説明

測距装置

【課題】防振機能付き測距装置の低コスト化を図ること。
【解決手段】測距装置1は、目標物体に向けレーザ光L1を投射する送信光学系10と、目標物体で反射した反射レーザ光L2を受光素子34により受光する受信光学系30とを備える。手ブレなどで光軸2,4が傾いたとき、送信光学系10に配設された防振レンズ14を駆動機構42によりM1のように変位させて光線を偏向する。駆動機構42に連動して受信光学系30に配設された防振レンズ32を駆動機構43によりM2のように変位させるが,M2はM1よりもラフな動作とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物体までの距離を測定する測距装置、特に手持ちで使用される測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測距装置としては、レーザ光を目標物体に投射した時と目標物体からの反射レーザ光を受光した時との時間差から、目標物体までの距離を測定するものが知られている。手持ちの測距装置では、手ブレのために光学系の光軸が傾いてしまい、目標物体に対して継続的にレーザ光を当てることが難しくなる。従来、手ブレによる光軸の傾きを補正するために、送信部および受信部の光学系を構成する光学素子をジンバルを介して装置本体に固定するようにしたレーザレンジファインダが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−101342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のレーザレンジファインダでは、一つのジンバルが送信部の光学素子も受信部の光学素子も収納しているため、受信部の防振性能も高いが、ジンバル自体が重く大型化し、且つ製造コストも上昇してしまう。一方、他の方法においても、受信部の防振機構と送信部の防振機構と同等の性能のものを使用すると、防振機構に費やすコストは単純に倍近いものとなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明による測距装置は、目標物体に向け信号光を投射する送信光学系と、信号光が目標物体で反射した反射光を受光素子により受光する受信光学系とを備え、信号光の投射から反射光の受光までの時間に基づいて目標物体までの距離を測定する測距装置において、送信光学系に、目標物体に対する光軸の方向の変動に応じて光線を偏向する防振動作を行う第1の防振機構を設け、受信光学系に、前記第1の防振機構よりも精度の低い防振動作を行う第2の防振機構を設けたことを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載の測距装置において、第2の防振機構は、反射光を受光素子が受光可能な範囲まで精度の低下を許容して動作することを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載の測距装置において、目標物体を視準する視準光学系をさらに備え、視準光学系および送信光学系は、これら2つの光学系を分離する分岐光学素子の目標物体側において光軸の一部を共用する合成光学系を構成し、合成光学系に第1の防振機構を設けたことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測距装置において、第1の防振機構は、送信光学系に配設された第1の光学素子を駆動する第1の駆動機構を有し、第2の防振機構は、受信光学系の光路上に配設された第2の光学素子を駆動する第2の駆動機構を有することを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測距装置において、送信光学系に配設された第1の光学素子と受信光学系に配設された第2の光学素子とを機械的に連結し、第1の防振機構は、第1の光学素子を駆動し、第2の防振機構は、第1の防振機構に機械的に連結されて第2の光学素子を駆動することを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項4または5に記載の測距装置において、第1および第2の光学素子は、駆動により光軸と垂直方向に変位する光学素子であることを特徴とする。
