説明

溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物および剥離フィルムもしくはシート

【課題】粘着性物質の接着性を低下させることがなく、優れた剥離特性を有し、かつ、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)25℃における粘度が2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(D)白金系触媒および(E)有機溶剤、さらに(F)光重合開始剤を含む溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物に関し、詳しくは、粘着性物質に対してその接着性を低下させることなく非常に優れた剥離性能を有し、かつ、硬化特性に優れ、軽い剥離力であり、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物および剥離フィルムもしくはシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙、ラミネート紙、合成樹脂フイルム、金属箔等のフィルム状もしくはシート状基材表面に剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を塗工し加熱して硬化皮膜を形成させることにより、粘着物質に対して剥離性を示す材料を得る方法は知られている。かかる方法に使用される剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンを主成分とし、白金系触媒の存在下で付加反応により硬化させてなるシリコーン組成物が知られている。また、その性能を向上させるために、これらの成分に、ジメチルシロキサンガムやジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体などのアルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサンを加えてなる剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0003】
一方、特許文献4では、剥離背面へのシリコーン移行性の改善を目的として、高重合度のヘキセニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金系触媒および有機溶剤からなる溶剤型の剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物が提案されている。
【0004】
また、特許文献5には、硬化後、高速剥離した場合の剥離抵抗値の速度依存性が大きい剥離性皮膜を得ることを目的として、主剤として比較的低粘度のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを用いる無溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物に、分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する時オルガノポリシロキサンを配合してなる無溶剤型の剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの組成物は粘着性物質の接着性が低下したり、シリコーンの移行により皮膜背面の印刷適性が低下したりするなどの欠点があり、用途によっては必ずしも満足できるものではなかった。また、これらの組成物を硬化させてなる剥離性硬化皮膜はその剥離力が大きく、特に低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性が不十分であるという問題があった。
【0006】
なお、これらの文献中には、加熱硬化型の剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物しか開示されておらず、かつシリコーン移行性や剥離抵抗値の速度依存性とは異なる剥離特性である剥離力低下が実現できることは記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭50−25644号公報(特公昭53−28943号公報)
【特許文献2】特開平2−145650号公報(特公平07−091471号公報)
【特許文献3】特開昭60−133051号公報(特公平3−52498号公報)
【特許文献4】特開平9−125004号公報
【特許文献5】特開2001−335747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものである。即ち、本発明の目的は、粘着性物質の接着性を低下させることがなく、優れた剥離特性を有し、かつ、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、特に低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性に優れた硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、
「[1] (A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)25℃における粘度が1〜1,000mPa・sの範囲であり、かつ、1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜100重量部、
(C)25℃における粘度が2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン 1〜120重量部
(D)白金系触媒 触媒量、
および
(E)有機溶剤 10〜2000重量部からなる溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
[2] さらに、(F)光重合開始剤 0.01〜2.5重量部を含む[1]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
[2-1] さらに、(G)付加反応抑制剤 0.001〜5重量部を含む[1]または[2]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
[3] 成分(C)が下記構造式(1)で表わされる直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである[1]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【化1】

