説明

溶接用治具装置及び溶接方法

【課題】プレートに歪みや反りが存在していても、2枚のプレート同士を容易且つ良好に溶接することができ、溶接歪みを抑制して高精度な溶接処理を効率的に遂行することを可能にする。
【解決手段】溶接用治具装置10は、ワークを配置するための第1治具部材92と、前記ワークの外形形状よりも小さな開口形状を有する開口部94が形成されるとともに、前記第1治具部材92と前記ワークの外周端部を挟持する第2治具部材96と、前記開口部94に配置されて前記第1治具部材92と前記ワークの前記外周端部よりも内方を保持するとともに、外壁面と前記第2治具部材96の前記開口部94を形成する内壁面との間に、溶接部位を露呈させる隙間110を設けるための第3治具部材98とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1プレートと第2プレートとを重ね合わせたワークを保持し、前記ワークの外周部の溶接部位に沿って溶接するための溶接用治具装置及び前記溶接用治具装置を用いて溶接を行う溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質に酸化物イオン伝導体、例えば、安定化ジルコニアを用いており、この電解質の両側にアノード電極及びカソード電極を配設した電解質・電極接合体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。この燃料電池は、通常、MEAとセパレータとが所定数だけ積層された燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の燃料電池では、金属セパレータが用いられており、発電反応によって得られる電気を電解質・電極接合体から集電させるために、複数の突起部(エンボス)等が形成されている。通常、突起部の数が多くなる程、集電効率が高くなるため、一定面積の集電部には、多数の突起部を形成することが望まれている。
【0004】
ところが、セパレータを構成する金属プレートに多数の突起部をプレス成形すると、この金属プレートには、加工時の歪みが残存し、変形し易いという問題がある。従って、例えば、プレス成形された2枚の金属プレートを溶接してセパレータを形成する際には、溶接部位に歪みが発生し、良好な溶接処理が遂行されないという問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池用金属セパレータの溶接方法が知られている。この溶接方法は、燃料電池用の一対の金属セパレータを前記金属セパレータの接合面同士を重ね合わせ、流体流路となる空間部を区画形成するように組み合わせる工程と、前記空間部内を排気して負圧化し、重ね合わせた前記接合面同士を大気圧によって密着させる工程と、密着させた前記接合面同士を重ね溶接する工程とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−64593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1では、空間部内を負圧化して、重ね合わせた接合面同士を大気圧で密着させようとするものであるが、負圧のみによって前記接合面同士を確実に密着させることができない。このため、一対の金属セパレータの接合面同士を高精度に重ね溶接することができないという問題がある。
【0008】
しかも、溶接時に接合面同士のずれが発生しても、このずれを補正することができない。また、溶接時に発生する熱ひずみを良好に抑制することができないという問題がある。その上、負圧を発生させるために、真空ポンプ等を設置する必要があり、経済的ではない。
【0009】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、プレートに歪みや反りが存在していても、2枚のプレート同士を容易且つ良好に溶接することができ、溶接歪みを抑制して高精度な溶接処理を遂行することが可能な溶接用治具装置及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1プレートと第2プレートとを重ね合わせたワークを保持し、前記ワークの外周部の溶接部位に沿って溶接するための溶接用治具装置に関するものである。
【0011】
この溶接用治具装置は、ワークを配置するための第1治具部材と、前記ワークの形状に対応した開口部が形成されるとともに、前記第1治具部材と前記ワークの外周端部を挟持する第2治具部材と、前記開口部に配置されて前記第1治具部材と前記ワークの前記外周端部よりも内方を保持するとともに、外壁面と前記第2治具部材の前記開口部を形成する内壁面との間に、前記溶接部位を露呈させる隙間を設けるための第3治具部材とを備えている。