(7)請求項7の発明は、請求項4または5に記載の測距装置において、第1および第2の光学素子は、駆動により入射面と射出面とのなす角である頂角の角度を変える可変頂角プリズムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の測距装置によれば、受信光学系の防振動作を送信光学系の防振動作に追随して動作するようにし、一方、受信光学系の防振機構に精度の低いものを使用することで、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態による測距装置について、図1〜6を参照しながら説明する。
〈第1の実施の形態〉
図1は、本発明の第1の実施の形態による測距装置1を模式的に示す構成図である。図1(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図1(b)は、図1(a)のI−I面を光軸方向から見た図である。図1(a)ではXYZ直交座標で方向を表し、図中Z方向に目標物体があるものとする。
【0008】
図1(a)に示されるように、測距装置1には、Y方向に延びる光軸1およびZ方向に延びる光軸2,3,4に沿って各光学部品が配置されている。光軸1に沿って、近赤外領域の波長のレーザ光を放射するレーザ光源11、レーザ光を集光するコンデンサーレンズ12、近赤外領域の光を反射し可視光を透過させるダイクロイックプリズム13が配置されている。光軸2に沿って、光軸2と垂直方向に動作する防振レンズ14、図中左方に存在する目標物体に対向する対物レンズ15が配置されている。
【0009】
また、光軸3に沿って、ダイクロイックプリズム13からの光を内部で複数回反射させて所定の面から射出する正立プリズム16、対物レンズ15と防振レンズ14による結像位置に置かれるレチクル17、目標物体の像を拡大する接眼レンズ18が配置されている。さらに光軸4に沿って、目標物体に対向する対物レンズ31、光軸4と垂直方向に動作する防振レンズ32、近赤外レーザ光の波長以外の光をカットする狭帯域フィルター33、近赤外レーザ光の入射により電気信号を発生する受光素子34が配置されている。
【0010】
レーザ光源11から放射されたレーザ光L1は、コンデンサーレンズ12で集光され、ダイクロイックプリズム13の反射面13AでZ方向に反射され、防振レンズ14、対物レンズ15を通って外部に送信される。ここでは、防振レンズ14として負のパワー(屈折力)を有した発散光学素子の1つである凹レンズが用いられる。レーザ光源11、コンデンサーレンズ12、ダイクロイックプリズム13、防振レンズ14および対物レンズ15は送信光学系10を構成する。
【0011】
レーザ光L1が目標物体に当って反射した反射レーザ光L2は、対物レンズ31、防振レンズ32、狭帯域フィルター33を順次通って受光素子34に入射する。受光素子34は、その入射面が対物レンズ31と防振レンズ32による結像面となるように配置される。受光素子34には反射レーザ光L2のみならず自然光による他の波長の光も入射するので、反射レーザ光L2のS/N比が低下する。そのため、狭帯域フィルター33を設けて反射レーザ光L2以外の光をカットし、反射レーザ光L2のS/N比を向上させている。対物レンズ31、防振レンズ32、狭帯域フィルター33および受光素子34は受信光学系30を構成する。
【0012】
また、目標物体からの光L3は、対物レンズ15、防振レンズ14を順次通ってダイクロイックプリズム13に入射する。光L3には、反射レーザ光L2と自然光が含まれている。反射レーザ光L2は、ダイクロイックプリズム13の反射面13AでY方向に反射され、レーザ光源11へ戻る。光L3に含まれる可視光は、ダイクロイックプリズム13の反射面13Aを透過して正立プリズム16に入射する。
【0013】
光L3による像は、対物レンズ15および防振レンズ14を通って倒立像となるが、正立プリズム16によって上下反転された正立像となる。この正立像は、レチクル17上で結像し、接眼レンズ18を通して観察(視準)される。対物レンズ15、防振レンズ14、ダイクロイックプリズム13、レチクル17および接眼レンズ18は視準光学系20を構成する。
【0014】
上述したように、ダイクロイックプリズム13は、近赤外光と可視光とを分離する分岐光学素子として作用する。ダイクロイックプリズム13の目標物体側に配置されている防振レンズ14および対物レンズ15は、送信光学系10と視準光学系20に共通して用いられている。換言すれば、送信光学系10と視準光学系20とは光軸2を共用する合成光学系40を構成する。
【0015】