[式中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素原子数1〜10の一価炭化水素基または一価ハロゲン化炭化水素基であり、nは25℃における粘度が2.5〜500mPa・sとなる数である。]
[4] 成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲であることを特徴とする[1]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
[5] 成分(A)が下記構造式(2)で表わされる1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする[1]または[4]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【化2】

[式中、Rは水酸基,アルケニル基および非置換もしくは置換のアルキル基からなる群から選択される同一または異種の基であり、すべてのRのうち少なくとも2つはアルケニル基である。mおよびpは、0.90≦m/(m+p)≦1.0,0.0≦p/(m+p)≦0.10を満たす正の整数であり、(m+p)は成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲となるような値である。]
[6] 成分(A)が1分子中に少なくとも2個のヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする[1]、[4]および[5]のいずれか1項に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
[7] フィルム状もしくはシート状基材上に、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物である剥離性皮膜が形成されていることを特徴とする剥離フィルムもしくはシート。
[8] [2]に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を、フィルム状もしくはシート状基材上において、加熱および紫外線照射により硬化させて剥離性皮膜を形成させることを特徴とする剥離フィルムもしくはシート。」により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、粘着性物質の接着性を低下させることがなく、優れた剥離特性を有し、かつ、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を提供することができる。また、本発明により、特に低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性に優れた硬化皮膜を形成する溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物は、以下の成分(A)〜成分(E)からなることを特徴とする。
【0012】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)25℃における粘度が1〜1,000mPa・sの範囲であり、かつ、1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜100重量部、
(C)25℃における粘度が2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン 1〜120重量部
(D)白金系触媒 触媒量 および
(E)有機溶剤 10〜2000重量部。
【0013】
また、本発明の溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物は上記の成分(A)〜成分(E)のほか、任意で、以下の成分(F)または成分(G)を含むことができる。すなわち、上記の成(A)100重量部に対して、
(F)光重合開始剤 0.01〜2.5重量部、
(G)付加反応抑制剤 0.001〜5重量部となるような量を、必要に応じて配合することができる。
【0014】
はじめに、上記成分(A)〜(G)について、その最良の実施形態を示しつつ詳細に説明する。
【0015】
成分(A)は本発明組成物の主成分であり、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであることが必要である。成分(A)のアルケニル基が成分(B)および成分(C)中のケイ素原子結合水素原子とヒドロシリル化反応することにより、本発明組成物は、粘着性物質の接着性を低下させることがなく、優れた剥離特性を有し、かつ、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない硬化皮膜を形成するものである。
【0016】
成分(A)中のアルケニル基の結合位置は分子鎖末端でも、側鎖であってもよい。また、成分(A)は直鎖状のポリシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンであってもよく、一部に分岐鎖状のポリシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンであってもよい。また、硬化被膜の粘着性物質に対する剥離力を低下させるためにアルケニル基含有オルガノポリシロキサンレジンをさらに配合してもよい。本発明において、成分(A)は下記構造式(2)で表される直鎖状のポリシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンを好適に使用することができる。
【0017】
構造式(2):
【化3】

【0018】
式中、Rは水酸基,アルケニル基および非置換もしくは置換のアルキル基からなる群から選択される同一または異種の基であり、すべてのRのうち少なくとも2つはアルケニル基である。mおよびpは、0.90≦m/(m+p)≦1.0,0.0≦p/(m+p)≦0.10を満たす正の整数であることが好ましい。
【0019】
