説明

湯水混合弁

【課題】湯水の混合を良好になし得て給水圧,給湯圧の変動にも拘らず、吐水温度が変動するのを良好に抑制ないし防止することのできる湯水混合弁を提供する。
【解決手段】湯流入口及び水流入口と、湯側弁部24及び水側弁部を備えた弁体20と、混合室と、弁体20の位置調節を自動的に行う感温ばねと、バイアスばねとを有し、弁体20の軸方向の一方の移動により湯流入口の開度を大きく、水流入口の開度を小さく変化させ、弁体20の逆方向の移動により湯流入口の開度を小さく、水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁において、湯の導入路に、湯の流れに旋回流を発生させる螺旋状の溝114を設けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は湯水混合弁に関し、詳しくは混合室に感温体を備えた自動温度調節機能付きの湯水混合弁、特に湯水の撹拌効率を高めるための技術手段に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湯水混合弁として混合室に感温体を備えてなる自動温度調節機能付き(サーモスタット式)のものが広く用いられている。
この自動温度調節機能付きの湯水混合弁として、次のようなもの、即ち (イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部を備え、弁ケースの内部に軸方向に移動可能に設けられた弁体と、(ハ)湯,水をそれぞれ単独で湯流入口,水流入口から弁ケースの内部の湯水の合流部に向って導入する湯,水の導入路と、(ニ)湯水を混合する混合室と、(ホ)混合室内の混合水温度に感応して軸方向に伸縮し、弁体の位置調節を自動的に行う感温体と、(ヘ)感温体を収縮させる方向に弁体を付勢するバイアスばねと、を有し、弁体の軸方向の一方の移動により湯流入口の開度を大きく、水流入口の開度を小さく変化させ、弁体の逆方向の移動により湯流入口の開度を小さく、水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁が公知である。
図10はその具体例を示している。
【0003】
同図において200,202は弁ケース204に形成された水流入口,湯流入口で、201,203は水,湯をそれぞれ単独で水流入口200,湯流入口202から弁ケース204の内部の湯水の合流部に向けて導入する水,湯の導入路である。
ここで湯の導入路203は、湯流入口202からの湯を弁ケース204の中心側に向ける流通させ導入する求心方向の流路からなっている。
【0004】
一方水の導入路201は、水流入口200からの水を弁ケース204の中心側に向けて流通させ導入する求心方向の流路201-1と、これに続いて後述の混合室222に向けて流通させ導入する軸方向の流路201-2とからなっている。
流入口200から弁ケース204内部に流入した水は、軸方向の流路201-2を図中左向きに流れ、そして湯の導入路203を通じて導入された湯と合流して混合室222内に流れ込む。
【0005】
206は軸方向に離隔して設けられた水側弁部208,湯側弁部210及びそれらを軸方向に連繋する連繋部212を備えた弁体で、弁ケース204内に軸方向に移動可能に設けられている。ここで水側弁部208,湯側弁部210はそれぞれ円筒形状をなしている。
弁ケース204には、これら水側弁部208,湯側弁部210の間の位置において、水側弁部208,湯側弁部210に各対応して水側弁座214,湯側弁座216が設けられており、それらに対し水側弁部208,湯側弁部210がそれぞれ当接するようになっている。
【0006】
弁体206は、第1バイアスばね218,第2バイアスばね220にて図中左向き、即ち水側弁部208を閉弁させる方向に付勢されており、また混合室222内に設けられた形状記憶合金から成る感温ばね224により、これとは反対方向の図中右向き、即ち湯側弁部210を閉弁させる方向に付勢されている。
ここで混合室222は、湯流入口202に対し水流入口200とは軸方向の反対側に形成されている。
【0007】
尚、弁体206の連繋部212は断面形状が概略十字状をなすように中心部から放射方向に延び出した複数の補強板226を有しており、そしてそれら補強板226と226との間に、上記の軸方向の流路201-2が形成されている。
【0008】
230は回転操作軸で、この回転操作軸を回転操作することで第1バイアスばね218及び第2バイアスばね220の付勢力が強く又は弱く変更され、これにより弁体206の図中左右方向の位置、詳しくは第1バイアスばね218,第2バイアスばね220と感温ばね224との付勢力の釣合い位置が左右方向にシフトせしめられる。即ち湯水混合弁における混合水の温度が所望温度に設定されないしは設定変更される。
