説明

湿式混合機、湿式混合方法及びハニカム構造体の製造方法

【課題】 混合機の内壁への湿潤混合物の付着を防止しつつ、原料混合物を均一に混合することができる湿式混合機及び湿式混合方法を提供する。
【解決手段】
鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、原料投入口及び湿式混合物排出口が設けられたケーシングとを備え、上記原料投入口が上記ディスクよりも上方に配設され、かつ、上記湿式混合物排出口が上記ディスクよりも下方に配設されたことを特徴とする湿式混合機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式混合機、湿式混合方法及びハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排ガス中に含有されるスス等のパティキュレートが環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
そこで、排ガス中のパティキュレートを捕集して、排ガスを浄化するフィルタとして多孔質セラミックからなるハニカム構造体を用いたセラミックフィルタが種々提案されている。
【0003】
図4は、このようなセラミックフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図5(a)は、上記セラミックフィルタを構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【0004】
セラミックフィルタ130では、図5(a)及び(b)に示すようなハニカム焼成体140がシール材層(接着材層)131を介して複数個結束されてセラミックブロック133を構成し、さらに、このセラミックブロック133の外周にシール材層(コート材層)132が形成されている。
また、ハニカム焼成体140は、図5(a)及び(b)に示すように、長手方向に多数のセル141が並設され、セル141同士を隔てるセル壁143がフィルタとして機能するようになっている。
【0005】
すなわち、ハニカム焼成体140に形成されたセル141は、図5(b)に示すように、排ガスの入口側又は出口側の端部のいずれかが封口材層142により目封じされ、一のセル141に流入した排ガスは、必ずセル141を隔てるセル壁143を通過した後、他のセル141から流出するようになっており、排ガスがこのセル壁143を通過する際、パティキュレートがセル壁143部分で捕捉され、排ガスが浄化される。
【0006】
従来、このようなセラミックフィルタ130を製造する際には、例えば、まず、セラミック粉末とバインダと分散媒液等とを混合して湿潤混合物を調製する。そして、この湿潤混合物をダイスにより連続的に押出成形し、押し出された成形体を所定の長さに切断することにより、角柱形状のハニカム成形体を作製する。
【0007】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥や熱風乾燥を利用して乾燥させ、その後、所定のセルに目封じを施し、セルのいずれかの端部が封口材層により封止された状態とした後、脱脂処理及び焼成処理を施し、ハニカム焼成体を製造する。
【0008】
この後、ハニカム焼成体の側面にシール材ペーストを塗布し、ハニカム焼成体同士を接着剤を用いて接着させることにより、シール材層(接着材層)を介してハニカム焼成体が多数結束した状態のハニカム焼成体の集合体を作製する。次に、得られたハニカム焼成体の集合体に、切削機等を用いて円柱、楕円柱等の所定の形状に切削加工を施してセラミックブロックを形成し、最後に、セラミックブロックの外周にシール材ペーストを塗布してシール材層(コート材層)を形成することにより、セラミックフィルタの製造を終了する。
【0009】
このようにして製造されるセラミックフィルタの強度を保つための1つの要因として、湿潤混合物を調製する工程における原料混合物の均一な混合、分散が挙げられる。湿潤混合物の調製の際に原料混合物の混合や分散が不充分であると、セラミック粉末等が凝集し、粒径の大きい粉末塊が湿潤混合物中に生じる。
【0010】
このような粉末塊を含んだまま湿潤混合物を押出成形して成形体を作製し、得られる成形体を焼成してハニカム焼成体を製造すると、粉末塊が焼結した部分とそれ以外の焼結部分とでは、気孔径や気孔率、焼結度合いが異なることとなり、焼成体の物性に部位による不均一化が生じる。こうした物性の不均一化によってハニカム焼成体の強度の不均一化が生じ、それに応じて最終製品であるセラミックフィルタの強度の低下を生じさせることがあった。また、湿潤混合物は比較的粘度が高いことから混合機の内壁等に付着しやすく、この湿潤混合物の内壁への付着による回収率の低下も問題となっていた。
【0011】
そこで均一に混合、分散された湿潤混合物を得るために、種々の混合機や混合方法が開示されている。例えば、特許文献1には、混合工程が、攪拌羽根を有する混合機を用いて行なわれ、攪拌羽根の回転により、成形原料に対して剪断力を加えながら攪拌して混合を行うハニカム成形体の製造方法が開示されている。特許文献1には、この製造方法によると、成形原料中に含まれる微粒子が凝集して形成される凝集塊を粉砕し、凝集塊の粉砕物が均一に分散された成形用配合物を得ることができるという効果が記載されている。
【0012】
また、特許文献2には、多数のスリットを有する第1の櫛状歯と、第1の櫛状歯との間に0.1〜5mmの隙間を隔てて対向して配置された多数のスリットを有する第2の櫛状歯を備え、第1の櫛状歯と第2の櫛状歯とが相対的に高速で移動するスラリー混合装置を備えたセラミックス焼成体の製造装置が開示されている。特許文献2には、このスラリー混合装置によると、粉末分散の均一性が高く成形性に優れたスラリーを効率よく得ることができるという効果が記載されている。
【0013】
【特許文献1】国際公開第2005/18893号公報
【特許文献2】特開平7−82033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、容器と攪拌羽根との間等での成形原料の付着を防止するために、混合工程以外に骨材粒子原料の表面に被覆を施す手段、骨材粒子原料を分級する手段、加圧振動を加えながら混合させる手段等を採用する必要があり、工程数の増加や設備の追加、作業の煩雑化等を招いていた。
また、特許文献2に記載のスラリー混合装置では、粉末分散の均一性が高いスラリーが得られるが、スラリー中の水分濃度が45〜70体積%と水分含有率の高い混合物のみを対象とし、水分含有率を上記範囲外で幅広く設定して原料混合物を混合、分散するのには適さなかった。また、円周状に設置された櫛状歯が混合容器内で回転しているだけであるので、スラリーの容器への付着も防止することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、混合機の内壁への湿潤混合物の付着を防止しつつ、原料混合物を均一に混合することができる湿式混合機及び湿式混合方法を提供することを目的とし、鋭意検討を行った結果、ディスクの側面に攪拌羽根を備え付けた湿式混合機では、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
併せて、上記湿式混合機を用いた湿式混合方法、及び、この湿式混合方法を採用したハニカム構造体の製造方法を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
原料投入口及び混合物排出口が設けられたケーシングとを備え、
上記原料投入口が上記ディスクよりも上方に配設され、かつ、上記混合物排出口が上記ディスクよりも下方に配設されたことを特徴とする。
【0017】
上記湿式混合機において、上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、上記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmであることが望ましい。
また、上記湿式混合機において、上記ディスク及び/又は上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0018】
また、上記湿式混合機は、上記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられていることが望ましい。また、上記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0019】
本発明の粉末の湿式混合方法は、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製する粉末の湿式混合方法であって、
上記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
上記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、上記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とする。
【0020】
上記粉末の湿式混合方法では、上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、上記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmであることが望ましい。
また、上記粉末の湿式混合方法では、上記ディスク及び/又は上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0021】
また、上記粉末の湿式混合方法では、上記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられていることが望ましい。また、上記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0022】
上記粉末の湿式混合方法では、上記原料投入口は、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に設けられており、
上記相対的に回転軸部材に近い位置より粉末原料を投入し、上記相対的に回転軸部材から遠い位置より液体原料を投入することが望ましい。
また、上記粉末の湿式混合方法において、上記湿潤混合物は、温度が10〜30℃であることが望ましい。
【0023】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製し、この湿潤混合物を成形することによりハニカム成形体を作製し、これを焼成してハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
上記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
上記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、上記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とする。
【0024】
上記ハニカム構造体の製造方法では、上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、上記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmであることが望ましい。
また、上記ハニカム構造体の製造方法では、上記ディスク及び/又は上記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0025】
また、上記ハニカム構造体の製造方法では、上記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられていることが望ましい。また、上記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
【0026】
上記ハニカム構造体の製造方法では、上記原料投入口は、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に設けられており、
上記相対的に回転軸部材に近い位置より粉末原料を投入し、上記相対的に回転軸部材から遠い位置より液体原料を投入することが望ましい。
【0027】
また、上記ハニカム構造体の製造方法において、上記湿式混合機から排出された湿潤混合物は、温度が10〜30℃であることが望ましい。
【0028】
また、上記ハニカム構造体の製造方法では、上記粉末原料として、セラミック粉末と有機バインダとを含む粉末原料を使用し、
粉末原料における有機成分含有率を、5〜20重量%とすることが望ましい。
【0029】
また、上記ハニカム構造体の製造方法では、上記湿式混合機から排出された湿潤混合物の水分含有率を、7〜20重量%とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の湿式混合機には、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクが備えられているので、ケーシングの内壁面への湿潤混合物の付着を防止することができる。また、内壁面への湿潤混合物の付着を防止することにより、原料回収率を向上させることができる。
また、上記ケーシングには、原料投入口が上記ディスクよりも上方に配設され、かつ、湿式混合物排出口が上記ディスクよりも下方に配設されているので、粉末原料や液体原料はディスク上に投入される。そのため、粉末原料や液体原料は、このディスク上で、ディスクの回転方向に引き摺られながら、遠心力によりディスクの外縁に向かって移動することとなる。すなわち、粉末原料や液体原料は、ディスク平面で広がりながらディスクの外縁に移動することとなる。そして、ディスク上を移動する際に、均一に混合、分散されることとなる。従って、上記湿式混合機では、複雑な作業や工程数の増加を要することなく、原料混合物の効率的で均一な混合、分散が可能となる。
さらに、上記湿式混合機では、原料混合物がディスクの側面に設けられた攪拌羽根の外側を通過する際に、通過しやすい軟らかさ(ある程度の粘度)を有するように混練されることとなる。
【0031】
また、本発明の湿式混合方法では、上記の湿式混合機を用いて湿潤混合物を混合するので、湿潤混合物の水分含有率を問わず、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着を防止しつつ均一に混合することができる。
さらに、本発明のハニカム構造体の製造方法では、上記湿式混合機を用いた湿式混合方法を採用することによって、均一に混合され、かつ、凝集物の生じていない湿潤混合物を用いて成形体を作製するので、強度の高いハニカム構造体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
まず、本発明の湿式混合機及び湿式混合方法について説明する。
本発明の湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
原料投入口及び湿式混合物排出口が設けられたケーシングとを備え、
上記原料投入口が上記ディスクよりも上方に配設され、かつ、上記湿式混合物排出口が上記ディスクよりも下方に配設されたことを特徴とする。
【0033】
また、本発明の湿式混合方法は、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製する粉末の湿式混合方法であって、
上記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
上記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、上記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とする。
【0034】
図1(a)及び(b)は、本発明の湿式混合機の一例を模式的に示す図である。
図1(a)は、本発明の湿式混合機に備え付けられたディスクの一例の平面図であり、図1(b)は、本発明の湿式混合機の一例の縦断面図である。
【0035】
この湿式混合機20は、鉛直に設けられた回転軸部材21を備えるとともに、回転軸部材21をその中心軸として回転可能なように取り付けられた厚手の円盤状のディスク22を備えている。
ディスク22は、その側面に3枚の攪拌羽根(以下、ディスクの側面に複数設けられた攪拌羽根を中攪拌羽根ともいう)25を備えている。
【0036】
また、湿式混合機20には、回転軸部材21を中心に、ディスク22及び中攪拌羽根25が回転したときに描く軌跡を取り囲み、かつ、半径方向の縦断面の下側が略V字形状のケーシング26が備え付けられている。
ケーシング26においては、相対的に回転軸部材21に近い位置に設けられた原料投入口28aと相対的に回転軸部材21から遠い位置に設けられた原料投入口28bが、ディスク22よりも上方に位置するように配設され、かつ、混合物排出口29がディスク22よりも下方に位置するように配設されている。
従って、湿式混合機20では、原料投入口28a、28bから投入された原料は、主にディスク22上で混合、分散され、ケーシング26の内壁面に付着することなく、確実に混合物排出口29に向かって移動することとなる。
【0037】
湿式混合機20において、回転軸部材21の直径、ディスク22の厚さや直径等は、それぞれの構成部材の強度や、湿式混合機20において必要とされる混合効率・処理能力等を考慮して任意の値に設定することができる。
【0038】
また、湿式混合機20において、中攪拌羽根25は、ディスク22の側面における鉛直方向の位置がそれぞれ異なるように3枚設けられている。
ここで、中攪拌羽根25の形状について、もう少し詳しく説明する。図2は、中攪拌羽根25の先端の部分拡大斜視図である。
中攪拌羽根25は、相対的に大きい矩形体(以下、大矩形体ともいう)30と、相対的に小さい矩形体(以下、小矩形体ともいう)31とが、それらの主面が直交するように結合され、かつ、小矩形体31が角部が面取りされた大矩形体30の短辺側に結合された形状を有している。従って、大矩形体30の主面が水平であると、小矩形体31の主面は鉛直となる。
【0039】
そして、中攪拌羽根25を構成する大矩形体30がディスクの側面に水平に結合しており、3枚の中攪拌羽根25において、側面の鉛直方向での結合する位置がそれぞれ異なる。例えば、中攪拌羽根25の側面における鉛直方向の位置として、大矩形体30の下面がディスク22の上面と同一である位置(上位置)と、大矩形体30が側面のちょうど中間である位置(中位置)と、大矩形体30の上面がディスク22の下面と同一である位置(下位置)という結合位置等であってもよい。またこれに限らず、3枚の中攪拌羽根25の全てにおいて、大矩形体30の下面がディスク22の上面と同一である位置であってもよく、逆に、大矩形体30の上面がディスク22の下面と同一である位置であってもよい。
本発明の湿式混合機では、中攪拌羽根25の側面への結合位置として、上位置と中位置と下位置という結合位置が好ましい。このような結合位置にある中攪拌羽根25によってケーシング26の内壁面への湿潤混合物の付着を特に有効に抑制することができるからである。
【0040】
中攪拌羽根25は、回転軸部材21を中心としてディスク22の側面に放射状かつ等間隔で3枚設けられている。中攪拌羽根25は、ディスク22の側面において放射状に設けられていることが好ましいが、放射状方向から傾いた方向に設けられていてもよい。中攪拌羽根25と放射状方向とのなす角は、特に限定されないが、0〜10°であることが望ましい。
中攪拌羽根25として、放射状に設けられた中攪拌羽根25と放射状方向から傾いた方向に設けられた中攪拌羽根25とを組み合わせて使用してもよい。
さらに、中攪拌羽根25は、ディスク22の側面に等間隔で設けられていてもよく、不均等な間隔で設けられていてもよいが、等間隔で設けられていることが望ましい。中攪拌羽根25が等間隔で設けられていると中攪拌羽根25による剪断力等が原料混合物に対して均等に伝わり、均一な混合が達成されるからである。
なお、中攪拌羽根25が放射状方向から傾斜している場合、中攪拌羽根25は放射状方向から回転方向側に傾斜するように設けられていることが好ましい。湿潤混合物の内壁面への付着をより効率的に抑制するためである。
【0041】
また、中攪拌羽根25の放射状方向からの傾斜は、中攪拌羽根25全体として傾斜していてもよく、中攪拌羽根25を構成する小矩形体31のみが傾斜して大矩形体30は放射状方向に結合していてもよい。
小矩形体31は、中攪拌羽根25を構成する大矩形体30の傾斜とは独立して、放射状方向からさらに回転方向側に傾斜していてもよく、例えば、小矩形体31の主面は放射状方向から40〜80°の角度で傾斜していてもよい。小矩形体31の主面が上記範囲で傾斜していると、湿潤混合物のケーシング26の内壁面への付着をより効率的に抑制することができる。
【0042】
また、中攪拌羽根25の枚数は3枚に限定されず、2枚であっても良いし、4枚以上であってもよい。