【0012】
また、第2治具部材の内壁面は、溶接部位に向かって内方に傾斜する第1傾斜面を有するとともに、第3治具部材の外壁面は、前記溶接部位に向かって外方に傾斜する第2傾斜面を有することが好ましい。このため、第2及び第3治具部材は、溶接部位の近傍までワークに接触して保持することができるとともに、前記ワークの外周部近傍で溶接を行うことが可能になる。従って、溶接後のワークの変形を確実に抑制することができ、良好な溶接処理が遂行される。
【0013】
さらに、第2治具部材は、内壁面に開口し、アシストガスを隙間に導入するための第1通路を有するとともに、第3治具部材は、外壁面に開口し、前記アシストガスを前記隙間に導入するための第2通路を有することが好ましい。これにより、溶接部位には、アシストガスが吹き付けられるため、前記溶接部位の雰囲気を安定させることができる。このため、溶接部位は、酸素に曝される機会が大幅に抑制され、溶接時の欠陥を良好に防止することが可能になる。
【0014】
さらにまた、溶接部位は、ワークの外周部を周回して連続するとともに、隙間は、前記溶接部位に沿って継ぎ目なく連続して形成されることが好ましい。従って、ワークの外周部を周回してシームレス溶接が行われるため、溶接精度が良好に向上する。
【0015】
また、ワークは、溶接部位の内側に孔部を設けるとともに、前記孔部に挿入されて第3治具部材を第1治具部材に固定するための締め付け部材を備えることが好ましい。これにより、第3治具部材と第1治具部材とを介してワークの外周端部よりも内方を確実に保持することができ、しかも、前記ワークの外周部に沿ってシームレス溶接を行うことが可能になる。
【0016】
さらに、この溶接用治具装置は、隙間に挿入されて第3治具部材を第1治具部材に対して位置決めする位置決め部材を備え、前記位置決め部材は、第1傾斜面に摺接する外壁傾斜面と、第2傾斜面に摺接する内壁傾斜面とを有するとともに、前記外壁傾斜面及び前記内壁傾斜面は、溶接部位に向かって互いに近接する方向に傾斜する断面楔形状に構成されることが好ましい。このため、位置決め部材が隙間に挿入されるだけで、第3治具部材を第1治具部材に対して高精度に位置決めすることができ、ワークの位置決め作業も容易且つ正確に遂行される。
【0017】
さらにまた、本発明は、第1プレートと第2プレートとを重ね合わせたワークを保持し、前記ワークの外周部の溶接部位に沿って溶接するための溶接用治具装置を用いる溶接方法に関するものである。
【0018】
溶接用治具装置は、ワークを配置するための第1治具部材、前記ワークの外形形状よりも小さな開口形状を有する第2治具部材、及び前記開口部に配置される第3治具部材を備えている。
【0019】
そして、この溶接方法は、第1治具部材にワークを配置するとともに、前記第1治具部材と第2治具部材とにより前記ワークの外周端部を挟持する工程と、第3治具部材を開口部に配置させ、前記第3治具部材と前記第1治具部材とにより前記ワークの前記外周端部よりも内方を保持するとともに、前記第3治具部材の外壁面と前記第2治具部材の前記開口部を形成する内壁面との間に、前記溶接部位を露呈させる隙間を設ける工程と、前記隙間から前記溶接部位を溶接する工程とを有している。
【0020】
また、この溶接方法は、隙間にアシストガスを導入しながら、溶接部位を溶接することが好ましい。従って、溶接部位には、アシストガスが吹き付けられるため、前記溶接部位の雰囲気を安定させることができる。これにより、溶接部位は、酸素に曝される機会が大幅に抑制され、溶接時の欠陥を良好に防止することが可能になる。
【0021】
さらに、この溶接方法は、溶接ガンを隙間に沿って連続して移動させることにより、溶接部位に継ぎ目なく連続して溶接を行うことが好ましい。このため、ワークの外周部を周回してシームレス溶接が行われるため、溶接精度が良好に向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1治具部材と第2治具部材とによりワークの外周端部が挟持されるとともに、前記第1治具部材と第3治具部材とにより前記ワークの前記外周端部よりも内方が保持された状態で、溶接部位に溶接処理が遂行される。このため、ワークは、溶接部位以外の部位を第1治具部材、第2治具部材及び第3治具部材を介して良好に保持されている。
【0023】