測距装置1においては、レーザ光源11からレーザ光L1が放射された時刻と、受光素子34で反射レーザ光L2が受光された時刻との時間差を計測し、その計測時間から目標物体までの距離を演算する。具体的には、レーザ光L1を毎秒数100回発振するパルス光とし、レーザ光L1のパルスを放射した時刻から反射レーザ光L2のパルスを受光した時刻までの時間を計測し、時間とパルス数とのヒストグラムを作成する。そのヒストグラムにおいてピークを示す時間を決定すれば、上記の時間差が求まり、目標物体までの距離が求まる。上記演算は後述するCPU41にて行われる。
【0016】
また、視準光学系20によって計測と同時に目標物体を観察することができる。上述したように、レチクル17上に目標物体の像が形成される。例えば、レチクル17を透過型液晶板とし、液晶画面上に目標物体の像と目標物体までの距離を表示するように構成してもよい。
【0017】
ところで、防振機能を働かせないで測距装置1を振れや揺れのある状態で使用すると、例えば手持ち操作時の手ブレにより、送信光学系10、受信光学系30および視準光学系20の光軸の方向が目標物体のある方向に対して傾き、目標物体に対して継続的にレーザ光を当て続けることが難しくなる。測距においては、目標物体に当たった一瞬の光による反射光が対物レンズ31に入射した場合は、パルス数が少ないため受光素子34上に測距に十分な頻度で測定データが得られず測距エラーとなることがある。また、傾いた光軸の先に目標物体とは距離の異なる物体があった場合には、その物体からの反射光を受信し、誤った測距結果を出すこともある。
【0018】
一方、視準においては、目標物体を視準光学系20のレチクル17の中心に継続的に捉えておくことが困難となる。通常、視準光学系20は相応の倍率を有しているため、光軸2,3の傾きが拡大されて目標物体を見失う恐れもある。
【0019】
本実施の形態による測距装置1は、光軸が傾いても光学的な補正を行い、高精度の測距と安定した観察を行うことができる防振作用を有する低コストな装置である。防振機構の構成および防振作用について以下に説明する。
【0020】
測距装置1には、中央演算装置(CPU)41、防振レンズ14を光軸2と垂直方向に駆動する駆動機構42、防振レンズ32を光軸4と垂直方向に駆動する駆動機構43が設けられている。駆動機構42は接続部44を介して防振レンズ14を駆動し、駆動機構43は接続部45を介して防振レンズ32を駆動する。駆動機構42は、図1(b)に示されるように、水平方向の駆動を行う駆動部42aと垂直方向の駆動を行う駆動部42bとを有する。同様に、駆動機構43は、水平方向の駆動を行う駆動部43aと垂直方向の駆動を行う駆動部43bとを有する。防振機構は、防振レンズ14を駆動する駆動機構42および接続部44を有する第1の防振機構と、防振レンズ32を駆動する駆動機構43および接続部45を有する第2の防振機構とに便宜的に分けることができる。
【0021】
また、測距装置1には、垂直軸(X軸)回りの角速度を検出する角速度センサ46A、水平軸(Y軸)回りの角速度を検出する角速度センサ46B、および防振レンズ14のX−Y面上の位置を検出する位置センサ47が設けられている。角速度センサ46A、46Bおよび位置センサ47は、CPU41と電気的に接続されている。
【0022】
CPU41は、角速度センサ46A,46Bの角速度信号を入力し、その入力信号から光軸の傾き状態(傾斜速度、傾斜方向)を演算する。また、CPU41は、位置センサ47の位置信号を入力し、その入力信号からX−Y面上の現在の座標を演算する。これらの演算結果に基づいてCPU41から駆動機構42,43へ駆動信号が送出され、それぞれ防振レンズ14,32の変位M1,M2が制御される。変位M1,M2は光軸と垂直方向の変位である。なお、防振レンズ32にはX−Y面上の位置を検出する位置センサは設けられていないので、防振レンズ32の座標が必要なときには位置センサ47の位置信号を流用する。
【0023】
図2は、第1の実施の形態による測距装置1が傾斜したときの光学系を模式的に示す図である。図3は、第1の実施の形態による測距装置1が傾斜したときおよび防振機構が作動したときの光学系を模式的に示す図である。図2,3においても図1と同じ構成部品には同一符号を付す。
【0024】
図2,3を参照しながら、先ず測距装置1が傾斜していない場合を説明する。これは、図1について説明した内容を光学的視点から再説明するものである。実線で示す光軸1〜4のうち、光軸1はY方向、光軸2〜4はZ方向(水平線Hと同じ方向)を向いている。目標物体Oは、図中左遠方の水平線H上にある。したがって、光軸2〜4は水平線Hに平行であり、レーザ光源11から目標物体Oに向けて投射された光は常に光軸1、2に沿って進行する。目標物体Oを基準に考えると、目標物体Oからの光は、常に光軸1〜4に沿って進行する。