【0009】
この湯水混合弁では、弁体206が図中左向きに一杯まで移動して水側弁部208が水側弁座214に当接することで水流入口200(厳密には水の導入路201。以下同)が全閉、湯流入口202(厳密には湯の導入路203。以下同)が全開となり、また逆方向に一杯まで移動して湯側弁部210が湯側弁座216に当接することで湯流入口202が全閉,水流入口200が全開状態となる。
【0010】
またそれらの中間位置において水流入口200及び湯流入口202を開き且つその開度を変化させて水,湯の流入量を変化させる。
具体的には、湯側弁部210が全閉、水側弁部208が全開状態の下で回転操作軸230を回転(正方向回転)操作すると、第1バイアスばね218,第2バイアスばね220の付勢力が強まって弁体206が図中左方向にシフトさせられる。
そしてそのシフトした状態において第1バイアスばね218,第2バイアスばね220による左向きの付勢力と、感温ばね224による右向きの付勢力とが釣合った状態となり、その状態で水流入口200及び湯流入口202から流入する水と湯の混合水の温度が変動すると、これに伴って感温ばね224が付勢力を増減させ、感温ばね224が軸方向の伸縮を伴って弁体206を左右方向に微動させる。これにより混合水の温度が設定温度に維持される。
【0011】
また一方回転操作軸230を逆方向に回転操作すると、第1バイアスばね218及び第2バイアスばね220の付勢力が低下し、これにより弁体206が図中右向きにシフトさせられる。そしてそのシフト位置において感温ばね224の温度感知に基づく付勢力の増減によって混合水温度が調節される。
尚、この種形式の自動温度調節機能付きの湯水混合弁については、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0012】
ところでこの種の自動温度調節機能付きの湯水混合弁にあっては、給水圧や給湯圧の変動により温度調節が影響を受ける問題があり、水栓の設置場所その他の条件によって給水圧や給湯圧が変動すると、回転操作軸230により混合温度を例えば40℃に設定しておいたとしても、実際の吐水温度が40℃に対し低くなったり高くなったりするといった問題が内在していた。
【0013】
その理由は、混合室222における水と湯との混合撹拌が必ずしも十分良好に行われず、感温ばね224が水と湯との混合比率の変化に対して、必ずしも適性に追従ないし感応していないことにある。
このような現象は上記形式の湯水混合弁のみならず、他の一般の自動温度調節機能付きの湯水混合弁において特有に生じる問題である。
【0014】
このような問題点に鑑み、従来から湯水の混合撹拌を効率的に行うための様々な提案がなされている。
例えば下記特許文献2,特許文献3にその一例が開示されている。
しかしながらこれら特許文献に開示のものは、混合室に旋回流を引き起こす螺旋状のガイド溝を形成して、混合を促進させているが、充分な混合効果が得られず、本発明とは異なったものである。
【0015】
【特許文献1】特開2001−4050号公報
【特許文献2】特開平5−272650号公報
【特許文献3】特開2004−270878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は以上のような事情を背景とし、湯水の混合を良好になし得て給水圧,給湯圧の変動にも拘らず、吐水温度が変動するのを良好に抑制ないし防止することのできる湯水混合弁を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
而して請求項1のものは、(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部を備え、該弁ケースの内部に軸方向に移動可能に設けられた弁体と、(ハ)湯,水をそれぞれ単独で前記湯流入口,水流入口から前記弁ケースの内部の湯水の合流部に向って導入する湯,水の導入路と、(ニ)湯水を混合する混合室と、(ホ)混合室内の混合水温度に感応して軸方向に伸縮し、前記弁体の位置調節を自動的に行う感温体と、(ヘ)感温体を収縮させる方向に該弁体を付勢するバイアスばねと、を有し、該弁体の軸方向の一方の移動により前記湯流入口の開度を大きく、前記水流入口の開度を小さく変化させ、該弁体の逆方向の移動により該湯流入口の開度を小さく、該水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁において、前記湯又は水の導入路に、湯又は水の流れに旋回流を発生させる溝若しくは突条又は孔を有する旋回流発生部を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項2のものは、請求項1において、前記溝若しくは突条又は孔が螺旋状をなしていることを特徴とする。
