説明

溶液製膜方法及び洗浄装置

【課題】生産性を落とすことなく、流延ドラムの周面を確実に洗浄する。
【解決手段】ドラム洗浄装置38を、流延ドラムの周面32aの上方であって、剥取ローラと減圧チャンバとの間に設ける。温風66を周面32aに対して吹き付け、周面32aに付着した異物の温度を上昇させる。異物の温度を上昇させた後に、ドライアイス粒子73を混合させた洗浄ガス76を吹き付ける。ドライアイス粒子73との衝突により、異物は周面32aから除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体の表面上に付着した異物を除去して、支持体の洗浄を行う溶液製膜方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下「フイルム」という)は、優れた光透過性や柔軟性を有するとともに軽量薄膜化が可能であることから光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フイルムは、強靭性を有するとともに低複屈折率であることから、写真感光用フイルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フイルムまたは光学補償フイルムなどの光学機能性フイルムに用いられている。
【0003】
フイルムの製造方法の一つとして、溶液製膜方法がある。この溶液製膜方法では、セルローストリアセテートなどのポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解したドープを調製する。このドープを流延ダイより吐出させて流延ビードを形成し、キャスティングドラムやエンドレスバンドなどの金属支持体上に流延し流延膜を形成する(以下「流延工程」という)。そして、流延膜は支持体上で乾燥又は冷却され、自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を「湿潤フイルム」という)として剥ぎ取られ、この湿潤フイルムを乾燥させたものをフイルムとして巻き取る。
【0004】
流延工程では、長時間連続運転により、流延膜から脂肪酸、脂肪酸エステルや脂肪酸金属塩などを主成分とする異物が析出し、この異物が支持体表面に付着する、いわゆるプレートアウトが発生する。プレートアウトが発生すると、支持体表面上の異物がフイルムに転写される。フイルム表面に異物が転写することで、光学特性にムラが生じるようになる。
【0005】
これまで、支持体表面の洗浄方法として、有機溶剤等を浸した不織布を用いて支持体表面を連続的に拭うウエット処理方法(特許文献1)や、フイルム表面に溶媒処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、及び火炎処理などの処理を施し、フイルム表面の異物を除去する異物除去方法(特許文献2)が開示されている。
【特許文献1】特開2003−1654号公報
【特許文献2】特開2001−89590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のウエット処理方法では、連続流延を中断して定期的に支持体の洗浄作業を行う必要があり、生産効率が低下する。また、特許文献2の異物除去方法では、フイルムの特性に影響を及ぼさないような条件で異物除去処理を施すことが望ましいが、そのような条件を見出すことは容易ではない。
【0007】
近年では、更なるフイルムの需要の増大に対応するために、製膜速度の高速化が強く望まれている。そのため、製膜速度を落とすことなく、支持体を確実に洗浄することが求められていた。
【0008】
本発明は、生産性を落とすことなく、支持体を確実に洗浄することができる溶液製膜方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、エンドレスに走行する支持体上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って乾燥することにより、フイルムを製造する溶液製膜方法において、前記支持体の表面に付着した異物を温めた後に、前記流延膜が剥ぎ取られた後であって前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に対して、昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを吹き付けて、前記異物を除去することを特徴とする。
【0010】
前記支持体の表面に対して温風を吹き付けることにより前記異物を温めることが好ましい。予め加熱したガスに前記昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを前記支持体の表面に対して吹き付けることにより前記異物を温めることが好ましい。前記昇華性粒子はドライアイス粒子であることが好ましい。
【0011】
本発明は、エンドレスに走行する支持体上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って乾燥することにより、フイルムを製造する溶液製膜設備に用いられ、前記支持体上の表面上の異物を除去して、前記支持体の表面を洗浄する洗浄装置において、前記支持体の表面に付着した異物を温めた後に、前記流延膜が剥ぎ取られた後であって前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に対して、昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを吹き付けて、前記異物を除去する異物除去手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流延膜が剥ぎ取られた後であってドープが流延される前の支持体の表面に対して、昇華性粒子を含む洗浄ガスを吹き付けて、支持体の表面上の異物を除去することで、フイルムの製造を停止させることなく、支持体の洗浄を行うことができる。また、異物を温めた後に洗浄ガスを吹き付けることにより、支持体に対する洗浄性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本実施形態で用いる溶液製膜設備10の概略図を示す。溶液製膜設備10は、ストックタンク11、流延室12、ピンテンタ13、クリップテンタ14、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17を有する。
【0014】
ストックタンク11は、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとを備えており、その内部にはフイルム20の原料となるドープ21が貯留されている。ストックタンク11内のドープ21は、ジャケット11cにより温度が略一定となるように調整されている。また、攪拌翼11bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ21を均一な品質に保持している。ストックタンク11の下流には、ギアポンプ25及び濾過装置26が設置されており、これらを介してドープ21が流延ダイ30に送られる。