しかしながら、中攪拌羽根25の枚数が2枚では、攪拌羽根の磨耗が激しく、耐久性に劣ることとなるため、3枚以上であることが望ましい。
【0043】
また、ディスク22の側面に設けられた中攪拌羽根25の先端と、ケーシング26の内壁面とのなす距離は、1〜10mmであることが望ましい。中攪拌羽根25の先端とケーシング26の内壁面とのなす距離が1mm未満であると、中攪拌羽根25やケーシング26と原料混合物との間の摩擦力が増大することによって、摩擦熱も上昇し、原料混合物中の有機バインダ等がゲル化するおそれが生じ、一方、10mmより大きいと、原料混合物の内壁面への付着を有効に抑制することができない場合があるからである。
【0044】
また、湿式混合機20において、ディスク22や、中攪拌羽根25は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましく、特に、中攪拌羽根25は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されているか、又は、高硬度部材で形成されていることが望ましい。
通常の金属で構成されたディスクや攪拌羽根を用いて炭化ケイ素等のセラミック粉末を含む粉末原料を混合する場合、このようなセラミック粉末等は非常に硬く、使用を続けるとセラミック粉末との摩擦によりディスクや攪拌羽根は磨耗する。これに対し、ディスクや攪拌羽根の全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていると、この磨耗の進行を遅延させることができる。
高硬度被覆層を形成するには、例えば、ディスクや攪拌羽根に対して高硬度部材を溶射、めっき等すればよい。
また、中攪拌羽根に高硬度被覆層が形成されている場合、中攪拌羽根の各部材において、異なる部位に異なる高硬度被覆層を形成してもよい。
【0045】
なお、中攪拌羽根25の一部に高硬度被覆層が形成されている場合、その望ましい形態の一例としては、例えば、大矩形体部分にタングステンカーバイドの溶射層が形成され、小矩形体のケーシングと対向する面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜が形成された態様が挙げられる。
【0046】
上記高硬度被覆層や上記高硬度部材(以下、両者を併せて高硬度被覆層等ともいう)とは、本発明では、JIS Z 2244に準拠して測定したビッカース硬さが1000(HV)以上のものをいう。
上記高硬度被覆層等のビッカース硬さは、1000(HV)以上であればよいが、2000(HV)以上がさらに望ましい。耐磨耗性に特に優れることとなるからである。
【0047】
上記高硬度被覆層としては、セラミックコーティング材、工業用ダイヤモンド、めっき被膜等が挙げられ、その具体的な材質としては、例えば、タングステンカーバイド(HV:2500)、チタンカーバイド(HV:3600)、窒化チタン(HV:1800〜2500)、立方晶窒化ホウ素(HV:2700)、CVDダイヤモンド(HV:2500〜4000)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン/HV:2000〜4000)、ZrN(HV:2000〜2200)、CrN(HV:1800〜2200)、TiCN(HV:2300〜3500)、TiAlN(HV:2300〜3300)、Al(HV:2200〜2400)、Ti(HV:2300)、WC−12%CO(HV:1200)等を主成分とするものが挙げられる。また、めっき被膜の具体例としては、例えば、無電解ニッケルメッキ(約400℃で処理)(HV:1000)、CrC4(硬質炭化クロム4%)メッキ(HV:1200)、ニッケルメッキ(SiC含有量2〜6重量%:400℃処理)(HV:1300〜1400)等が挙げられる。
なお、本明細書において、括弧内に記した各材質のビッカース硬さは、それぞれのおおよその値である。
これらのなかでは、タングステンカーバイドが望ましい。溶射により高硬度被覆層を形成する場合に、均一で、かつ、攪拌羽根本体等との密着性に優れ、強固に接着した層を形成することができるからである。
【0048】
また、上記高硬度部材の材質としては、例えば、タングステンカーバイド、チタンカーバイド、窒化チタン、ZrN、CrN、TiCN、TiAlN、Al等を主成分とするものが挙げられる。
全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている攪拌羽根を採用することによって、長期に渡って攪拌羽根の取り換え無しに運転を行うことが可能であり、設備費の増大や生産性の低下を防止することができる。
【0049】
次に、ケーシング26について説明する。
ケーシング26は、回転軸部材21を中心に、ディスク22とその側面に複数設けられた中攪拌羽根25とが回転したときに描く軌跡を取り囲み、かつ、半径方向の鉛直断面の下側が略V字形状の形状を有している。半径方向の鉛直断面下側の形状は略V字形状の形状に限定されず、例えば、略U字形状等の形状であってもよい。
【0050】
ケーシング26では、原料投入口28a、28bがディスク22よりも上方に位置するように配設され、かつ、混合物排出口29がディスク22よりも下方に位置するように配設されている。
【0051】
原料投入口28a、28bは、ディスク22よりも上方に位置するように配設されていれば配設位置は特に限定されないが、ケーシング26の上面のうち、粉末原料や液体原料等の投入の際に、ディスク22の上面上に投入されるような位置に配設されることが望ましい。高速で回転しているディスク22の上面上に粉末原料等が投入されると、この粉末原料等は、ディスク平面で広がりながらディスクの外縁に移動することとなり、この際、均一に混合されることとなるからである。
【0052】
原料投入口28a、28bの合計配設数は特に限定されないが、2〜6箇所であることが望ましい。原料投入口が2〜6箇所で配設されていると、粉末原料用の投入口及び液体原料用の投入口のように各投入口を原料ごとに割り当てることができ、原料の連続的かつスムーズな供給が可能となる。
また、上記のように各投入口を原料ごとに割り当てる場合、それぞれの原料投入口の配設数は、特に限定されないが、粉末原料用の原料投入口の配設数としては、1又は2箇所であることが望ましく、液体原料用の原料投入口の配設数としては、2〜4箇所であることが望ましい。粉末原料用の原料投入口及び液体原料用の原料投入口がそれぞれ上記配設数で配設されていると、原料をスムーズに供給することができるとともに、原料混合物を均一に混合することができる。
また、原料投入口が複数配設されている場合、図1(b)に示した原料投入口28a、28bのように、原料投入口は、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に設けられていることが望ましい。この理由については、後述する。
【0053】
また、混合物排出口29は、ディスク22よりも下方に位置するように配設されていれば配設位置は特に限定されないが、ケーシング26の最下点に近い位置に配設されていることが望ましい。混合物排出口29は、図1(b)に示すように、中攪拌羽根の回転により湿潤混合物が排出されるように構成されていてもよいし、混合物排出口から排出管(チューブ)を介して吸引することにより排出するように構成されていてもよい。
例えば、図1(b)に示す本発明の湿式混合機の実施形態の場合、混合物排出口29は、ケーシング26の半径鉛直断面における略V字形状部分に配設されていることが望ましく、さらに、略V字形状の先端付近に配設されていることが望ましい。これにより迅速な湿潤混合物の排出が可能となる。なお、混合物排出口29は、ケーシング26において1〜3箇所配設されていればよい。また、複数の混合物排出口29が配設されている場合、配設間隔は等間隔でもよく、集合して配設されていてもよい。
【0054】
中攪拌羽根本体やディスク、ケーシングの材質は特に限定されないが、例えば、SUS、ニッケルクロム系合金、コバルト系合金、炭素鉄クロム系合金等、磨耗・腐食に強い材質が望ましい。
【0055】
なお、図示しないが、ケーシング26の周囲には冷却装置が備え付けられていてもよい。粉末原料等を混合させるに従い摩擦熱等が発生し、発生した熱により粉末原料等の望ましくない物性の変化等を引き起こすからである。冷却装置の形状は特に限定されず、ジャケット型、配管巻き付け型等の任意の形状であってよい。また、冷却方法としては、例えば、水冷式、空冷式等の冷却方法を採用することができる。
【0056】
このような構成からなる本発明の湿式混合機では、複雑な作業や工程数の増加を要することなく、原料混合物の効率的で均一な混合、分散が可能となる。
また、上記湿式混合機では、内壁面に湿潤混合物が付着しにくいため、原料回収率を向上させることができる。
【0057】
また、本発明の湿式混合機の構成は、図1(a)及び(b)に示したような構成に限定されるわけではなく、例えば、図3(a)及び(b)に示すような構成を備えたものであってもよい。
図3(a)は、本発明の湿式混合機に備え付けられたディスクの別の一例の平面図であり、(b)は、本発明の湿式混合機の別の一例の縦断面図である。
【0058】
図3(a)及び(b)に示した湿式混合機40は、ディスク42の上面と下面とにさらに攪拌羽根が設けられている以外は、図1(a)及び(b)に示した湿式混合機20とその構成は同一である。
従って、ここでは、ディスクの上面及び下面に設けられた攪拌羽根を中心に湿式混合機40の構成を説明する。
湿式混合機40は、鉛直に設けられた回転軸部材41を備えるとともに、回転軸部材41をその中心軸として回転可能なように取り付けられた厚手の円盤状のディスク42を備えている。
ディスク42は、その側面に3枚の中攪拌羽根45を備えている。
【0059】
また、湿式混合機40は、回転軸部材41を中心に、ディスク42及び中攪拌羽根45が回転したときに描く軌跡を取り囲み、かつ、半径方向の縦断面の下側が略V字形状のケーシング46を備えている。
ケーシング46においては、相対的に回転軸部材41に近い位置に設けられた原料投入口48aと相対的に回転軸部材41から遠い位置に設けられた原料投入口48bが、ディスク42よりも上方に位置するように配設され、かつ、混合物排出口49がディスク42よりも下方に位置するように配設されている。
【0060】
湿式混合機40は、さらに、ディスク42の上面に3枚の攪拌羽根(以下、ディスクの上面に複数設けられた攪拌羽根を上攪拌羽根という)43、及び、ディスク42の下面に設けられた3枚の攪拌羽根(以下、ディスクの下面に複数設けられた攪拌羽根を下攪拌羽根という)44を備えている。
このような上攪拌羽根43と下攪拌羽根44とを備えることにより、より均一に原料を
混合することができ、さらに、ケーシングの壁面への湿潤混合物の付着をより確実に防止することができる。
【0061】
図3(b)に示すように、上攪拌羽根43は、連結棒47を介してディスク42の上面に連結して設けられている。また、図3(a)に示すように、3枚の上攪拌羽根43は、放射状かつ等間隔で設けられている。
また、上攪拌羽根43の枚数は3枚に限定されず、何枚であってもよい。
【0062】
上攪拌羽根43の形状は、所定の厚さを有する板状形状であり、上面からみた場合の形状としては、図示するように矩形の一方の長辺側の角が面取りされた形状でもよく、単なる矩形でもよく、さらに台形であってもよい。上攪拌羽根43の形状が矩形の一方の長辺側の角が面取りされた形状である場合、上攪拌羽根43は、矩形の面取りされていない長辺側が回転方向側に向くように設けられている。
また、1枚の上攪拌羽根43あたりの連結棒47の設置数は、上攪拌羽根43を確実に固定することができれば特に限定されないが、通常は、2〜3本の連結棒47が設置され、上攪拌羽根43とディスク42とを間隙を保持しつつ、確実に連結している。
【0063】
上攪拌羽根43の主面は、ディスク42の上面に対して傾斜するように設けられている。上攪拌羽根43の主面の傾斜角度は、特に限定されないが、ディスク42の上面に対して4〜70°であることが好ましい。
上攪拌羽根43の主面の傾斜角度が上記範囲にあると、ケーシング46の内壁面に原料混合物が付着することを有効に防止することができ、また、投入された粉末原料等を水平方向側から切るように混合するので、投入初期の原料混合物の凝集を有効に抑制することができる。特に、液体原料は、上攪拌羽根43で切られる(上攪拌羽根43と衝突する)ことにより霧状となり、その結果、粉末原料とより均一に混合され易くなる。
【0064】
ディスク42の上面に設けられた上攪拌羽根43の先端と、ケーシング46の内壁面とのなす距離は、3〜8mmであることが望ましい。これは中攪拌羽根45の場合とほぼ同様の理由による。すなわち、上攪拌羽根43の先端とケーシング46の内壁面とのなす距離が3mm未満であると、上攪拌羽根43やケーシング46と原料混合物との間の摩擦力が増大することによって、摩擦熱も上昇し、原料混合物中の有機バインダがゲル化するおそれが生じる。また、8mmより大きいと、原料混合物の内壁面への付着を有効に抑制することができない場合がある。
【0065】
ここで上述のように、ディスク42の上面と上攪拌羽根43との間には連結棒が介在するので、所定の空間が存在する。このような空間が存在することにより、原料混合物のディスク42上での移動の自由度が確保され、原料混合物の均一な攪拌・混合が達成されることとなる。
なお、上記本発明の湿式混合機では、上攪拌羽根がディスクの上面に直接取り付けられていてもよい。
【0066】
ディスク42の上面と上攪拌羽根43との間の最小距離は、10〜30mmであることが好ましい。ディスク42の上面と上攪拌羽根43との間の最小距離が10mm未満であると、それに応じてディスク42の上面とケーシング46との間の空間が狭くなり、原料混合物を有効に混合することができる容積が小さくなって処理能力が低下するおそれがある。一方、上記最小距離が30mmを超えると、ディスク42上に投入された粉末原料を上攪拌羽根43で切るように混合することができない場合があるからである。
【0067】
また、湿式混合機40では、3枚の上攪拌羽根43が、放射状かつ等間隔で設けられている。上攪拌羽根43の放射状方向からの傾斜や設置間隔は、中攪拌羽根45の場合と同様の構成を好適に採用することができる。
【0068】
図3(b)に図示するように、下攪拌羽根44は、矩形とこの矩形の下辺で接する逆三角形とを組み合わせた形状を有し、この矩形の上辺部分でディスク42の下面と結合している。下攪拌羽根44の形状は、図示した形状に限定されず、矩形と逆半円形を組み合わせた形状、台形形状、2つの矩形を組み合わせた略L字形状等の形状であってもよい。
また、ディスク42の下面と結合している矩形の上辺の長さは、原料混合物を効率的に攪拌することができる攪拌羽根の大きさである限り限定されず、ディスク42の半径の長さに対する上辺の長さの比(矩形上辺/ディスク半径)が、0.3〜0.8の範囲となるような長さであることが望ましい。
【0069】
また、下攪拌羽根44は、ディスク42の下面において回転軸部材41を中心に放射状かつ等間隔で設けられている。下攪拌羽根44は、ディスク42の下面において放射状に設けられていることが好ましいが、放射状方向から傾いた方向に設けられていてもよい。下攪拌羽根44と放射状方向とのなす角は、特に限定されないが、0〜10°であることが望ましい。下攪拌羽根44として、放射状に設けられた下攪拌羽根44と放射状方向から傾いた方向に設けられた下攪拌羽根44とを組み合わせて使用してもよい。
さらに、下攪拌羽根44は、ディスク42の下面の円周上に等間隔で設けられていてもよく、不均等な間隔で設けられていてもよいが、等間隔で設けられていることが望ましい。下攪拌羽根44が等間隔で設けられていると、下攪拌羽根44による剪断力等が原料混合物に対して均等に伝わり、均一な混合が達成されるからである。
【0070】
ここで、ディスク42の下面に設けられた下攪拌羽根44は、その主面がディスク42の下面に対して略垂直になるように設けられていてもよいが、その主面がディスク42の下面と50〜85°の角度をなすように傾けて設けられていることが望ましい。
下攪拌羽根44の主面が上記角度をなすように傾けて設けられていると、原料混合物を確実に回転方向に移動させることができるからである。
なお、下攪拌羽根44の主面が傾けて設けられている場合、その傾斜方向は、回転方向側であることが好ましい。
【0071】
ディスク42の下面に設けられた下攪拌羽根44の先端と、ケーシング46の内壁面とのなす距離は、1〜10mmであることが望ましい。
下攪拌羽根44の先端とケーシング26の内壁面とのなす距離が1mm未満であると、下攪拌羽根44と原料混合物との間の摩擦力、及び、原料混合物とケーシング46の内壁面との間の摩擦力が大きくなり、これによって摩擦熱も大きくなるので、原料混合物中に含まれる有機バインダが混合中にゲル化するおそれがある。また、上記距離が10mmより大きいと、下攪拌羽根44の先端とケーシング46の内壁面との間の空間に存在する原料混合物が充分攪拌されなかったり、原料混合物の内壁面への付着を有効に抑制することができなかったりする場合がある。
【0072】
また、上攪拌羽根43や下攪拌羽根44は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されていることが望ましい。
上記高硬度部材や高硬度被覆層の具体的な材質等は、中攪拌羽根と同様である。なお、上攪拌羽根本体や、下攪拌羽根本体の具体的な材質等も中攪拌羽根と同様である。
【0073】
また、下攪拌羽根の一部に高硬度被覆層が形成されている場合、上記高硬度被覆層が形成された領域は、下攪拌羽根の縁部から5〜30mmの幅であることが望ましい。上記領域の幅が5mm未満では磨耗が進行し易く、一方、30mmを超えると、粉末原料が下攪拌羽根に付着し易くなり、混合が良好に進行しないおそれがあるからである。
【0074】
本発明の湿式混合方法は、本発明の湿式混合機を用いて好適に行うことができる。
すなわち、本発明の湿式混合方法では、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを本発明の湿式混合機で混合して湿潤混合物を調製する。
【0075】
上記粉末原料及び液体原料としては特に限定されず、例えば、有機系原料、無機系原料、有機−無機複合原料、又は、これらを組み合わせた原料等のあらゆる原料が挙げられる。ここでは、特にハニカム構造体の構成原料となるセラミック粉末等を含む湿潤混合物を調製する場合を例に本発明の混合方法について説明する。
【0076】
上記粉末原料には、上述のようにセラミック粉末が含まれる他、有機バインダ粉末等が含まれていてもよい。また、液体原料には、分散媒液の他、例えば、可塑剤、潤滑剤等が含まれていてもよい。
このような原料を混合して湿潤混合物を調製する本発明の湿式混合方法は、ハニカム構造体の製造方法に好適に使用することができる。従って、粉末原料及び液体原料の詳細は、ハニカム構造体の製造方法の説明において記載する。
【0077】
上記粉末原料は、湿式混合機に連続的に投入してもよく、断続的に投入してもよいが、連続的に投入することが望ましい。効率良く、均一な湿潤混合物を得ることができるからである。
【0078】
また、上記粉末原料が2種以上の原料を含んでいる場合、これらの原料を湿式混合機に投入する順序は限定されず、2種以上の原料を予め混合しておいた粉末原料を湿式混合機に投入してもよく、順次別個に投入してもよいが、2種以上の原料を攪拌機等で予め混合しておき、これを湿式混合機内に投入することが望ましい。
上記粉末原料を連続的に投入する場合、その投入量は150〜400kg/hrの範囲にあることが望ましい。
【0079】
また、液体原料には、少なくとも分散媒液が含まれており、さらに、可塑剤、潤滑剤等が含まれていてもよい。本明細書において、液体原料に2以上の原料が含まれる場合、分散媒液以外の原料が固体や半固体であっても、2以上の原料が混合された混合物が湿式混合機に投入される際に液状であれば液体原料とする。従って、液体原料に分散媒液以外の固体原料が含まれる場合には、湿式投入機への投入前に予め混合し、液体原料を調製しておくことが望ましい。
【0080】
上記液体原料は、湿式混合機に連続的に投入してもよく、断続的に投入してもよいが、連続的に投入することが望ましい。効率良く、均一な湿潤混合物を得ることができるからである。
【0081】
上記液体原料を連続的に投入する場合、投入量は20〜50kg/hrの範囲にあることが望ましい。
これは原料混合物の局所的な粘度の上昇が抑制されることによって、粉末塊の急な発生が抑えられ、液体原料と粉末原料とが全体的に均一に混合されるからである。なお、液体原料を連続的に投入する場合には、所定投入量で噴霧して投入してもよく、噴霧等せずに直接流入させてもよい。
【0082】
また、本発明の混合方法においては、湿式混合機として、図1(a)及び(b)並びに図3(a)及び(b)に示したような、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に原料投入口が設けられた湿式混合機を使用し、相対的に回転軸部材に近い原料投入口(図1(b)中、28a)より粉末原料を投入し、相対的に回転軸部材から遠い原料投入口(図(b)1中、28b)より液体原料を投入することが望ましい。