【0019】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記湯又は水の導入路が、前記湯流入口又は水流入口から湯又は水を前記弁ケースの中心側に向けて流通させ導入する求心方向の流路から成っていることを特徴とする。
【0020】
請求項4のものは、請求項3において、前記湯又は水の導入路が、前記弁ケースの軸方向に対し傾斜したテーパ形状の傾斜路を有しており、前記旋回流発生部が該傾斜路に沿って延びる溝若しくは突条又は孔を有するものとなしてあることを特徴とする。
【0021】
請求項5のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記湯又は水の導入路が、前記湯流入口又は水流入口から前記弁ケースの中心側に向う求心方向の流路に続いて軸方向の流路を有するものであり、前記旋回流発生部が、前記弁ケースの軸方向に対し下流方向に傾斜するテーパ形状で該軸方向の流路に向って弁ケースの内面から突出するテーパ状の突出片を有していて、該突出片の内面に前記溝が備えてあることを特徴とする。
【0022】
請求項6のものは、(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部を備え、該弁ケースの内部に軸方向に移動可能に設けられた弁体と、(ハ)湯,水をそれぞれ単独で前記湯流入口,水流入口から前記弁ケースの内部の湯水の合流部に向って導入する湯,水の導入路と、(ニ)湯水を混合する混合室と、(ホ)混合室内の混合水温度に感応して軸方向に伸縮し、前記弁体の位置調節を自動的に行う感温体と、(ヘ)感温体を収縮させる方向に該弁体を付勢するバイアスばねと、を有し、該弁体の軸方向の一方の移動により前記湯流入口の開度を大きく、前記水流入口の開度を小さく変化させ、該弁体の逆方向の移動により該湯流入口の開度を小さく、該水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁において、筒状をなす前記湯側弁部又は水側弁部の径方向の内側に前記弁ケースの軸方向に延びる補強板が設けてあり、該補強板に、該補強板を通過する湯若しくは水又は湯水の流れに旋回流を発生させる溝が設けてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0023】
以上のように請求項1の発明は、湯又は水を湯流入口又は水流入口から弁ケース内部の湯水の合流部に向って導入する湯又は水の導入路に、湯,水の流れに旋回流を発生させる溝若しくは突条又は孔を有する旋回流発生部を設けたもので、この発明によれば、湯と水とを混合室で十分均一に撹拌混合することができ、給水圧や給湯圧の変動にも拘らず湯水混合弁による温調動作を正確に行わせ得て、実際の吐水の温度を目的とする温度に精度高く調節することができる。
【0024】
本発明は、特に、弁ケース内部で湯と水とが合流する前の段階で、即ちその上流側で湯又は水に旋回流を発生させることを特徴としている。
湯と水とが合流した後の混合水の流れに対し旋回流を発生させるといったことも考えられるが、この場合、湯と水とが互いに不均一な混合状態のままでともに同じように旋回運動してしまうこととなって、湯と水との撹拌の効率が必ずしも十分に高められない。
しかるに請求項1の発明では、湯と水との少なくとも一方の流れに単独で旋回流を発生させることによって、湯水の合流時に互いに異なった運動をしている湯と水とをぶつかり合わせることで湯水の混合攪拌を効率高く行わせることが可能となる。
【0025】
ここで上記の溝若しくは突条又は孔は螺旋状に形成しておくことができ(請求項2)、このようにすることで旋回流を効果的に発生させることができる。
【0026】
また湯又は水の導入路は、湯流入口又は水流入口から湯又は水を弁ケースの中心側に向けて流通させ導入する求心方向の流路からなるものとしておくことができる(請求項3)。
【0027】
この場合において上記導入路を、弁ケースの軸方向に対し傾斜したテーパ形状の傾斜路を有するものとなし、上記旋回流発生部をその傾斜路に沿って延びる溝若しくは突条又は孔を有するものとなしておくことができる(請求項4)。
このようになした場合、導入路を長く形成することができ、また溝若しくは突条を長く形成できることから旋回流をより効果的に発生させることができる。
また導入路を長くできることから孔によって旋回流を発生させる場合においても、導入路により流れを整えた上で旋回流発生させることができるため、効率高く旋回流発生させることができる。
【0028】
