説明

溶媒中における分子の溶液の平均分子特性を決定する方法

【課題】分留されていない巨大分子の溶液における分子特性の測定のための新しい方法を与える。
【解決手段】一連の濃度にまたがるサンプル一定分量が、溶液の流れに連続して注入され、検出器に向かって流れる。それによって、各一定分量は、その要素が希釈された一定分量の異なる濃度に対応する、有効な「ピーク」を生成する。重み平均モル質量、平均二乗半径、および溶液における巨大分子の第2のビリアル係数が、対応するピーク全体にわたる分散信号の角度および濃度依存の分析から導き出される。従前のオンライン法とは対照的に、より少量サンプルを用いつつよりよい精度が達成される。巨大分子の2つの区別できる種間のクロスビリアル係数を決定する同様の方法も示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
溶液の分子は、その重み平均モル質量M、第2のビリアル係数A2、および以下で表わされる平均二乗半径によって、一般に特徴づけられる。
【0002】
【数1】

【0003】
(ここでrは分子の質量中心からの距離であり、dmはその距離における少量の質量である)。ある場合には、第3のビリアル係数A3にも注意される。他の場合には、2つの区別できる分子AとBとの間のクロスビリアル係数A2ABに注意される。Mおよび<rg2>は、溶液のすべての分子にわたって平均された、個別の分子の特性である。ビリアル係数は、溶媒によって媒介される間の分子間の平均相互作用の測定単位である。分留されていない溶液については、これらの特性は、化学物理学ジャーナル(Journal of Chemical Physics)第16巻、1093〜1099頁に掲載されたブルーノ・ジム(Bruno Zimm)による1948年の研究論文に記載された方法を用いて、それらの光が散乱される態様を測定することにより決定され得る。少量の溶液から散乱した光は、さまざまな角度および濃度にわたって測定される。さまざまな散乱角にわたる光散乱データの集合は、より一般的には、多角度光散乱、MALSと呼ばれる。単一の種類の分子の光散乱測定から導き出される特性は、ジムによって開発され、「重合体(Polymer)」10の804−809頁(1969年)においてW.A.J.ブライス(W.A. J. Bryce)によって訂正された以下の公式を通して関連付けられる:
【0004】
【数2】

【0005】
ここで、R*(c,θ)=R(c,θ)/K*であり、R(c,θ)は、R(θ)=[Is(θ)−Isolv(θ)]r2/[IOV]として定義される単位角当りの方向θにおける測定された過剰レイリー比(excess Rayleigh ratio)であり、Is(θ)は、角度の関数として単位角当りの溶液によって散乱した光の強度、Isolv(θ)は、角度の関数として単位角当りの溶媒から散乱した光の強度、IOは入射強度、rは散乱した体積から検出器までの距離、Vは検出器で読取られる照らされた体積であって、K=4π202/(NAλ04)、かつK*=K(dn/dc)2であって、NAはアボガドロ数であり、dn/dcは屈折率増分であり、n0は溶媒屈折率であり、λ0は真空における入射光の波長である。P(θ)は以下の式によって定義される分散分子の形状因子である:
【0006】
【数3】

【0007】
P(θ)の一般的形式は、P.デバイ(P.Debye)によって物理学コロイド化学ジャーナル(J. Phys. Colloid Chem.)51の18(1947年)において以下のように導き出された:
【0008】
【数4】