これにより、ワークに反りや歪みが存在していても、溶接部位を平坦状に形成することができ、2枚のプレート同士を容易且つ良好に溶接するとともに、溶接歪みを抑制して高精度な溶接処理を遂行することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る溶接用治具装置の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記溶接用治具装置の斜視図である。
【図3】前記溶接用治具装置の、図2中、III−III線断面図である。
【図4】前記溶接用治具装置により溶接されるセパレータが組み込まれる燃料電池の概略分解斜視説明図である。
【図5】前記燃料電池のガス流れ状態を示す一部分解斜視説明図である。
【図6】前記溶接用治具装置による溶接処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図3には、本発明の実施形態に係る溶接用治具装置10が示されている。この溶接用治具装置10により溶接されるワークは、例えば、図4及び図5に示すように、燃料電池12を構成する第1及び第2セパレータ14a、14bである。
【0026】
燃料電池12は、固体電解質形燃料電池であり、例えば、安定化ジルコニア等の酸化物イオン導電体で構成される電解質(電解質板)16の両面に、アノード電極18及びカソード電極20が設けられた電解質・電極接合体(MEA)22を備える。電解質・電極接合体22は、円板状に形成されるとともに、少なくとも外周端面部には、酸化剤ガス及び燃料ガスの進入や排出を阻止するためにバリアー層(図示せず)が設けられている。
【0027】
燃料電池12は、第1及び第2セパレータ14a、14b間に、複数、例えば、2個の電解質・電極接合体22が挟持される。第1セパレータ14a及び第2セパレータ14bは、同一形状のセパレータ構造体を互いに180°反転させることにより構成される。
【0028】
第1セパレータ14aは、例えば、ステンレス等の板金をプレス成形して構成される第1プレート24a及び第2プレート26aを有する。第1プレート24a及び第2プレート26aは、互いに拡散接合、抵抗シーム溶接、レーザ溶接又はろう付け等により接合される。本実施形態では、第1プレート24a及び第2プレート26aは、YAGレーザ溶接により接合される。
【0029】
第1プレート24aは、略平板状に形成されるとともに、積層方向(矢印A方向)に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔28が形成される燃料ガス供給部30を有する。この燃料ガス供給部30から外方に延在する2つの第1橋架部32a、32bを介して第1挟持部34a、34bが一体に設けられる。
【0030】
第1挟持部34a、34bは、電解質・電極接合体22と略同一寸法に設定されるとともに、前記電解質・電極接合体22に接触する面には、集電機能を有する複数の突起部36a、36bが設けられる。複数の突起部36a、36bと電解質・電極接合体22との間には、アノード電極18の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路38a、38bが形成される。第1挟持部34a、34bの略中央部には、アノード電極18の略中央部に向かって燃料ガスを供給するための燃料ガス供給孔40a、40bが形成される。
【0031】
第2プレート26aは、燃料ガス供給連通孔28が形成される燃料ガス供給部42を有する。この燃料ガス供給部42から外方に延在する2つの第1橋架部44a、44bを介して第1挟持部46a、46bが一体に設けられる。第2プレート26aの外周を周回して第1プレート24a側に突出する周回凸部48が設けられ、この周回凸部48に前記第1プレート24aの外周部に設定された溶接部位49が接合される。
【0032】
燃料ガス供給部42、第1橋架部44a、44b及び第1挟持部46a、46bの第1プレート24aに向かう面には、前記第1プレート24aに接して積層方向の荷重に対する潰れ防止機能を有する複数の突起部56が形成される。
【0033】
第1橋架部32a、44a間及び第1橋架部32b、44b間には、燃料ガス供給連通孔28に連通する燃料ガス供給通路58a、58bが形成される。燃料ガス供給通路58a、58bは、第1挟持部34a、46a間及び第1挟持部34b、46b間に形成される燃料ガス充填室60a、60bを介して、燃料ガス供給孔40a、40bに連通する。
【0034】