次に請求項5は、上記導入路を、弁ケースの中心側に向う流路に続いて軸方向の流路を有するものとなし、そして旋回流発生部を、弁ケースの軸方向に対し下流方向に傾斜したテーパ形状で軸方向の流路に向って弁ケースの内面から突出する突出片を有するものとなして、その突出片の内面に上記の溝を備えるようになしたもので、この場合においても旋回流発生により湯水の混合を効率高く行うことが可能となる。
【0029】
次に請求項6は、筒状をなす湯側弁部又は水側弁部の内側に設けてある補強板に、その補強板を通過する湯若しくは水又は湯水の流れに旋回流を発生させる溝を設けたもので、この請求項6によっても湯水の混合を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の自動温度調節機能付き(サーモスタット式)の湯水混合弁で、12は円筒形状をなす弁ケースである。
弁ケース12は第1部材12-1と第2部材12-2とを有しており、それらが軸方向にねじ結合されている。
ここで第1部材12-1と第2部材12-2との間は、シール部材としての弾性を有するOリング14にて水密にシールされている。
【0031】
弁ケース12には、軸方向に互いに離隔した位置に水流入口16,湯流入口18が形成されており、これら水流入口16,湯流入口18を通じて水,湯が弁ケース12内部に流入するようになっている。
弁ケース12の内部には、弁体20が図中左右方向(軸方向)に移動可能に設けられている。
弁体20は、軸方向に離隔して設けられた水側弁部22と湯側弁部24及びそれらを軸方向に連繋する連繋部26を有している。
【0032】
ここで水側弁部22及び湯側弁部24はそれぞれ円筒形状をなしており、その外周面の軸方向中間位置に、断面U字形状をなすシール部材23,25が保持されており、それらシール部材23,24によって水側弁部22及び湯側弁部24と弁ケース12との間が水密にシールされている。
【0033】
連繋部26は、湯側弁部24と一体に構成されている。
この連繋部26は、図3にも示しているように湯側弁部24の内側位置において十字状をなすように中心部から放射状に延びる複数(ここでは4つ)の補強板28と、この補強板28から軸方向且つ図中右方向に突き出した円筒部30とを一体に有している。
ここで補強板28は、湯側弁部24を内側から補強する働きをなすもので板面が軸方向に延びており、そして外周端が湯側弁部24に一体化されている。
この実施形態では、水流入口16,湯流入口18から流入した水と湯とが図1中左向きに流れて混合室34で混合され、混合水が流出部36から図中左向きに流出する。
【0034】
混合室34には形状記憶合金製のコイル形状の感温ばね38が収容されており、その付勢力を弁体20に対し図中右向きに、即ち湯側弁部24を閉弁させ、水側弁部22を開弁させる方向に及ぼしている。
この形状記憶合金製の感温ばね38は混合室34内部の混合水温度に応じて伸縮し、混合水温度が設定温度となるように図中右向きの付勢力を変化させて、弁体20の位置を自動的に微調節する。
【0035】
40は混合室34を形成するとともに感温ばね38の一端を当接させるばね受けで、図中右端に外向きの係合爪42を有し、その係合爪42を第1部材12-1の係合孔44に係合させる状態に第1部材12-1に組み付けられている。
【0036】
上記水側弁部22は、湯側弁部24及び連繋部26とは別体に構成されている。
この水側弁部22には、図2にも明らかに示しているように内側に段付形状をなす円筒形状の嵌合部46が形成されており、その嵌合部46が、段付部48を円筒部30の先端面に当接させる状態に、円筒部30に外嵌状態に嵌合され組み付けられている。
詳しくは、円筒部30の内側には雌ねじ部32が形成されていて、そこに後述の弁軸98の先端部に形成された雄ねじ部50がねじ込まれている。
【0037】
この弁軸98には押え部材としての止め輪(ここではEリング)52が装着されており、弁軸98の雄ねじ部50が円筒部30の内側の雌ねじ部32にねじ込まれることで、水側弁部22が止め輪52にてばね54を介し円筒部30に図中左向きに押し付けられ連繋部26に組付固定されている。
ここでばね54は通常の金属製でコイル形状をなしている。
【0038】
図1に示しているように弁ケース12には、水側弁部22,湯側弁部24のそれぞれの軸方向の内側位置に水側弁座56,湯側弁座58が設けられており、それらに対し水側弁部22,湯側弁部24が軸方向に当接するようになっている。
【0039】
この実施形態において、弁体20はバイアスばね60にて図中左向き、即ち湯側弁部24を開弁させ、水側弁部22を閉弁させる方向に付勢されており、また混合室34内に設けられた感温ばね38にてこれとは反対方向の図中右向き、即ち湯側弁部24を閉弁させ、水側弁部22を開弁させる方向に付勢されている。