成分(A)として、所望の重合度(粘度)の1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを選択することができるが、成分(A)は高重合度のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲にあることが好ましい。より詳しくは、成分(A)が構造式(2)で表される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、(m+p)が該成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲となるような値であることが特に好ましい。該成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が上記範囲内にあると、本発明組成物を硬化させてなる硬化皮膜は、低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性に最も優れ、剥離背面へのシリコーン移行性もより改善されるものである。
【0020】
成分(A)中のアルケニル基は、好ましくは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、具体的には、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基が例示される。硬化特性の点から、成分(A)中のアルケニル基がヘキセニル基であることが好ましく、成分(A)中の全てのアルケニル基がヘキセニル基であることが最も好ましい。また、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリクロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した同種または異種の一価炭化水素基、水酸基(−OH)が例示される。アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基として、好ましくは、水酸基または非置換もしくは置換のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。なお、実用上、(A)成分に含まれるケイ素原子に結合した全ての有機基のうち、50モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0021】
成分(B)および成分(C)は分子中にケイ素原子結合水素原子を有する成分であり、本発明組成物の架橋剤である。本発明組成物は、2種類の架橋剤であり、分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有する成分(B)および分子鎖末端に結合したケイ素原子結合水素原子を有する成分(C)を併用することを特徴とするものであり、成分(A)のアルケニル基とのヒドロシリル化反応によって、粘着性物質の接着性を低下させることがなく、優れた剥離特性を有し、かつ、皮膜背面へのシリコーン移行の少ない剥離性の硬化皮膜を形成するものである。
【0022】
本発明において、特に、溶剤型に適した高重合度の成分(A)に対して、2種類の架橋剤である成分(B)および成分(C)を併用することが好ましい。より具体的には、30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲にあるような成分(A)、後述する成分(B)および成分(C)を溶剤型の剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物中において併用することにより、特に、低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性に最も優れ、剥離背面へのシリコーン移行性もより改善されるものである。
【0023】
成分(B)は、25℃における粘度が1〜1,000mPa・sの範囲であり、かつ、1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。かかる(B)成分の分子構造は直鎖状または一部分岐を有する直鎖状が挙げられ、好ましくは直鎖状である。(B)成分の分子構造が直鎖状である場合には、その分子鎖末端基として具体的には、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ジメチルハイドロジェンシロキシ基、ジメチルヒドロキシシロキシ基が例示される。また、(B)成分の25℃における粘度は1〜1,000mPa・sの範囲であり、2〜500mPa・sの範囲であることがより好ましい。(B)成分の25℃における粘度が上記上限を超えると、製造が容易でなく、溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離性硬化皮膜について、特に低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性が低下する場合がある。
【0024】
成分(B)中のケイ素原子結合水素原子の含有量は0.1〜1.6重量%であることが好ましく、0.5〜1.6重量%であることが最も好ましい。
【0025】
成分(B)は、より好適には下記構造式(3)で表される1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
構造式(3):
【化4】

【0026】
式中、Rは、各々独立にアルケニル基を除く一価炭化水素基、水酸基または水素原子である。具体的には、Rとして、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリクロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、水酸基または水素原子が例示され、メチル基または水素原子であることが好ましい。また、式中、rは0以上の数であり、sは3以上の数であり、(r+s)は成分(B)の25℃における粘度が1〜1,000mPa・sの範囲である数である。
【0027】
成分(B)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、0.5〜100重量部の範囲であり、より好適には1〜10重量部の範囲である。成分(B)の配合量が前期下限未満では、硬化が不十分となる場合がある。一方、成分(B)の配合量が前期上限を超えると、硬化皮膜の低速での剥離抵抗値が大きくなり、また、硬化皮膜の剥離抵抗値が経時的に変化する場合がある。
【0028】
成分(C)は、25℃における粘度が2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。かかる成分(C)を、成分(B)と併用することが本発明の特徴の一つである。
【0029】