【0025】
レーザ光源11の点Qから発した光は光軸1に沿って進み、ダイクロイックプリズム13の反射面13Aにより反射されて防振レンズ14、対物レンズ15を通って目標物体Oに向かう。目標物体Oで反射された反射レーザ光L2は、受信光学系30の対物レンズ31に入射し、防振レンズ32を通過して受光素子34の点Rに至るとともに、対物レンズ15にも入射し、ダイクロイックプリズム13の反射面13Aで反射されてレーザ光源11の点Qへ戻る。一方、目標物体Oからの光L3に含まれる可視光は、光軸2に沿って対物レンズ15、防振レンズ14、ダイクロイックプリズム13、正立プリズム16を通り、目標物体Oの像面で光軸3上の点Pを通過して接眼レンズ18から外部へ射出する。
【0026】
次に、図2,3を参照しながら、手ブレなどにより測距装置1が傾斜し、光軸が角度θだけ傾いた場合を説明する。目標物体Oからの光は図中破線で示すように進む。送信光学系10に関しては、対物レンズ15に入射した光L3に含まれる反射レーザ光L2は、ダイクロイックプリズム13の反射面13Aで反射されてレーザ光源11の点Q´へ到達する。すなわち、対物レンズ15に入射した反射レーザ光L2は、光線A、光線Bの経路を進む。対物レンズ15に入射した可視光は、防振レンズ14、ダイクロイックプリズム13、正立プリズム16を通り、目標物体Oの像面で光軸3から外れた点P´を通過し、接眼レンズ18から外部へ射出する。すなわち、対物レンズ15に入射した可視光は、光線A、光線A’の経路を進む。
【0027】
このとき、視準光学系20の角倍率をγとすると、接眼レンズ18から射出する光線A´の光軸とのなす角度は、式(1)となる。
θ’=γθ ・・・(1)
つまり、測距装置1が傾斜していない状態に比較して角度θ’だけ光線が偏向する。γは通常6倍から20倍程度であるため、対物側での僅かな角度変化に対しても接眼側では大きな角度変化となり、手ブレ感が増幅される。
【0028】
受信光学系30に関しては、対物レンズ31に入射した目標物体Oからの反射レーザ光L2は、光軸が角度θだけ傾くため光線Cのように進み、受光素子34の延長面上の点R’に到達し、受光素子34には入射しない。したがって、目標物体Oからの反射レーザ光L2による距離データを得ることは出来ない。ここで、受光素子34の大きさを大きくすれば、光軸4に対する角度が大きい光も受光できる。しかし、受光素子34の大きさは、目標物体Oに投射した送信光を見込む角に対応する大きさ程度に止めないと、受光素子34に入射する信号光以外の所謂、背景光の影響を受けてS/N比が悪化するため好ましくない。すなわち、受光素子34の大きさには制限があり、この点からも防振手段が必要となる。
【0029】
図3は、防振機構が作動したときの光学系を説明する図である。図3には、図2に示した各光線に加え、防振機構が作動したときの光線A’’、B’’、C’’が描かれている。目標物体Oから対物レンズ15に入射した光L3に含まれている反射レーザ光L2は、防振レンズ14に到達するまでは光線Aのように進み、防振レンズ14の変位Δ1により補正されて光路が曲がる。
変位Δ1は、光軸2と垂直方向の移動である。反射レーザ光L2は、さらにダイクロイックプリズム13で反射されて光線B’’のように進み、レーザ光源11の点Qに戻る。このことは、光軸が角度θだけ傾いても目標物体Oを外さずにレーザ光を投射できることを意味する。
【0030】
また、目標物体Oから対物レンズ15に入射した光L3に含まれている可視光は、防振レンズ14の変位により補正され、光線A’’のようにダイクロイックプリズム13、正立プリズム16を通り、目標物体Oの像面で光軸3上の点Pを通過し、接眼レンズ18から外部へ射出する。すなわち、対物レンズ15に入射した可視光は、光線A→光線A’’のように進む。光線A’’の光軸3となす角度は0°に近くなり、防振効果が得られる。
【0031】
受信光学系30に関しては、対物レンズ31に入射した目標物体Oからの反射レーザ光L2は、防振レンズ32の変位Δ2により補正されて光路が曲がる。変位Δ2は、光軸4と垂直方向の移動、つまりX−Y面に沿った移動である。反射レーザ光L2は、光線C’’のように進み、受光素子34の中心近くの点Rに到達する。このことは、光軸が角度θだけ傾いても目標物体Oからの反射レーザ光は確実に受光素子34へ入射することを意味する。
【0032】
