(S604)。
【0076】
(素子欠損検出部)
以下、素子不良検出の方法について記載する。
素子欠損検出部401は、探触子104を構成する受信素子毎に、所定の受信感度があるかを判定し、不良素子を検出する。素子欠損検出部が新たな不良素子を検出した際には、素子欠損情報を更新する。
【0077】
不良素子の検出方法は、探触子104で受信した光音響波の強度値に基づいても、探触子104の各素子における抵抗値に基づいても、探触子104の各素子におけるバイアス電流値に基づいて判定を行ってもよい。以下、それぞれの方法について述べる。
また、本実施形態の光音響波測定装置は、不良素子を判定するための不良判定閾値を記憶装置102に記憶している。
【0078】
(受信強度値に基づく不良素子判定)
探触子104の各受信素子で受信した光音響波は、信号処理部108を介してデジタルの光音響波信号となる。素子欠損検出部は、前記デジタルの光音響波信号について、所定の強度閾値以下の不良素子を検出する。
この場合、不良判定閾値は、所定の光音響波信号強度値となる。
【0079】
このとき素子欠損検出部が受信する光音響波は、レーザ光源100を照射し、探触子104の表面にレーザ光が当たることで発生したものでも良い。あるいは、被検査対象の設置位置に判定用の部材を配置して、そこに光を照射し、光音響波を取得しても良いし、被検査対象に光を照射した測定データを用いても良い。
【0080】
上記の判定用の部材とは、レーザ光に対して透過性をもっていて、かつ光音響波を減衰させない音響特性であって、内部に既知の配置で光吸収体が配置されているようなものが好ましい。例えば球状の黒鉛が埋め込まれたウレタン樹脂などが良い。
【0081】
(抵抗値に基づく不良素子判定)
探触子104を構成する各素子に電流を流し、各素子におけるインピーダンスを測定し、所定のインピーダンス値以下の素子を検出した場合は、不良素子と判定する。
この場合、不良判定閾値は、所定のインピーダンス値となる。
【0082】
(バイアス電流に基づく不良素子判定)
これは、超音波探触子の受信素子が、1対の電極と、振動膜で形成されている場合の判定方法である。この場合、まず、第一の電極に交流電圧を印加し、第二の電極から出力される電流値を受信素子毎に検出し、所定の不良判定閾値以下の受信素子を不良素子として検知する。
【0083】
上記構造の受信素子については、具体的には、CMUTのような、容量の変化を用いたデバイスがそれに当たる。
この場合の不良判定閾値は、所定のバイアス電流値となる。
【0084】
以上、いずれかの方式で不良素子判定を行い、新たな不良素子を検出する。
【0085】
上述の制御方法をとれば、探触子の経年劣化に伴い、自動的に不良素子を発見し、データ欠損の少ない良好な診断画像を構成可能な光音響波測定装置を提供できる。
【0086】
以上の実施形態においては、補完処理制限パラメータを用いて測定に制限を加えるので、画像再構成において、不良素子により測定された超音波に基づく強度値が存在する可能性がある。そこで、画像を形成する前に、不良素子により測定された値を、近傍の正常素子により測定された値を用いた補間処理により得られた値で置き換えても良い。
補間をするに当たっては、近傍の正常な素子で受信した測定値によるバイリニアやメディアンフィルタを用いた数学的な補間処理など、既知の方法を利用できる。
【0087】
以上の実施形態においては、超音波測定装置は光音響波測定装置であるものとして説明を行った。しかし本発明は超音波の受信素子を配列された探触子を持つ装置に適用可能であり、例えば超音波診断装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
102:記憶装置,103:補完移動量算出部,104:探触子,105:探触子駆動部,106:補完データ加算部,108:信号処理部,111:パラメータ設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を伝搬した弾性波を受信する複数の受信素子を2次元的に配列した探触子と、
前記探触子に配列された複数の受信素子のうち、受信感度が所定の閾値以下の受信素子の位置および受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子の位置の少なくともいずれかを記憶する記憶装置と、
被検体に対する前記探触子の測定位置を移動させる駆動手段と、
前記駆動手段が前記探触子を第一の測定位置から移動させる先の第二の測定位置に基づく移動情報を作成する作成手段と、
前記作成手段が作成した前記移動情報に従って前記駆動手段が前記探触子を移動させた各測定位置で測定された弾性波から被検体情報を取得する信号処理手段と、
を有し、
前記作成手段は、被検体上の位置のうち、前記第一の測定位置またはそれ以前のいずれの測定位置における測定でも受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子で測定される被検体上の位置が、前記第二の測定位置では受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子で測定されるように前記移動情報を作成することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記作成手段は、前記移動情報を所定のパラメータによる制限に従いながら繰り返し作成するものであり、
前記所定のパラメータによる制限とは、前記駆動手段が前記探触子を移動させる回数が所定の上限値に達した場合に測定を終了すること、前記第一の測定位置と前記第二の測定位置の間の移動を所定の移動量に収めること、弾性波測定の開始から終了までの時間を所定の上限値に収めること、および、前記第一の測定位置またはそれ以前のいずれの測定位置における測定でも受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子で測定される被検体上の位置の数または割合に対応する値が所定の許容量を下回った場合に測定を終了すること、のうち少なくともいずれかを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記第一の測定位置において受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子が縦または横に連続している連続箇所を抽出する抽出手段をさらに有し、
前記作成手段は、前記連続箇所の大きさに応じて、当該連続箇所の評価値を求め、当該評価値が高い連続箇所が、受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子によって優先的に測定されるように、前記移動情報を作成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記複数の受信素子は、前記探触子のうち外周に位置する受信素子ほど低くなるように優先度を設定されており、
前記作成手段は、前記優先度を用いて受信素子ごとに重み付けをした上で、抽出した連続箇所の評価値を求める
ことを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記探触子の各受信素子の受信感度を検出する検出手段をさらに有し、
前記検出手段は、受信素子の受信感度が前記所定の閾値以下であることを検出した場合、前記記憶装置に記憶されている受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子の位置を更新する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
弾性波測定が終了した後に、いずれの測定位置における測定でも受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子で測定されていた被検体上の位置が存在する場合、前記信号処理手段は、当該受信感度が前記所定の閾値以下の受信素子で測定されていた被検体上の位置の近
傍の、受信感度が前記所定の閾値より大きい受信素子により測定されていた被検体上の位置から発せられた弾性波に基づく弾性波強度値を用いた補間により弾性波強度値を求めることを特徴とする請求項2に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−110416(P2012−110416A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259911(P2010−259911)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】