【0009】
1は、
【0010】
【数5】

【0011】
によって平均二乗半径に関連し、k=2π/λであって、λは溶媒における入射光の波長である。P2は、
【0012】
【数6】

【0013】
によって、平均二乗半径<rg2>および平均四乗半径<rg4>に関連する。この方程式は、濃度およびsin2(θ/2)の冪乗における級数展開に基づいた近似値である。そのため、精度は、さらなる高次項の相対的な大きさに依存する。
【0014】
この測定を行なうための、「プラトー法」としても公知である標準的方法は、公知の値の濃度が増加するサンプル列を準備することと、サンプルを包含するガラス瓶を光ビームに挿入することによって、またはビームに位置するフローセルにサンプルを注入することによって、サンプルを連続してMALS検出器に導入することと、光検出器によって各角度における散乱された強度を得ることと、各濃度および各角度について過剰レイリー比を計算することと、M、<rg2>、A2およびA3を抽出するために方程式(1)にデータをフィッティングすることとを含む。
【0015】
いくらかの以前のサンプルまたは溶液を包含しているフローセルにサンプルを注入する場合には、セルを「過剰供給する」ため、すなわち、セル内の濃度を本来の公知のサンプル濃度にするために、十分な体積が注入されなければならない。これは、散乱信号を観察し、信号対時間の値が停滞状態(plateau)に達するまでサンプルを流すことによって達成され得、それは指数関数的な依存を伴って漸近的に生じる。代替的には、フローセルを備えた濃度検出器がフロー経路に加えられてもよく、またMALS信号および濃度信号の両方が時間が経つと停滞状態に達するように、十分なサンプルが注入されなければならない。このように、MALS検出器における濃度は濃度検出器における濃度から推論されることができ、方程式(1)におけるRおよびcの値を与える。フローセルを飽和させるのに必要な注入あたりの典型的な体積は1−3mLである。
【0016】
各セルの正確な濃度値への漸近的手法を認識すると、下からではなく上から漸近的に正確な濃度に接近する、減少する級数とともに増大する濃度級数に従うことにより、さらに正確な測定が得られる。2つの測定(増大する濃度および低下する濃度)の平均値は、2倍のサンプル合計および2倍の測定時間を犠牲にするが、より正確な計算をもたらす。ト
レイノフ(Trainoff)らによる米国特許第6,651,009号(以下、’009の特許と称する)に従うと、純粋な質量項に相対して光散乱方程式のビリアル展開でのA2およびA3項の大きさを記述する、良度指数FOMを規定することができる。これらは方程式(1)から、それぞれ2A2Mc−4A222c2および3A3Mc2として容易に導き出せる。光散乱がそのようなビリアル展開によって記述され得るという仮定は、方程式の収束を意味する。すなわち、連続的な高次項の大きさがかなり素早く低下する。換言すれば、1>>FOM(A2)>>FOM(A3)であり、良度指数が小さいほどより良い近似値となる。他方では、信頼できる測定値を得るためには良度指数が何らかの有限値でなければならないことは、信号対雑音を考慮しても明らかである。特定のサンプルおよび機器について、A2およびA3を決定するためのFOMの望ましい上限および下限は、これらの考慮によって設定される。
【0017】
米国特許第6,411,383号では、ワイアット(Wyatt)は、MALS検出器および濃度検出器を通して流れる有限体積の分留されていないサンプルの単一の注入を用いて、M、<rg2>、およびA2を測定するための関連する方法を記載する。このサンプル注入の前後には十分な純粋な溶媒が与えられ、MALS信号および濃度信号をベースライン(Isolv)に戻し、その注入は信号において「ピーク」と表示される。サンプルの有限な性質のために、サンプルがシステムを通して流れる際、サンプルは希釈され、広がって、注入の異なる部分が異なる濃度を示す。注入ごとに単一の値のI(θ)およびcを備えた複数の注入に対して方程式(1)を用いる代わりに、発明者は、単一のピークにわたるI(θ)、cおよびc2の合計を計算し、方程式(1)および演繹的なMについての知識によって<rg2>およびA2を求める。
【0018】
単一の流れるピークを利用するこの方法は、「ワイアットピーク」法として本願明細書に表示される。フローセル飽和が必要ではないので、はるかに小さな200−500μmLの範囲の体積しか典型的には必要とされず、そこでは、最大の溶出間隔濃度は、プラトー法で得られるであろう濃度に対応する。
【0019】
検出器から検出器へと通る際に、サンプルピークはさらに広がり、混合および希釈により高さが減じられる。したがって、濃度検出器からの時間依存する濃度信号は、光散乱検出器に存在する時間依存する濃度を正確に複製するわけではない。光散乱信号が濃度の一次関数ではないので、光散乱および濃度の連続する値に方程式(1)を適用することは、ビリアル係数の計算においていくらかの誤差をもたらす。ワイアットピーク法における誤差は、検出器間の拡大が増加するにつれ、かつ濃度への線形依存からのMALS信号の偏差が増加するにつれて、すなわちFOMが大きくなるにつれて増加する。
【0020】
’009の特許は、この誤差を減じることを意図した補正率を説明し、本願明細書において「トレイノフ−ワイアットピーク法」として表わされる。この方法では、異なる濃度の一連のピークが検出器に注入される。これらの注入の典型的な体積は100−200μLである。検出器間拡大がない場合、各ピークにわたってR(θ)、cおよびc2を合計し、方程式(1)にこの合計をフィッティングすることにより、関心のあるパラメータを計算することが可能である。ここでも、拡大効果が計算に誤差を導入する。’009の特許は、拡大がピークの幅に小さな変化しかもたらさない場合では、簡単な乗法因子によって誤差を補正できることを示す。この因子はいくつかの方法で決定することができる。最も簡単なものは、注入方法の結果を参照標準のプラトー法の結果と比較する較正方法である。それによって決定された補正率は、続く未知のサンプルに用いることができる。ガウスピークの特別な場合では、補正率はピーク幅の比から推論することができる。この方法の限界は、大きな拡大にはうまく作用しないこと、および補正率を演繹的に決定するにはさらなる努力を必要とすることである。
【0021】
したがって、’009の特許におけるように最小限のサンプル量について流れるピークを利用するが、M、<rg2>、A2およびA3について、検出器間拡大効果と無関係の態様でピーク形状に関する制限なしに、ピークデータを分析する方法が有利であろう。
【0022】
異種の分子AおよびBの間の相互作用を測定するクロスビリアル係数もまた、科学および産業においてさらに根本的に重要な数量である。2つの分子種の溶液のための光散乱方程式は方程式(3)に一次的に提示される。単一種の場合に関しては、自己ビリアル係数およびクロスビリアル係数は、この場合両方の種の、異なる濃度を包含する一連の注入によって測定されることができ、光散乱値および濃度値をこの方程式にフィッティングする。これは、MA、MB、<rg2A、<rg2B、A2A、A2BおよびA2ABについてのプラトー法に類似しており、ここでA2AおよびA2Bは「自己ビリアル係数」、A2ABはクロスビリアル係数であり得る。自己ビリアル係数についてのワイアットピーク法と類似する、最小限のサンプル量を用いてクロスビリアル係数を特徴づける方法が有利であろう。
【0023】
【数7】

