説明

溶接装置及び溶接方法

【課題】製造コストの高騰を抑制しつつ、且つ溶接製品の品質の安定化を図ることができる溶接装置及び溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤ32の受け部34が形成されるように板材P1〜P3を重ね合わせ、板材P1〜P3の間に形成された受け部34に紐状又は帯状の溶接ワイヤ32を挟入し、挟入された溶接ワイヤ32に溶融熱を供給して溶接ワイヤ32を溶融する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接材の受け部が形成されるように少なくとも3枚の板材を重ね合わせた状態で、前記板材のヘリ継手部を溶接する溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の構造部材として、亜鉛メッキ鋼板等の表面処理された板材が広く用いられている。これら板材を溶接するにあたり、レーザ溶接やアーク溶接が用いられている。
【0003】
図4Aに示すように、レーザ溶接の場合、3枚の板材100(100a〜100c)の上面側に向けてレーザ光102L、102Rを照射し、上面接触部104L、104Rを加熱・溶融・凝固させることで3枚の板材100を溶接する。
【0004】
図4Bに示すように、特許文献1に開示されるアーク溶接は、3枚の板材100を重ね合わせる際に、前記板材100a、100cの配設位置を突出させ、中央にある板材100bを相対的に下降させることにより凹部106を形成しておく(特許文献1の図1等を参照)。そして、前記凹部106の内壁に指向するようにトーチ108を配置した後、アーク放電を利用して3枚の板材100を溶接する。なお、トーチ108の先端には電極と溶加材を兼ねる溶接ワイヤ110が配置され、アルゴンガスや炭酸ガス等のシールドガス112が供給されて溶接作用が営まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭60−16308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4Aに示すレーザ溶接では、紙面手前側から奥側までの1回の走査で継手の溶接を完了するためには、同時に2箇所のレーザ光源で板材100にレーザ光を照射しなければならない。そうすると、2つのレーザ光源を並設しなければならず、溶接装置の製造コストが高騰する不都合が生じる。板材100が3枚以上の場合は尚更である。その上、レーザ溶接では溶け込み(上面接触部104L、104Rの深さ)が浅いため、溶接後の強度がそれほど高くないという問題もある。
【0007】
また、図4Bに示すアーク溶接では、凹部106の隙間(図4Bの例では板材100bの幅)が狭い場合には、トーチ108の設置空間の確保や、トーチ108の配設位置の精度を維持することが困難である。その結果、溶接の品質が低下するという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、製造コストの高騰を抑制しつつ、且つ溶接の品質の安定化を図ることができる溶接装置及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶接材の受け部が形成されるように少なくとも3枚の板材を重ね合わせた状態で、前記板材のヘリ継手部を溶接する溶接装置に関する。
【0010】
前記板材の間に形成された前記受け部に紐状又は帯状の前記溶接材を挟入する挟入部と、前記挟入部により挟入された前記溶接材に溶融熱を供給する熱源とを有することを特徴とする。
【0011】
このように、受け部の間に紐状又は帯状の溶接材を挟入する挟入部を設けたので、溶融後の溶接材を受け部まで確実に案内可能であり、溶接製品の品質の安定化を図ることができる。
【0012】
また、重ね合わされた前記板材を最外面側から挟持する一対のガイドローラを有することが好ましい。これにより、溶接作業の際に板材間の隙間を一定に保持可能であり、溶接製品の品質の向上とさらなる安定化を図ることができる。
【0013】
さらに、前記一対のガイドローラは、前記板材を介して前記溶接材を冷却する冷却機構を備えていることが好ましい。これにより、溶融した溶接材を速やかに凝固することが可能であり、下向き溶接よりも難易度が高い上向き溶接であっても品質の安定化を図ることができる。
【0014】
本発明は、重ね合わせた少なくとも3枚の板材のヘリ継手部を溶接する溶接方法に関する。
【0015】
溶接材の受け部が形成されるように前記板材を重ね合わせる工程と、前記板材の間に形成された前記受け部に紐状又は帯状の前記溶接材を挟入する工程と、挟入された前記溶接材に溶融熱を供給して該溶接材を溶融する工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、重ね合わされた前記板材を最外面側から一対のガイドローラで挟持する工程をさらに備えることが好ましい。
【0017】
さらに、前記一対のガイドローラに備えられた冷却機構により、前記板材を介して前記溶融熱が供給された前記溶接材を冷却する工程をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る溶接装置及び溶接方法によれば、溶接材の受け部が形成されるように板材を重ね合わせ、前記板材の間に形成された前記受け部に紐状又は帯状の前記溶接材を挟入し、挟入された前記溶接材に溶融熱を供給して該溶接材を溶融するようにしたので、溶融後の溶接材を受け部まで確実に案内可能であり、溶接製品の品質の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態に係る溶接装置の概略斜視図である。