成分(C)の分子構造は直鎖状であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有するものであれば、一部分岐を有する直鎖状構造であっても良い。成分(C)として、最も好適には、ジメチルハイドロジェンシロキシ基により分子鎖両末端が封鎖された直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。また、成分(C)の25℃における粘度は2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、2.5〜500mPa・sの範囲であることがより好ましく、50〜500mPa・sの範囲であることが、硬化皮膜の低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性の点から最も好ましい。成分(C)の25℃における粘度が上記上限を超えると、製造が容易でなく、溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離性硬化皮膜について、特に低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性が低下する場合がある。
【0030】
成分(C)中のケイ素原子結合水素原子の含有量は0.001〜0.5重量%であることが好ましく、0.005〜0.01重量%であることが最も好ましい。
【0031】
成分(C)は、より好適には下記構造式(1)で表されるジメチルハイドロジェンシロキシ基により分子鎖両末端が封鎖された直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【化5】

【0032】
式中、Rは、脂肪族不飽和結合を有しない炭素原子数1〜10の一価炭化水素基または一価ハロゲン化炭化水素基である。具体的には、Rとして、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリクロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が例示され、全てメチル基であることが好ましい。また、式中、nは成分(C)の25℃における粘度が2.5〜500mPa・sの範囲である正の数であり、50〜500mPa・sの範囲である正の数であることが、硬化皮膜の低速(速度0.3m/分)で剥離させた場合の軽剥離特性の点から特に好ましい。
【0033】
成分(C)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、1〜120重量部の範囲であり、より好適には5〜50重量部の範囲である。成分(C)の配合量が前期下限未満では、硬化が不十分となる場合がある。一方、成分(C)の配合量が前期上限を超えると、硬化皮膜の低速での剥離抵抗値が大きくなり、また、硬化皮膜の剥離抵抗値が経時的に変化する場合がある。
【0034】
成分(D)は白金系触媒であり、成分(A)中のアルケニル基と成分(B)および成分(C)中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応による硬化を促進する触媒である。好ましい白金系触媒として、具体的には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸のオレフィン錯体,塩化白金酸とケトン類との錯体,塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、四塩化白金、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、活性炭の担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末が例示される。これらのうちでは、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体,塩化白金酸とテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンとの錯体,白金・ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体,白金テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン錯体等の白金アルケニルシロキサン錯体が特に好ましい。
【0035】
成分(D)の配合量は、いわゆる触媒量である。具体的には、白金族金属として成分(A)、成分(B)、成分(C)の合計重量の1〜1,000ppmであり、5〜200ppmであることが好ましい。白金族金属量で1ppm未満であると、得られた剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の硬化速度が著しく遅くなる。また、白金族金属量で1000ppmを超えると、得られた剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物および該組成物を硬化させてなる硬化皮膜に着色等の問題を生じかねず、さらに、必要な反応をそれ以上促進する効果が期待できず、多くの場合、不経済である。
【0036】
(E)有機溶剤は、成分(A)〜成分(D)からなる剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の粘度を低減して、該組成物を基材上に薄くコーテイングするための成分である。該有機溶媒は、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤;アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ヘキサン,ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤およびこれらの混合物が例示される。本発明において、成分(E)は、好適にはトルエン、キシレン、ヘキサンまたはヘプタンである。
【0037】
成分(E)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、10〜2,000重量部の範囲であり、より好適には50〜1,500重量部の範囲である。成分(E)は、本発明にかかる組成物の粘度を低減して、該組成物を基材上に薄くコーテイングするための成分であるから、高粘度の成分(A)を使用するとき、具体的には、該成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲にあるときは、成分(A)100重量部に対して、100〜1,500重量部の成分(E)を配合することが好ましく、より好適な成分(E)の配合量は150〜1,000重量部の範囲である。なお、成分(E)の配合量が前期下限未満では該組成物を基材上に薄くコーテイングすることができない場合がある。また、成分(E)の配合量が前期上限を超えると、該組成物の硬化皮膜形成性が低下する場合がある。また、硬化時に大量の有機溶剤を揮発させなければならないため、環境負荷が大きい点で好ましくない。
