説明

湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】湿式塗装ブース循環水を効率よく固液分離することができる湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供する。
【解決手段】循環水槽1から湿式塗装ブース2に送水し、該循環水槽1に返送する第1の循環水系と、該循環水槽1から固液分離装置20に送水し、分離水を該循環水槽1に返送する第2の循環水系とを有する湿式塗装ブース循環水系の処理方法において、カチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを添加するか、又は両性ポリマーを添加し、その後、ネット23によって濾過する。また、湿式塗装ブース2から循環水槽1に戻る第1の循環水に対しフェノール系樹脂と有機凝結剤及び/又は無機凝結剤とを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式塗装ブース循環水の処理方法に係り、特に、湿式塗装ブース循環水から塗料スラッジを効率的に回収する湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工業における塗装工程では、一般に車体に噴霧された塗料(ペイント)の歩留りは60〜80%であり、使用ペイントの40〜20%は次工程で除去すべき過剰塗料である。この過剰に噴霧された余剰塗料は、通常、水洗による湿式塗装ブースで捕集処理されており、水洗水は循環使用される。
【0003】
第2図は、この湿式塗装ブースにおける循環水系を示す系統図であり、循環水槽1内の水は、ポンプPを有する配管11により湿式塗装ブース2に送水され、湿式塗装ブース2内に散水される。湿式塗装ブース2内に散水され、余剰塗料を捕集した水は配管12により循環水槽1に返送される(以下、この循環水槽1から湿式塗装ブース2に送水され、循環水槽1に返送される循環水系を「第1の循環水系」と称す場合がある。)。循環水槽1内の水は、ポンプPを有する配管13より遠心分離機3等の固液分離装置に送水され、塗料スラッジが分離回収される。この遠心分離機3で塗料スラッジが除去された処理水は配管14より循環水槽1に返送される(以下、この循環水槽1から遠心分離機3に送水され、循環水槽1に返送される循環水系を「第2の循環水系」と称す場合がある。)。なお、循環水槽1内に透水性の仕切板1Aを設け、湿式塗装ブース2へ送水される洗浄水中への夾雑物の混入を防止している場合もある。また、循環水槽1に攪拌機1Bが設けられ、捕集された塗料の沈降を防止する場合もある。
【0004】
このような湿式塗装ブースの循環水系のうち、第1の循環水系においては、水洗水に捕集される余剰塗料の粘着性が高いため、スプレーブースの水幕板、配管系、スプレーノズル等に付着して配管やノズルの目詰りを起こし、水洗効率を著しく低下させる。また、余剰塗料の大部分はスプレーブースのブースピット底、循環ピット底に沈積し、沈積した塗料は時間の経過と共にゴム状に固化し、清掃除去に多大な手間と労力を要するようになる。
【0005】
また、第2の循環水系においても、同様に余剰塗料が付着する。
【0006】
このような湿式塗装ブース循環水の処理方法として、特開2001−170528(特許文献1)には、第1の循環水系及び第2の循環水系にそれぞれセピオライト等の粘土鉱物を添加することが記載されている。
【0007】
特開2004−337671(特許文献2)には、第1の循環水にフェノール系樹脂とカチオン系ポリマーとを添加して凝集処理することが記載されている。なお、この特許文献2では、凝集処理した後、フロックを浮上分離、ロータリースクリーン、バースクリーン、サイクロン、遠心分離機、濾過装置などによって分離回収している(第0033段落)。
【0008】
特開2005−95819(特許文献3)には、第1の循環水においてアルミニウムの陽極電解を行い、第2の循環水においてカチオンポリマーと、必要に応じさらにノニオン性又はアニオン性高分子凝集剤を添加することが記載されている。この特許文献3では、第2の循環水における固液分離手段としては浮上分離又は遠心分離が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−170528
【特許文献2】特開2004−337671
【特許文献3】特開2005−95819
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の第2の循環水で固液分離する場合、スラッジが遠心分離機や濾材等の固液分離手段に付着し易い。
【0011】
本発明は、湿式塗装ブース循環水を効率よく固液分離することができる湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明(請求項1)の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、湿式塗装ブースからの塗料含有水に対し、カチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを添加するか、又は両性ポリマーを添加し、次いでネットによって濾過することを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、請求項1において、ネットの口径が0.1〜1mmに分布していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、請求項1又は2において、湿式塗装ブースからの塗料含有水を循環水槽に受け入れ、該循環水槽から湿式塗装ブースに送水する第1の循環水系と、該循環水槽から固液分離装置に送水し、分離水を該循環水槽に返送する第2の循環水系とを有する湿式塗装ブース循環水系の処理方法であって、該第2の循環水系の固液分離装置への流入水にカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを含有させるか又は両性ポリマーを含有させることを特徴とするものである。