【0015】
流延室12には、流延ダイ30、支持体としての流延ドラム32、剥取ローラ34、温調装置35,36、減圧チャンバ37、ドラム洗浄装置38が設置されている。流延ドラム32は、図示を省略した駆動装置によってX方向に回転する。この回転中の流延ドラムの周面32aに向けて、流延ダイ30からドープ21が吐出され、流延ドラムの周面32aに流延膜33が形成される。
【0016】
流延室12内及び流延ドラム32は、温調装置35,36によって、流延膜33が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延膜33は自己支持性を有するゲル強度に達した時点で、剥取ローラ34によって流延ドラム32から剥ぎ取られる。
【0017】
減圧チャンバ37は、流延ダイ30に対し、X方向上流側に配置されており、チャンバ37内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム32の周面に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム32が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイ30と流延ドラム32との間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜33が形成される。
【0018】
流延ダイ30の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0019】
流延ドラムの周面32aは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置36は、流延ドラムの周面32aの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32内の伝熱媒体流路に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面の温度が所望の温度に保持される。
【0020】
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面に施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0021】
流延室12内には、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)53と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置54とが備えられている。凝縮器53で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置54により回収される。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0022】
図1及び図2に示すように、ドラム洗浄装置38は、流延ドラムの周面32aの上方であって、剥取ローラ34と減圧チャンバ37との間に設けられている。このドラム洗浄装置38により、流延ドラムの周面32aに付着した異物を除去し、流延ドラム32を洗浄する。異物には、流延ドラム上の流延膜33から析出した脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩などが主に含まれている。
【0023】
ドラム洗浄装置38は、ドライアイス生成部60、ガス供給部61、洗浄ノズル62、温風ノズル63、温風供給部64とを備えている。ガス供給部61と洗浄ノズルの第1供給口62aとは、配管70により接続されている。ドライアイス生成部60と洗浄ノズルの第2供給口62bとは、配管71により接続されている。
【0024】
ドライアイス生成部60は、所定の粒径を有するドライアイス粒子73を生成する。生成されたドライアイス粒子73は、配管71を介して、洗浄ノズルの第2供給口62bに供給される。ガス供給部61はガスタンクから構成され、所定の圧力に圧縮されたキャリアガス74が充填されている。このキャリアガス74は窒素などの不活性ガスから構成される。ガス供給部61は、所定量のキャリアガス74を、配管70を介して、洗浄ノズルの第1供給口62aに供給する。なお、キャリアガスは、不活性ガスに限る必要はなく、例えばエアなどであってもよい。また、ドライアイス生成部で予めドライアイス粒子を生成してから、そのドライアイス粒子をノズルに送り込んだが、これに限る必要はない。例えば、液状の二酸化炭素をノズルに送り込み、そのノズル内で固体のドライアイス粒子を生成してもよい。
【0025】
洗浄ノズル62は、その吹出口62cが流延ドラムの周面32aに向くように、設置されている。洗浄ノズル62には、第1供給口62aと吹出口62cとの間を連通する第1流路(図示省略)が形成されている。また、洗浄ノズル62には、第2供給口62bと第1流路とを連通する第2流路(図示省略)が形成されている。第1流路に供給されたキャリアガス74は、第2流路からのドライアイス粒子73と混合される。このドライアイス粒子73が混合されたガス76(以下「洗浄ガス」という)が、吹出口62cを介して、流延ドラムの周面32aに吹き付けられる。
【0026】
洗浄ガス76が流延ドラムの周面32aに吹き付けられると、その洗浄ガスに含まれるドライアイス粒子73が、流延ドラムの周面32aに付着した異物に衝突する。この衝突により、異物は粉砕し、周面32aから除去される。これにより、洗浄跡を残すことなく、流延ドラムの周面32a上に付着した異物を除去することができる。
【0027】
温風ノズル63は、洗浄ノズル62に対してX方向上流側に設けられている。この温風ノズル63の吹出口63aは、流延ドラムの周面32aに向けられている。温風ノズル63は、配管65により温風供給部64と接続している。温風供給部64は、配管65を介して、温風66を温風ノズル63に供給する。温風66は、所定の温度に加熱されたエア又は窒素ガスなどの不活性ガスから構成される。
【0028】
温風ノズル63から温風66が流延ドラムの周面32aに吹き付けられると、その周面32aの温度は上昇する。この周面32aの温度上昇に伴って、周面32aに付着した異物の温度も上昇する。これにより、異物とその異物に衝突するドライアイス粒子との温度差が大きくなる。この温度差が大きくなることによって、異物の除去効果が向上する。また、温風66により周面32aを温めることで、その周面32aに付着した異物が剥離し易くなる。この剥離しやすくなった異物に対して洗浄ガス76を吹き付けることで、異物の除去効果が向上する。なお、温風の吹き付けにより流延ドラムの周面の温度は上昇するが、流延ドラム内を循環する伝熱媒体によって、ドープの流延までに、周面の温度は流延膜の形成に適した温度に戻る。
