説明

溶接鋼管製造用溶接装置

【課題】小径溶接鋼管を製造する場合における突合せ部の内面溶接を実際的に可能にする。
【解決手段】外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する際に、MIG又はMAG溶接等で突合せ部の内面溶接を行う溶接鋼管製造用溶接装置であり、管状材(溶接前のものを指す)2の後端側から挿入したブーム18の前端部に溶接トーチ13を取り付けるとともに、この溶接トーチ13のトーチ角度θを50〜70°とし、かつ、溶接トーチを後退させる後退法で突合せ部の溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、MIG溶接あるいはMAG溶接等の溶接方式により、外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する場合における突合せ部の内面溶接に適用して好適な溶接鋼管製造用溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば角形の溶接鋼管を製造する方法の一つとして、図13に示すように、2つの溝形鋼1を互いに向き合わせて端縁を突き合わせ、その突合せ部をMIG溶接やMAG溶接等で溶接接合するいわゆる2丁合わせ溶接方法がある。
この2丁合わせ溶接方法には、外面及び内面の両側から溶接する内外面溶接方式(図14(イ))と、突合せ部を外面からのみ溶接する外面溶接方式(図14(ロ)、(ハ))とがある。また、外面溶接方式には裏当て金を用いる方式(図14(ロ))と、用いない裏波溶接方式(図14(ハ))とがある。図14は図13のa部の拡大図である。
両面から溶接する内外面溶接では開先をX開先とするが、一方向から溶接する外面溶接では開先をV開先またはY開先とするので、外面溶接は内外面溶接に比べて開先が大(開先の断面積が大)となり、溶接金属量が増え、溶接コストが高くなる。また、裏当て金等のバッキング材を用いる場合は、さらに溶接コストが高くなる。
【0003】
上記のように溶接コストの観点からは内外面溶接方式が好ましいが、内外面溶接方式において内面溶接を行う際、管内に溶接トーチを挿入する必要があるため、製造しようとする鋼管が外径約200〜300mmの小径管で例えば数メートル以上の長尺品の場合、狭い管内に溶接トーチを挿入して内面溶接することが困難となる。
【0004】
溶接トーチから吹き出されるシールドガスは吹出口近傍では層流であるが、吹出口から離れると乱流になり空気を巻き込みやすくなる。したがって、図11のように溶接トーチ3の角度(トーチ角度θ)を小さくすると、溶接投影面Sが図示のような輪郭となるため、シールドガス吹出口から離れたb部等において乱流になってシールド不良が生じ易くなり、シールド不良による空気の巻き込み、溶け込み不足等の溶接欠陥が発生しやすくなるので、一般に、溶接性が良好なトーチ角度90°前後で溶接を行う。すなわち、図7(ロ)に示すように溶接トーチ3をトーチ角度θ=90°に湾曲させて下向きにすることになるが、溶接用ワイヤ4の送給性を考慮すると、溶接トーチの曲率半径Rをある程度大きくする必要があり、このため一定以上の高さHのスペースが必要となる。
【0005】
ところで、溶接時に発生する溶接ヒュームは溶接機器に付着し、溶接機器の信頼性を劣化させる恐れがある。また、作業環境上、ヒューム除去は重要な間題である。また、溶接部に供給されるシールドガスがヒューム吸引により乱されてシールド機能が損なわれると、ブローホール等の溶接欠陥が生じる可能性が高まるので、その点も考慮する必要がある。
このため、溶接ヒュームを適切に吸引する方法が、鋼管の内面溶接の場合ではないが、特許文献1やその他種々提案されている。
【特許文献1】特許2902571号
【特許文献2】特開平8−103874
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、従来はトーチ角度を90°前後にする必要があるとされており、一定以上の高さスペースが必要となるので、外径200〜300mm程度で長尺の小径管の製造には、内面溶接は困難とされていた。