【0015】
請求項4の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、請求項3において、前記循環水槽から固液分離装置に供給される水をまず小槽に流入させ、該小槽からの流出水を前記ネットで濾過することを特徴とするものである。
【0016】
請求項5の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、請求項3又は4において、前記カチオン性ポリマーを第2の循環水系に添加することを特徴とするものである。
【0017】
請求項6の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、請求項3ないし5のいずれか1項において、第1の循環水系のうち湿式塗装ブースから循環水槽に戻る水に対しフェノール系樹脂と有機凝結剤及び/又は無機凝結剤とを添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、湿式塗装ブースからの塗料含有水に対しカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーの双方を添加するか、又は両性ポリマーを添加し、次いで、ネットで濾過することにより、効率よく含水率の低い塗料スラッジを回収することができる。また、第2の循環水にカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの双方又は両性ポリマーを添加することにより、カチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーのみを添加する場合に比べて、密度が高くて大きい強固なフロックが生成する。このフロックを比較的口径が大きいネットによって濾別することにより、ネットの目詰りが防止ないし抑制され、濾別が効率よく行われる。
【0019】
なお、濾過すべき循環水をまず小槽で受け止め、次いでネットで濾過すると、この小槽内においてフロックがさらに成長するので、濾過がさらに効率よく行われるようになる。
【0020】
湿式塗装ブースから循環水に戻る水に対しフェノール系樹脂と有機凝結剤及び/又は無機凝結剤とを添加することにより、湿式塗装ブースからの戻り水中の塗料成分を安定して凝集分離処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る湿式塗装ブース循環水の処理方法のフロー図である。
【図2】従来の湿式塗装ブース循環水のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明では、湿式塗装ブースからの塗料含有水に対しカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを添加するか、又は両性ポリマーを添加し、その後、ネットによって濾過し、フロックを分離する。
【0024】
ここで、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの双方を添加すると、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとが強固に結合し、密度が高く、大きく、強固なフロックが形成される。両性ポリマーを用いた場合も同様である。
【0025】
本発明の処理方法に用いられるカチオン性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるポリマーを好ましく挙げることができる。
【0026】
当該カチオン性の疎水性ポリマーにおいて、四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなる、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位としては、下記一般式(I)で表される(A)構成単位を好ましく挙げることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
一般式(I)において、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0029】
1は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X1a-は、価数aの陰イオンを示す。aは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
【0030】
本発明においては、一般式(I)で表される(A)構成単位は、重合体中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0031】
当該(A)構成単位を形成する単量体の(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(ベンジル)ジアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0032】
