説明

溶液法によるSiC単結晶の製造方法

【課題】成長結晶端部のクラック発生を防止して、溶液法によりSiC単結晶を製造する方法を提供する。
【解決手段】Si−C溶液面に接触させたSiC種結晶の下面にSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法において、結晶成長が完了した時に、成長したSiC単結晶が接触している上記溶液面の近傍のSi−C溶液のC濃度を低下させた後に、上記成長したSiC単結晶を上記溶液面から引き上げることを特徴とする溶液法によるSiC単結晶の製造方法。成長したSiC単結晶が接触している上記溶液面の近傍のSi−C溶液のC濃度を7at%以下に低下させることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液法によるSiC単結晶の製造方法に関し、特に成長結晶端部のクラック防止に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液法によるSiC単結晶の製造方法は、Si−C溶液面に接触させたSiC種結晶の下面にSiC単結晶を成長させる方法である。結晶成長完了時に成長結晶を引き上げて端部を溶液面から離す際に、成長端部にSi−C溶液が付着する。付着溶液が固化する際の応力により、端部にクラックが発生するという問題があった。
【0003】
Si単結晶の溶液法による製造方法では、同様に溶液の付着があっても、固化時に膨張するため圧縮応力が作用するため、SiC単結晶におけるようなクラック発生の問題は生じない。また、成長端部の径を制御して凸状にすることで、クラック発生の危険性がある端部は用いないという方法もあるが、歩留まりが低下するという問題がある。特に、成長速度が遅いSiC単結晶の場合は無視できない歩留まり低下が避けられない。
【0004】
その対策として、特許文献1には、成長結晶を引き上げる際に、成長結晶を高速回転させて付着溶液を飛散させることが提案されている。しかしこの方法では、遠心力がかからないため結晶中央部の付着溶液を完全に除去することが困難であり、端部に付着溶液が残留して多結晶化し、クラックの原因になるという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、結晶成長に用いるSi−C溶液の容器を収容した炉の内部に、Cを含有しないSi融液の容器を更に収容し、SiC単結晶をSi−C溶液から引き上げた後に、Si融液に浸して付着溶液を洗い流すことが提案されている。しかしこの方法では、成長用容器の他に洗い流すための容器を収容するには、炉を含めた結晶成長装置の容量をかなり大きくして炉のホットゾーンを拡大する必要がある。更に、SiC単結晶の成長のように高温を必要とする場合、結晶成長に必要な温度分布を形成することが困難になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−048897号公報
【特許文献2】特開昭61−202411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消し、成長結晶端部のクラック発生を防止して、溶液法によりSiC単結晶を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、Si−C溶液面に接触させたSiC種結晶の下面にSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法において、結晶成長が完了した時に、成長したSiC単結晶が接触している上記溶液面の近傍のSi−C溶液のC濃度を低下させた後に、上記成長したSiC単結晶を上記溶液面から引き上げることを特徴とする溶液法によるSiC単結晶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成長結晶端部に付着するSi−C溶液のC濃度が低下しているので、固化時に発生する応力が軽減され、クラックの発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】溶液法によりSiC単結晶を成長させるための装置を示す。
【図2】Si−C溶液のC濃度を17at%とした場合の成長結晶端部の(1A)成長したまま(as-grown)および(1B)酸処理後の状態、およびSi−C溶液のC濃度を2at%とした場合の成長結晶端部の(2A)成長したまま(as-grown)および(2B)酸処理後の状態を、それぞれ写真で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
溶液法によるSiC単結晶の成長法においては、溶液のC濃度が低いとSiC単結晶の成長速度が遅い(最大で70μm/hr程度)ため、溶液のC溶解度を高める第3元素(Cr等)を添加してC濃度を高めることが一般的である。しかし、C濃度が高いと付着溶液の固化時に成長結晶と結合してクラックが発生する。本発明においては、結晶成長中は成長速度を確保するために必要なC濃度を維持し、結晶成長完了時にC濃度を低下させてクラックの発生を防止する。
【0012】
結晶成長完了時にC濃度を低下させる方法は、下記のいずれかによる。
【0013】
(1)成長結晶を引き上げる直前に、Si−C溶液の温度を低下させる。
【0014】
(2)成長結晶を引き上げる直前に、Si−C溶液のC溶解度を上げない元素を添加する。
【0015】
(3)成長結晶をSi−C溶液が固化しない温度まで昇温させ、Si−C溶液のC溶解度を上げない元素を添加してから、成長結晶を引き上げる。
【0016】
上記(1)のSi−C溶液の温度を下げる方法としては下記のいずれかが可能である。
【0017】
(a)高周波コイルの出力を下げる
(b)高周波コイルに対する坩堝位置を変更する
上記(2)(3)で用いる、Si−C溶液のC溶解度を上げない元素としてはSiが最も適している。しかしSiに限定する必要はなく、Co,Nd,Py等の希土類元素、Al,Ga,In,Ti,P,As,Sb,Bi,Mo,Ni、等を用いることもできる。
【0018】
なお、成長結晶を引き上げる際には、成長結晶端部への溶液の付着を低減させるために、成長結晶を回転させることが望ましい。
【0019】
また、添加元素の供給は、黒鉛製の筒を介して粒状の元素(Si等)を溶液中に投入することができる。添加元素提供時には、溶液の回転等の溶質の攪拌を促進する工程を停止する事で、溶液を流動させない事が望ましい。また、溶液のC濃度を下げる時は、単結晶が接触している溶液近傍のC濃度を下げる事で、溶液におけるC濃度を下げる対象とする領域を絞り込むことができる。更にそのC濃度を下げる対象とする領域は成長した単結晶を引き上げる工程で単結晶に付着しうる領域である事が望ましい。そうすることによって、結晶引き上げ時に付着する溶液のC濃度をより確実に減らす事ができる。また、C濃度を減少させる操作後は、C濃度が減少した領域が拡散しないように、溶液の攪拌を行わない事が望ましい。
【実施例】
【0020】
図1に示した結晶成長装置により、表1に示したようにSi−C溶液のC濃度を2at%〜17at%に変化させ、種結晶4H−SiCを用いて、成長温度1900℃でSiC単結晶を成長させた。
【0021】
【表1】