【0007】
また、開放空間での溶接や大径鋼管の内面溶接等の場合には、ヒューム吸引の効率を考慮するだけで済む場合が多いが、小径管の内面溶接の場合、ヒューム吸引により管内の風速が影響を受け易いので、シールドガスが管内の気流で乱されてシールド機能が損なわれることがないように、適切なヒューム吸引を行うことは、開放空間や大径管においてヒューム吸引を行なう場合と比べ細心の注意が必要であり、難しいものとなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、MIG溶接あるいはMAG溶接等の溶接方式により、外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する場合における突合せ部の内面溶接を実際的に可能にする溶接鋼管製造用溶接装置を提供することを目的とし、また、その場合に、シールド機能を損なうことなく適切にヒューム吸引を行うことが可能な溶接鋼管製造用溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する際に、溶接トーチの先端の開口から放出されるシールドガス中で、同じく溶接トーチの先端の開口から連続的に繰り出される溶接用ワイヤと溶接対象の母材との間にアークを発生させて溶接を行う溶接方式により、端縁どうしが突き合わされて管状をなす管状材の前記突合せ部の内面溶接を行う溶接鋼管製造用溶接装置であって、
前記管状材の後端側から挿入されて前記管状材内を管長さ方向前後に移動可能にされたブームの前端部に溶接トーチを取り付けるとともに、この溶接トーチのトーチ角度を50〜70°とし、かつ、前記ブームを後退させつつ溶接を行うようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2は、請求項1の溶接鋼管製造用溶接装置において、溶接時に発生する溶接ヒュームを吸引するヒューム吸引口を、溶接部から立ち上がって左右側壁内面に沿って下る溶接ヒュームを吸引するように、溶接トーチの左右両側に概ね上向きに設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3は、請求項2の溶接鋼管製造用溶接装置において、ヒューム吸引口の向きが、左右内面側壁側に傾斜した上向きであることを特徴とする。
【0012】
請求項4は、請求項2又は3の溶接鋼管製造用溶接装置において、ヒューム吸引口を溶接トーチの左右両側に対称的に設けるとともに、ヒューム吸引口の形状を概ね溶接鋼管長さ方向に細長い四角形にしたことを特徴とする。
【0013】
請求項5は、請求項2〜4の溶接鋼管製造用溶接装置において、ヒューム吸引口を形成する開口部材の外形が、溶接ヒュームを整流するようなフィン状をなしていることを特徴とする。
【0014】
請求項6は、請求項1〜5の溶接鋼管製造用溶接装置において、ブームの先端部に、溶接トーチを支持するブームヘッドを可動機構を介して管長さ方向移動以外の動きを拘束しないように連結するとともに、前記ブームヘッドの下面に、管状材の突合せ部に形成される開先に転動可能に嵌入する倣い輪を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トーチ角度θを50〜70°の範囲で傾斜させたので、溶接用ワイヤの送給性を確保しながら、水平から下向きに湾曲させる溶接トーチの高さを低くすることが可能となった。その場合の溶接性能については、種々実験的に探索した結果、良好な溶接が行われることを確認した。
これにより、外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する際に、端縁を突き合わせて管状にした管状材の突合せ部を内面から溶接することが実際的に可能となった。
また、溶接トーチを後退させながら溶接を行う後退法により溶接を行うので、溶接機器が溶接ビードの輻射熱を受けることが少なくなり、輻射熱からの保護構造を簡素化でき、溶接機器の小型化、簡素化が可能となる。
【0016】