本発明の実施の形態では、防振レンズ14の変位Δ1と防振レンズ32の変位Δ2は等しくはない。但し、対物レンズ15と31、防振レンズ14と32がそれぞれ焦点距離が等しく、対物レンズと防振レンズ相互の主点間隔が等しければ、変位Δ1とΔ2を近くすると、光線A’’と光線C’’を中心に到達させることができる。その結果、部品の共通化を図ることができ、コストを安くすることができる。
【0033】
図4は、第1の実施の形態で用いられる防振レンズによる光線の偏向原理を説明する図である。防振レンズ14の焦点距離をf1とした場合、防振レンズ14がΔ1だけ変位することによって防振レンズ14からLだけ離れた像面上でP’からPへ像の移動が可能となる。P’からPへの移動距離をsとすると、式2の関係が成り立つ。
s=L・Δ1/f1 ・・・ (2)
【0034】
今、測距装置1の視準光学系20を構成する対物レンズ15と防振レンズ14の合成焦点距離をfとすると、光軸が角度θだけ傾いた場合、目標物体Oからの光線の像面上での移動距離sは式3で表される。
s=f・tanθ ・・・ (3)
式2,3より、防振レンズ14の変位量Δ1は式4で求められる。
Δ1=f・tanθ・f1/L ・・・ (4)
式4では、角度θ以外は既知量であるため、測距装置1の筐体内に納められた角速度センサ46A,46Bで角度θを検出することにより、変位量Δ1、すなわち防振レンズ14の作動量を求めることができる。
【0035】
上述した光線の偏向原理を測距装置1の受信光学系30に応用してみる。受信光学系30は、視準光学系20と異なり、目標物体Oの像を眼で観察するものではないので、視準光学系20に比較して光線の偏向の制御はラフにすることができる。すなわち、目標物体Oからの反射レーザ光L2が受光素子34に入射する限度まで許容される。受信光学系30における光線の偏向の制御は、送信光学系10に比べても精度を低くすることができる。
【0036】
今、受光素子34の大きさをY、受信光学系30を構成する対物レンズ31と防振レンズ32の合成焦点距離をFとすると、光軸が角度θだけ傾いたときに、目標物体Oからの光線が受光素子34に入射するためには、補正すべき移動量Sは式5の不等式で表される範囲であればよい。移動量Sは、受光素子34の入射面上での光線の移動距離である。
F・tanθ−Y/2≦S≦F・tanθ+Y/2 ・・・ (5)
【0037】
防振レンズ32の焦点距離をf2とした場合、防振レンズ32の変位量Δ2は、式5から導かれる式6の不等式で表される範囲であればよい。ここで,Lは防振レンズ32から像面である受光素子34の入射面までの距離である。
(F・tanθ−Y/2)・f2/L≦Δ2≦(F・tanθ+Y/2)・f2/L
・・・ (6)
このように、防振レンズ32は、式6の範囲で作動すればよく、視準光学系20や送信光学系10に比較してラフな制御で足りる。したがって、駆動機構43は、駆動機構42に較べて作動量を小さくできる。それゆえ、防振レンズ32と防振レンズ14の動きが異なる。したがって、変位M2を、変位M1に比較して量が少なく、変位速度も遅くすることができ、精度的にラフな制御が可能となる。
【0038】
具体的に数値を用いて検討する。
視準光学系20または送信光学系10の防振精度εを光軸からの像の移動量の許容値とし、防振精度εを分解力の限界以下と設定すれば、各光学系のFナンバーをFとするとき、エアリーディスクの半径から、防振精度εは次のように表される。
ε≦1.22・λ・F ・・・ (7)
一般的な例として、波長λ=555nm、F=5とすれば、防振精度εは式(7)より0.0034mmとなる。
一方、受信光学系30のFナンバーも視準光学系20または送信光学系10と同じであれば、防振精度ε自体は上と同じ値となる。しかし、受光素子34の大きさは、一般的に直径0.5mm程度であり、像はこの範囲での移動が許容されるので、像の移動量は最大0.25mmとなる。したがって、受信光学系30では、視準光学系20または送信光学系10に比較して、約74倍もの大きな許容値となる。
【0039】
本実施の形態による測距装置1は以下の作用効果を奏する。
(1)第1の防振機構で防振レンズ14を変位させ、第2の防振機構で防振レンズ32を変位させるので、それぞれの防振レンズを有する光学系に要求される適切な精度、速度で防振レンズを駆動することができる。具体的には、受信光学系30の防振レンズ32は、送信光学系10、視準光学系20の防振レンズ14に比較してラフな制御で足りる。
(2)第1および第2の防振機構の間で同期をとる必要がないので、すなわち、制御量や制御タイミングを必ずしも一致させる必要がないので、制御が簡単である。