【0038】
本発明の剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の成分(A)〜成分(E)からなるものであり、後述するように室温または50〜200℃の条件下で付加反応により、優れた剥離特性を有する硬化皮膜を形成するものである。しかしながら、さらに、紫外線照射により硬化させることが、得られる硬化皮膜の物理特性および剥離性の点から、好ましい。
【0039】
従って、本発明の剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物に紫外線硬化性を与えるため、(F)光重合開始剤を配合することが好ましい。さらに、上記成分以外に、(G)付加反応抑制剤を配合することが好ましい。以下、これらの成分について説明する。
【0040】
(F)光重合開始剤は、本発明の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物に紫外線硬化性を与える成分であり、付加反応による硬化と紫外線硬化を併用することにより、本発明組成物のシリコーン移行性をさらに改善することができるという利点がある。かかる成分(F)は、従来紫外線の照射によりラジカルを発生する化合物として公知のもの、例えば有機過酸化物,カルボニル化合物,有機硫黄化合物,アゾ化合物などの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、4−メチルアセトフェノン、3−ペンチルアセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、3−ブロモアセトフェノン、4−アリルアセトフェノン、p−ジアセチルベンゼン、3−メトキシベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジメトキシベンゾフェノン、,4−クロロ−4−ベンジルベンゾフェノン、3−クロロキサントーン、3,9−ジクロロキサントーン、3−クロロ−8−ノニルキサントーン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2−クロロチオキサントーン、ジエチルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル〔4−(メチルチオ)フェニル〕2−モルフォリノ−1−プロパノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどが例示される。本発明組成物を紫外線硬化させる場合、成分(F)として、ベンゾフェノン、4-メトキシアセトフェノン、4-メチルベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましく、より好ましくは、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。
【0041】
上記(F)光重合開始剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。成分(F)の配合量は、特に限定されないが、成分(A)100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲であり、好適には0.01〜2.5重量部、より好適には0.05〜2.5重量部の範囲である。成分(F)の配合量が前期範囲内であれば、本発明組成物を硬化させてなる剥離性皮膜は、シリコーン移行性が改善され、強度等の物理特性に優れたものとなる。
【0042】
(G)付加反応抑制剤は、本発明にかかる剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の常温下での付加反応によるゲル化、硬化を抑制する成分であり、硬化遅延剤とも呼ばれる。該成分を使用することにより、上記の成分(A)〜成分(E)、任意で成分(F)を混合後、特に硬化触媒である成分(D)の混合後の本発明組成物の硬化を遅延させることができる。成分(G)は、本発明組成物の基材への塗工開始から塗工完了までの可使時間を確保して、加熱硬化性とするための成分であるから、本願発明組成物の実際の使用では配合することが好ましい。成分(G)は、アセチレン系化合物、エンイン化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、オキシム化合物が例示され、具体的には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、フェニルブチノール等のアルキニルアルコール;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシクロシロキサン;ベンゾトリアゾール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−イン、ベンゾトリアゾール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、メチルトリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、ジメチルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、メチルビニルビス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シランが例示される。
【0043】
成分(G)の配合量は、通常、成分(A)100重量部当り0.001〜20重量部の範囲内であり、好ましくは0.005〜10重量部の範囲内であり、より好ましくは0.01〜5重量部の範囲内である。ただし、成分(G)の配合量は、予想される保存期間、本成分の種類、(D)白金系触媒の性能と含有量、成分(A)中のアルケニル基量、成分(B)および成分(C)中のケイ素原子結合水素原子量に応じて適宜選定することができるものである。
【0044】
本発明組成物は成分(A)〜成分(E)からなり、紫外線硬化性を与えるためにさらに、成分(F)を配合することができる。また、本発明組成物は、必要に応じてさらに成分(G)からなる。また、塗工液の粘度を調整するためにシリカ微粉末等の無機充填剤、顔料または増粘剤をさらに配合してもよい。さらに、本発明の目的、効果を損なわないかぎり、必要に応じて上述以外の各種添加剤、たとえば公知の重合禁止剤、酸化防止剤、消泡剤、耐熱剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、染料、有機樹脂粉末等をさらに配合してもよい。また、本発明組成物はフィルム状基材への塗工性の点で、25℃における組成物全体の粘度が50〜2,000mPa・sの範囲にあることが好ましい。