これにより、粉末原料がディスク上面で広がった後に、液体原料と接触(衝突)することなるため、粉末原料と液体原料と接触率(衝突率)が向上し、より均一に混合されることとなるからである。特に、図3(a)及び(b)に示したような、上攪拌羽根を供えた湿式混合機を用いた場合には、上攪拌羽根により液体原料が霧状化した後、粉末原料と接触(衝突)となるため、さらに確実に、均一な混合を達成することができる。
【0083】
このようにして湿式混合機に投入された粉末原料と液体原料とを湿式混合する。
このとき、ディスクの回転数の下限は、200min−1が望ましく、500min−1がより望ましく、700min−1が特に望ましい。一方、上記回転数の上限は、2000min−1が望ましく、1500min−1がより望ましく、1200min−1が特に望ましい。
上記回転数が200min−1未満であると、原料混合物に加わる衝撃、圧縮力、剪断力、摩擦力等が充分でないことから均一な混合が達成されない場合があり、一方、2000min−1を超えると粉末原料の温度上昇を抑制することが困難となったり、攪拌羽根の消耗等の進行が早まったりするおそれがある。
【0084】
また、粉末原料と液体原料とを湿式混合する間、ディスクの回転数は上記範囲にあれば一定であってもよく、可変であってもよい。通常は一定であるが、原料混合物の粘度の変化等に応じて変化させることにより、さらに効率的に原料混合物を混合することができる。
【0085】
また、必要に応じて温度計や粘度計を湿式混合機に備え付け、内部温度や原料混合物の粘度等をオンラインで測定しながら混合状態を最適化することも可能である。上記攪拌羽根による攪拌に加えて、機械的・電磁的な振動、気流混合、邪魔板等を加えて補助的に原料混合物を混合してもよい。さらに、湿式混合機に減圧機構を取り付けることによって、原料混合物の発泡を抑えながら混合することも可能である。
【0086】
本発明の湿式混合方法により調製された湿潤混合物は、湿式混合機に設けられた混合物排出口から排出される。
湿式混合機から排出されたときの湿潤混合物の温度は、10〜30℃が望ましい。湿潤混合物の温度が10℃未満であると、空気中の水分が結露して湿潤混合物中の水分含有率が増加し、湿潤混合物が軟らかくなり、湿潤混合物の軟らかさ(粘度)のバラツキが大きくなる。これにより混合状態が不均一となってしまい、湿潤混合物の成形性が悪化する場合がある。一方、上記温度が30℃を超えると有機バインダがゲル化し、湿潤混合物の均一性を維持することができなくなる場合があるからである。
【0087】
次に、本発明のハニカム構造体の製造方法について説明する。
本発明のハニカム構造体の製造方法は、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製し、この湿潤混合物を成形することによりハニカム成形体を作製し、これを焼成してハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
上記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
上記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、上記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とする。
【0088】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法について、工程順に説明する。
ここでは、構成材料の主成分が炭化ケイ素のハニカム構造体を製造する場合を例に、セラミック粉末として炭化ケイ素粉末を使用した場合のハニカム構造体の製造方法について説明する。
【0089】
勿論、ハニカム構造体の構成材料の主成分は炭化ケイ素に限定されるわけではなく、他に、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、チタン酸アルミニウム等の酸化物セラミック等が挙げられる。
これらのなかでは、非酸化物セラミックが好ましく、炭化ケイ素が特に好ましい。耐熱性、機械強度、熱伝導率等に優れるからである。なお、上述したセラミックに金属ケイ素を配合したケイ素含有セラミック、ケイ素やケイ酸塩化合物で結合されたセラミック等も構成材料として挙げられ、これらのなかでは、炭化ケイ素に金属ケイ素が配合されたもの(ケイ素含有炭化ケイ素)が望ましい。
【0090】
まず、少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製する。
【0091】
さらに、上記粉末原料として、セラミック粉末と有機バインダとを含む粉末原料を使用し、有機成分含有率を、5〜20重量%とすることが望ましい。
セラミック粉末に加えて粉末原料にさらに有機バインダが含まれていると、成形体製造用の湿潤混合物としての成形性が向上する。また上記有機成分含有率が、粉末原料の合計重量に対して5〜20重量%であることで、より良好な成形性が得られる。
一方、有機成分含有率が5重量%未満であると、原料混合物の粘度が低くなるので、原料混合物を均一に混合することが困難となる。また、有機成分含有率が20重量%を超えると、有機バインダ等の有機成分がゲル化したり不溶化したりする傾向が大きくなり、原料混合物を均一に混合することができなくなる場合が生じる。また、原料混合物の粘度も高くなるので、均一に混合することが困難となる。
【0092】
粉末原料に少なくとも1種含まれる粉末として、上記炭化ケイ素粉末を好適に使用することができる。
上記炭化ケイ素粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、0.3〜50μmの平均粒径を有する粉末100重量部と0.1〜1.0μmの平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが好ましい。平均粒径が上記範囲にあると後の焼成工程での収縮が少なく好ましい。
ハニカム焼成体の気孔径等を調節するためには、焼成温度を調節する必要があるが、炭化ケイ素粉末の粒径を調節することにより、気孔径を調節することができる。
【0093】
上記セラミック粉末としては、上記のような平均粒径の異なる炭化ケイ素を好適に使用することができる。
また、上記有機バインダとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのなかでは、メチルセルロースが望ましい。
【0094】
さらに、上記粉末原料には、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等を挙げることができる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0095】
粉末原料に2種以上の原料が含まれている場合、湿式混合機への投入前に攪拌機等を用いて予めこれらの原料を乾式混合しておいてもよい。
【0096】
一方、液体原料に少なくとも含まれる分散媒液としては、特に限定されず、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0097】
液体原料には、分散媒液に加えて、さらに液状の可塑剤や潤滑剤等が含まれていてもよい。
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、グリセリン等が挙げられる。
また、上記潤滑剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
潤滑剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0098】
さらに、上記液体原料中には、成形助剤が添加されていてもよい。
上記成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
このような複数の原料を含む液体原料も粉末原料と同様に、湿式混合機への投入前に予め混合しておいてもよい。
【0099】
続いて、上記粉末原料と上記液体原料とを湿式混合機を用いて混合することにより、成形体製造用の湿潤混合物を調製する。
本発明のハニカム構造体の製造方法では、この湿式混合機として、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の攪拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、上記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、上記ディスクよりも下方に配設された湿式混合物排出口を有するケーシングとを備えた湿式混合機を使用する。
具体的には、既述の本発明の湿式混合機を好適に使用することができる。
【0100】
また、上記湿式混合機を用いた湿式混合方法としては、上述の本発明の湿式混合方法を採用することができる。
本発明のハニカム構造体の製造方法では、上記湿式混合機を用いた湿式混合方法を採用することによって、均一に混合され、かつ、凝集物の生じていない湿潤混合物を用いて成形体を作製し、この成形体を焼成したハニカム焼成体を使用するので、強度の高いハニカム構造体を製造することができる。
【0101】
本発明の製造方法では、ここで、湿式混合機として、図1(a)及び(b)並びに図3(a)及び(b)に示したような、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に原料投入口が設けられた湿式混合機を使用し、相対的に回転軸部材に近い原料投入口(図1(b)中、28a)より粉末原料を投入し、相対的に回転軸部材から遠い原料投入口(図1(b)中、28b)より液体原料を投入することが望ましい。
その理由は、本発明の混合方法で説明したとおりである。
【0102】
また、ここで上記湿式混合機で調製され排出された湿潤混合物は、温度が10〜30℃であることが望ましい。温度が10℃未満であると、空気中の水分が結露して湿潤混合物が軟らかくなり、また、湿潤混合物の軟らかさ(粘度)のバラツキが大きくなる。このために、湿潤混合物の混合状態が不均一となり、成形性が悪化する場合がある。一方、温度が30℃を超えると、湿潤混合物に含まれる有機バインダがゲル化してしまうことがある。
【0103】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法において、湿潤混合物の成形性を考慮すると、上記湿式混合機から排出された湿潤混合物の水分含有率を7〜20重量%とすることが望ましく、10〜15重量%とすることがより望ましい。
水分含有率が7重量%未満であると、湿潤混合物が軟らかくなり、20重量%を超えると反対に硬くなるので、いずれの場合も成形性が低下するおそれがあるが、水分含有率が上記範囲であると、調製した湿潤混合物において良好な成形性や均一性、混練性を達成することができる。
【0104】
このようにして得られた湿潤混合物は、調製後に搬送装置を用いて搬送され、押出成形機に投入されることとなる。
【0105】
上記搬送装置で搬送された湿潤混合物を押出成形機に投入した後は、押出成形により所定の形状のハニカム成形体とする。
次に、上記ハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて乾燥させる。
次いで、必要に応じて、入口側セル群の出口側の端部、及び、出口側セル群の入口側の端部に、封止材となる封止材ペーストを所定量充填し、セルを目封じする。
【0106】
上記封止材ペーストとしては特に限定されないが、後工程を経て製造される封止材の気孔率が30〜75%となるものが望ましく、例えば、上記湿潤混合物と同様のものを用いることができる。
【0107】
上記封止材ペーストの充填は、必要に応じて行えばよく、上記封止材ペーストを充填した場合には、例えば、後工程を経て得られたハニカム構造体をセラミックフィルタとして好適に使用することができ、上記封止材ペーストを充填しなかった場合には、例えば、後工程を経て得られたハニカム構造体を触媒担持体として好適に使用することができる。
【0108】
次に、上記封止材ペーストが充填されたセラミック乾燥体を、所定の条件で脱脂(例えば、200〜500℃)、焼成(例えば、1400〜2300℃)することにより、全体が一の焼成体から構成され、複数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム焼成体を製造することができる。
上記セラミック乾燥体の脱脂及び焼成の条件は、従来から多孔質セラミックからなるフィルタを製造する際に用いられている条件を適用することができる。
【0109】
次に、ハニカム焼成体の側面に、シール材層(接着材層)となるシール材ペーストを均一な厚さで塗布してシール材ペースト層を形成し、このシール材ペースト層の上に、順次他のハニカム焼成体を積層する工程を繰り返し、所定の大きさのハニカム焼成体の集合体を作製する。
【0110】
上記シール材ペーストとしては、例えば、無機バインダと有機バインダと無機繊維及び/又は無機粒子とからなるもの等が挙げられる。
上記無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機バインダのなかでは、シリカゾルが望ましい。
【0111】
上記有機バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記有機バインダのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0112】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機繊維のなかでは、アルミナファイバが望ましい。
【0113】
上記無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等を挙げることができ、具体的には、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素からなる無機粉末等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化ケイ素が望ましい。
【0114】
さらに、上記シール材ペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等を挙げることができる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0115】
次に、このハニカム焼成体の集合体を加熱してシール材ペースト層を乾燥、固化させてシール材層(接着材層)とする。
次に、ダイヤモンドカッター等を用い、ハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して複数個接着されたハニカム焼成体の集合体に切削加工を施し、円柱形状のセラミックブロックを作製する。
【0116】
そして、ハニカムブロックの外周に上記シール材ペーストを用いてシール材層(コート材層)を形成することで、ハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して複数個接着された円柱形状のセラミックブロックの外周部にシール材層(コート層)が設けられたハニカム構造体を製造することができる。
【0117】
その後、必要に応じて、ハニカム構造体に触媒を担持させる。上記触媒の担持は集合体を作製する前のハニカム焼成体に行ってもよい。
触媒を担持させる場合には、ハニカム構造体の表面に高い比表面積のアルミナ膜を形成し、このアルミナ膜の表面に助触媒、及び、白金等の触媒を付与することが望ましい。
【0118】
上記ハニカム構造体の表面にアルミナ膜を形成する方法としては、例えば、Al(NO等のアルミニウムを含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法、アルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
上記アルミナ膜に助触媒を付与する方法としては、例えば、Ce(NO等の希土類元素等を含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
上記アルミナ膜に触媒を付与する方法としては、例えば、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液([Pt(NH(NO]HNO、白金濃度4.53重量%)等をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
また、予め、アルミナ粒子に触媒を付与して、触媒が付与されたアルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法で触媒を付与してもよい。
【0119】
また、ここまで説明したハニカム構造体の製造方法により作成されるハニカム構造体は、複数のハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して結束された構成を有するハニカム構造体(以下、集合型ハニカム構造体ともいう)であるが、本発明の製造方法により製造するハニカム構造体は、円柱形状のセラミックブロックが1つのハニカム焼成体から構成されているハニカム構造体(以下、一体型ハニカム構造体ともいう)であってもよい。
【0120】
このような一体型ハニカム構造体を製造する場合は、まず、押出成形により成形するハニカム成形体の大きさが、集合型ハニカム構造体を製造する場合に比べて大きい以外は、集合型ハニカム構造体を製造する場合と同様の方法を用いて、ハニカム成形体を作製する。
ここで、粉末原料と液体原料とを混合して湿潤混合物を調製する方法等は、上記集合型ハニカム構造体を製造する方法と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0121】
次に、集合型ハニカム構造体の製造と同様に、上記セラミック成形体を、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて乾燥させる。次いで、入口側セル群の出口側の端部、及び、出口側セル群の入口側の端部に、封止材となる封止材ペーストを所定量充填し、セルを目封じする。
その後、集合型ハニカム構造体の製造と同様に、脱脂、焼成を行うことによりセラミックブロックを製造し、必要に応じて、シール材層(コート層)の形成を行うことにより、一体型ハニカム構造体を製造することができる。また、上記一体型ハニカム構造体にも、上述した方法で触媒を担持させてもよい。一体型ハニカム構造体の主な構成材料としては、コージェライトやチタン酸アルミニウムであることが好ましい。
このようにして、本発明のハニカム構造体の製造方法では、強度の高いハニカム構造体を効率よく製造することができる。
【0122】
またここでは、ハニカム構造体として、排ガス中のパティキュレートを捕集する目的でも用いるハニカムフィルタ(セラミックフィルタ)を中心に説明したが、上記ハニカム構造体は、排ガスを浄化する触媒担体(ハニカム触媒)としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0123】
以下に実施例を掲げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
下記の実施例、参考例及び比較例では、本発明の湿式混合機により調製した湿潤混合物を用いてハニカム焼成体を作製した。このハニカム焼成体の作製過程において、湿潤混合物の混合の均一性や混練性、湿潤混合物の成形性、ハニカム焼成体の強度、湿潤混合物のケーシング内壁への付着の有無等を評価した。
また、上記の評価は、湿式混合機の運転を10分間継続して行い、10分間経過以降に行った。
【0124】
(実施例1)
平均粒径10μmのα型炭化ケイ素の粗粉末7000gと、平均粒径0.5μmのα型炭化ケイ素の微粉末3000gと、有機バインダ(メチルセルロース)500gとを混合し、粉末原料を調製した。
別途、分散媒液として水1700gと、潤滑剤(日本油脂社製 ユニルーブ)330gと、可塑剤(グリセリン)150gとを混合して液体原料を調製し、この液体原料と上記粉末原料とを本発明の湿式混合機を用いて混合し、湿潤混合物を調製した。この間、湿式混合機に備えられた冷却装置(水冷型)を用いて、湿潤混合物の温度が25℃となるように冷却を続けた。
本実施例における湿式混合機の運転条件(ディスク回転数[min−1]、粉末原料の投入量[kg/hr]及び液体原料の投入量[kg/hr])は、表1に示す通りである。
なお、原料混合物中の水分含有率及び湿潤混合物中の水分含有率は、ともに13.4重量%(30.3体積%)であった。また、原料混合物全体の重量に対する有機成分の含有量は9重量%であった。原料を混合する際の原料の配合割合等を表1にまとめて示す。
【0125】
【表1】