【0024】
さまざまな型のオンライン濃度検出器が公知であり、UV可視の吸光型、蛍光型、示差屈折率(dRI)型などの検出器を含む。dRI検出器は光散乱測定と組合せると特に有用であり、広範囲の可溶性巨大分子を測定するのに十分に用途が広い。dRI測定の1つの欠点は、溶媒に対してタンパク質サンプルを完全に透析する必要があることである。これは、dRI検出器が、溶解ガスと同様に、純粋な緩衝液の中にはないがタンパク質サンプルの中にあり得る、塩類および賦形剤に敏感であることとまさに同じ理由のためである。
【0025】
透析はまた、ビリアル係数が緩衝液条件に応じて異なるので、ビリアル係数測定においても重要であり、緩衝液条件は測定が意味あるものとなるために十分に定義されていなければならない。いくつかの例では、分子の相互作用に対する緩衝液の効果はいくつかの異なる緩衝液におけるビリアル係数の測定により決定され、各緩衝液に対して同じサンプルの一定分量(aliquot)が透析されなければならない。しかしながら、透析は単調で時間のかかるプロセスとなりかねず、インライン透析と流れるピーク測定とを組合わせる手段が、これらの測定の自動化において有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第6,651,009号
【特許文献2】米国特許第6,411,383号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】化学物理学ジャーナル(Journal of Chemical Physics)第16巻、1093〜1099頁
【非特許文献2】「重合体(Polymer)」10の804−809頁(1969年)
【非特許文献3】物理学コロイド化学ジャーナル(J. Phys. Colloid Chem.)51の18(1947年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
この発明の目的は、最小限のサンプル量を用いる、精度が向上し、計算の手間が減じられた、異なる濃度のサンプルの一連の注入からM、<rg2>、A2およびA3を直接に決定する、本願明細書において「オンライン・ビリアル係数法」と表わされる方法を与えることである。
【0029】
この発明の別の目的は、オンライン・ビリアル係数法に基づいて、最小限のサンプル量を用いてクロスビリアル係数を決定することである。
【0030】
この発明のさらに別の目的は、測定と透析プロセスとを組合わせることにより自動化を増大させ、異なる溶媒に対して注入前にサンプルを透析する必要性を回避することである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の1つの好ましい実施の形態である注入弁法の重要な要素の図である。
【図2】この発明の第2の好ましい実施の形態である複式ポンプ法の重要な要素の図である。
【図3】リン酸緩衝溶液(PBS)におけるウシ血清アルブミン(BSA)のジムプロットを構築するのに用いられる、一連の注入についての90°光散乱信号および濃度信号を示す図である。
【図4】図3のプラトーデータおよび図3のデータに適用されるプラトー法を介した標準分析に基づく、PBSに溶解したBSAの従来のジムプロットである。
【図5a】オンライン・ビリアル係数法でリン酸緩衝溶液(PBS)におけるウシ血清アルブミン(BSA)のジムプロットを構築するのに用いられる、一連の注入についての90°光散乱信号および濃度信号を示す図である。
【図5b】個々のピークを示す、(a)でプロットされたデータの部分を示す図である。
【図6】図5aおよび図5bのデータに適用された、オンライン・ビリアル係数分析を用いたジムプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
’009の特許におけるように、この方法は、連続的に配置されたMALS検出器および濃度検出器のフローセルを通して注入するための1組のサンプル濃縮液の準備から始まる。サンプル濃縮液を形成し、かつそれを検出器に送るために用いられ得る技術のうち2つは、注入ループ/注入弁法と下記に記載される複式ポンプ法とである。異なるサンプル濃縮液のピークを形成し注入する方法の他の実施の形態は、当業者に明らかである。
【0033】
注入弁法:
第1の好ましい実施の形態では、溶媒の流れが、回避位置にある注入弁によって検出器を通って連続的に流れる。回避位置にある間、サンプルはサンプルループにロードされる。次いで、バルブが注入位置に回転し、サンプルループがフロー経路に挿入され、サンプルが検出器に運ばれる。自動サンプル採取装置が利用可能な場合、続いて特定された濃度に自動希釈するために、サンプルの単一の原液が与えられてもよい。自動サンプル採取装置を用いて濃縮液を準備するために2つの方法がある。まず、自動サンプル採取装置がより少量の原液を徐々にサンプルループに注入し、サンプルループを満たした状態にする。
代替的には、サンプルループを満たす前に予めサンプルを希釈し、次に典型的には各濃縮液の体積と等しい体積で、希釈されたサンプルをループに注入するように、自動サンプル採取装置をプログラムすることができる。実現がより簡単なので前者の方法が好ましい。自動サンプル採取装置が存在しない場合、異なる濃度のサンプル列が、手動または当業者に公知の他の任意の方法によって、注入のために準備されてもよい。
【0034】
複式ポンプ方法:
第2の好ましい実施の形態では、サンプル原液を供給するポンプおよび溶媒を供給する他のポンプの2つのポンプを介して、サンプルおよび溶媒が混合され、検出器を通って流される。ポンプの流量の比は、流量の合計が目標値を達成するように所望の希釈を生成するよう調整され、2つの流れは組合わせられて、検出器に達する前にミキサを通過する。たとえば希釈されたサンプルの均質化、平衡化などのために、サンプルが検出器に達する前に、流れはいつでも停止することができる。所望の希釈でサンプルの所望の体積を形成した後に、サンプル原液を与えるポンプは停止され、溶媒を与えるポンプはサンプルを検出器へと押し出して所望の合計流量値と一致するよう調整される。
【0035】
第3の好ましい実施の形態では、これらの2つの注入方法を組合わせることができ、そこでは複式ポンプ希釈システムは希釈されたサンプルを注入ループに与える。
【0036】
MALS検出器および濃度検出器に達する際、これらの検出器によって測定される信号はコンピュータによって取得され、分子特性を計算するために格納され、処理される。
【0037】
この計算は、サンプルが1つの検出器から次の検出器までの経路で希釈されているが、失われるサンプルはないという事実を説明する。濃度および角度の冪乗の級数展開としての通常の過剰レイリー比の表現の代わりに(方程式(1)を参照)、ジム方程式が反転され、標準ジム方程式と同じ近似次数で、過剰レイリー比および角度の冪乗の級数展開としての濃度の表現を与える。新しい方程式は光散乱データに適用され、MALS検出器を通過するピークの各点における濃度を得る。次いで、両方の検出器における濃度信号が積分されて各ピークの合計サンプル質量を得る。これらの質量が等しいと仮定されるので、2つの検出器からの積分値は等しくなり得る。異なる濃度のピークの列すべてについてこの手順が繰返され、結果が方程式にフィッティングされて、M、<rg2>、A2およびA3パラメータが得られる。
【0038】
この計算は、検出器を通る流量が一定であるという仮定のもとに、ピークにわたって検出器信号を積分することを含む。したがって、サンプルが検出器の中にある間に一定の流量を維持することが重要である。しかしながら、サンプルが検出器に到達するに先立って、およびベースラインに戻った後、必要に応じて、流れは停止されてもよい。
【0039】
1.0 単一種の解析
1.1 理論的な説明
この計算は、c=c(R*,θ)を表わすために光散乱方程式を反転することに依存する。この反転は、標準ジム方程式(1)の形式から最も容易に導き出される:
【0040】
【数8】