【0045】
本発明組成物は、前記成分(A)〜成分(E)、任意で成分(F)および成分(G)、あるいはこれら成分と他の任意成分を、公知の混合手段により均一に混合することにより製造することができる。各成分の配合順序は特に制限されるものではないが、混合後、直ちに使用しないときは、成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(E)の混合物と、成分(D)を別々に保存しておき、使用直前に両者を混合することが好ましい。また、成分(A)〜成分(G)からなる組成物において、成分(G)の種類の選択と配合量を調整することにより、常温では架橋せず、加熱すると架橋して硬化するようにした組成物も好ましい。
【0046】
以上のような本発明の溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を、グラシン紙、ダンボール紙、クレーコート紙、ポリオレフィンラミネート紙、特にはポリエチレンラミネート紙、熱可塑性樹脂フィルム(例えばポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム)、天然繊維布、合成繊維布、金属箔(例えばアルミニウム箔)等の各種シート状基材表面に均一に塗工し、成分(A)、成分(B)および成分(C)がヒドロシリル化反応して架橋するのに十分な条件下で加熱し、または紫外線を照射すると、これらのフィルム状もしくはシート状基材表面に、滑り性に優れ、粘着性物質に対して適度な剥離抵抗を有し、剥離背面へのシリコーン移行性が少ない硬化皮膜を形成する。
【0047】
シート状ないしフィルム状基材上での本発明の溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の硬化温度は、一般に50〜200℃が適切であるが、基材の耐熱性が良好であれば200℃以上でもよい。硬化皮膜を速やかに形成させるには、成分(D)が白金アルケニルシロキサン錯体触媒であり、その配合量が組成物の合計量部当り白金金属量で50〜500ppmである場合、硬化温度は80〜150℃であることが好ましい。また、硬化時間は触媒量、塗膜の厚さおよび加熱温度に応じて適宜選択しうるが、一般的に1〜120秒間の範囲であり、20〜60秒間が好ましい。加熱方法は特に限定されるものではなく、熱風循環式オーブン中での加熱、長尺の加熱炉への通過、赤外線ランプやハロゲンランプによる熱線輻射が例示される。
【0048】
本発明の溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物は、本発明組成物は前記の成分(A)〜成分(E)および紫外線硬化性を与える成分(F)からなることが好ましい。特に、上記の加熱硬化と紫外線照射を併用して硬化させることが、剥離性皮膜のシリコーン移行性をより改善することができるため、特に好ましい。
【0049】
ここで、本発明組成物の硬化に使用できる紫外線として、例えば水銀アーク、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等から発生する波長200〜400nmの範囲にある紫外線が使用できる。また、放射線量は上記した塗膜が硬化し得る量であればよく、例えば1KW〜2KWの高圧水銀灯を使用したときに8cm前後の距離から0.1〜10秒照射することが好ましい。なお、紫外線硬化前に風乾や加熱により、本発明組成物を予め付加硬化させることが好ましく、特に、有機溶剤をある程度揮発させておくことが好ましい。
【0050】
紫外線硬化の際の露光量については、適宜選択することができるが、10〜10,000mJ/cmの範囲内の値とするのが好ましく、100〜5,000mJ/cmの範囲内の値とするのがより好ましい。露光量が前期下限未満では、紫外線硬化により期待される剥離性皮膜の物理強度の向上が不十分である場合がある。また、露光量が前期上限を超えると、露光時間が過度に長くなり、生産性が低下する場合があるためである。
【0051】
本発明の剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物をシート状ないしフィルム状基材表面に塗工するためのコーターは、特に限定されず、ロールコーター,グラビヤコーター,エアーコーター,カーテンフローコーター,オフセット転写ロールコーターが例示される。シート状ないしフィルム状基材表面に本発明の剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を塗工し硬化させてなる剥離性シートないしフィルムに適用する粘着性物質は、各種粘着剤、各種接着剤等であり、アクリル樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤;アクリル樹脂系接着剤、合成ゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤が例示される。また、アスファルト、餅のような粘着性食品、糊、鳥もちが例示される。
【0052】
本発明組成物は、表面の滑り性と粘着性物質に対する剥離性に優れた硬化皮膜を形成させるのに有用であり、特に工程紙、アスファルト包装紙、各種プラスティックフィルムの剥離性硬化皮膜形成剤として好適である。また、本発明組成物を硬化させてなる剥離性皮膜を有するシート状ないしフィルム状基材は、剥離フィルムないし剥離シートとして、特に工程紙、粘着物質包装紙、粘着テープ、粘着ラベル等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例において、部とppmはいずれも重量部と重量ppmである。
【0054】
実施例中の粘度は、以下に示す方法により25℃において測定した。また、溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の硬化皮膜の特性は、以下に示す方法によりポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に硬化皮膜を形成させ、剥離抵抗値、粘着物質に対する残留接着率(%)およびシリコーン移行性をそれぞれ25℃において確認することにより評価した。
【0055】
[粘度]
オルガノポリシロキサンと溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の粘度は、25℃においてデジタル表示粘度計(芝浦システム株式会社製のビスメトロンVDA2型)を用いて測定した。