請求項2によれば、概ね上向きのヒューム吸引口は、溶接部から立ち上がり管内天井面に突き当たって左右内面側壁に沿って降りてくる溶接ヒュームを吸引することになるので、溶接トーチから下向きに放出されたシールドガスの流れがヒューム吸引により乱されることはない。したがって、シールド機能を損なうことなく、溶接ヒュームを適切に吸引することができ、良好な溶接が得られる。
特に、本発明のようにトーチ角度θを小さくした場合、シールドガス吹出口から離れた部分が生じるので、その部分がヒューム吸引によりさらに乱され易くなりシールド不良となり易いが、ヒューム吸引口を概ね上向きにしたことで、前記の通りシールド機能を損なわない溶接ヒューム吸引が可能となる。
【0017】
請求項3のように、ヒューム吸引口の向きを、左右内面側壁側に傾斜した上向きにすると、左右内面側壁に沿って下る溶接ヒュームの流れを受け入れ易い向きとなるので、溶接ヒュームを効率よく吸引可能となる。
【0018】
請求項4のように、ヒューム吸引口を左右両側に対称的に設けるとともヒューム吸引口の形状を概ね溶接鋼管長さ方向に細長い四角形にした構成は、管内面側壁に沿う開口を充分長く確保できるとともに、吸引力が溶接部近傍に集中しないので、左右内面側壁に沿って下降してくる溶接ヒュームを効率よく吸引する作用と、シールドガスを乱さないこととを両立させるために有効である。
【0019】
請求項5のようにヒューム吸引口を形成する開口部材をフィン状にすることで、溶接部から立ち上がる溶接ヒュームの流れをヒューム吸引口に向かうように制御することができ、ヒューム吸引性能を向上させることができる。
【0020】
請求項6のように、動きを拘束されないようにブームに連結したブームヘッドに、開先に転動可能に嵌入する倣い輪を設けたことで、溶接トーチの先端を開先に正確に向ける倣い装置の簡素化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の溶接鋼管製造用溶接装置の実施例を図1〜図14を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明は、外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する際に、端縁どうしが突き合わされて管状をなす管状材の前記突合せ部の内面溶接を行う溶接鋼管製造用溶接装置である。
また、本発明は溶接方法として、溶接トーチの先端の開口から放出されるシールドガス中で、同じく溶接トーチの先端の開口から連続的に繰り出される溶接用ワイヤと溶接対象の母材との間にアークを発生させて溶接を行う溶接方式を採用する。すなわち、シールドガスとしてアルゴン等の不活性ガスを用いるMIG溶接(Metal electrode inert gas welding)、あるいは、炭酸ガス若しくは炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いるMAG溶接(Metal active gas welding)等を採用する。
【0023】
実施例では、前述の図13に示したように、2つの溝形鋼1を向かい合わせて端縁どうしを突き合わせて管状にした管状材2の前記突合せ部を溶接して角形鋼管を製造するものである。なお、2つの溝形鋼1を向かい合わせて端縁どうしを突き合わせて管状にしただけの溶接前の状態のもの、あるいは、未だ全長の溶接を終了していない状態のものを管状材と呼んでいる(但し、説明の便宜上、そのようなものも場合により鋼管と呼ぶ)。
以下に述べる実施例は、溶接鋼管を製造するに際して図14(イ)で説明した内外面溶接方式を採用するものであり、かつ、その内外面溶接における内面溶接作業に適用するものである。また、以下の説明は、向かい合わせて端縁どうしを突き合わせて管状にした2つの溝形鋼1を何らかの手段で拘束して下面側の突合せ部の内面溶接を行う場合、あるいは、一方の突合せ部の溶接を済ませた後に他方の突合せ部の内面溶接を行う場合のものである。
【0024】
図1は本発明の溶接鋼管製造用溶接装置(以下、場合により単に溶接装置という)10の全体構成を説明する側面図であり、(イ)は溶接作業準備状態、(ロ)は溶接作業開始時点の状態、(ハ)は溶接作業進行中の状態を示す。
