説明

溶射用粉末及び溶射皮膜

【課題】ロール用途用のWC系サーメット溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末及びその溶射用粉末を用いて形成される溶射皮膜を提供する。
【解決手段】本発明の溶射用粉末はサーメット粒子を含有するものであり、そのサーメット粒子は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有する。溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は0.5〜15%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射用粉末及び溶射皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製紙ラインやフィルム製造ラインなどで使用されるコルゲートロールなどのロールの表面には硬質クロムメッキが設けられることが多かったが、近年、WC(炭化タングステン)系サーメット溶射皮膜に置き換わりつつある(例えば特許文献1,2参照)。溶射皮膜は一般に表面粗度が高く、溶射皮膜をロール用途で使用するためには研磨により表面粗度を低くする必要がある。研磨の手間を減らすべく表面粗度の低い溶射皮膜を得るためには、粒度の細かい溶射用粉末を用いるのが有効であることが知られている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、粒度の細かい溶射用粉末から得られる溶射皮膜は、一般的な粒度の溶射用粉末から得られる溶射皮膜に比べて耐摩耗性が極端に低く、ロール用途での使用には不向きであった。
【特許文献1】特開平8−60596号公報
【特許文献2】特開2006−29452号公報
【特許文献3】特開2003−129212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ロール用途用のWC系サーメット溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末及びその溶射用粉末を用いて形成される溶射皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、サーメット粒子を含有する溶射用粉末であって、前記サーメット粒子は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有し、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が0.5〜15%である溶射用粉末を提供する。
【0005】
請求項2に記載の発明は、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が0.5〜15%である請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
【0006】
請求項3に記載の発明は、嵩比重が3.6以上である請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項4に記載の発明は、溶射用粉末中の各サーメット粒子の圧壊強度が150〜800MPaである請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
【0007】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射して得られる溶射皮膜であって、前記溶射皮膜の表面の中心線平均粗さRaは3μm以下であり、前記溶射皮膜を第1の溶射皮膜とし、その第1の溶射皮膜とは使用される溶射用粉末の粒子径範囲が15〜45μmである点でのみ異なる溶射皮膜を第2の溶射皮膜とした場合、第1の溶射皮膜と第2の溶射皮膜を同じ摩耗試験に供したときの第2の溶射皮膜の摩耗体積量に対する第1の溶射皮膜の摩耗体積量の比率が1.5以下である溶射皮膜を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロール用途用のWC系サーメット溶射皮膜の形成に適した溶射用粉末及びその溶射用粉末を用いて形成される溶射皮膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の溶射用粉末は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有するサーメット粒子からなる。コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属は、コバルト、クロム又はニッケルの単体であってもよいし、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む合金であってもよい。ただし、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の靭性を向上させるという観点からすると、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属がクロムを含有する場合、同金属中のクロムの比率は50質量%以下であることが好ましい。
【0010】
本実施形態の溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は0.5%以上であることが必須である。粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が大きくなるにつれて、溶射用粉末の溶射時に高いピーニング効果が得られるため、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の緻密度が向上し、溶射皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が0.5%以上であれば、溶射用粉末の溶射時のピーニング効果により、ロール用途に適した耐摩耗性に優れる溶射皮膜を溶射用粉末から得ることができる。溶射用粉末から得られる溶射皮膜の耐摩耗性をさらに大きく向上させるためには、粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは3%以上である。
【0011】
本実施形態の溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率はまた15%以下であることも必須である。粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が小さくなるにつれて、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の表面粗度は低くなる。この点、粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が15%以下であれば、研磨をせずとも或いは少しの研磨だけでロール用途に使用することができるような表面粗度の低い溶射皮膜を溶射用粉末から得ることができる。溶射用粉末から得られる溶射皮膜の表面粗度をさらに低くするためには、粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0012】