【0056】
[硬化皮膜の形成]
溶剤型剥離性硬化皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を、印刷適正試験機[(株)明製作所製;RI−2]を用いてポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にシロキサン換算で0.2g/mとなる量塗工した。塗工後のフィルムを熱風循環式オーブン中で110℃で30秒間加熱処理した後、120W/cmの高圧水銀灯光源を用いたコンベア式紫外線照射装置[アイグラフィックス(株)製、商品名、EYE GRANDAGE]に速度10m/minの条件下で1回通過させることにより、紫外線を照射して硬化皮膜を形成させた。
【0057】
[剥離抵抗値]
上記の方法で形成させた硬化皮膜面にアクリル系溶剤型粘着剤[東洋インキ製造株式会社製、商品名オリバインBPS−5127]を固形分で30g/mとなるようにアプリケーターを用いて均一に塗布し、温度70℃で2分間加熱した。次いで、このアクリル系粘着剤面に坪量64g/mの上質紙を貼合わせ、得られた貼合わせ紙を5cm幅に切断して試験片を作成した。該試験片に20g/cmの荷重をかけて、温度25℃、湿度60%の空気中に24時間放置した。この後、引っ張り試験機[株式会社エー・アンド・ディー製 テンシロン万能試験機]を用いて、貼合わせ紙を角度180度、剥離速度0.3m/minの条件で引張り、剥離に要した力(N)を測定した。
【0058】
[残留接着率]
硬化皮膜の表面に粘着テープ[38mm幅、日東電工(株)製、商品名ニット−31B粘着テープ]を貼り付け、20g/cm2の荷重をかけて70℃で1日放置した。次にそのテープを剥がしてステンレス板(JIS C2107)に貼り付け、2kgのローラーで圧着した後25℃、湿度60%で30分間養生させ、ステンレス板からテープを180°方向に0.3m/分の速度で剥離するときの剥離力f(mN)を測定した。また、ブランク試料として、シリコーン処理紙の替わりにポリテトラフルオロエチレンフィルムにニット−31B粘着テープを貼り付け、上記と同様に処理して剥離力f(mN)を測定し、これをブランク値とした。これらの剥離力の測定値により、残留接着率(%)を次式から算出した。
残留接着率(%)=f×100/f
【0059】
[シリコーン移行性]
硬化皮膜の表面に、清浄な合成樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を貼り合わせ、プレスで100kg/cm2の荷重をかけて、25℃で30分間放置した。次いで合成樹脂フィルムを剥がし取り、塗工したフィルムと接触していた面にマジックインキ(登録商標)で線を書き、インキのはじきの程度を以下の基準により、目視で確認することによって評価した。
「なし」:インキのはじきがなければ、シリコーン移行はないものとし「なし」と評価した。
「若干あり」:インキのはじきが全くないわけではないが、明瞭に確認できない程度であれば、シリコーン移行が若干あるものとし、「若干あり」と評価した。
「あり」:インキのはじきが明瞭に確認できれば、シリコーン移行があるものとし、「あり」と評価した。
【0060】
[実施例1]
(A1)分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルヘキセニルシロキサン共重合体(この共重合体の30重量%トルエン溶液の粘度は5,000mPa・sであった。) 100重量部を、(E1)トルエン 275.44重量部に溶解させた。次いでこの溶液に(B1)両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量1.6重量%、粘度20mPa・s) 2.4重量部、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部、(G1)3−メチル−1−ブチン−3−オール 2重量部および (F1)ジエトキシアセトフェノン0.16重量部を加えて、均一に溶解させた。さらに、(D1)塩化白金酸と1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯塩 を白金金属量が200ppmとなるような量添加配合して、溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[1]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。
【0061】
[実施例2]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、同成分(C1) 10重量部を用いる他は実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[2]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。
【0062】
[実施例3]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、(C2)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.02重量%、粘度135mPa・s) 20重量部を用いる他は実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[3]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。
【0063】
[実施例4]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、(C2)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.02重量%、粘度135mPa・s) 10重量部を用いる他は実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[4]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。
【0064】
[実施例5]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、(C3)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.06重量%、粘度5mPa・s) 20重量部を用いる他は実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[5]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部を配合しない他は実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[7]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。該組成物[7]からなる剥離性硬化皮膜は剥離抵抗値が大きく、軽い剥離性能が実現できなかった。