弁体20は、感温ばね38の図中右向きの付勢力と、バイアスばね60による左向きの付勢力とが釣合う位置に保持される。
【0040】
図1に示しているように、弁ケース12には回転操作軸61が組み付けられている。
この回転操作軸61は、弁体20を弁ケース12の内部で軸方向、即ち図中左右方向に移動させて混合水温度を設定操作するためのもので、嵌合軸部62、とハンドル連結部64とを有しており、その嵌合軸部62が弁ケース12の嵌合孔66に回転可能に内嵌されている。
ここで嵌合軸部62と弁ケース12の嵌合孔66との間はOリング68にて水密にシールされている。
また弁ケース12から軸方向の右方に突き出したハンドル連結部64には、セレーション部70において図示を省略するハンドルが一体回転状態に連結されるようになっている。
【0041】
回転操作軸61は、弁ケース12の内部において大径の円筒部72を有しており、その円筒部72の図中右端の肩部と、回転操作軸61に装着された径方向に弾性を有する止め輪74にて、弁ケース12に軸方向に固定されている。
この円筒部72の内周面には雌ねじ部78が形成され、そこに円筒形状をなす駆動部材80が、外周面の雄ねじ部82において螺合されている。
この駆動部材80は、回転操作軸61の回転操作によってねじ送りで軸方向即ち図中左右方向に進退移動させられる。
【0042】
この駆動部材80と弁体20との間には、ストッパリング84,ばね受け86を介して通常の金属製のコイルばねからなる上記のバイアスばね60が介在させられており、バイアスばね60の図中左向きの付勢力が弁体20に対し図中左向きに及ぼされている。
尚、ばね受け86には図中左端と右端とに内向きのフランジ部88,90が設けられている。
【0043】
一方、駆動部材80には図中左端に外向きのフランジ部92が設けられ、この外向きのフランジ部92が、一対のフランジ部88,90の間においてばね受け86内部を図中左右方向に相対移動可能とされている。
また駆動部材80には、内向きに突出した段付部94が図中右端に設けられていて、そこにストッパリング84が図中右向きに当接させられている。
【0044】
弁体20からは図中右向きに弁軸98が延び出している。
弁軸98の右端側はストッパリング84を貫通して図中右向きに突出しており、その突出した端部に、ストッパリング84の内径よりも大径の頭部96が設けられている。
この頭部96には、弁軸98における上記の雄ねじ部50を連繋部26の雌ねじ部32にねじ込む際に、工具掛け部となる係合溝が形成されている。
【0045】
この実施形態では、回転操作軸61を正方向に回転操作すると、駆動部材80がねじ送り作用で図中左向きに前進させられ、これによりストッパリング84を介してバイアスばね60が圧縮せしめられ、弁体20に対する図中左向きの付勢力を増大させる。
また回転操作軸61を逆方向に回転操作すると、駆動部材80が図中右向きに後退移動させられて、バイアスばね60が延びる方向に変位し、弁体20に対する図中左向きの付勢力を弱くする。
【0046】
この実施形態の湯水混合弁10では、このようにして回転操作軸61を正方向又は逆方向に回転操作することで、弁体20がバイアスばね60による図中左向きの付勢力と、感温ばね38による図中右向きの付勢力とが釣合う位置に左右方向にシフトせしめられる。即ち湯水混合弁10における混合水の温度が設定ないし設定変更される。
【0047】
詳しくはこの湯水混合弁10では、弁体20が図中左向きに一杯まで移動して水側弁部22が水側弁座56に当接することで水流入口16が全閉、湯流入口18が全開となり、弁体20が逆方向に一杯まで移動して湯側弁部24が湯側弁座58に当接することで湯流入口18が全閉、水流入口16が全開状態となる。
またそれらの中間位置において水流入口16及び湯流入口18を開き、且つその開度を感温ばね38の温度感知に基づいて自動的に変化させ、水,湯の流入量を変化させて混合水温度を自動的に設定温度に調節する。
【0048】
この実施形態の湯水混合弁10は、図1に示しているように水流入口16に続いて、この水流入口16からの水を湯流入口18からの湯との合流部に向って導入する導入路100、及び湯流入口18に続いて、この湯流入口18からの湯を水流入口16からの水との合流部に向けて導入する湯の導入路102とを有している。
【0049】
ここで水の導入路100は、水流入口16からの水を弁ケース12の中心側に向けて流通し案内する求心方向の流路100-1と、これに続く軸方向の流路100-2とを有している。
ここで軸方向の流路100-2は、上記連繋部26における円筒部30の外周側に形成されている。
【0050】
一方湯の導入路102は、湯流入口18からの湯を弁ケース12の中心側に向けて流通させる求心方向の流路からなっている。