【0025】
図2は図1(イ)の要部の拡大図、図3は図1(ハ)の要部拡大図、図4は図3の平面図、図5は図3のA−A矢視図である。
これらの図において、13は例えばMAG溶接用の溶接トーチである。溶接トーチ13は、中心部に溶接用ワイヤ4を挿通させるとともに、先端からシールドガスを吹き出す構造となっている。この溶接トーチ13は、ブーム駆動装置17によって管状材2内に出し入れ可能な長尺のブーム18の前端部に取り付けられ、ブーム18に沿って後端部の装置本体部21に伸びる溶接トーチチューブ20に接続されている。溶接トーチチューブ20は溶接用ワイヤ4及びシールドガスを溶接トーチ13に送る通路となる。前記装置本体部21は、溶接電源や、コイル状に巻いた溶接用ワイヤ4を供給するワイヤ供給装置や、シールドガスを供給するガスボンベや、ヒューム排出部等を備えている。
【0026】
ブーム18の先端部にはブームヘッド22が連結されており、溶接トーチ13は直接にはこのブームヘッド22に取り付けられている。
ブームヘッド22は、ブーム18の先端部に可動機構23を介して連結されている。可動機構23は、ブームヘッド22が上面から見て左右方向に首振り回動するのを許容する水平角度可動部24と、ブームヘッド22がブーム18に対して鉛直方向上下に移動するのを許容する鉛直可動部25と、ブームヘッド22がブーム18に対して水平方向左右に移動するのを許容する水平可動部26とからなっている。
ブームヘッド22の下面中央の前後2箇所に、突合せ部の開先(V開先)2aに嵌入して転動する倣い輪28を備えている。この倣い輪28は、ブームヘッド22の移動の際に、開先に嵌入してブームヘッド22の位置決めを行い、ブームヘッド22に取り付けられた溶接トーチ13の先端を正しく開先2aに沿わせる作用をする。
可動機構23の詳細構造は省略するが、ブームヘッド22が後退移動する際に、ブームヘッド22の管長さ方向移動以外の動きを拘束しないもの、すなわち、倣い輪28が開先に沿って転動するのに追従して動くことを許容するものであればよい。例えば、水平角度可動部24として垂直な回転軸を介して連結する構造、鉛直可動部25として鉛直方向の蟻と蟻ミゾと組み合わせによる水平スライド構造、水平可動部26として水平方向の蟻と蟻ミゾとの組み合わせによる鉛直スライド構造等を採用でき、その他種々の構造が可能である。
また、ブーム18は、管状材2の内面底部及びこれに連続する外部テーブル30を転動してブーム18を支持するブーム支持輪29を備えている。
【0027】
また、ブームヘッド22の前端部には、溶接時に発生する溶接ヒュームを吸引するヒューム吸引口31aを備えた開口部材31が取り付けられ、この開口部材31に接続されたヒューム排出チューブ32がブームヘッド22及びブーム18を通って装置本体部21側まで挿通されている。
【0028】
本発明では、溶接トーチ13を開先2aに沿って後退させなが溶接を行う後退法で溶接する。すなわち、図1〜図4等に示されるように、溶接トーチ13を支持するブーム18が溶接ビード5の上方に位置せず、溶接トーチ13が溶接ビード5から離れていく方向に移動しつつ溶接する。
【0029】
仮に図6(ロ)のような前進法を採用した場合、溶接機器が溶接ビードの輻射熱を受けるので、輻射熱からの保護構造を厳重にする必要があり、溶接機器が大型化する。
しかし、図6(イ)にも示したこの後退法を採用することにより、溶接機器(溶接トーチ13や、ブーム18に沿って配される各部分)が溶接ビードの輻射熱を受けることが少なくなり、したがって、輻射熱からの保護構造を簡素化でき、溶接機器の小型化が可能となる。
また、開先位置の倣い装置として、前述のように、単に倣い輪28を開先に嵌入させるという簡単な構造を採用することができるので、倣い装置の簡素化が可能となる。
【0030】
そして、本発明では、溶接トーチ13のトーチ角度θを図3等にも示すように、直角でなく50〜70°に設定する。また、実施例の溶接トーチ13は、曲率半径Rが例えば70mm程度であり、また、冷却水を送り込んでトーチの冷却を行う方式の水冷トーチである。なお、溶接トーチ13には冷却水パイプが接続されているが、図示を省略した。