第2セパレータ14bは、第1セパレータ14aと同一形状に構成されており、第1プレート24a及び第2プレート26aに対応する第1プレート24b及び第2プレート26bを有する。第1プレート24b及び第2プレート26bは、積層方向に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔62が形成される酸化剤ガス供給部64、66を有する。
【0035】
第1プレート24b及び第2プレート26bは、酸化剤ガス供給部64、66から外方に突出する2つの第2橋架部68a、68b及び70a、70bを介して第2挟持部72a、72b及び74a、74bが一体に設けられる。
【0036】
第2挟持部72a、72bは、電解質・電極接合体22と略同一寸法に設定されるとともに、前記電解質・電極接合体22を構成するカソード電極20に接する面には、集電機能を有する複数の突起部75a、75bが設けられる。複数の突起部75a、75bと電解質・電極接合体22との間には、カソード電極20の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路76a、76bが形成される。第2挟持部72a、72bの略中央部には、カソード電極20の略中央部に向かって酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給孔78a、78bが形成される。
【0037】
第2プレート26b内には、第1プレート24bが接合されることにより酸化剤ガス供給連通孔62に連通する酸化剤ガス供給通路80a、80bが、第2橋架部68a、70a間及び第2橋架部68b、70b間に対応して形成される。第2挟持部74a、74b内には、酸化剤ガス供給連通孔62と酸化剤ガス供給通路80a、80bを介して連通する酸化剤ガス充填室82a、82bが形成される。
【0038】
図1〜図3に示すように、溶接用治具装置10は、基台部材90と、ワークである第1セパレータ14a(第2セパレータ14bも同様であり、以下、第1セパレータ14aのみで説明する。)を配置するための第1治具部材92と、前記第1セパレータ14aの外形形状よりも小さな開口形状を有する開口部94が形成される第2治具部材96と、前記開口部94に配置される第3治具部材98とを備える。
【0039】
基台部材90上には、第1治具部材92が載置されるとともに、この第1治具部材92には、その上面側に第1セパレータ14aの形状を有する凹部100が形成される。第1治具部材92には、第1セパレータ14aの燃料ガス供給連通孔28に対応して、貫通孔102が形成される一方、基台部材90には、前記貫通孔102と同軸上にねじ穴部104が形成される。
【0040】
第1治具部材92の両側部には、冷却水を供給するための水冷用通路106a、106bが形成される。この水冷用通路106a、106bは、第1治具部材92内に略U字状に形成され、第1セパレータ14aの第1挟持部34a、46a及び34b、46bの形状に対応して配置される。
【0041】
第2治具部材96は、第1治具部材92の凹部100に第1セパレータ14aが配置された状態で、前記第1治具部材92と前記第1セパレータ14aの外周端部を挟持する。第2治具部材96は、図3に示すように、開口部94を形成する内壁面が、溶接部位49に向かって内方に傾斜する第1傾斜面97aを有する。
【0042】
第2治具部材96の側部には、第1傾斜面97aに開口し、アシストガス(例えば、アルゴンガス等の不活性ガス)を後述する隙間に向かって導入するための第1通路108が形状される。第1通路108は、開口部94に対応して所定の数だけ設けられる。
【0043】
第3治具部材98は、開口部94に配置されて第1治具部材92と第1セパレータ14aの外周端部よりも内方を保持するとともに、外壁面と前記開口部94を形成する内壁面との間に、溶接部位49を露呈させる隙間110を設ける。第3治具部材98の外壁面には、溶接部位49に向かって外方に傾斜する第2傾斜面97bが設けられる。第3治具部材98は、第2傾斜面97bに開口し、アシストガスを隙間110に導入するための第2通路112を所定の数だけ有している。
【0044】
第3治具部材98には、第1セパレータ14aの燃料ガス供給連通孔28に対応する貫通孔114が形成される。この第3治具部材98は、締め付け部材116を介して基台部材90に固定される。締め付け部材116は、固定ねじ118を有する。
【0045】
