説明

湿潤膜厚測定方法および装置

【課題】 塗工装置上において乾燥環境等による外乱を受けずに塗工膜の湿潤膜厚を測定する。
【解決手段】
基材の張力を測定する張力測定過程と、基材の厚さを測定する厚さ測定過程と、塗工後の基材を所定幅で切断し測定用サンプルを得る切断過程と、測定用サンプルを巻き取る巻取過程と、測定用サンプルの全長を測定する全長測定過程と、巻取体における測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量を測定する全質量測定過程と、張力と測定厚さから基材の真の厚さを演算する真厚さ演算過程と、巻取体における測定用サンプルの湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))から演算する湿潤膜厚演算過程とを有するように湿潤膜厚測定方法およびその方法を適用した装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工方法・装置およびそれよって得られた塗工膜の厚さを測定する技術分野に属する。特に、塗工装置上において乾燥環境等による外乱を受けずに塗工膜の湿潤膜厚を測定することが可能な湿潤膜厚測定方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェブの基材を塗工対象とする塗工装置において塗工により得られた基材上の膜厚を測定する方法の1つとして、光学的な方法が周知である。たとえば、塗工膜に一定の入射角で白色光を照射し、その反射光もしくは透過光を分光して分光強度の波形を測定し、薄膜による干渉現象によって生ずる分光強度の強弱の波長位置から膜厚を測定する方法が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭61−246607
【0003】
しかしながら、この従来の方法においては、塗工装置の乾燥部において気体屈折率の変動(温度、気圧による密度変化、ガス濃度、等)により誤差が生じるという問題がある。気体屈折率の変動を補正することは可能ではあるが、塗工条件や測定条件ごとに補正値を設定することは運用負担が大きい。また、走行するウェブの基材において振動や皺の発生は避けられないが、振動や皺の状況によっては大きな誤差が発生する。その発生時期は予測できず誤差値も捕捉できないため補正は不可能であり、測定値の信頼性が得られないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題を解決するために成されたものである。その目的は、塗工装置上において乾燥環境等による外乱を受けずに塗工膜の湿潤膜厚を測定することが可能な湿潤膜厚測定方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る湿潤膜厚測定方法は、 塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定方法であって、 塗工前の基材に加わる張力を測定する張力測定過程と、 前記基材の厚さを測定し測定厚さを得る厚さ測定過程と、 塗工後の前記基材を走行方向に沿って所定幅で切断分離し全面塗工済の測定用サンプルを得る切断過程と、 前記測定用サンプルを巻き取って巻取体を形成する巻取過程と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの全長を測定する全長測定過程と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量を測定する全質量測定過程と、 前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する真厚さ演算過程と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する湿潤膜厚演算過程と、 を有するようにしたものである。
また、本発明の請求項2に係る湿潤膜厚測定装置は、 塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定装置であって、 塗工前の基材に加わる張力を測定する張力測定手段と、 前記基材の厚さを測定し測定厚さを得る厚さ測定手段と、