【0041】
この展開は容易に反転されて以下を生じる:
【0042】
【数9】

【0043】
これが光散乱検出器の内部のサンプルの瞬間的濃度を記述することに注意するのが重要である。連続して取付けられた濃度検出器における濃度は、一般に、2つの検出器間の通過時間に関連付けられる遅延を訂正した後であってさえ、検出器間拡大の前述の効果により、僅かに異なるであろう。瞬間的濃度は異なるが、各検出器を通過する各ピークにおける全質量が同一であることは質量保存により保証される。
【0044】
オンライン・ビリアル係数測定では、濃度を積分することにより、濃度検出器およびMALS検出器に検出される各ピークの全質量が均等化される:
【0045】
【数10】

【0046】
ここでciは濃度検出器によって取得される第i番目の濃度測定であり、溶出された体積Δviにわたって平均化され、かつcjは光散乱検出器によって取得されるデータから計算された第j番目の濃度であって、溶出された体積Δvjにわたって平均化される。便宜上、以下の表記が用いられる。ここでR(θ)jは、角度θで光検出器によって取得される過剰レイリー比の第j番目の光散乱測定であり、溶出された体積Δvjにわたって平均化されている:
【0047】
【数11】

【0048】
方程式(5)は次のように書き直されてもよい:
【0049】
【数12】

【0050】
さまざまな濃度の一連のピークからのデータを方程式(6)にフィッティングすると、M、<rg2>、A2およびA3の値が決定される。同様の方法で、R(θ,c)のいかなる次数へのビリアル展開も反転することができ、比較できる次数でc(θ,R)を得る。体積要素の大きさは、溶出時間および流量から決定される。MALS検出器および濃度検出器が連続して接続されるので、両方を通る流量は同一であり、体積要素は時間要素ΔtiおよびΔtjと置換されてもよい。検出器間バンド拡大は瞬間的濃度(cmi)に影響するが、積分された濃度(cm)には影響しないことは重要な観察結果である。したがって方程式(6)は検出器間バンド拡大に依存せず、これは従前の方法に比べてこの方法の主要な利点となる。
【0051】
この方法は、両方の検出器を通って溶出する全質量が等しいと仮定する。したがって、測定値と計算値とで、溶出するサンプルのすべてを本質的に含むのに十分なさまざまな溶出する体積要素をカバーしなければならない。
【0052】
1.2 測定装置および手順
初期の濃度c1,c2,…cnの1組のサンプルが1組の検出器に連続して注入される。これらの検出器は、図1に示されるように、複数の角度θkに光検出器を含むMALS検出器および濃度検出器である。MALS検出器の1つの例は、カリフォルニア州サンタバーバラのワイアットテクノロジー株式会社(Wyatt Technology Corporation, Santa Barbara, CA)のDAWN−HELEOSであり、濃度検出器の例は、やはりワイアットテクノロジー株式会社のOptilab rEXである。典型的な実施の形態では、濃度級数はcm=mΔcに対応し、ここでmは1からnまでの整数値をとり、Δcは固定された濃度ステップである。サンプルピークがシステムを通して流れる間に希釈されて広がるので、実際のピーク濃度は元の値とは異なる。サンプルはポンプによって検出器を通して連続的に流れるようにされる。サンプルが検出器を通過する間、検出器からデータが取得され、以前に説明したフィッティング手順を実行するコンピュータによって格納され、分析される。
【0053】
第1の実施の形態には、図1に示される「注入弁法」が表わされ、溶媒は、脱気器3を通って溶媒貯槽2からポンプ手段1によって引き出され、次にフィルタ手段4を通して注入弁ポンプ11ならびに検出器8および9に向かってポンプ送りされる。脱気器3は一般に溶媒から溶解したガスを取り除くために用いられる。なぜならばそのようなガスは、溶液自体からの所望の測定に干渉しかねない、小さな気泡を後に溶液に生成し得るからである。フィルタ手段4が一般に組込まれ、示されるように、所望の測定に干渉しかねない残りの微粒子材料を前記溶媒から取除く。ポンプ手段の1つの例は、カリフォルニア州サンタクララのアジレント・テクノロジー社(Agilent Technologies, Inc., Santa Clara, CA)のG1310型のアイソクラチックポンプである。脱気器の例は、ワシントン州オークハーバーのアップチャーチ・サイエンティフィック社(Upchurch Scientific, Oak Harbor, WA)から入手可能なシステックマルチチャネル真空脱気器(Systec Multi-Channel Vacuum Degasser)である。溶媒がサンプルループ12を通って流れないように、溶媒は回避位置に設定される注入弁11を通って流れる。注入弁の例は、やはりアップチャーチ・サイエンティフィック社の7725型の分析的注入器である。サンプル5の一定分量は