この固定ねじ118は、第3治具部材98の貫通孔114、第2治具部材96の開口部94及び第1治具部材92の貫通孔102を貫通して基台部材90のねじ穴部104にねじ込まれる。固定ねじ118は、アーム部材120に設けられるとともに、前記アーム部材120には、第3治具部材98の各円盤部98a、98bの略中央に当接するねじ部材122a、122bが設けられる。
【0046】
溶接用治具装置10は、第2治具部材96と第3治具部材98との隙間110に挿入されて、前記第3治具部材98を第1治具部材92に対して位置決めする位置決めリング部材(位置決め部材)124を備える。位置決めリング部材124は、図3に示すように、第1傾斜面97aに摺接する外壁傾斜面126aと、第2傾斜面97bに摺接する内壁傾斜面126bとを有する。外壁傾斜面126a及び内壁傾斜面126bは、溶接部位49に向かって互いに近接する方向に傾斜する断面楔形状に構成される。
【0047】
基台部材90、第1治具部材92及び第2治具部材96は、複数の固定具128(図示しないねじを含む)を介して、互いに固定される。
【0048】
このように構成される溶接用治具装置10を用いて、第1セパレータ14aを溶接する溶接方法について、以下に説明する。
【0049】
先ず、基台部材90上に第1治具部材92が固定されており、この第1治具部材92の上面に形成される凹部100には、第1プレート24aと第2プレート26aとが重ね合わされた第1セパレータ14aが配置される。なお、図4に示すように、第1プレート24a及び第2プレート26aには、予めプレス加工が施されており、前記第1プレート24aには、複数の突起部36a、36bが形成される一方、前記第2プレート26aには、複数の突起部56が形成されている。
【0050】
次いで、第1治具部材92上には、第1セパレータ14aを介装して第2治具部材96が載置される。このため、図6に示すように、第1治具部材92と第2治具部材96とにより、第1セパレータ14aの外周端部が挟持される。さらに、図2及び図3に示すように、第3治具部材98が、第2治具部材96の開口部94に配置されるとともに、この第3治具部材98は、締め付け部材116を介して基台部材90に固定される。
【0051】
ここで、締め付け部材116による第3治具部材98の締め付け前に、位置決めリング部材124を介して前記第3治具部材98の位置決めが行われる。この位置決めリング部材124は、第2治具部材96と第3治具部材98との形成される隙間110に挿入される。
【0052】
図3に示すように、位置決めリング部材124の外壁傾斜面126aは、第1傾斜面97aに摺接する一方、前記位置決めリング部材124の内壁傾斜面126bは、第2傾斜面97bに摺接する。従って、外壁傾斜面126a及び内壁傾斜面126bの楔作用下に、第3治具部材98は、第2治具部材96の開口部94内で位置決めされる。位置決めリング部材124では、第3治具部材98の円盤部98aの位置決めを行った後、円盤部98bにも同様に、位置決め処理を施す。
【0053】
これにより、第3治具部材98が位置決めされた後、締め付け部材116を構成する固定ねじ118が基台部材90のねじ穴部104にねじ込まれる。このため、第3治具部材98は、第1セパレータ14aの外周端部よりも内方を第2治具部材96と保持する。第3治具部材98では、各円盤部98a、98bがねじ部材122a、122bに押圧保持されており、第1セパレータ14aには、燃料電池スタックとして積層時に付与される締付け荷重と同等の荷重が付与されている。
【0054】
そこで、第1治具部材92の各水冷用通路106a、106には、冷却水が循環供給される。一方、第2治具部材96の第1通路108及び第3治具部材98の第2通路112には、アシストガス(例えば、アルゴンガス)が供給され、前記アシストガスは、第1傾斜面97a及び第2傾斜面97bから隙間110に導入されている。
【0055】
この状態で、図6に示すように、溶接ガン130は、隙間110に沿って連続して移動することにより、第1セパレータ14aの溶接部位49に溶接作業を行う。ここで、セパレータ14aの溶接部位49は、継ぎ目のない状態で外部に露呈しており、溶接ガン130により前記溶接部位49に対してシームレス溶接を行うことができる。
【0056】
この場合、本実施形態によれば、第1治具部材92と第2治具部材96とにより、セパレータ14aの外周端部が挟持されるとともに、前記第1治具部材92と第3治具部材98とにより前記第1セパレータ14aの前記外周端部よりも内方が保持された状態で、溶接部位49に対して溶接ガン130によるレーザ溶接処理が遂行されている。このため、第1セパレータ14aを構成する第1プレート24aと第2プレート26aとは、溶接時に、溶接部位49以外の部位を第1治具部材92、第2治具部材96及び第3治具部材98を介して良好に保持されている。