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
このように、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなる(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有する重合体は、疎水性の強い上記ベンジル基に、余剰塗料の疎水性部分、前述のフェノール系樹脂などの余剰塗料不粘着化剤の疎水性部分が結合し、さらに、この疎水性ポリマーはカチオン性を有するので、アニオンに荷電した塗料粒子、アニオン性であるフェノール系樹脂とも結びつきやすく、結果として、強固で粗大なフロックを形成する。また、該ポリマーが強い疎水性であることから、このフロックは水と分離しやすく、浮上しやすいという効果を奏する。
【0034】
本発明の処理方法においては、カチオン性ポリマーとして、前記(A)構成単位と共に、ノニオン性構成単位及び/又は他のカチオン性構成単位を有する共重合体を用いることができる。上記ノニオン性構成単位及び他のカチオン性構成単位については特に制限はないが、以下に示す共重合体を好ましく用いることができる。
【0035】
本発明の処理方法においては、カチオン性の疎水性ポリマーとして、前記(A)構成単位と共に、下記一般式(II)で表されるノニオン性の(B)構成単位を有する共重合体(以下、共重合体Iと称する。)を好ましく用いることができる。
【0036】
【化2】

【0037】
一般式(II)において、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はジメチルアミノアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。ジメチルアミノアルキル基としては、2−ジメチルアミノエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基などが挙げられる。
【0038】
本発明においては、一般式(II)で表される(B)構成単位は、共重合体I中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0039】
当該(B)構成単位を形成する単量体としては、例えばアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジイソプロピルメタクリルアミド、N−エチル−N−メチルメタクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
当該共重合体I中の前記(A)構成単位と(B)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で2:8〜9:1が好ましく、3:7〜6:4がより好ましい。
【0041】
本発明の処理方法においては、カチオン性の疎水性ポリマーとして、前記(A)構成単位と共に、下記一般式(III)で表されるカチオン性の(C)構成単位を有する共重合体(以下、共重合体IIと称する。)を好ましく用いることができる。
【0042】
【化3】

【0043】
一般式(III)において、R7は水素原子又はメチル基を示し、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0044】
2は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X2b-は、価数bの陰イオンを示す。bは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
【0045】
本発明においては、一般式(III)で表される(C)構成単位は、共重合体(II)中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0046】
当該(C)構成単位を形成する単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0047】
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該共重合体II中の前記(A)構成単位と(C)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で8:2〜2:8が好ましく、6:4〜4:6がより好ましい。
【0048】
本発明の処理方法においては、カチオン性ポリマーとして、前記(A)構成単位と共に、前記ノニオン性の(B)構成単位と前記カチオン性の(C)構成単位とを有する共重合体(以下、共重合体IIIと称する。)を、特に好ましく用いることができる。当該共重合体III中の前記(A)構成単位、(B)構成単位及び(C)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル基準で、それぞれ5〜90%、30〜90%及び0〜90%であることが好ましく、10〜40%、50〜70%及び10〜40%であることがより好ましい。
【0049】
当該共重合体IIIの代表例としては、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0050】
本発明の処理方法に用いられるカチオン性ポリマーの重量平均分子量は、余剰塗料の凝集性能などの観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、溶離液として0.1モル/L塩化ナトリウム水溶液を用いて測定したポリエチレングリコール換算の値で、600万以上であることが好ましく、900万〜1,100万であることがより好ましい。