即ちこの実施形態では、水流入口16から流入した水は流路100-1を通じて弁ケース12の中心側に向けて求心方向に流れ、その後軸方向の流路100-2を図中左向きに流れて、湯の導入路102にて導入された湯と合流し、混合室34へと流れ込む。
【0051】
図1の部分拡大図に示しているように、湯の導入路102は、弁ケース12の軸方向に対し下流側に傾斜したテーパ形状の傾斜路102aを有している。この傾斜路102aは、湯側弁部24の内面と、弁ケース12から突出したノズル部(突出片)104の径方向の外面とで形成されている。
【0052】
詳しくは、湯側弁部24の図中右側即ち湯側弁座58側の内面は、弁ケース12の中心方向に進むにつれて図中左の下流側に移行するテーパ面108とされている。
ノズル部104もまた同方向に傾斜するテーパ形状とされており、そしてその外面の、湯側弁部24のテーパ面108と同方向に傾斜するテーパ面110とによって、上記のテーパ形状の傾斜路102aが形成されている。
尚、ノズル部104の内面もまた同方向に傾斜するテーパ面112とされている。
湯流入口18から流入した湯は、この傾斜路102aを通じて弁ケース12の中心側に向って流れ込む。
以上の説明から明らかなように、この例では湯側弁部24自身が湯の導入路102の一部を形成している。
【0053】
図3及び図4に示しているように、湯側弁部24の上記テーパ面108には、導入路102を流れる湯に旋回流を発生させる螺旋状の溝(螺旋方向に延びる溝)114が周方向に等間隔で複数形成されている。
即ちこの実施形態では、湯側弁部24の一部がかかる螺旋状の溝114を有する旋回流発生部を構成している。
また湯側弁部24の内側の補強板28には、螺旋状の溝114にて発生した旋回流を維持するための溝116が形成されている。
ここで溝116は軸方向に延びており、且つ下流側に進むほど溝深さと溝幅が大となっている。
これら溝116は補強板28の軸端まで到っており、その軸端において溝深さ及び溝幅ともに最大となっている。
尚、弁ケース12側に設けられた上記ノズル部104は、水の流れを絞って混合室34に向け噴出する働きをなす。
【0054】
図5は湯側弁部24のテーパ面108に設けた上記螺旋状の溝114及び補強板28に設けた溝116の作用を表している。
図に示しているように湯流入口18から流入した湯は、これに続く導入路102を流通する過程で、詳しくはその一部をなす傾斜路102aを流通する過程で、湯側弁部24内面のテーパ面108に形成された螺旋状の溝114による案内作用で、その流れに旋回流が生ぜしめられる。
発生した旋回流は、湯側弁部24の内側に形成された補強板28を通過する際にそこで旋回流が弱められる恐れがあるが、この実施形態ではその補強板28に旋回流を維持するための溝116が形成されているため、発生した旋回流は、これを維持しながら補強板28を通過し、混合室34へと流入する。
【0055】
而して導入路102から流れ出た湯に旋回流が発生していることから、軸方向に流れてそこに合流する水の流れと湯の流れとが効率高く混合せしめられ、混合室34へと流入する。
旋回流はまた混合室34内部においても維持され、混合室34においても水と湯との混合が良好に行われる。
ここで湯側弁部24の溝114と補強板28の溝116の幅や深さは下流側に進むほど小となっても良いし、一定であっても良い。
【0056】
尚、湯側弁部24のテーパ面108に螺旋状の溝114を設けるのに代えて、ノズル部104の外面のテーパ面110に同様の螺旋溝114を形成し、或いはまたその両方とに溝114を形成することも可能である。
更には螺旋状の溝114に代えて螺旋状の突条を設けるといったことも可能である。
また、ここでは補強板28に軸方向の溝116を設けているが、場合によって補強板28の形状を維持しつつ或いは円筒部を有する形状その他形状に形状変更して、かかる補強板28に、これを通過する流れに対して旋回流を発生させる働きをなす螺旋状その他形状の溝を設けておくといったことも可能である。
【0057】
以上のような本実施形態によれば、湯と水とを混合室34で十分均一に撹拌混合することができ、給水圧や給湯圧の変動にも拘らず湯水混合弁10による温調動作を正確に行わせ得て、実際の吐水の温度を目的とする温度に精度高く調節することができる。
【0058】
本実施形態ではまた、旋回流発生のために特別の部材を別途に加える必要がなく、従って部品組付けの工数も特別に増えることもなく、全体として安価に湯水混合弁10を構成することができる利点を有する。
【0059】
本発明では、図6に示しているようにノズル部104の内面のテーパ面112に螺旋状の溝114を設けておくといったことも可能である。この場合には、水の導入路100を流れる水に対し、そのノズル部104の内面のテーパ面112に設けた螺旋状の溝114により旋回流が発生せしめられる。