【0022】
成長結晶の端部におけるクラック発生の有無を調べ、表1に併せて示した。なお、表1中で、○はクラック発生なし、×はクラック発生ありを示す。0/5などの分数(n1/n2)は、分子(n1)がクラック発生サンプル数、分母(n2)が全サンプル数を示す。
【0023】
図2に、Si−C溶液のC濃度を17at%とした場合の成長結晶端部の(1A)成長したまま(as-grown)および(1B)酸処理後の状態、およびSi−C溶液のC濃度を2at%とした場合の成長結晶端部の(2A)成長したまま(as-grown)および(2B)酸処理後の状態を、それぞれ写真で示す。
【0024】
C濃度17at%の場合は酸処理によりクラック発生部位から剥離が生じている。これに対してC濃度2at%の場合は酸処理による剥離が全く生じていない。このように、酸処理によって、クラック発生の有無を明瞭に判定できた。
【0025】
この結果から、C濃度を7at%以下にすることにより、成長結晶端部のクラック発生を完全に防止できることが分かる。
【0026】
本実施例では、本発明の方法のシミュレーションとして、初めからC濃度を種々に変えたSi−C溶液を用いてSiC単結晶成長を行なったが、結晶成長完了後にC濃度を変えた(低下させた)場合も、同等の効果が得られると考えられる。
【0027】
本発明に従ってSi−C溶液のC溶解度を上げない元素を添加する場合は、図1に仮想線で示したように、黒鉛製等の原料供給筒を介して添加するとよい。この場合、筒の先端はSi−C溶液に接触させないようにして、余分なCの添加を防止する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、上記従来技術の欠点を解消し、成長結晶端部のクラック発生を防止して、溶液法によりSiC単結晶を製造する方法が提供される。すなわち、成長結晶端部に付着するSi−C溶液のC濃度が低下しているので、固化時に発生する応力が軽減され、クラックの発生が防止される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−C溶液面に接触させたSiC種結晶の接触面にSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法において、結晶成長が完了した時に、成長したSiC単結晶が接触している上記溶液近傍のSi−C溶液のC濃度を低下させた後に、上記成長したSiC単結晶を上記溶液面から引き上げることを特徴とする溶液法によるSiC単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、成長したSiC単結晶が接触している上記溶液近傍のSi−C溶液のC濃度を7at%以下に低下させることを特徴とするSiC単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162439(P2012−162439A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26254(P2011−26254)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】