【0126】
本実施例で使用した湿式混合機は、図3(a)及び(b)に示した構成を有する湿式混合機であり、その具体的な仕様は以下の通りである。
(1)原料投入口・・・回転軸部材に隣接するように1箇所の粉末原料用の原料投入口を備えるとともに、回転軸部材からディスクの半径の1/2の距離外縁側に離れた位置に2箇所の液体原料用の原料投入口を備える。
(2)中攪拌羽根・・・SUS製の大矩形体及び小矩形体からなり、大矩形体の露出面全体にタングステンカーバイド(WC)の溶射層が形成され、小矩形体のケーシングの内壁面と対向する面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が形成されている。また、中攪拌羽根の先端とケーシングの内壁面とのなす距離が5mmである。
(3)ディスク・・・SUS製で、高硬度被覆層は形成されていない。
【0127】
(4)上攪拌羽根・・・タングステンカーバイド製で、タングステンカーバイド製の連結棒を介してディスク上面に固定されている。なお、ディスク上面と上攪拌羽根との最小距離は20mmであり、上攪拌羽根の先端とケーシングとの距離は5mmである。
(5)下攪拌羽根・・・攪拌羽根本体がSUS製で、その縁部から25mmまでの部分にタングステンカーバイドの溶射層が形成されている。なお、下攪拌羽根の先端とケーシングとの距離は5mmである。
湿式混合機の具体的仕様についての各部材配設数等を表2にまとめて示す。
【0128】
【表2】