【0029】
ここで、温風66及び洗浄ガス76が吹き付けられる部分の流延ドラムの周面温度T1(以下「周面温度T1」とする)、キャリアガス74の温度T2(以下「キャリアガス温度T2」とする)、及び温風66の温度T3(以下「温風温度T3」とする)の合計温度は、−15℃以上105℃以下であることが好ましく、25℃以上105℃以下であることがより好ましく、70℃以上105℃以下であることが最も好ましい。合計温度が−15℃未満である場合には、ドライアイス粒子と異物との温度差が小さすぎるため、異物を効率よく除去することができない。
【0030】
なお、温風を用いて流延ドラムの周面を温めたが、これに限る必要はない。例えば、温風に代えて又は加えて、ヒータを洗浄ノズルに対してX方向上流側に設置し、このヒータからの熱により流延ドラムの周面を温めてもよい。また、予め加熱したキャリアガスにドライアイス粒子を混合させた洗浄ガスを、流延ドラムの周面に吹き付けることによって、その周面を温めてもよい。
【0031】
また、ドラム洗浄装置にチャンバを設け、チャンバ内で洗浄ガスの吹き付けを行うことで、異物の飛散を防止してもよい。また、チャンバに吸引装置を設け、その吸引装置により、流延ドラムの周面から除去された異物の吸引を行ってもよい。
【0032】
流延室12の下流には、渡り部41、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部41は、搬送ローラ42によって剥ぎ取った湿潤フイルム39をピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フイルム39の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フイルム39に対して乾燥風が送られ、湿潤フイルム39が走行しつつ乾燥され、フイルム20となる。
【0033】
クリップテンタ14は、フイルム20の両端部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。この走行中にフイルム20に対し乾燥風が送られ、フイルム20はフイルム幅方向に延伸されながら乾燥される。クリップテンタ14での所定条件下の延伸処理によって、クリップテンタ14を出たフイルム20には所望の光学特性が付与される。
【0034】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置43が設けられている。耳切装置43はフイルム両端部の耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ44に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0035】
乾燥室15には、多数のローラ47が設けられており、これらにフイルム20が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室15には吸着回収装置48が接続されており、フイルム20から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0036】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフイルム20が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)49が設けられており、フイルム20が除電される。さらに、強制除電装置49の下流側にはナーリング付与ローラ50が設けられており、フイルム20の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ52を有する巻取機51が設置されており、フイルム20が巻芯にロール状に巻き取られれる。
【0037】
次に、溶液製膜設備10によりフイルムを製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25℃〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転により常に均一化している。適宜適用のドープ21を、ギアポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込んで過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。そして、このドープ21を流延ダイ30から流延ビードを形成しながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム32の周面上に流延する。流延時のドープ21の温度は、30℃〜35℃の範囲内で略一定に保持されていることが好ましい。
【0038】
流延ドラム32は駆動装置によりX方向に回転している。また、流延ドラムの周面温度は−10℃以上+10℃以下の範囲内で略一定になるように調整されている。このように冷却された流延ドラム32を用いると、流延膜33をゲル化させて自己支持性を持たせることができる。なお、周面の温度の管理は温調装置36により行われ、周面の温度を所定の値に保持する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基になる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0039】
ゲル化の進行により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後に、剥取ローラ34により流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フイルム39とし、この湿潤フイルム39を搬送ローラ42によりピンテンタ13に送り込む。
【0040】
流延室12の内部温度は、温調装置35により10℃〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が揮発して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0041】
また、流延膜33を剥ぎ取った後であってドープ21を流延するまでの間に、図2に示すドラム洗浄装置38を用いて、流延ドラムの周面32aを洗浄する。温風ノズル63から温風66を周面32aに対して吹き付けて、周面32aに付着した異物の温度を上昇させる。異物の温度を上昇させた後に、ドライアイス粒子73を混合させた洗浄ガス76を吹き付ける。この洗浄ガス76の吹き付けにより、ドライアイス粒子73と異物とが衝突する。これにより、異物は周面32aから除去される。このとき、周面温度T1、キャリアガス温度T2、及び温風温度T3の合計温度(T1+T2+T3)を、−15℃以上105℃以下とする。