塗工後の前記基材を走行方向に沿って所定幅で切断分離し全面塗工済の測定用サンプルを得る切断手段と、 前記測定用サンプルを巻き取って巻取体を形成する巻取手段と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの全長を測定する全長測定手段と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量を測定する全質量測定手段と、 前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する真厚さ演算手段と、 前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する湿潤膜厚演算手段と、 を有するようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の請求項1に係る湿潤膜厚測定方法によれば、塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定方法であって、 張力測定過程において塗工前の基材に加わる張力が測定され、 厚さ測定過程において前記基材の厚さが測定され測定厚さが得られ、 切断過程において塗工後の前記基材が走行方向に沿って所定幅で切断分離され全面塗工済の測定用サンプルが得られ、 巻取過程において前記測定用サンプルが巻き取られて巻取体が形成され、 全長測定過程において前記巻取体における前記測定用サンプルの全長が測定され、 全質量測定過程において前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量が測定され、真厚さ演算過程において前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さが(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式が適用されて演算され、 湿潤膜厚演算過程において前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚が(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算される。すなわち、寸法測定と質量測定から演算して湿潤膜厚を得る間接的な測定方法であって非光学的な測定方法である。したがって、塗工装置上において乾燥環境等による外乱を受けずに塗工膜の湿潤膜厚を測定することが可能な湿潤膜厚測定方法が提供される。
また、本発明の請求項2に係る湿潤膜厚測定装置によれば、塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定装置であって、 張力測定手段により塗工前の基材に加わる張力が測定され、 厚さ測定手段により前記基材の厚さが測定され測定厚さが得られ、 切断手段により塗工後の前記基材が走行方向に沿って所定幅で切断分離され全面塗工済の測定用サンプルが得られ、 巻取手段により前記測定用サンプルを巻き取って巻取体が形成され、 全長測定手段により前記巻取体における前記測定用サンプルの全長が測定され、 全質量測定手段により前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量が測定され、真厚さ演算手段により前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さが(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式が適用されて演算され、 湿潤膜厚演算手段により前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚が(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算される。すなわち、寸法測定と質量測定から演算して湿潤膜厚を得る間接的な測定方法であって非光学的な測定方法である。したがって、塗工装置上において乾燥環境等による外乱を受けずに塗工膜の湿潤膜厚を測定することが可能な湿潤膜厚測定装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。本発明の湿潤膜厚測定装置を適用した塗工装置の一例を図1に示す。図1において、200は基材、120は塗工部、131は第1乾燥部、132は第2乾燥部、133は第3乾燥部、140は巻取部、10は張力・厚さ測定部、20は巻取部、30は演算部である。
塗工装置において、基材(ウェブ)200は巻き取られた形態である巻取体として給紙部(図示せず)に装着される。給紙部には張力を付与する機構(図示せず)が備えられており、巻き解かれ送給される基材200には適正な張力が付与される。給紙部において巻取体から巻き解かれた基材200は塗工部120に送給され、そこで基材200に対して塗工が行なわれる。基材200は第1乾燥部131、第2乾燥部132、第3乾燥部133の順に送給され、そこを通過する間に基材200の表面の塗工液は乾燥する。そして乾燥した塗膜が形成された基材200は巻取部140において巻き取られ巻取体を形成する。