背景技術の説明で述べた通り、図7(ロ)に示したようにトーチ角度θを90°前後にするのが一般的であるが、トーチ角度θを種々変化させて良好な溶接が可能な条件を実験的に種々探索した結果、前記の通り、50〜70°の範囲であれば、良好な溶接が可能であることが分った。実験結果については後述する。
【0031】
前記ヒューム吸引口31aを形成する開口部材31の詳細を説明すると、図3〜図5等に示すように、この開口部材31は、溶接トーチ13の両側で左右対称に設けられており、それらはいずれもヒューム吸引口31aが概ね上向きをなしている。
実施例のヒューム吸引口31aは、概ね管状材2の長さ方向に細長い四角形であり、また、上端が左右側壁内面側に寄るように傾斜している。
また、ヒューム吸引口31aを形成する開口部材31の外形は、溶接ヒュームを整流するようなフィン状をなしている。ここでフィン状とは、開口部材31の外形が扁平(したがって、内部空間の幅がヒューム吸引口31aの幅と概ね同じ)であることを指す。但し、必ずしも平坦であるものに限らず、場合によっては、溶接ヒュームの流れの制御のために曲面とすることも考えられる。開口部材31のヒューム排出チューブ32に接続される部分31bは四角形筒、円筒、楕円筒、長円筒など任意である。
【0032】
上記の溶接装置10により、管状材2の内面溶接を行う場合、ブーム駆動装置17を駆動してブーム18を前進させて、図1(ロ)のように溶接トーチ13を管状材2の前端まで移動させる。なお、ブーム18を駆動する手段は任意であり、ブーム18の後端の装置本体部21を台車上に設置してその台車を駆動する構造としてもよい。
なお、図1において、35は溶接開始位置において良好な溶接が行われるための補助板である。
ブーム18とともに溶接トーチ13を図1(ロ)の位置から矢印のように後退させながら先端から溶接用ワイヤ4を開先に繰り出すとともにシールドガスを放出して、シールドガス中で溶接を行う。
【0033】
上記の溶接装置10により管状材2の突合せ部の内面溶接を行った溶接実験について説明する。
製造しようとする鋼管は19mm(板厚)×200mm(辺長)×200mm(辺長)の角形鋼管である。使用した溝形鋼1は鋼板をプレス成形したものである。溶接方式はシールドガスとして炭酸ガスを用いたMAG溶接である。開先条件はY開先、開先深さ6mmである。溶接用ワイヤは径φ1.2mmで、ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤの両方で実験した。
溶接速度40c〜80cm/min.に対して、トーチ角度θを45〜90°の範囲で種々変えて、良好な溶接が可能なトーチ角度θを探索する溶接実験の結果を図9に示す。図9(イ)は溶接用ワイヤ4としてソリッドワイヤφ1.2mmを用いた場合、図9(ロ)はフラックス入りワイヤφ1.2mmを用いた場合である。
同図に示すように、溶接速度50〜60cm/min.の範囲では、ソリッドワイヤではトーチ角度が約50°以上、フラックス入りワイヤは約60°以上で良好な溶接が得られた。フラックス入りワイヤの場合、溶接速度70cm/min.でも良好な溶接が得られた。
この実験結果より、トーチ角度θが50°までなら良好な溶接を得ることが可能である。なお、トーチ角度θが90°に近づけば当然良好な溶接が得られるが、小径管に対応させることを考慮すると極力小さなトーチ角度θが望ましい。
なお、良好な溶接が可能な溶接速度は溶接用ワイヤの径とも関係があり、両者の関係を適切に選択するとよい。
【0034】
本発明は管内での溶接なので、ヒューム吸引を行わない場合、溶接ヒュームは図12(イ)に示すように、溶接部(溶接ビード5部分)から立ち上がり、左右側壁内面に沿って降りてくる流れとなる。
ここで図12(ロ)に示すように、溶接部の上方にフード6を設けるなどの直接吸引方式で溶接ヒューム(実線で示す)の吸引を行う場合、充分なヒューム吸引効果を得るために吸引風速を大きくすると、シールドガス(破線で示す)も容易に吸引されてしまい、シールドガスのシールド機能が損なわれる。また、管内のヒュームを漏れなく吸引するためには大きな吸引フードが必要となるが、小径角形鋼管内ではスペースの確保が難しく、実施が困難である。