(3)以上の結果、第2の防振機構を簡略化することができ、また、第1と第2の防振機構で厳密に使用パーツの同一性能を保持する必要がなくなるので、パーツ使用の許容範囲が広がり歩留りが向上する。また、制御プログラムの作成コストも低くなる。さらに、第1と第2の防振機構を同一駆動部材で動作させていないため、測距装置1を小型化することもできる。
【0040】
〈第2の実施の形態〉
図5は、本発明の第2の実施の形態による測距装置2を模式的に示す構成図である。図5(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図5(b)は、図5(a)のII−II面を光軸方向から見た図である。図1と同様に、図5(a)でもXYZ直交座標で方向を表し、図中Z方向に目標物体があるものとする。また、図1と同じ構成部品には同一符号を付し、説明を省略する。
【0041】
本実施の形態による測距装置2は、第1の実施の形態による測距装置1(図1参照)と光学系は同じである。測距装置2が測距装置1と構成上異なる点は次の2点である。
(a)防振レンズ14と32が機械的に連結されている。
(b)防振レンズ14と32の駆動は駆動機構48のみにて行われる。
すなわち、防振レンズ14と32は、連結部49により機械的に連結されており、駆動機構48は、連結部49を介して防振レンズ14を駆動する。防振レンズ32は、防振レンズ14の動作に追随して駆動される。これは、2つの防振機構が1つの駆動機構を共有しているとも言える。したがって光軸の傾きが生じると、防振レンズ14と32は同時に同じパターンで変位する。なお、駆動機構48は、図5(b)に示されるように、水平方向の駆動を行う駆動部48aと垂直方向の駆動を行う駆動部48bとを有する。
【0042】
このように構成された測距装置2の動作を説明する。CPU41は、角速度センサ46A,46Bの角速度信号を入力し、その入力信号から光軸の傾き状態(傾斜速度、傾斜方向)を演算する。また、CPU41は、位置センサ47の位置信号を入力し、その入力信号から防振レンズ14のX−Y面上の現在の座標を演算する。これらの演算結果に基づいてCPU41から駆動機構48へ駆動信号が送出され、防振レンズ14、32はそれぞれ変位M3、M4となるように制御される。変位M3,M4は光軸と垂直方向の変位である。上述したように、防振レンズ32は、防振レンズ14の動作に追随して駆動されるので、連結部49の振動や撓みなどの影響により変位の精度は低下する。しかし、目標物体からの反射光L2は受光素子34の中心には到達しないが、受光範囲には到達するので測距は可能である。なお、防振レンズ32にはX−Y面上の位置を検出する位置センサは設けられていないので、防振レンズ32の座標が必要なときには位置センサ47の位置信号を流用する。
【0043】
本実施の形態による測距装置2も第1の実施の形態による測距装置1と同様の作用効果を奏する。さらに、駆動機構は1つあればよいので、より一層の装置の低コスト化と小型化を図ることができる。
【0044】
〈第3の実施の形態〉
図6は、本発明の第3の実施の形態による測距装置3を模式的に示す構成図である。図6(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図6(b)は、図6(a)のIII−III面を光軸方向から見た図である。図1、2と同様に、図6(a)でもXYZ直交座標で方向を表し、図中Z方向に目標物体があるものとする。また、図1、2と同じ構成部品には同一符号を付し、説明を省略する。
【0045】
本実施の形態による測距装置3は、第1の実施の形態による測距装置1(図1参照)と光学系の一部および駆動機構が異なるだけで、その他の構成は同じである。測距装置3が測距装置1と構成上異なる点は次の2点である。
(a)防振レンズ14に代えて可変頂角プリズム50を対物レンズ15の前方に配置し、駆動機構51により可変頂角プリズム50の入射面と射出面とのなす角である頂角を変化させる。
(b)防振レンズ32に代えて可変頂角プリズム60を対物レンズ31の前方に配置し、駆動機構52により可変頂角プリズム60の頂角を変化させる。
可変頂角プリズム50,60は、蛇腹を用いて2枚の透明円板を連結し、内部を透明液体で満たしたもので、透明円板の円周にわたって頂角の位置と角度を変化させることができる。図6(b)に示されるように、駆動機構51は、水平方向の頂角の角度変化の駆動を行う駆動部51aと垂直方向の頂角の角度変化の駆動を行う駆動部51bとを有し、駆動機構52も同様に、水平方向の駆動を行う駆動部52aと垂直方向の駆動を行う駆動部52bとを有する。
