説明

溶接ワイヤ送給用ガイド、サブマージアーク溶接機およびUOE鋼管の製造方法

【課題】UOE鋼管の外面シーム溶接に適用して好適なサブマージアーク溶接用の溶接ワイヤ送給用ガイドおよびそれを用いた多電極サブマージアーク溶接機を提供する。
【解決手段】耐熱性を有する絶縁体からなり、サブマージアーク溶接用溶接トーチの溶接チップへの取り付け部と溶接チップから突き出された溶接ワイヤをガイドするガイド部とを備え、前記溶接チップの先端に着脱可能とした溶接ワイヤ送給用ガイドであり、好ましくはガイド部の長さが5〜15mm、その先端が円錐状で、セラミックからなる。前記溶接ワイヤ送給用ガイドを、多電極サブマージアーク溶接機の少なくとも第1電極の溶接トーチに取り付ける。前記多電極サブマージアーク溶接機を用いて、UOE鋼管の外面シーム溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤ送給用ガイドおよびそれを用いた多電極サブマージアーク溶接機、さらにはこれらを用いたUOE鋼管の製造方法に関し、特にUOE鋼管でワイヤ径が1.2〜3.2mmφの細径ワイヤを用いたUOE鋼管の外面シーム溶接に適用して好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
UOE鋼管は、Uプレス,Oプレスで、鋼板の幅方向の端部が互いに向き合うように鋼板を円筒形に成形後、図3に示す開先部2の外面開先21、内面開先22を図5(a)(b)に示すように円筒形の内面側(内面開先22)、外面側(外面開先21)の順に溶接して鋼管とし、その後拡管装置で内面側から塑性変形を与えて製造する。
【0003】
図4は外面溶接法を説明する図で、内面溶接された突合せ開先部が頭頂部となるようにパイプ1を搬送コンベア9上で移動させながら溶接する。溶接は、搬送コンベア9の上方の架台に載置されたワイヤパック4から送給ギヤ3で溶接ワイヤ5を溶接トーチ8に送給して行う。溶接トーチ8の先端部には、着脱可能な溶接チップ81が取り付けられ、損耗状態に応じて適宜交換する。
【0004】
従来、UOE鋼管の内外面溶接は、溶接トーチを2〜5電極程度(図4の例では4電極)の多電極とし、大入熱溶接で1パス溶接することが一般的であったが、素材となる鋼板が高強度化し、厚肉材となるに従い、厳しい低温でのHAZ靭性の確保が困難となってきている。
【0005】
HAZ靭性は小入熱溶接化で大きく改善するが、それに伴い溶着量が減少して内外面の溶接金属が重ならない融合不良をもたらすことが懸念される。
【0006】
特許文献1は細径ワイヤを用いた高電流密度サブマージアーク溶接に関し、溶接入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大を両立させるため電極径に応じて電流密度を高め、溶け込み深さを増大させるサブマージアーク溶接方法が提案されているが、溶接入熱の低減が不十分で最近のHAZ靭性の要求値を満足させることは困難である。
【0007】
特許文献2は鋼材のサブマージアーク溶接方法に関し、細径ワイヤに高電流を流す高電流密度でのサブマージアーク溶接方法として、アークエネルギーをできるだけ板厚方向に投入することにより、必要な溶け込み深さを確保しつつ、鋼材幅方向の母材の溶融を抑制することで、溶接入熱の低減と深溶け込みを両立させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−109171号公報
【特許文献2】特開2006−272377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載の細径ワイヤを用いて深溶け込みを特長とする溶接法の場合、図7(a),(b)に示すように溶接トーチ8の先端となる溶接チップ81から突き出される溶接ワイヤ5のワイヤ突き出し部10において溶接ワイヤ5の先端が偏向する場合がある。この偏向の原因は、コイル状に巻かれていた溶接ワイヤ5の巻き癖によるものと考えられる。
【0010】
細径ワイヤを用いて深溶け込みとする溶接法はアークによるガウジング力が強いため、図6(a)に示すように、内面溶接後に行う外面溶接において、ワイヤ突き出し部10が開先に対して偏向(溶接線と直行する方向に偏向)すると、図6(b)に示すように外面溶接ビード12は溶け込み曲り部13となり、内面溶接ビード11と外面溶接ビード12の溶け込みがラップしない、融合不良が発生する。