【0042】
ピンテンタでは、多数のピンを湿潤フイルム39の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フイルム39を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム20をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフイルム20の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。
【0043】
クリップテンタ14では、チェーンの動きによりエンドレスで走行する多数のクリップによりフイルム20の両側端部を挟持した後、このフイルム20を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップ間距離(フイルム幅)を拡げてフイルム20の幅方向に張力を付与することでフイルム20を延伸する。このように、フイルム20の幅方向への延伸処理により、フイルム20中の分子が配向し、所望のレタデーション値をフイルム20に付与することができる。
【0044】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフイルム20は、耳切装置43によって両側端部が裁断される。両側端部が裁断されたフイルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17の巻取機51によって巻き取られる。また、耳切装置43によって切断された両側端部はクラッシャ44により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0045】
巻取機51で巻き取られるフイルム20は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、厚みが20μm以上80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0046】
以下、本発明においてドープ21を調製する際に使用する原料について説明する。
【0047】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0048】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0049】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0050】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0051】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0052】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0053】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0054】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0055】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0056】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0057】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0058】
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0059】
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0060】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
図1に示すように、溶液製膜設備10で使用する流延ドラム32として、直径が1000mmの円筒状であり、周面32aにクロムメッキ及び鏡面加工処理を施したものを用いた。ドープ21を乾燥厚み80μmで流延し、流延膜33を形成した。自己支持性を有する流延膜33を、剥取ローラ34により剥ぎ取り、湿潤フイルム39を得た。ピンテンタ13及びクリップテンタ14において、湿潤フイルム39を所定の残留溶媒量まで乾燥し、フイルム20を得た。流延ドラムの周面32aに異物が付着しているか否かは、目視に加えて、ビデオカメラ等により確認した。また、異物に脂肪酸エステルが含まれているか否かを、IR(赤外分光光度計)、GCMS(ガスクロマトグラフ重量分析計)、NMR(核磁気共鳴装置)を用いて確認した。
【0062】
図1及び図2に示すように、ドラム洗浄装置38を、流延ドラムの周面32aの上方であって、剥取ローラ34と減圧チャンバ37の間に設置した。温風ノズル63から温風66を周面32aに対して吹き付けて、周面32aに付着した異物の温度を上昇させた。その後に、キャリアガス74にドライアイス粒子73を混合させた洗浄ガス76を吹き付けた。この洗浄ガス76の吹き付けにより、流延ドラムの周面32aに付着した異物を除去した。
【0063】
ここで、洗浄ノズルの第1供給口に送り込むキャリアガスの流量を0.025m/(分・mm)と、洗浄ノズルの第2供給口に送り込むドライアイス粒子の量を0.5kg/(時・mm)とした。また、周面温度T1を−10℃、キャリアガス温度T2を25℃、温風温度T3を80℃、それらの合計温度(T1+T2+T3)を95℃とした。
【0064】
[実施例2]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を−10℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、温風温度T3を50℃に、合計温度(T1+T2+T3)を65℃に変更した。
【0065】
[実施例3]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例3では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を−10℃に、キャリアガス温度T2を80℃に、合計温度(T1+T2)を70℃に変更した。
【0066】
[実施例4]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例4では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を−10℃に、キャリアガス温度T2を40℃に、合計温度(T1+T2)を30℃に変更した。