【0046】
本実施の形態による測距装置3においては、手ブレなどにより光軸が傾いた場合は、可変頂角プリズム50の頂角を変えることにより、レーザ光源11から放射されたレーザ光L1を偏向させて目標物体へ向けて投射する。レーザ光源11、コンデンサーレンズ12、ダイクロイックプリズム13、対物レンズ15および可変頂角プリズム50は送信光学系10´を構成する。
【0047】
レーザ光L1が目標物体に当って反射した反射レーザ光L2は、可変頂角プリズム60から入射し、対物レンズ31、狭帯域フィルター33を通って受光素子34に到達する。光軸の傾きに応じて可変頂角プリズム60の頂角を変えることにより、反射レーザ光L2は確実に受光素子34へ導かれる。可変頂角プリズム60、対物レンズ31、狭帯域フィルター33および受光素子34は受信光学系30´を構成する。
【0048】
また、目標物体からの光L3は、可変頂角プリズム50、対物レンズ15を通ってダイクロイックプリズム13に入射する。光L3に含まれる反射レーザ光L2はレーザ光源11へ戻る。光L3に含まれる可視光は、ダイクロイックプリズム13の反射面13Aを透過し、正立プリズム16、レチクル17を通って接眼レンズ18により観察(視準)される。可変頂角プリズム50、対物レンズ15、ダイクロイックプリズム13、レチクル17および接眼レンズ18は視準光学系20´を構成する。
【0049】
可変頂角プリズム50、60は、頂角の角度がそれぞれ角度変化M5、M6となるように制御される。可変頂角プリズム60は、可変頂角プリズム50の頂角変化に倣って駆動されるので、角度変化M6は、角度変化M5に比較して角度変化の精度を低くすることができる。なお、可変頂角プリズム60には頂角の角度を検出する角度センサ55は設けられていないので、可変頂角プリズム60の頂角の角度が必要なときには角度センサ55の角度信号を流用する。
【0050】
以上のように構成された測距装置3も測距装置1と同様の作用効果を奏する。
【0051】
本発明の測距装置においては、さまざまな変形例が考えられる。
(a)第1〜第3の実施の形態では、正立プリズム16はポロプリズムであったが、正立プリズムであればダハプリズムでもよい。
(b)第1〜第3の実施の形態では、ダイクロイックプリズム13と正立プリズム16とは別部材であったが、ダイクロイックプリズム13と正立プリズム16を一体として両者の機能を併せもつ光学部材を配置してもよい。これにより、部品数が減り、測距装置のさらなる小型化を図ることができる。
(c)第1〜第3の実施の形態では、受信光学系の防振精度を送信光学系あるいは視準光学系の防振精度よりも低下させることができるが、さらに受信光学系の光学部品の寸法精度や光軸調整精度を送信光学系あるいは視準光学系よりも低くすることも可能である。これにより、部品製造、組立てなどのコストダウンを図ることができる。
(d)第3の実施の形態では、可変頂角プリズム50と60は、それぞれ駆動機構51と52により頂角の角度を変化させていたが、可変頂角プリズム50と60を機械的あるいは電気的に連結し、1つの駆動機構で両者を駆動してもよい。これにより、部品数が減り、測距装置のさらなる小型化を図ることができる。
【0052】
本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
上述した第1〜第3の実施の形態では、視準光学系を有し、目標物体までの測距と目標物体の視準の両方が可能な測距装置1〜3について説明したが、視準光学系を有さず、送信光学系と受信光学系により測距のみを行う測距装置も本発明に含まれる。また、本発明は、目標物体に向け信号光を投射する送信光学系と、信号光が目標物体で反射した反射光を受光素子により受光する受信光学系とを備え、信号光の投射から反射光の受光までの時間に基づいて目標物体までの距離を測定する測距装置において、送信光学系に、目標物体に対する光軸の方向の変動に応じて光線を偏向する防振動作を行う第1の防振機構を設け、受信光学系に、第1の防振機構による動作とは異なる動きの動作を行う第2の防振機構を設けたことを特徴とする測距装置とも言える。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る測距装置を模式的に示す構成図である。図1(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図1(b)は、図1(a)のI−I面を光軸方向から見た図である。