本実施形態の溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は0.5%以上であることが好ましく、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上である。粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が大きくなるにつれて、溶射用粉末から得られる溶射皮膜中に含まれる気孔の数が減少して溶射皮膜の気孔率が低下、つまり溶射皮膜の緻密度が向上し、溶射皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が0.5%以上、さらに言えば1%以上、もっと言えば3%以上であれば、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の緻密度を大きく向上させることができ、その結果、溶射皮膜の耐摩耗性を向上させることができる。
【0013】
本実施形態の溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率はまた15%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下である。粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が小さくなるにつれて、溶射用粉末に含まれる溶射時に過溶融を起こす虞のある微粒子の量が少なくなるため、溶射用粉末の溶射時にスピッティングと呼ばれる現象が起こりにくくなる。スピッティングとは、過溶融した溶射用粉末が溶射機のノズルの内壁に付着堆積してできる堆積物が溶射用粉末の溶射時に同内壁から脱落して溶射皮膜に混入する現象であり、溶射用粉末の溶射時にスピッティングが発生すると、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の品質が耐摩耗性も含めて低下する虞がある。この点、粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が15%以下、さらに言えば12%以下、もっと言えば10%以下であれば、スピッティングの発生を強く抑制することができる。
【0014】
本実施形態の溶射用粉末の嵩比重は3.6以上であることが好ましく、より好ましくは3.8以上、さらに好ましくは4.0以上である。溶射用粉末の嵩比重が大きくなるにつれて、溶射用粉末の溶射時に高いピーニング効果が得られるため、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の緻密度が向上し、溶射皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、溶射用粉末の嵩比重が3.6以上、さらに言えば3.8以上、もっと言えば4.0以上であれば、溶射用粉末の溶射時のピーニング効果により、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の耐摩耗性をさらに大きく向上させることができる。
【0015】
本実施形態の溶射用粉末の嵩比重はまた6.0以下であることが好ましい。溶射用粉末の嵩比重が小さくなるにつれて、溶射時にサーメット粒子の軟化又は溶融の不足が起こりにくくなるため、溶射用粉末の付着効率(溶射歩留まり)は向上する。この点、溶射用粉末の嵩比重が6.0以下であれば、溶射用粉末の付着効率を大きく向上させることができる。
【0016】
本実施形態の溶射用粉末中の各サーメット粒子の圧壊強度は150MPa以上であることが好ましく、より好ましくは200MPa以上、最も好ましくは220MPa以上である。サーメット粒子の圧壊強度が大きくなるにつれて、粉末供給機から溶射機に溶射用粉末が供給される間に粉末供給機と溶射機を接続するチューブ内において、あるいは溶射機に供給された溶射用粉末が溶射フレームに投入される際に、溶射用粉末中のサーメット粒子の崩壊が抑制される。サーメット粒子の崩壊が起こると、溶射時に過溶融を起こす虞のある微粒子が溶射用粉末中に生じるために、溶射用粉末の溶射時にスピッティングが発生しやすくなる。この点、サーメット粒子の圧壊強度は150MPa以上、さらに言えば200MPa以上、もっと言えば220MPa以上であれば、サーメット粒子の崩壊を強く抑制することができ、その結果、スピッティングの発生を抑制することができる。
【0017】
本実施形態の溶射用粉末中の各サーメット粒子の圧壊強度はまた800MPa以下であることが好ましく、より好ましくは750MPa以下、最も好ましくは700MPa以下である。サーメット粒子の圧壊強度が小さくなるにつれて、溶射時にサーメット粒子の軟化又は溶融の不足が起こりにくくなるため、溶射用粉末の付着効率(溶射歩留まり)は向上する。この点、サーメット粒子の圧壊強度が800MPa以下、さらに言えば750MPa以下、もっと言えば700MPa以下であれば、溶射用粉末の付着効率を大きく向上させることができる。
【0018】
本実施形態の溶射用粉末のサーメット粒子中の炭化タングステンの含有量は60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、最も好ましくは20質量%以下である。金属に比べて炭化タングステンの耐摩耗性が高いことから、炭化タングステンの含有量が多くなるにつれて(すなわち、金属の含有量が少なくなるにつれて)、溶射用粉末から得られる溶射皮膜の耐摩耗性は向上する。また、金属に比べて炭化タングステンの融点が高いことから、炭化タングステンの含有量が多くなるにつれて(すなわち、金属の含有量が少なくなるにつれて)、溶射用粉末の溶射時にスピッティングが起こりにくくもなる。この点、サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量が60質量%以上、さらに言えば70質量%以上、もっと言えば80質量%以上であれば、溶射皮膜の耐摩耗性をさらに大きく向上させることができ、かつ、スピッティングの発生を強く抑制することができる。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量が40質量%以下、さらに言えば30質量%以下、もっと言えば20質量%以下であれば、溶射皮膜の耐摩耗性をさらに大きく向上させることができ、かつ、スピッティングの発生を強く抑制することができる。