【0008】
この図1における張力・厚さ測定部10、巻取部20、演算部30は、この塗工装置に適用した本発明の湿潤膜厚測定装置の構成要素である。
張力・厚さ測定部10は、塗工部120に送給される直前において基材200の張力と厚さを測定する。ここでは測定された厚さを測定厚さと呼ぶ。
巻取部20は、第1乾燥部131の出口近くにおいて基材200から切断され分離された湿潤膜厚測定のためのサンプルを巻き取って巻取体を形成する部分である。この巻取部20においてサンプルの全質量の測定が行なわれる。
演算部30は、測定された基材200の張力と厚さ(測定厚さ)に基づいて基材200の真の厚さを演算する。また、演算部30は、その真の厚さ、全質量、その他のデータに基づいて湿潤膜厚を演算する。それらの演算の詳細は後述する。
【0009】
本発明の湿潤膜厚測定装置の張力・厚さ測定部10について詳細を図2に示す。図2において、300は塗工液、121は塗工液槽、122は塗工ローラ、123はバックアップローラ、11a,11bは張力測定部、12は厚さ測定部である。また、図2において、図1と同一部分には同一符号が付してある。
塗工液槽121、塗工ローラ122、バックアップローラ123は塗工部120の構成要素である。塗工液槽121は塗工液300を充たしており、塗工ローラ122の下部は塗工液300に浸漬している。塗工ローラ122が回転することにより、塗工ローラ122の周面の全体に塗工液300の被膜が形成される。基材200は、図2に示すように、塗工ローラ122とバックアップローラ123の間を通過して移送される。バックアップローラ123は塗工ローラ122を押圧する位置と、離反する位置とに移動と停止が可能なローラである。バックアップローラ123が押圧する位置においては、基材200はバックアップローラ123によって塗工ローラ122に接触される。そして、塗工ローラ122の周面に被膜形成された塗工液300は、接触により基材200の表面に転移することとなり塗工が行なわれる。
【0010】
基材200に転移した塗工液300の量すなわち湿潤膜厚は、塗工ローラ122の周面に被膜形成された塗工液300の量によって変化する。したがって、塗工方式によって相違するが、何らかの方式によってその量を規制することが行なわれる。一般的に、塗工ローラ122の周面が塗工液槽121の塗工液300から離れて基材200の表面に接触し転移する前に、被膜形成された塗工液300の中から余分な量の塗工液300を掻き落とすことが行なわれる。その掻き落としには、塗工ローラ122との間に所定の間隙を置いた回転ローラやナイフエッジ等が使用される。また、塗工ローラ122がグラビアローラであればドクターブレードが使用される。
【0011】
また、多くの場合、基材200に形成された湿潤膜厚が乾燥したときの厚さ、すなわち乾燥膜厚が重要である。乾燥膜厚を重要視するときには、所定の乾燥膜厚を得るための管理の方法の1つとして湿潤膜厚が管理されることになる。当然ながら、その湿潤膜厚が一定であっても塗工液300の組成が変化すると乾燥膜厚が変化する。塗工液300の組成には、乾燥によって失われる揮発成分と乾燥によって失われない不揮発成分が存在する。揮発成分の主成分は溶剤であるから、塗工液300における溶剤成分の比率を調整することによって乾燥膜厚を規制することも行なわれる。
なお、上述したように、一般的に湿潤膜厚は塗工直後の膜厚のことであるが、ここでは、湿潤膜厚は本発明において定義した数式により演算された膜厚とする。
【0012】
張力測定部11a,11b、厚さ測定部12は、図1に示した張力・厚さ測定部10の構成要素である。本発明の湿潤膜厚測定装置における張力・厚さ測定部10の拡大図(図2におけるAの拡大図)を図3に示す。図3において、114はガイドローラ、11bは張力測定部、200は基材、12は厚さ測定部である。
ガイドローラ114は基材200に加えられた張力を検出するためのガイドローラである。基材200はガイドローラ114に巻き付いており、基材200に張力が加えられるとガイドローラ114に力が加えられる。ガイドローラ114はその両側に存在する軸を軸受によって回転可能に支持されている。
【0013】
張力測定部11bは検出部(たとえば、ロードセル)と増幅部を有する。張力測定部11bの検出部はガイドローラ114に加わる力をガイドローラ114の軸受の僅かな変位から検出する。張力測定部11bの増幅部はその変位を張力に換算し、張力信号を出力する。変位の張力への換算においては、当然ながら、基材200のガイドローラ114に対する巻き付け角度、変位の方向、等が考慮される。図3においては、張力測定部11b(の検出部)だけが図示されているが、ガイドローラ114の他方の軸受に設けられた張力測定部11aも存在する。基材200の張力は、通常は、張力測定部11aと張力測定部11bの両者で検出した張力の加算値である。