しかし、この溶接装置では、図8(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、溶接部から立ち上がった溶接ヒュームは、管内天井面に突き当たって左右内面側壁に沿って降りてくる際にヒューム吸引口31aから適切に吸引されるとともに、溶接トーチ13から下向きに放出されたシールドガスは、上向きのヒューム吸引口31aによる吸引からの直接的な影響を受けず、シールドガスの流れが乱されることはない。
大気を遮断して溶接部を保護しているシールドガスが溶接位置で乱流になると大気を巻き込み、ブローホールなどの溶接不良が発生する恐れがあるため、シールドガスの風速は、溶接部で層流になる範囲の2m/s以下とする必要があり、健全な溶接をするには溶接部近傍での風速が1m/s以下とするのが望ましい。上記のような溶接ヒュームを上向きのヒューム吸引口31aから吸引するようにすれば、溶接ヒュームの充分な吸引を確保しつつ、シールドガスの溶接部での風速を1m/s以下にすることが可能となり、溶接ヒューム吸引性能とシールド機能とを共に確保することができる。
【0035】
シールド機能を確認するために行った窒素量分析試験の試験結果を図10に示す。風でシールドガスが飛ばされると窒素量が増すので、溶接部近傍の気体の窒素量を測定する窒素量分析試験により、シールドガスが溶接部を覆っているか否かすなわちシールド機能を測定することができる。
この溶接実験の条件では風速と窒素量との関係が図10の曲線のようになった。風速1.5m/sではブローホールが多発したが、風速1.0m/sでは良好な溶接が得られた。
この風速は上記の通り、シールドガスが乱流にならずに層流状態を維持することができる風速である。
管内での溶接の場合にヒューム吸引を行うことで管内に外部から空気が流入するが、充分なヒューム吸引効果を得るために吸引風量を大とした場合、管内に流入する空気の量と管の断面積との関係で、小径管の場合、管内への流入速度は大となる。しかし、上向きのヒューム吸引口31aからのヒューム吸引によって、溶接部での風速を1m/s以下にすることが可能となる。
【実施例2】
【0036】
上述の実施例は、角形の溶接鋼管を製造する鋼材として、プレス成形による溝形鋼を用いているが、熱間圧延の溝形鋼を用いることも当然可能である。
また、角形鋼管でなく丸鋼管を製造する場合にも本発明を適用できる。この場合は、1枚の鋼板を円形断面に湾曲成形して、その端縁の突合せ部を本発明の溶接鋼管製造用溶接装置により内面溶接する。
【0037】
溶接方式として、シールドガスとして炭酸ガスとアルゴンガスの混合ガスを用いるMAG溶接に限らず、アルゴンガス等の不活性ガスを用いるMIG溶接を採用してもよい。要するに、溶接トーチの先端の開口から放出されるシールドガス中で、同じく溶接トーチの先端の開口から連続的に繰り出される溶接用ワイヤと溶接対象の母材との間にアークを発生させて溶接を行う溶接方式により溶接を行う溶接方法であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例の溶接鋼管製造用溶接装置の全体構成の概略の示す側面図であり、(イ)は溶接作業準備状態、(ロ)は溶接作業開始時点の状態、(ハ)は溶接作業進行中の状態を示す。
【図2】図1(イ)の要部の詳細拡大図である。
【図3】図1(ハ)の詳細要部拡大図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】図3のA−A矢視図である。
【図6】溶接トーチの移動方向について説明するもので、(イ)は本発明で採用する後退法の説明図、(ロ)は前進法である。
【図7】溶接トーチの角度(トーチ角度θ)について説明するもので、(イ)は本発明で採用するトーチ角度θの場合、(ロ)は一般的なトーチ角度90°の場合の図である。