【0129】
ここで、本混合工程終了後、熱重量分析試験により、ランダムに採取した湿潤混合物の有機成分含有率を測定することにより、湿潤混合物の混合の均一性を評価した。
この評価方法では、湿潤混合物が均一に混合されていればいるほど、各サンプル間の有機成分含有率の差が小さくなる。なお、熱重量分析試験は、湿潤混合物からサンプリングした5点のサンプルを用い、JIS K 7120を参考に行った。詳細には、約50mgのサンプルをサンプル容器に入れ、加熱前の質量を記録する。加熱開始に先立って乾燥空気を1時間サンプル容器に流入させ、その後、加熱速度10±1℃/minで温度上昇させて、ほぼ恒量になった際の質量を温度/質量曲線から読み取り有機成分含有率を求めた。結果を表3に示す。
【0130】
また、調製した湿潤混合物の混練性を評価するために、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて試験を行った。この試験では、2本のローラーを同期的に定速回転させ、ローラー間やローラーとミキサー内壁との間で測定対象物を混練し、その際の混練抵抗をローラーの軸に受け取るトルクとして測定して測定対象物の混練性を評価する。測定対象物の混練性が不充分な場合には、ラボプラストミルによりさらに所定時間混練した後であってもローラーに負荷されるトルクは高いままである。この原理に従って、湿潤混合物の混練性を評価した。
具体的には、ラボプラストミルを用い、ローラーの回転速度を20min−1として、90gの湿式混合物を20℃で300秒間混練した後の平均トルク[kg・m]を測定した。
【0131】
さらに、湿式混合機の運転終了後、ケーシングの内壁に湿潤混合物が付着しているか否かを目視により観察した。また、耐久性試験については、湿式混合機を3カ月間使用し、3カ月経過後の攪拌羽根の磨耗の状況を目視で確認することにより行った。
【0132】
次に、この湿潤混合物を搬送装置を用いて押出成形機まで搬送し、押出成形機の原料投入口に投入した。そして、押出成形により、図5(a)及び(b)に示した形状の成形体を作製した。このときの湿潤混合物の成形性を、次工程である乾燥工程を経た乾燥後の成形体の反り量により評価した。混合後の混合状態が均一であると、成形体中の水分も均一に分散されている。この場合は、乾燥時に成形体から蒸発する水分も均一に蒸発し、乾燥後の成形体において反りの度合いが低減される。従って、均一に混合された湿潤混合物では良好な成形性が得られる。
【0133】
ここで、乾燥後の成形体の反り量の測定は、反り量測定用治具を用いて行った。反り量測定用治具の構成としては、成形体の全長とほぼ同じ長さを有する真直な角材において、この角材の両端に同じ厚さの当接部材が配設されており、また、この角材の中央には上記角材の長手方向と垂直にスライド可能なスケールが取り付けられている。測定時には、上記当接部材を成形体の両端付近に当接し、その後、反り量測定用スケールを成形体側に移動させ、成形体と上記スケールとが接触したときのスケールの移動量を読み取ることにより反り量を測定する。
【0134】
なお、押出成形後の成形体の乾燥にはマイクロ波乾燥機を用い、上記生成形体を乾燥させ、乾燥体とした。
【0135】
乾燥後、上記湿潤混合物と同様の組成の封止材ペーストを所定のセルに充填した。
次いで、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、気孔率が40%、平均気孔径が12.5μm、その大きさが34.3mm×34.3mm×150mm、セルの数(セル密度)が46.5個/cm、セル壁の厚さが0.20mmの炭化ケイ素焼成体からなるハニカム焼成体を製造した。
【0136】
次に、得られたハニカム焼成体について、その強度を、JIS R 1601を参考にした3点曲げ強度試験により評価した。
詳細には、ランダムに抜き出したハニカム焼成体(5サンプル)について、インストロン5582を用い、スパン間距離:135mm、スピード1mm/minで3点曲げ強度試験を行い、各ハニカム焼成体の3点曲げ強度[MPa]を測定した。
各試験の評価の結果を表3にまとめて示す。
【0137】
【表3】