この場合、水の流れに旋回流が発生せしめられた直後で、湯の流れが合流することとなるため、更にはその旋回流の発生個所が混合室34に近い位置であるため、混合室34内で水と湯との混合が効率高く行われる利点が得られる。
【0060】
図7は本発明の他の実施形態を示している。
この例の湯水混合弁118は、水流入口16,湯流入口18を図1とは左右逆に配置し、そして水側弁座56,湯側弁座58を水側弁部22,湯側弁部24に対し軸方向の外側位置に配置し、弁体20を、感温ばね38とバイアスばね120とによって、逆向きに付勢するようになした例である。
【0061】
この例において、回転操作軸61は弁ケース12内部に雄ねじ軸122を有しており、その外周面の雄ねじ部124に対し、駆動部材80の内周面の雌ねじ部126が螺合されている。
従ってこの実施形態においても、回転操作軸61を回転操作することで、駆動部材80が図中左右方向に進退移動させられ、これによってバイアスばね120の図中左向きの付勢力が強く又は弱く変化せしめられる。
【0062】
湯側弁部24及び弁ケース12には、弁ケース12の軸方向に対し傾斜したテーパ面128,130が形成されており、それらテーパ面128,130によって、湯の導入路102の一部をなすテーパ形状の傾斜路102aが形成されている。
また水側弁部22及び弁ケース12の対応する部位にも、湯側弁部24の側とは逆向きに傾斜したテーパ面132,134が形成されており、それらによって水の導入路100の一部をなすテーパ形状の傾斜路100aが形成されている。
【0063】
而して図8に示しているように湯側弁部24,水側弁部22のそれぞれのテーパ面128,132には、図3に示すのと同様の螺旋状の溝114が周方向に等間隔で複数設けられている。
尚、湯側弁部24の溝114と、水側弁部22の溝114とは、同じ軸方向視において同じ方向に螺旋状をなしている。
この実施形態においては、湯側弁部24,水側弁部22自体が旋回流発生部を構成している。
【0064】
この実施形態ではまた、弁ケース12との間に水流入口16に連通した水室139を区画形成する円筒部136が、弁ケース12内面を弁体20と一体に摺動する状態に弁体20に設けられており、この円筒部136に対して感温ばね38の付勢力が図中右向きに及ぼされている。
円筒部136は、弁ケース12内面を摺動する大径部138と、その大径部138と弁体20との間の小径部140とを有しており、図9に示しているようにその小径部140に、これを内外方向に貫通する旋回流発生のための、径方向に対し傾斜した形状の螺旋状の貫通孔(斜孔)142が形成されている。
【0065】
本実施形態において、水流入口16から流入した水は、この貫通孔142を通過したところで湯と合流する。従ってこの実施形態では、水流入口16から貫通孔142の内周端までが水の導入路100を構成している。
ここで各貫通孔142は、何れもが径方向に対し傾斜した形状をなしており、従ってこの貫通孔142を通じてその内側に流れ込む水の流れに対しても貫通孔142による旋回流発生のための力が作用する。
即ちこの実施形態においては、円筒部136もまた旋回流発生部を構成している。
【0066】
この実施形態では、湯流入口18から流入した湯,水流入口16から流入した水の何れもが、それぞれの導入路102,100を流通する過程で旋回流とされ、そしてそれぞれ別々に旋回流とされた湯の流れと、水の流れとが合流部で合流して、混合室34へと流れ込む。
この場合においても、混合室34内で水と湯とは引き続き旋回流を生じながら互いに混合される。
従って本実施形態においても水と湯との混合が効率高く行われて、水と湯とが均一に混じり合い、従って感温ばね38は水と湯との流入量の比に正確に対応して伸縮動作し、温度調節動作を行う。
【0067】
尚この実施形態において、弁体20の側ではなく、弁ケース12の側のテーパ面130,134に螺旋状の溝114を形成しておくことも可能であるし、また弁体20のテーパ面128,132と弁ケース12のテーパ面130,134との何れにも螺旋状の溝114を形成しておくことが可能である。また湯側弁部24の溝114と、水側弁部22の溝114とは同じ軸方向視において逆の方向に螺旋状をなしていても良い。また溝に代えて螺旋状の突条を設けておくことも可能である。
【0068】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態である湯水混合弁の断面図である。
【図2】同実施形態における要部を各部品に分解して示す図である。
【図3】同実施形態における弁体の要部の図である。