【0014】
厚さ測定部12は基材200の厚さを測定する部位である。基材200は弾性材料(たとえば、プラスチックフィルム)であり、張力の変化によって厚さが変化する。したがって、図3に示すように、厚さ測定部12と張力測定部11a,11bとは接近した配置されており、厚さと張力とはほぼ同一箇所で同一時刻に測定が行なわれる。
厚さ測定部12としては、たとえば、レーザー光線を照射して基材200の表面に形成したレーザスポットの位置を検出し、三角測量の原理で距離を測定する方式の光学式変位計を使用することができる。この測定においては、基材200の表面と背面(裏面)との位置の差異が基材200の厚さとなる。そのため、基材200の背面の位置が固定されている必要性がある。したがって、図3においては図示していないが、レーザスポットの位置の近辺はガイドローラに巻き付けることよって基材200の背面の位置が固定されるように構成する。
【0015】
本発明の湿潤膜厚測定装置の巻取部20について詳細を図4〜図6に示す。図4〜図6において、201はサンプル、120は第1乾燥部、21はサンプル巻取体、22はミミ巻取体、23は質量測定部、24は直動モータ、25はチャンバー、26は切断部、27a,27bは切断刃、28a,28bは洗浄液槽、29a,29bは洗浄パッドである。また、図4〜図6において、図1、図2と同一部分には同一符号が付してある。
本発明の湿潤膜厚測定装置における基材200からサンプリングを行なってサンプル巻取体21を形成する構成部分の拡大図(図2におけるBの拡大図)を図4に示す。図4に示すように、基材200は第1乾燥部120をガイドローラに案内されながら走行する。第1乾燥部120には切断部26が設けられており、その切断部26において基材200が走行方向に切断(スリット)されて、基材200の一部であるサンプル201が切出される。
【0016】
図4に示す一例においては、基材200の一方の辺近くの2箇所においてスリットが行なわれる。そのスリットにより、基材200は、スリット箇所の外側の基材200の部分すなわちミミ22aaと、中間の基材200の部分すなわちサンプル201と、内側の基材200の部分すなわち塗工製品となる部分との3つの分割される。ミミ22aaは未塗工部分であるかまたは塗工量の不安定部分であるから湿潤膜厚の測定には使用できない。ミミ22aは巻き取られてミミ巻取体22bを形成し廃棄される。サンプル201は塗工量の安定部分であるから湿潤膜厚の測定に使用することができる。サンプル201は巻取部20において巻き取られサンプル巻取体21を形成する。
【0017】
本発明の湿潤膜厚測定装置における切断部26の拡大図(図4におけるCの拡大図)を図5に示す。図5において、27a,27bは切断刃、28a,28bは洗浄液槽、29a,29bは洗浄パッドである。
切断刃27a,27bは基材200の一方の辺近くの2箇所においてスリットを行なうための切断刃である。図5に示す一例においては、切断刃27a,27bとして円盤の円周部分に刃が形成された丸刃が使用される。切断刃27a,27bは回転しながら基材200の切断を行なう。回転する切断刃27a,27bにおける特定の刃の部位は、基材200に接触し切断する切断位置と、洗浄層28a,28bに浸漬し洗浄される洗浄位置との間を周回する。
【0018】
洗浄層28a,28bは切断刃27a,27bの刃先を洗浄するための洗浄層である。洗浄層28a,28bには洗浄液が満たされており、回転する切断刃27a,27bの刃先が洗浄位置に達したときには洗浄液に浸漬され洗浄が行なわれる。切断刃27a,27bの刃先には、主として、基材200に形成された塗膜(湿潤膜)が付着する。したがって、洗浄液にはその塗膜を溶解する性質を有する洗浄液を使用することができる。塗工液300の溶剤を使用することも可能であるが、乾燥部において使用することから、溶解性が低くても乾燥の遅い洗浄液を使用すると好適である。
洗浄パッド29a,29bは、洗浄層28a,28bに収納された洗浄パッドであり、洗浄液の化学的作用と摩擦による機械的作用によって、回転する切断刃27a,27bに付着する汚れを掻き落とす作用を有する。洗浄パッド29a,29bは、洗浄液を十分に吸収し保持する性質を有する。また、切断刃27a,27bの両側面に密着する適度な柔軟性を有し、すくなくとも切断刃27a,27bに対する密着面が摩擦性の粗面となっている。洗浄パッド29a,29bの材料としては、たとえば、スポンジ、布、不織布、綿、フェルト、等を使用することができる。
【0019】