【0138】
表3に示すように、乾燥後の成形体の反りは0.5mm未満であり、反りの発生が有効に抑制されていた。また、得られた湿潤混合物の有機成分含有率では標準偏差が0.18とばらつきが小さく、湿式混合物が均一に混合されていることが分かった。ラボプラストミルを用いた試験においても良好な混練性を示し、作製したハニカム焼成体の強度も高かった。
【0139】
(実施例2、参考例1、2)
湿式混合機の仕様において、中攪拌羽根の先端とケーシングの内壁面とのなす距離を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、耐久試験後の磨耗の状況、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。結果を表5に示す。なお、以降の実施例、参考例、比較例における混合機の仕様や試験結果を示す表には、比較参考のために実施例1の混合機の仕様や結果を併せて示す。
【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
表5に示したように、実施例2で作製したハニカム焼成体についての試験結果は良好であった。参考例1では評価結果は概ね良好であったが、混合物の温度が若干高く、耐久試験後において中攪拌羽根が実施例1と比較して磨耗していた。これは中攪拌羽根とケーシングとの間の間隔が狭いことから、中攪拌羽根により混合される際の摩擦熱が上昇したことや、混合物の噛み込みが生じて磨耗が進行したこと等が原因であると考えられる。一方、上記間隔を広げた参考例2では、有機成分含有率のばらつき、及び、ラボプラストミルを用いた試験の値が大きく、混合の均一度がわずかに低下しているとともに、混練性も劣るものとなっていた。これは、中攪拌羽根とケーシングとの間の間隔が広いために、中攪拌羽根によって効率的に混合・混練されなかったからであると考えられる。
【0143】
(実施例3、参考例4〜5)
湿式混合機の仕様において、粉末原料用の原料投入口、及び、液体原料用の原料投入口の数を表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。なお、参考例4では、粉末原料用の原料投入口を回転軸部材に隣接するように1箇所配設し、さらに、新たな粉末原料用の原料投入口を回転軸部材からディスク半径の1/2の距離外縁側に離れた位置に1箇所配設し、粉末原料用の原料投入口として合計2箇所配設した。また、参考例5では、粉末原料用の原料投入口、及び、液体原料用の原料投入口として、同一の原料投入口を使用した。
上記のような仕様の湿式混合機を用いて、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。結果を表7に示す。
【0144】
【表6】