【0011】
そこで、本発明は、細径ワイヤに高電流を流して深溶け込みとするサブマージアーク溶接法において、溶け込み曲り部の発生を防止して内面溶接金属と外面溶接金属を融合させることが可能な溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等はUOE鋼管のシーム溶接に細径サブマージアーク溶接法を適用した場合における内外面溶接金属の融合不良について鋭意検討し、以下の知見を得た。説明においいて、細径ワイヤのワイヤ径は1.2〜3.2mmφとする。
1.矯正ローラによるワイヤ真直矯正法で巻き癖をとった溶接ワイヤを用いた場合、ワイヤ突き出し部における溶接ワイヤの先端の曲がりによる偏向はなく溶け込み曲がり部も発生しない。しかし、細径ワイヤの場合、矯正ローラによるワイヤ真直矯正法では巻き癖をとることが難しい。
2.炭酸ガスアーク溶接の場合には溶接ワイヤの溶接チップからの突き出し長さが10mm程度と短く、溶接ワイヤに巻き癖があっても溶接点の変位に大きな影響を与えることは少ない。しかし、サブマージアーク溶接の場合には突き出し長さが30mm以上の場合が多く、溶接チップ先端から突き出した溶接ワイヤが巻き癖により任意の方向に偏向する。
3.溶接チップからの突き出し長さは溶接条件の電圧に影響を与えるため、溶接チップを単に溶接点に近づけると、溶接ワイヤの偏向は小さくなっても、所定の電圧を維持することができず健全な溶接部が得られない。
4.従って、所望の溶接チップからの突き出し長さを維持したまま、溶接チップ先端から突き出した溶接ワイヤを偏向させないようにガイドすることが考えられるが、溶接部にはアークによる溶融池が形成されて非常に高温になるため、耐高温特性に優れた材料でなければ、溶接点に近づけることができない。
【0013】
本発明は上記知見をもとに更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.耐熱性を有する絶縁体からなり、サブマージアーク溶接用溶接トーチの溶接チップへの取り付け部と溶接チップから突き出された溶接ワイヤをガイドするガイド部とを備え、前記溶接チップの先端に着脱可能としたことを特徴とする溶接ワイヤ送給用ガイド。
2.前記ガイド部の長さが5〜15mmであり、その先端が円錐状であることを特徴とする1記載の溶接ワイヤ送給用ガイド。
3.前記耐熱性を有する絶縁体としてセラミックを用いることを特徴とする1または2記載の溶接ワイヤ送給用ガイド。
4.複数の電極を備えた多多電極サブマージアーク溶接機であって、少なくとも第1電極の溶接トーチに、1乃至3のいずれか一つに記載の溶接ワイヤ送給用ガイドを取り付けたことを特徴とする多電極サブマージアーク溶接機。
5.4記載の多電極サブマージアーク溶接機により、直径1.2〜3.2mmの溶接ワイヤを用い、前記溶接ワイヤ送給用ガイドからの溶接ワイヤの突き出し長さを15〜25mmとしてシーム溶接を行うことを特徴とするUOE鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、UOE鋼管のシーム溶接に、ワイヤ径が1.2〜3.2mmφの細径ワイヤに高電流を流して深溶け込みとするサブマージアーク溶接法を適用することが可能で、HAZ靭性に優れたUOE鋼管が得られ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るサブマージアーク溶接用溶接トーチを説明する部分断面図。
【図2】(a)は図1に示したサブマージアーク溶接用溶接トーチの下部構造とその効果を説明する図で、(b)は従来例の下部構造とその構造による状況を説明する図。
【図3】UOE鋼管のシーム溶接の突合せ開先部を説明する図。
【図4】外面溶接法を説明する図。
【図5】UOE鋼管のシーム溶接の突合せ開先部の溶接を説明する図で(a)は内面溶接、(b)は外面溶接を説明する図。
【図6】UOE鋼管のシーム溶接の突合せ開先部の溶接で溶接ワイヤが偏向した場合を説明する図で(a)は外面溶接前、(b)は外面溶接後の溶け込み部を説明する図。