【図8】実施例の溶接鋼管製造用溶接装置で管状材の内面溶接を行う場合の溶接ヒューム及びシールドガスの流れを説明する図であり、(イ)は図3に、(ロ)は図4に、(ハ)は図5にそれぞれ対応させて示した図である。
【図9】良好な溶接が可能なトーチ角度θを探索する溶接実験の結果を示すもので、(イ)はソリッドワイヤの場合、(ロ)はフラックス入りワイヤの場合である。
【図10】シールド機能を確認するために行った窒素量分析試験の試験結果を示す図である。
【図11】溶接トーチを傾斜させた場合(溶接トーチがトーチ角度θを有する場合)の問題を説明するための図である。
【図12】角形鋼管の内面溶接を行う場合の溶接ヒューム及びシールドガスの流れを説明するための図であり、(イ)はヒューム吸引を行わない場合、(ロ)は上方に配置した吸引フードにより直接吸引を行う場合のものである。
【図13】2つの溝形鋼を向かい合わせ端縁どうしの突合せ部を溶接して製造する角形の溶接鋼管を説明する図である。
【図14】図13における突合せ部の溶接方式を説明するもので、(イ)は内外面溶接方式、(ロ)および(ハ)は外面溶接方式を示す。
【符号の説明】
【0039】
1 溝形鋼
2 管状材(鋼管の溶接前の状態のもの)
2a 開先
4 溶接用ワイヤ
5 溶接ビード
10 溶接鋼管製造用溶接装置(溶接装置)
13 溶接トーチ
17 ブーム駆動装置
18 ブーム
20 溶接トーチチューブ
21 装置本体部
22 ブームヘッド
23 可動機構
24 水平角度可動部
25 鉛直可動部
26 水平可動部
28 倣い輪
29 支持輪
30 外部テーブル
31 開口部材
31a ヒューム吸引口
32 ヒューム排出チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径約200〜300mmの小径溶接鋼管を製造する際に、溶接トーチの先端の開口から放出されるシールドガス中で、同じく溶接トーチの先端の開口から連続的に繰り出される溶接用ワイヤと溶接対象の母材との間にアークを発生させて溶接を行う溶接方式により、端縁どうしが突き合わされて管状をなす管状材の前記突合せ部の内面溶接を行う溶接鋼管製造用溶接装置であって、
前記管状材の後端側から挿入されて前記管状材内を管長さ方向前後に移動可能にされたブームの前端部に溶接トーチを取り付けるとともに、この溶接トーチのトーチ角度を50〜70°とし、かつ、前記ブームを後退させつつ溶接を行うようにしたことを特徴とする溶接鋼管製造用溶接装置。
【請求項2】
溶接時に発生する溶接ヒュームを吸引するヒューム吸引口を、溶接部から立ち上がり管内天井面に突き当たって左右内面側壁に沿って降りてくる溶接ヒュームを吸引するように、溶接トーチの左右両側に概ね上向きに設けたことを特徴とする請求項1記載の溶接鋼管製造用溶接装置。
【請求項3】
前記ヒューム吸引口の向きが、左右内面側壁側に傾斜した上向きであることを特徴とする請求項1〜2記載の溶接鋼管製造用溶接装置。
【請求項4】
前記ヒューム吸引口を溶接トーチの左右両側に対称的に設けるとともに、ヒューム吸引口の形状を概ね溶接鋼管長さ方向に細長い四角形にしたことを特徴とする請求項2又は3記載の溶接鋼管製造用溶接装置。
【請求項5】
前記ヒューム吸引口を形成する開口部材の外形が、溶接ヒュームを整流するようなフィン状をなしていることを特徴とする請求項2〜4記載の溶接鋼管製造用溶接装置。
【請求項6】
前記ブームの先端部に、溶接トーチを支持するブームヘッドを可動機構を介して管長さ方向移動以外の動きを拘束しないように連結するとともに、前記ブームヘッドの下面に、管状材の突合せ部に形成される開先に転動可能に嵌入する倣い輪を設けたことを特徴とする請求項1〜5記載の溶接鋼管製造用溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−68294(P2008−68294A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250077(P2006−250077)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】