【0067】
[実施例5]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例5では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を80℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を105℃に変更した。
【0068】
[実施例6]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例6では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を50℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を75℃に変更した。
【0069】
[実施例7]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例7では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を30℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を55℃に変更した。
【0070】
[実施例8]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例8では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を20℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を45℃に変更した。
【0071】
[実施例9]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例9では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を0℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を25℃に変更した。
【0072】
[実施例10]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例10では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を−10℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を15℃に変更した。
【0073】
[比較例1]
ドラム洗浄装置に関する条件以外は、実施例1と同じ条件で実施した。実施例3では、温風66の吹き付けを行わなかった。また、実施例1のドラム洗浄装置に関する条件のうち、周面温度T1を−40℃に、キャリアガス温度T2を25℃に、合計温度(T1+T2)を−15℃に変更した。
【0074】
[実施例及び比較例の結果]
【表1】

表1は実施例1〜10及び比較例1の結果を示している。「評価」のうち「◎」は流延ドラムの周面に対する洗浄性が大変良いことを、「○」は流延ドラムの周面に対する洗浄性が良いことを、「△」は流延ドラムの周面に対する洗浄性がやや劣ることを、「×」は流延ドラムの周面に対する洗浄性が悪いことを示している。
【0075】
実施例の結果と比較例の結果とを対比してみると、周面温度T1、キャリアガス7温度T2、及び温風温度T3の合計温度(T1+T2+T3)を15℃以上とすることで、流延ドラムの周面に対する洗浄性が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】溶液製膜設備を示す概略図である。
【図2】ドラム洗浄装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0077】
10 溶液製膜設備
32 流延ドラム
32a (流延ドラムの)周面
38 ドラム洗浄装置
60 ドライアイス生成部
61 ガス供給部
62 洗浄ノズル
63 温風ノズル
64 温風供給部
66 温風
73 ドライアイス粒子
74 キャリアガス
76 洗浄ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスに走行する支持体上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って乾燥することにより、フイルムを製造する溶液製膜方法において、
前記支持体の表面に付着した異物を温めた後に、前記流延膜が剥ぎ取られた後であって前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に対して、昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを吹き付けて、前記異物を除去することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記支持体の表面に対して温風を吹き付けることにより前記異物を温めることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
予め加熱したガスに前記昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを前記支持体の表面に対して吹き付けることにより前記異物を温めることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記昇華性粒子はドライアイス粒子であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
エンドレスに走行する支持体上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って乾燥することにより、フイルムを製造する溶液製膜設備に用いられ、前記支持体上の表面上の異物を除去して、前記支持体の表面を洗浄する洗浄装置において、
前記支持体の表面に付着した異物を温めた後に、前記流延膜が剥ぎ取られた後であって前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に対して、昇華性粒子を混合させた洗浄ガスを吹き付けて、前記異物を除去する異物除去手段を有することを特徴とする洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−66983(P2009−66983A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239563(P2007−239563)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】