【0145】
【表7】

【0146】
表6、7に示すように、実施例1と比較して、液体原料投入口の数を増加させた実施例3では、各試験結果は問題なく、湿式混合物は良好な混合状態であった。一方、液体投入口の数ではなく粉末原料投入口の数を増加させた参考例4、粉末原料と液体原料を同一投入口から投入した参考例5では、いずれも有機成分含有率のばらつきが増加しており、実施例1と比較して均一な混合状態が得られなかった。また、ラボプラストミルを用いた試験においても平均トルクが上昇していることから、混練性も低下していた。これは、参考例4では、液体原料の原料投入口に対して新たな粉末原料の原料投入口が相対的に回転軸部材の近位に配設されていないことと、参考例5では、粉末原料と液体原料とを同一投入口から投入したことから、いずれの場合においても、粉末原料が上攪拌羽根により充分に拡散されないまま液体原料と接触(衝突)して両者が混合されたことが原因であると考えられる。
【0147】
(実施例4及び5、参考例6)
湿潤混合物の温度を表8に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。なお、湿潤混合物の温度の調整は、湿式混合機に取り付けられたウォータジャケットの冷却水の温度を調整することにより行った。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。結果を表9に示す。
【0148】
【表8】

【0149】
【表9】

【0150】
表8、9に示すように、実施例1の混合物の温度と比較して、実施例4及び5では湿潤混合物の温度を増減させているものの、いずれにおいても良好な混合状態が得られた。ただ、参考例6では、有機成分含有率がばらついており、混練性も低下していた。これは、混合物の温度を実施例5よりさらに上昇させていることから、混合物中の有機成分がゲル化し、均一な混合状態を得ることができなかったことに起因すると考えられる。
【0151】
(実施例6〜8、参考例7、8、比較例1、2)
湿式混合機の仕様において、各攪拌羽根の枚数を表10に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、熱重量分析試験、ラボプラストミルを用いた試験、及び、3点曲げ強度試験を行った。結果を表11に示す。
【0152】
【表10】