【図7】従来の細径サブマージアーク溶接で、ワイヤ突き出し部における溶接ワイヤの偏向を説明する図で(a)は側面図、(b)は正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、溶接チップから出てくる溶接ワイヤの先端がふらつかないように溶接トーチの先端部に耐熱性を有する絶縁体からなる溶接ワイヤ送給用のガイドを取り付け、溶接チップから突き出した溶接ワイヤがフリーな状態で偏向する長さを短くすることを特徴とする。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係るサブマージアーク溶接用溶接トーチを説明する部分断面図で、図において、8は溶接トーチ、81は溶接チップ、82は下部部材、83は上端にワイヤ装入口を有する上部部材、84は溶接ワイヤ送給用ガイドを示す。
【0018】
図示した溶接トーチ8は、上端にワイヤ装入口を有する上部部材83と下部部材82とからなり、下部部材82の下端部に溶接チップ81が、さらに溶接チップ81の下端部に溶接ワイヤ送給用ガイド84が取り付けられている。溶接チップ81と溶接ワイヤ送給用ガイド84は、損耗した場合に交換できるようにそれぞれ脱着可能とする。
【0019】
図2に、図1に示したサブマージアーク溶接用溶接トーチの下部構造の拡大図(図2(a))を、溶接ワイヤ送給用ガイド84を使用しない従来例(図2(b))と比較して示す。
【0020】
サブマージアーク溶接の場合、図2(b)に示す溶接チップ81からの溶接ワイヤ5の突き出し長さD2は30mm前後とするのが一般的であるが、その結果、細径ワイヤを用いた場合、その巻き癖によって、ワイヤ先端は溶接チップ81のチップ中心から母材表面において偏向する長さL2は3mm程度となる。
【0021】
図2(a)は溶接チップ81の下端部に設けた段付き部に、本発明の溶接ワイヤ送給用ガイド84を取り付けた場合を示す。溶接ワイヤ送給用ガイド84は、溶接チップへの取り付け部85と、溶接チップから突き出された溶接ワイヤをガイドする長さHのガイド部86とを備えている。そして、溶接チップ81からの溶接ワイヤ5の突き出し長さD2に対して、溶接ワイヤ送給用ガイド84の先端部からの溶接ワイヤ5の突き出し長さD1は、ほぼガイド部86の長さHの分だけ短くなっており、それ故、溶接ワイヤ5の先端が溶接チップ81のチップ中心から母材表面において偏向する長さL1は、従来例の長さL2よりも短くなる。尚、図2(a)(b)で溶接チップ81からの溶接ワイヤ5の突き出し長さD2は同じ長さとする。
【0022】
細径ワイヤを用いた深溶け込み溶接の場合、ワイヤ先端の溶接チップ81のチップ中心からの偏向量が、母材表面において1.5mm程度であれば溶け込み曲り部とならず、内面溶接ビードと外面溶接ビードの溶け込みはラップする。
【0023】
本発明では、溶接ワイヤ送給用ガイド84を溶接チップ81に取り付けた場合において、溶接ワイヤ送給用ガイド84の先端部からの溶接ワイヤ5の突き出し長さD1が15〜25mmとなるように、溶接ワイヤ送給用ガイド84のガイド部86の高さ(長さH)を決める。すなわち、溶接チップ81からの溶接ワイヤの突き出し長さD2を30mmとすると、溶接ワイヤ送給用ガイド84のガイド部86の長さHは5〜15mmとすることが好ましい。ガイド部86の長さHが5mm未満では溶接ワイヤ5をガイドする距離が短いためにワイヤ先端の偏向を抑制する効果が小さく、一方、15mmを超えるとガイド部86の先端が溶接部に近づきすぎて、溶融部とガイドが接触してガイドが破損したり、溶融部への品質影響といった問題が生じる。より好ましくは10〜15mmである。
【0024】
溶接チップ81に溶接ワイヤ送給用ガイド84を取り付けたことによって溶接ワイヤ5への通電点が変化して(溶接電圧が変化して)溶接入熱が変化しないように、溶接ワイヤ送給用ガイド84は絶縁体を素材とする。また、溶接ワイヤ送給用ガイド84は溶融池に近接し、高温に曝されるのでその素材は耐熱性に優れることが必要で、絶縁性と耐熱性を備えた素材としてセラミックを用いることが望ましい。例えば、1800℃の耐熱性を備える強化アルミナを用いることが好適である。
【0025】
尚、溶接ワイヤ送給用ガイド84の先端部は溶融池上のフラックスの流れを乱さないような形状が好ましく、円錐状または溶接進行方向に鋭角状の形状とする。
【0026】
本発明によれば、溶接ワイヤは、溶接ワイヤ送給用ガイド先端より、より開先に近い位置から突き出してくるので、巻き癖による偏向の程度が抑制され、良好な溶接部が得られる。
【0027】
細径ワイヤを用いて深溶け込み溶接を行う多電極サブマージアーク溶接機の場合、第1電極に細径ワイヤを用いて深溶け込み溶接部とするので、本発明に係る溶接ワイヤ送給用ガイドを少なくとも第1電極の溶接トーチに取り付けて用いることが好ましい。