本発明の湿潤膜厚測定装置における巻取部20の拡大図(図4におけるDの拡大図)を図6に示す。図6において、20は巻取部、21はサンプル巻取体、23は質量測定部、24は直動モータである。
サンプル巻取体21は、紙管にサンプル201を巻き取った巻取体である。巻取部20の巻取軸には紙管を支持するためのチャッキング機構が設けられている。紙管はそのチャッキング機構によって巻取軸に固定される把持状態と、巻取軸に固定されていない開放状態のいずれかの状態をとることができる。チャッキング機構としては、たとえば、チャッキングコーンと呼ばれる円錐台形状の把持具を2つ使用し、錐台形状における直径の狭い面を向かい合わせた機構を適用することができる。2つのチャッキングコーンを近づけることによって、紙管の両側の内円部分に嵌め込んで紙管を把持する把持状態を得ることができる。チャッキングコーンは巻取軸とともに回転するから、把持状態において巻き取ることができる。反対に、2つのチャッキングコーンの距離を遠ざけると紙管の両側から離れて巻取軸から開放され開放状態を得ることができる。
【0020】
巻取部20の巻取軸はモータ等の回転機構(図示せず)により回転駆動される。そのとき、所定のトルクが巻取軸に掛けられる構造となっている。したがって、サンプル201には所定の張力が作用する状態で巻き取られることとなる。この張力は、通常は、塗工装置において基材200に作用する張力とほぼ同一値となるように設定される。また、回転速度ではなくトルクが規定値となるように回転駆動されるから、サンプル201の供給速度(基材200の走行速度)に同調した巻取軸の回転速度でサンプル201の巻き取りが行なわれる。
【0021】
直動モータ24は、巻取部20に対して上方に引き上げる一定の力(引上力)を作用させることにより、巻取部20の質量を見掛けにおいて一定量だけ軽減するための直動モータである。すなわち、ここで使用される直動モータ24は移動や位置決めのためのモータではない。直動モータ24としては、たとえば、直動(直進)のためのガイドレールとそのガイドレールに沿ってステージを直動する駆動機構と一定の力を発生させる制御機構によって構成することができる。直動モータ24の代わりに、所定のエアー圧によって上方に引き上げる一定の力を作用させるエアーシリンダー機構、バネばかり(計り)のように吊り上げるためのバネ機構、等を使用してもよい。
【0022】
質量測定部23はサンプル巻取体21の質量を測定する部分である。ただし、質量測定部23には巻取部20が載せられており、直接的に測定できるのはサンプル巻取体21と巻取部20とを合わせた全質量(全質量に作用する重力)から直動モータ24が発生する一定の力(引上力を重力定数で除算して得る質量)を差し引いた質量である。そこで、直動モータ24が発生する一定の力(引上力)は、巻取部20の質量(巻取部20に作用する重力)を相殺するように設定しておく。これにより、質量測定部23の測定領域をサンプル巻取体21の最大質量程度とすることができ、高い測定精度を得ることができる。
また、質量測定部23はサンプル巻取体21の紙管の質量を相殺するようにゼロ点の設定が行なわれている。
したがって、サンプル巻取体21の紙管にサンプル201が全く巻き取られていない状態においては、質量測定部23が出力する質量の測定値がゼロとなる。
【0023】
演算部30は、すでに説明したように、測定された基材200の張力と厚さ(測定厚さ)に基づいて基材200の真厚さを演算する。また、演算部30は、その真の厚さ、全質量、その他のデータ(設定値、等)に基づいて湿潤膜厚を演算する。演算部30としては、PLC(Programable Logic Controller)パーソナコンピュータ、等のデータ処理装置を使用することができる。
【0024】
基材200の真の厚さの演算は演算部30の真厚さ演算過程において、または真厚さ演算手段によって行われる。演算部30は測定された基材200の張力と測定厚さから基材200の真の厚さである真厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する。(係数)は基材200の品目によって異なる係数であり、値は実験によって決定することができる。(張力)が0のときには(真厚さ)=(測定厚さ)である。(係数)は演算を実施する前に設定値として演算部30に登録しておくデータである。
【0025】