【図2】図2Aは、3枚の板材を重ね合わせて形成された受け部周辺の初期状態を表す一部拡大断面図である。図2Bは、図2Aに示す受け部に紐状の溶接材を挟入した状態を表す一部拡大断面図である。図2Cは、図2Bに示す溶接材を溶融・凝固して溶接作業が完了した状態を表す一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、4枚の板材を重ね合わせて形成された受け部に帯状の溶接材を挟入した状態を表す一部拡大断面図である。図3Bは、5枚の板材を重ね合わせて形成された受け部に紐状の溶接材を挟入した状態を表す一部拡大断面図である。
【図4】図4Aは、従来のレーザ溶接を用いてヘリ継手部を溶接する概略説明図である。図4Bは、従来のアーク溶接を用いてヘリ継手部を溶接する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る溶接方法についてそれを実施する溶接装置との関係において好適な実施形態を添付の図1〜図3を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る溶接装置10の概略斜視図である。
【0022】
この溶接装置10は、基本的には、概略台形の平板からなる基台12と、該基台12の手前側側面の左端及び右端にそれぞれ固定されたガイド部14L、14Rと、該手前側側面の略中央に固定された円板状の挟入ローラ16と、該基台12の上面左側角部の上方に固定されたレーザ光源18と、該上面の略中央に配設された環状のコネクタ20とから構成される。
【0023】
ガイド部14Lは、その一端が固定され下方に延在する直方体状の支柱22Lと、該支柱22Lの他端に固設された加圧装置24Lと、該加圧装置24Lの背面に設けられ且つA方向に伸縮自在なスライダ26Lと、該スライダ26Lに係合された円柱状の冷却ガイドローラ28Lとを有する。
【0024】
ここで、加圧装置24Lには、空気圧を動力源とするサーボ機構が搭載されている。また、冷却ガイドローラ28Lには、例えば、ヒートシンク、ヒートパイプ、水冷等による図示しない冷却機構が設けられている。
【0025】
なお、ガイド部14Rについても、ガイド部14Lと同一の構成であるため、ガイド部14Rの各構成要素をそれぞれ、支柱22R、加圧装置24R、スライダ26R、及び冷却ガイドローラ28Rとして特定し、詳細な説明を省略する。
【0026】
挟入ローラ16は、略直角に屈曲した支持部材30によって基台12に軸支されており、方向E(又はその反対方向)に回動自在である。この場合、前記挟入ローラ16と前記基台12のなす面は互いに直交する。さらに、上方から供給される紐状の溶接ワイヤ32が挟入ローラ16の一部に巻回されている。
【0027】
ところで、図2A〜図2Cに示すように、重ね合わされた板材P1〜P3により形成されたヘリ継手部には、凹状の受け部34が形成されている。図1に戻って、受け部34には溶接ワイヤ32が挟入され、該溶接ワイヤ32が溶融して溶融物36が形成され、該溶融物36が凝固すると凝固物38が形成される。
【0028】
レーザ光源18は、約45度傾斜して受け部34に指向しており、より詳細には溶接ワイヤ32と溶融物36との略境界部に臨む。なお、レーザ光源18として、CO2レーザや、YAGレーザ等の公知の光源を用いてもよい。
【0029】
コネクタ20は、図示しないロボットが備えるアーム42の先端に着脱自在である。
【0030】
本実施の形態に係る溶接装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作及び作用効果について、図1及び図2A〜図2Cを参照しながら説明する。
【0031】
先ず、溶接を行おうとする3枚の板材P1〜P3を重ね合わせて配置する。図2Aから諒解されるように、板材P1とP3との間のP2は若干下降させて受け部34を形成しておく。この配置を決定した後は、各板材P1〜P3の相対的位置関係が変動しないように板材P1〜P3を一時的に挟持する。この際、図示しない挟持用治具を用いることができる。
【0032】
すなわち、図2Aに示すように、左側の板材P1と右側の板材P3とは、中央の板材P2よりも突出させて配置されている。これにより、溶接ワイヤ32(図1参照)の受け部34が形成されている。
【0033】
次いで、図示しないロボットは、アーム42を所定の変位量だけ駆動させ、所定の位置・姿勢で停止させる。これによって、前記アーム42の先端側に装着された溶接装置10は、板材P1〜P3との位置関係において適切な位置・姿勢で保持される。すなわち、挟入ローラ16の下方外周面が板材P2の上面側に臨み、所定間隔だけ離間するように位置決めされる。
【0034】
その後、加圧装置24Lの駆動制御により、スライダ26Lに係合された冷却ガイドローラ28Lを、A方向に所定の変位量だけスライドさせ板材P1の外側側面に当接させる。同様に、加圧装置24Rの駆動制御により、スライダ26Rに係合された冷却ガイドローラ28Rを、B方向に所定の変位量だけスライドさせ板材P3の外側側面に当接させる。このようにして、一対の冷却ガイドローラ28L、28Rにより、3枚の板材P1〜P3が挟持される。
【0035】
次いで、図示しないロボットによって、アーム42を一定速度でS方向に変位させると、アーム42に装着された溶接装置10も一体的にS方向に移動する。
【0036】
このとき、冷却ガイドローラ28Lは、板材P1の外側側面に接触しながら、C方向に回転しつつS方向に移動する。同様に、冷却ガイドローラ28Rは、板材P3の外側側面に接触しながら、D方向に回転しつつS方向に移動する。
【0037】
このように、板材P1〜P3を最外面側から挟持する一対の冷却ガイドローラ28L、28Rを設けたので、溶接作業の際に板材P1、P3間の隙間を一定に保持可能であり、溶接製品の品質の向上とさらなる安定化を図ることができる。
【0038】