【0057】
これにより、第1プレート24a及び第2プレート26bには、プレス成形によって反りや歪みが存在していても、溶接部位49を平坦状に形成することができる。従って、第1プレート24aと第2プレート26aとは、互いに容易且つ良好に溶接するとともに、溶接歪みを抑制して高精度な溶接処理を遂行することが可能になるという効果が得られる。
【0058】
また、図3に示すように、第2治具部材96の内壁面には、溶接部位49に向かって内方に傾斜する第1傾斜面97aが設けられるとともに、第3治具部材98の外壁面には、前記溶接部位49に向かって外方に傾斜する第2傾斜面97bが設けられている。
【0059】
このため、第2治具部材96及び第3治具部材98は、溶接部位49の近傍まで第1セパレータ14aに接触して保持することができるとともに、前記第1セパレータ14aの外周部近傍でレーザ溶接を行うことが可能になる。従って、溶接後の第1セパレータ14aの変形を確実に抑制することができ、良好な溶接処理が遂行される。
【0060】
さらに、第2治具部材96は、第1傾斜面97aに開口し、アシストガスを隙間110に導入するための第1通路108を有するとともに、第3治具部材98は、第2傾斜面97bに開口し、前記アシストガスを前記隙間110に導入するための第2通路112を有している。これにより、溶接部位49には、アシストガスが吹き付けられるため、前記溶接部位49の雰囲気を安定させることができる。このため、溶接部位49は、酸素に曝される機会が大幅に抑制され、溶接時の欠陥を良好に抑制することが可能になる。
【0061】
さらにまた、溶接部位49は、第1セパレータ14aの外周部を周回して継ぎ目なく連続するとともに、隙間110は、前記溶接部位49に沿って継ぎ目なく連続して形成されている。従って、溶接ガン130を隙間110に沿って移動させるだけで、第1セパレータ14aの外周部を周回してシームレス溶接が行われ、溶接精度の向上が容易に図られる。
【0062】
また、第1セパレータ14aは、溶接部位49の内側に燃料ガス供給連通孔28を設けている。そして、締め付け部材116を構成する固定ねじ118は、燃料ガス供給連通孔28に挿入される締付け具として、第3治具部材98を第1治具部材92に固定している。これにより、第3治具部材98と第1治具部材92とを介して、第1セパレータ14aの外周端部よりも内方を確実に保持することができ、しかも前記第1セパレータ14aの外周部を周回してシームレス溶接を容易に行うことが可能になる。
【0063】
さらに、位置決めリング部材124は、第1傾斜面97aに摺接する外壁傾斜面126aと、第2傾斜面97bに摺接する内壁傾斜面126bとを有している。その際、外壁傾斜面126a及び内壁傾斜面126bは、溶接部位49に向かって互いに近接する方向に傾斜する断面楔形状に構成されている。このため、位置決めリング部材124が隙間110に挿入されるだけで、第3治具部材98を第1治具部材92に対して高精度に位置決めすることができるとともに、第1セパレータ14aの位置決め作業も容易且つ正確に遂行されるという利点がある。
【0064】
なお、本実施形態では、ワークとして2つの挟持部を有するセパレータを用いて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、単一の反応ガス供給連通孔を中心に同心同上に3つ又は4つ、あるいは5つ以上の挟持部が配置されるセパレータにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10…溶接用治具装置 12…燃料電池
14a、14b…セパレータ 24a、26a…プレート
28…燃料ガス供給連通孔 30、42…燃料ガス供給部
32a、32b、44a、44b、68a、68b、70a、70b…橋架部
34a、34b、46a、46b、72a、72b、74a、74b…挟持部
36a、36b、56、75a、75b…突起部
49…溶接部位 90…基台部材
92、96、98…治具部材 94…開口部
97a、97b…傾斜面 102、114…貫通孔
104…ねじ穴部 106a、106b…水冷用通路
108、112…通路 110…隙間
116…締め付け部材 118…固定ねじ
122a、122b…ねじ部材 124…位置決めリング部材