【図4】図3の湯側弁部の側面断面図である。
【図5】同実施形態の作用説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態の要部の図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態の湯水混合弁の図である。
【図8】図7の実施形態における弁体の単品図である。
【図9】図7の実施形態における円筒部の図である。
【図10】従来の湯水混合弁の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 湯水混合弁
12 弁ケース
16 水流入口
18 湯流入口
20 弁体
22 水側弁部
24 湯側弁部
28 補強板
34 混合室
38 感温ばね
60 バイアスばね
100,102 導入路
100-1,100-2 流路
100a,102a 傾斜路
104 ノズル部(突出片)
114 溝
116 溝
118 湯水混合弁
142 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部を備え、該弁ケースの内部に軸方向に移動可能に設けられた弁体と、(ハ)湯,水をそれぞれ単独で前記湯流入口,水流入口から前記弁ケースの内部の湯水の合流部に向って導入する湯,水の導入路と、(ニ)湯水を混合する混合室と、(ホ)混合室内の混合水温度に感応して軸方向に伸縮し、前記弁体の位置調節を自動的に行う感温体と、(ヘ)感温体を収縮させる方向に該弁体を付勢するバイアスばねと、を有し、該弁体の軸方向の一方の移動により前記湯流入口の開度を大きく、前記水流入口の開度を小さく変化させ、該弁体の逆方向の移動により該湯流入口の開度を小さく、該水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁において
前記湯又は水の導入路に、湯又は水の流れに旋回流を発生させる溝若しくは突条又は孔を有する旋回流発生部を設けたことを特徴とする湯水混合弁。
【請求項2】
請求項1において、前記溝若しくは突条又は孔が螺旋状をなしていることを特徴とする湯水混合弁。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記湯又は水の導入路が、前記湯流入口又は水流入口から湯又は水を前記弁ケースの中心側に向けて流通させ導入する求心方向の流路から成っていることを特徴とする湯水混合弁。
【請求項4】
請求項3において、前記湯又は水の導入路が、前記弁ケースの軸方向に対し傾斜したテーパ形状の傾斜路を有しており、前記旋回流発生部が該傾斜路に沿って延びる溝若しくは突条又は孔を有するものとなしてあることを特徴とする湯水混合弁。
【請求項5】
請求項1,2の何れかにおいて、前記湯又は水の導入路が、前記湯流入口又は水流入口から前記弁ケースの中心側に向う求心方向の流路に続いて軸方向の流路を有するものであり、前記旋回流発生部が、前記弁ケースの軸方向に対し下流方向に傾斜するテーパ形状で該軸方向の流路に向って弁ケースの内面から突出するテーパ状の突出片を有していて、該突出片の内面に前記溝が備えてあることを特徴とする湯水混合弁。
【請求項6】
(イ)弁ケースに軸方向に離隔して設けられた湯流入口及び水流入口と、(ロ)該湯流入口,水流入口に対応して軸方向に離隔して設けられた湯側弁部及び水側弁部を備え、該弁ケースの内部に軸方向に移動可能に設けられた弁体と、(ハ)湯,水をそれぞれ単独で前記湯流入口,水流入口から前記弁ケースの内部の湯水の合流部に向って導入する湯,水の導入路と、(ニ)湯水を混合する混合室と、(ホ)混合室内の混合水温度に感応して軸方向に伸縮し、前記弁体の位置調節を自動的に行う感温体と、(ヘ)感温体を収縮させる方向に該弁体を付勢するバイアスばねと、を有し、該弁体の軸方向の一方の移動により前記湯流入口の開度を大きく、前記水流入口の開度を小さく変化させ、該弁体の逆方向の移動により該湯流入口の開度を小さく、該水流入口の開度を大きく変化させることによって湯,水の流入比率を変化させる湯水混合弁において
筒状をなす前記湯側弁部又は水側弁部の径方向の内側に前記弁ケースの軸方向に延びる補強板が設けてあり、該補強板に、該補強板を通過する湯若しくは水又は湯水の流れに旋回流を発生させる溝が設けてあることを特徴とする湯水混合弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−202702(P2008−202702A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39996(P2007−39996)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】