【0019】
本実施形態の溶射用粉末のサーメット粒子中の炭化タングステンの含有量はまた94質量%以下であることが好ましく、より好ましくは92質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量は6質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上、最も好ましくは10質量%以上である。炭化タングステンの含有量が少なくなるにつれて(すなわち、金属の含有量が多くなるにつれて)、溶射時にサーメット粒子の軟化又は溶融の不足が起こりにくくなるため、溶射用粉末の付着効率は向上する。この点、サーメット粒子中の炭化タングステンの含有量が94質量%以下、さらに言えば92質量%以下、もっと言えば90質量%以下であれば、溶射用粉末の付着効率を大きく向上させることができる。換言すれば、サーメット粒子中の金属の含有量が6質量%以上、さらに言えば8質量%以上、もっと言えば10質量%以上であれば、溶射用粉末の付着効率を大きく向上させることができる。
【0020】
本実施形態の溶射用粉末のサーメット粒子の円形度(アスペクト比)は2以下であることが好ましい。サーメット粒子の円形度が1に近づくにつれて、溶射用粉末の流動性は向上する。この点、サーメット粒子の円形度が2以下であれば、溶射用粉末の流動性を大きく向上させることができる。
【0021】
本実施形態の溶射用粉末のサーメット粒子は、造粒−焼結粒子であることが好ましい。造粒−焼結粒子は、溶融−粉砕粒子及び焼結−粉砕粒子に比べて、流動性が良好である点及び製造時の不純物の混入が少ない点で有利である。造粒−焼結粒子は、例えば、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属の粉末及び炭化タングステンの粉末からなる原料粉末を造粒及び焼結した後に解砕し、必要に応じてさらに分級して作製されるものである。溶融−粉砕粒子は、原料粉末を溶融して冷却凝固させた後に粉砕し、必要に応じてさらに分級して作製されるものである。焼結−粉砕粒子は、原料粉末を焼結及び粉砕し、必要に応じてさらに分級して作製されるものである。
【0022】
本実施形態の溶射用粉末のサーメット粒子が造粒−焼結粒子である場合、その造粒−焼結粒子を構成している炭化タングステンの一次粒子の平均粒子径は6μm以下であることが好ましい。炭化タングステンの一次粒子の平均粒子径が小さくなるにつれて、溶射用粉末の溶射時にサーメット粒子中の炭化タングステンの軟化又は溶融の不足が起こりにくくなるため、溶射用粉末の付着効率は向上する。この点、炭化タングステンの一次粒子の平均粒子径が6μm以下であれば、溶射用粉末の付着効率を大きく向上させることができる。
【0023】
本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜の表面の中心線平均粗さRaは3μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.6μm以下、さらに好ましくは2.2μm以下である。溶射皮膜の表面の中心線平均粗さRaが3μm以下、さらに言えば2.6μm以下、もっと言えば2.2μm以下であれば、研磨をせずとも或いは少しの研磨だけで溶射皮膜をロール用途に使用することができる。
【0024】
仮に本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜を第1の溶射皮膜とし、その第1の溶射皮膜とは使用される溶射用粉末の粒子径範囲が15〜45μm(−45+15μm)である点でのみ異なる溶射皮膜を第2の溶射皮膜とする。この場合、第1の溶射皮膜と第2の溶射皮膜を同じ摩耗試験に供したときの第2の溶射皮膜の摩耗体積量に対する第1の溶射皮膜の摩耗体積量の比率は1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.0以下である。この比率が1.5以下、さらに言えば1.2以下、もっと言えば1.0以下であれば、本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜をロール用途で好適に使用することができる。
【0025】
本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜のビッカース硬度は1000以上であることが好ましい。ビッカース硬度が大きくなるにつれて、溶射皮膜の耐摩耗性は向上する。この点、溶射皮膜のビッカース硬度が1000以上であれば、溶射皮膜の耐摩耗性をさらに大きく向上させることができる。
【0026】
本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜の気孔率は2%以下であることが好ましい。気孔率が小さくなるにつれて、溶射皮膜の表面粗度は低くなる。また、溶射皮膜の表面にピットが生じる虞も少なくなる。この点、溶射皮膜の気孔率が2%以下であれば、溶射皮膜の表面粗度を大きく低下させることができ、かつピットの発生を強く抑制することができる。なお、上記の気孔率の値は、鏡面研磨後の溶射皮膜断面において画像解析法によって測定されるものである。
【0027】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・ 本実施形態の溶射用粉末では、サーメット粒子がコバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有し、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が0.5〜15%である。そのため、本実施形態の溶射用粉末から得られる溶射皮膜は、耐摩耗性に優れるとともに表面粗度が低く、ロール用途で好適に使用することができる。換言すれば、本実施形態の溶射用粉末は、ロール用途用のWC系サーメット溶射皮膜の形成に適している。
【0028】
前記実施形態を次のように変更してもよい。
・ 溶射用粉末には、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有するサーメット粒子以外の成分が含まれてもよい。ただし、このサーメット粒子以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0029】