注入器手段6によってサンプルループ12に転送される。その重み平均モル質量、平均二乗半径、および第2、第3のビリアル係数はこの発明の方法によって導き出される。サンプル移動が完了すると、注入弁は注入位置に切り替えられ、その結果、溶媒はサンプルループ12を通して流れ、検出器8および9にサンプルを運ぶ。さまざまな濃縮液を前もって準備することができ、サンプルループに手動で注入することができる。代替的には、それらは前もって準備され、自動サンプル採取装置によって注入されてもよい。好ましい実施の形態では、同じくアジレント・テクノロジー社の1329Aなどの商業用自動サンプル採取装置は、ガラス瓶内で異なる体積の原液および溶媒を混合することによりサンプルの原液から濃縮液を形成するようにプログラムされている。別の好ましい実施の形態では、異なる体積の原液をサンプルループに直接注入するように自動サンプル採取装置をプログラムすることにより濃縮液が形成される。そこではサンプルループが溶媒で満たされ、サンプルループ中で混合することによって希釈が生じるように、注入体積はループ体積よりも小さい。優先的に、サンプルの濃度は桁にまたがるか、それ以上となる。
【0054】
第2の実施の形態では、図2に示される「複式ポンプ法」を表わし、コンピュータに制御される2つのポンプ21aおよび21b、たとえば、ネバダ州リノのハミルトン社(Hamilton Corp., Reno, NV)のMicrolab500デュアルシリンジ希釈器/ディスペンサ(Microlab 500 Dual-Syringe Diluter/Dispenser)は、2つの独立して制御可能なシリンジポンプを含み、これらが用いられてサンプル貯槽22からサンプルを引出し、溶媒貯槽23から溶媒を引出す。これらは脱気チャンバ24aおよび24bを通して転送され、フィルタ25aおよび25bを通してポンプ送りされる。2つのポンプの流量はコンピュータによって調整され、流れは、所望の濃度のサンプルの連続的な流れを生成するために、たとえばカリフォルニア州エルソブランテのアナリティカル・サイエンティフィック・インスツルメンツ社(Analytical Scientific Instruments, El Sobrante, CA)から入手可能なハイパーシアー(Hypershear)インラインスタティックミキサなどの混合チャンバを通して組み合わされ、ポンプ送りされる。混合されたサンプルは、混合チャンバ、管材料、脱塩カラムおよび必要に応じた任意の付加的な体積を含む保持体積26に一時的に格納されてもよい。混合されたサンプルの所望の体積が保持体積に注入された後、サンプル原液の流れは停止され、溶媒は、サンプルが保持体積から検出器を通って所望の流量で流れるようにするために、ポンプ21aによってポンプ送りされる。希釈の好ましい範囲は前の実施の形態における範囲と同じである。
【0055】
当業者に明らかなように、第3の実施の形態では、複式ポンプ法におけるように1対のポンプで連続するサンプル濃度を形成し、混合されたサンプルをサンプルループに注入して、注入弁法におけるように、注入弁を切り替える際に付加的なポンプ手段によってサンプルが検出器に押出される。
【0056】
サンプルが予めの透析を必要とする場合、脱塩カラム7、たとえばスウェーデン、ウプサラのアマシャム・バイサイエンス社(Amersham BioSciences, Uppsala, Sweden)から入手可能なHiTrap脱塩カラムなどがMALS検出器8の前に配置されてもよい。
【0057】