【0028】
溶け込み部の曲がりには第1電極の影響が非常に大きいため第1電極にのみ本発明に係る溶接ワイヤ送給用ガイドを用いても溶け込み曲がりの防止が可能である。
【0029】
そして、このような本発明の溶接ワイヤ送給用ガイドを溶接トーチに取り付けたサブマージアーク溶接機を用い、図4に示す外面溶接法によりUOE鋼管の外面溶接を行うことにより、溶接ワイヤとして1.2〜3.2mmφの細径ワイヤを用いた場合であっても溶け込み曲がりが発生せず、HAZ靭性に優れたUOE鋼管を製造することができる。
【0030】
なお、以上の説明は、本発明の溶接ワイヤ送給用ガイドをUOE鋼管の外面溶接に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限定されるものではなく、UOE鋼管の内面溶接や、他の対象物へのサブマージアーク溶接にも適用することができる。
【実施例】
【0031】
全長12mのUOE鋼管の外面シーム溶接を、第1電極のみに本発明に係る溶接ワイヤ送給用ガイドを取り付けた4電極サブマージアーク溶接機により行った。ここで、溶接ワイヤとして、巻き径が750mmφ、ワイヤ径2.4mmφの細径ワイヤを用い、溶接チップからのワイヤ突き出し長さD2を30mmとした。
【0032】
溶接チップに取り付けた溶接ワイヤ送給用ガイドは1800℃の耐熱性を有する強化アルミナ製で、溶接チップに取り付けた状態で、ワイヤ突き出し長さD1が20mmとなるようにガイド部長さHを決め、取り付け部を加工した。溶接チップに雄ねじを、ガイドに雌ねじを加工して脱着可能とした。
【0033】
このとき、溶接チップ先端から突出する溶接ワイヤ先端が溶接線から進行方向に対して左右方向に偏向する距離L1を測定したところ、±1.5mmであった。そして、溶け込みの異常が発生することなく、健全な溶接部を得ることができた。
【0034】
一方、同様な溶接を従来の4電極サブマージアーク溶接機(溶接ワイヤ送給用ガイド無し)で行った際の溶接ワイヤ先端の左右方向の偏向する距離L2は、±3mmであった。そして、部分的に溶け込み曲りが発生し、安定的な溶接を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 パイプ
2 開先部
21 外面開先
22 内面開先
3 送給ギア
4 ワイヤパック
5 溶接ワイヤ
8 溶接トーチ
81 溶接チップ
82 下部部材
83 上部部材
84 溶接ワイヤ送給用ガイド
85 取り付け部
86 ガイド部
9 搬送コンベア
10 ワイヤ突き出し部
11 内面溶接ビード
12 外面溶接ビード
13 溶け込み曲り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有する絶縁体からなり、サブマージアーク溶接用溶接トーチの溶接チップへの取り付け部と溶接チップから突き出された溶接ワイヤをガイドするガイド部とを備え、前記溶接チップの先端に着脱可能としたことを特徴とする溶接ワイヤ送給用ガイド。
【請求項2】
前記ガイド部の長さが5〜15mmであり、その先端が円錐状であることを特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤ送給用ガイド。
【請求項3】
前記耐熱性を有する絶縁体としてセラミックを用いることを特徴とする請求項1または2記載の溶接ワイヤ送給用ガイド。
【請求項4】
複数の電極を備えた多電極サブマージアーク溶接機であって、
少なくとも第1電極の溶接トーチに、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の溶接ワイヤ送給用ガイドを取り付けたことを特徴とする多電極サブマージアーク溶接機。
【請求項5】
請求項4記載の多電極サブマージアーク溶接機により、直径1.2〜3.2mmの溶接ワイヤを用い、前記溶接ワイヤ送給用ガイドからの溶接ワイヤの突き出し長さを15〜25mmとしてシーム溶接を行うことを特徴とするUOE鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−194452(P2011−194452A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65966(P2010−65966)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】