・ 溶射用粉末中のサーメット粒子にはコバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステン以外の成分が含まれてもよい。例えば、炭化クロム(Cr)や炭化チタン(TiC)のような炭化タングステン以外のセラミックが含まれてもよい。ただし、この金属と炭化タングステン以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0030】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1〜13及び比較例1〜4の溶射用粉末として、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と少なくとも炭化タングステンを含むセラミックとからなる造粒−焼結サーメット粒子を用意した。各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
【0031】
表1の“組成”欄には、各溶射用粉末のサーメット粒子の組成を示す。
表1の“+D25μm”欄には、各溶射用粉末の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率を測定した結果を示す。この測定には株式会社テラオカ製のロータップ型篩振盪機(JIS Z8801参照)を使用した。
【0032】
表1の“−D10μm”欄には、各溶射用粉末の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率を測定した結果を示す。この測定には株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定器“LA−300”を使用した。
【0033】
表1の“嵩比重”欄には、各溶射用粉末の嵩比重を測定した結果を示す。この測定はJIS Z2504に準じて行った。
表1の“圧壊強度”欄には、各溶射用粉末のサーメット粒子の圧壊強度を測定した結果を示す。具体的には、式:σ=2.8×L/π/dに従って算出される各溶射用粉末中の粒子の圧壊強度σ[MPa]を示す。上式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dは溶射用粉末の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、一定速度で増加する圧縮荷重を圧子でサーメット粒子に加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点において粒子に加えられた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定には、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を使用した。
【0034】
表1の“WCの平均一次粒子径”欄には、各溶射用粉末のサーメット粒子を構成している炭化タングステンの一次粒子の平均粒子径を測定した結果を示す。炭化タングステンの一次粒子の平均粒子径は、JIS H2116に準じてフィッシャー法により測定した。
【0035】
実施例1〜13及び比較例1〜4の各溶射用粉末を表2に示す溶射条件でHVOF溶射して溶射皮膜を形成した。得られた溶射皮膜の表面の中心線平均粗さRaについて、表3に示す条件で測定される測定値に基づいて評価した結果を表1の“Ra”欄に示す。同欄中、◎(優)は中心線平均粗さRaの測定値が2.2μm以下であることを示し、○(良)は2.2μmよりも大きく2.6μm以下、△(可)は2.6μmよりも大きく3.0μm以下、×(不良)は3.0μmよりも大きいことを示す。
【0036】
実施例1〜13及び比較例1〜4の各溶射用粉末を表2に示す溶射条件でHVOF溶射して得られる溶射皮膜(第1の溶射皮膜)と、その溶射皮膜とは使用される溶射用粉末の粒子径範囲が15〜45μmである点でのみ異なる溶射皮膜(第2の溶射皮膜)とをJIS H8682−1に準拠した同じ乾式摩耗試験に供した。乾式摩耗試験は、具体的には、スガ式摩耗試験機を用いて米国CAMI(coated Abrasives Manufacturers Institute)規格においてCP180と呼ばれる研磨紙により荷重約31N(3.15kgf)で溶射皮膜の表面を所定回数摩擦するものである。この摩耗試験による第2の溶射皮膜の摩耗体積量に対する第1の溶射皮膜の摩耗体積量の比率に基づいて、実施例1〜13及び比較例1〜4の各溶射用粉末から得られる溶射皮膜である第1の溶射皮膜の耐摩耗性について評価した結果を表1の“耐摩耗性”欄に示す。同欄中、◎(優)は摩耗体積量の比率が1.0以下であることを示し、○(良)は1.0よりも大きく1.3以下、△(可)は1.3よりも大きく1.5以下、×(不良)は1.5よりも大きいことを示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

表1に示すように、実施例1〜13の溶射皮膜では、中心線平均粗さRaと耐摩耗性のいずれの評価についても△(可)以上であり、実用上満足できる結果が得られた。それに対し、比較例1〜4の溶射皮膜では、中心線平均粗さRaと耐摩耗性のいずれかの評価が×(不良)であり、実用上満足できる結果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーメット粒子を含有する溶射用粉末であって、前記サーメット粒子は、コバルト、クロム及びニッケルの少なくともいずれか一種を含む金属と炭化タングステンとを含有し、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径25μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が0.5〜15%である溶射用粉末。
【請求項2】
溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が0.5〜15%である請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
嵩比重が3.6以上である請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
溶射用粉末中の各サーメット粒子の圧壊強度が150〜800MPaである請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射して得られる溶射皮膜であって、
前記溶射皮膜の表面の中心線平均粗さRaは3μm以下であり、
前記溶射皮膜を第1の溶射皮膜とし、その第1の溶射皮膜とは使用される溶射用粉末の粒子径範囲が15〜45μmである点でのみ異なる溶射皮膜を第2の溶射皮膜とした場合、第1の溶射皮膜と第2の溶射皮膜を同じ摩耗試験に供したときの第2の溶射皮膜の摩耗体積量に対する第1の溶射皮膜の摩耗体積量の比率が1.5以下である溶射皮膜。

【公開番号】特開2008−69386(P2008−69386A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247197(P2006−247197)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】