各連続サンプル5はMALS検出器8を通過し、それによって各角度における過剰レイリー比の値、Rj(θk)は、連続的な溶出体積Δvjで、示差屈折率(dRI)検出器として示された濃度検出器9を通して測定される。それによってサンプル濃度ciは各体積間隔Δviで測定される。次いで、結果的な光散乱信号および濃度信号は、各注入された一定分量m、値Cm、R1,mk、R2,mk、およびR3,mkについて計算するため、コンピュータ手段10によって格納され処理される。コンピュータ手段10はまた、計算された結果を方程式(6)にフィッティングすることにより、M、<rg2>、A2およびA3を含む分子特性を計算する。分子特性を抽出するためにさまざまなフィッティング手順が実現され得る。角度依存が無視できる場合、またはA3項が無視できる場合、線形の最小二乗法は
1つの好ましい実施の形態である。別の好ましい実施の形態ではフィッティング手順は、レーベンバーグ−マルカート・アルゴリズム(Levenberg-Marquardt algorithm)を使用する非線形の最小二乗法から構成される。当業者には公知なように、さらなる高位項をすべて維持することがデータの質またはFOMのメリットにならないならば、より下位の次数のフィッティング、たとえばA3項を取除くことなどが実行されてもよい。
【0058】
サンプル濃度検出器9はdRI検出器であってもよいが、紫外線検出器または可視光線吸収検出器が代用されてもよい。蒸発性光散乱検出器が用いられて各溶出するサンプルの濃度をモニタしてもよいが、このような装置は、応答が一般に非線形なので、特別な較正を必要とする場合がある。他のオンライン検出器は当業者に公知である。
【0059】
当業者に明らかなこととして、測定されたデータの方程式(6)の形式に対するフィッティングは、線形の最小二乗法、レーベンバーグ−マルカート法、または他のアルゴリズムのいずれによって行われたとしても統計的な重みづけを含むことができ、それにより、これらのフィッティングの実行に用いられるデータは、その測定された標準偏差によって重みづけされる。
【実施例1】
【0060】
1.3 方法の実施例
この方法の実用性を実証するために、水性リン酸緩衝溶液(PBS)に溶解されたウシの血清アルブミンBSAの分子パラメータの測定が示される。シグマ・オルドリッチ株式会社(Sigma-Aldrich Corporation)のサンプルは、66,400の単量体分子量(実際の重み平均モル質量は、二量体および三量体の低濃度の存在により、僅かに大きい)と、(静的な光散乱技術を用いて)可視光線散乱により測定可能な限界を下回る、平均二乗半径とを有する。
【0061】
サンプルは2つの方法を用いて特徴づけられた。第1の方法はプラトー法である。サンプル原液は10g/lの濃度で準備された。原液および溶媒は脱気チャンバを通して引き出され、フィルタされ、固定された濃度間隔で、トリプルシリンジポンプ希釈器/ディスペンサによってスタティックミキサにおいて所望の濃度級数まで混合された。フローセルを満たし、かつ各信号をプラトーに導くように、十分に多量のサンプル(2mL)が、連続的に接続されたMALS検出器および濃度検出器に注入された。90°光散乱検出器27からの生の信号および濃度検出器28からの未処理信号が図3に示される。プラトーは明確に目に見え、各ピークのプラトー上の小さな範囲のデータが平均化され、図4に示されるジムプロットを生成するために用いられた。測定された量は、M=67,760±0.05kDおよびA2=1.33±0.01×10-4mol・mL/g2である。データは高品質であるが、比較的多量のサンプル(一定分量当たり〜2mL)が必要である。
【0062】
第2の方法がこの発明の主題である。注入当たり僅かに200μlしか用いずに同じサンプル濃縮液が複式ポンプ方法を介して注入されたので、その結果フローセルが完全には満たされず、プラトーが達成されなかった。データは図5aおよび図5bに示される。90°光散乱信号29がdRI検出器信号30と重なって示される。双方ともベースラインが差し引かれている。各注入から、Cm、R1,mk、R2,mk、およびR3,mkが計算される。線形の最小二乗法を用いた、方程式(6)への結果的なフィッティングは図6に示される。得られた結果は、M=66,700±0.03kDおよびA2=1.17±0.01×10-4mol・mL/g2であった。これらの値は、プラトー法によって得られた値とうまく合う。
【0063】
2.0 2種の解析:
2.1 理論的な説明:
溶媒に存在する2つの関連しない巨大分子種についての濃度において最大2次までの光散乱方程式が方程式(7)で与えられる:
【0064】
【数13】