湿潤膜厚の演算は演算部30の湿潤膜厚演算過程において、または湿潤膜厚演算手段によって行われる。演算部30は設定値と測定値に基づいて湿潤膜厚を演算する演算部である。湿潤膜厚の演算において、演算部30は、サンプル巻取体21における湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する。ここに、(全質量)は湿潤膜と基材部分を含むサンプル巻取体21の質量、(基材密度)は基材200の密度、(真厚さ)はサンプル巻取体21の張力による変動を補正した厚さ、(所定幅)はサンプル巻取体21の幅、(全長)はサンプル巻取体21に巻き取られたサンプル201の全長、(塗工液密度)は塗工液300の密度である。上記の数式において、(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長)の部分はサンプル巻取体21の基材部分の質量に相当する。
【0026】
なお、サンプル巻取体21に巻き取られたサンプル201の(全長)は、スリットした後のサンプル201を紙管に巻き取る動作を開始した時点から測定を実行する時点までのサンプル201の走行距離に等しい。このサンプル201の走行距離は、紙管に巻き取る前に測長機器を使用して測定することができる。また、このサンプル201の走行距離は、その開始時点から測定時点までに塗工装置において測定された基材200の走行距離に等しい。演算部30はそのような走行距離を入力し、その入力したデータを上記演算において使用する。
また、(基材密度)、(所定幅)、(塗工液密度)は演算を実施する前に設定値として演算部30に登録しておくデータである。
【0027】
以上、構成について説明した。次に、本発明の湿潤膜厚測定方法および装置における動作について説明する。本発明の湿潤膜厚測定方法および装置における動作の過程をフロー図として図7に示す。
まず、図7のステップS1(設定値入力)において、湿潤膜厚測定装置のオペレータは湿潤膜厚測定装置に対して、すなわち演算部30に対して、設定値として(基材密度)、(所定幅)、(塗工液密度)を入力し登録する。この設定値の入力は湿潤膜厚測定における演算の前であれば何時であってもよい。
【0028】
次に、ステップS2(張力測定)において、塗工を開始して塗工状態が安定したところでオペレータは湿潤膜厚測定の開始を湿潤膜厚測定装置に対して指示入力する。湿潤膜厚測定装置の演算部30は張力測定部11aが出力する基材200の張力を入力する。
次に、ステップS3(厚さ測定)において、湿潤膜厚測定装置の演算部30は厚さ測定部12が出力する基材200の厚さを入力する。
次に、ステップS4(サンプリング)において、湿潤膜厚測定装置の巻取部20はスリットにより切断分離したサンプル201を巻き取ってサンプル巻取体21を形成する。このスリットは、張力・厚さ測定部10から塗工部120を通過して、第1乾燥部131に到達した塗工済みの基材200に対して切断部26が行うスリットである。
次に、ステップS5(全長測定)において、湿潤膜厚測定装置の演算部30はスリットした後のサンプル201を紙管に巻き取る動作を開始した時点、すなわちサンプル巻取体21の形成を開始してから、測定を実行する時点までのサンプル201の走行距離を測長機器(図示せず)等から入力する。測長機器でなくても基材201の走行距離を塗工装置の制御部から入力してもよい。測定を実行する時点は、オペレータによる湿潤膜厚測定装置に対する測定の指示入力に基づいて行う。また、所定の走行距離、すなわちサンプル巻取体21の全長が所定値となったときを測定を実行する時点とすることができる。この場合の所定の走行距離(所定の全長)は、ステップS1(設定値入力)において設定しておく。
【0029】
次に、ステップS6(質量測定)において、湿潤膜厚測定装置の質量測定部23はサンプル巻取体21の質量を測定する。前述したように、巻取部20の質量は直動モータ24によって相殺され、紙管の質量は質量測定部23のゼロ調整によって相殺されているから、質量測定部23はサンプル巻取体21の実際の質量を測定することができる。
【0030】
次に、ステップS7(真膜厚演算)において、演算部30は測定された基材200の張力と測定厚さから基材200の真の厚さである真厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する。
次に、ステップS8(湿潤膜厚演算)において、演算部30は設定値と測定値に基づいて湿潤膜厚を演算する演算部である。湿潤膜厚の演算において、演算部30は、サンプル巻取体21における湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する。
次に、ステップS9(測定終了?)において、演算部30は測定を終了するか否かを判定する。オペレータによる測定終了指示の入力がなされる、測定を繰り返さない設定がなされている、等の場合には終了する。そうでないときにはステップS2に戻って上述した以降のステップを繰り返す。
【0031】