【0051】
このカチオン性ポリマーの重合方法については特に制限はなく、一般的な重合方法を採用することができる。例えば、水溶液重合であれば、重合開始剤として過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩や、レドックス系の開始剤などを用いることができる。また、逆相の懸濁重合であれば、重合開始剤として前記と同様なものを用いることができるし、一方逆相のエマルション重合であれば、前記重合開始剤以外に、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどの水不溶性開始剤を用いて重合を行ってもよい。
【0052】
当該カチオン性ポリマーは、水溶液、懸濁液、乳化液のいずれの形態でも用いることができる。カチオン性ポリマーの添加量は、余剰塗料に対し0.1〜10%、特に0.5〜2%程度が好適である。
【0053】
アニオン性ポリマーとしては、アクリル酸ナトリウム又はメタクリル酸ナトリウムとアクリルアミド又はメタクリルアミドとの共重合物(アニオン化度22〜28モル%)が好適である。アニオン性ポリマーの重量平均分子量は800万〜1000万程度が好適である。アニオン性ポリマーの添加量は、余剰塗料に対し、0.1〜10%、特に0.5〜2%程度が好適である。
【0054】
カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとを併用する場合、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの添加量の比率は、重量比で90:10〜10:90特に80:20〜20:80程度が好適である。
【0055】
両性ポリマーとしては、どのようなものでも使用できるが、アクリル酸ナトリウム又はメタクリル酸ナトリウムとアクリルアミド又はメタクリルアミドとアクリル酸エステル又はメタクリル酸の四級アンモニウム塩との共重合物(アニオン/カチオンモル比0.2〜2.0)などが好適である。両性ポリマーの重量平均分子量は800万〜1000万程度が好適であり、添加量は余剰塗料に対し0.1〜10%、特に0.5〜2.0%程度が好適である。
【0056】
ネットとしては、糸径が1〜1000μm、特に10〜100μm程度の熱可塑性合成樹脂糸を縦横だけでなく斜めにもランダムに編組し加熱加圧して糸同士を融着したものが好適である。この合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好適である。ネットの口径(穴の端から端で最も長い部分の長さ)は、小さ過ぎると目詰りし易く、大き過ぎるとフロックが通過してしまうので、0.1〜1mm特に0.2〜0.8mm程度が好適である。縦横だけでなく斜めにもランダムに編組されたネットを用いることにより、開口の形状が様々な形状となると共に、当該口径の範囲で、様々な口径の穴がランダムに分布するようになり、捕集スラッジによる目詰まりが起こりにくくなる。
【0057】
本発明は、第1図のように、循環水槽1から湿式塗装ブース2に送水し、該循環水槽1に返送する第1の循環水系と、該循環水槽1から固液分離装置20に送水し、分離水を該循環水槽に返送する第2の循環水系とを有する湿式塗装ブース循環水系の処理方法に適用するのに好適である。
【0058】
この場合、湿式塗装ブース2から循環水槽1に戻る第1の循環水系に対しフェノール系樹脂及び有機凝結剤を添加することが好ましい。このフェノール系樹脂と有機凝結剤とを添加することにより、湿式塗装ブースからの戻り水中の塗料成分を安定して凝集分離することができる。なお、フェノール系樹脂は無機系の剤に比べて石油由来有機物よりなる塗料との相性が良い。
【0059】
フェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物あるいはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物、これらのフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール系樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよい。分子量は、3,000以下、好ましくは2,000以下であることが好ましい。これらは1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
これらのフェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液に溶解して用いるのが好ましい。
【0061】
フェノール系樹脂をアルカリ水溶液として用いる場合、このアルカリ水溶液はアルカリ剤濃度1〜25質量%、フェノール系樹脂濃度1〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0062】