【0066】
[比較例2]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、分子鎖両末端がジメチルヒドロキシシロキシ基(−Si(CHOH)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(このポリシロキサンの30重量%のトルエン溶液の粘度は15,000mPa・sであった。) 20重量部を用いるほかは、実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[8]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。該組成物[8]からなる剥離性硬化皮膜は、残留接着率が低下する結果となり、若干のシリコーン移行が見られた。
【0067】
[比較例3]
実施例1において、(C1)分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された直鎖状ポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子含有量0.01重量%、粘度400mPa・s) 20重量部の代わりに、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基(−Si(CH)で封鎖されたジメチルポリシロキサン・メチルフェニルポリシロキサン共重合体(このポリシロキサン共重合体の粘度は10,000mPa・sであった。) 4重量部を用いるほかは、実施例1と同様にして溶剤型剥離性硬化皮膜形成用シリコーン組成物[9]を調製した。前記の方法により該組成物からなる硬化皮膜を作成し、得られた硬化皮膜の剥離抵抗値、残留接着率(%)およびシリコーン移行性の評価結果を表1に示した。該組成物[9]からなる剥離性硬化皮膜は、残留接着率が大きく低下する結果となり、シリコーン移行が見られた。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る溶剤型剥離性硬化皮膜形成用オルガノポリシロキサン組成物は、フィルム状ないしシート状基材表面に、粘着性物質に対する剥離性能に優れ、かつ粘着性物質に対しその粘着性を低下させることなく、皮膜背面へのシリコーン移行性の少ない硬化皮膜を形成するのに有用である。本発明に係る前記組成物の硬化皮膜を有するフィルム状ないしシート状基材は、剥離フィルムないし剥離シートとして、工程紙、粘着物質包装紙、粘着テープ、粘着ラベル等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)25℃における粘度が1〜1,000mPa・sの範囲であり、かつ、1分子中に少なくとも3個の分子鎖側鎖に結合したケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.5〜100重量部、
(C)25℃における粘度が2.5〜2,000mPa・sの範囲であり、その分子鎖両末端にケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン 1〜120重量部、
(D)白金系触媒 触媒量、
および
(E)有機溶剤 10〜2000重量部からなる溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
さらに、(F)光重合開始剤 0.01〜2.5重量部を含む請求項1に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
成分(C)が下記構造式(1)で表わされる直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項1に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【化1】

[式中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素原子数1〜10の一価炭化水素基または一価ハロゲン化炭化水素基であり、nは25℃における粘度が2.5〜500mPa・sとなる数である。]
【請求項4】
成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
成分(A)が下記構造式(2)で表わされる1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【化2】

[式中、Rは水酸基,アルケニル基および非置換もしくは置換のアルキル基からなる群から選択される同一または異種の基であり、すべてのRのうち少なくとも2つはアルケニル基である。mおよびpは、0.90≦m/(m+p)≦1.0,0.0≦p/(m+p)≦0.10を満たす正の整数であり、(m+p)は成分(A)の30重量%トルエン溶液の25℃における粘度が1,000〜100,000mPa・sの範囲となるような値である。]
【請求項6】
成分(A)が1分子中に少なくとも2個のヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1、請求項4および請求項5のいずれか1項に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項7】
フィルム状もしくはシート状基材上に、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物である剥離性皮膜が形成されていることを特徴とする剥離フィルムもしくはシート。
【請求項8】
請求項2に記載の溶剤型剥離性皮膜形成性オルガノポリシロキサン組成物を、フィルム状もしくはシート状基材上において、加熱および紫外線照射により硬化させて剥離性皮膜を形成させることを特徴とする剥離フィルムもしくはシート。

【公開番号】特開2009−114285(P2009−114285A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287347(P2007−287347)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】