126a…外壁傾斜面 126b…内壁傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プレートと第2プレートとを重ね合わせたワークを保持し、前記ワークの外周部の溶接部位に沿って溶接するための溶接用治具装置であって、
前記ワークを配置するための第1治具部材と、
前記ワークの形状に対応した開口部が形成されるとともに、前記第1治具部材と前記ワークの外周端部を挟持する第2治具部材と、
前記開口部に配置されて前記第1治具部材と前記ワークの前記外周端部よりも内方を保持するとともに、外壁面と前記第2治具部材の前記開口部を形成する内壁面との間に、前記溶接部位を露呈させる隙間を設けるための第3治具部材と、
を備えることを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項2】
請求項1記載の溶接用治具装置において、前記第2治具部材の前記内壁面は、前記溶接部位に向かって内方に傾斜する第1傾斜面を有するとともに、
前記第3治具部材の前記外壁面は、前記溶接部位に向かって外方に傾斜する第2傾斜面を有することを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の溶接用治具装置において、前記第2治具部材は、前記内壁面に開口し、アシストガスを前記隙間に導入するための第1通路を有するとともに、
前記第3治具部材は、前記外壁面に開口し、前記アシストガスを前記隙間に導入するための第2通路を有することを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接用治具装置において、前記溶接部位は、前記ワークの前記外周部を周回して連続するとともに、
前記隙間は、前記溶接部位に沿って継ぎ目なく連続して形成されることを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶接用治具装置において、前記ワークは、前記溶接部位の内側に孔部を設けるとともに、
前記孔部に挿入されて前記第3治具部材を前記第1治具部材に固定するための締め付け部材を備えることを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の溶接用治具装置において、前記隙間に挿入されて前記第3治具部材を前記第1治具部材に対して位置決めする位置決め部材を備え、
前記位置決め部材は、前記第1傾斜面に摺接する外壁傾斜面と、
前記第2傾斜面に摺接する内壁傾斜面と、
を有するとともに、
前記外壁傾斜面及び前記内壁傾斜面は、前記溶接部位に向かって互いに近接する方向に傾斜する断面楔形状に構成されることを特徴とする溶接用治具装置。
【請求項7】
第1プレートと第2プレートとを重ね合わせたワークを保持する溶接用治具装置を用い、前記ワークの外周部に設定された溶接部位に沿って溶接するための溶接方法であって、
前記溶接用治具装置は、前記ワークを配置するための第1治具部材、前記ワークの外形形状よりも小さな開口形状を有する第2治具部材、及び前記開口部に配置される第3治具部材を備え、
前記溶接方法は、前記第1治具部材に前記ワークを配置するとともに、前記第1治具部材と前記第2治具部材とにより前記ワークの外周端部を挟持する工程と、
前記第3治具部材を前記開口部に配置させ、前記第3治具部材と前記第1治具部材とにより前記ワークの前記外周端部よりも内方を保持するとともに、前記第3治具部材の外壁面と前記第2治具部材の前記開口部を形成する内壁面との間に、前記溶接部位を露呈させる隙間を設ける工程と、
前記隙間から前記溶接部位を溶接する工程と、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項8】
請求項7記載の溶接方法において、前記隙間にアシストガスを導入しながら、前記溶接部位を溶接することを特徴とする溶接方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の溶接方法において、溶接ガンを前記隙間に沿って連続して移動させることにより、前記溶接部位に継ぎ目なく連続して溶接を行うことを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161450(P2011−161450A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23333(P2010−23333)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】