【0065】
ここで、dn/dcAおよびdn/dcBは、種AおよびBの示差屈折増分であり、MAおよびMBは種AおよびBの重み平均モル質量であり、cAおよびcBは種AおよびBの濃度であり、PA(θ)およびPB(θ)は、種AおよびBが<rg2Aおよび<rg2Bを仮定することによる角分布であり、A2AおよびA2Bは種AおよびBの自己ビリアル係数であり、A2ABは種AおよびBのクロスビリアル係数である。値MA、MB、<rg2A、<rg2B、A2AおよびA2Bは上述の単一種の方法によって決定され得る。
【0066】
残りのパラメータA2ABは、ここで2つの種を組合わせる測定で決定され得る。この測定は、異なる濃度の種Aおよび種Bを備えたサンプル列から構成され、オンライン・ビリアル係数法の利点を享受するために、小さい、継続的に流れる一定分量から構成される。
【0067】
単一の散乱する種について上述されたように方程式を反転するためには、付加的な関係が必要である。この関係については、各一定分量mの注入の全体にわたって、たとえ混合が両方の種に等しく影響するからこれらの濃度の大きさが異なっても、cBのcAに対する比fmは(それが装置によって決定されるので)一定であり、かつ知られている、と安全に仮定することができる:
【0068】
【数14】

【0069】
方程式(7)および(8)は、cA=cA(R,θ)を表現するために反転され得るR=R(cA,θ)のための式を与えるよう組合わせられ得る:
【0070】
【数15】