【0153】
【表11】

【0154】
表11に示すように、複数の中攪拌羽根に、さらに上攪拌羽根を備えた湿式混合物を使用した実施例6〜8では、良好な混合状態・混練性が得られており、焼成後のハニカム焼成体の強度も高かった。ただ、中攪拌羽根のみ複数枚備えた湿式混合機を使用した参考例7及び8では、ハニカム焼成体自体は使用可能であったものの、混合の均一性や混練性、強度が低下しており、湿潤混合物のケーシング内壁への若干の付着も観察された。さらに、比較例1や2では、湿式混合機のディスクの側面に中攪拌羽根が一枚のみ備え付けられていたり、中攪拌羽根を備え付けずに上攪拌羽根と下攪拌羽根とを有する湿式混合機を用いたりしていることから、原料混合物の充分な混合を行うことができず、有機成分含有率においてばらつきが非常に大きくなり、混練性も低下していた。また、このような混合の均一性及び混練性の低下に応じて、乾燥後の成形体において1.0mmを超える反りが生じており、さらに、ハニカム焼成体の強度も大幅に低下していた。従って、湿式混合機においては少なくとも複数の中攪拌羽根を備え付ける必要があることが分かった。
【0155】
(実施例9、参考例9〜10)
湿式混合機の仕様において、上攪拌羽根とケーシングとの最小距離を表12に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、耐久試験後の磨耗の状況、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。結果を表13に示す。
【0156】
【表12】

【0157】
【表13】

【0158】
表13に示したように、実施例9では、混練性が若干低下しているが、その他は良好な結果であった。上記混練性の低下の原因としては、実施例1と比較して上攪拌羽根とケーシングの内壁面との間の距離が開いたことから、上攪拌羽根と混合物とケーシングの内壁面との関係において生じる上攪拌羽根による剪断力等が低下したことであると考えられる。実施例9よりさらに上記間隔を広くした参考例10では、混合状態の均一度が低下し、混練性もやや低下していた。これは、参考例10では、上攪拌羽根による剪断力がさらに低下し、加えて、ケーシング内への付着が増加したことに起因すると考えられる。
また、参考例9では、混合状態は実施例9と同程度であったものの、耐久試験後の攪拌羽根では磨耗が進行していた。これは、上攪拌羽根とケーシングの内壁面との間の間隔が狭く、混合物がその隙間に噛み込んだことが原因であると考えられる。
【0159】
(実施例10〜12、参考例11〜12)
実施例1で最初に調製する粉末原料及び液体原料の組成を、表14に示したように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を製造した。本実施例及び本参考例では、粉末原料における有機成分含有率、及び、湿潤混合物における水分含有率が実施例1とは異なることとなる。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。結果を表15に示した。
【0160】
【表14】

【0161】
【表15】

【0162】
表14、15に示したように、実施例1と比較して有機成分含有率を所定範囲で減少及び増加させた実施例10及び11では、良好な混合の均一性、混練性が得られた。参考例11では混練性が低下していたが、作製したハニカム焼成体においては問題はなかった。この混練性の低下の理由としては、有機成分含有率が低いことから混合物の粘度が低下し、均一な混合状態を得ることができなかったことに起因すると考えられる。
【0163】
混合物の水分含有率に関しては、実施例12では均一性や混練性ともに良好であった。一方、参考例12では、有機成分含有率においてばらつきが生じており、混合の均一性が若干低下するとともに成形性も低下していた。これは、水分含有率が多いために乾燥させるのに必要な時間が長くなり、水分が局所的に偏って蒸発したからであると考えられる。
【0164】
(参考例3)
湿式混合機における中攪拌羽根として、タングステンカーバイドの溶射層、及び、DLC膜が形成されておらず、SUSのみからなる中攪拌羽根を使用した以外は実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
さらに、実施例1と同様にして、乾燥後の成形体の反り量、ケーシング内壁への湿潤混合物の付着の有無、耐久試験後の磨耗の状況、熱重量分析試験、及び、ラボプラストミルを用いた試験を行った。これらの評価結果を表16に示す。
また、本参考例では、3カ月経過後の中攪拌羽根の磨耗の程度を評価した。結果を併せて表16に示す。
【0165】
【表16】

【0166】
表16に示したように、参考例3では3カ月経過後の中攪拌羽根は磨耗していた。また、成形体の乾燥の際に、成形体において生じる反りが実施例1と比較して大きくなっていた。これは以下の理由が考えられる。すなわち、参考例3の中攪拌羽根は高硬度被覆されていないので、原料を混合する際に原料との摩擦によって磨耗しやすい。この磨耗の際に熱が生じやすく、生じた摩擦熱により混合物中の水分が蒸発して水分含有率がわずかに低下し、成形性が低下したからであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1(a)は、本発明の湿式混合機に備え付けられたディスクの一例の平面図であり、図1(b)は、本発明の湿式混合機の一例の縦断面図である。
【図2】図2は、中攪拌羽根の先端を模式的に示す部分拡大斜視図である。
【図3】図3(a)は、本発明の湿式混合機に備え付けられたディスクの別の一例の平面図であり、図3(b)は、本発明の湿式混合機の別の一例の縦断面図である。
【図4】図4は、セラミックフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【図5】図5(a)は、上記セラミックフィルタを構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、図5(b)は、そのA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0168】
20、40 湿式混合機
21、41 回転軸部材
22、42 ディスク
43 上攪拌羽根
44 下攪拌羽根
25、45 中攪拌羽根
26、46 ケーシング
47 連結棒
28a、28b、48a、48b 原料投入口
29、49 混合物排出口
30 大矩形体
31 小矩形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の撹拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
原料投入口及び混合物排出口が設けられたケーシングとを備え、
前記原料投入口が前記ディスクよりも上方に配設され、かつ、前記混合物排出口が前記ディスクよりも下方に配設されたことを特徴とする湿式混合機。
【請求項2】
前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、前記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmである請求項1に記載の湿式混合機。
【請求項3】
前記ディスク、及び/又は、前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項1又は2に記載の湿式混合機。
【請求項4】
前記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の湿式混合機。
【請求項5】
前記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項4に記載の湿式混合機。
【請求項6】
少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製する粉末の湿式混合方法であって、
前記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の撹拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
前記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、前記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とする粉末の湿式混合方法。
【請求項7】
前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、前記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmである請求項6に記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項8】
前記ディスク、及び/又は、前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項6又は7に記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項9】
前記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられている請求項6〜8のいずれかに記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項10】
前記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項9に記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項11】
前記原料投入口は、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に設けられており、
前記相対的に回転軸部材に近い位置より粉末原料を投入し、前記相対的に回転軸部材から遠い位置より液体原料を投入する請求項6〜10のいずれかに記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項12】
前記湿潤混合物は、温度が10〜30℃である請求項6〜11のいずれかに記載の粉末の湿式混合方法。
【請求項13】
少なくとも1種の粉末を含む粉末原料と、少なくとも分散媒液を含む液体原料とを湿式混合機内で混合して湿潤混合物を調製し、この湿潤混合物を成形することによりハニカム成形体を作製し、これを焼成してハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
前記湿式混合機は、鉛直に設けられた回転軸部材を中心軸に備えるとともに、その側面に複数の撹拌羽根が設けられた円盤状のディスクと、
前記ディスクよりも上方に配設された原料投入口、及び、前記ディスクよりも下方に配設された湿潤混合物排出口を有するケーシングとを備えていることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項14】
前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根の先端と、前記ケーシングの内壁面とのなす距離は、1〜10mmである請求項13に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項15】
前記ディスク、及び/又は、前記ディスクの側面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項13又は14に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項16】
前記ディスクの上面に、複数の攪拌羽根が設けられている請求項13〜15のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項17】
前記ディスクの上面に設けられた攪拌羽根は、全体が高硬度部材で形成されているか、又は、上記攪拌羽根の少なくとも一部に高硬度被覆層が形成されている請求項16に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項18】
前記原料投入口は、相対的に回転軸部材に近い位置と、相対的に回転軸部材から遠い位置との少なくとも2箇所に設けられており、
前記相対的に回転軸部材に近い位置より粉末原料を投入し、前記相対的に回転軸部材から遠い位置より液体原料を投入する請求項13〜17のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項19】
前記湿式混合機から排出された湿潤混合物は、温度が10〜30℃である請求項13〜18のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項20】
前記粉末原料として、セラミック粉末と有機バインダとを含む粉末原料を使用し、
粉末原料における有機成分含有率を、5〜20重量%とする請求項13〜19のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項21】
前記湿式混合機から排出された湿潤混合物の水分含有率を、7〜20重量%とする請求項13〜20のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−253149(P2007−253149A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38241(P2007−38241)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】