フェノール系樹脂の添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量(樹脂固形分量)として、通常1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上であり、かつ循環水中の塗料(固形分)に対して有効成分量として、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。フェノール系樹脂添加量がこれらの割合よりも少ないと十分な不粘着化効果を得ることができない。しかし、フェノール系樹脂添加量が過度に多くても、添加量に見合う不粘着化効果の向上は得られないことがあり、また発泡が生じることがあることから、湿式塗装ブース循環水に対するフェノール系樹脂の添加量は有効成分量として、好ましくは1,000mg/L以下、特に好ましくは5〜200mg/Lであり、循環水中の塗料に対して有効成分量として、好ましくは100質量%以下、特に好ましくは0.5〜10質量%である。
【0063】
有機凝結剤としては、カチオン性のものが好ましく、例えばジメチルジアリルアンモニウムクロリド重合物、アルキルアミン−エピクロルヒドリン縮合物、エチレンイミン重合物、アルキレンジクロリド−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジメチルアミノエチルアクリレート系重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート系重合物、ポリビニルアミジンなどのカチオン性有機高分子化合物を挙げることができる。無機凝結剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等を用いることができる。これらの有機凝結剤及び無機凝結剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
当該有機凝結剤と無機凝結剤は、前述の塗料不粘着化剤によって不粘着化された余剰塗料の懸濁物質の荷電を中和し、微細フロックを形成させるなどの目的で用いられる。
【0065】
当該有機凝結剤及び無機凝結剤の添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量(樹脂固形分量)として、通常5mg/L以上、好ましくは10〜30mg/Lであり、また、循環水中の塗料(固形分)に対して有効成分量として、通常0.5〜10質量%程度、好ましくは0.8〜1.5質量%である。
【0066】
当該有機凝結剤及び無機凝結剤の使用形態については特に制限はなく、水溶液状、懸濁液状、乳化液状のいずれであってもよい。
【0067】
第1図のフローの詳細について次に説明する。なお、このフロー細部は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
前記第2図の場合と同様に、循環水槽1内の水は、ポンプPを有する配管11により湿式塗装ブース2に送水され、湿式塗装ブース2内に散水される。湿式塗装ブース2内に散水され、余剰塗料を捕集した水は配管12により循環水槽1に返送される(第1の循環水系)。なお、循環水槽1内に前記第2図と同様の透水性の仕切板を設け、湿式塗装ブース2へ送水される洗浄水中への夾雑物の混入を防止してもよく、循環水槽1に攪拌機を設け、捕集された塗料の沈降を防止するように構成してもよい。
【0069】
この実施の形態では、ポンプPの吐出側の配管11から配管14が分岐し、この配管14の途中でカチオン性ポリマーを添加し、配管14の末端の散水器15から循環水槽1内に散水する。
【0070】
循環水槽1内の水は、ポンプPから配管18により固液分離装置20に送水され、塗料スラッジが分離回収される。この固液分離装置20で塗料スラッジが除去された処理水は配管19により循環水槽1に返送される(第2の循環水系)。
【0071】
ポンプPは水中ポンプであり、循環水槽1内の水面に浮上する複数のフロート16,16に吊支されている。このポンプPの上方部分において、循環水槽1内の水に対しアニオン性ポリマーが添加される。
【0072】
固液分離装置20は、主槽21と、該主槽21内に配置されたカゴ体22と、該カゴ体22内に配置された濾材としてのネット23とを有する。このネット23は、カゴ体22の内面に沿う袋形状とされており、上方に向って開放するようにカゴ体22内に配置されている。この袋状ネット23の上部領域に小槽24が配置されており、配管18からの水が該小槽24内に導入され、小槽24をオーバーフローして袋状ネット23内に落下するよう構成されている。ネット23を透過した水は、主槽21の下部の流出口から前記配管19を介して循環水槽1へ流出する。この小槽24内においてフロックが成長するので、ネット23によるフロック捕集効率が向上する。
【0073】
この実施の形態では、湿式塗装ブース2から循環水槽1水を返送する配管12にフェノール系樹脂と有機凝結剤とを添加している。これにより、湿式塗装ブース2からの戻り水中の塗料成分が凝集して一次凝集フロックを形成する。この一次凝集フロックがカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーによって二次凝集フロックに成長する。フェノール系樹脂、有機凝結剤、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーは、湿式塗装ブース2からの排水の特性、性状に応じて適宜試験して種類を選定するのが好ましい。
【0074】
なお、ネット23内の捕集スラッジが多くなったときには、小槽24をずらし、ネット23を取り出し、新品のネット23を装着するのが好ましい。
【0075】
本発明では、循環水槽1内の沈降物を吸引し、小槽24又はネット23内に流出させ、ネット23で沈降物を捕集してもよい。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