また、溶接装置10の移動とあわせて、挟入ローラ16をE方向に回転駆動させる。そうすると、前記挟入ローラ16に巻回されている溶接ワイヤ32は、該挟入ローラ16に巻き込まれるようにF方向に供給され、板材P1〜P3によって形成された受け部34に挟入される(図2B参照)。
【0039】
さらに、溶接装置10の移動とあわせて、レーザ光源18を用いてレーザ光40を受け部34の所定の位置に向けて照射させる。これによって、照射されたレーザ光40の光エネルギーが熱エネルギーに変換され、受け部34上に挟入された溶接ワイヤ32の一部が加熱される。溶接ワイヤ32の温度がその融点を超えると、溶接ワイヤ32は溶融されて一時的に液体状(溶融物36)に変態する。その後、溶融物36は、受け部34の内壁の形状に沿って流動される。
【0040】
さらに、溶接装置10の移動とあわせて、冷却ガイドローラ28L、28Rが備える冷却機構により、板材P1及び板材P3を冷却させる。これによって、溶融物36の熱量は自然放熱されるとともに、板材P2、板材P1(又は板材P3)を介して、冷却ガイドローラ28L(28R)側に伝導されるので、溶融物36が冷却されて、固体状(凝固物38)に再度変態する。
【0041】
このように、一対の冷却ガイドローラ28L、28Rは、板材P1〜P3を介して溶接ワイヤ32を冷却する冷却機構を備えているので、溶融した溶融物36を速やかに凝固することが可能であり、下向き溶接よりも難易度が高い上向き溶接であっても品質の安定化を図ることができる。
【0042】
図2Cに示すように、すべての板材P1〜P3に接触するように凝固物38が生成されると、板材P1〜P3のヘリ継手部の溶接が完了する。
【0043】
以上のように、受け部34の間に紐状又は帯状の溶接ワイヤ32を挟入する挟入部を設けたので、溶融後の溶融物36を受け部34まで確実に案内可能であり、溶接製品の品質の安定化を図ることができる。
【0044】
ところで、溶接ワイヤ32や受け部34は、図2Bに示す断面形状に限定されることなく、種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0045】
一例として、図3Aに示すように、溶接ワイヤ32が帯状、すなわち断面形状が矩形であってもよい。また、板材P2及びP3に対して、板材P1及びP4を突出するように設けてもよい。
【0046】
別の一例として、図3Bに示すように、溶接ワイヤ32が紐状、例えば断面形状が楕円形であってもよい。また、受け部34の底面は平坦でなくてもよく、板材P2〜P4のうちP3のみ突出させて段差を設けてもよい。
【0047】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0048】
本実施の形態では挟入部として挟入ローラ16を用いているが、これに限られることなく、例えばヘラ等の挟入可能な部材であってもよい。
【0049】
また、本実施の形態では熱源としてレーザ光源18を用いているが、これに限られることはない。溶接ワイヤ32に対して直接的に又は間接的に熱エネルギーを供給できる手段であればよく、例えば、プラズマ光源やヒータ等であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…溶接装置 12…基台
14L、14R…ガイド部 16…挟入ローラ
18…レーザ光源 28L、28R…冷却ガイドローラ
32…溶接ワイヤ 34…受け部
36…溶融物 38…凝固物
P1〜P5…板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接材の受け部が形成されるように少なくとも3枚の板材を重ね合わせた状態で、前記板材のヘリ継手部を溶接する溶接装置であって、
前記板材の間に形成された前記受け部に紐状又は帯状の前記溶接材を挟入する挟入部と、
前記挟入部により挟入された前記溶接材に溶融熱を供給する熱源と
を有することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載の溶接装置において、
重ね合わされた前記板材を最外面側から挟持する一対のガイドローラを有する
ことを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項2記載の溶接装置において、
前記一対のガイドローラは、前記板材を介して前記溶接材を冷却する冷却機構を備えている
ことを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
重ね合わせた少なくとも3枚の板材のヘリ継手部を溶接する溶接方法であって、
溶接材の受け部が形成されるように前記板材を重ね合わせる工程と、
前記板材の間に形成された前記受け部に紐状又は帯状の前記溶接材を挟入する工程と、
挟入された前記溶接材に溶融熱を供給して該溶接材を溶融する工程と
を備えることを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項4記載の溶接方法において、
重ね合わされた前記板材を最外面側から一対のガイドローラで挟持する工程をさらに備える
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項6】
請求項5記載の溶接方法において、
前記一対のガイドローラに備えられた冷却機構により、前記板材を介して前記溶融熱が供給された前記溶接材を冷却する工程をさらに備える
ことを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−156573(P2011−156573A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21204(P2010−21204)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】