【0071】
ここでRまたはsin2(θ/2)の2次よりも高次数の項が無視されており、以下の変数が規定される:
【0072】
【数16】

【0073】
および
【0074】
【数17】

【0075】
濃度信号から計算されるような各注入mにおけるAの全質量は、質量保存によって、方程式(9)および(5)によって光散乱から得られた質量と等しくされ得る:
【0076】
【数18】

【0077】
ここで、
【0078】
【数19】

【0079】
【数20】

【0080】
さまざまな値のcAおよびcBにわたって測定を行ない、その結果を方程式(10)および(11)にフィッティングすることにより、クロスビリアル係数A2ABが決定される。
【0081】
当業者にとって明白なように、ビリアル展開の次数は、より高位のパラメータ、たとえばA3AまたはA3Bを含むために増大されてもよい。
【0082】
2.2 測定装置および手順
この測定は、サンプルが次のものを含む場合以外は、単一種の測定に関して進められる:1)種Aだけの一連の濃縮液;2)種Bだけの一連の濃縮液;ならびに、3)AおよびBの両方を異なる濃度で含むサンプル列、である。部分(1)および(2)は、A2ABの一義的な測定値を得るために必要である。
【0083】
1つの好ましい実施の形態では、cBに対するcAの比はすべての2つの構成要素の一定分量の全体にわたって固定され、その結果、2つのサンプルのモル濃度の比が1:1である。
【0084】
別の好ましい実施の形態では、AおよびBの割合は、固定された濃度合計において純粋なAから純粋なBまでの比の全範囲にわたる2つの構成要素一定分量の全体にわたって、変動する。
【0085】
装置は、好ましい実施の形態において複式ポンプがトリプルポンプと置換される以外は、単一種の測定の装置に類似し、各ポンプは、種A、種B、そして溶媒をポンプ送りするよう、コンピュータによって制御可能である。このようなトリプルポンプはカリフォルニア州サンタバーバラのワイアット・テクノロジー株式会社から入手可能なカリプソ(Calypso)システムである。
【0086】
光散乱技術の当業者に明らかなように、ここに発明し記述した方法には、彼らが実行できるように列挙した根本的な要素から逸脱することなく、多くの明白な変形がある。そのような変形は、本願明細書で前述したこの発明の明白な実現例にすぎず、下記に記載する請求項を参照することによって含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中における分子の溶液の平均分子特性を決定する方法であって、
A.前記溶媒の貯槽を与えるステップと、
B.前記溶液の貯槽を与えるステップと、
C.前記溶媒による、希釈手段を用いて前記貯槽から前記溶液の一連のn個の希釈液Dm(m=1〜n)を準備するステップと、
D.サンプリング手段を与えるステップとを含み、この手段によって前記希釈液Dm(m=1〜n)が連続して注入され、連続的に下記を通って流れるようにされ、
a.前記希釈液Dm(m=1〜n)の各増分注入体積Δviにおける複数のq個の角度θk(k=1〜q)において散乱した光を集める光散乱検出器;
b. 前記希釈液Dm(m=1〜n)の各増分注入体積Δviにおける対応する分子濃度cmi(m=1〜n)を測定する濃度検出器;さらに
E.各流れの体積増分間隔Δviにおける測定された散乱光強度および対応する濃度cmiから、関連付けられた過剰レイリー比R(θk,cmi)を生成するステップと、
F. 各前記希釈mの溶出全体にわたる前記集められた濃度データ値cmiから、前記希釈液Dmに対応する下記のn個の合計を計算するステップとを含み、
【数1】

ここでm=1からnであり;
G. 前記生成された過剰レイリー比R*(θk,cmi)から、前記n個の希釈液に対応する、3×q×n個の過剰レイリー比の合計;
【数2】

および
【数3】

を計算するステップとを含み、さらに
H.データを方程式にフィッティングすることにより、前記3×q×n個の過剰レイリー比の合計から分子の前記溶液の前記平均特性を抽出するステップとを含む、方法。
【数4】

ここで
【数5】

【数6】

0は溶媒の屈折率であり、λ0は前記光散乱検出器の入射真空波長である。
【請求項2】
分子の前記溶液の前記平均特性が、重み平均モル質量M、平均二乗半径<rg2>、第2のビリアル係数A2、第3のビリアル係数A3および平均四乗半径<rg4>である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図5a】
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【図5b】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−210575(P2009−210575A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42404(P2009−42404)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(594035932)ワイアット テクノロジー コーポレイション (8)
【氏名又は名称原語表記】Wyatt Tecknology Corporation
【Fターム(参考)】