湿式塗装ブースが自動車バンパー塗装ブースである第1図のシステムにおいて、ブース2からの戻り水配管12に対しフェノール系樹脂及び有機凝結剤を添加し、配管14においてカチオン性ポリマーを添加し、フロート16,16で囲まれる領域にアニオン性ポリマーを添加した。主な条件は次の通りである。
<条件>
バンパー塗装に用いられる塗料:アクリル系水性上塗り塗料
保有水量:50m3
配管11,12の循環水量:10m3/min
配管14のバイパス循環水量:30L/min
フェノール系樹脂:フェノール・ホルムアルデヒド縮合物(液体)、ノボラック型、分子量約1700、固形分含量32質量%
フェノール系樹脂添加量:20mL/min
有機凝結剤:ジメチル・エピクロルヒドリン縮合物(液体)、重量平均分子量10万、固形分含量50質量%
有機凝結剤添加量:1mL/min
カチオン性ポリマー:アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド共重合物(液体)、共重合モル比66/17/17、重量平均分子量1000万、固形分含量24質量%
カチオン性ポリマー添加量:3mL/min
アニオン性ポリマー:アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物(アニオン度22〜28)のエマルション(蒸発残分40〜45%)
アニオン性ポリマー添加量:3mL/min
小槽24の容量:70L
袋状ネット23の容積:1000L
ネット23:ポリエチレン製糸をランダムに編組、ネットの開口の形状はランダム、開口の口径は0.1〜1mmがランダムに分布
ポンプPの送水量:30L/min
【0077】
この運転を20時間行い、20時間の平均濾過水量と、ネット23で捕集(回収)したスラッジ量とその含水率を測定した。結果を表1に示す。なお、袋状ネット23から水が溢れそうになったときにはポンプPを停止し、袋状ネット23内の水位が低下した後、ポンプPを再稼動させるようにした。
【0078】
[実施例2]
アニオン性ポリマーを添加しないこと以外は実施例1と同様にして運転を行った。20時間の平均濾過水量と、回収スラッジ量及びスラッジ含水率の測定結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
ネット23の代わりにポリプロピレン織布(糸の径:約2mm、開口の形状:四角形、開口の口径:約0.5mm)製の市販のフレコン袋を用いたこと以外は実施例1と同様にして運転を行った。20時間の平均濾過水量と、回収スラッジ量及びスラッジ含水率の測定結果を表1に示す。
【0080】
[実施例3]
小槽24を設置しなかったこと以外は実施例1と同様にして運転を行った。20時間の平均濾過水量と、回収スラッジ量及びスラッジ含水率の測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1の通り、実施例1〜3によると、塗料スラッジを効率よく捕集することができると共に、捕集したスラッジの含水率が低い。特に、実施例1は実施例2,3に比べても濾過水量が多く、処理効率が高い。
【符号の説明】
【0083】
1 循環水槽
2 湿式塗装ブース
16 フロート
20 固液分離装置
21 主槽
22 カゴ体
23 ネット
24 小槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブースからの塗料含有水に対し、カチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを添加するか、又は両性ポリマーを添加し、次いでネットによって濾過することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、ネットの口径が0.1〜1mmに分布していることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、湿式塗装ブースからの塗料含有水を循環水槽に受け入れ、該循環水槽から湿式塗装ブースに送水する第1の循環水系と、
該循環水槽から固液分離装置に送水し、分離水を該循環水槽に返送する第2の循環水系とを有する湿式塗装ブース循環水系の処理方法であって、
該第2の循環水系の固液分離装置への流入水にカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを含有させるか又は両性ポリマーを含有させることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項4】
請求項3において、前記循環水槽から固液分離装置に供給される水をまず小槽に流入させ、該小槽からの流出水を前記ネットで濾過することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記カチオン性ポリマーを第2の循環水系に添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか1項において、第1の循環水系のうち湿式塗装ブースから循環水槽に戻る水に対しフェノール系樹脂と有機凝結剤及び/又は無機凝結剤とを添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−194306(P2011−194306A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62692(P2010−62692)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】