【図2】第1の実施の形態に係る測距装置が傾斜したときの光学系を模式的に示す図である。
【図3】第1の実施の形態による測距装置が傾斜したときおよび防振機構が作動したときの光学系を模式的に示す図である。
【図4】第1の実施の形態で用いられる防振レンズによる光線の偏向原理を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る測距装置を模式的に示す構成図である。図5(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図5(b)は、図5(a)のII−II面を光軸方向から見た図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る測距装置を模式的に示す構成図である。図6(a)は光学系の光軸に直交する方向から見た図、図6(b)は、図6(a)のIII−III面を光軸方向から見た図である。
【符号の説明】
【0054】
1〜3:測距装置 10:送信光学系
11:レーザ光源 13:ダイクロイックプリズム
14:防振レンズ 16:正立プリズム
17:レチクル 20:視準光学系
30:受信光学系 32:防振レンズ
34:受光素子 40:合成光学系
41:CPU 42,43,48,51,52:駆動機構
49:連結部 50,60:可変頂角プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物体に向け信号光を投射する送信光学系と、
前記信号光が前記目標物体で反射した反射光を受光素子により受光する受信光学系とを備え、
前記信号光の投射から前記反射光の受光までの時間に基づいて前記目標物体までの距離を測定する測距装置において、
前記送信光学系に、前記目標物体に対する光軸の方向の変動に応じて光線を偏向する防振動作を行う第1の防振機構を設け、
前記受信光学系に、前記第1の防振機構よりも精度の低い防振動作を行う第2の防振機構を設けたことを特徴とする測距装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測距装置において、
前記第2の防振機構は、前記反射光を前記受光素子が受光可能な範囲まで精度の低下を許容して動作することを特徴とする測距装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記目標物体を視準する視準光学系をさらに備え、
前記視準光学系および前記送信光学系は、これら2つの光学系を分離する分岐光学素子の前記目標物体側において光軸の一部を共用する合成光学系を構成し、
前記合成光学系に前記第1の防振機構を設けたことを特徴とする測距装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の測距装置において、
前記第1の防振機構は、前記送信光学系に配設された第1の光学素子を駆動する第1の駆動機構を有し、
前記第2の防振機構は、前記受信光学系の光路上に配設された第2の光学素子を駆動する第2の駆動機構を有することを特徴とする測距装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の測距装置において、
前記送信光学系に配設された第1の光学素子と前記受信光学系に配設された第2の光学素子とを機械的に連結し、
前記第1の防振機構は、前記第1の光学素子を駆動し、
前記第2の防振機構は、前記第1の防振機構に機械的に連結されて前記第2の光学素子を駆動することを特徴とする測距装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の測距装置において、
前記第1および第2の光学素子は、駆動により光軸と垂直方向に変位する光学素子であることを特徴とする測距装置。
【請求項7】
請求項4または5に記載の測距装置において、
前記第1および第2の光学素子は、駆動により入射面と射出面とのなす角である頂角の角度を変える可変頂角プリズムであることを特徴とする測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−270856(P2009−270856A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119705(P2008−119705)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】