なお、サンプル巻取体21の形成は、測定の度に新しい紙管にサンプル201を巻き取って形成する必要性はない。前回の測定のサンプル201を紙管に残したままその上に今回の測定のサンプル201を重ね巻きしてもよい。その場合には今回の全質量は前回の全質量との差異となる。すなわち、(今回の全質量)=(今回の質量の測定値)−(前回の全質量)の数式を適用して演算する。この方式は、測定を繰り返し行う場合において、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の湿潤膜厚測定装置を適用した塗工装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の湿潤膜厚測定装置の張力・厚さ測定部について詳細を示す図である。
【図3】本発明の湿潤膜厚測定装置における張力・厚さ測定部10の拡大図(図2におけるAの拡大図)である。
【図4】本発明の湿潤膜厚測定装置の巻取部20について詳細を示す図である。
【図5】本発明の湿潤膜厚測定装置における切断部の拡大図(図4におけるCの拡大図)である。
【図6】本発明の湿潤膜厚測定装置における巻取部20の拡大図(図4におけるDの拡大図)である。
【図7】本発明の湿潤膜厚測定方法および装置における動作の過程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0033】
10 張力・厚さ測定部
11a,11b 張力測定部
12 厚さ測定部
20 巻取部
21 サンプル巻取体
22 ミミ巻取体
23 質量測定部
24 直動モータ
25 チャンバー
26 切断部
27a,27b 切断刃
28a,28b 洗浄液槽
29a,29b 洗浄パッド
30 演算部
114 ガイドローラ
11b 張力測定部
120 塗工部
121 塗工液槽
122 塗工ローラ
123 バックアップローラ
131 第1乾燥部
132 第2乾燥部
133 第3乾燥部
140 巻取部
200 基材
201 サンプル
300 塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定方法であって、
塗工前の基材に加わる張力を測定する張力測定過程と、
前記基材の厚さを測定し測定厚さを得る厚さ測定過程と、
塗工後の前記基材を走行方向に沿って所定幅で切断分離し全面塗工済の測定用サンプルを得る切断過程と、
前記測定用サンプルを巻き取って巻取体を形成する巻取過程と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの全長を測定する全長測定過程と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量を測定する全質量測定過程と、
前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する真厚さ演算過程と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する湿潤膜厚演算過程と、
を有することを特徴とする湿潤膜厚測定方法。
【請求項2】
塗工部と乾燥部を有する塗工装置において湿潤膜厚を測定する湿潤膜厚測定装置であって、
塗工前の基材に加わる張力を測定する張力測定手段と、
前記基材の厚さを測定し測定厚さを得る厚さ測定手段と、
塗工後の前記基材を走行方向に沿って所定幅で切断分離し全面塗工済の測定用サンプルを得る切断手段と、
前記測定用サンプルを巻き取って巻取体を形成する巻取手段と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの全長を測定する全長測定手段と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの基材部分と塗工部分から成る全質量を測定する全質量測定手段と、
前記張力と前記測定厚さから前記基材の真の厚さを(真厚さ)=(測定厚さ)×(1+(係数)×(張力))の数式を適用して演算する真厚さ演算手段と、
前記巻取体における前記測定用サンプルの湿潤膜厚を(湿潤膜厚)=((全質量)−(基材密度)×(真厚さ)×(所定幅)×(全長))/((塗工液密度)×(所定幅)×(全長))の数式を適用して演算する湿潤膜厚演算手段と、
を有することを特徴とする湿潤膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−109365(P2009−109365A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282570(P2007−282570)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】